2002.1.20 「これまたドロドロしそうな…」編


さて。

まいりましょう。

 

遙の見舞いへ行く孝之。

非常に不安がっている遙に孝之は自分を信じろと言えるのか!?

…言えないんですけどね……。

 

涙を隠すために病室を飛び出して親父さんと会話。

気を取り直して病室に入って遙・モトコ先生と話していたら遙が写真のことを言い出しました。

急に取り乱し始めた遙。

そして孝之を見て言いました。

「…………孝之……くん?」

「え?」

「本当に……孝之……くん?」

「!?」

「あ……あ……あ……うう……ああ……」

遙が頭を抱えて目を瞑っているのを見てモトコ先生に部屋から追い出された孝之。

ついに遙が全てを思い出す時が来てしまったのか…。

 

って、まだ思い出さないってことは知ってるんですけどね。

 

モトコ先生に近日中に写真を持ってくるように言われて孝之は帰ります。

遙が全てを思い出す。

それは決して悪いことなんかじゃない。

それにショックを受けているのは全て自分のせい。

しっかりしろ、しっかりしろ、と自分に言い聞かせながら。

 

翌日。

孝之は風邪気味な自分に気付きます。

部屋にろくに薬が無いのでバイト先でもらおうとバイトに向かいます。

バイトに来たらなんだかよくなったような気がしたので薬は飲みませんでした。

これが後で命取りになるとも知らず…。

 

病院に行くとなんとなくまた体がダルくなってきたような感じのする孝之。

文緒さんに遙は寝てるから会えない、そしてモトコ先生が呼んでる、と聞かされて医局へ。

医局にはモトコ先生の他に茜もいました。

モトコ先生の話は様子を見ながら遙に現在の状況を教えていこうと思う、というものでした。

そして次に来る時に写真を持ってくるように、と。

ついにその時が来たんだ、と緊張する孝之でした。

 

帰り道。

茜と肩を並べて歩く孝之。

孝之の風邪は自分がうつしたのでは、と心配する茜ですが孝之はそれを否定。

そりゃ風邪をひいた茜と孝之が一緒になったのは中庭で30秒ぐらいなんだから。

少し孝之に対する態度が柔らかくなったような茜。

かわいいです。マジで。

そして花屋の前で孝之が足をとめました。

遙に花を買ってやろう、と。

茜もそれを認めてくれました。

笑顔の茜に花を選ぶことをお願いする孝之。

茜は何の花を予約したのかは孝之には内緒にしてます。

バラなんですけどね。

翌日、孝之が病院に行くときに花屋で予約した花を持っていくことになりました。

 

帰りの電車、そして駅から出た後もクシャミ連発の孝之。

心配する茜を帰らせて自分は薬屋にでも行こうとしたその時。

現れたのは水月と、酔っ払って水月にからむバカ課長。

さて助けるか、助けないか…。

 1、助ける

と選択肢があるようで無し。

問答無用で助けなければなりません。

だったら選択肢なんてやるなよ、と思いますがこれはロジック上の問題なのでしょうか。

まぁ選択肢があったとしても助けますが。

孝之は2人に走り酔ってバカ課長に飛び蹴り一閃。

ふっとぶ課長に驚く水月。

孝之は水月の腕を掴んでそのまま走り去っていくのでした。

 

蹴りをくりだした上にダッシュで逃げたりしたせいでもはやフラフラの孝之。

そんな孝之の様子に気付いた水月はタクシーで孝之を連れて帰ります。

孝之の部屋でかいがいしく世話をしてくる水月。

い、いい娘だ……マジで。

息も絶え絶えな孝之。

「はあっ……はあっ……はあっ……」

「大丈夫だよ、大丈夫…………」

水月の声はあまり孝之の耳に入ってきていません。

でも誰かが自分に呼びかけてる。

それだけで孝之は安心できるのです。

「はあっ……はあっ……行くな……行くな……」

「行かないよ。どこにも行かないから、安心して」

「くそっ……くそ〜〜〜〜あ゛〜〜」

「大丈夫だよ……大丈夫……」

「くそ〜……あー……情けねぇ……」

「大丈夫……私が側にいるよ……」

そしてそのまま孝之は眠りにつくのでした。

 

翌朝。

孝之は全くよくなっていませんでした。

むしろ熱は上がってるし最悪と言っていい状況に。

そしてずっと孝之の手を握ったまま寝ていた水月。

水月はバイトに休むと連絡を入れておく、と言ってます。

それはまだしも孝之には1日休む、なんてできない事情がありました。

病院に行かなくてはならないのです。

茜と交わした花を買って遙に届ける約束。

そすてモトコ先生に写真を渡さなくてはいけません。

でもそれを水月が許してくれるはずもなく。

なんとかして病院に行かなくては、と考える孝之。

浮かんでくるのは茜のことでした。

あんなにも無理してまで病院に行き続けた茜。

その気持ちがわかるような気がしたのです。

絶対午後までには治してやる、と誓う孝之。

 

孝之が目覚めると4時。

もう病院に行かなくてはいけませんが具合は全く変わってません。

ふと水月を見るとテーブルに突っ伏して眠っていました。

そんな水月を見ると孝之はどうしてこんな無理をしているんだろう、と考えてしまいます。

ちょっとだけ無理して水月に布団の一枚もかけてやったら、あとは大人しく寝ていればいい。

それじゃ駄目なんだろうか、と。

…………ごめんな、水月。

それは…できないのです。

水月に呼びかけて起きてもらうともう一度心の中で謝ると頼み事をしました。

「食べたいもんが……あるんだ」

「……なに」

「みかんと桃の缶詰」

「あはは……病人の定番? 孝之も欲しくなったの?」

「ま……そんなとこだ」

嘘です。大嘘です。

単なる水月を部屋から出すための嘘なのです。

でも水月は何の疑いも持たずに出かけていきました。

もう一度心の中で謝ってから出かける準備を始める孝之。

写真を水月が読んでいた雑誌にはさんで、あえて携帯は置いたまま孝之は部屋から出て行きました。

 

電車に乗って駅で降りる。

途中の花屋で伝票を渡して受け取った花は真っ赤なバラ。

でも孝之にそれを見て何かを感じることはでなくなっていました。

 

病院へ。

蛍さんにモトコ先生が遙の病室にいることを聞いてそこに向かいます。

病室に入ると孝之の持っているバラに気付いた茜がわざとらしく驚いてみせてますが反応することもできません。

ただ一言。

「…………遙に」

とだけ言って。

「ちょっと……鳴海くん?」

孝之の様子に気付いたモトコ先生も声をかけてきますがやはり反応できず。

その時後ろでドアが開く音がしました。

「あ……すいません」

それは水月の声。

「あら、こんにちは」

「孝之! やっぱりここにいたのねっ!?」

「え……?」

「……え? 水月?」

ものすごい剣幕で病室に入ってくる水月。

「あなた……あなた一体……何考えてるのよっっ!!」

「お、おい……こんなとこで……」

「いいえ! ハッキリ言わせてもらうわ!」

「ち、ちょっと!」

「茜も黙っててっっ!」

「…………」

思わずひるんで黙り込む茜。

「孝之……どういうつもり!?」

ドアを閉めて黙って孝之達を見ているモトコ先生。

頼むから止めてください。

「ど、どうって……」

「いくら遙のお見舞いが大切だからって、自分を何だと思ってるわけ!?」

「あ……う……」

「今自分がどんな状態にいるか、わかってるの? 熱あるのよ? 9度よ9度! 39度!」

「え?」

「え……?」

「正直途中で死んでるんじゃないかと思ったわよっ!!」

「お、落ち着けよ……」

「落ち着いて欲しかったらねえ…………」

水月の目からこぼれおちる涙。

「人を騙して抜け出すような真似……しないでよ……」

「…………」

「そんなに……そんなに……遙のことが大事なら……」

よせ……、と孝之。

一瞬唇を噛み締め、目を泳がせる水月。

「遙の……彼氏なら……もっと……自分大事にしなさいよ……」

「え……」

「アンタが倒れたら、遙、心配するでしょう……」

「…………」

「こんな状態の遙に、余計な心配……かけたいの?」

「…………」

「もし……もし……アンタが私の彼氏なら、とうの昔にひっぱたいて、引きずって連れて帰ってるところよっっ!」

「…………」

「…………」

てっきり水月が全てを告白するんじゃないかと思っていた孝之と茜。

それだけにこの水月の言葉に驚いています。

何故、こんなにも怒りながら水月は自分の立場を演じているのか。

水月は一体何に怒っているのか。

孝之にはわかりません。

「とにかく……その花、遙にほら……早く渡してあげなさいよ」

「あ……ああ……!?」

手を差し出そうした途端、孝之の腕を水月が掴みました。

「でも、それ渡したら今日はさっさと帰るのよ? 遙も……それはわかって?」

「う……うん」

まるで怒られているかのようにしょんぼりしている遙。

でも何が起きているのかを正確に理解できているとは思えません。

「ご、ごめんな〜……あはは……」

「孝之くん……大丈夫?」

「はは……あんまり。水月の言う通りだ。急はすぐ……ん?」

「…………」

「どうした?」

「…………鳴海……さん」

「え……?」

「今……水月のこと……水月って……」

「え……あっっ!」

咄嗟に体を退ける孝之。

その瞬間、抱えていた雑誌が遙のベッドの上に落ちて、写真を挟んでいたページが開かれて…。

「あ…………」

「え?」

「え?」

「…………え?」

孝之の持ってきた花より先に写真を手にとる遙。

「ま……待て!」

「…………この写真…………何?」

「え……?」

「2001年って…………何?」

「あ……」

遙の目は写真と雑誌、そして孝之達を交互に見ていて…。

「は……るか……」

誰も動けない。

孝之も口を挟むタイミングがわかりません。

「…………え? 水月?」

「…………」

「茜……?」

「…………」

再び写真に目を戻す遙。

「……ここにいるのは……みんな……」

ゆっくりと顔が孝之達の方を向く。

「…………だれ?」

「!?」

熱で熱いばかりの孝之の身体に、ぞっと冷たいものが走りました。

「……ちょっとごめん」

やっとモトコ先生登場。

「え……? なにこれ? 一体どうなってるの!? みんな……どうしちゃったの!? ねえ! 2001年って……何!? なにっ!?」

「は、遙っ! 落ち着け!」

「やめてっ!!!」

遙を落ち着かせようと手を伸ばした孝之ですが、遙は花をはぎき飛ばしました。

孝之の手から花束が飛び、孝之自身も後ろにはぎき飛ばされてしまいます。

孝之の背中を支える水月と、呆然と様子を伺っているだけの茜。

「私……私……なにこれ!? 何よ、この髪っっ! 今は一体……いつなのよっっ!」

「落ち着いて」

「嘘……嘘よ……みんな冗談ばっかり……」

絶望に打ちひしがれた表情で遙が孝之達の方を向きます。

「……本当、に?」

「…………」

静かにうなずく孝之。

「……3年……経った……のね?」

「……そうだ」

「孝之くん……水月って…………まさか……」

「……すまない」

まるで崩れ落ちていくようにベッドに倒れこむ遙。

もうその瞳はどこも見ていない。

 

オレは……結局、オレが全部……いつでも、今も。

オレが遙を壊していく……遙の全てを……奪っていく……。

オレが全部。

オレが全部……奪い、壊し、踏みにじる。

他の誰でもない。

オレが…………オレが…………。

 

自分が立っているのか、寝転がっているのかもわからない。

「孝之!?」

水月の呼びかけも孝之の頭には届かず。

 

オレが全て壊したっっ!!!

 

そして孝之の意識は途絶えるのでした。

 

………………はぁ。

確かに遙の時と全く同じ展開なんですけどね…。

それでも辛いもんは辛いんですよ。

この後の孝之の夢にしてもそうです。

孝之と遙が本当の意味で付き合い始めて間もない頃の夢。

孝之の部屋に来て、お互いまだ苗字でしか呼び合えなくて。

汚い孝之の部屋を一緒に片付けて。

出てきたエロ本を慎二のせいにして。

お互いに名前で呼び合うようになれて。

そのあまりにも幸せな記憶が…余計に辛くて。

その後は水月と知り合って間もない頃の夢。

なにやら戦闘服っぽい制服の水月。

微妙にセンスを疑う白陵の冬服です。

一緒にCDを買いにって、水月は遙のために孝之の気持ちを探ったりしてて。

突然降ってきた雨に上着を水月に貸してダッシュする孝之。

きっと遙はこういう孝之の優しさを好きになったのでしょう。

そしてこれは水月との友情の始まり。

 

目覚める孝之。

どんな夢だったかは覚えていませんでしたがとても懐かしいものだったことだけは覚えていました。

孝之の頬を涙が伝います。

 

その後、遙が再び起きない眠りに入ったことを知らされます。

特別に入らせてもらったICUで見た遙の姿は3年前と同じ姿で。

孝之は自分の愚かさ、非力さを思い知るのでした。

 

水月と一緒に病院から帰る孝之。

駅で水月と別れて部屋に帰って冷蔵庫を開ける。

そこには水月が買ってきたと思われるみかんや桃の缶詰など色々なものが。

水月はこれらを買いに出た時、どんなことを考えていたのか。

きっと純粋に孝之に喜んで欲しくて。

孝之がそれを食べて何て言うか、どんな顔をするか、そんなことまで想像して。

でも帰ってきたら孝之はいない。

慌てただろう。そしてどこに行ったのかが簡単に想像できて…悲しかっただろう。

そうまでして遙の病室に行って、自分は何をやったのか。

 

バカがっ!!

 

冷蔵庫の扉をたたきつけるように閉める孝之。

遙も回復してきていたし、茜も笑顔を見せてくれるようになってきていた。

少しだけ全てが前向きに進んだと思っていたのに。

でも全て馬鹿な勘違いだった。

 

頼む!! 遙を助けてくれっ!!

そしたら……そしたらオレ、今度こそちゃんとするから。

全部ちゃんと考えて、態度はっきりさせるから!

だから、頼むから遙を……殺さないでくれ!

殺さないだけじゃない! 頼むから、また何年も眠っちまうなんてこと……なくしてくれっ!!

ちゃんと、ちゃんと、目覚めさせてくださいっっっ!!!

 

「頼む……お願い……お願いします……遙を……」

 

遙が目覚めることはわかってます。

わかってますが…。

何でまた涙を流してるんですか俺?

辛い…辛いんだってばこれ……。

 

昔の夢。

孝之と慎二、水月の3人が仲良くなり出した頃。

孝之と水月の2人が付き合ってるものだと冷やかしてくる女生徒達。

孝之との距離をとろうとする水月ですが、孝之にしてみればいい気持ちじゃありません。

この水月の態度はきっと遙を思いやってのことなんでしょうか孝之はそんなこと知らないから。

友達だと思っていたのに、と孝之。

水月も辛いところです。当然水月も孝之と同じ気持ちだったのだから。

そしてあの校舎裏の丘に登る孝之。

そこの樹は学園名物「告りの樹」らしいです。

そこで告白するとうまくいくとか。

まぁ明らかに「ときメモ」のパクリなんですが。

ひょっとして遙がこの場所で孝之に告白したのもそれがあったからなのかな。

孝之がいつもいる場所、っていうのもあったと思うけど。

1人でそこにいた孝之のところにやってきたのは水月でした。

素直に謝ってきた水月。

孝之は自分も反省して無事仲直りをする2人。

似たもの同士の水月とは長い付き合いになることを予感する孝之でした。

 

翌日。

バイトを休んで病院へ。

当然また目覚めていない遙とは会うことができません。

そこで会ったのは不安に押しつぶされそうになり、打ちひしがれた茜。

そんな茜を元気付けるまではいかないにしろ、自分を保つよう言い聞かせる孝之。

 

自分の部屋に帰る孝之。

マンションから出てきた慎二に会いました。

自分を責めるのはやめろ、と慎二。

3年間積み重ねてきたも物を平気で捨てるようなことはして欲しくない。

水月を大切にしろ。

そう言って慎二は去っていきました。

 

昔の夢。

まだ中学生(と思われるが倫理上語られない)茜とじゃれあう日々。

あの丘で撮った写真を受け取りに慎二と会う約束をする孝之。

翌日は遙と絵本作家展に行く約束がありました。

でもそれは守られることのない約束となるのでした。

 

翌日。

モトコ先生から遙が目覚めたという連絡を受けます。

病院に行くと遙が3年という時間を認識していて、かつここ2週間の記憶が無いことを知らされます。

 

孝之には果たさなくてはいけない約束があります。

水月と付き合っていることを遙にちゃんと説明する、という約束が。

遙がちゃんとした形で目覚めたのなら。

その約束は果たされなくてはいけないのです。

 

そう決意して遙の病室へ向かう孝之。

3年という時間を感じる遙。

結局この日は何も伝えず仕舞いでした。

 

遙の本当の目覚め。

これで時間が……動き出す。

 

翌日は久々にバイトへ。

あゆやまゆ、健さんも相変わらずです。

やっぱあゆはいいなぁ。

まゆもいいけど。 (←節操無さ過ぎ)

 

そして病院へ。

何やらモトコ先生や茜、遙まで含みのある表情をしています。

一人で考えたいことがある、という遙。

きっとこれは孝之に彼女でももうできているのはないか、と考えたからでしょう。

それが水月ということにも気付き始めているのかもしれません。

確か水月も孝之に黙って見舞いにきているはずでしたから。

それについて茜やモトコ先生に質問とかしたから、あの2人はあんな態度に。

まぁ予想ですが。

 

翌日。

6時という時間を指定されて病院になってきた孝之。

すると水月もきていました。

そこで初めて水月も毎日のように見舞いに来ていたことを知らされます。

そしてこの時間指定は遙のお願いだったことも。

 

遙の病室へ行く2人。

そこで遙の口から出てきた言葉。

「…………孝之君と水月は……付き合ってるんだよね?」

思わず顔を見合わせる孝之と水月。

「べ、別にッ! その……何がどうってわけじゃなくて……何て言うか……確認っていうかっっ!!」

「……だ、誰かが……そんなことを言ったの?」

「え? あ、ううん……違うよ。誰にも……聞けないよ、こんなこと……」

「…………」

予想は見事に外れました。

っつーかこのくらい覚えてろよ、俺。

前の日記見たらちゃんと書いてあるし、このこと。

「でもっそのっ……話をしてるとわかるっていうか……感じるっていうか……」

「遙……」

「あっ! 別にね……もうしそうだからって、責めようとか、怒ろうとかそういうんじゃなくて……えっとええっと……」

「…………」

「そ、そう! 私たち友達じゃないっ! この3年で何が起きたのか……知りたがったって……だめ?」

孝之達2人の顔を交互に見比べている遙。

孝之も遙と水月の顔を交互に見比べています。

それは水月も同じ。

そうやってお互いを牽制しあっている3人。

言うなら今しかありません。

水月との『約束』を果たすのは。

でも今それを言ったら遙はどうなるのか…。

 1、その通りだ

 2、…………

遙には辛い選択なのかもしれません。

いや、確実に辛いはずです。

でも先に延ばすことでいいことなんて何も無い。

言うなら今しかありません。ないのです。

「その通りだ」

「!?」

「…………」

今ごまかしたら、次に本当のことを言うとき謝るところから始めなければなりません。

それはあまりにも酷。

だったら今しかない。

「…………」

「…………」

病室に沈黙が流れました。

「……はぁ……」

涙を浮かべる遙。

「仕方……ないよ。もう3年も……経ってるんだから……」

「遙……」

「それに……ほら、私覚悟決めてた訳だからっ! なんか、やっぱりね〜って感じ!!」

もう遙に涙はありません。笑っています。

この無理に明るい素振りが逆にめちゃくちゃ心に痛い訳で…。

「んもう、孝之君も水月も、言ってくれないんだもんなあ……でもね、バレバレだよっ!」

「そ、そうか……」

「そうだよぉ……特に水月なんか、もう、演技下手だね」

「…………」

「ほらほら、笑ってよ、水月っ」

「…………」

「今更私が言うのも変だけど………………孝之君のこと……よろしくね」

「……遙……」

「……でもねでもねっ! その代わりと言ったらなんだけどぉ……」

「……なに?」

「…………わ、私のこと……」

急に表情が曇りだし、見る見るうちに目から涙があふれてきた遙。

「ふたりの……ううん、ふたりと平君の……友達で…………いさせて欲しいの……また4人で……」

「!?」

「ほ、本当は……そういうのダメだと思うんだけどっ…………その……私……」

「な、何がダメなもんかっ!! そんなこと……心配するなよっ!!」

「…………」

「言うまでもないことだろっ!? オレたち、いつまでもずっとずっと……友達だ! なあ?」

唇を噛み締め、必死に泣くのをこらえながらもコクリと頷く水月。

孝之も辛いのです。

遙のことを『友達』だと自分の口から言うのが、どれだけ辛いか。

「……ありがとう……安心……した」

しばらく続いた沈黙の後、遙が口を開きました。

「また……来てくれる?」

「え!? そんな……オレたちこそ……また来ても……いいのか?」

「えっ!? も、もちろんよっ!」

これは解決なのか。

解決ってなんのか。

そんなことを考える孝之。

「孝之君?」

「あ……」

不安げな遙に、窓の外を見ている水月。

「…………」

「…………」

「…………」

「また……来るよ」

「……うん……」

「帰ろう……」

部屋から出ようとする孝之と水月。

ふと遙が水月を呼び止めました。

「あ、水月……」

「え……」

「また……来てくれる……よね?」

「…………うん」

「ずっと……友達だよね?」

「…………うん」

ドアノブに手をかける水月。

「……それじゃな」

「うん……」

 

廊下を歩きながら孝之は水月のことを、正直『冷たい』と思っていました。

もっと遙にかけられる言葉だってあったはずだ、と。

でも前を歩いている水月の後姿をみるとわかるのです。

溢れそうになっている何かの感情を、必死に抑えながら自分を保っていることが。

 

病院を出て、それでも孝之の前を歩き続ける水月。

近づいて前に回りこむ孝之。

「おい、水月さ…………」

そこで孝之は気付きました。

水月の顔が、涙でぐしゃぐしゃだったことに。

「……りが……う」

「え……?」

「ありが……とう……っくぅ……」

水月は涙を拭おうともせず孝之の胸に顔を埋めました。

「……水月…………」

「うわああああ…………」

孝之の胸に顔を押し付けて、声を上げて泣き出した水月。

不安だったのでしょう。

孝之が遙の元へ帰ってしまうのではないか、と。

でも孝之はちゃんと言ってくれた。

水月と付き合っていることを遙に。

それがうれしくて、水月の涙は止まらないのです。

それは孝之もわかっています。

わかっていますが…考えていることは違いました。

遙に言ったのは水月と付き合っていることだけで、遙より水月を選んだなんてことは言ってない、と。

史上最強の最悪野郎の言い草です。

気持ちはわからないでもありませんがそれはないでしょう。

あの展開でああ言ったら誰でも水月を選んだんだと思います。

事実、遙もそう思ったし、水月もそう思ったから泣いているのです。

孝之はそれもわかっているのです。

そして苦しんでいました。

つまりいつも展開です。

遙の時バリの優柔不断さをみせつけてくれそうな展開が見えてきました。

 

駅を降りて別れる2人。

てっきり孝之の部屋に来るもんだと思われた水月ですが、今は胸がいっぱいだから、と帰って行きました。

最後までお礼を言いながら。

別れ際。

「ねえ……孝之」

「なんだ?」

「遙のお見舞い……行くよね?」

「え?」

「いくら……今日のことがあったからって…………行ってあげるよね?」

「…………」

「……私からもお願いする。遙のお見舞い……行ってあげて」

「………………ああ」

そう言って帰っていった水月。

 

こう言っては何ですが。

水月がこんなこと言えるのは孝之が水月を選んだ(と思ってる)からだと思うんですよ。

つまり心に余裕ができたから。安心できたから。

そうでもなきゃこんなこと絶対言わないと思います。

孝之もそれはわかってるみたいですが…。

 

昔の夢。

水月と付き合い始めて初めてのデート。

水族館に行って、売店でイルカとタコのマグカップを買って。

帰りに会った、昔の知り合いに『水月』と名前で紹介して。

2つのマグカップは孝之の部屋に置かれることになって。

幸せだった頃の記憶。

 

翌日。

バイトが終わった後に慎二を誘って遙のお見舞いに。

孝之が慎二を誘うなんてのは非常に珍しいことで慎二もそのことに驚いている様子です。

「その……確認っていうか……そのさ……」

「……ハッキリ言えよ。いいって、気にすんなよ」

「……今の話を聞いてると、オマエ、結局は速瀬を選んだ……選ぼうとしてるってことで……いいんだよな?」

「…………かもな」

そう言う孝之の口調に力はありません。

そんな孝之の考えてることを慎二は理解しています。

今持っている気持ちは、今だけのものじゃないか、と言う不安。

慎二はそれでもいい、と言います。

それでも先に進んでいる、と。

 

病室にて。

遙は孝之だけでなく慎二も来てくれたことを素直に喜んでます。

バカ話に花を咲かせる3人。

その中でふと遙が慎二に聞きました。

孝之と水月はどんな感じなのか、と。

興味津々といった感じで無邪気に慎二に尋ねる遙。

「…………うまくやってるよ」

「慎二っ!」

「涼宮のこときにかけながら、何て言うのかな……その分幸せになろうとしてるっていうか……そんな感じに見えるよ」

「……そう……なんだ……」

「それが涼宮にとってどうかっていうのはさ……正直、何をしてもつきまとう問題だしさ……」

「……うん」

「オレは……その中でもそれなりにいい流れだとは……思ってるんだけどね……」

「…………」

「そ、それよりさっ……」

「……そうだね」

話題を変えようとする孝之を無視する遙。

「うん! 私もそう思う。孝之君と水月ならお似合いだもんっ!」

…………。

だからもう無理に毎日来なくてもいい、と孝之に言う遙。

ここに来る時間があったら水月と一緒に過ごせ、と。

「おいおいおい、待てよぉ! オレ、無理なんてしてないって。何言い出すかと思えば……そんなこと全然ないんだから気にするなよ〜〜」

孝之は焦っていました。

好き勝手に見舞いに来られない状況ができあがってしまうことに言いようの不安を感じて。

ちょうどそこにノックがして入ってきたのは蛍さんと文緒さん。

車椅子を押してます。

「姉さん、時間……」

文緒さんの後ろから顔を出したのは茜。

この日から少しずつリハビリをやる、というのです。

「というわけでぇ〜……」

「涼宮さんをだっこしてみたい人っっ!!」

し〜〜〜ん

「あれ? ……れれ?」

こんな時になんですが蛍さん、かわいい。

「あの、全然話が見えないんですが……」

そう言う孝之に文緒さんが説明します。

つまり遙を車椅子に乗せるんだ、と。

「彼氏ぃ、どう?」

「え……あ……っと……」

「は、恥ずかしいからいいよぉ……あ、茜……いい?」

「……いいよ」

孝之の脇をすり抜けて遙のところに行く茜。

そのそっけない態度は、何か感じるところがあったのかもしれない、と孝之。

「なんだぁ、遠慮しないでやってもらえばいいのに……」

「ううん、いいんです。ね、孝之君」

にっこりと孝之に笑いかける遙。

「え……あ、ああ……」

孝之は曖昧な返事しかできませんでした。

 

茜は孝之が水月を選んだ(今後二転三転する展開はミエミエですが)ことを知ってるのでしょうか。

例え知らなくても先ほどの場の雰囲気で気付いたのかもしれません。

『何か感じるところ』と言うのはそこなんでしょう。

果たして茜は孝之と水月のことを許してくれるのか…。

それがないとハッピーエンドにならないと思うんですよね。

遙だけじゃなくて、茜も。

みんなに認められて初めて幸せになれるんじゃないのか、と思うのです。

全然関係ありませんが、遙が孝之を呼ぶ時って2通りあるんですよね。

最初に目覚めた時から再び眠りにつく時まで、つまり記憶が曖昧な時は『孝之くん』。

2度目の目覚め以降、つまり正常な状態になったら『孝之君』。

要するに『くん』と『君』の違いってだけですが、なんとなくその時の遙の状態を表していて上手いな、と思いました。

気付くのは結構遅かったんですが…。

 

「これも……ひとつの結論だと……思うよ」

病院を出て慎二が言いました。

遙は遙なりに先に進もうとしている、と。

今までは余計なことを言ってボロを出すとマズイを思って殆ど見舞いにこなかった。

けどもうその心配はなくなった訳だから自分も顔を出すことにする、と慎二。

言い訳臭いことこの上ないですが言いたいことはわかります。

「これからをオマエが全部背負い込めなんて思ってない」

「…………」

「オレもできるだけ力になる。だから、今の道、頑張って進んでくれ」

「…………」

「ほら、何かに背中を押されないと、出せない勇気もあるだろ?」

「……」

「オマエの背中、押してやるひとりに……なりたいんだ」

 

 

慎二、超カッコイイ。

とても以前(?)、孝之にフラれた水月とヤっちゃった男には見えません。

水月以上にシナリオによって印象が全然違います。

特に愛美さんルートの時は最悪だった…。

セリフに慎二用の色、用意してやればよかったかな。

と言うか、慎二が男気を発揮するので殆ど水月絡みなんですよね。

そう考えるとこのカッコよさも疑いたくなってしまうのですが、今はそれでいいんです。

間違いなく孝之を支える数少ない人間の1人なんですから。

 

家に帰った孝之は押入れの整理をしていました。

それは遙との思い出の整理。

遙も、慎二も、孝之と水月の未来を応援してくれている。

そのためにも自分にけじめをつけなくてはならない。

そう思って押入れから段ボールを引っ張り出します

ですがそこにあるのは当時を思い出させこそすれ、遙に直接つながるものではありません。

ただ1つを除いては。

『マヤウルのおくりもの』

遙との出会いのきっかけでもあり、あの日にわたせなかった絵本。

その本には強烈なパワーがありました。

孝之を遙の方に向かせてしまうパワーが。

これを捨てるのか。

捨てなければならないのか。

考えに考え抜いて…孝之は冷蔵庫脇の雑誌の山の上に置きました。

言いようのない怒りがこみ上げてきながらも。

混乱しながらベッドに倒れこむ孝之。

 

…………疲れたよ。

 

暗くなってからインターホンの音で目が覚めた孝之。

ドアを開けるとそこにいたのは水月と慎二。

慎二が持っていた袋にはビールがたっぷりと入ってます。

「飲もうぜ?」

「はあ!?」

次の日は当然バイトが。水月だって仕事です。

「何言ってんだ! お前なあ…………」

「まあまあ、硬いこと言うな。少しだけだから」

仕方なく2人を部屋に入れる孝之ですが、ふと水月の視線に気付きました。

水月の視線は冷蔵庫脇、『マヤウルのおくりもの』に。

その表情は困惑していました。

絵本のことは知らない慎二。

酒を飲みながら慎二に説明しました。

その同情しているような様子を孝之はあまり素直に受け取りません。

遙との出会いのきっかけで、あの日にようやく見つけることができた本。

そこにどれだけの気持ちがこもってるか、それは絶対に理解できない、と。

同時にそんな風に考える自分にも。

そんなに遙とのことにけじめをつけるのは嫌なのか。

遙とことをふっきろうとしたのは自分自身が納得したからじゃないのか。

 

なのに、こんな他人を責めるような……。

 

「孝之?」

「ああ、何でもない」

「……まあ、オマエがそんな風になってるのが予想できたからこそ、オレたちゃここにいるわけで!」

「…………」

「ほらほら、速瀬さん、孝之君にお酌して、して!」

「う……うん。はい、孝之……」

「いい眺めだなあ……うんうん。オマエら絵になってるよ」

「……ばか」

「……心配すんな。オレは……ふっきれてるよ」

「…………」

「…………」

どうみてもふっきれてないです。

どうなることやら、ですね。

 

ふと目が覚めると部屋には誰もいませんでした。

時計を見ると夜中の3時。

水月も慎二も帰った後です。

ふと絵本が目に入った孝之。

思いは3年前の遙と過ごした時間に。

楽しかった。

それは間違いありません。

でもあの時間は今こうなってしまうためにあったわけではありません。

そして遙は仕方ないよ、と言ってくれました。

その言葉は今の孝之にとって何よりの救いの言葉。

水月との関係を隠さないでよくなったという安心感。

そのことが遙のその一言で片付いたという安心感。

だからこそ、もうこれ以上遙を悲しませるわけにはいかない。

 

あいつの気持ちを……無駄にしちゃいけない……んだ。

無駄にしちゃ……絶対……遙の気持ちを………………。

 

涙がこぼれる孝之。

ベッドに身を投げるようにして強引に眠りにつこうとします。

自分を叱咤激励しつつ。

 

孝之は気付いているのでしょうか。

遙のことをふっきろうとしているのは遙のためだと思っていることに。

それは決して水月のためとは思っていないことに。

この様子じゃ…どう考えてもあと一波乱ありますよね。

いや、一波乱ですめばいいけど例によっていつまでもグチグチとやるんだろうなぁ。

 

そんなことを予感しつつ今日はここまで。


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