2002.4.21 「進藤さん……」編


クライマックス近し!!(だと思う)

 

【2/12】

雪希は合宿の準備で朝から大忙し。

何を持っていくのかと思ったらトランプなんかを探してます。

どうやら合宿とは名ばかりのお泊り会なんだそうです。

そもそも1泊2日で『合宿』って言うのか?

 

雪希が合宿へと出かけていった後。

進藤さんがやってくるので何か一緒に遊べる物を探す健二。

押入れを漁ってもなかなか使えるものは出てきません。

その中でも子供用プールが出てきて「使えねーな」と健二がぼやいているのはなかなか芸コマですね。

結局出てきたのは特撮ヒーローのトランプとオセロ。

ピンポーン

「来た!」

玄関には制服姿の進藤さんが。

朝方に委員会の用事があったんだとか。

そもそも委員会って何?

 

健二の部屋にて。

何をやっていたのかわかりませんが、時刻はもう夕方に。

今日は遅くても大丈夫、と言う進藤さんの言葉に思わず唾を飲み込む健二。

話題を変える為に居間までTVを見に行く2人。

特に何かをしゃべるでもなく、ただ穏やかに過ぎていく時間。

健二の脳裏に浮かんでくるのは進藤さんと過してきた思い出の数々。

そうだな…俺はもしかしたら、あの時から…

もう会えないって言われた日からずっと…

「……」

「……」

時計を見る回数が増えてきた進藤さん。

そんな姿を横目で少しだけ確かめた健二は思いました。

意識することも無いのかもしれない。

自然に流れていくのが一番なんだ、と。

「…駅まで送るよ」

「先輩?」

「そんなに遅い時間でもないし」

「……」

「家に帰るなら良い時間だと思う…」

「……は、はい…」

顔を伏せるように頷く進藤さん。

そして健二がドアノブに手をかけてゆっくりと回そうとした時……

くいっ…

「……え?」

ぎゅっと裾を持たれて引っ張られる感触に、健二はノブから手を離しました。

「……」

「……」

「先輩…」

やがて決意したように。

「…先輩と一緒にいたいです」

「……」

「先輩は…嫌…ですか?」

「そんなわけ…ないだろ」

 

健二の部屋。

 

2人はHに突入……。

 

お互いを信頼して。

 

愛し合って。

 

そして結ばれる……。

 

 

……はずでした。

 

 

「先輩…好きです」

「俺もだよ…」

「私は…先輩の事が好き…先輩は私のこと…好き?」

「ああ、もちろんじゃないか…」

 

『むつきちゃん…』

 

「…むつきちゃん?」

「ああ、愛してるよ…むつきちゃん」

「…むつき…」

「どうしたんだ、むつきちゃん?」

「…むつき、むつき、むつき」

 

 

『…むつきちゃん…』

 

 

子供の頃の『あの日』。

海の風に乱れた髪を整えた。

泣いた涙を袖でごしごし擦った。

分からないように。

自分が行ったことが分からないように。

途中で降り出した雨に泣いた顔を誤魔化すように。

そうして家に入って行く。

何事も無かったような振りをして。

『あれ? お帰りなさい』

『ただいま、お姉ちゃん』

『どこか行ってたの?』

『ちょっと、友達と遊んできたの〜』

こんな事、言いたくなかった。

元気良くなんてしていたくなかった。

『今日は残念だったね』

『うん? お姉ちゃんは何が残念なの?』

『あの、元気な男の子に会えなかったの』

『あんな奴は会わなくてもいいんだよ〜だ』

『また、そんなこと言って…』

元気だけが取り柄だった。

そう思い込んでいたかった。

部屋に戻った時。

いっぱい涙が溢れてきたあの日……。

 

「や、やめてっ!」

 

「えっ?」

勢いよく健二を跳ね除けた進藤さんの腕。

一瞬何が起こったのか理解できなかった健二。

「うっ…ううっ…」

暗い部屋の中、ただ目の前に浮かび上がるのは涙を流した進藤さんの姿。

「ううっ、ひっく、うっ…」

「ど、どうしたんだ?」

「駄目…駄目なんです…」

「駄目って…」

進藤さんの目から流れ落ちる滴が頬を伝ってシーツに染み込んでいく……。

「どうしたんだよ、むつきちゃん?」

「うっ、うう…」

「もし良かったら話し…」

「駄目!」

「えっ…」

「…私は先輩の事が好き」

「お、俺だってむつきちゃんの事が…」

そこまで言いかけた健二の顔を見つめる進藤さんの濡れた瞳。

「うっ、うう…」

遠い日に出会い、恋し、そして別れて……またこうして出会えたのに。

そんな想いが健二の頭をよぎります。

「…むつきちゃん」

「…ゴメンなさい」

そっと伸ばした健二を手を跳ね除けるように。

そして健二の存在さえも否定するかのように。

進藤さんは泣き続けるのでした……。

 

あうぅぅぅ…………。

ついに……ついに『糸』が切れちゃいましたね。

進藤さんは健二を否定したのではなく、自分を否定したのかも。

健二を騙し続けてきた自分に耐え切れなくなり、そして『むつき』として愛されることにも……。

健二……お前、ここぞとばかりに名前呼び過ぎ。

気持ちはわかるし、悪気なんて微塵も無いのもわかってるけど……『むつき』と呼ばれるたびに進藤さんの心は痛んだことでしょう……。

はうぅぅぅ……。

 

「何故…だろう…」

進藤さんを駅まで送り、帰ってきた健二。

泣き続けた進藤さんに何も出来ず、何も言えなかった自分をただただ責める健二でした。

床を強く叩き付け、側にあったトランプを投げ飛ばし、オセロの盤を壁に叩き付け……。

「くそっ…」

進藤さんが座っていた辺りを撫でてみる健二。

柔らかい温もりが残っているような感覚。

暗い部屋には温もりなんてある筈も無いのに。

 

【2/16】

夜からずっと考え続け……それでも何の答えも見つからないまま日は高く上っていました。

「……」

どうしたらいいのか。

何が原因でこうなってしまったのか。

その時、玄関から帰ってきた雪希の声が。

それを聞いて健二はまだやっていないことがあることに気付きました。

一気に階段を駆け下りて雪希のいる居間へと飛び込む健二。

「あ、お兄ちゃ…」

思わず健二の様子に言葉を切る雪希。

「ど、どうしたの?」

「そんな事はどうでもいいんだっ」

「え? でも…」

「雪希! 番号…電話番号を教えてくれっ!」

「え? お、お兄ちゃん?」

「早くっ! 頼む…」

「ば、番号って…」

「むつきちゃんに決まってるだろ」

「…むつき?」

「ああ、頼む…」

「え、えと…」

考え込む雪希。

「むつき?」

 

「そ、それ、誰だっけ?」

 

「だ、誰って進藤さんに決まってるだろ!?」

「えっ?」

「何だったらクラス名簿でもいいよ、頼む貸してくれよ?」

「う、うん…」

ちょっと待っててね、と雪希は名簿を取りに行きました。

あんなままで、さよならなんてありかよ…

どうしても聞いておきたい…

きっと話さえできれば、すぐに笑い話にできる筈だ、と健二。

自分は『むつきちゃん』が好きで、『むつきちゃん』も自分を好きだって言ってくれて。

お互いに好き合っているのに。

問題なんてどこにもないのに。

そう信じている健二。

「お兄ちゃん…これ…」

「悪い…」

「う、ううん、だけど…」

「まあいい、ちょっと借りるぜ」

健二はそのまま電話口に立って名簿をめくります。

「進藤…進藤…」

そうやって指先を下ろしていくと……

「あった!」

すぐにその番号に電話をかける健二。

『はい、進藤です』

「あ、すいません片瀬と言いますが…」

『はい』

「あの…むつきさん、お願いできますか?」

『はい?』

「む、むつきさん…」

『え〜と、片瀬…さんと仰いましたか?』

「はい、そうです」

早くむつきちゃんを出してくれ、声を聞かせてくれ、と心の中で願う健二。

でも……。

『あの子は…むつきは居ませんけど…』

「で、では、どこに行っ…」

『どこにと言われても…』

 

『むつきは全寮制の学校なんですけど?』

 

「…え?」

『それに、当分、帰ってくる予定もありませんよ?』

 

『どう言ったご用件な…』

ツーツーツー

「そ、そんな…馬鹿なことって…」

 

健二の部屋。

「嘘だろ…」

「冗談だろ…」

そんな言葉も虚しく宙を舞って、冷たい壁に吸い込まれるばかり。

昨日までここにいたのに。

一緒に話をして。

ゆっくりとした時間を過して。

「なんだよ…俺は誰と会ってたんだよ…」

『あの時』と変わらない。

今度は言葉も無いままで……。

 

『…おとなしい子が好き?』

進藤さんの部屋。

思い返すのは、とても寒くて風が強かったあの日のこと。

(ダメみたいだな?)

「そ、そんなことないよっ」

(やっぱり無理なんじゃねーか)

「あっ、ちょっと待って…」

シュッ…シュッ…

いくらやっても火がつきそうにないしけった花火。

それでも親指に力を入れて、座り込みながら頑張った自分。

何回繰り返したか分からなくなっても。

それでも一生懸命に頑張った。

花火が見たかったのか。

それとも違った意味があったのかは分からない。

シュッ…

「わ、ついた」

導火線の火花を散らして、勢いよく夜空に上がるドラゴン。

「健二、火がついた! ほら、火がついたよっ!」

そう言いながら健二の方を見ると……

「ははは、きれいだな」

「うん、線香花火きれいだね」

「よかったな、むつきちゃん」

「うん!」

 

「健二…」

「花火…綺麗だよ…」

見つめる先には2人に囲まれた小さな光。

聞こえてくるのは潮風に乗った楽しそうな声。

大きな花火をつけたのに……

みんなで楽しもうって思って……

けれどそんなことは無くて……

「みんな…」

「楽しそうだね…」

いつまでも消えそうに無い花火。

それをずっと立ち尽くしたまま寒い砂浜で眺めていたあの日。

 

そんな小さな頃の思い出を、たくさん思い返す進藤さん。

「お姉ちゃんみたいになれたらな…」

後ろの光が途切れて、向こうに見える小さな花火がうらやましかった。

砂浜を白く照らしてくれた花火。

凄く綺麗だったのに。

…先輩にはお姉ちゃんしか見えてなかった。

今は誰を見ていてくれるのか。

そんな小さな呟きを言葉にすることが出来ない。

それを言ってしまったら全部壊れてしまいそうだから。

でも本当はもう全部壊れてしまっているのかもしれない。

風邪を引いた姉が海に行かれなかったあの日から。

姉の服を着て、赤いリボンを髪に巻いて。

ほんのちょっとだけお姉ちゃんの真似をしてみたかった、と進藤さん。

それは健二と仲良くする姉が羨ましかったのかもしれない。

ただ自分の相手だって少しはして欲しかっただけなのかもしれない。

 

『私のこと好き?』

『大人しい子の方が好き?』

『キスして…』

健二と初めてキスをした日。

冷たい潮風が届けてくれた温もり。

でもそれは偽りの温かさ。

それは自分にしてくれたキスではなく、姉の振りをした自分にしてくれたものだから。

それに気付いた時……

『さようなら…』

ただそれだけを言って別れた。

締め付ける胸の痛みが取れなかった。

目を霞ませて走った海沿いの道。

帰ってきた自分を迎えてくれた姉。

男の子に会いたかったね、と残念そうにしていた顔が痛かった。

 

『もう、会えないんだって…』

 

そう姉に告げた時。

 

…心の中で…泣いた。

 

嘘をついた過去の思い出。

そして今も健二を騙し続けている。

赤いリボンをつけて。

そんなつもりじゃなかったのに…

そんなつもりじゃ…

涙が止まらない進藤さん。

ただ自分を見て欲しかった。

元気が取り柄だったあの頃の。

本当の自分を見て欲しかった……。

 

『もう一度、あの時のように…』

 

 

すいません。

キャラ毎のセリフの色が非常に分かりづらくなってしまいました。

基本的にはむつきってやり始めたのですが、妹が「むつき」として出てきたので混乱を招いてしまったのです(俺の中で)。

回想シーンでは上記の色分けのままとなっております。

妹が姉(むつき)の振りをしているシーンではむつきの色を使用しました。

キャラとしては妹なんですが、一応『むつき』と言うことになっておりますので。

そしてそれは現代編でも同じです。

登場するのは妹なんですが、健二の視点からすると『むつき』だったので色はむつき色です。

今さら妹の色に戻すとさらに混乱を招きますのでこのままでやらせて頂きます。

もう『むつき』は出てこないだろうし。

 

 

「…冬の花火?」

遊園地でデートした帰りに、駅で進藤さんが言っていたことを思い出した健二。

 

『前に見た冬の花火…綺麗でした』

『白い夜の砂浜に舞いあがった光が綺麗でした』

 

そんな言葉に子供の頃の風景が重なってきました。

3人で遊んでいた日のことが。

「…まさか」

自分とむつきがやっていたのは線香花火。

そしてその小さな光を消すかのように後ろから聞こえてきた音と大きな光。

「あの時の…」

『トゥルルルル…ッ』

『トゥルルルル…ッ』

階下から聞こえてきた電話の音に部屋を駆け出す健二。

違うかも知れないし、そんなことある訳ないと思いつつ。

けれど…

「も、もしもし…」

『……』

「俺だ、健二だ…声を聞かせてくれよ?」

『うっ、うう…』

『ご、ごめんなさい…』

「どこにいるんだ?」

「今から行く…」

『うっ、うう…』

「泣いてたら分からないだろ?」

『は、花火…してるんです…ぐすっ』

「…花火?」

『……』

「わかった」

それだけを言った健二。

それで充分だと思ったから。

 

「ハァッ…ハッ…」

雨の降りしきる夜、点滅しる電灯の下を健二は走り続ける。

泣いている…

きっとあそこで独りなんだ…

 

「どこだよ…」

どこにいるんだよ…、と雨の海岸を見渡す健二。

すると薄暗い視界の中に入ってきたのは小さな光。

「……」

そこには砂浜にしゃがみこみながら、線香花火を持った制服姿の進藤さんの姿が。

「ううっ…ぐすっ」

「風邪引くぞ…」

「花火…火がつかないの…」

「しけってるんだろう…」

「ぐすっ…一生懸命…つけてるのにな…」

「風も強いからな」

貸してみろよ、と健二。

「……」

1つ線香花火を受け取って、悴む指でライターを擦る健二。

数回点滅させてからやっとの思いで導火線に点火させても、瞬時に雨に負けてしぼんでしまう……。

「も、もう一回チャンスくれ」

「うっ…ぐすっ…」

もう涙なのか雨なのかも分からないような進藤さんの表情。

そんな表情を見て健二は必死に指を動かし続ける。

「つけよ…ついてくれよ…」

「…先輩」

「今、つくからさ…待っていてくれよ?」

白い息が雨に掻き消されていく中、何度も何度も。

シュッ…シュッ…

聞こえるのは小さなライターを擦る音だけ。

もう、これだけしか願うことも無いような気がした健二。

「つ、ついたぜ」

「……」

雨から線香花火を覆い隠すように、少しだけ腫れた手をかざす。

そこに浮かび上がる進藤さんの表情……。

線香花火はパチパチと音を立てて、一瞬だけ大きく光って。

「消えちゃったな…」

「……」

「んじゃ、もう一度だ」

さっきと同じようにライターを擦り、再び線香花火に火をつける。

シュッ…シュッ…

「先輩…」

「ああ…」

健二の手に添えられる小さな手。

ちょっと暖かくて。ちょっと冷たくて。

 

やがて小さな導火線に火がつく頃。

2人はひとつの火を見守りながら、雨の中で寄り添っていました。

 

「ついたぜ…」

涙を流す進藤さんの手元で光る淡い火。

「うっ…ううっ…」

「花火は楽しむもんだろ?」

そっと手を伸ばして濡れた頭をポンポンと柔らかく撫で、そして握り締められる。

「……っ」

「怪我…」

「さっき転んだ…」

「……」

「え?」

健二の手に当てられた暖かい唇。

昔に味わったような小さな暖かさと共に。

「ううっ…ぐすっ」

「せ、先輩…」

「うん?」

「ご、ごめんなさい…」

「ほら、泣くなよ?」

「だって…だって…」

「……」

「先輩が…」

「先輩が見てくれてるのは…」

「私じゃない…」

「離れるのが怖かったんです…」

2人を照らしていた小さな線香花火が消える。

暗くなった砂浜に聞こえてくるのは波の音と……小さな泣き声。

「謝るのは俺だな…」

「せ、先輩は…」

「ごめんな」

「……」

「でも…見ていたいのは…」

握られていた手を悴んだ手で握り返す健二。

ほとんど力は入らなくても、背一杯の力で。

そして確かに返された温もり。

 

「せ、先輩…」

 

「ほら、また明日も遊びに行くだろ?」

 

「……」

 

「元気に飛び跳ねようぜ?」

 

「元気なのが取り柄なんだから」

 

「はいっ」

 

 

そっと抱きとめる小さくて細い体…

 

ちょっとだけ雨に濡れた髪から良い香りがした…

 

あの頃とは違って心地良い…

 

俺の腕の中には元気一杯の笑顔…

 

ちょびっとだけ泣き笑いのいつもの笑顔があった…

 

 

 

窓からの暖かな陽射し。

部屋の陽だまりには目を細くして嬉しそうに笑う進藤さんの笑顔。

「はい、先輩」

「で、これはなんだ?」

「えと、バレンタインです」

「……」

「どうかしましたか?」

「何日前だったかなって…」

「…うっ」

「いや〜、嬉しいよ、うん」

何も変わらないようでいて、少しずつの変化が楽しめるような毎日。

「せ、先輩のいじわる」

「嬉しいって言ったぜ? それとも俺から取り上げるのか?」

「そ、そんなこと…無いです」

「さて、中身はっと…」

「ど、どきどきします」

「……」

「せ、先輩?」

どきどきするのは普通もらった自分ではないか、と健二。

「と、とりあえず開けてみる…」

「はい」

ガサゴソ…

小さな紙包みから広がる香ばしい香り。

「クッキーか?」

「は、はい…お、お姉ちゃんに教わりました」

「ちょびっとだけ焦げてるな?」

「あ、えと…その…」

「ありがとな」

(…照っ)

「んじゃ、頂きます」

「は、はい、どうぞ」

カリッ

「……」

「ど、どうでしょうか?」

「カリッとした歯ごたえが何とも…」

「あ、お味の方は…」

「程よく塩分が効いていて良い感じだぜ?」

「わぁ〜、良かったです〜」

「良かった…ぞ」

「あ、あの、先輩…」

「どした?」

「う、嬉しいです…」

子供の頃食べたクッキーとはだいぶ味の違うクッキー。

それでもあの頃より何倍も嬉しい健二。

「あ、そうだ」

「?」

「明日は公園でも行かないか?」

「公園ですか?」

「お礼も兼ねてさ」

「あ、はい、嬉しいです」

「んじゃ、待ち合わせは…」

「いつものところです」

「そゆこと」

「はい」

目を細めた嬉しそうな笑顔。

「明日も楽しみだな?」

「はい」

 

 

翌日。

公園にて。

「暖かくなりましたね」

「まだ、二月も抜けてないけどな」

「でも、先輩」

「ん?」

「暖かいのは先輩がいるからですよ」

「はいはい」

「あ、いじわるです」

「おいおい」

ゆっくりと歩く公園の中。

健二のポケットには小さな紙包みがありました。

『それ』を渡すタイミングを計っていた健二。

「先輩?」

「うん?」

「さっきからきょろきょろしてませんか?」

「そんなことないぞ?」

(じぃー)

(じぃー)

「み、見つめ返さないでください」

「いや、目を合わせたいのかなって」

「そ、それは…えと…あの…」

「嫌だったか…」

「あ、あの、違くて…その…」

恥ずかしそうに小さく俯いてしまった進藤さん。

でも離れぬように掴んだ裾までが2人の距離。

そして健二はポケットに手を入れて……

「あのさ…」

「は、はい」

「ちょびっと早いんだけど…」

「?」

「ホワイトデーいらない?」

「え?」

「昨日のお返し…」

「え、えと…う、嬉しいです」

「ちょびっと目をつぶってくれるか?」

「あ、はい」

「……」

「どきどき」

赤い顔をして、相変わらず嬉しそうに笑っている進藤さん。

「ちょっと俺の話を聞いてくれよ?」

「は、はい」

「目は閉じたままだぜ?」

「わ、分かりました」

 

ポケットから紙包みを出す音を消すために少しだけ大きな声で話し出す健二。

 

風に揺れる進藤さんの赤いリボンをそっと片手で外す……

 

「え?」

 

「せ、先輩?」

 

「リボン…」

 

「それじゃ…駄目かな?」

 

「赤いリボンは俺が違う人に贈ったんだ」

 

「……」

 

「受け取ってくれると嬉しい」

 

「はい」

 

「嬉しいです」

 

「そっか…良かった」

 

リボンの取れた髪が小さな風に柔らかそうに揺れていた。

 

そんな髪を両手で添えて。

 

そっと健二が贈ったリボンで括る。

 

「先輩…」

 

柔らかそうな髪を括る水色のリボン。

 

「うん、似合うぜ」

 

「ありがとうございます」

 

「ま、大したことしてないけどな」

 

今までに見たことが無いくらい、最高に目を細めた笑顔がそこに。

 

「ずっと大切にします」

 

「ありがとう、むつ…」

 

 

「あ…」

 

 

「?」

 

 

「俺、名前聞いてなかったな?」

 

 

「くすっ…」

 

 

「教えてくれると嬉しい…」

 

 

 

 

「えっと…」

 

 

 

 

 

と言う訳で進藤さんシナリオクリアー!! ぱちぱちぱち。

 

一言で言えば『良かった』です。

健二が離れてしまうことを恐れて、本当のことを言い出せない進藤さんの葛藤が伝わってきました。

非常に切ない気持ちにならせて頂きました。

 

雨の海岸で独り、線香花火に火をつけようとしていた進藤さん。

それはあくまで『むつき』としてでも健二から離れたくないと言う気持ちの現われでしょう。

それに対する健二の答えは『元気なのが取り柄なんだから』

自分が見ていたのは『むつき』ではなく君なんだ、と言う健二の気持ちが感じられます。

そして進藤さんが姉に教わって作ったというクッキー。

それは進藤さんの姉に対するコンプレックスが消えたことを示しているのだと思います。

 

エンディングで進藤さんに贈られたリボン。

その色は白っぽかったのですが俺はあくまで水色だと主張させて頂きます。

赤いリボンは『むつき』に贈られたもの。

そして改めて進藤さんに贈られた水色のリボン。

それは健二なりのケジメだったと同時に、『むつき』として見ていたことからの脱却でもあったのではないでしょうか。

改めて進藤さんを見つめ続けることへの儀式のようなもので。

 

それにしても子供の頃、健二に『もう会えない』と告げたのが嘘だったとは。

同時に姉にも告げられた嘘。

進藤さんの心の痛みが感じられます。

そしてそれ以降進藤さんは常に姉のように大人しくなろうと心がけたことでしょう。

いつしかそれが地になってしまうほどに。

エンディングなどでも進藤さんは大人しいままですが、多少は明るく(と言うと語弊がありますが)なってきていたように思えます。

本来の自分を愛してくれる健二との出会いにより、進藤さんも本来の姿を取り戻しつつあるということでしょうか。

俺としては『おとな進藤』さんよりも『やかま進藤』さんの方が好きなので嬉しいことです。

 

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 ・・・・

 

 ・・・・・

 

 

っつーか名前は?

 

 

 

 

っつーか名前は?

 

 

 

 

っつーか名前は?

 

 

 

 

最後まで名前がわからないヒロインってのもスゴいですね……。

なんて言うか、ヒロイン紹介で『進藤むつき』って書いてあるのは……嘘じゃん。

 

詐欺じゃん。

 

騙されたじゃん。

 

でも感動できたからOK。

今後は『やかし進藤』『おとな進藤』と呼ぶことにいたします。

それが公式(?)な呼び方らしいし。

 

 

 

んで名前は?

 

 

 

他にも何点か気になるところはあったのですが、あえて指摘しても詮無きことなのでやめておきます。

……と言いつつ少しだけ書かせていただきますと……。

子供の頃自分の服やリボンで出かけて雨に濡れて帰ってきた妹を見てむつきは何も感じなかったのかとか、そもそも髪の長さが違うのによく『むつき』に化けられたなとか、雪希のクラス名簿には名前が載ってなかったのかとか、雨の中抱き寄せた進藤さんの髪は何でちょっとだけしか濡れてないんだとか、名前を聞かないまま何日過したんだとか、その間は何て呼んでたんだとか、リボンを片手で外したとか言いながらCGでは思い切り両手を使ってるとか、結局南山は全くストーリーに絡んでこなかったなとか、『ちょびっと』『ちょびっと』うるさいとか。

 

 

 

と言う訳で『おとな進藤』さんクリアーです。

残るは……センパイただ1人!!

まだ一度も声を聞いてすらいないセンパイ!!

ついに「みずいろ」ファイナルラウンドが始まる!!

 

以下次回!!


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