2002.6.11 「2章クリア!!」編
長い長い48時間の第4回。
【7/28】の続き
暗くなるまでひまわり畑にいたさやかさんですが、結局蒼司は現れませんでした。
そんな中、さやかさんはひまわりを嫌いになんてなっていなかったことに気づいています。
好きなものを嫌いになるということがどんなに難しいことか。
「……お父さん」
口から出てきたのは蒼司の名前ではありませんでした。
好きなものを嫌いになれない、というのは律に関しても言えることだったのでしょう。
電話だけでもしてこよう、と1枚だけ残った10円玉を握りしめてさやかさんは立ち上がりました。
その結果たどり着いたのは自宅の近く。
情けないと思いつつも安堵してしまうさやかさん。
財布だけでも取りに行かないと、と思っていた時に見つけたのは公衆電話。
「10円だけか……」
果たしてどこにかけるか。
○自宅にかける
○蒼司くんの家にかける
……むぅ。
ちょっと前までの俺とさやかさんなら迷わず蒼司の家にかけるところですが……。
律の本性がわからない今、即断はできません。そもそも蒼司は家にいないだろうし。
ましてやこれが白河親子の絆を取り戻す最後のチャンスなのかも、なんて考えるとなおさら。
でも蒼司の家にかけます。
だって箱に『純愛物』って書いてあるし。
つまり律とじゃ純愛にならないし。
「とりあえず、家は直接確認できるからね……」
誰にとも無く言い訳をして蒼司の家に電話。
『はい。上代です』
「はぁ〜……」
『ちょっと、いきなり溜息つかないで頂けます! こっちだって同じ気分なんですから!』
「……いや〜、元気そうで安心しただけだよ」
なんとなくアハハと笑ってしまうさやかさん。
あきらかにさやかさんを敵視している蒼司の妹との会話をしてから電話を切ろうとしましたが、受話器からの声がそれを止めてきました。
『ホント、あぁ、もう! どうしてこんなに無礼な人なの』
「どうしたの?」
『あっ、また切ろうとしましたね!』
「時間ないから用件だけ」
『うっ……ええ……昨日の夜、兄さんからあなたにも伝言がありました』
「え?」
『切ったのはあなたですから……あぁ、もう……なんでこんなこと、わたくしの口から伝えなくてはいけないのよ……いいですか?』
少し涙声で咳払いする蒼司の妹。
『もし、僕が約束を守れなかったら、まず、すみませんでした。そして……そしてぇ……!』
「ちょっと、面白いよ?」
『黙って聞いてなさいこのオテンコ娘!』
オテンコって何?
『はいはい、言いますわよ……えーと。そしてぇ、僕はあなたのことを愛して−−』
ガチャ
いきなり切れた電話。
10円の時間切れではない音。
肩口から伸びた手が物理的にフックを落とした音。
正確にはその手が持つ包丁が。
「見つけた……」
見つ、かった……。
あの少年。
必死に落ち着こうとするさやかさん。
「……今ならまだ、何もなかったことに出来るわ」
「へぇ、意外と落ち着いてるな。さすが魔女」
全身に鳥肌が立つ声。
相手を刺激しないように話を続けるさやかさんですが、そんなことを聞く少年ではありません。
でも少年の話からまだ蒼司と会っていないことが分かり少しだけ気が楽に。
会話の途中で逃げ出そうとしたさやかさんですが……
「うっ!」
髪をつかまれてしまいました。
今度は逆に後頭部をぶつけてやったさやかさん。
転がった地面から見上げた少年は平凡な小柄な学生。
理性というものの有難みを知らない年齢。
小さく息をついて立ち上がろうしたさやかさんの耳に入ってきた音。
ピチャ
「え?」
地面には水溜り。一瞬雨かと思うも、漠然とした予感で目にした少年の包丁についていたのは……血。
じわじわと熱がこもり始めた腿。
(う、そっ……)
腿を触った手にはべったりと血が。
「テメェ……」
「うっ!」
痛みが酷くならないうちに走ろうと立ち上がるさやかさん。
叫ぼうとしても声が出ない、叫べない。
もつれて転んでしまうと猛烈に痛み出した足。
「痛い……いたい、だれか……」
−−お父さんッ!
全力で叫んだつもりでも、全く出ていない声。
「バカが……」
あっさりと自分の前に立って余裕を見せる少年に、さやかさんに怒りが芽生えてきました。
まだやれるはずだ、と。
わたしは、白河律の娘で、上代蒼司の恋人なのだから!
「……へへへ。傷の手当をしてやるよ」
さやかさんの足元にしゃがみこむ少年。
頭に血が上り、少年の横っ面に手が伸びようと……
ガチッ−−
……したけど上がらない。
何かに押さえつけられた手。
手の平から生えた包丁。
刃物とアスファルトがぶつかる音がしたような気が。
−−思考はそこまで。
「−−ぁ!」
猛烈な痛みに視界が白く染まる。
「−−ぅ−−んん!!」
痛みに叫び声をあげようとしたさやかさんの口を押さえる少年の手。
悔しさと痛みに溢れる涙。
っつーか書いてて痛いというか苦しいというか……。
「−−は」
いつのまにか口から手が離れていたので、大きく息を吸う。
そこに戻ってきた黒い人影がさやかさんを抱き上げました。
そのやさしさに安堵したのもつかの間。
「あ……くっ……っ〜〜〜!」
突然手を思い切り押さえ込まれて呻き声をあげるさやかさん。
「……痛い?」
覗き込んできたぼやけた顔を左手で思い切り張り飛ばす。
「イタ−−痛いに決まってるでしょ!」
「……手を貫かれて、それだけ騒げれば充分だ」
「ふざけ、ないでよっ!」
今度はグーで殴る。それでも平然と話しかけてくる相手。
「どうすればいいかな?」
「本当に……どれだけ……痛いか……」
そっ、と降りてくる顔。
間近に迫ってはっきり見えたその顔は……
「……えっ?」
唇に淡い感触を残して離れていく顔。
「−−大バカ蒼司クンッ!!」
「なんです? それより普通、大バカと言いつつクンつけます?」
まったくいつもどおりの蒼司。やっぱり生きてたのか……。
と言いますか。
一瞬さやかさんを襲ったのが蒼司だと思いませんでしたか?
俺は思いました。「そ、蒼司……なんてことを……」なんて本気で。ああ俺のバカ。
蒼司が拾い上げているコンビニの袋には血がついていて、少年は顔を押さえて横たわっていました。
さやかさんの手を思い切り押さえ込んだのは傷に布を当てた緊急の手当だったようです。
「生きて……うっ……良かった……」
こんな時でも蒼司の無事を心から喜べるさやかさん、素敵です。
「ええ……でもその前に、後かたづけをしなきゃ」
そう言って、少年よりも早く包丁を拾い上げた蒼司は少年を押さえつけました。
逆手に持ち返られた包丁。
「−−!」
「……たかが缶ジュースの入った袋で叩かれたぐらいで悶絶してるヤツが、刃物で刺される痛みに耐えられるかな?」
さやかさんが震えるぐらいに冷たい表情。
「……美術家の手の価値を知ってるか?」
「あ」
「死ね」
「ダメーーッ!」
「もう……遅いですよ」
「嘘よ!」
「嘘です」
少年の顔に紙一重で落ちている包丁。
絶対に本気だった、とさやかさんは思います。
それほどまでに蒼司の怒りは凄まじかったのでしょう。
「ばか……」
地面にへたりこむさやかさん。
「ばかばかばかばかばかっったら、この大ばか!」
「命の恩人」
自分の顔を指差す蒼司をめがけて投げられた缶ジュースは見当違いの方向に。
「わ、わたしのために人なんて殺したら、本当に嫌いになってやるんだからっ!」
まるで痴話喧嘩。
「嫌いになるわよ……ええ、すっと、バカみたいに嫌いになるんだって思いこんで、そのうち本当に嫌いになるんだからッ!」
好きなものを嫌いになるなんてできないことを知っているさやかさんならではの台詞。
それを分かっている蒼司も、できませんよ、と言ってさやかさんの前にしゃがみこみました。
「……でも、どうすればいいかな?」
「……キス、して」
「……先輩、笑って下さい」
「? え、うん」
微笑む蒼司に言われるがままに笑うさやかさん。
「……うん。よかった……これで良い夢が見れそうだ」
「え?」
さしだされた蒼司の手。
それは真っ赤に濡れていました。
さやかさん自身の血にしては暖かみの違う血。
そのままさやかさんに寄りかかってきた蒼司。
「え? あれ?」
蒼司の腹部から流れる血でべっとりと濡れた自分の膝。
「最初に助けようとした時……もう?」
「さやかッ!」
そこに走り寄ってきた美絵。
さりげなく呼び捨てになってますがそれどころではありません。
「ば……か……」
「せんぱい?」
「……みっちゃん、このばか任せた」
さやかさんは不安げに見下ろしている美絵にそう言い残して全力で走り出しました。
自宅に駆け込み救急車を呼んださやかさん。
泣きたいのに流れない涙。
無性に甘いモノが欲しくてココアを煎れようとして……蒼司のカップが流しになるのに気づきました。
「ここに……いたの?」
まさに灯台下暗し。蒼司はさやかさんの家にいたのです。
律と一緒に。
開かずの部屋、つまり律の作業部屋から漏れる光に「お父さん?」と呼びかけますが返事はありません。
木戸に歩み寄ろうとするさやかさん。
でもその腕を引っ張る手がありました。
後ろに下げられて、代わりに木戸に背中を預けて呻き声を上げているのは蒼司。
「な!? なにやってるのよ!」
「まだ……」
蒼司は立っているのすら辛そうに腹を押さえています。
「ご、ごめんなさい」
戸口で立ち尽くしながら、蒼司を止める事ができなかったことを謝る美絵。
その後ろの大勢の野次馬に舌打ちしながらさやかさんは入り口の戸を閉めます。
「……どきなさい」
自分でも驚くほど冷たい声。
「……ひどいな……怪我人ですよ?」
「だからどけと言ってるのよ!」
「ちょっと……待って……はぁ」
蒼司が咳き込んで深呼吸する間にも、腹部からは血が流れています。
「本当に死ぬわよ!? なにを隠しているの!」
「……命を賭ける、価値のあるもの」
「冗談言ってないで−−!」
「冗談じゃない」
小さな声。でもさやかさんが気圧されるぐらいの声。
「わたしよりも……大切なもの?」
自分でも卑怯だと思いながらもそれがさやかさんの本音。
蒼司は咳き込みながらかろうじて頷きます。
「……ある意味では」
「もうキスしてあげない……」
その言葉にきょとん、と目を丸くする蒼司。
「ははは……それは……っ、困ったな」
そう言って額を押さえると、蒼司はその場にへたり込みました。
「負けですね……ええ」
「せんぱいっ!」
蒼司に駆け寄る美絵。
光の漏れる木戸に手をかけるさやかさん。
リリン−−。
横を通り抜けていく鈴の音。
さやかさんはそのまま部屋に−−−。
真昼の空のように明るい部屋。
壁には一面にさやかさんの子供の頃の写真。
地面には血の染み。
部屋の中央には椅子に座り、1枚のキャンパスに向かう人影。
帽子をかぶったその姿にかさなったのは母親の姿。
「お、母さん?」
震える声。返事はありません。
それは母親ではなく律。
寝ているようで、どこか違う。
死んでいる。
とても穏やかな顔で死んでいた律。
「なにが、どうなってるの……?」
さやかさんの目から溢れる涙。
そして目を向けた絵に描かれていたのは……さやかさん。
「これが、わたしの絵? ……まさか」
見てしまえば、全ての言葉も、思考も、自分の存在さえも意味を失う。
白河律の絵がそこにあった。
「……これ……お父さん……ごめん、なさい……ごめんなさい……」
さやかさんは律の腰に抱きつき、何度も何度も、ごめんなさいと呟いたのでした……。
少し前からの律視点。
蒼司がもう自分の作品すらも見えないくらい視力の落ちた律の手伝いをしていた時。
蒼司は律の絵が完成する直前に飲み物を買いに行くと言って出て行きました。
「……さようなら、先生」
そう言い残して。
おそらく律がもうすぐ死ぬことを覚悟し、最後の仕上げは律一人でさせてあげようとしたのでしょう。
そして絵は完成しました。
(ん……)
きちんと締められているはずの戸から感じる風。
「……蒼司くんかい?」
かすれた声をかけても返事はありません。
感じる眠さは二度と覚めることの無い眠り。
それは予感ではなく『契約』。
チリン−−
風鈴のような鈴の音。
目の前に浮かぶ黒く淡い物体。
「……これはなんだ?」
「なんで、そんなに穏やかなの?」
自分は夢を見ているのか、と律。
その声はどこかで聞いた声。
それもそのはず。それはいつか駅の近くで会った名無しの少女の声。
「……ひとつだけ聞きたいのだが、私の絵は、どうかね?」
「う〜ん……元気がでるね」
「そう、か……」
律儀な夢だ、と律は笑おうとしますが、最早顔の筋肉すら満足には動きません。
「おじさんの忘れ物……」
そっと静かにさしだされた白いモノ。
もう目は見えないので、手で形を確かめます。
「は……ははは」
それは妻にプレゼントし、さやかさんに受け継がれた帽子。
「あぁ…………すまない……かぶせて、くれるかね? この部屋は、まぶしすぎる」
「……うん」
とさ、と頭にかぶせられた帽子。
「さよなら……」
(さようなら)
リリン−−
黒い夢と入れ違いに部屋に入ってきたのは白い妖精。
(さや……か……)
自分に抱きつく暖かい感触。
思い出されるのは、さやかさんが生まれて、初めて手にした時の、自分の涙。
小さな手。
泣きやまなくて困った夜。
はじめて”パパ”と呼ばれた日。
泳ぎに行った海の塩辛さ……。
その心地よい肌のぬくもりを、私は、今までどうして、避けて、いたのだろう……。
「……これ……お父さん……ごめん、なさい……ごめんなさい……」
生まれた時よりも、さやかは、たくさん泣いていた。
わたしの心臓は高鳴る力をなくしていたが。
私の心は、いつまでもいつまでも笑っていた。
【8/1】
「それで……終わりです」
目に浮かんだ涙を手で拭いながら話を終えたさやかさん。
そこは白い部屋。相手は若い医師・若林鏡太郎。美絵の兄です。
律は末期の肺癌だったそうです。
それも生きていたのが不思議どころじゃないぐらいに重度な。
入院しなかったのは律の意思によるもの。
やり残したことがあると言っていた律。
「それで……あの絵を……」
病院で寝ていなければいけないのに律はそうしませんでした。
担当医師には「娘を少しでも長く見ていたいから」と言っていたそうです。
そしてさやかさんの怪我について。
もう今までと同じようには絵を描くことができない、と鏡太郎は言います。
部屋を出る前にさやかさんは言いました。
「先生、手が動かなくて、絵が描けないのはすごく寂しいけど……でも、目はまだ見えます」
あかんべー、をするさやかさん。
「どんなきれいなモノだって、わたしはまだ見ることが出来るんです」
先生、と呼びかけるとその言葉がさやかさんの胸に突き刺さります。
彼の遺言通りこれからずっとわたしは笑顔でいようと思った、とさやかさん。
「カメラで写真を撮ったり、小説を書くのって、この年からだと難しいと思いますか?」
「いや」
「わたし、この夏のお話を書いて、子供に聞かせてあげるんです。お父さんが、どんなに凄い絵を描いたのかと……」
「子供? いるの?」
椅子から少し腰をあげた鏡太郎にさやかさんは笑って言いました。
「妊娠してるんです」
「まさ、か……」
「嘘です」
「は?」
「そうだったらいいなぁ……って」
「……ああ、うん、いい物書きになれそうだ」
呆気にとられた鏡太郎は顔を押さえて笑い出しました。
「小説の最後くらいは、そのくらい幸せでもいいじゃないですか」
「それは……その、とても女の子だ」
「先生……」
何度でも繰り返したいその言葉。
「わたし、お話してる最中も、がんばりましたよ……ね、先生」
「とりあえず、涙を拭きなさい」
「……今だけいいですよね」
「かまわないよ」
嗚咽をこらえきれずに、さやかさんは少しの間だけ、子供のように泣いたのでした。
美絵と2人であの草原に。
頭にはあの帽子。
美絵に運ばせているのは律の残した絵。
ひまわり畑で大きく深呼吸。
「何しにきたの?」
「……確かめようと思ってね」
ひまわりを見上げて頷くさやかさん。
「……お父さんの絵は、死んだ人間のためじゃなくて、生きてる人のために描かれているんだって」
絵にかかっていた布をとると、美絵が駆け寄ってきて喚声を上げました。
「わっ、すごい!!」
「何を感じる? 正直に、思ったまま」
「きれい……それに、生きてる」
ほぅ、とため息をつく美絵。
良かった、とさやかさんは思います。
この絵を見れば、みんな、本当のお父さんを理解するだろう。
最後には。
わたしのように。
蒼司くんのように。
遙か遠くに、まるで天使の羽衣のように流されていく白い布。
さやかさんは絵を見つめて、背伸びをして、帽子をひまわりにかぶせました。
「……確かめたかったんだ……ずっと」
『今、この文章を書いている手も震えている。ぎこちなくて、汚い字が暗号みたいに並んでいる』
『実は、こんなものを書き残さなくても、わたしはこの夏の出来事をつぶさに思い出すことができます』
『今でもたまに、この夏の夜の夢を見ます』
『とても大切な人を手に入れて、とても大切な人を失った夏休みの夢を……』
『いつか、子供達に語って聞かせられればと思う』
『どこまでも果てのないひまわり畑』
『おっきな白い入道雲』
『塗り込められた風が、少し潮の香りを含んでいる』
『この夏休みが、ずっと続けばいいのに……』
『そう思えるような絵を、彼はこの夏に描いた』
「ありがとう、お父さん」
【8/2】
「……紛らわしい」
へ?
「……まるで僕が死んだみたいだ」
生きてたの?
事実は小説よりも奇なり、とさやかさんは言います。
やられた……やられたよ…………。
さやかさん……あなた小説家より詐欺師になった方がいいです。
怪我が治りきってないのに脱走してきた蒼司はさやかさんと歩きます。
その怪我は料理中にゴキブリに驚いて包丁で腹を刺した、ってことにしてあるようです。
歩きながらお互いにわかっていなかったところについて話す2人。
蒼司は27日、つまり律を殺そうと白河家に行った時からずっと律の手伝いをしたいたとのこと。
律は病状が悪化し、視力も落ちていたのでもう絵を描けるような状態ではありませんでした。
さやかさんもほとんど見えないぐらいに……描くには『寝てるか縛り付けるかしないと』というぐらいに。
「……紛らわしい」
空を仰いで大きくため息をもらすさやかさん。
「だから、最後の謎解きをするんですよ」
「なにそれ?」
「どうして、こんなにもややこしいのか」
「ややこしい……確かに」
全ての事象が誰かの一言ですんだはず。それを抑えていたのは誰か。
誰が神様で、誰が手の平の上で踊っていたのか。
それが明かされる最後の舞台。
「なに?」
「……これ」
そこは花壇。
律がプールを作ろうとして、それを辞めて花壇にした場所。
「……え? これって……」
”ひまわり”と書かれたプレートの地面は掘り返されていました。
それは以前さやかさんがやったことです。
でも”トマト”と書かれた苗はすくすくと育っていました。
「トマト」
「嘘……」
「嘘です」
それはトマトではなく、明らかにひまわり。
スカートが汚れるのも構わず、地面に座ってそれをなでるさやかさん。
「ええ……多分、先生、すごく楽しんでたと思いますよ」
「……子供みたい」
笑っているのか、泣いているのか。
さやかさんの肩は震えていました。
「う〜ん、と大きく育てる」
「ええ」
「もう一度、ひまわり畑を見たいから」
「ええ」
そう言って見上げた8月の空はまだまだ青くて、まだまだ暑くなる気配がありました。
夏休みはまだ始まったばかり……。
・
・
・
・
・
「兄様!」
「……まずい」
脱走がバレました。
小首をかしげながら薄ら寒い笑みを浮かべるさやかさん。
「怒涛の新展開? 新たな強敵登場?」
すごく辛辣な目で笑って、さやかさんはすたすたと歩き出してしまいました。
腹が痛んで走ることも出来ず、汗を一杯かきながら必死に後を追う蒼司。
ありとあらゆる言い訳を考えながら。
結婚して下さい。
そのあたりが無難だと思った。
後は、追いつくのが先か……追いつかれるのが先か。
とりあえず。
どうしても。
最後まで決まらない2人だと思った。
と言う訳で2章クリアー!! ぱちぱちぱち(うおっ、久々)。
何はともあれハッピーエンドのようです。めでたしめでたし。
それでは感想を。
まず律はさやかさんのことを愛していました。それは間違いありません。
そして奥さんのことも愛していました。それも間違いないでしょう。
はっきり言ってこんなにもややこしい話になったのは、律のことを誤解していた蒼司とさやかさんに全ての責任があると思うのですが。
変わり者であり、同時に子供っぽいところも持ち合わせていた律はその愛情を表現する方法を絵以外に持ち合わせていなかった、という事です。
律は花壇を作った時に『トマト』と『ひまわり』を書かれたプレートを作りました。
その両方がひまわりだったのか、逆にしていたのかはわかりませんが、それは本心ではひまわりが好きなさやかさんのためにやったことでしょう。
同時に『トマト』と書かれた花壇から(トマトを植えてる時点で『花壇』じゃないかも)ひまわりが生えた時のさやかさんを想像してはほくそえんでいた律の顔が浮かぶようです。
最後までさやかさんの近くにいることを願い、その想いの全てを絵に託して死んでいった律……あんた漢だよ。
律の最期の絵がどんな絵だったのかはわかりません。
でもそれは見る者全てに希望を与えるような『明るい絵』だったことでしょう。
それこそが律の真実であり、本当の姿。
願わくは律の魂に安らぎが与えられんことを……。
そしてさやかさんと蒼司。
終わってみれば何のことは無い、2人の一人相撲だった気がします(矛盾してます?)。
律の幻想に魅かれ、怯え、そして踊らされていた。
真実を知った時の2人の衝撃は計り知れないものがあったでしょう。
さやかさんには最期まで愛しぬいてくれた律の想いを胸に強く生きて欲しいです。
蒼司は……まぁどうでもいいや。なんかあんまり魅力を感じませんでした、この主人公。
単なるサイコさんから普通の男になった、って感じです。
今までのような絵をかけなくなったさやかさんの分まで絵を描けとは言いません。
さやかさんはその代わりに何かを見つけるでしょうから(小説家? 写真家?)。
蒼司は蒼司で律の域を目指して頑張ってくれればそれでいいです。
最期に名無しの少女と千夏さん。
またまた謎な感じでしたが、名無しの少女に関してはますます死神っぽい感じが強まりました。
律と一緒にいた時に事故に遭った和服の女の人って宏が泊まる旅館の女将さんだったりします? 他に和服の女性って浮かばないので……。
と言う訳で2章終了です。
終わってみたら律の父親としての男気ばかりが目立つ話だったような気がします。
蒼司はともかくさやかさんはかなり魅力的なキャラでしたけどね。
それでは次回より3章へと突入です。
透子さんと茜のダブルヒロイン。
恋人を取るか、妹を取るかで揺れる主人公が目に見えるようです。
果たして茜は「ONE」や「君望」を超えることができるのか!?(多分無理)
それでは以下次回!!