2002.6.9 「芸術家ってヤツは……」編


長い長い48時間の第2回です。

 

【7/27】の続き

先輩による奇襲フェ○終了後、2人の間で交わされた会話は平和で幸せな会話。

それは寝顔のことだったり将来のことだったり。

蒼司はさやかさんをモデルに絵を描き続けます。

もう少しで完成ながらもワンポイント足りない、と言う蒼司の目にさやかさんは既視感を覚えました。

「話しかけてていいよね?」

「え、ええ……」

クソ女共に転ばされたせいでケガした膝を蒼司は心配しますが適当にごまかしたさやかさん。

「……血って、どうして赤いんでしょう」

「え? 血?」

さやかさんは必死に血が赤い訳、つまり赤血球に含まれている成分について思い出そうとします。

「えっと、ちょっと待って。どこかで呼んだ(※「読んだ」の間違いかと)記憶が……確かロビンなんとか……あれ?」

ちなみにさやかさんが思い出そうとしているのは「キン肉マン」に出てくるロビンマスクかと思われます。

「ヘモグロビン」

「あっ! そうそう、それが赤いん−−」

そこでさやかさんの笑顔が凍りました。

何故蒼司が血のことを連想するに至ったのかに気付いたのです。

さやかさんの膝のケガのこともあったでしょう。

でもそれ以上にこの草原にあったはずのひまわり畑から律の描いた絵を頭に思い浮かべたのではないか、とさやかさんは考えます。

先ほどの蒼司の目に感じた既視感。それは律がさやかさんを見つける瞳に似ていたから。

「? 先輩?」

「あ、あははは。ううん。なんでもない」

声だけで笑いながらもさやかさんの精神は落ち着くことはありません。

まるで目の前にひまわり畑があるかのように。

そういえば、と微妙な気配を察した蒼司が話題を変えてきました。

「また、話していいかって聞きましたね」

「え、そうだっけ?」

蒼司をやけに遠く感じるさやかさん。それは自分の心が生んでいる距離。

自分は蒼司を信用していないのか。

そんな自分の考えに涙が出そうなくらいにさやかさんは蒼司を愛しているのに。

思い出されるのはもっと蒼司に甘えろという美絵の言葉。

「8年前−−」

さやかさんは深呼吸して目を閉じて言いました。

「わたしが絵を描いている時に、とても好きな人がいなくなったの。大好きだった人が……」

不安げな蒼司の瞳に笑いかけながらさやかさんは話を続けます。

「ずっと話しかけていれば、その人の異変に気づけたかも知れなかった−−」

それは母親のこと。

このことを蒼司に話すということは『甘えている』もしくは『頼っている』ということなんでしょう。

それこそ美絵の言葉通りに。

「それでなくても長くはなかったのだろうけど、あの時、わたしのわがままさえなければな−−そう、何度も思った」

さやかさんは今でもそう思っていました。母親の死に責任を感じ続けていたのです。

沈黙が怖かったさやかさん。誰も返事をしてくれない恐怖。

いじめられるよりも無視される方が何倍も痛い。

だから人の絵を描いたり描かれたりしていると心配になる、とさやかさんは言います。

俺の推理通りでしたがあんまり嬉しくないな……。

さやかさんは笑います。精一杯笑います。苦しくても笑うのです。

母親を見殺しにした自分がしおなければならないのは泣くことよりも、誰よりも笑っていることだと信じて。

「馬鹿みたいだよね……わたし」

気が付くと蒼司は立ち上がって、音のする方向に顔を向け、じっとそちらを睨んでいました。

その音は海風の音。女の子の歌声ような音。

「大丈夫……わたしは平気……ずっとこうしてきたんだから」

「……大丈夫」

独り言のように小さく呟いた蒼司。

「僕は死にません。絶対に。それと−−」

蒼司はさやかさんを強い意志の籠もった眼差しでさやかさんに言いました。

 

「あなたも殺させない」

 

「……」

無言でさやかさんを見詰めたままの蒼司。

「あははは……な、なに言ってるの君は?」

 

その時−−。

 

強い強い風が吹いた−−。

 

「っ、帽子……!」

風に飛ばされたさやかさんの帽子。

それは母親の形見の帽子。

追おうとしたさやかさんの腕を抑えたのは蒼司。

「帽子が−−!」

帽子のことなど考えていないささやかさんを見つめる蒼司の目。

「蒼司くんッ!」

「先輩、いつまで縛られているつもりですか?」

「……」

「……お母さんは、あなたに自分が死んだ責任をとり、身代わりになれとでも言ったんですか? そんな人だったんですか?」

力無く離れた蒼司の手。でもさやかさんは動くことができません。

「……違う」

 

お母さんがそんなこと言うはずがない。

 

「笑っていろって−−」

 

ひまわりみたいに笑っていろ−−そう言われた気がする。

 

顔色を変えない蒼司。

「泣きたいのも我慢して笑っていろと? その顔が言ったんです?」

「それは……死ぬ前に……」

 

言っていただろうか?

この前に思い出した夢。

あの、ちょっと思い出すには恥ずかしい日の、泡沫の夢で。

 

蒼司の言葉に崩れる夢。

 

言ってなかった。

そんなことは一度も。

では、どこでそんな言葉を聞いたのだろう。

お母さんが言ったと、一体、どこで記憶したのだ自分は?

 

「……違うでしょう」

「でも、確かに死ぬ前に……」

「死んだ後は?」

 

え?

 

「死んだ後はどうです?」

そのありえない不思議な言葉から見えてきた真実。

 

そうか。

 

「あの絵だ……」

冬虫夏草を思わせる、律が描いた母親の絵。

 

死んでなお、あの笑顔が、どこかでわたしに語りかけたのだ。

笑っていろと。

 

 

 

一つ、真実が明らかになりました。

さやかさんを縛っていた母親の言葉。

それ故にさやかさんはいつも笑っていなければいけなかったのです。

でもそれは母親の言葉ではありませんでした。

死んだ母親を描いた律の絵から感じ取っていた言葉。

だとしたらそれは律の言葉なのか。

それともさやかさんが無意識のうちに自らに課した責任であり義務なのか。

たぶん後者でしょう。

それに気づいたさやかさん……もう無理に笑うことも、蒼司の前で弱いところを見せないこともないでしょう。

よかった……本当によかった……。

 

 

 

「……先輩も、律先生の絵が好きなんですね」

ゆっくりと2人で帽子を探しながら蒼司が静かに言いました。

『先輩』ってことは蒼司はまだ律の絵に憧れているってことでしょうか。

律を毛嫌いして、名前さえも呼ばなかったさやかさん。

それでも律を独りにはせず、身の回りの世話をして、村の人間の中傷にも我慢してきたさやかさん。

さやかさんは律を嫌ってなどいなかった。むしろ……。

昔した『お絵かきかくれんぼ』なる遊びを2人は思い出しました。

それは律に教えてもらった遊びで、村のどこかの風景画を描きその場で相手を待つ、というもの。

そんなことを考えながらさやかさんは律に対する自分の気持ちと、当時から抱いていた蒼司に対する気持ちを想います。

「……ありがとう」

笑ってそう言ったさやかさんに「別に」と口だけ動かす蒼司。

 

「あれ?」

周囲よりも高い丘から辺りを見渡していた蒼司が呟きました。

「え、帽子あった?」

「……いや」

蒼司が見つけた物。それは……

「花が−−」

一度言葉を切ってから蒼司は言いました。

「ひまわりが咲いてるんです」

「……」

帽子は無い、と蒼司。

「見たいな……」

「え?」

「連れてって」

 

周囲から一段くぼんだ狭い谷にできていた、本当に小さなひまわり畑。

「……驚いたな」

蒼司とほとんど同じ背丈のひまわり。

それを睨みつけるさやかさん。

その瞳は冷静なようで、怒りを抑えているようで、悲しみを抱いているようで。

 

「さっき、殺させない……そう言ったね」

背後の蒼司に話しかける。

「はい」

感情の読み取れない声。

「誰に? あの、いつかの少年?」

「やっぱり見てたんですね」

さやかさんが軽く振り返ると、そこには無表情に腕組みをして立っている蒼司。

「彼……誰かに腕と足を折られて、1ヶ月の入院だって」

「夏休みだってのにお気の毒様。よほど性質の悪い猫に噛まれたんでしょうね」

「今度バラの花束でも持っていってあげたら?」

「中に拳銃でも仕込んで? あまりゾッとしない趣味だなぁ」

それはバラの花束か、拳銃のことか。視線をひまわりに戻すさやかさん。

風にぎしぎしと揺れているひまわり。

 

「それじゃあ、わたしを殺すのは、君?」

 

限りなく無感情に言ったつもりでも、目の端にはうっすらと溜まった涙が。

少しの沈黙。

 

「……はじめは、そのつもりでした」

 

一度、心臓が止まる。

そしてゆっくりと深呼吸をして、笑みを浮かべた。

自分を殺そうとしていた人間を愛しているなんて、と。

「それは……ええ、とてもロマンチックね……」

「ええ」

「わたしの眠る絵を描こうとしたのね?」

「ええ」

「どうして止めたの?」

「エッセンスが足りなかったから」

「バラの香り?」

「愛情ですよ」

 

ゆっくりと振り返り、

蒼司に向かって手を伸ばし、

そして目を閉じる。

 

 

心臓か唇か。命を賭けた勝負。

 

 

トン−−と胸に小さな痛み。

 

目から涙が溢れて頬を伝う。

 

その頬に、暖かい涙よりも暖かい口づけ。

 

目を開くと、そこには本当に心から笑っている蒼司。

 

 

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

 

すぐに元の表情に戻り、慇懃に礼をする蒼司。

その真面目くさった顔が可笑しくて、口元を押さえて泣き崩れたさやかさん。

 

「うっ……うう……あははは、バカみたい……」

「大バカです……なに本気にしてるんですか」

さやかさんは子供のように大声で、今までにないくらいに泣きじゃくりました。

そんなさやかさんの頭を自分の胸によせる蒼司。

嗚咽に喉が痛くなった頃、ようやく涙が止まったさやかさんの手を蒼司は恭しくとりました。

そして手の甲に口づけを。手の甲へのキスは忠誠の証。

「……律先生からあなたを守ります」

手の平を返す。

「……僕はあなたよりも先に死ぬこともありません」

手の平に口づけを。手の平へのキスは愛情の証。

 

「平均寿命は女性のほうが長いからね」

「日記の綴り、間違ってましたよ」

 

お互いにまだまだ若かった、とさやかさんは思ったんだとさ。

 

 

 

さて……少々2人の思考にはついていけないところがあったんですが、それでもよかったです(?)。

蒼司が変なのは分かってましたが、やっぱりさやかさんもしっかり変でした。

それが芸術家ってやつなんでしょうか。そしてその最たる人間が律、と。

まぁ芸術家であろうがなかろうが、2人の愛が本当のものになったのならそれでいいんです。

 

やはり蒼司はさやかさんを殺そうと思っていたんですね。律のような絵を目指して。

それを描くには足りないものがあり、それが『愛情』だった 。

でもそれを手に入れたことによって蒼司はさやかさんを殺せなくなって。

と言う事はさやかさんの絵を描こうとしている律はさやかさんを愛しているということなのでしょうか。

そして実際に絵にしたさやかさんの母親のことも愛していた、ということに。

ますますもって律という人間がわかりません。

 

 

っつーか全然進まねー!!

『長い長い48時間』って言うだけあって濃い濃い。セリフの1つ1つに重みがあると言うか何と言うか。

あと2回ぐらいで終わらせようと思ったけど無理かも……でも頑張ります。

それでは以下次回!!


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