2002.6.23 「可愛い……可愛いけど……」編


行くぞ行くぞ行くぞ……(気合)。

 

【7/17】

またうなされて目が覚めた宏。

タオルで汗を拭いてくれていたお嬢にお礼を言うと、どういたしまして、とにこー笑い。

朝から(?)いいもの拝ませて頂きました。

布団を片付けることすら楽しく感じるお嬢。

「だって、ボクとあなたで、ふたりでやった事だもん」

そう言ってまた笑うお嬢……イイ。

 

この日の朝食は納豆。

原型を留めない程にかき混ぜてから醤油を……という所でしょうゆをかけ過ぎたお嬢。

ちなみに納豆にはしょうゆではなくてタレだと信じている俺。関係無いですね。

お嬢の視線は宏の納豆に。

  ○交換してやるよ。

  ○おれの物はおれの物だ。

納豆とお嬢の笑顔のどっちが大切よ!?

……とそんなのは判りきってますね。

いいの? と上目遣いで確認をとってくるお嬢。

「いいよ」

「……[にこにこ]」

うむ満足。

 

お嬢と一緒にちとせのところに向かいます。

その途中でお嬢がなぜ夢でうなされるのかを訊ねてきました。

今まで誰にも話したことのなかった悪夢のことを何故かお嬢には話す気になった宏。

不気味な夢。

どんな夢なのかその内容を口にしようとした時に表れた華子。千夏さんではないようです。

やっぱりお嬢は華子が苦手そう。

華子の話によると父親の命も残り僅かのとのこと。

父親の子どもは華子・宏・ちとせの3人。

華子の母親は愛人で、宏とちとせの母親は稲葉家の使用人。

華子の名字である『七条』というのは愛人さんの名字なのでしょう。

なんで使用人の子供である宏とちとせには『稲葉』の名を与えたのでしょうか?

「なんかね、稲葉家の次の当主はわたしだってさ」

つまらなそうに華子は言います。

稲葉家の莫大な財産。それを受け継ぐことに関しては華子も宏も関心が無い様子です。

そして華子と一緒に稲葉家へと向かう途中でお嬢は小さな声で「さっきの話」とせっついてきました。

出自の話か、父親の話か、夢の話か。

いずれにせよ旅館に帰ってから、ということに。

 

ちとせの部屋に入ると同時に愕然とした宏。

そこには病気で立ち上がることすらできないはずの父親が。

どうやらそれは親族連中が単に宏と父親を会わせまいとした嘘だったようです。

3人の子供をちとせのベッドで並ばせる父親。

すると父親はその正面に立って3人の顔を見つめ……10分間もそれだけ。

それは会話をあまり交わしてこなかった父親なりのコミュニケーション。

それだけのことで汗をびっしょりかいていた父親はやはり身体が悪い様子です。

部屋を出て行こうとした父親の目に入ったのはドアのところでその様子を見ていたお嬢。

「この子は……?」

「ああ、おれの友達」

「……そうか」

それだけ言って父親は出て行きました。

お嬢の姿が見えると言う事はやはりこの父親の命は……。

と、その時。

どさっ。

「今の音……?」

部屋を飛び出した宏。

「親父ッ!」

 

倒れてしまった父親ですが、暗くなる頃にはなんとか持ち直したようです。

宏がちとせの部屋に戻ってくるとちとせはベッドに、お嬢は部屋の隅でマンガを読んでいました。

読み終わっていない分はちとせに借りることにして宏とお嬢は旅館に帰ることに。

部屋に戻ったら読むんだ、とお嬢は上機嫌。

でもずっとマンガを読んでいたせいかお嬢は疲れ気味のようです。果たしてそれだけが理由なのかどうかは怪しいところですが。

ちなみに実家にも”なると”にも寝泊りしていない華子がどこに普段居るのかを聞いても「色々」とした言ってくれませんでした。

「お前もワイルドな奴だよな……」

「色々な経験をしたいだけよ」

「ふうん……」

「その心がけのおかげで、最近、とびきりおかしな出来事に出会えたし」

「何だよ?」

「ふふん」

鼻で笑う華子。

「秘密……今はね」

「……今は?」

そして華子は野球中継を見に走り去っていきました。

去り際に余計な事を言う宏を殴りつつ。

お嬢は殴られた宏の心配をしてきますが、宏にしてみればそれは華子とのコミュニケーション。

仲がいいから、と説明する宏ですがお嬢は納得いかない様子です。

「ボク、うそは嫌だよ?」

「うそ?」

「仲良しなのに、何でぶつの?」

「……まあ、スキンシップと言うか……」

ともかく嘘はついてない、と宏。

「ふうん……」

お嬢は少し黙ったかと思うと……

「えいっ!」

ぼくっ!

「きゅぴっ!?」

急に何を、と股間を押さえてうずくまる宏。

「わわっ! さっきは平気な顔だったのに、な、何で?」

「ぶ、ぶつ場所の問題だ……」

泣きそうな顔で宏を見つめるお嬢……合掌。

哀れ宏、安らかに眠れ……(嘘)。

 

それにしても華子の言う『とびきりおかしな出来事』というのは千夏さん関係のことでしょうか。

そう言えばプロローグの一番最初の七夕の夜。

神社で光に包まれていたのは華子?

野球のことも言っていた気もするし……と言う事は華子は千夏の存在を知っている事に。

さやかさんの所に現れた千夏さんは野球の応援歌を歌っていたし……。

……千夏さんは華子のに存在している?

ひょっとして華子は千夏さんのやっていること、やりたいことを知っているのでしょうか。

 

宏に謝るお嬢。

怒ってる、と最初はからかっていた宏が冗談だよ、と頭をなでるとお嬢は顔を上げました。

その少し潤んだ瞳を見て冗談が過ぎたか、と宏はちょっと後悔。

そして本当に宏が怒っていないのが判るとにこー笑い。

「でも、もうココはぶたないでくれよ」

できればもっとソフトに。もちろん宏はそんな事言ってません。

宏が指差したのは『例の場所』。

「他の場所だったら、まあ構わないけど」

「そこは、駄目なの?」

つぶらな瞳で見つめてくるお嬢。

「……あのな、お嬢」

「ん?」

「あんまり、じっと見ちゃ駄目」

「どうして?」

どうしてって……、と宏。

「だって、自分だって、こういう所を見つめられたら嫌だろ?」

「ん〜?」

お嬢は首を傾げてちょっと考えたかと思うと

「別に、そんなこと無いよ?」

「…………」

思わず『そこ』に視線がいく宏。仕方ないでしょう。

「目つきが変質者のそれだぞ、稲葉」

「あ、い、いや……」

「見たいんだったら、見てもいいよ?」

なんですとぉーー!?

……って俺はそんな趣味は無い!!

……無い筈だ……無いんだよ……。

「…………」

宏は思わず唾を飲み込みます。仕方ないでしょう。

ふと気付くとお嬢の頬は赤く上気して呼吸も荒く……

「……て、え?」

ここでやっと宏はお嬢の具合が悪いことに気付きました。

「お嬢……熱があるんじゃないのか?」

「え? 熱? そうかな……?」

  ○額に触ってみる。

  ○自分の額を額に付ける。

こ、これは……。

憧れの『額と額を合わせて熱を測りましょう♪』!?

額を合わせるとやっぱりお嬢は熱っぽい様子。

宏は目の前で赤い瞳がうるうるとしているのが急に恥ずかしくなり猛スピードで顔を離しました。

お嬢は食欲も無いようです。

どうやら疲れているようですがそれを指摘すると慌てて疲れてない、と主張するお嬢。

理由はもちろんマンガが読みたいから。

マンガは逃げないよ、と諭して宏はお嬢を布団に寝かせてあげました。

寝る時にも帽子を取らないのは仕方ないにせよ、その上から冷やしタオルを乗せるのはどうかと……。

治ったらマンガを読んでいいよね、とお嬢。

「だから、一緒に読もうよ。ね?」

真剣味を帯びた瞳で宏を見つめるお嬢。

つられたように首を縦に振る宏。

「へへ、やった♪」

(まあ……いいか)

そしてお嬢は宏も夕飯を取っていないことに気付き、食べないのかと訊ねてきました。

お嬢が眠ってから、と宏は言います。

「どうして?」

「ひとりで食べてもつまらないからな」

「……どっちにしろ、ひとりだよ?」

「眠ってるんなら、仕方ないって思えるからな」

「ふうん……じゃ、ボク寝ないよ」

そう言って真っ赤な舌をちろっと出したお嬢(可愛い……)。

その夜は徹夜で看病した宏でした。

 

【7/18】

例の悪夢。

大量の視線に自分がさらされている夢。

「……えほっ! ごほっ!」

咳き込んで目が覚めた宏。部屋の中は煙で一杯でした。

火事かと思いきやそれは焼きもろこしの煙。

そこには七輪で焼きもろこしを作っているお嬢と女将さんの姿がありました。

大好物の焼きもろこしでお嬢は幸せ一杯です。どうやらこれはお嬢の注文だった様子。

何も室内で焼かなくても、と言う宏の質問に女将さんは言いました。

「あなたが、心配だから……と」

「え? 心配? おれをですか?」

「ええ。なんでも稲葉さん、目が覚める時、いつもうなされているそうじゃないですか」

「…………」

「だから、部屋を空けるのは心配だと、そう仰ったんです」

「そう……ですか」

な……なんてイイ娘なんだお嬢……。

そこで女将さんは仲居さんに呼ばれて退場。

「ねえねえ」

既に自分の分を食べ終わったお嬢が、宏に話しかけてきました。

「食べないの? それ」

お嬢の視線は宏の手にある、ほとんど口をつけていない焼きもろこしに。

「もし食べないんだったら、ボクに……」

「うりゃっ!」

芝刈り機のような勢いでもろこしを食う宏。

「うわ〜! ボクの焼きもろこし〜!」

 

可愛いなぁ、おい!!

「ボクの」ですよ、ジャイアニズムですよ!!

ヤッバい。マジでお嬢可愛い……。

 

ちなみに焼きもろこしの後は朝食。

当然全然食べることの出来なかった2人はタッパーに詰めることにしました。

 

暑い日差しの中歩く2人&メデス。

またお嬢が日射病で倒れたりしないかと宏は心配で、もう1つぐらい帽子があったほうがいいかもな、と。

  ○やってみる。

  ○やらない。

なんだか判りませんがやってみましょう。

結局やったことと言えばメデスをお嬢の頭の上に乗せただけでしたが……。

 

お嬢は歩きながら前日話していた宏の夢の話が途中だったことを思い出して改めて続きをせがんできました。

しばらくどう言ったらいいのかを考えていた宏は、それは悪夢なんだ、と話を切り出しました。

それはふたつの丸と、ひとつの半月。

「たぶん、人の顔だとおもう」

「人の顔?」

「そう。それが、虚空に浮かんでいるんだ。顔だけが。いくつもいくつも」

「…………」

「いくつもの視線が、俺に向けられているんだ」

そこにはある感情がこもっているんだ、と宏。

「感情……視線に?」

「そう。なんだろう、注目してるというか、なにかを望んでいる……信者が教祖様に向けるような……。けど残念ながらおれは、ただの一般人だ。だから受け止める事が出来ない」

「どんな……感情なの?」

「…………」

分からないんだ、と宏は言います。

「そう……」

それで話は終わり。

一体宏の見る悪夢の意味とは……そしてお嬢との関係は……?

 

ちとせの部屋に行くとそこには華子もいました。

ちとせは華子がお土産に色々なものを買ってきてくれたので嬉しそうです。

「けど……ちとせちゃんが一番欲しがっていた物は、買ってこれなかったんだけどね」

「何だ?」

「ぬいぐるみなんだけど」

そう言ってあごをしゃくった先にはお嬢。

「……あれ?」

「そう。あれだって」

つまりメデスのこと。

「…………」

「色々と探し回ってみたんだけどね、そうにも売ってなかった」

どこで買ってきたのかお嬢に訊ねる華子。

買ったんじゃない、とお嬢。

それじゃ仕方ないね、とちとせ。

「あぅ! でもでも、みんな気にしないでね」

慌てて笑うちとせですが、少し寂しそうな様子は隠せません。

子供の喜びそうなものが大量にあるちとせの部屋。

でもそれは走る事も出来ない心臓の代償であり……あっ、ヤバい。ちょっと潤んできた、俺。

華子はお手玉も買ってきていましたがちとせはお手玉を知りません。

見本を見せてやろうと宏と華子ややってみますが……どっちも下手。

「みんな、出来ないんだね」

それまで黙っていたお嬢が声をあげました。

「お嬢ちゃんは、出来るの?」

「うん。貸して」

そして4つのお手玉を見事に操るお嬢。

上手? と聞いてくるちょっと得意げなお嬢の笑顔がまた可愛い。

宏はその回転の中にさらに4つも追加。

「わ〜!!」

「す、凄いぞ、お嬢……」

「だ、誰か止めて〜!」

「あはは!」

ちとせが珍しく大笑い。

でもそれは段々と途切れてきて……

「ちとせ!」

「は……けほっ……う」

身体を丸め、肩を震わせながら涙を流すちとせ。

「ちとせ!」

思わず手をやったちとせの肩は驚くほどに骨張った感触。

「ちとせ、大丈夫だよな? 何て事、無いだろ?」

「……う……うん……へへへ」

ようやく搾り出すような声。

「へい……き」

「だよな。平気だよな。そんな、笑ったくらいで」

「お兄ちゃ……の……言うとおり……だよ」

人を呼びに部屋から出て行った華子。

「チーちゃん……」

ベッドの縁に手をかけて声をかけるお嬢。

「…………」

歪んでいるちとせの顔は……精一杯の笑顔。

「ごめん……ね。み、見苦しい……見せちゃって」

「…………」

それが子供の、病院の口からでる言葉だろうか、と宏は思います。

「…………」

表情の消えていたお嬢の顔。

ちとせは苦しんだまま。急激に興奮したのが原因。

妹が苦しんでいるのに何も出来ない宏。

出来るのは……笑顔を見せるだけ。

やがて部屋近づく複数の足音が聞こえてきました……。

 

ちょ、ちょっとゴメンなさい。

涙が……。

ダメなんだってホントに……。

 

帰り道。

「チーちゃん、心配だね……」

「大した事じゃないさ……」

「……無理をしているな、稲葉」

「…………」

何でお前はちとせの前だとしゃべらないんだ、と話を逸らそうとしてもメデスには通用しません。

宏は小さく肩をすくめて、言うつもりも無かったことを口走っていました。

「嫌なんだよ、態度に出すのは」

「態度?」

「…………」

ここで口をつむぐこもできた筈なのに宏は話を続けます。

結局広しは誰かに聞いて欲しかったのです。

「……おれが態度に出すと、ちとせが心配する。それが、嫌なんだ」

「でも、ここにチーちゃんは居ないよ?」

「だからこそ、だ。おれは、普段からそう心がけているんだ。じゃないと、今日みたいな時……」

「不安と焦燥が吹き出す、か」

「…………」

「お前が無理をしているように、あの子も無理をしている」

ああ……、と宏。

「ああ、分かっているよ。お前に指摘されなくても」

相手はぬいぐるみなのに、自分は何を苛ついているのだろう、と宏。

それはきっと真実だから。

そしてそれでいいのかどうか悩んでいるから(だと思う)。

「……いつかは、正面から向き合う事だ。悲しみと。不安と。笑うにしろ泣くにしろ」

覚悟は必要だ、とメデス。

「…………」

「ねえねえ」

「……何だ?」

「お腹空いた」

 

メデス……お前、漢だな。

無機物のくせに……やるじゃない。

 

宏達は食堂”ボンバイエ”に。

お嬢は肉の入っていない野菜炒め定食を選択。

「味噌ラーメンと、野菜炒め定食をください」

「さすが食べ盛りだね! 2人前も食べるなんて! ようし、サービスで大盛りにしちゃうから」

「…………」

「2人前も食べるの?」

「ああ。なるほど」

お嬢って小さいもんな、と宏。

「……?」

「きっと、おれの身体に隠れちゃったんだろう」

きょとんとした顔のお嬢を残してセルフサービスの水を取りに行った宏でした……が。

もちろん食堂のおばちゃんが「2人前」と称したのは他に原因があるのでしょう。

それはお嬢が見えていない、ということ。

やはりお嬢を見ることができるのは限られた人間という証明です。

そう言えば旅館の人間はどうなんだろう……? お嬢の存在を知ってるのかな。

なんか女将さんがご飯とか運んでくれてるみたいだけど。

 

ところで『食べ盛り』と言われた宏。一体何歳なんでしょう?

一般で『食べ盛り』と言えばやはり高校生ぐらいだと思います。

もちろん18禁なので『高校生』はありえないのですが。

 

旅館の部屋にて。

宏は散歩に行こうと思いお嬢に声をかけますがお嬢はTVアニメ映画に夢中。

畳にはうずたかく積まれた百円玉。

「お嬢、それは2時間で終わるから、そんなに百円玉はいらないぞ」

「ん〜」

「…………」

  ○奇声をあげつつ、画面の前へ。

  ○悪戯はやめておく。

ちょっと悪戯してみましょう。コミュニケーションってことで。

「テポドム[↑]!?」

「わ、わ〜!?」

ごすん!

背中からひっくり返ったお嬢……って宏、何やったの?。

「うう……痛い……」

「あ……わ、悪い!」

お嬢の手を取って起こしてあげる宏。

「酷いよ〜。何で、そんな事するの?」

「いや、何でって言うか……」

「もう! どういてよね! 画面が見えないでしょ!」

追い払われる宏。シクシクシク……。

「悪かった、許してくれ」

「…………」

「良し、じゃ、今度焼きもろこしおごってやるから。な?」

背を向けたまま黙って3本指を立てた片手を上げるお嬢。

「絶対だよ」

「ああ、絶対だ」

ふぅ、やれやれ。

 

1人で散歩する宏は神社へ。そこには伊月がいました。

思わず戸惑いながら挨拶をする宏。人がいるとは思っていなかったようです。

「何か、御用でも?」

「あ、いや……用があった訳じゃ無いんですけどね」

思えば何かを祈りに来たのだろう、と宏は思います。

今の宏にとって祈りたいことと言えば……ちとせのことしかないでしょう。

いつからこの神社の巫女さんをやっているのか伊月に訪ねてみた宏。

少し考えて伊月は忘れてしまいました、と。痛い……。

星を見上げる伊月にこの世のものとも思えない美しさを宏は感じます。なかなか鋭いやつですね。

「予知とかって……信じますか?」

「……予知?」

「説明は出来ないけれど、確かに感じるんです」

「何を?」

「ずっと待っていた人が、もうすぐやって来るんです」

「…………」

「どこにも、確証なんて無いんですけどね。だから、予知です」

「待ち人は、想い人ですか?」

ひっそりと微笑む伊月。

「そんないいものじゃ、ありませんよ」

しばらくの沈黙の後、宏は言いました。

「予知……か。もしかしたら、正しく未来を言い当てる予知というのも、この世にはあるかもしれませんね」

首を傾げる伊月。

「実はおれ、一度だけ、予知した事柄が現実になった事があったんです」

ある女性の顔が浮かぶ宏。

「ほんと……ですか?」

「まあ、子どもの頃の出来事ですからね。もしかしたら、勘違いかもしれない」

「勘違いなんかじゃありませんよ……」

どこか遠くから聞こえるような声。

ともかく私は信じているんです、と伊月。

「あの人が来てくれることを」

 

宏の脳裏に浮かんだ女性とは一体……。やはりお嬢と関係があるのでしょうか。

 

伊月……お前にも幸せになってもらいたかったよ……。

ちなみにこの時点ではまだ彰は常盤村に来ていないんですよね。

やはり伊月は彰が来る前から『存在』していました……一体誰が?

それは間違いなく千夏さんだと思います。

その目的は一体……?

 

その千夏さんと深い関係にあると思われる華子は駅のベンチで寝ていました。

どうやらまた坂神が負けたようです。

「そこは、スクイズじゃ無い……」

酔って潰れて寝ぼけてる華子。

ベンチから落ちても目が覚めない様子の華子を放っておいて宏は旅館へ。

 

ちょいとここで今まで(1〜3章)千夏さんが登場したシーンをまとめてみましょう。

う〜む……。

改めて見てもやっぱり謎に満ち溢れた行動の数々……わからん人だ。

 

宏は旅館の部屋に帰ってくるとお嬢は何も移っていないTVの前で座っていました。

声をかけても何の反応も示さないお嬢。

その横顔はちとせの部屋で見たものと同じ、全く表情の無い顔。

「……おかえりなさい」

「あ……ただいま」

「ボク……もう寝るよ。布団敷くの、手伝ってくれる?」

「ああ……」

2人で布団を敷くと無言のまま浴衣に着替えて布団に入るお嬢。

「おやすみなさい……」

お嬢の見ていたTVアニメを思い出す宏。

そのラストは……ヒロインの死。

 

【7/19】

いつもの悪夢。

宏を見つめてくるたくさんの視線。

 

おれには、どうすることも出来ないんだよ……。

だって、もう……。

お前らは、もう……。

 

「おはよう」

「……おはよう」

額に感じる微風はお嬢の手にあるうちわから。イイ娘だ……。

そして朝食。

ご飯を目の前に嬉しそうなお嬢の表情は昨夜の様子とは似ても似つきません。

そこで昨夜のアニメについて訊ねる宏。

「面白かったか?」

「つまんなかったよ」

だから途中で見るのを止めた、とお嬢。

「そうか……」

あのアニメはラストが感動的なんだぞ、と宏は言います。

「ふうん……」

「あのラスト、感動しなかったか?」

「別に〜……」

「…………」

そうか、と宏。

「別に」と言う事は「見た」と言うことです。

やはりお嬢はラストシーンのヒロインの死を見てあんな状態になってしまったということでしょう。

何故それを隠すのか。何故あんな風になってしまうのか……。

そしてお嬢は納豆にしょうゆを入れようと小瓶に手を伸ばしました。

  ○代わりにしょうゆを入れてやる。

  ○成長を見守る。

手伝ってやりたいのはヤマヤマですが、ここはお嬢を信じましょう。

慎重な手つきでしょうゆをたらすお嬢。

「へへ……」

自慢げに納豆の小鉢を見せてくるお嬢……可愛い。

「美味そうだな」

「ボクのだよ」

「…………」

ひょい。ぱくっ。

「わ〜!」

「うん、丁度いい味だ」

「せっかく、どんな味だろうって、わくわくしてたのに……」

恨めしそうな目を宏を向けるお嬢。

宏はその視線に夢の中の視線と似たもの感じます。

夢の視線は……恨みの視線ということなのでしょうか。

宏はそれとは別に朝食の間中違和感を感じていましたが……なんでしょ。

 

ちとせのところへ向かう2人。

途中でお嬢は何故宏が実家ではなく”なると”に泊まっているのかを訊ねてきました。

宏は自分の生い立ちを説明します。

死んでしまった母親。

本妻からの仕打ちを避けるために施設へ宏を送った父親。

ただし病弱なちとせは本妻も同情的なので屋敷に。

宏はそれからずっと施設で育ったのです。

父親の本妻は去年亡くなっていましたがそれでも宏が実家に戻ることはありませんでした。

それは宏自身の意思か、他の誰かの意思かわかりませんが。

結局一度も笑顔を見ることなく死んでしまった父親の本妻。

嫌いだったわけでもなく、ただ笑顔が見たかった、と宏は思います。

「そんな事があったんだ……」

宏がこの話を他人にしたのは初めてでした。

「でも、チーちゃんはひとりになっちゃったね。あなたが、行っちゃったから」

「…………」

そうだな、と言いながらお嬢の言葉と視線に胸の疼きを覚える宏。

それは後悔か、恐れか、それに気付くのを恐れる心か……。

 

グルル!

「何……?」

道の角から飛び出してきたのは野良犬。

「睨んでる……」

「……そうだな」

「涎が垂れてる……」

「……そうだな」

なあメデス、と宏。

「何だ?」

「同じ動物同士、話を付けてみてくれ」

無理だな、とメデス。

「奴が望んでいるのは、会話じゃ無い」

「じゃあ、何だ?」

「食料」

「やっぱりお前じゃないか……」

と言う訳でお嬢が旅館から食料を持ってきました。

それは前日タッパーに詰めた朝食で、朝感じていた違和感の正体……つまらんオチだったな。

野良犬は一気に2人分を平らげると満足した様子。

「可愛いね」

「あっ、おい!」

犬の頭に手を置こうと近寄ろうとするお嬢を慌てて引っ張る宏。

「危ないじゃないか」

「? どうして? 可愛いよ?」

つままれた子猫みたいに、お嬢はほにゃ、と首を傾げる……ってお嬢の方が可愛いよ!!

「どうしてじゃ無いよ。噛まれたらどうするんだ?」

「噛まないと思うけどな……」

「とにかく、野良犬には無闇に近づいちゃ駄目」

「…………」

いまいち納得のいかない顔をするお嬢。

そうこうしているうちに犬はどこかへ行ってしまいましたとさ。

 

「ちとせちゃんなら居ないわよ」

途中で出会った華子がそう言いました。

ちとせは昨日のこともあり、病院に行っているんだそうです。

なんて事は無い、と自分に言い聞かせる宏。

「ボクのせい?」

ぽつっと呟いたお嬢。

「ボクが笑わせたりしたから?」

唇を噛み締めるお嬢……そんなことはないんだよ。全責任は宏だよ。

そんな事はない、と華子言うのでした。

 

ちとせの手術の日が決まった、と華子が言い出しました。

それは来月、つまり8/2。

ってことはその辺がクライマックスか……。

それを聞いて目を瞑る宏。

 

神様が本当に居るのなら、今度こそ祈りを聞き遂げて欲しい。

どうか、ちとせが末永く生きられるように……。

 

『今度こそ』と言う言葉が気になります。前にもあったとすれば……母親?

「手術? それって、チーちゃんの?」

「ええ」

生まれつき心臓に障害を持っていたちとせですが、手術は身体がある程度大きくなるのを待っていたようです。

「でも良かったわ。これでやっと、ちとせちゃんも普通に走ったり笑ったり出来るわね」

「…………」

それは確証の無い希望。そのことを理解している華子と宏。

「ああ……そうだな」

それでも広しと華子は笑います。

そんな中、ひとり難しい顔をしているお嬢……。

 

旅館に帰って来た2人。

暑さにダレているお嬢は片膝を立てて寝そべっており、その奥からは白いものが見えています。

「……ほら、お嬢……足を下ろして」

「どうして?」

「どうしてって……」

あまりにそういう事に疎いお嬢に宏も不思議に思います。

嬉しくないことも無いけど、やっぱり『恥じらい』ってヤツが欲しいですもんね。

「行儀が悪いでしょ」

「だって、暑いから」

「ったく、しょうがないな……」

「何がしょうがないのですか?」

「のわっ!」

いきなり女将さん登場。

両手にはお嬢にどうかと思いまして、と服の山が。

でもせっかくの女将さんの厚意もお嬢はその気にならない様子。

女将さんが仲居さんに呼ばれて出て行った後。

「今の服……」

「ん? 何だ、やっぱり着たいのか?」

「そうじゃ無くて……誰の服なの?」

「誰って、女将さんだろ?」

「でも、体型が合わないと思う」

いや、体型と言うか何と言うか。

だとすると女将さんの娘さんか、と宏は思いますがそんな話は聞いたことがありませんでした。

お嬢は言います。

あんまり女将さんと仲良くしちゃいけないと思う、と。

「そしてそれは、ほんとはチーちゃんも同じで……」

「どうして? 何でそんな事を言うんだ?」

「だって、別れが辛くなるから」

「…………」

自分の悪い想像と、お嬢の言葉に一瞬言葉を失う宏。

「ば、馬鹿だな。やがて来る別れを考えながら、その人と付き合う奴が居るかよ」

「居るよ」

ここに、とお嬢。

「…………」

「ボク……ちょっと寝るね。何だか、だるい……」

そしてしばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきたのでした……。

 

この日はこれで終了でした。

夜はお嬢と蒼司が出会うはずだったんですが……どうだったんでしょう?

宏がお嬢を夜に1人で出歩かせるとはあまり思えないんですが。

と言う事は幽体離脱?

でもお嬢自身そんな存在っぽいしな……はてさて。

 

常にやがて来るであろう別れの時を考えながら人と付き合ってきたお嬢。

それはお嬢自身が『別れ』の象徴みたいなもんだからでしょうか。

そう考えると……辛いです。

あの明るい笑顔の裏でどんなに辛い思いをしてきたのか。

 

結構頑張ったつもりだったんですが3日分しか進んでません。少し会話を減らすか……。

それでは以下次回!!


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