2002.4.29 「完全制覇……!?」編
クライマックス!!(だと思う)
【2/13】
朝起きると雨が降っていました。
センパイがちょっと心配になる健二ですが結局は約束通り家で待つことに。
居間では雪希が猫と遊んでいました。
今日も進藤のところに行く、と言う雪希に朝ご飯を作ってもらって食べようとした時。
ピンポーン
センパイがやってきました。
雪希の案内で健二の部屋まで行っててもらって急いで食事。
雪希の口から『彼女』と言われて照れる健二でした。
雪希は進藤の家に行って、健二は自分の部屋へ。つまりセンパイのところへ。
雨の中わざわざ来てくれたセンパイをねぎらいつつ2人がいい雰囲気になりかけた時、雪希が部屋に駆け込んできました。
「お兄ちゃん…猫さんが…猫さんがいなくなっちゃったの…」
「…!」
過剰に反応するセンパイ。
「どうしたんだ? 麻美?」
「…な、なんでも…無いです」
「…?」
「お兄ちゃん、どうしよう…」
「それより雪希…濡れてるじゃないか?」
「お、お兄ちゃん…」
「ま、落ち着いて話せよ?」
「猫さんが私についてきたの…」
「それで?」
「一緒にお外に出ちゃって…」
「ほら、髪の毛を拭いて…」
「私…一生懸命探したんだけど…」
「……」
「泣くなよ…な?」
「お兄ちゃん…どうしよう…」
健二の差し出すタオルも目に入らないかのように肩を震わせて泣き出す雪希。
「俺が探してきてやるから…な?」
「お兄ちゃん…」
「だから、ほら、髪の毛を拭いて…」
「私も行く…」
「な! …そんなことしたら風邪引くぞ!」
「行くもん…」
「……」
「……」
こうなった雪希はもう聞きそうにありません。
健二は説得を諦めました。
「ごめん、麻美」
「……」
「ちょっと家で待っていてくれないか?」
「……」
「お兄ちゃん…」
「んじゃ、雪希は着替えてからついて来いよ?」
「う、うん」
自分の部屋へ戻っていった雪希。
部屋には健二とセンパイの2人。
「行ってくる」
「……」
「せっかく来てもらったのに…ごめんな」
「……」
「怒ってる?」
「怒って…ません」
「すぐに見つかるだろうからさ…」
「……」
「……」
無口になったまま俯くセンパイ。その理由は健二にはわかりません。
でも雪希を放っておくこともできません。
健二はセンパイを置いて雪希と猫を探しに出かけました。
雪希と二手に別れて探すも、猫には名前が無いので呼びかけることもできません。
(っつーかなんで名前が無いんだよ)
路地裏など探せるところは全部探しますが猫はいません。
健二は以前商店街でセンパイに野良猫が寄ってきたことを思い出し、商店街へと向かいました。
通行人に声をかけ、あらゆる店の裏を探しますが……猫を見つけることはできず。
そこに雪希がやってきました。
雪希も見つけることができないままで、2人は一旦家に戻ります。
ドアを開ける時、猫が自分に飛びついてくることを期待しながら健二はドアを開けますが……そこにはセンパイがいるだけ。
「……」
「猫さん…帰ってますか?」
「……いいえ」
健二は雨が弱くなったらセンパイを送って、その後も猫を探してくることを雪希に告げました。
自分も探すと言い出した雪希ですがそれを許さない健二。
「ごめん、麻美…」
「……」
「そういう訳だから…」
「…はい」
雨は1時間後には止んでいました。
嫌な沈黙に包まれた場の空気に耐え切れないように健二はセンパイを促して外へ。
「…今日はごめんな…」
「……」
「ほら、明日は一緒に写真を撮りにいくだろ?」
「……」
「それまでには猫も見つか…」
「…本当に…」
「ん?」
「…探しに行くの?」
「行くよ」
俯いたままのセンパイが呟きました。
「…猫なんて……帰ってきません」
風のざわめきに消えることなく健二に聞こえてきたセンパイの言葉。
「…見つかることなんて…」
「…麻美?」
「…絶対、無いです」
「どうして…」
「…絶対に無いんです!」
涙を流すセンパイ。
「そんなことは…ないだろ?」
「健二さんは…知らないだけです」
「知らないって…」
歩道の小さな街灯が点滅する中、センパイが語るセンパイの過去。
子供の頃の話。
雨上がりの公園。
公園のベンチの下から聞こえてきた小さな泣き声。
そこには小さな段ボールがありました。
駆け寄ったセンパイが段ボールから引っ張り出したのは雨に濡れた1匹の子猫。
子猫の姿に自分を重ねるセンパイ。
友達がいない自分。
友達に『のろま』だと言われ、いつしか1人になっていた自分。
ぺろっ
「…くすぐったい」
「にゃー」
「…ねえ、ねこさん…」
「にゃーにゃー」
「…一緒に遊んでくれる?」
それは雨上がりの公園で、センパイに最高の友達ができた瞬間。
母親に隠すように自分の部屋に猫を連れ込んだセンパイ。
「あ、そうだ…」
「…お名前…どしよ?」
「にゃーにゃー」
「…う〜ん」
少し温まってから日課の日記を書き始めたセンパイ。
いつもとは違う、そんな日記。
真っ白な紙に元気一杯の絵を付けて。
”だんだ、だんだ、だんだーん”
きょうも元気にしゅっぱつだー!
つよい、つよい、お姫さま
がんばれ、がんばれ、みーちゃんー!
(さあ、いくよ、みーちゃん)
(にゃー、あさみ姫にゃー!)
わたしたちは、むてきのふたり
”だんだ、だんだ、だんだーん”
いつもとは違う日記。
そんなとても楽しく書けた日記。
とても嬉しかったセンパイ。
初めて家に来てくれた友達が嬉しかった。
「…お名前…」
「にゃー」
「…みーちゃんだよ」
ぺろっ
「…あはは、くすぐった〜い」
ひとりぼっちが多かったセンパイ。
だからその時は寂しくないと思えた。
そんな日が続くと思っていた。
ずっとずっと2人で一緒にいられるんだと。
でも。
「…あ、お母さん…」
「麻美ちゃん…あら、どうしたの?」
見つからないようにお腹にみーちゃんを隠していたのに。
「ほら、どうしたのその猫?」
「え、えと…その…」
拾ってきたのか、と聞かれて違う、と答えるセンパイ。
友達なんだ、と。
そんな必死の言葉に耳を貸そうとしない母親。
みーちゃんはその夜のうちに父親によってどこかへ連れていかれてしまいました。
追いかけようにも母親に止められて部屋から出ることもできず。
「…お母さんのバカ…」
「…わたしの大切なお友達なのに…」
家の明かりが消える頃、みーちゃんを探しに家を抜け出ようとしたセンパイ。
しかしそんな行動すら母親に止められて。
それでもセンパイは何度も何度もお願いを。
「ふぅ…仕方ないな」
「明日、みーちゃんを迎えに行こうな?」
センパイの必死の様子にとうとう折れた両親。
早く朝が来ないか、と待つセンパイ。
翌朝。
父親を起こして朝の道へ。
いつもの公園にみーちゃんはいると信じて。
「…みーちゃ〜ん」
「…ねえ、どこ?」
まだ薄暗い中、さらには雨まで降り出した中、みーちゃんを探すセンパイ。
「どうだ、いたか?」
「………」
「どこに行ったんだろう…」
「あっ、そうだ」
きっとあそこなら、とセンパイは駆け出した。
それはセンパイとみーちゃんが初めて出会った場所。
「みーちゃ〜ん!」
「ねえ、どこー!」
自分でも驚くほど大きな声。
でも朝露に返ってくるのはそんな自分の声だけ。
「なあ、麻美…」
「……」
「また明日来ような?」
「…う…うん」
暗かった空が明るくなって、また暗くなった頃。
公園に霧のような雨が降り出しました。
「きっと見つかるさ」
「…うっ、うう…ぐすっ」
「な? …濡れると風邪引くからな?」
真っ白な息。
冷たい風。
揺れる銀の滴。
冬の冷たい空から降る、とても冷たい雨。
どこかでみーちゃんも泣いている気がして。
センパイも泣き続けたのでした……。
”だんだ、だんだ、だんだーん”
きょうも元気にしゅっぱつだー!
つよい、つよい、お姫さま
がんばれ、がんばれ、みーちゃーんー!
(さあ、いくよ、みーちゃん)
(にゃー、あさみ姫にゃー!)
わたしたちは、むてきのふたり
いつでもいっしょ、いつまでもいっしょ
むてきのふたり
”だんだ、だんだ、だんだーん”
そんなセンパイの昔の話。
再び降り出しそうな雨が閉ざされたセンパイの心にように感じる健二。
「…麻美?」
「…その話は一体?」
「…だから…」
「…猫なんて帰ってきません…」
「…帰ってきてくれるのなら…」
「…私は一人な筈ないです…」
小さな白い吐息を煙らせながら、ゆっくりと表情の無い笑いを浮かべるセンパイ。
「……」
健二の脳裏に浮かぶのはいつしかセンパイが抱えていた新しい日記帳。
それは今でも続く、物語を書くための日記なんだろうか、と健二は思います。
センパイが1人なんかじゃないと。そんな世界を書くための、それだけの日記。
さらに健二は思います。
いつかの野良猫。
それはみーちゃんの影。センパイが一緒にいられなかったみーちゃんの影。
野良猫が嫌いだとセンパイは言いました。
でもそれは猫が嫌いなのではなく。
本当は自分が嫌いなんだったんじゃないか、と。
「…猫は帰ってきません」
「なら見つけるまでだ」
「…見つかりもしません」
「そんなことは無い」
「…どうして?」
「…どうしてそんなことが言えるの?」
センパイの言葉に答えることが出来ない健二。
センパイが気付いたこと。
みーちゃんがいないってこと。
センパイが教えてくれたこと。
日記の中の物語。
そんなセンパイに健二が言えるのは、健二にまだ出来るのは……
「まだ諦めてないからだ」
「……」
「きっと見つかる」
「…わ、私も…」
「…諦めてなんか…いなかった」
「…今日は…帰ります」
「……」
「明日は写真を撮るんだろ?」
「……」
「遊園地だって行ってないだろ?」
「……」
「ちゃんと約束してるからな?」
「…帰ります」
ゆっくりと暗闇に消えていくセンパイの姿。
きっと見つかる。
そう信じて暗くなった道を蹴って走る健二。
センパイのモノローグ。
いつものように机に向かう。
それは毎日の日課で、センパイの物語。
開かれた日記帳にシャーペンを構えて、今日はどんなことを書こうかと少し考える。
「…今日は…何があったかな?」
いつもと同じように自分に語りかけながら、今日一日の出来事を思い返す。
「…お昼前には…」
「…チョコレートを買いにいったよね」
「…お昼過ぎたら…」
「…健二さんの、お家に…」
「…うん」
「…今日も楽しかった」
楽しかったことを思い返しつつ、真っ白な紙上にシャーペンが走る。
でもそこに書かれるのはセンパイの『物語』。
チョコレートの買い物はみーちゃんと一緒で。
健二の家に行ったらみーちゃんがヤキモチを焼いて。
そんな『物語』。
「……」
ふと、涙を流していたセンパイ。
消しゴムで日記を消す。
その上からさらに書き足す。
その日記をさらに消す。
さらに書き足す。
紙が真っ黒になっても、消しゴムで日記帳がぼろぼろなっても、センパイは書き直していく。
パキッ
シャーペンの芯が折れる音。
新しい芯を出して再び書き記していくセンパイ。
書きたいように。そして信じている通りに。
”だんだ、だんだ、だんだーん”
きょうも元気よくしゅっぱつだー!
いくぞ! 姫さま!
いくよ! みーちゃん!
さあ、健二さんも、いっしょに!
それはいつもの日記。
センパイだけの『物語』がぼろぼろになった紙に書かれていきます。
「……」
さらに涙を流すセンパイ。
それはちゃんと気付いていたから。
みーちゃんはもういないということに。
(にゃー、あさみ姫にゃー!)
(みーちゃんどうしたの?)
(なんだにゃー、そのくろいのは?)
(これはちょこれーとだよ、みーちゃん)
例え嘘だろうと、これがセンパイの信じたお話。
センパイだけの小さな絵本の物語。
「…うっ」
でも自分が1人じゃないと気付いた時、横にいたのは……健二。
(それはぼくにくれるのかにゃ?)
(ううん、健二さんだよ)
(やった、おれにくれるんだ!)
(にゃー! ぼくにもよこせよ健二!)
(はんぶんだけだぞ? みーちゃん)
(みんなでなかよくだよ)
もうすぐ街を出るセンパイ。
そうすれば何もかも元通り。
「…うっ、うう」
健二さんの声が聞こえる…
それはいつかの海で夢を聞いたときのこと…
きょうもむてきのわたしたち
みんなでなかよくぼうけんだー!
”だんだ、だんだ、だんだーん”
嘘なんて…私は偽りなんて…書いてない…
そして…もう一人にはなりたくないのに…
「…うっ、みーちゃん」
パキッ
シャーペンの芯が折れる音。
楽しく書いたはずの日記帳に吸い込まれていくセンパイの涙。
窓を開けると真っ暗な空に、吹き荒ぶ冬の冷たい風。
頭に浮かんでくるはあの朝のこと。
霧の雨に返ってきた自分の声。
父親と一緒に探した公園の小さなベンチ。公園の外。小さな横断歩道。
暗くなってきた冬空に車の停車音。
霞む目を擦りながら急いで帰ったあの日。
もう…そんなのは嫌だった…
なんつーか……センパイ、痛いです。
空想の世界に自分を反映させて生きてきたセンパイ。
子供の頃なら誰でもやりそうなことですが……センパイにはそれが『真実』だった……。
そんなセンパイを俺は笑うことができません。
ただただ、哀しくて。
そして価値観の違いか、それともセンパイのためにとでも思ったのか。
横暴な親の権力を駆使してみーちゃんを捨ててしまった両親に何とも言えない怒りが。
ずっとその時の悲しみがセンパイの心を覆っていたんですね……。
そしてそこから逃げるように、覆い隠すように空想の世界を作り出していた……。
哀しい……哀しすぎますよ、センパイ!!!
一方健二。
あれからずっと探し続けていましたが……猫は見つからないまま。
全身から湯気が立ち上るほど必死に探し続けたにも関わらず。
その時。
誰かが水溜りに踏み込む音が健二の耳に届きました。
『…あの…』
それはセンパイでした。
「…麻美?」
「……」
濡れた髪をゆっくりと揺らしながら、息を切らせたセンパイが健二の目の前に。
「来てくれたのか…」
「…みーちゃん…」
「……」
「…見つかりましたか?」
「いや…まだだ…」
『みーちゃん』と聞いて一瞬何のことだと思った後、それが猫のことだと理解して軽く首を降る健二。
「…少し……お手伝いします」
「…え?」
「…見つかると…いいですね?」
「麻美…」
さっき別れたときと同じように健二を見ようとはしないセンパイ。
「ありがとう…」
「…いいえ」
それでも健二は嬉しかったのでしょう。
健二はこれで見つかりそうな気がするのでした。
きっと見つかる。
そう信じて猫を探し続ける2人。
二手に別れて深夜まで探し続けた健二とセンパイですが猫の姿はありませんでした。
「…やっぱり…」
「いや、きっと見つかる」
「……」
泥だらけになっても探し続ける健二に向かってセンパイがついに口にした言葉。
「…諦めて帰りましょう」
「まだ見つかってない」
「…もう…見つかりません」
「そんなことは…」
「…あの時も…そうでした」
「……」
本当にセンパイの言う通りにいないのかもしれない。
健二の疲れた体はそう言っています。
でも。
けれどそれじゃ…
何にもならないじゃないか?
センパイが健二に「猫は見つからない」と言う理由……それは見つかるのが怖いんじゃないか、なんてふと俺は思いました。
ここで猫が見つかったら自分とみーちゃんの絆、そしてみーちゃんを見つけられなかった自分も否定されそうで。
ま、これは勝手な俺の推測ですが。
「きっと見つかるよ」
「…そうでしょうか?」
「今日が駄目なら…明日も探す」
「………」
「それでも駄目なら、明後日も…」
「…一緒です」
「なに?」
「…その言葉もあの時と一緒…」
「…父が言った言葉」
ぎゅっと手を握り締める健二。
他に言う言葉が見つからないのが悔しくて。
そしてセンパイの表情を、その顔を真っ直ぐに見てやることができなくて。
「…もう…」
「…もう、嫌」
「…麻美」
「…もうたくさんです」
雨とも、涙とも言えないような滴が流れ落ちるセンパイの頬。
「…どうして…」
「…どうしていれくれないの?」
「……」
「…初めてのお友達だった」
「…一人で遊んでいた公園で…」
「……」
「…初めて出来たお友達だったの!」
「麻美…」
「…どうして…」
「…また私一人になったの?」
手を伸ばしたいのに動かない健二の腕。
目の前で泣くセンパイを抱きしめることも出来ず、何か言ってあげることさえも出来ず。
「……」
「……」
「…もう…帰ります」
「…ごめんなさい」
「ま、まてっ!」
「えっ…」
「ま、まだ見てない場所がある」
それは雨上がりの公園の小さなベンチの下。
……最初に行きそうな気もしますが。
次第に明るくなってくる空。
泥だらけになりながら公園の茂みをかき分ける2人。
しびれ始めた指先も気にせず、懸命に探し回る。
目を凝らし、耳を澄まし、疲れきった体を奮い立たせて。
そして、いくつものベンチを見て回った時……
(にゃー)
「あっ…」
センパイの腕に、胸に抱かれた子猫。
「…私…私…」
「ほら、泣き止めよ?」
「…う、うん」
センパイの腕の中で鳴く子猫ごと抱きしめる健二。
「ちっ、手間かけさせやがって…」
センパイの指を舐める子猫。
「…くすぐったい…」
「にゃー」
「…みーちゃん」
「にゃーにゃー」
「そいつ…麻美に構ってもらいたいんだぜ?」
「…え?」
「そんな顔してる」
そっと子猫の頭を撫でる健二。
そしてセンパイの腕の中で気持ち良さそうに目を細める子猫。
「な?」
「…う、ううっ」
「もう麻美は一人じゃないぜ?」
「にゃー」
「…うっ、ぐすっ」
朝の霞みが次第に明けてくる…
そんなベンチの脇に雨に濡れた二人と一匹。
ゆっくりとした時間が流れてゆく…
「俺とコイツはずっと…」
「にゃーにゃー」
「麻美の側にいるから…」
「…ぐすっ」
「それじゃ駄目かな?」
「…私…私…」
「ほら、泣き止めよ?」
「…う、うん」
「にゃー」
雲が流れて空が晴れてゆく…
そんな空から朝日がゆっくりと差し込む。
猫を見つけたベンチ前の水溜り…
そこから空からの陽が反射する。
「今日は写真撮りに行くんだからな?」
「…駄目です」
「どうして?」
遠いところの空を映して水溜りが光っていた。
そしてベンチから落ちる滴に柔らかな波紋…
「…だって…」
「ん?」
「…今日も…服…破れてます」
そこに揺れる空と、俺の破れたズボンが淡く映っていた…
もう冬も終わりを告げる暖かさを感じ始める頃。
気の早い桜がつぼみを付け始める中、腕に子猫を抱えて軽い足取りで走り出す健二。
「しかし…良い天気だぜ」
「にゃー」
ガジガジ
「おいてめぇ…袖をかじるな!」
「にゃー」
ガジガジ
「…ったく」
健二が向かうのは公園。
「…こんにちは」
「ふぅ…到着」
「…今日は良い天気です」
「俺は毛皮が熱いぞ?」
ガジガジ
「こら、てめぇ」
「…クスッ」
公園に吹く緩やかな風が柔らかくセンパイの髪を揺らします。
「麻美…この街を出なくてよかったな?」
「…はい」
「よく許してくれたな?」
「…私が…」
「ん?」
「…駄々をこねましたから」
「悪い子だな?」
「…悪い子…ですか?」
「悪い子」
「めっ」
(しゅん)
「だから麻美には罰を与える」
「…どんな罰ですか?」
「…聞きたいか?」
「…はい」
「コレが罰」
不安げなセンパイに手渡されたもの。それは……
「…くすぐったいです」
「にゃー」
「気に入ってくれたか?」
「…はい」
暢気(のんき)にじゃれついてくる猫を、目を細めながら優しく撫でるセンパイ。
「こいつも麻美のことが気に入ったみたいだな…」
「…でも…」
「ん?」
「…いいのですか?」
「心配するな、妹と決めたことだ」
「…はい」
それについでだから、と健二。
「そいつの名前を決めてやってくれよ」
「は、はい」
”だんだ、だんだ、だんだーん”
きょうも元気よくしゅっぱつだー!
つよい、つよい、健二さん
げんきいっぱいのお姫さま
きょうからいっしょのみーちゃん
(さあ、いくよ、みーちゃん)
(にゃー、あさみ姫にゃー!)
(健二さんも、いっしょに、にゃー)
(おれが、ふたりをまもってやるぞ!)
わたしたちは、むてきのさんにん
いつでもいっしょ、いつまでもいっしょ
むてきのさんにん
”だんだ、だんだ、だんだーん”
春の息吹と共に新しい季節がやってくる…
それは新しい出会いの季節…
雨上がりの絵本はそっと小さい頃の思い出…
柔らかい風と共にパタンと静かに閉じていた。
私はきっと笑ってゆける。
腕の中の温もりと、ずっと横で見守ってくれる人。
私の大切な…暖かさに包まれて…
と言う訳で……
センパイシナリオクリアー!! ぱちぱちぱち。
ちょっと気合入ってました。
その分セリフ書き取りもいつもの3割増しです。
いや〜、センパイ最高です!!
もうLOVEです、LOVE。
あっ、日和は『超LOVE』です。
それはさておき。
このセンパイシナリオ、プレイなさった方はどう思われたんでしょうか?
子供の頃『みーちゃん』と離れ離れになってしまったセンパイの心の傷。
それはセンパイは大きくなっても消えないままでした。
友達ができないままだったのもそれが関係無い訳ではないと思います。
『みーちゃん』を失って以来、ずっと自分だけの空想の世界に生きてきた先輩。
そこに現れたのが健二でした。
健二と出会い、友達になって、そこからさらに新しい友達も出来て、ついには健二を結ばれた後になっても消えなかった傷。
その傷を癒したのは健二でもなければ、子猫でもありません。
それはきっとセンパイ自身。
思えば子猫を探す健二の手伝いをセンパイが自分から言い出した時、その傷は癒えていたのではないでしょうか。
その後見つかることが出来なかった時に弱気になってしまったのは、治ったばかりの傷のカサブタが剥がれそうになってしまっただけで。
もう『子猫=みーちゃん』を探すのを諦めていたセンパイにとっては限りなく大きな一歩だったことでしょう。
そしてもう1つ。
センパイの中の空想の世界。
『みーちゃん』を失って以来、センパイの中で築き上げられてきたその世界は全て自分にとって都合のいい世界でした。
その世界を抜け出すことができたのもやはり「傷」が癒えたから。
いや、『癒えた』と言うより『乗り越えた』と言った方がいいですね。
子猫を見つけた時、初めてその傷は『癒えた』のでしょう。
エンディングでもセンパイの『空想の世界』は出てきました。
でもそれはもうセンパイの逃避場所ではなく、れっきとした現実の世界。
それでいていつまでもなくなることの無い、センパイが望んでやまなかった世界です。
もう1度聞きます。
このセンパイシナリオ、プレイなさった方はどう思われたんでしょうか?
私はかなり好きです。
主題は「健二とのLOVE」……かと言うとそうでもありません。
確かに前半はそこに重点が置かれていました。
しかし、後半はセンパイが過去の傷を乗り越えることに重点が……と言うより『全て』でした。
健二とのLOVEに重点が置かれていなかったと言う意味では『清香シナリオ』と同じかもしれません。
『清香シナリオ』は嫌いではないのですが、それほどのめりこむことができませんでした……が。
この『センパイシナリオ』はかなり感情移入しちゃったんですよ。
どうして? と言われても困るのですが、とにかくそうなんです。
猫を探す健二と別れた後、自室で日記を書くセンパイの姿には目頭が熱くなりました。
それにしても。
子猫に名前が無いままだったのは『みーちゃん』としての役目をまっとうするためだったんですね。
ヘタに名前があったら、センパイが『みーちゃん』として扱うことができなかったかもしれませんから。
最終的にセンパイが飼うことになった子猫ですが、おそらくは『みーちゃん』と名付けられたんだと思います。
実は俺はそこが不満。
確かにセンパイはいなくなった子猫に『みーちゃん』を重ねて探していたんだと思います。
でも昔の傷が完全に癒えたセンパイには『みーちゃん』としてではなく、新しい自分の『友達』として子猫を扱ってほしかった、と言うのが俺の正直なところです。
さて。
これで全員クリアしたので…………アレを。
そう、『ねこ缶』です。
全員クリアまで封印を解かないでおいた『ねこ缶』を開ける時がついに来たのです!!
それでは……。
アブラカタブラ!!
開けゴマ!!!
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
わはははははは。
なるほど、こりゃションボリだわ。
でも面白い。面白いです。さすが「ねこねこソフト」さん。
『ねこ缶』を開けずにおいて中身を想像して楽しんでいる方がいらっしゃるかもしれないので、あえて中身は言いませんが。
それにしても「ねこねこ」さんってかなり遊び心がありますよね。
かつユーザーに優しいと言う、ゲームソフトメーカーの鑑のようなメーカーさんです。
他の会社の方々にも見習って欲しいものです。
そして全てをクリアした今。
改めてオープニングを見てみると何やら胸にこみ上げてくるものがあります。
こうして見ると本編がかなり凝縮されているようなオープニングです。
コーヒーカップで回る健二と日和。
健二にすがりつく雪希。
雨の中立ちすくむ清香。
海岸で線香花火に火をつける進藤。
雨上がりの公園のセンパイ。
これだけで涙がこみ上げてきそうです。
1つわからないのは海岸でドラゴン花火(と思われる)を寂しげに見つめる進藤。
そんなシーンありましたっけ?
特に雨に濡れているようにも見えないのであれは進藤が1人であーゆーことをやっていた、と言う解釈で……いいのかな?
ま、いいんです。
なにはともあれ…………。
これで…………。
「みずいろ」完全制覇です!!!!
わー、ぱちぱちぱちぱちぱち
長かった。
そしてそれ以上に「良かった」。
満足です。
俺は心から満足です。
こんな素晴らしいキャラ達に出会えて……。
こんな素晴らしい作品に出会えて……。
…………が、しかし。
俺の戦いはまだ終わっていません。
そう…………。
DC版。
DC版です。
これをプレイして初めて「みずいろ」を制覇した、と言えるでしょう。
「みずいろ」プレイ日記はまだ続きます!!
以下次回!!