2002.1.18 「蛍さん…永遠なれ……」編


水月と別れた孝之。

果たして…。

 

翌日。

郵便受けには孝之の部屋の合鍵が入っていました。

それは水月が孝之の寝てる間に置いていったもの。

さすが愛美さんとは違います。

進むしかない。

そう自分に言い聞かせて元気に部屋を出る孝之でした。

 

病院に着くといきなり蛍さんに会えました。

そして何とデートの申し込みが。

当然快諾する孝之。

夜は服を選んだり、と浮かれたまま眠りにつきました。

 

翌日、うっかり寝すぎてしまった孝之。

何とか着替えて待ち合わせ場所はでダッシュ。

今日は蛍さんと楽しいデートです。

 

とりあえず、とりあえず、と言いながらしっかりデートのプランを考えてきていた蛍さんに孝之は思わず笑いをもらします。

時間がもったいない、と走り出す蛍さんの肩に手をかける孝之。

デートってのはこういうのを楽しむもんだ、などと言いますが真っ赤な顔をしている蛍さんを見てつられて緊張。

思わず手を離してしまう孝之はまた肩を抱くチャンスぐらい…などと考えてます。

 

文緒さんお薦めのイタリアンレストランで食事。

その後街を歩いていると蛍さんがいきなり駆け出しました。

何事かと思ったら蛍さんが見つけたのはペットショップの子犬。

キャッキャとはしゃぐ蛍さん。

「天川さんですねっ。犬を飼ったら、蛍って名前にするんですっ」

「自分の名前をか?」

「はいっ。天川さんはがんばる天川さんなんですっ」

『天川さん』は甘えちゃいけない。がんばらなくちゃいけない。

だからわんこは『蛍』という名前にしていっぱい甘やかしてあげたい。

『天川さん』が甘えちゃいけないぶんも。

そう言う蛍さんに孝之は何も言うことが出来ません。

思うに…この言葉が蛍さんの決意の全てを表しているのではないでしょうか。

 

海沿いの公園に来た2人。

今日は楽しかった、と楽しげに笑う2人ですがふと蛍さんの顔が曇りました。

「……あのですねっ。天川さん……今日は、重大発表があるんですっ」

「えっ……重大、発表?」

「天川さん……遠くの診療所へ、行くことになったんですっ」

「そ、それって……転勤か?」

「……いえ……」

『看護婦』としてではなく『患者』として遠くの診療所に。

そんなことは孝之もわかっていました。

でも聞かずにはいられない。

今の病院でいいじゃないか、と言う孝之。

蛍さんは患者さんたちに笑ってる顔だけ見せたい、余計な心配はかけたくない、と言います。

蛍さんがこう言うのも孝之にはわかっていました。

なぜなら蛍さんは自分のことより他人のこと。そういう子だから。

「体の、具合……かなり悪いのか?」

「あっ……いえっ。一応、念のためですよっ。検査入院もかねて、なんですっ」

これも嘘。

蛍さんだったら普通に動ける限界ギリギリまで働こうとするだろうから。

孝之はわかりきったことばかり聞いています。

それは嘘でもいいから蛍さんの口からプラスにつながる言葉を聞きたいから。

そしてキスをしようとする孝之。

でもそれを蛍さんは拒絶しました。

「やっぱり……デート、鳴海さんに頼んじゃダメでしたねっ」

「……………」

「天川さん……またまた遙ちゃんに、悪いことしちゃいました……」

「……遙は、関係ないだろ?」

「なんでですかっ? だって、遙ちゃんは鳴海さんのっ……」

「オレは!」

「えっ……」

「オレの、気持ちは……もう遙にはないんだ」

「……………」

「天川さん、オレ……」

「……………………」

もう止まることなどできない孝之。

「お、オレ……」

「……………………」

「オレっ、天川さんが……」

「……言わないでッ!」

「言わないで……下さいっ……」

みるみる涙がたまっていく蛍さんの瞳。

蛍さんは言います。

してみたいことがいっぱいあった。

せっくすもデートも。

でも『好き』だけはいやだ。

それは今まで頑張って堪えてきたのに、いろんなことがいっぺんに怖くなってしまいそうで。

だから『好き』だけは経験したくない、と。

泣くことすら堪えてきた蛍さんが孝之の前で泣いています。

今まで蛍さんを心配するふりをして、助けられてばかりだった自分。

そんな自分にできること。

それは自分の気持ちを閉じ込めること。

蛍さんが好きだという気持ちを…。

そう孝之は思うのでした。

 

うううっ……。

蛍さんも辛い…孝之も辛い……。

人を好きになることが苦しみにつながるなんて……そんな……。

 

翌朝。

孝之は蛍さんにおまもりを返そう、と考えます。

それが少しでも蛍さんに、無理してじゃない、本当の笑顔をもたらしてくれるのなら、と。

 

どこにも蛍さんの姿が見えないので屋上に行ってみるとそこには文緒さんがいました。

そして文緒さんからもう蛍さんはいなくなってしまったことを聞かされます。

孝之に何も言わずにいなくなってしまった蛍さん。

自分はその程度の存在だったのか。

少しでもワガママを言って欲しかった。

もっとムリをしない、素顔の蛍さんを見せて欲しかった。

「……星野さんは、いつから知ってたんだ?」

「……あいつの、爆弾のこと?」

「あ、ああ……」

「あたし、あいつと同期だもん。同じ寮に住んでりゃ、嫌でもわかるわよ」

「……そっか」

「まあ、さ……あいつ、いっつも無理してたから」

「これを期に、ゆっくり休めば……意外と、あっさり治っちゃうかもね。ははっ……」

そうだと願いたい孝之。

そして文緒さんから渡されたのは蛍さんからの手紙。

騒々しいキャラクターのかかれた少女趣味な封筒。

中には小さくて几帳面な女性の字。

そこに書かれていたのは黙っていなくなってしまったことの謝罪。

『さようなら』ではなくて『またね』であること。

手紙を書くので気が向いたら孝之も手紙を書いて欲しい、ということ。

遙とも仲良しでいてください、と。

そして最後には……『笑顔ですよっ!』。

……………。

天川さん……。

オレ……笑顔なんて、できないぞ。

天川さんがいてくれなきゃ……お守りなんて、意味ないんだ。

だから……天川さん……。

 

帰り際。

「じゃあね、彼氏……」

「……あっ、そおそお〜!」

「えっ?」

「この『彼氏』は、天川の『彼氏』って意味だからねっ!」

「ん……了解」

「ふふっ、またね。彼氏!」

『天川さんの彼氏』

その言葉が、まるで勲章のようにキラキラと孝之の胸に響くのでした。

 

天川さんがいなくなって2日。

早くも禁断症状気味の孝之。

そんな孝之の部屋にやってきたのは慎二でした。

水月と別れたことをたまたまコンビニで水月と会って知ってしまったのです。

そのことで孝之を責めるのかと思いきや…話は変な方向に。

「まあな……速瀬みたいないい女が、お前一筋なんて。おかしいと思ってたけどさ……」

とてつもなく失礼なことを言ってますが要するに慎二、誤解してます。

水月の方が孝之をフったんだと。

でもそんなことはどうでもいいのです。

今の孝之は蛍さんに連絡も取れないような状態に不安を感じているのですから。

……体の具合は、大丈夫なのか。

元気にしてるのか?

はやく……はやく、戻ってきてくれ……。

この腕に、抱きしめさせてくれ……。

せめて……。

せめて、連絡手段だけでもくれ……頼むよ、天川さん。

……好きなんだよ。

君が……好きなんだよ。

 

慎二を引っ張りまわして飲みに行ってフラフラになって帰ってきた孝之。

ですがそんな酔いも家に帰ったらふっとんでしまいました。

それは蛍さんから手紙が届いていたから。

内容は診療所に着いたこと。

そしてとても素敵なところであり。こんなところでゆっくりできたら、きっと元気になれる、などが。

封筒の裏には診療所の住所も記されています。

「……おっしゃ!」

早速返事を書き始める孝之でした。

 

う〜ん、蛍さんと遠距離恋愛か…。

でも…一抹の不安が……拭えません。

 

数日後。

バイトに行こうとした時にちょうど蛍さんからの返事が届きました。

内容は差し障りの無い内容でしたが孝之にはちょっとひっかかる点が。

『季節の変わり目は、身体にさわりますから……。』

『鳴海さん、健康には重々お気をつけてくださいね。』

 

バイト中も気になって仕方の無い孝之。

結局バイトを途中で抜け出して蛍さんの下へ駆けつけることにしました。

健さん、ナイスです。

待っていれくれなくてもいい。

少し顔を見て、具合を確認するだけでいい。

オレが……オレが、天川さんに会いたいんだから……。

 

蛍さんはかなり遠いと言っていた診療所。

でも実際には新幹線などもあり、3時間もあれば行ける場所でした。

診療所についた孝之は蛍さんの病室の場所を聞きます。

その診療所の女性は蛍さんのことを『蛍ちゃん』と呼びました。

『天川さん』ではなく『蛍ちゃん』

そのことに軽くショックを受ける孝之。

孝之自身はそれを嫉妬だと思ったようですが果たしてそうなのでしょうか。

『天川さん』は頑張らなければいけない人。

『蛍』は甘えられる人。

そこに孝之は何かを感じたのだと思います。

 

蛍さんのいる病室。

逃げ出したくなるような気持ちになりながらドアを開ける。

「あっ……鳴海、さんっ……!!」

そこにいたのは蛍さん。

外見に大きな変化はありません。

ただベッドに眠っている。今までは看護する側だった蛍さんが。

それだけで、何故かおびえてしまう孝之。

そして蛍さんからは照れだけじゃなく、狼狽のようなものも感じます。

迷惑だったか聞く孝之。

それに対して蛍さんは叫びます。

こんな姿を見られたくなかった、と。

恐れていたことが的中した、と孝之は愕然。

自分は蛍さんにとって心を許せる相手ではなかったんだ、と押し寄せる後悔。

やはり蛍さんのためを思うなら、自分の気持ちはセーブするべきだった。

でも…。

「ここの人たちは……天川さんのこと、蛍って呼ぶんだな」

「えっ……?」

孝之の怒ったような声。

自分を最悪な男だと思いながらも止めることができない孝之。

「怒ってる……ですかっ?」

「……オレは、呼んじゃダメなのか?」

「………………」

「……ダメ、ですっ」

「……どうして、オレじゃダメなんだよっ!」

「鳴海さっ……」

「そんなに、オレは頼りないかよっ!?」

「……違う……」

「なにが、違うんだ?! ペットショップで言ってたよな。蛍は、甘えられる存在なりたいんだっ……」

「…………」

「甘えてくれよ、わがまま言ってくれよ! オレは、お前の特別な存在になりたいんだっ……」

「…………蛍っ!」

孝之は『蛍』と口にした瞬間、目を閉じ、両手で耳を塞ぐ蛍さん。

「呼ばないでくださいっ……」

「嫌だ!」

嫌だ。

そうだ、嫌だ!

耳を塞いだって、叫んでやる! 目を閉じたって、こじ開けてやる!

 

「蛍………蛍っ!」

「呼ばないでっ……!」

「蛍…………蛍、蛍………蛍っ!!」

「呼ばないで……呼ばないでえっ!」

俺が「ちょっとしつこいかな」と思ったその時。

何かに弾かれるように蛍さんは孝之の胸に飛び込みました。

その蛍さんの目には大粒の涙が。

どうしてわかってもらえないのか、と蛍さん。

孝之に甘えられないのは無理をしてるからじゃない。

孝之に、いいと思ってもらえた自分を、ずっと、ずっと見せたいから。

「だっ、だから……私は……っ!」

いつの間にか自分のことを『私』と蛍さんは呼んでいました。

それは『天川さん』ではなく、一人の『蛍』と言う人間。

「……言っても、いいか」

「えっ……」

「この前、言えなかったこと……今、言ってもいいか?」

「…………………」

何も答えない蛍さん。

でも言葉なんてなくても、もう孝之にはわかっていました。

蛍さんは自分を好きでいてくれる。そして自分も。

長い、長いキスを交わす2人。

うっかりこのままヤっちゃうのかと思いましたがさすがにそれは無かったです。

危ないところでした。

今までの孝之の実績が実績ですから。

 

ドンッ!

突然孝之を突き飛ばす蛍さん。

「わっ……!」

「……もう、帰ってくださいっ!」

「ど、どうしたんだよ。いきなり……」

「……言ってほしく、なっちゃいますっ!」

「えっ……」

「このまま、こうしてたら……言ってほしくなっちゃいますっ……」

それは『好き』という言葉。

それがわかった孝之。

「な〜んだ。オレとしては……言わせてほしいんだけどな」

「ダ〜メ、ですっ! ……ふふ……」

蛍さんの笑顔。

でもそれは今までのような満面の笑顔じゃありません。

もっと優しくて、もっと脆くて、本当の蛍さんの笑顔。

「わかった。じゃあ……また、来るよ」

「………………」

「……蛍?」

「あのっ……さっきの、言葉……」

「えっ?」

「ここを、退院したときに……言ってくださいっ!」

「……蛍……」

「……わかった」

「鳴海さん……」

「さっさと、退院しろよ……早く言いたくて、ウズウズしてんだからな!」

「は、はいっ……!」

 

2人は今始まりました。

いつでも会える距離。

でも次に会うのは蛍さんが退院した時です。

オレたちには、先があるんだ。

ずっと続いていく、道が。

オレと、蛍。

二人で、肩を並べて歩く道が……。

 

………………感動です。

感動ですが…非常に不安でもあります。

孝之と蛍さんのセリフが…かなり不安感を募らせてくれます。

なんか遙とのおまじないと通じるものがありますよ…。

 

それからと言うもの、朝一番にポストを覗くのが習慣になっている孝之。

蛍さんとの手紙のやり取りが孝之の元気の源になってるようです。

そのままの勢いで遙のお見舞いへ。

 

病院の廊下を歩いていると誰かの歌声が聞こえてきました。

遙の病室のドアを開けると遙の軽快なハミングが孝之を迎えました。

ハミング…っつーか鼻歌。

しかも廊下まで聞こえる鼻歌ってどんなよ?

でも鼻歌が出るのも仕方ありません。

何と遙が明日から自宅療養に切り替わるというのです。

喜ぶ孝之。

明日病室を片付ける約束をしました。

そして孝之は決心をします。

遙が退院するのなら…言わなければならない、と。

水月とのこと。そして蛍さんを好きなことを。

 

帰り際に中庭で文緒さんに会いました。

今夜飲みに行こうと誘う孝之。

でもオトコとデートだ、と断られてしまいました。残念。

文緒さんの動揺っぷりがやけに気になります。

 

そしてこの日も蛍さんに手紙を書いてから眠りにつく孝之でした。

 

翌朝。

毎日届くはずの蛍さんからの手紙は来てませんでした。

郵送事故か、と気楽に考える孝之。

はたしてそうなのか…。

とにかく、遙の退院の準備で病院に向かいます。

 

「よっ、遙」

「孝之君……忙しいのに、ごめんねっ!」

遙は着替えて待ってました。

すっかり元気になったようです。よかったよかった。

そこに入っていたモトコ先生と涙を浮かべつつ喜びの別れをする遙。

モトコ先生も涙を浮かべてます。

ううっ、感動…。

 

病室を出たところで文緒さんがやってきました。

「よかったわねぇ〜、涼宮さん。おめでとぉ〜」

「はいっ。ありがとございます」

そして文緒さんは孝之の方を向いて言いました。

「お家まで、ちゃんと送ってあげてねぇ……」

「……彼氏!」

軽くウィンクをして去っていく文緒さん。

最後までやってくれるな、と孝之も苦笑い。

そして色々なことがあったこの病院、蛍さんと出合ったこの病院を孝之は遙と出て行くのでした。

 

帰り道。

あらゆるものに目を輝かせながら歩く遙。

孝之もちょっとおどけたような感じで遙を歩きます。

ふと、自分を見つめている遙の視線に気付いた孝之。

「孝之君……なんだか、変わったね」

「へっ?」

遙が視線を落として言いました。

「本当を言うとね。私……ずっと、気になってたんだ」

「えっ……」

「孝之君、いつもお見舞いに来てくれてたけど……」

「なんとなく……すごく、ムリさせちゃってる感じがして……」

「な、なんだよ? そんなこと……」

そうは言いつつも孝之には心当たりがありました。

水月のことや遙のことがあり、全てから逃げ出してしまいたくなっていた気持ちは確かにあったのです。

「でも……なんだか、孝之君……変わった」

「……………」

「なんだか……優しくなった」

「もしかして……ある人の、おかげかもしれない」

「ある人?」

「ああ……オレ、その子から……たくさんのことを学んだっていうか……たくさんの、大事な気持ちを教わった」

孝之は蛍さんから教わりました。

孝之が忘れそうになっていた、消えかけそうになっていた大切な気持ちを。

それは自分じゃない誰かを、心から想う…その気持ち。

「……ねえ」

「ん?」

「その子って……女の子?」

「え? あ、ああ……」

「その子のこと……好きなの?」

……………………。

「隠さなくても、いいよ。正直に、話してほしい……」

まっすぐに孝之を見つめている遙の瞳。

それは孝之を責めている瞳ではありません。

そして孝之は気付いています。

今まで遙についてきた嘘は遙のためではなく、ただ自分を守るための嘘だったということに。

もう保身のための嘘がつきたくない、と孝之。

「………うん、好きだ」

「…………………」

「……………………」

蛍さんには言えないままの言葉。

しばしの沈黙。

でもそれは重苦しい沈黙ではありません。

やがて遙が口を開きました。

「……その子と、つきあってるの?」

「いや…………オレの、片思いなんだ」

蛍さんも自分のことが好きだと言うことはわかっています。

でも『好き』と言う言葉を口にするまでは片思いのまま。

それまでは…。

「……かっこいいね」

「えっ?」

「やっぱり、孝之君は……かっこいいや」

涙を浮かべながらも笑顔の遙。

「私が、好きになった人だもん。当然かぁ、へへっ……」

…………………。

「……ねえ」

「ん?」

「恋人じゃ、なくてもいいんだ。ずっと……仲良く、してくれる?」

くしゃくしゃっと遙の髪を撫でる孝之。

「……きゃっ!」

「アホ、あたりまえだろ〜が!」

「あっ……。ふふっ……うんっ……!」

遙は確かに笑顔でした。

 

うううっ…遙……遙……。

きっと遙は幸せになれるよ! 絶対なれるよ!!

なれなきゃ嘘だって!!

こんなにいい娘なんだからさぁ!!!

でなきゃ俺が幸せにしてやる!!!!

 

孝之が家に帰っても蛍さんからの手紙は来てませんでした。

さすがに不安になる孝之。

まさか具合が悪くなったのか。

前日の手紙じゃだいぶ元気になったみたいだったのに。

「……蛍……」

そして蛍さんに手紙を書き出しました。

遙が退院して自宅療養になったこと。

1日でも手紙が来ないとドキドキしてしまう情けない自分のこと。

あきらかに催促みたいですがそれでも構いません。

なぜなら催促なのだから。

孝之は手紙でも何でもいいから、どんな形でも蛍さんとつながっていたいのです。

 

2日後。

まだ蛍さんからの手紙は来ないままです。

これで手紙が途絶えてから3日目。

心配で胃が痛くなる孝之。

いっそバイトを休んで診療所に行ってみようか、とまで考えます。

もし蛍さんになにかあったら…とそこで孝之は考え直します。

蛍さんを信じよう、と。

蛍さんはもう自分にとって『天川さん』じゃないはず。

もし大変な状況にあったなら頼ってくれる『蛍』のはずだ、と。

そう思いつつ孝之はバイトに行くのでした。

 

バイト中、そしてその帰り道で孝之は、仕事や自分の将来のことを考えます。

多くの客や、情熱を持って仕事をしている健さんを見て。

そしてなにより一生懸命に看護婦として生きていた蛍さんを思って。

思えば過ぎていく時間から逃げるように、ただ漠然と毎日を過ごしていた自分。

蛍さんに会うまでは。

……蛍につりあう、男になりたい。

蛍が、安心してすべてを任せられるような男に。

 

孝之は確実に成長しています。

今までの孝之の中でもピカイチです。

 

家に帰ると蛍さんからの手紙が届いていました。

安心する孝之と俺。

手紙の内容は点滴を打つ腕が左腕から利き腕の右手に変わった、ということでした。

だからしばらくは字が上手に書けません、ごめんなさい、と書いてあります。

何でも点滴はずっと同じ腕じゃダメなんだそうです。

左腕でこれだけの文章を書くのは大変です。

それでもわざわざ書いてくれたのは孝之が催促したから。

蛍さんに甘えてほしいなんていいながら、甘えまくってる自分にちょっと反省する孝之。

さっそく謝罪の手紙を書くことにしました。

できたのは全体的にアホさが滲み出てるような手紙。

孝之は手紙じゃ言いたい事の100分の7も伝えられない、と嘆きます。

……この手で、蛍を抱きしめられたら。

一番はやいのにな……。

 

その後、蛍さんからの手紙は3日おきぐらいの間隔で届くようになりました。

手紙の内容は日常を綴ったほんの些細なこと。

でもどんな些細な内容でも、どんな短い内容でも、込められた想いが自分のもとに届いている。

それがが孝之には嬉しかったのです。

蛍さんのことを考えるだけで孝之の心は満たされます。

彼女が考える「オレ」に、オレはなりたい。

彼女が望む「オレ」にオレはなりたい。

そう孝之は思うのでした。

 

ある日。

ポストに手紙が入っているのを発見する孝之。

突然蛍を訪ねてから、なんだかんだと1ヶ月……。

秋と言うにはまだ残暑が厳しくて、実感も何もない。

と孝之は思ってますがちょっと待ってください。

この日の日付、「9月9日」って出てましたよ?

そして蛍さんの診療所を訪ねたの「8月30日」。

明らかに日付が変です。まぁいいけど。

一応頭の中で「10月9日」に変換しておきます。

 

早速手紙を読むことに。

そこには診療所の中庭では犬が飼われていて、一緒に散歩に行った、とありました。

ふと違和感を覚える孝之。

診療所で犬を飼っていると言う話題は確か前にもしたはず。

そしてその時は『わんこ』と呼んでいた、と。

そしてもう1点。

相変わらず蛍さんの字はヘロヘロのままなのです。

ひょっとして自分ではよくわからないような治療とか色々あって疲れているのかも、と心配になる孝之。

そこで孝之は一計を案じました。

今までこっちからはいつもハガキで送っていたので、手紙用の便箋と封筒でも買いにいこう、と。

 

それで買ってきた便箋と封筒は、蛍さん好みであろうパステル調のくまさん柄。

そう言えば診療所で着てたパジャマもくまさん柄だったっけ。

「おやすみ、蛍……」

……く〜っ。

いつか、生で言ってやる……。

そんなことを思いながら孝之は眠るのでした。

 

な、なにやら不穏な空気が…。

 

蛍さんから手紙が届きました。

内容は中庭の木陰で読書をするのが最近のお気に入りだ、と言うこと。

でもつい大好きな人のことを考えてしまうのでなかなか本に集中できない、とも。

そこで孝之は大きな衝撃を受けます。

それは『大好きな人』という言葉。

その言葉は自分達がずっと言おうとしても、口に出せなかった言葉。

宝物のように大切にしてきた言葉。

そして…自分達の未来を約束してくれる言葉なのです。

蛍さんの診療所を訪ねた時、2人は確かに約束しました。

退院したらその言葉を言おう、と。

それを蛍さんが忘れるはずがない。

好きと言われたのに、胸が高鳴るどころか圧倒的な不安に襲われる孝之。

女心やら乙女心やらで、すまされれば問題は無い。でも…。

おかしい…………おかしい…………どう考えてもおかしいぞ?

孝之は文緒さんなら何か知ってるかもしれない、と病院に行ってみることにしました。

 

な…なにやら……不穏な展開に………。

 

病院で文緒さんに会えた孝之は早速蛍さんのことを聞いてみることに。

聞けば文緒さんも蛍さんから手紙が来ている、とのこと。

「じゃあさ。蛍、なんか変わったとこないか?」

「えっ?! な……なによそれっ。天川になんかあったの?」

「いや……別に、なにかあったって訳じゃないけど……」

「なによ、どうしたのよぉ?」

「ああ、うん……ちょっと、気になることが手紙に書いてあった……」

「えっ? な、なによそれ?」

「いや、知らないならいいんだ。わりぃ」

「ちょ、ちょっとお! 言いかけて、やめないでよぉ!」

別にすぐ立ち去ろうしたわけじゃない孝之ですが、文緒さんはそう勘違いしたのか腕を掴んできてそう言いました。

「私だって、天川の親友やってんだから! そこで止められたら、心配でしょぉ〜?」

そうだよな、と孝之も納得して文緒さんに手紙のことを話しました。

『好き』と書いてあったことを。

「はぁ〜?! あんた、ノロケてるワケぇ?」

「いや……」

「じゃあ、なんだってのよぉ? それの、どこが……」

「オレたち……まだ言ってないんだ」

「えっ……?」

きょとんと目を丸くして孝之を見つめる文緒さん。

「な、なっ………なによ、それっ! どうしてよ、あんた達」

「蛍が、よくなるまで……口にするのは、よそうって」

「…………………………」

「……………………」

文緒さんの肩がわなわなと震えだしました。

そしてその口から出てきた言葉は孝之を責めるような口調です。

蛍さんだって女なんだから、不安な時や寂しい時に言いたくなったり言ってほしくなったりするんだ、と。

孝之は何も言っていないのに早口でまくしたてる文緒さん。

明らかに怪しいです…。

そう…怪しいんですよ。かなり怪しいんですよ。

ああ…まさか……。

孝之は文緒さんに考えすぎだ、と言われますがもう何と言われても不安は消せません。

「とにかくぅ、あたしはな〜んも知らないわよ?」

「そっか……じゃ、直接あたってみるよ」

「……ちょ、ちょっとぉ! 直接って……?」

「えっ? いや、住所は知ってるからさ。診療所に……」

「やめときなってえ〜っ!」

入院中で頭がボサボサの時に来られたら迷惑だ、女心がわかってない、と文緒さん。

でももう蛍さんの顔を見るまでは孝之は落ち着くことは出来ないのです。

「……わるい、仕事中に邪魔したな」

「別に、それはいいけどぉ……彼氏、ホントに行く気なの?!」

「うん。じゃ、また」

「あんっ……彼氏ぃっ!!」

文緒さんが止める声も聞かずに孝之は走り出していました。

蛍、待っていてくれ……。

すぐに行くからな、蛍……。

向かうは…診療所。

 

診療所に着いて、面会の申し込みをしようと受付にいく孝之。

「えっと……、天川蛍……さんに面会したいんですけど」

「えっ……」

顔をしかめて驚いたような表情の女性。

「あの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛍ちゃんが、亡くなったこと……ご存知ないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………やっぱり……………………………………。

 

…………やっぱりそうでしたか………………。

 

予想は…………してました。

それでも………こうはっきりこう言われると…………やっぱり苦しいわけで…………。

苦しいっつーか……もう…………物理的に胸が苦しくて…………。

 

でも………孝之の苦しみはこんなもんじゃなくて…………。

 

 

……………………。

………………………………。

………………えっ?

………蛍が、なくなった?

無くなった? 泣くなった? ナクナッタ?

な…………………亡くなった?!

 

「な、亡くなったって……?」

 

−−1ヶ月ほど前に突然の発作で

−−かろうじてご両親が間に合われて

−−もうそろそろ納骨の時期だって話をしていたんですよ

 

目の前の女性の口から吐き出される、宇宙人の言葉。

少なくともオレたち人間の言葉じゃない。

理解不能だ……。

理解してたまるかっっっ!!!

 

それはおかしい、手紙だって今朝ちゃんと届いてるんだ、と女性に詰め寄る孝之。

困り果てたように対応する女性に孝之は叫び続けます。

嘘をつくな、この前までピンピンしてたんだ、体調もいいって言っていた、と。

そこで女性はどこかに電話をしたかと思うと書きとめていたメモを差し出しました。

「……蛍ちゃんの、菩提寺の住所よ」

 

真新しい墓石に彫られた、真新しい名前。

ただ立ち尽くす孝之。

「やっぱ……来ちゃったんだ」

後ろから聞こえてきた文緒さんの声。

「ほんとは……もう、あいつの身体。限界、だったんだって……」

「………………………」

「でも、ギリギリまで……患者さんの面倒、みたいからって」

「………………………」

「……よくもったって、お医者さんがビックリしてた……」

「手紙が………ある」

「えっ……」

今までずっと、今日だって、ちゃんと届いてた。

おかしいだろ、そんなの、と孝之。

「……まいったよね、ホント……。好きだって……言ってなかった、なんてさぁ……」

なんで文緒さんがまいるのか。

それにこの場所になんで文緒さんがいるのか。

本当はわかっている孝之。

でも認めたくない。

気付いてなんていない、と自分に言い聞かせる。

「………バカだよ、ほんと。あんた達………」

「………………………」

「あんなに……あんなに、想いあってたのに………バカだよ」

わなわなと唇を震わせ、大粒の涙をがみるみるたまっていく文緒さん。

「なんで………なんで、そんな簡単なこと、言わないのよっ?!」

……………………・。

「なんなのよっ、なんなの……どうして、あんた達はそうなのよっ……!!」

「好きなのに……言わないなんて。そんな………そんなの………」

「そんなの……………私に、わかるわけないじゃないっっ!!」

「……………………」

「……………………」

押し黙ってしまう文緒さん。

やっぱり、そうだったのか、と孝之。

「……どうしてだよ」

「……………………」

「どうして……あんたが、蛍のフリして…………」

「………………………」

「そんなことして、オレが喜ぶとでも思ってんのかよっ!」

「…………………」

「人を……おちょくってんのかよっ……!」

「………天川に」

「えっ………?」

「天川に………頼まれたんだ」

以前孝之に飲みに行こう誘われた時、本当は蛍さんのところに来ていた、と文緒さんは言います。

その時には、もうかなりヤバい状態で。

そんなときなのに蛍さんは言ったそうです。

鳴海さんにショックを受けさせたくない、と。

「だから、あたしに……返事、書いてって……」

…………………………。

「あたし、ほんっとあたま悪いんだ。字もほんっと下手なんだ」

「困っちゃったんだけどね……でも、天川……」

「あ……あ、天……川ぁ……っ」

「か、彼氏のこと……ほ……ほんとに……ほんとにっ……」

「うっ……す、好きだった……からさぁ……!」

 

……………………。

…………………………。

………蛍………。

いつも、誰かのことを考えて……。

自分のことなんて、ほったらかして……。

そんな蛍が、歯がゆかった。

もっと自分のこと、大切にしろよって……。

もっとオレに、甘えろよって……。

………でも………。

でも、蛍が……一番、考えていたのは……。

考えて、いてくれたのは……。

………………。

他の、誰でもない………オレ、なんだ………。

 

「………うっ………」

「……彼氏」

「うっ……う、くうっ……」

「や、やだ……な、泣かないの……彼氏、なさけないよっ……」

「ううっ………あ、あぁぐっ…………」

「彼氏……」

「あ………あぁああああっ………!!」

文緒さんにしがみついて泣き続ける孝之。

そして文緒さんも泣き出しました。

そんな文緒さんの胸は、穏やかで、限りなく優しくて。

そのせいで押し殺そうとしていた孝之の感情が湧いて出てきて…。

「ひぐっ……お、オレ……おれっ……」

「……うん」

「オレ、蛍が………す、好きだぁ………っ!」

「……うん」

「ひっ、好きだ……あ、す、好きだ、好きだっ………うっ、ううっ………」

「うん………うん、うんっ………」

「う……す、き……うあ、あっ……があっ………」

「……うん、うん………うん………」

 

蛍………。

好きだ………。

………愛してる。

愛してる、愛してる………心から、愛してる。

こんなにも、愛してるのに………。

君の笑顔を………もう、見れないのか?

君の肩を………もう、抱きしめられないのか?

蛍………。

蛍、蛍………蛍…………。

………………………。

 

涙が…涙が止まりません。

冗談事じゃなく、ディスプレイが見えません。

手に持っているのはハンカチじゃなくてバスタオルです。

 

帰らぬ人となってしまった蛍さん…。

最後の最後まで孝之のことを想って……。

あ……ああ…………ううっ……。

 

ずっと部屋に閉じこもり続け、飯もろくに食わないままの孝之。

何日こうしているかもわからないほど。

ひたすらに泣き続けました。

涙なんてもう枯れ果てたと思っても、少しでも蛍さんのことがよぎったりしたら、もう止まらなくて。

もう誰にも会いたくない。

孝之が望むものが完全なる静寂。

部屋のインターホンが鳴っても身動き一つしません。

……カタッ。

ポストに、なにかが落ちる音。

孝之は思わず立ち上がります。

もう蛍さんからの手紙なんて来るはずが無いのに。

そんなことはわかっているにも関わらず身体が、感情が動いてしまう。

「………………」

ポストの中には『ガス点検のお知らせ』の文字が。

……もう疲れた、と孝之。

 

蛍がいない、未来なんて……。

……永遠に、来なくたっていいんだ……。

 

ピンポーン。

目の前で唐突に鳴るインターホン。

誰にも会わないと決めたのに、不意打ちをくらって思わずドアを開けてしまいました。

「……あっ……」

そこにいたのは文緒さん。

誰とも喋りたくないと思っていた孝之ですが、文緒さんと話しているとホッとしているのを感じています。

それは文緒さんが唯一、孝之と同じ気持ちをわかちあえる存在だから。

 

文緒さんに部屋にあがってもらって孝之は尋ねました。

「……どうしたの、今日は?」

「あ……ぅん。実は、さぁ……私、天川から頼まれてた物があったんだ」

もし自分がダメだったら孝之に渡してくれ、蛍さんは言っていたそうです。

でもそれを孝之に渡すことができなかった文緒さん。

それは蛍さんがもういない、ということを孝之に認めさせることになってしまうから。

それで今までためらっていたんだ、と文緒さんは言います。

「けど……それは、彼氏が決めることなんだよね。私が、勝手に決めることじゃない……」

そう言って文緒さんがハンドバッグから出したのは一通の封筒。

キャラクター物の、見慣れた封筒です。

「ほ、星乃さん……それ……」

何も言わずに文緒さんは頷きます。

そこに書かれているのは孝之にとって見慣れた字でした。

文緒さんが代わりに書いていた…それ以前の。

本当の、蛍さんからの手紙。

震える手で封筒を開けようとする孝之の手を文緒さんが止めました。

自分が帰ってからにしてくれ、と。

「私はさぁ……まだ、認めてないんだよね……」

涙をにじませる文緒さん。

それを隠すようにいきなり立ち上がりました。

「じゃ……私、行くわ」

「ああ…………」

お見送りは遠慮する、と言って文緒さんは帰っていきました。

「じゃあ、またね……彼氏」

 

1人、部屋で蛍さんからの手紙を見つめる孝之。

認めたくない。

それは孝之も同じです。

でも、それは蛍さんは孝之に残した手紙。

他の誰でもない、孝之だけのために書いた手紙。

だったら………オレは、読まなけりゃならない。

どんなに、認めたくなくたって。

オレは……読まなけりゃ、ならないんだ……。

封筒を開ける孝之。

中にはぎっしりと何枚もの便箋が入っていました。

丁寧にたたまれた便箋を開くと、蛍さんの文字が孝之の目に飛び込んできました。

孝之のためらいを無視して。孝之の愛する人の字が……。

 

『鳴海孝之様

 この手紙が、鳴海さんの手に届くとき。』

 

……………………。

………いや。

蛍さんの手紙を全文書く、なんてことはやりません。

それは決して面倒くさいからではなく。

とても俺がそんなことをしていいものじゃない、と言う気がするから。

だから少しだけ書きます。

 

蛍さんは言います。

自分の限りある命に意味を見つけたかった。

そして今ならはっきりと言える、と。

 

『…私は、あなたに出会うために生まれたきた。』

 

既にここまでで号泣入ってるのですがこれでもうダメ押し。

そして手紙の最後にはこう書かれていました。

 

『………愛しています。

 愛しています、鳴海さん。

 あなただけを………永遠に、愛しています。

 ……鳴海さん、笑っていてください。

 どんなことがあっても、笑顔をたやさないで……。

 鳴海さんの笑顔は………私の、笑顔です。

 天川蛍』

 

孝之には蛍さんの声が聞こえていました。

「愛してる……」

………蛍………。

「鳴海さん、愛してる……」

「ああ……愛してるよ、蛍……」

「愛してる……」

「愛してる……」

 

愛してる………愛してる。

お前は、消えてなんてない。

だって……聞こえる。

聞こえるよ………。

お前の気持ちが………届いてくるよ、蛍。

オレの笑顔が、蛍……お前にとっての、笑顔なら。

……今すぐには、ムリだ。

絶対にムリだけれど……。

でも、いつか……きっと、微笑んでみせる。

そう……いつか、きっと………。

オレに、限りのない愛をくれた………君のために………。

 

 

 

夏の強い日差しの中。

「孝之君っ!」

「よお、遙」

孝之のもとに軽快に走ってきたのは遙。

「講義、もう終わったの?」

「ああ、遙は?」

「私は、まだ午後が残ってるんだ」

 

あれから3年。

2年浪人して白陵大に入学した孝之。

遙もちょうど同じ年に受験して合格。

遙はかねてからの夢だった児童心理学を。

孝之は医学を学んでいました。

 

遙と「また明日」と挨拶して孝之が向かうのは蛍さんのお墓。

1年に一度だけ訪れる場所。

「………彼氏ぃ!」

「えっ……」

振り返るとそこには文緒さんが。

今は小児科で働いているという文緒さん。

小児科の看護婦になる、と言うのはずっと蛍さんの夢でした。

孝之のジーンズのポケットには古ぼけた小さな石。

蛍さんが小児科の看護婦さんにもらって、ずっと大事にしていた小さな石です。

「あいつの夢、引き継ごうなんて……エラそうに、考えちゃったけどさぁ」

「気がつけば、あたしの夢に変わってたね。あはっ」

それは孝之も同じでした。

孝之の夢も蛍さんから始まっていたのです。

 

医者になって……蛍と……。

……ははっ。青臭いよな、ほんと。

でも、青臭い考えだけど……けっこう、気に入ってたりする。

昔の、無気力で冷めた自分じゃない。

無駄に熱くて、青臭い自分が……。

 

「……それよりぃ。彼氏、まだ一人身なワケ?」

「ああ……ま、な」

「うふっ。寂しかったら、やらせてあげてもいいわよぉ?」

「なっ……!」

「あはっ。じょ〜だんよっ」

文緒さんが言うと冗談に聞こえません。

「あたしもさ、しばらく男はいいやって感じ。あいつのおかげで……夢、見つけられたからさっ」

それも孝之と同じでした。

遙の事故以来、すっかり見失っていた自分自身を見つけることができたのは蛍さんのおかげ。

「ほ〜んと。最近は、すっかり蜘蛛の巣はっちゃっててさぁ。あははっ」

どこに蜘蛛の巣が?

それは言えません。

「おいおい。相変わらず、下ネタクイーンだな」

「クイーンとは、失礼ねぇ。プリンセスぐらいにしてくんない?」

どっちにしろ『下ネタ』は付くんですね。

「……あっ。もう、こんな時間……夜勤なんだ、あたし」

「そっか……じゃ、また1年後だな」

「うん……1年後ね!」

どちらからともなく差し出した手を、強くぎゅっと握り締める2人。

「じゃ、頑張れよ」

「そっちこそ、期待してるわよ。未来のお医者サマ!」

 

 

……オレは歩いていく。

蛍と、一緒に歩くはずだった道を……。

寂しさで、胸がつぶれそうになる夜もある……でも、もう迷ったりしない。

 

蛍が、見ることのできなかったこと。

………オレの目で、すべて見つめていくんだ。

蛍が、やりのこしたこと。

………オレが、すべて体験していくんだ。

蛍は………。

蛍はいつも、オレと一緒にいてくれるはずだから………。

 

 

 

と言う訳で蛍さんクリアー!! ぱちぱちぱち。

いやぁ〜〜泣きました。

それこそホントにバスタオルです。

蛍さんが死んで、孝之と文緒さんが2人で墓地で泣くシーン。

そして蛍さんが残した手紙のシーン。

前者は悲しくて。

後者は感動で。

コレは…ホントにやられましたよ、愛美さんとは全く別の意味で。

いきなり「せっくすしましょう!」なんて言ってきた蛍さん。

まさかこんな展開になるとは露知らず。

はぁ……。

 

 

(しばし余韻に浸っております)

 

 

結局蛍さんは亡くなってしまった訳ですが、孝之も文緒さんも自分の足で前に進み始めました。

蛍さんのおかげで見つかった、それぞれの夢に向かって。

そして、いつまでも蛍さんは孝之の胸の中で生き続けるのでしょう。

悲しかったけど…この先には明るい未来が待っているはずです。

断言します。

これはハッピーエンドです!!

孝之は自分の道を、夢を見つけました。

その分失ったものはとてつもなく大きかったわけですが、孝之はそれを乗り越えたのです。

 

あと俺的に嬉しかったのがエンディングに出てきた元気な遙。

3年経っても同じ服を着ているなんて小さなことは俺は気にしません。

 

そう言えばエンディング曲は今までと違ったオルゴール調の曲でした。

確かに今までのエンディング曲は蛍さんエンディングには似合わなそうだもんなぁ。

何気に蛍さんってば特別扱いされてる?

 

 

 

さて。

次はと言うと看護婦編・第3弾。星乃文緒さんです。

でも文緒さんは蛍さん編で完全に未来に向かって歩き始めているしなぁ。

むしろあれは文緒さんエンディングでもあったような気もするぐらいだし。

まぁいいや。

文緒さん道を貫けば、また別の未来が開けるんでしょう。

そして今回はちゃんと途中のデータがとってあるんです。

そう。

文緒さん狙いと言えばあそこでしょう。

バイト後に飲みに行こうと誘われるシーン。

前回は蛍さん狙いだったから断ったけど今回は行かせていただきます。

 

レッツスタート!!

 

まずは文緒さんの誘いに一度は乗ってみました。

孝之は飲みのつもりだったのに文緒さんはホテルに行く気満点。

さてここで行くか行かないか、の選択肢再び。

 

何かここでヤったらいけない気がしたのでここは断ってみました。

怒って去っていってしまった文緒さん。

 

その後は基本的に遙ロード一直線です。

と言うより強引にそうなってしまいました。

今まで全員に冷たくしてきたんだけどなぁ。

既読メッセージをトばす設定でひたすら先に進んでも文緒さんに絡むものは皆無。

 

このまま遙エンディングでももう1回見るかなぁ、なんて思っていました。

ところが遙が3年間を意識した状態で目覚めた後、水月と2人で遙の所に行ったシーンで異変が。

そこで遙に2人は付き合ってるのかどうか聞かれてそれに答えるかどうかの選択肢が出てきました。

ん? これは初めて出てきたぞ?

それにどう考えても文緒さん絡みじゃない。

ひょっとして……水月ルート?

やっべー。中止です、中止。

水月は後でちゃんとやらないと…。

 

と言う訳でヤり直し、じゃなくてやり直し。

やっぱり文緒さんとはホテルに行かなくちゃダメかぁ。

う〜ん、でも俺としては蛍さんエンディングの前向きな文緒さんが好きなんで、そう簡単にホテルなんて行って欲しくないんだよね。

でもまぁしゃーないです。

イかせていただきます。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

え〜。

結果から言わせていただきますとバッドエンド

 

文緒さんとヤった翌日、屋上でベラベラと看護婦仲間に孝之とのことを話している文緒さんがいました。

しかもその時屋上にはたまたま茜が。

全部聞いてしまった茜はそのことを遙と水月に報告。

それ以来、見舞いに行っても文緒さんは完全無視。

遙は拒絶はしないまでも確実に孝之を見る目は変わりました。

段々見舞いにも行きづらくなって2日おき、3日おき…そして行かなくなりました。

水月の方はと言うといきなり張り手をくらって、泣かれて、散々文句言われて。

別れるまでいかなかったにしろ、こちらも確実に孝之を見る目が変わってしまいました。

もう過ぎてしまった時間は戻ってこない。

 

最低だ……。

 

ってことは何かい?

文緒さんとはヤったらバッドエンド、ヤらなかったら関係なくなっちゃうってこと?

やっぱり『蛍さん編』が『文緒さん編』でもあったってことになるのかなぁ。

となると文緒さんはこれで終わり?

キメ台詞

「傷つけて欲しかった。

    もうあなたを愛せないように」

は一体どこへ?

結局ここまでモトコ先生の謎は解けないままだしさぁ。

 

う〜、気分悪〜。

口直しにもう1回蛍さんエンディングを見てから寝ることにします。

とにかくこれで残すは(多分)水月のみ!!

 

ではおやすみなさい…。


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