2002.4.6 「雪希シナリオクリア!?」編
さて、今日中に終わるかな?
【2/10】
朝、健二を起こしに来た日和がコケてしまい、ベッドの健二の上に覆い被さるような態勢になってしまいました。
「い、痛くない?」
「い、痛い…」
「わ、わわわ、ご、ごめんなさい〜」
「てゆーか苦しい…」
「ど、どうしよう、だ、抱き着いちゃったよ〜」
「わかったから、どいてくれ…」
「そ、そんな抱きつくなんて…」
「いや、だから、離れてく…」
「は、恥ずかしいよぉ〜」
「…聞いちゃいねえ」
焦りまくる日和に何とか落ち着くように言う健二。とりあえず深呼吸を、と。
「吸ったら、大きく吸うっ!」
「すぅぅぅ…ええ〜!?」
ブワハハハハ。
そんなこんなで朝食。
おかずの中には見慣れないものがあり、それはおそらく日和が作ったものなんでしょう。
明らかに美味しくなさそうな日和の料理を摘んでいく健二。
「……」
それをじっと見つめる雪希。
3人で登校。
歩き出した健二の横に雪希が並ぼうとすると……
「あっ…」
「あ、ご、ごめんなさい」
そう言って少し下がる雪希。
「え、えと…ううん」
「どうかしたのか?」
「う、ううん、なんでもないよ」
「?」
そして健二の横には日和が。
健二には何が何だかわかってないようですが、おそらく今日は『日和の日』なんでしょう。
無事テスト最終日も終了し、いつものように3人で帰宅。
夜、雪希と一緒にテレビを見ていたら日和から電話がかかってきました。
明日遊びにいっていいか、と日和。翌日は日曜日です。
別に構わない、と健二が言うと電話の向こうで大喜びする声が聞こえてきました。
こんな日和の声を聞いているのも悪くないかもしれない、と健二。
いや参ったぜ、と健二は雪希にそのことを文句混じりで報告。
「…でも、楽しそうだったよ」
「え? …そ、そうか?」
「…うん」
急に寂しそうな顔をする雪希。
「…雪希?」
「あ、ごめんね」
「いや、いいんだけど…」
「そっか、明日は遊びにくるんだね」
「ま、まあな」
「楽しみだね、お兄ちゃん」
「そ、そんなわけあるかよ」
「また〜、そんなこと言って」
そしてもう寝るから、と言って部屋に戻っていく雪希。
「あ、おやす…」
パタン
健二の言葉が終わる前に閉められたドアの音が、小さく乾いて聞こえた健二でした。
部屋で1人、健二の耳に着く言葉は寂しそうに雪希がポツリと残した言葉。
『…お兄ちゃん、嬉しそうだね?』
「俺が…無神経だったのか…」
『無神経』。自分で言った言葉がおかしく思えてしょうがない健二。
いつだって3人一緒だったし、これからもずっとずっと一緒のはず。
健二は思います。
自分は多分日和の事が好きで、きっと日和も、と。
「じゃあ…雪希は?」
ポツリと呟いてゆっくりを頭を振る健二。
「何をバカな事を…」
雪希は大切な妹。しかも自分には勿体無い位のしっかりした妹。
いつの日か子供の頃に話したような立派な彼氏が現れる筈。
それはきっと童話の世界に出てくるような、雪希を幸せにできる男。
…俺とは違うさ…
健二と雪希と日和。
それぞれの気持ちはお互いにわかっていたんですね。
なにやら順調にせつなくなってきました……。
【2/11】
昼頃、日和がやってきました。何故か制服です。
外出は制服じゃないといけない、なんて言う校則でもあるのでしょうか?
日和はケーキをお土産に持ってきました。
自分が食べたかっただけだ、と言う日和ですがそれは健二をからかっているのでしょう。
以前雪希にケーキをお土産に買ってきて、それを自分が食べたかったからだと健二が言ってたことがあったからです。
そして早速雪希がコーヒーを入れて3人でケーキを食べようとすると……
「わ、わわわ…」
お約束のようにケーキを床に落としてしまった日和。今にも泣き出しそうです。
泣くなよ、と健二。
「俺のを分けてあげるから…」
『仲良く、半分こしようぜ』
「…え?」
突然雪希に蘇ってきたのは子供の頃の記憶。
1つだけ残ったケーキを半分こして健二と2人で食べた時の記憶です。
…私の優しいお兄ちゃん。
私に…私だけに…
夕方。しかしなんだな、と健二が言い出しました。
「春休みなのにコンなとこに集まるってのも…」
へ? もう春休みなの?
まだテストも返してもらってないのに?
す、すげー長い春休みだな……。これも『普通』故に?
遊園地にでも遊びに行こうか、と健二と日和は楽しげに話します。
「いつ行くの〜?」
「わ、私もいきたいっ!」
「えっ」
突然大きな声を出した雪希に、健二と日和も驚きを隠せません。
そして遊園地に行くのは翌日に決定。
夜。
雪希は窓を眺めながら雪希はさっきのことを思い出していました。
楽しそうに話していた2人の邪魔を何でしてしまったのか。
ケーキを半分こしてるのを見たせいか。
遊園地のことが原因なのか。
「明日は…どうなるのかな?」
小さなため息。
本当は私が楽しんではいけない、と雪希は思います。
浮かんでくるのは小さな頃の思い出。
夕日が差し込む健二の部屋。
左手薬指にはめた指輪。
小さく光るその水色に反射する赤。
それが嬉しくて、そして楽しかった日。
…ごめんね。
心の中でそっと呟く声も、今ではもう届けようが無く。
小さな箱の中に全部だから隠してしまった。
あの時言う事が出来なかったから。
「……」
ちゃんと明日も笑って行かなくちゃいけない、と自分に言い聞かせる雪希。
「今日はもう寝なきゃいけないね」
指輪に心を囚われている雪希。
正確には『日和のものであるはずの指輪を持っていること』に囚われているのかもしれません。
そんな自分の気持ちを押さえ込もうとしている雪希が痛くて痛くて……。
【2/12】
3人で遊園地に。日和はおおはしゃぎです。
健二の隣にはしゃぎっぱなしの日和が並んでいて、その後ろを雪希がついていくような形。
そのうち日和が乗ろうと提案してきたのは人口の丸太のような乗り物でした。
水に浮かべて上体で急流に乗って、激しく水しぶきを上げているアトラクション。
水に落ちる時にシートを被らないと濡れてしまうので、日和にうまいタイミングでそんなことができるかどうかが心配な健二。
大丈夫、と言う日和の言葉に3人はそのアトラクションで遊ぶことになりました……が。
「わ、わわわっ…」
予想通りビニールのシートを取りそこなっている日和。
「ほらっ、何やってんだよ!」
「わ、わわっ」
「こっち来いっ!」
「えっ…」
日和のシートに腕を伸ばし、日和をそのまま自分の方に倒しこむ健二。
「あっ…」
一瞬そっちに気をとられて水を被ってしまった雪希でした。
「お前はしっかり者だから、大丈夫だと思っていたんだけど…」
(…そんなこと無いんだから)
「え?」
「あ、ううん、何でも無いから」
雪希のことを心配する2人ですが、雪希は濡れた服を乾かすから2人で楽しんできてくれ、と言います。
当然そんなことを承諾する2人ではありません。
(私のことはいいから…ね?)
(…二人で楽しんでこなきゃいけないよ?)
「…私って馬鹿だね」
夜。風呂上りのほてった体でベッドに横になる雪希。
何かを期待していた訳じゃないのに。
何かを待っていた訳じゃないのに。
…どうして一緒に行ったんだろ?
「…お兄ちゃん」
思い出されるのは昼間の遊園地のこと。
「…私…嫌な子だね」
小さな頃の思い出。
健二にもらった指輪が嬉しくて、部屋に帰ってからはめてみた雪希。
何度も蛍光灯に透かして、綺麗に光った指輪がとても素敵に見えた日。
(これ、けんちゃんに渡してね)
そんな日和の言葉さえも忘れて指輪を嬉しがっていた。
その言葉を思い出したのは日和に会った次の日のこと。
雪希がしていた指輪を見て、日和がいつもの笑顔で聞いてきた日。
『わぁ〜、綺麗な指輪だねぇ〜』
『え?』
『どうしたの? その指輪』
『え、えと…その…』
『うん?』
『あ、あの…』
『どうしたの、雪希ちゃん?』
(お…お兄ちゃんにもらったの…)
『いいなぁ、雪希ちゃん…』
『……』
雪希は知っていました。
この指輪の本当の持ち主を。
だから次の日は普通ではいられませんでした。
いつもの登校する道で、健二の隣に並ぶことが出来なかったのです。
それは日和の笑った顔があったから。
いつも3人並んで歩いていた道。
なのに何で健二の隣に並ばないのか日和は不思議そうに聞いてきます。
そんな日和に対して指輪のことを言われるんじゃないかと言葉に詰まる雪希。
そして2人から自分が嫌われているのではないか、と。
しつこく聞いてくる日和に雪希は言いました。
『ほ、ほら、三人で並ぶと他の人の邪魔だし…』
理由は何でもよく、雪希が適当に言った言葉も日和は真剣にとります。
『毎日、かわりばんこってどうかな〜?』
『え?』
3人並んで歩けないから2人のうち1人しか健二の隣で並んで歩けない。
だったら雪希と日和でかわりばんこ。
雪希のことを微塵も疑わない日和です。
(あなたの指輪じゃないよ)
雪希の心の奥底で誰かがそう言っていました。
もちろん『あなた』と言うのは雪希の事な訳で……。
【2/13】
バレンタインのチョコを作っている雪希の邪魔をしてはならない、と健二は時間を潰しに商店街へ。
そこでたまたま日和を出会いました。当然制服。
どうやらチョコの材料がなくなってしまったので買いに来た様子です。
綺麗な電飾のイルミネーションのところに行こう、と言う日和をなだめ透かしつつ健二は日和と別れます。
空には綺麗な夕焼け。
子供の頃、雪希と日和と3人で見ていた夕焼け。
そんな夕焼けを見ながら健二は思います。
いつまで…変わらずにいてくれるのだろうか。
いつまで…一緒に…
家に帰ると雪希はテレビを見ていました。
番組はバレンタイン特集。バレンタインにまつわる話だとか、綺麗なデートスポットの名所だとか。
面白かった、と言う雪希に何が一番だったか健二は尋ねました。
「何だったら俺が連れてってやるぞ?」
「……」
「ほら、言ってみろよ?」
「……」
押し黙っていた雪希が言ったのは……
「夜景の見える…」
「おっ、いい感じだな」
「高級レストラン…」
「………」
「…………」
「…………そっか」
「…………あ、あの、お兄ちゃん」
「うん?」
「あ、えっと…」
昼はどこに行っていたのか訊ねてきた雪希に商店街で日和に会ったことを伝える健二。
チョコの材料を買っていたことを言いつつ、健二は日和のことをバカにします。
今年もイビツな形は決定だとか、料理が下手だとか、そのくせいつも生意気だとか……。
「お兄ちゃん…嬉しそうだね」
「ば、馬鹿言うなよっ」
アイツは…と言おうとしてその後が続かなくなってしまった健二。
いつもだったら日和をポンコツ呼ばわりして笑い飛ばして終わりのはずなのに。
でも今も日和なりに一生懸命頑張っている姿を想うと、健二は雪希の前で日和を馬鹿にすることが出来なかったのです。
「……」
そんな健二の気持ちを汲み取ってか、一緒黙ってしまった雪希が「はい」と差し出してきたのは小さな紙包み。
それはバレンタインのチョコレート。
「先に渡しておこうかなって…」
「……」
「……」
「…そっか」
でも珍しいな、と健二。
「ど、どうして?」
「今年だけ前日に渡してくれるなんて…」
「あ、えっと…」
ちょっと用事ができた、と雪希。
「チョコが渡せないほど忙しいのか?」
「……うん、ごめんね」
「…そっか。悪かった」
自分の部屋の窓から夜空を眺める健二。
月明かりの中、小さな息をついて雪希がくれたチョコを見ていました。
さっきの雪希の言葉。
『夜景の見える高級レストラン…』
遠くを見るような目でそう言っていた雪希。
「あいつも…相変わらずってことか…」
白馬の王子様、と言ってた小さな頃から何も変わっていなかったという事なのか、と健二は思います。
机の上には雪希からもらったチョコ。
「俺には…」
昼間に見た日和のチョコの方が似合うような気がする、と健二。
何にも飾りつけが無くて、いつも不細工な日和のチョコ。
「…たぶん、それも嘘かもな」
雪希の気持ちに気づいているのに、俺の考えている事はどうなんだろうか?
「単なる逃げ口上なのかも…」
ベッドに横になって目を瞑る健二。
いつか答えを出さなきゃいけないのかもな…
雪希のモノローグ。
(…約束、破っちゃったな)
これまでは何をするにも一緒だった。クリスマスも、誕生日も、バレンタインも。
雪希と健二と日和。
喧嘩だって何度もしたけど、その関係は少しも変わらないまま。
少しも変わらずに、このまま3人で仲良くやっていくつもりだった。
(でも、変わらないものなんてないんだよね)
気がつくと日和を泣いたまま放っておくことがなくなっていた健二。
どんなにからかわれても、いじめられても、最後には必ず。
日和はそれを知っているからいつも笑顔を見せられる。
雪希も小さい頃は寂しがり屋で、健二に甘えては撫でてもらっていました。
『ね〜、けんちゃん、わたしも〜』
そんな雪希を見て羨ましがる日和に、しぶしぶ同じ事をする健二。
同じことをやったとしても、その理由は全く違っていました。
それが雪希を支えていたもの。
自分は健二の妹で、日和はただの幼なじみ。
子供特有のちょっと優越感で、自分は日和に優しく出来たのかもしれない。
健二に優しくして欲しいから、自分はよく出来た妹でいる。
雪希にはそれが当然のことでした。
でも雪希は気が付いてしまいました。
所詮健二にとって自分はただの妹でしかないことに。
そんな想いに捕らわれた時、雪希はいつも指輪のことを思い出します。
(私…嫌な子だよ…)
苦い思い出、それをまた繰り返そうとしている。
2度と嫌な子にならないために日和と交わした約束。
『絶対抜け駆けは無し、何をするにも2人で一緒に』
それをずっと守り続ければ、自分はいい子でい続けることが出来る。
そう思ってたけど。
…気付いてしまった。
私がなれるのはいい子じゃなく、いい妹なんだって…
内緒で先にチョコを渡して、その事に何の意味があるのか。
健二にとっては意味なんてまるでない。
「でも、私は…」
やっぱり私はいい妹より、ただの嫌な子になりたいのかもしれない…
手の中にあるおもちゃの指輪が、自分を諭すように囁く。
『ぜったいはめちゃダメだよ』って。
成長して大きくなって、もう大人って呼べる歳になって…あの日以来、一度も指輪をしていない雪希。
自分のじゃない、と言う思い。
指輪に拒まれるんじゃないか、と。
結局これはただの借り物であり、自分が勝手に預かっているに過ぎない物。
そして今、本来の持ち主に返す時が少しずつ迫ってきている。
日和の指に指輪が必要になって、健二も指輪がそこにあることを望んで。
今までずっと、かりっぱなしだった指輪。
お兄ちゃんの事も、借りっぱなしだったんだよね。
だからね、私はまとめて返すんだよ。
指輪と一緒に、全部、全部ね。
私が嫌な子になったら、やっぱりお兄ちゃんは嫌うかな?
事実なんだからしょうがないけど、私はお兄ちゃんに嫌われたくない。
だったら嫌な子になるのはあきらめて、いい妹のままでいるしかないよね。
私の嫌な子の部分は全て指輪に閉じ込めて、そしてお姉ちゃんに全部託してしまおう。
そうすれば、私は二度と嫌な子になりたいなんて願望は抱かない。
お兄ちゃんの、可愛い妹のままで…
二人を笑って祝福できる、よく出来た妹のままで…
………………と言う訳で。
やたらと長い雪希のモノローグでしたが、そのほとんどを書いてみました。
これがこの物語の中核をなす『雪希の想い』だと思ったからです。
スゲー時間かかりましたが。
健二にしても雪希にしても、もうすぐ決着をつける時がやってくることを感じています。
変わらないままではいられないことを知っているように。
はぅぅ……せつねぇ。せつねぇです。
いつからこんな展開になったんでしたっけ?
【2/14】
家までチョコを持ってきた日和をいつものようにバカにする健二。そして泣きそうな日和。。
「二人でデートしてきたらどうかな?」
突然雪希がそんなことを言い出しました。
自分は用事があるとかで、半ば強引に2人をデートに行かせる雪希。
2人で歩きながらも日和は雪希のことが心配そうです。
やはり日和も雪希の様子がおかしいことに気付いているのでしょう。
「雪希ちゃんから、チョコ貰ったんでしょ?」
「ああ、昨日の夜にな」
「…え?」
「…どうかしたのか?」
「う、ううん」
そう言いながらも日和は浮かない顔。
雪希が約束を破って抜け駆けしたことをどう思っているのか……。
「ねえ、けんちゃん…もう…帰ろうよ」
「え?」
「雪希ちゃん、待ってるよ?」
「いや、雪希は用事だって…」
「ね、けんちゃん」
「………」
どこか切なそうな、哀しいような。
何故かいつもの日和とは違って、話しかける雰囲気ではありませんでした。
夜。
昼間のデートのことを聞いてきた雪希。
「日和お姉ちゃんにね…」
哀しそうな顔で雪希は言いました。
「ごめんねって言っておいてね」
「…雪希?」
「約束…破っちゃった」
自分の部屋にて健二。
結局健二は何のことなのか聞く事ができませんでした。
引っかかるのは日和と雪希の言葉。
『雪希ちゃん、待ってるよ?』
『約束…破っちゃった』
そんな2人の言葉が記憶の隅に引っかかってるような気がする健二。
【2/15】
日和から健二に電話が。
翌日学校に行くらしい健二に、日和はお願いがある、と言ってきました。
電話の内容を流すように聞いていた健二。
日和の声が、どこか自分をそうさせていたのかもしれない、と。
結局日和の『お願い』が何なのかはわかりませんでした。
健二は「急にそんなことを言うとは、一体どうしたってんだ?」なんて思ってますが。
一体何を頼まれたのやら……。
様子がおかしい日和。それは昨日から。
貰った2人のチョコレートを思い浮かべる健二。
日和と雪希。
何も言わない自分が悪いのかもしれない、と健二は思います。
どっちの気持ちも知っているはずなのに。
と、そこに雪希が学校から帰ってきました。
「ただいま」
あ、お兄ちゃん、と雪希。
「…お帰り」
「……」
「……」
「久しぶりに聞けたね」
「俺もそんな気がする」
『癖』にするはずだったこの挨拶。
久しぶりに聞こえるのは春休みになったからか、2人の気持ちがそう感じさせるのか。
前者か?
部屋に戻った健二。
耳に残っているのは雪希の言葉。
『久しぶりに聞けたね』
思い出されるのは夕焼けの朱色に乗って、どこか切なそうだった雪希。
後者だったか……。
【2/16】
家にやってきた日和。
雪希と顔を合わせると、2人とも気まずそうな雰囲気に。
何とか挨拶するもそれで雰囲気がよくなるわけも無く。
そしていつもの3人の通学路。
でも健二の隣には誰もいませんでした。
日和も雪希も健二の後ろを歩くだけ。
(き、今日はお姉ちゃんの番だよ…)
(う、ううん…雪希ちゃんの番だから)
「何を話してるんだ?」
「な、何でも無いよ、お兄ちゃん」
「そ、そうだよっ」
「……」
小さく歩き出した健二の後ろを歩く2人。
いつものようでいて……健二は何かが違うのを感じていました。
「あ、終わった?」
教室で用事が終わったらしく(一体何だったんだ?)、日和が健二に話しかけてきました。
「まあな」
「……」
「なあ、日和…」
「な、なぁに? けんちゃん」
「…雪希と何かあったのか?」
「……」
朝の雰囲気からいつもの感じがしなかった健二は日和にそんなことを尋ねます。
もう健二だってわかってると思いますが……。
日和はそれには答えず、雨が降ってきた、と話を逸らそうとします。
それは健二に聞かせたくない、という事なのか。
健二は傘を持ってきていなかったので日和の傘に入れてもらえるよう頼みます。
普段の日和なら照れまくりながらも嬉しそうに承諾すると思ったのですが、この日の日和は違いました。
「ど、どうして?」
「どうしてって…」
「……」
少し俯くように唇を噛み締める日和。
「なあ、日和?」
「……」
「お前、どうし…」
「も、もう、しょうがないな〜」
明らかに無理して明るく言おうとしているのがわかります。
「幼馴染だから…今日だけ特別だよ…」
「…日和?」
むつきと別れて帰路に着く雪希。
夕飯の献立を考えつつも雪希は不安になります。
健二は自分の料理が嫌いなのだろうか、と。
「ちゃんと…食べてくれてるもん」
この頃いつも、雪希は自分にそう言い聞かせているようです。
そんなことを考えながら正面玄関に着いた雪希が見たのは柱の影に隠れた健二の後姿。
「お兄ちゃ…」
言葉が止まる。
雨が当たって霧のように霞む玄関のガラス。
その向こうに見えるのは1つの傘に2人の姿。
「…あれ?」
「おかしいな…」
健二と日和が仲良くしている姿。小さい頃から見上げていたその姿がそこに。
そんな時は決まって笑顔になるんだ、と。
「うん、笑顔だよ」
「そうしないと駄目…」
いつものように頬を柔らかくして、目を細めて笑ってみる。……けど。
「……」
「私、嫌な子だね…」
「笑えないんだ…」
家に帰った健二は日和のことを考えます。
一緒に帰って来た日和の口から出る言葉は雪希のことばかりだったそうです。
雪希がどうしたとか、ちゃんと気をつかえとか。
「……」
そして日和が別れる前に言った言葉。
『雪希ちゃんの気持ち…気付いてる?』
傘で目線を隠すようにしてそんなことを言っていた日和。
そんな言葉に立ったままでいた健二に日和は傘を上げてにっこりと微笑んで言いました。
『また、明日だね』
それだけを言い残して、そのまま健二に背を向けて帰っていった日和。
「雪希の事は……知ってはいるさ」
知らないことはないだろ? と健二。
その時玄関の扉が小さく閉まる音が聞こえました。
「雪希か…」
ゆっくりと立ち上がる健二。
でもそれは日和に言われたからではありません。
健二自身が『お帰り』って言ってあげたかったから。
そして玄関には雪希の姿が。
「ただいま、お兄ちゃん」
「お、お前…濡れてるじゃねーか?」
「あはは、傘が学校に無かったの」
「無かったのって…」
「あはは、しょうがないよ〜」
「雪希…泣いてるのか?」
夜。
暗い部屋の中で健二が思うのは笑顔で雨に濡れた雪希の姿。
そして日和が見せた傘の下の笑顔でした……。
まさか……まさか日和は自分から身を引こうと……?
それも雪希のために。
そんな……そんなことが許されるのか?
【2/17】
朝起きて、雪希と挨拶をかわす。
変わらない日常。
変わってきているのは自分だと健二は思います。
でもそうじゃありません。雪希も日和も変わってきている……。
ピンポーン…
心なしかいつもより弱い音でチャイムが。
やってきたのは……日和でした。
健二の部屋にて。
今日はちょっとした報告が、と日和は言います。
「けんちゃん、チョコ…食べてくれた?」
「あ、いや…」
机の上には雪希と日和に貰ったチョコが並んでいました。
「悪い、まだ…」
「うん、食べない方がいいよ〜」
「…なんでだよ?」
「えっと……美味しくないから」
「お前…」
それに…、と日和。
「来年からは、しばらく作らないんだ〜」
これは……とりもなおさず日和からの別れの言葉。
「わたしはお料理が下手だからね〜」
「そんなの、回数を重ねればいいだけだろ」
「うん、そうだね」
「いきなりどうしたんだよ?
えへへ、と笑いながら日和は言います。
「ちゃんとお父さんに食べてもらうんだ」
「それと来年とは関係ないだろ…」
「関係あるんだよ〜」
「…お前、一体?」
「あ、それと…雪希ちゃん、元気にしてるかな?」
「…いつもと変わらないよ」
「そう見えてるだけだよ?」
哀しそうな顔でそう言うと、日和はパッと明るい顔になって言いました。
「今日はそれだけだよ」
「え?」
「それじゃ帰るね」
「お、おい、お前…」
笑顔でそう言って、健二の前をゆっくりと歩き……かけようとして、またいつものように自分の足に躓いてしまった日和。
「わ、わわわ…」
「お、おい」
バランスを崩した日和を転ばないように抱きとめた健二。
ドスンッ
そのままベッドにもつれたまま倒れこむ2人。
以前、ある日の朝にも同じようなことがありました。
目の前にある日和の顔。
その時は焦りまくって、嬉しいやら恥ずかしいやらでオロオロしていた日和。
でも。
「痛てて…」
「………」
「はは、この前みたいだな…」
「そ、そうだね…」
顔を赤らめることなく、小さくそう呟くだけの日和でした……。
夜。
日和が出て行った後、ずっと健二は部屋で考えていました。
『そう見えてるだけだよ?』
思い出されるのは日和の言葉。
「見えてるだけ…か」
雪希の兄でいることを望んだのは小さな子供の頃。
ピカピカに光るシールを諦めて、泣いている雪希に1枚の葉書を買ってきた日。
それからはいつも一緒。
雪希と遊ぶのがカッコ悪いなんて思っても、もしかしたら泣いてしまうんじゃないかと。
雪希がいつも笑顔でいられるように、そうしてあげたいと考えていた。
…そう考えていたんだ。
なのに今は何をやっているんだろう。
いつも雪希が泣くたびに、寂しがるたびに、昔の自分は雪希に何かをしてやれた。
でも今はどうなのか。
何かしてやれるのか。
してやれるとしても、それは兄貴としてなのか。
健二にはわかりませんでした。
「俺はどうなんだよ…」
雪希の笑顔を思い出す度に胸が締め付けられる健二。
「お前が…俺を必要としてくれるなら…」
静寂の中、健二は耳だけを澄ましていました。
雪希が自分を求めてくれるんじゃないか、と。
昔を思い出す健二。
寂しい時は隣の部屋から壁を叩いてきた雪希。
「雪希…」
健二の言葉が意味もなく部屋に流れていったその時……。
コンコン…
壁を叩く小さな音と共に。
「…雪希?」
そっと壁を背にして、一瞬の躊躇いの後に小さく壁を叩く健二。
コンコン…
そしてじっと耳を済ませて返ってくる音を待つ。
コンコン…
返ってくる音に安心できるような感覚を覚える健二。
それは雪希が壁を隔てた向こうにいてくれるから。
ガキの頃からずっと一緒にいた雪希。
コンコン…
寝坊して急いで走ったいつもの路。いつも笑顔で横にいてくれた。
いつものテーブル。美味いって言った言葉に笑顔で目を細めていた。
いつでも自分(健二のこと)のことを第一に考えていてくれていた。
雪希の笑顔が自分の横に無くなってしまう。
そんなことを考えた時に、健二は初めて知りました。
「……」
せめて雪希のために出来ること。
それはずっと側にいてやれることくらい。
コンコン…
それだけしか…
たったそれくらいのことしか出来なくても…
俺は雪希に笑って欲しいと願った。
そう、俺の横で…
「雪希、…部屋に来ないか?」
そう口にして気付いたことは。
雪希が自分を求めるのではないこと。
そして壁に耳を傾けて待っているのは、雪希が自分を受け入れてくれることだということ。
コンコン…
それが返ってきた返事。
やがて部屋の扉をノックする音が。
「入って…来てくれよ」
扉が開き、廊下から漏れる光が部屋を一瞬だけ明るくしました。
「お兄ちゃん…」
「雪希」
雪希を抱きしめながら、そっと雪希の柔らかい髪を撫でる健二。
「うっ、ご、ごめんね」
「俺の方が悪かったから…」
「ち、違うのっ」
小さな嗚咽の音を漏らす雪希。
「日和お姉ちゃん…」
「えっ?」
夕方のこと。
雪希と日和は2人で歩いていました。
手に持つのは小さな指輪。小さな子供の頃からの宝物。
笑顔のままで日和の横を歩く雪希。
でも約束を破ってしまったことがじんわりと雪希を責め苛んでいました。
謝って、指輪に全部詰め込んで、そして日和に渡そうと思っていた雪希。
「雪希ちゃん」
「ご、ごめんなさい」
「あ、え、えと…」
「わ、私…約束を破っちゃった…」
本当は初めから破っていた、と雪希は思います。あの指輪をはめた日からずっと。
「……」
指輪を貰った日からの約束事。2人で決めた2人だけのルール。
健二の隣に並ぶのは変わりばんこ。
「気にしなくてもいいよ〜」
「そ、それでも…」
チョコを先に渡したことも謝る雪希。
抜け駆けは無し、と言う2人だけの秘密。
「それでいいんだよ」
「そ、そんな…」
「けんちゃん…好きなんだけど違うんだ〜」
笑顔で日和は言います。
「わたしのタイプは違うことに気付いたんだよ」
「…え?」
「わたしは白馬の王子様がいいかな〜?」
雪希ちゃんと一緒だね、と日和。
日和は笑顔でそう雪希に言います。
何故笑顔になれるのか。
それは雪希に気をつかっているから。
「私…嫌な子だよ…」
「何を、言ってるんだよ」
「だって…」
「……」
「私、喜んじゃったんだよ?」
健二の腕には小さく震える肩が。胸にはあふれ出る雪希の涙が。
「大丈夫」
「お、お兄ちゃんっ…」
「…ああ、分かってる」
「ご、ごめんなさい…」
「…いいんだ、いいんだよ雪希」
「お、お兄ちゃんっ!」
とめどなく流れる雪希の涙。
流れる涙を止めてやりたい。
そう願う健二は雪希をさらに強く抱きしめます。
雪希がどこにも行ってしまわないように。
流されぬように…離れぬように…。
「雪希はずっと見ていてやらないと駄目だな」
「お、お兄ちゃん…」
「雪希…好きだ」
「お兄ちゃんっ!」
Hシーンへ……。
2人の絆は深まりました。
もう2度と離れないくらい。
「加奈」で隆道がなかなか越えられなかった壁を健二はあっさり越えてくれました。
そう言えば雪希はともかく、1日中家にいたはずの健二まで制服だったのは何故でしょう?
暖かな風、小さな木漏れ日。
「あ、きたきた」
公園にて日和と健二と雪希。
「こ、こんにちは…」
「日和…」
「今日は天気良いね〜」
笑顔の日和に歯切れの悪い健二と雪希。
「今日、電話で二人を呼び出したのはねぇ〜」
その笑顔はいつもと変わらなくて。いつもよりも明るいくらいで。
でもそれが健二には切なくて…。
「えっと、その前に…雪希ちゃん、持ってきた?」
「う、うん」
雪希がそっと出した手の平の上に乗っているのは水色のおもちゃの指輪。ああ水色……(意味不明)。
「うん、ちゃんと持ってきたね〜」
「うん…」
「…どうするんだよ?」
「えへへ〜」
いつものように笑いを浮かべた日和は雪希の手の平から指輪をそっと持ち上げました。
あの頃とかわらないまま、綺麗に光る指輪。
「……」
「雪希ちゃんが大切に持っていた証拠だよ」
日和はそれを陽光に透かして見ていたかと思うと……
「はい、これ」
「え?」
「けんちゃん、ちゃんと返したからね」
「…日和?」
「……」
少しだけ目配せするように雪希の方をチラッと見る日和。
「え?」
「わわわ、雪希ちゃんに分かっちゃったよぉ〜」
「日和、お前…」
「ね、ちゃんとしたとこ見せてね」
「あ、あの…えっと」
「最後のお願いだよ」
満面の笑顔。でも少しだけ目尻が光っている日和の『最後のお願い』。あぁ……。
「分かった…」
「うんっ」
雪希の手をとった健二ですが、どの指に入れていいのかわからず、思わず雪希の顔を見てしまいます。
少しだけ困り顔で、少しだけ赤い顔で指を差す雪希。
ゆっくりと頷いた健二がおもちゃのリングを通したのは……雪希の左手の薬指でした。
「うん、納得」
「ひ、日和お姉ちゃん…」
「雪希ちゃん」
明るい声で日和は言います。
「その指輪に飽きたら…頂戴ね?」
「え? そ、それは…」
「えへへ〜」
でも……。
「えへへ…えへっ…うっ、ううっ」
「お、お姉ちゃん…」
「うっ、うわーんっ…」
「うっ、うぅ…」
泣いた日和。雪希も泣いた。
俺も…泣いたかもしれない…
静かな公園にそんな3人の声が響くのでした……。
ひよ……と、まだやめておきます、叫ぶのは。
自ら身を引いた日和。それは雪希のために、健二のために。
『飽きたら頂戴ね』
ちゃかすような感じで言ったこの言葉も……まだ健二の事を想っている日和の本心ではないでしょうか。
そして雪希の左手の薬指にはめられたおもちゃの指輪……やっぱり入るんですね……。
スタッフロールが流れたんでもうエンディングかと思ったらまだ続きがありました。
もう冬も終わりを告げそうな季節。
何も変わらないように健二や雪希に笑顔を向ける日和がいました。
でも健二は笑うことができません。
せっかく日和が笑ってくれているのに、健二は笑うことができないのです。
想いを振り切って、開き直って、永遠に友達のままで。
雪希と健二のために日和は微笑んでいました。
健二はそんな日和の笑顔のためにも。
今までと変わらない、お前の大好きな笑顔をみせてやらないとな…
…そうだろ? 日和…
清香と約束があるから、と日和は去っていきました。
健二と雪希も帰ることに。
途中健二が郵便ポストに寄ってからですが。
どこに出す手紙かは雪希に教えない健二。
「ほら、それよりもさ…」
「あっ」
健二は雪希にそっと手を差し伸べます。
そんな健二を見て、ゆっくりと手を取る雪希。
小さくて白い手。その薬指にはおもちゃの指輪が。
繋いだ手をゆっくりと上に持ち上げる健二。
「散歩しながら帰るか?」
「…うんっ!」
真・スタッフロール。そして真のエンディングへ……。
「あ、手紙が来てる」
「ほうほう…誰宛だ?」
「えっと私なんだけど…」
差出人の名前が無い葉書。
不思議そうな顔で裏面を見ている雪希を置いて玄関に向かって歩き出す健二。
「…あっ」
その背中から聞こえてくる声。
「お、お兄ちゃんっ」
「お兄ちゃんからの手紙だよっ」
嬉しそうにはしゃぎながら健二の腕を勢い良く掴んできた雪希。
「俺が描いたって保証は?」
「だ、だって、ほら〜」
「なんだよ? ヘタクソな絵だな?」
小さい頃、ピカピカのシールを我慢して雪希に出した葉書。
でもそれは健二自身の文字ではありませんでした。
だから、あの頃みたいな、そんな感じで描いた手紙。
「ヘタクソじゃないよ〜」
「それより、家に入るぞ」
「あ、今日は私が先に入る番だよ」
そう言って先に駆け出していく雪希。
「ただいま」
「お帰り、お兄ちゃん」
元気な声が開けたままの玄関を抜けて、寒さも感じなくなってきた空に向かって昇ってゆく。
その先には大きな白と青…
雪希の指輪と同じような水色の空が広がっていた。
どこまでも続く遠いところまで……
と言う訳で雪希シナリオクリアー!! ぱちぱちぱち。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
……いいですか?
…………叫んでいいですか?
日和ぃぃーーーっ!!!
日和日和日和ぃぃーーーっ!!!!
ひよりぃぃぃぃ!!!!!
そして『保証』じゃなくて『証拠』だろぉぉぉ!!
はい。『雪希シナリオ』でした(笑)。
だけど声を大にして言わせて頂きますよ。 ←今さらですが
これは『日和シナリオ』です!!!
確かに雪希は健二と結ばれました。
確かに雪希の想いは伝わってきました。
確かに雪希の健気さには心を打たれました。
確かに雪希のかわいさには心を奪われました。
でも。
それ以上に日和が…日和が…日和が!!!
日和の強さ、優しさがビンビンに俺のハートにクリティカルヒットなんですよ!!
はっきり言って……惚れた……惚れちまったよ……日和。
お前を幸せにするのは……俺しかいない!!!
(↑全国のファンを敵に回す発言)
そんな訳で……日和!!
次は君だ!!!
順番?
「日和は最後にするって言ってた」?
んなこたどーでもいーです。
日和を幸せにしたいんです!!!
以下次回ぃぃぃぃ!!!