2002.6.7 「何事?」編
いきますです。
【7/25】
なんかよくわからないけど妹からメイド服を受け取った蒼司。
っつーか無事だったのね。
ってことはやっぱり少年はボコボコ、か。
そしてメイド服をどうしようかと思案しながら歩いていると誰かとぶつかってしまいました。
相手は華子……もとい千夏さん。
「……いや、すまない」
「いえ。すみません、こちらが呆としてました」
「そうだな……狭いから気をつけた方がいい」
歯に衣着せぬ物言いが爽やかな人、とは蒼司の弁。
千夏さんってこんな人だっけ?
1章で出てきたときはもっと女女してたような……。
演技してるようにも見えないので相手によって性格が変わってしまう人なのでしょうか。
それも人格レベルで。
そうなるとやっぱり普通の人じゃなさそうですね、この華子……いや千夏さんは。はぁ……。
んで持っていたメイド服をあげるかどうかの選択肢が出てきたのでプレゼントすることにしました。
千夏さんに来てもらえるとギャップを楽しめると思うのですが、きっと後で名無しの少女あたりが着ることになるのかな?
「ま……ぶち着せてみたい奴はいる。また複雑な理由により必要になったらお返しするよ。蒼司くん」
そう言ってのんびりと消えていった千夏さん。
「……あれ?」
自分は名乗っただろうか、と疑問に思っても後の祭り。蒼司も案外ニブい奴です。
駅の近くで休んでいる律。
暇つぶしにマンウオッチングでもやっているようですが、その律の目に留まったのは名無しの少女でした。
朝のラッシュの人ごみに巻き込まれている名無しの少女を見て律は面白がっています。
やがて律の隣に腰を下ろした名無しの少女。
「ねぇアルキメデス……目がくらくらするよぉ」
「大丈夫かね?」
「え!?」
まるで律が目に入っていなかったかのようにビックリする名無しの少女。
「……あぅ」
そんな名無しの少女に律は不思議な落ち着きを覚えます。どこかさやかさんと似ている、と。
「酢こんぶでも食べるかね?」
(プルプル)
「あぁ……これが怖いのか」
苦笑しながらサングラスを外す律ですが名無しの少女は困惑した様子でもらおうとはしません。っつーかなんで酢こんぶなんて持ってんだ?
「まぁ、正しい。知らない人に物をもらうのは賢くはない」
「おじさん……誰?」
「私か。私は白河律という変わり者さ」
「何してるの?」
「何もしてないかな……このまま、何もせずに死に向かっている」
「死んじゃうの?」
「誰でも、いつかは死ぬさ」
「そうだね」
「私には、さやかと言う娘がいてね……」
「うん……あっ、ちょっと待って」
椅子からぴょんと立ち上がって道路を睨みつける名無しの少女。
まるで鈴の音のように凛として澄み切った横顔。
そこに和服の女性が手に持つ包みを気にしながら歩いてきました。
「知り合いなの−−」
と律が名無しの少女へ視線を逸らした僅かな隙に聞こえてきたのは車のブレーキとガラスの割れる盛大な破砕音。
「……」
騒然とする駅前。
「そして、上代蒼司という、やはり変わった弟子がいてね−−」
律は何事も無かったかのように話し続けました。
転がってきた女性の瞳孔を確認しながら。
変わった弟子、ですか。
確かに蒼司は変わってるけどあんたに言われたくないよ。
それはともかく名無しの少女です。
一体彼女は何なんでしょ? 彼女現れるところ、死あり、ですか?
蒼司とさやかさんは例の草原へ向かいました。
蒼司は指に包帯を巻いてますがそれは朝飯でキャベツと一緒に切ってしまったんだそうです。
嘘臭いですが心で思ってることなので本当なんでしょう。
ちなみに切ってしまった指は妹に舐めてもらったんだとか。一体どんな兄妹なんでしょうか。
「絵を描いてるときにお話してもいいよね?」
「……いつも聞きますね、それ」
「そうだっけ?」
自覚が無いから繰り返すのだろう、と蒼司は思いますがそうではないでしょう。
「なんでかな。君の絵を描いてるときの真剣な顔を見てると、心配になるんだよ」
さやかさんは小首をかしげてそう言います。
「絵を描いてる時だけはね、君が儚いっていうか、弱く見えるから」
「……」
でも本当の理由はそうじゃない、と俺は推理。
きっと話しかけて相手が『生きている』ことを確認しないとさやかさんは不安なんじゃないでしょうか。
自分が絵を描いてる時に死んでしまった母親のことがトラウマになって。
「……昨日、あれから何かありました?」
「ううん、何もないよ。どうしたの怖い顔して?」
「いえ。先輩の家の近くで事件があったって聞いたんです」
あったあった、とさやかさん。
夜遅くに喧嘩があったらしく救急車まで来てたらしい、とさやかさんは言います。何でも律に聞いたんだとか。
それで律が朝帰りだったことを聞いて蒼司は感慨深げです。
あの少年を止めて正解だった、とでも思っているんでしょう。
「物騒だよね。ホントに泊まってってくれればよかったのに」
と何も知らないさやかさんは笑います。
「駄目ですよ。そんなことしたら、足腰立たなくなりますから」
「君、自分の布団じゃないと眠れないんだ」
さやかさんはやっぱり何も知らずに笑います。
「先輩。カマトトって知ってます?」
「カマトト? かまぼこの仲間? 画家の名前かな?」
「……天然記念物です。食べられますよ」
「ああ、そう。美味しそうね」
「ええ、美味しいですよ」
さやかさんがカマトトかどうかは置いといて、蒼司のオヤジギャグが炸裂。
自分でもそれはわかってるみたいですけど蒼司ってやっぱりジジ臭いかも。
蒼司の絵のモデルをやりながら国語の教科書を読んでいるさやかさん。
その様子に蒼司の心はどこか騒いでしまうようです。
「白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ」
「? 若山牧水……」
人に教えてもらった歌でとても好きな歌だとさやかさんは言います。
「男の人?」
普段なら言わないような言葉を蒼司は思わず口にします。
違うよ、とさやかさん。中学の時飼育係で一緒だった先輩に教えてもらったんだそうです。
「……そうなんだ」
無性に恥ずかしくなって視線を下げた蒼司。
そんな蒼司にキャンパスを引き抜いたさやかさんは言いました。
「ねぇ君? この歌を詠んだ人は本当にその景色を見たと思うかね?」
「さ、さぁ……知りませんけど」
わたしは見てないと思う、とさやかさん。
「じゃあ、この歌を聞いて何を思うかい少年?」
「え、と」
「考えないで」
さやかさんは蒼司の耳元で囁きます(羨ましい……)。
「思ったことを、素直に言葉にするの。そっと。ただそれだけでいいの」
「寂しい」
漏れでた小さな言葉に自分で驚く蒼司。
そして唇には暖かい感触。
「……ご褒美です」
「……」
真っ赤な顔して微笑むさやかさん。
「勉強はあなたが先生。絵はわたしが先生」
呆気にとられる蒼司と、明らかに楽しそうなさやかさんが対照的。
「いい? 絵も文章も、本当は自分の考えたテーマを伝えることだけが真実じゃないの」
さやかさんは蒼司に向かって諭すように語ります。
その内容はさやかさんの美術論と言うか画家としてのあり方と言うか。
「わたしは、さっきの歌がやさしい。だから好き。君が好き。大好き。それだけ。だから君に楽しく絵を描いて欲しいの」
他にも色々さやかさんは言いますが……要するに蒼司の思うがままにやりなさい、ってことでしょうか。
「想いだけは必ず届くから」
膝に手をついて蒼司を見下ろすさやかさん。
「だから、ね? 本当にはじめようよ。君の夏休みを」
支離滅裂な帰結ながら蒼司の心は穏やかです。
「僕は−−」
その時吹いた強い風にかき消された言葉。
「僕は……」
もう一度繰り返そうとして蒼司は止めました。
頭で考えた言葉はつまらないから。
「……僕は、自分の気持ちがまだ分かりません。でも、遅くなったけど、先輩のことは好きみたいです」
「あはははは。やった! 好きって言わせたー!」
大喜びして蒼司に飛びついてきたさやかさん。
真っ青な空の下、大きな笑い声だけが草原に響き渡ったんだとさ。
さかやさん最高!!
いやマジでいいです、さやかさん。
何て言うか……まっすぐで、純粋で、頭が良くて、それでいて可愛い!!
蒼司も前に言ってたけどさやかさんって学校の勉強は出来なくても頭はすごくいいんだと思います。
成績の良し悪しなんて頭の良し悪しとは完全に別物ですからね。
何て言うか……頭の回転がいいと言うか、自分なりの筋がビシッと通ってると言うか。
そんなさやかさんに蒼司は惹かれています。そしてついに自分の気持ちに気付きました。
遅すぎって気がしないでもないですがこれはこれでいいでしょう。
問題は……律か。
でも名無しの少女と話していた時の様子からしてあんまり悪い奴とも思えないんですよね。
転がってきた瞳孔(眼球のこと?)を前に平然としゃべる辺りはまともじゃないとは思いますが。
【7/26】
「あら、お出かけですか?」
(うっ)
アパートの廊下で蒼司が出会ったのは3章ヒロイン・透子さん。どうやら隣の部屋に住んでるようです。
二十歳そこそこながら大人びた雰囲気がたまりません。
つまり正統派美人なんですよね、透子さんって。
左手にしてる指輪って……婚約指輪じゃありませんよね?
挨拶を交わして少し会話してから蒼司は昼飯を食べに外へ。
それでやってきたのは美術講の教室。そこにはさやかさんがいました。
昼食を食堂で食べようと思った、と蒼司はわざとらしく言います。
「あー、もったいない。ウチで食べてきなよ」
もちろんこの言葉を狙っての行為。この策士め。
でも蒼司はなんとなく元気の無いさやかさんの様子が気になります。
そして家の中を漂うお香の匂い。
なんでも翌々日はさやかさんの母親の命日なんだそうです。
「あれから8年」
「そうか……君を出会ってから8年経ったんだ。あっ、というまだったね」
「あっ、と言う間ってカップラーメンにお湯を注ぐ暇もありませんね」
「……」
「……」
「お昼、君だけカップラーメンだね〜」
にこー、と笑いながらさやかさん。
「い、いや−−」
「とんこつとー、醤油とー、味噌とー、塩味の中から、好きなの選んでいいよ♪」
○とんこつ
○醤油
○味噌
○塩
○先輩
先輩でお願いします。
そんな俺の意向を無視してジジ臭い、と蒼司は自分で却下。
素直に謝った蒼司にさやかさんも機嫌を直してくれたので材料を出かけていきました。
残された蒼司が気になったのはその部屋にある1枚の絵。
どうやら布のかかったその絵がさやかさんの気分を暗くさせたらしいのです。
「あっ、そうそう」
「−−!?」
もう出かけていたと思っていたさやかさんの声にビビる蒼司。
「……行ってきます、って言うの忘れた」
「ああ、ええ、僕も行ってらっしゃいって言うのを忘れてました」
「行ってきます」
そう言いながらもさやかさんは例の絵から目を背けています。
「行ってらっしゃい」
ドアノブに手をかけて……と思ったらそのまま振り返ったさやかさん。
「冬虫夏草って知ってる?」
「? 虫から生えるキノコですよね?」
昆虫に寄生してその身体を養分に成長するキノコ。
確か「ミスター味っ子」に出てきた記憶が。
「実物は見たことないですけど」
「そう」
さやかさんはそれきり黙りこんでしまいました。
例の絵は冬虫夏草の絵なのか、とキャンバスを見る蒼司。
「昨日、ずっと昔から願ってた夢が叶ったの」
「夢……僕に好きと言われること?」
「本当に嬉しかったんだよ」
そんな瑣末な夢などこれから幾らでも叶えてあげるのに、と思う蒼司……お前、変わったな。
「ちゃお♪」
どこか儚く微笑んでいたさやかさんですが、明るくそう言うと帽子をかぶって外に。
「今日も暑いよ」
−−バタン
今度こそ1人残された蒼司。
見れば絶対に後悔すると確信しながらも布のかかった絵が気になって仕方ありません。
何度か手を伸ばしては躊躇してから、意を決したように布を取り外すと……そこにあったのは。
「?」
何でもないごく普通のひまわり畑。
筆のタッチから律の絵だとわかりましたがいたって普通の絵でした。
気にしすぎたか、と蒼司は一安心。さやかさんの様子がおかしかったのは嫌いなひまわりの絵を目にしたからだろう、と推測。
「ふむ」
どうやら新しい物でもなさそうだし、ざっと書かれているところを見ると過去の周作なのだろう……と余裕の観察。
そして沸かしていたコーヒーを取りに部屋から出ようとしますが……
「……?」
何かが引っかかった蒼司はカップを置いてキャンパスのところまで急いで戻りました。
ひまわり畑。どこかで見た風景。突然この世を去った両親。壊された秘密基地。虫取り網。白い帽子。熱い夏の日。蝉。蝉。蝉の鳴き声。女の子の泣き声。
『いっしょに絵を描きに行こう!』
フラッシュバックする忘れていた記憶。
「……8年前だ」
その絵が描かれたのは8年前だ、と蒼司。
再び布を剥ぎ取り、数歩後ずさった蒼司は気付いてしまいました。
「…っ……!」
口元を押さえて俯きながらも視線はキャンパスに。
風にざわめくひまわり畑の苗床、横たわる1人の女性。
女性の体中を貫きながら咲き乱れるひまわり。
まさに冬虫夏草。
吐き気を催しながらも唇をかみしめて絵を直視すると、描かれた女性の服装は黒と白のワンピース。
さやかさんに生き写しなその女性はおそらくはさやかさんの母親。
「化け物め……」
無意識にポケットから銀色のナイフを取り出していた蒼司。
ナイフを振り上げて、御しがたい興奮と共に律の絵を切り裂こうとして……
「は……ははは」
膝が崩れる。
「はは……ははは……はははははははは!」
笑いが止まらず、激しく咳き込み涙がこぼれる。
蒼司には出来ませんでした。
何故ならさやかさんと瓜二つなその女性はあまりに美しすぎたから。
そして慈愛に満ちた笑みを浮かべていたから。
さやかさんの部屋に向かった蒼司ですが……そこには律がいました。
律が窓際に立って見ているのは蒼司のスケッチブック。
草原で描いた、夢のように動き回るさやかさんを描いた夏の1ページ。
「私は、あの子のこんな笑顔を見たことがない」
そして例の『ひまわりの絵』のことを尋ねる蒼司。
「……先生の奥さんを描いたヤツです」
ああ、と腰を下ろして遠くを見つめる律。
「−−うん、あれは傑作だった」
そのモデルとなったさやかさんの母親を巫女、そして生贄のように呼ぶ律。
「あれを超える作品は描けないと思った」
(思った?)
「このスケッチブックを見るまでは」
動けなくなる蒼司をやさしく見つめる律。
「……まさか……さやか先輩?」
蒼司の脳裏に浮かぶのは最近のさやかさんの豹変。
生き急ぐかのような毎日。
「あの子は私の前では笑わない……それに、最近では美術講以外では、1分以上顔を合わせようともしない」
「それは……」
「本当にあの子は……寝てるか縛り付けでもしなければ絵も描けない−−ああ、うん、それもいいかもしれない」
神に感謝する、と律は言います。
再びこのような機会に巡り会えたことに、と小さく笑う律に全身を粟立たせる蒼司。
コロサナケレバ−−。
ポケットにはナイフが。
蒼司がポケットに手を入れるのと、律が目を細めるのと。
そして部屋の扉がノックされるのは同時でした。
「ぼんじゅ〜る、おっひるごは〜ん♪」
「……」
「……」
「……あれ? あれれ?」
ガチャギャチャと音のするドアの向こう側。
タイミングがいいと言うか何と言うか……。
とにかくそれで部屋に満ちていた緊張感は消えました。
「哀しいことに、ひまわりは枯れてしまったよ」
「は?」
ポンポン、と蒼司の肩を叩きながら律は微笑みます。
「花壇の苗に名札をつけていたら、あの子に抜かれてしまったんだ」
「ああ……そうですか」
「だから、君も気をつけたまえ」
「は?」
意味不明な忠告をしてから律はドアを開けました。
当然ドアの向こうには食事を持ってきたさやかさんが。
「あっ! ほら、美味し−−−っ!」
−−ガシャン!
「……」
「……っ……!」
食器を律に叩きつけて凄まじい律を睨みつけるさやかさん。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
それでも律は平然としています。
「もうそんな時間か」
「どうして、わたしの部屋に居るの!」
「少し探し物をね……」
「探し物って−−!」
律がスケッチブックを持っていることに気付くとそれを奪ってさやかさんは部屋に入りました。
「出て行きなさい!」
「すまなかったね」
そう言って消えていった律。
「君も、出て、いって……」
さやかさんが歯を食いしばっているのに気付いた蒼司。
その時蒼司が感じた悲しみは拒絶されたせいではありませんでした。
泣くときに自分の胸を必要とされなかったことが悲しかったのです。
「また、あとで来ますから」
なんて言うか……蒼司の律に対する感情は同族嫌悪とでも言うべきものなのでしょうか。
蒼司には多少なりとも律に通じるところがあるんだと思います。
その上でさやかさんが好きで……そこに蒼司の葛藤があるんじゃないかと。
その後バスの運転手と話したりして時間を潰してから再びさやかさんの部屋にやってきた蒼司。
誰もいない部屋の窓から見えた奇妙な物体。
行ってみると……ハンモックで昼寝をしているさやかさんでした。
その様子に思わず笑みを漏らしながらも、蒼司は自分が本当にさやかさんを愛し、欲していることを再確認。うん、いい傾向だ。
声をかけても反応の無いさやかさん。
顔にかかっていた帽子をとるとその下には気持ちのよさそうな寝顔。
「先輩……寝てるならキスしますよ?」
「すぅ……すぅ……」
「……」
軽くキスをしても……さやかさんの目は覚めず。
「……さて」
○悪戯はもうしない
○もう1度キスをする
やらいでか。
今度は結構じっくりとキスして蒼司はその場を立ち去りました……ってそれだけ?
蒼司がさやかさんの部屋で絵本を読んでいると、目覚めたさやかさんが帰ってきました。
絵本の題名は『明日への贈り物』。
さやかさんはその作者に会った事があるんだそうです。
どうやってこんなお話を思いついたんですか、と聞いたというさやかさん。
その作者の人ニコニコ笑うだけでは何も答えなかったそうです。
でもさやかさんは少しだけ潤んだ目を見て思ったのです。本当にあった出来事なのかな、と。
「ねぇ……悲しいお別れをしないと、人は誰も、先には進めないの?」
まるで笑顔のまま泣いているかのようなさやかさん。
蒼司は椅子から立ち上がり、さやかさんの前にひざまずいて言いました。
「……強くなる、ということでしたら」
「……ごめんね。弱くて」
少しだけ、とさやかさん。
「少しだけなら」
とん、と蒼司の肩に乗るさやかさんの首。
蒼司は背に手を回してポンポンと叩いてあげました。
いつまでも、と言うには年をとりすぎた、と蒼司。
「ロミオとジュリエットだって14歳と12歳ですから」
「……なにそれ?」
小刻みに揺れているさやかさんの身体。
笑っている、と思うことにする蒼司。
そしてHへ。
さやかさんはHな子でした。
途中で選択肢が。
○もう、どうにでもなれ
○命があるうちに帰る
どんなシチュエーションでこの選択肢が出てきたかは明言しませんが、ここで辞めたら男がすたります。
H終了後、逃げるように帰った蒼司。
そしてその夜。
「さのばびっち、ばんごは〜ん♪」
「……」
いきなりアパートの廊下に現れたさやかさん。どうやら意味はわかっていない様子。
肉じゃがを作りすぎたからお裾分け、と言って鍋ごと持ってきていました。それも1時間以上もかけて。
でも蒼司は妹にたらふく飯を食わされた後で、しかも隣の透子さんからも肉じゃがをもらっていたのです。
明日食べる、と言う蒼司の言葉に怒りを露にしているさやかさん。
なんだかんだと言い訳する蒼司にさやかさんも諦めてまた作ってくるからいい、と言って帰っていきました。
当然1人で帰らせる訳にもいかないので自転車に乗って追いかける蒼司。
鍋を神社にお供えしてきたさやかさんと合流して一緒に歩きます。
「−−と言うかですね先輩、ふざけてでも、こんな夜道を一人で歩かないでください」
「まぁ、懐中電灯を忘れたのはアレだね。村の西に夜来る事なんてほとんどなかったから」
さやかさんの家の近くの駅前とは違い、街灯なんてものは無い村の西側。
「……僕、冗談で言ってませんよ」
少し怒気をはらんだ蒼司の声。
「あれ、心配してくれるの?」
「当たり前でしょう! 彼女の心配しないでどうするんですか?」
「……」
『彼女』という言葉に反応するさやかさんですが蒼司はそれに気付きません。
鈍いと言うかなんと言うか。まぁそれだけ蒼司としては当然のことだと思っているんだ、ということにしておきましょう。
「え?」
「え、ってなんです」
「うんん。なんでもない♪」
自転車を転がしながらさやかさんと歩く夜道。
月の光に照らされたその横顔に見とれてしまい蒼司は言葉が出てきません。
蒼司の正直な感想は『美しい』。
蒼司は思います。
さやかさんはずっと1人で生きてきました。
いつも表情を殺してきました。
友達も無く。1人で絵を描き続け、空想を広げていたのです。
さやかさんは笑ってくれます。
でも辛い姿は決して見せようとしません。
−−それも、もう、終わりにしよう。
本当に好きならばさやかさんの全てを知らなくてはいけない。
さやかさんの笑みが皆に向けられるように。
蒼司は自転車と停めて、ここまでくれば大丈夫、と言いました。
少しだけ寂しそうな顔をしながら同意するさやかさん。
そして蒼司は1つの包みをさやかさんに手渡します。
「これ、お返しです」
「なんの?」
「今度の手料理の」
苦笑しながら受け取ったさやかさんは、包みの軽さに不思議な表情を。
「指輪でなくて残念ですが、少し前に作ったけど、渡しそびれてた物です」
「……手作りなんだ」
ぎゅっ、とその包装を抱きしめて微笑むさやかさん。
「ありがとう」
ガシャン、と自転車が倒れる音を聞きながら口づけを交わす2人。
さやかさんの夢。
母親の葬式の日、1人で泣いているさやかさん。
『おっ……おかあさん……』
それでもお腹は空くもので。
庭に咲いていたひまわりの種を1つかじってみても硬くて歯が立ちません。
『なに泣いてるんだ?』
そこに現れたのは蒼司でした。
と言っても蒼司はさやかさんを慰めるために現れたのではありません。
さやかさんは律が描いた『母親から生えているひまわり畑』の光景が嫌いで、例のひまわり畑のひまわりをここ数日引き抜いていたのです。
それよってそのひまわり畑の中に作ってあった蒼司の秘密基地は壊されてしまった、と言う訳。
ですがさやかさんはそれどころではありません。
仕方ないなぁあ、と泣いているさやかさんに渡されたのはいくつかのアメ玉と1枚の紙切れ。
アメ玉はソーダの美味しいアメ。
紙切れは校内美術コンクールで金賞をとった絵『さびれた商店街』。
『金賞の人。上代蒼司くん?』
『あぁ、もしかしてお前が白河さやかか。もっと大人しいヤツかと思った』
どうやら蒼司は律のところに絵の勉強をしに来たようですが白河家はそれどことではありません。
そのまま帰ろうとした蒼司は「忘れ物だけ返しておく」とさやかさんに帽子を渡しました。
それは母親が被っていた帽子。
そうして蒼司は帰ろうとしますがさやかさんは蒼司と遊びたくなりました。
友達になってお話がしたい、と。
そしてそのきっかけ……2人には2人を繋ぐ糸があったのです。
『いっしょに絵を描きに行こう!』
ここで……さやかさんの語りが。
「さて、この物語を終える、長い長い48時間がはじまり、物語の語り手は、わたし−−白河さやかへと移ります」
「それは……本来の語り手である蒼司くんが、この物語の結末を見ることが出来なかったから……」
「今、この文章を書いている手も震えている。ぎこちなくて、汚い字が暗号みたいに並んでいる」
「実は、こんなものを書き残さなくても、わたしはこの夏の出来事をつぶさに思い出すことができます」
「今でもたまに、この夏の夜の夢を見ます」
「とても大切な人を手に入れて、とても大切な人を失った夏休みの夢を……」
「いつか、子供達に語って聞かせられればと思う」
「どこまでも果てのないひまわり畑」
「おっきな白い入道雲」
「塗り込められた風が、少し潮の香りを含んでいる」
「この夏休みが、ずっと続けばいいのに……」
「そう思えるような絵を、彼はこの夏に描いた」
な…………何事!?
蒼司は……死んでしまうのですか!?!?
せっかくさやかさんと結ばれて、多少なりともまともになってきたってのに……。
物語を終える長い長い48時間……この2日間で一体何があるのか……。
っつーかここまでの2日間も十分長かったです。
今日はかなり進んだな〜、なんて思ってたら2日分しか進んでないし。どーゆーこと?
ちょっと気合いれて会話書き過ぎたか……失敗。
次回で2章……終わるかなぁ? いや、多分無理。
それでは以下次回!!