2002.1.17 「まさに…まさに天使」編
他人のために一生懸命頑張る蛍さん。
そうやう人に私もなりたい(宮沢賢治風)。
朝。
茜の大会の日ですが優勝に決まってる、と孝之はバイトへ。
途中で抜け出して結果を見に行くも茜は準優勝でした。
そして病院へ。
遙は寝てるとかで会えません。
文緒さんと絵本の話をする孝之ですが気になるのは蛍さんのこと。
「……天川ならぁ、今日も元気にお仕事中よぉ〜」
「あ……そ、そうですか」
「あんまり病院内でそういう態度、見せないでよぉ?」
「え?」
「アンタはいいかもしれないけどぉ、天川に変な噂が立ったらヤバいじゃぁん?」
「そ、そうですね。気をつけます」
「そんじゃね〜」
蛍さんがちゃんと来てると聞いてホッとする孝之。
庭を見渡すと一瞬だけ蛍さんの姿が見えたような気が。
これで本当に安心することができた孝之でした。
遙に『マヤウルのおくりもの』を探してやることにした孝之。
さんざん探したけど見つからず、ちょっとした諍いがあったもののあゆのお陰で無事ゲット。
面会時間を過ぎていましたが病院に入り込んで遙の病室へ。
遙は涙を流して喜んでくれました。
家に帰った孝之が考えるのは蛍さんのこと。
何故か気になる蛍さん。
それはあんな様子を見てしまったのと、そんな蛍さんを興味本位で抱いてしまったから。
孝之は自分にできることがあれば力になってあげたい、と思うのでした。
今回こそ、孝之はいいヤツになってくれるのかな?
まぁ蛍さんを抱いた時点でダメ人間なんだけど。
抱かせたのは俺だけど。
翌日。
バイトに行った後、病院へ。
具合の悪そうな茜。
可哀想ですが送ってあげることはできません。
不安そうな遙。それでももうすぐ本当のことに気付きそうな雰囲気です。
中庭で1人、ため息をつく孝之。
そこに元気よく走ってきたのは蛍さんです。
思わず心配してしまう孝之ですが蛍さんは平気な顔です。
「心配なしですよぉ、鳴海さん! 天川さん、絶好調なんですからっ!」
「……ほんとに?」
「はいっ。もう、せっくすだってバッチリです〜!」
「お、おいっ!」
「うひゃひゃひゃっ!」
この笑いはどうかと思いますが笑顔の蛍さんを見て安心する孝之。
和やかな雰囲気に口を挟んできたのは1人のジジイ。
「……いいなあ、あんた達は気楽で」
「えっ?」
そのジジイはどうやらこの病院の患者のようです。
「あっ、宮前さん。おかげん、どうですかあっ?」
「……………」
「ここは、気持ちいいですよねえっ。宮前さんも、よく来るんですかっ?」
「……………」
親しげに話しかける蛍ですがジジイは押し黙ったまま。
「え、えっとっ……宮前さん?」
「ほんとにあんたは、いっつも笑顔だねぇ」
「あっ……はあいっ。ありがとうございますっ!」
とびきりのスマイルをジジイに向ける蛍さんですが、ジジイは『ふん』とバカにしたように鼻をならしました。
ピクッ。 ←こめかみの音
「……あんたにゃ、オレの気持ちはわかんねぇだろうなぁ〜?」
「……あ……」
「なっ……!」
皮肉たっぷりの口調。
相手の全てを否定するような、イヤらしい声音。
「……いっつも、ヘラヘラして。自分は健康だってこと、自慢して」
んだと!?
「その笑顔が、むかつくんだよねぇ〜」
……ぷちんっ!
……なにかが、オレの中で弾けた。
こんの、クゾジジイッ!!
キれる孝之。
やれ!!
やっちまえ孝之!!!
っつーか殺れ!!!!
「おいっ、お前なあっ……!!」
「……鳴海さん、ダメ」
「えっ……」
「……ダメ」
小さく首を振りながら孝之の腕にしがみつく蛍さん。
その瞳はうるんでいました。
「……宮前さん」
「なんだよ?」
「たしかに、天川さん……宮前さんの気持ちはわかりません」
「天川さん……」
「でも、わかりたい……わかりたいんですっ!教えてくださいっ。どんな、小さなコトでもっ!」
「……………」
「宮前さんの、辛い気持ちっ! 天川さんに、わけて下さいっ!」
「……ふん!」
………心から殺ってしまいたい。
「あっ! おい、待て……!」
去って行ってしまったジジイ。
っつーか逝ってよし。
「天川さん……」
「……へへっ。難しいですねっ、なかなかっ」
蛍さんの笑顔。
誰に対しても向けられる笑顔。
蛍さんを知ってしまった孝之には辛いばかり。
「……あんま、無理して笑うなよ」
「えっ……む、無理なんてしてませんよっ!」
「……なら、いいけど」
「じゃっ。天川さんも、行きますねっ!」
去っていく蛍さん。
せめて、オレの前では……無理、してほしくないんだけどな。
お前、それ誰にでも言うのな。
翌日。
遙の見舞いに行く孝之。
遙は自分の異変に気付き始めています。
そして大きな不安も抱えていました。
自分を信じろ、と言えるのか…。
……言えません。
っつーかこの辺が自動で進むようになってます。
完全に遙を見捨てる方向に決まっているようです。
それはそれで辛い…。
当然孝之も辛いです。
知らない間に流れてきた涙に焦って病室を出る孝之。
「あ、彼氏ぃ」
「えっ……」
孝之を呼び止めたのは文緒さんです。
「ちょうどいいところで会ったわぁ」
「……え?」
「あのさぁ。この手のことは、口だしたくないけど……一応、言っておくわ」
「えっ?」
「二股かけること、私は反対しないけどぉ。その相手が、天川ってのは……ちょっとさぁ。やっぱ、ほっとけなくて」
「……………」
「ちょっとぉ。なに、被害者ヅラしてんのよお」
「なっ……別に、オレは!」
「ほんっと、男ってのはねぇ〜。やる時だけ調子よくて、あとは言いワケばっかなんだから」
「オレは、そんなことっ……!」
「ムキになるなんて、余計あやしぃわよぉ」
「…………………」
「あいつって、パッパラそうだけどさ。ほんとは、しっかりした子なんだ」
「…………」
病室の中では遙が苦しんでいます。
今はそんな話はして欲しくない孝之。
「ちょっと、聞いてんのぉ!?」
「……あ、うん」
「あいつさ。自分のこと、天川さんって呼ぶじゃない?」
「あ、ああ……」
それは患者さんのためでもある、と文緒さん。
小さい自分が担当になると患者が不安になってしまう。
さらに最初はみんな『蛍ちゃん』なんて呼ばれていたから余計に。
人は見た目で判断してしまうから。
でも自分で『天川さん』って呼んでいればみんなもそう呼んでくれる。
呼び方が変わるだけで印象もだいぶ違ってくる。
だから蛍さんは自分のことを『天川さん』と呼んでいたのです。
文緒さんの表情がやわらぎました。
まるで愛しい彼の話をするかのように、少し照れながら。
「私が看護婦になってのってさ……とくに理由、なかったんだ」
…………。
「ただ、手に職もってた方が、これからは有利かな……なんてさぁ」
…………。
「でも……天川に出会って。私、考え方が変わったんだ」
「…………」
「こんな私でも、誰かのために……なにか、できるんじゃないかってさぁ。ふふっ……」
星野さん……。
「……彼氏ぃ!」
「えっ?」
「天川、泣かせたら……許さないからね、私」
「あ、ちょっ……!」
文緒さんはそれだけ言うと去っていってしまいました。
孝之は蛍さんと文緒さんの間にある関係を思います。
親友なんて安っぽい言葉じゃなく、お互いを尊敬しあって、お互いを高めあって。
そして今、病室では遙がひとり、苦しんでいます(一緒にいるはずのモトコ先生は勘定から除外)。
それに先天性の持病を抱えて、自分の全てを誰かに託そうとしている蛍さん。
孝之に2人を比べることなんて出来ません。
「あ、鳴海さん!」
笑顔で走ってくる蛍さん。
でもその笑顔を向けてもらう資格が自分にあるのかどうか。孝之にはわかりません。
「ど、どうしたですかっ!?」
「い、いや、何でも……」
「……泣いてるですか?」
そう言って遙の病室に目を向ける蛍さん。
「涼宮さんが……何か……?」
「あ、いや、そういうんじゃないから……大丈夫だから……」
そう言って無理に笑いながら病室のドアに手をかける孝之。
「鳴海さん!」
「え?」
「何事もファイト!! ですっっ!!」
「…………うん」
蛍さんと文緒さん。
いつもは文緒さんが蛍さんをイジめているだけのような2人。
でもそんなことは無かったんです。
こんなにも強い絆で結ばれていたなんて…。
思わず目頭が熱くなりました。
病院を出ると雨が降っていました。
焦って帰る孝之。
考えるのは蛍さんのこと。
一体自分に何ができるのか。
それはきっと、これ以上蛍さんに関わらないこと。
孝之の立場を知ってる蛍さんに、孝之がこれ以上変なアプローチをしたら蛍さんだって戸惑う。
それに向こうはただの思い出作りだったのだから。
これまで通り、蛍さんは人のいい可愛い看護婦さん…それでいいじゃないか、と孝之。
そして孝之は眠りにつくのでした。
夜。
モトコ先生から遙の意識が戻らなくなったという連絡が入りました。
翌日、降りしきる雨の中、病院に行く孝之。
静まり返った病院の中で孝之が会ったのは蛍さんでした。
孝之にかける言葉が見つからずあたふたする蛍さんが孝之に渡したもの。
それは、そこにでもあるような小さな石。
「天川さんが、ちっちゃい頃……あっ、今もちっちゃいですけど。」
「その時に、看護婦さんがくれたんです。おまもりですっ」
「あ、ああ。ありがと……遙に渡しておくよ」
「いいえっ。それは、鳴海さんが持っててくださいっ!」
「え?」
「これは……病気が治るおまもりじゃなくて、笑顔のおまもりなんですっ」
「ほら。ここの、へっこみ! ちょっと、笑ってるようにみえるでしょっ?」
「これがあれば、遙ちゃんも……きっと、元気ですっ!」
「鳴海さんの笑顔は、きっと、遙ちゃんの笑顔ですからっ」
「……………」
「あっ……ご、ごめんなさいっ。天川さん……やっちまいましかた?」
「うん……やった」
「あやぁああっ! ど、どうしよぉ……」
「すっげ、うれしい。ありがと」
「は……はいっ! それでは、またですっ!」
……そうだよな。
オレが、しっかりしてなくちゃ。
遙だけじゃなく……天川さんまで、心配させちまうからな。
うう…蛍さん……。
あんた……あんた最高だよ!!
毎回同じことを言ってるような気もするけど、とにかく最高なんだよ、こんちくしょう!!
こんな娘が…幸せになれなかったら嘘だよなぁ……ううっ………。
結局、遙に会うことはできないまま帰宅
もうしばらく遙には会えなくなりそうなモトコ先生の口ぶりだったそうです。
ふと蛍さんにもらったおまもりを手にとってみる孝之。
それは蛍さんが小さい頃、看護婦さんからもらったお守り。
これは蛍さんの大事なものなんじゃないでしょうか。
それを渡してくれた蛍さん。
本当に人のためにって考えて生きてるんだな、と孝之は思います。
文緒さんだけじゃありません。孝之自身も蛍さんの存在には元気付けられるのでした。
翌日。
遙には会えないと知りつつ病院へ行く孝之。
中庭で会った蛍さんが孝之に謝ってきました。
「天川さん……鳴海さんに、謝りたいことがあるんですっ!」
「へっ……オレに?」
「はいっ! 天川さん、馬鹿でしたっ!」
「文緒っちが、男は体と気持ちは別だって、そう言ってたから……鳴海さんも、そうなのかと思ってっ」
蛍さんが謝っているのは孝之とヤってしまったこと。
「天川さん、男の人に恋したことないからっ。だから、そういうのわからなかったんですっ」
遙に悪いことをした、と言う蛍さん。
でも孝之も悪いのです。
蛍さんのことをよく知らずに、水月や遙のことを考えずにヤってしまったのだから。
お互いに謝る2人。
「……鳴海さん」
「えっ?」
「お守り、持ってますかっ?」
「あ、ああ……」
孝之のポケットに入っているのは蛍さんにもらった笑顔のお守り。
「私だったら、好きな人にはニコニコしてて欲しいですっ。だから」
「残念ですけど、せっくすはもうなしですっ!」
やっと笑顔になった蛍さん。
「じゃっ。謝り合戦しゅーりょーっ! 天川さん、戻りますっ」
「うん。じゃあ……」
「鳴海さん、笑顔ですよ〜っ!」
ぶんぶんと大きく手を振りながら院内に戻っていく蛍さん。
そんな蛍さんを見ながら孝之、水月にも遙にも笑って向き合おう、と決意するのでした。
オレには、このお守りがあるんだから……。
翌日、うっかり暗くなりがちな自分を戒めつつ病院へ。
遙の病室まで行きますが家族以外は面会謝絶と言う茜の言葉に撃沈。
それでもめげずに今度はお守りのお礼を言うために蛍さんを探します。
ナースステーションを覗き込んでいると文緒さんが話しかけてきました。
蛍さんを探している、と言うとついに蛍さんの彼氏になるのか、と文緒さん。
予想もしなかった言葉にショックを受ける孝之。
はっきりしない孝之に愛想をつかしたように文緒さんは行ってしまいました。
そして孝之は、いつの間にか文緒さんとタメ口を聞いてる自分に気付きます。
俺としては違和感バリバリなんですが本人は全然不自然に感じてないようです。
その夜。
孝之は夢を見ました。
遙の夢。
水月の夢。
そして…蛍さんの夢。
蛍さんにとって自分はどんな存在なのか。
自分にとって蛍さんは…。
とそこに電話がかかってきました。
相手は蛍さん本人です。
寝ぼけて夢の続きのまましゃべってしまう孝之。
何とか目を覚ました孝之が蛍さんから聞いたのは遙が目覚めた、と言うこと。
ダッシュで来てください、と言って電話は終わりました。
とにかく孝之は病院に向かいます。
病院に着くと蛍さんは顔を上気させています。
心から遙が目覚めたことを喜んでる様子。
早く遙のところに行ってやってくれ、という蛍さん。
そんな蛍さんを見て、自分はやっぱり遙の彼氏として見られてる、と孝之は確信します。
病室に入るとそこには目覚めた遙がいました。
それも3年という時間を認識した遙が。
遙は疲れている、というモトコ先生に促されて今日のところは帰ることに。
帰りの駅のホーム。
1人たたずむ孝之に話しかけてきたのは文緒さんでした。
「涼宮さん……目ぇ覚めたわね」
「あ、うん……」
「どうすんの? 天川のこと」
「…………………」
「なんで、なにも答えないのよ」
「…………………」
「……あんたやっぱ、最低」
そう言って文緒さんは足早に去っていってしまうのでした。
翌日。
遙の見舞いに行く孝之。
まず蛍さんに挨拶しようとナースステーションを見てみますが蛍さんの姿はありません。
ガッカリしそうになる自分を戒めて元気に遙の病室のドアを開けると…蛍さんがそこに。
遙に進められて椅子に座る孝之ですが、遙と蛍さんの間で居心地が悪そうです。
蛍さんもそうかと思いきやそうでもない様子。
さらには遙と孝之の間柄を冷やかしてきました。
「ラブラブですっ、うらやましいですっ!」
「や、やだぁ……そんな……」
「…………………」
そんな蛍さんの言葉に胸がちくちくと痛む孝之。
蛍さんは病室を出て行ってしまいました。
その後は遙と話をしていた孝之ですが頭の中は蛍さんのことしかありません。
蛍さんは自分のことをなんとも思っていないのか、と。
遙は目覚めました。
孝之は自分の気持ちをはっきりさせないといけない時がきたのです。
遙よりずっと小さいのに顔は遙より大きい蛍さんも気になります。
ですが今はそんなことを言ってる場合じゃないのです(俺が言うなって)。
果たして孝之の下す決断は…。
翌朝。
前日の蛍さんの態度で自分に気が無いのははっきりした、と考えている孝之。
気は重いですが病院に向かいます。
病院に着くと廊下で真っ青な顔をしながらうずくまっている蛍さんを発見しました。
すぐに駆け寄って医者を呼ぼうとする孝之ですが蛍さんはそれをさせません。
靴紐がほどけて結んでただけだ、と言う蛍さんはサンダルです。
まだ青い顔をしているにも関わらず通りすがりの患者さんに元気に挨拶する蛍さん。
そして遙と孝之のことを応援しながら走って行ってしまいました。
……勘弁してくれよ、天川さん。
そんな、一生懸命なところ見せられたら……余計、つらいじゃないか。
天川さんのこと。あきらめられなく、なっちまうじゃないか……。
遙の病室に入ると花が飾られていることに気付きました。
その花は水月が持ってきた、と遙。
そして遙は水月から『いろいろ』聞いた、と言います。
ついに自分達のことを話したのか、と孝之は思いますが不思議と動揺はありません。
むしろ頭がクリアーになって落ち着きはらっていると言ってもいいほど。
結局水月は遙には自分達のことを黙っていたようです。
遙の瞳は孝之に恋してる瞳、孝之だけを見つけている瞳のままでした。
「あれ? もう、こんな時間。おかしいなぁ。そろそろ、検温の時間なのに……」
「えっ?」
「看護婦さん、忙しいのかなぁ?」
それを聞いて孝之の頭に浮かんできたのは蛍さんのこと。
ひょっとしてまた倒れたのか、と。
突然立ち上がって部屋から飛び出そうとする孝之。
その時ドアが開いて、病室に入ってきたのは愛美さんでした。
緊急の患者がいて遅れてしまった、と説明します。
そして孝之は水月が見舞いに来たと聞いても焦らなかったのに、蛍さんのことを考えただけで頭に血が上ってしまった自分に気付くのでした。
家に帰った後も心配なのは蛍さんのこと。
電話でもしてみようか、と思っても連絡先すら知りません。
その程度の関係だったんだ、と自分を蔑む孝之。
思い上がりもいいとこだ、と。
オレは……。
……滑稽なほどに、無力だ。
翌朝。
孝之は自分の気持ちをはっきりさせることを誓います。
遙のこと、水月のこと、そして蛍さんのことを。
『病院に行く』
それは遙の見舞いじゃなく、蛍さんに会うため。
病院に行くと蛍さんは患者を連れて海岸に行っていることを文緒さんに教えられます。
孝之が海岸に行くと蛍さんが1人でいるのを見つけました。
一緒に来ていた患者さんは1人になりたい、と離れたところに。
その患者のおじいさんは末期の悪性腫瘍。
それを言うと蛍さんの口から言葉が消えてしまいました。
看護婦としていくつもの死を見送ってきた蛍さんは、自分も死と向かい合わせにいるのです。
蛍さんはおじいさんを連れて病院に戻っていきました。
……天川さん。あんまり、頑張らないでくれよ。
そんなに頑張られたら……ずっとこの気持ち、消せやしないじゃないか……。
やっぱり、オレは……、
「……好きだよ、天川さん」
蛍さんの背中につぶやいた孝之の声は、波の音にかき消されていくのでした。
翌日。
店長の健さんに頼まれて孝之は朝からバイトに。
夜遅くなってから病院に向かいますが面会時間は過ぎていました。
それならば、ともう1つの目的である蛍さんに会えないか、と孝之。
たまたまそこにいた愛美さんに蛍さんがどこにいるか訪ねたいのまやまやま。
でも息せき切ってそんなことを聞いたらそれが目的だと思われてしまう。
実際その通りなんですがその辺が孝之の弱いところです。
結局文緒さんはどこに、なんて聞いてしまった孝之。
さらにはそんな自分に呆れている孝之でした。
それにしても愛美さん、あっさりし過ぎ。
孝之が引き止めなかったらすぐにでも立ち去ろうとしてるし…。
まぁあんまりしつこくされても困っちゃうわけですが。
帰りの駅。
そこで孝之を待っているのは水月でした。
孝之から目を逸らさないまっすぐな視線。
その瞳を見るだけで水月が何をしたいのか、何を言いたいのかが孝之にはわかってしまいます。
しばらく一緒に歩く2人。
水月はあの指輪をしていませんでした。
2人がたどり着いたのは校舎裏の丘。
満天の星空の下、2人がこれからするのは…別れ。
「……私さ。この3年間、いつも、どっかで不安だった」
「……………」
自分の中にも、孝之の中にも、いつもそこには遙がいた、と水月は言います。
「どうしたって……孝之の心は、遙から……」
違う、違うんだ、と胸の奥で何度も叫ぶ孝之。
自分は…水月も遙も裏切った。
心の中にはもう違う人間が住みついているんだ、と。
「……孝之」
「……ん?」
「遙を……大事に、してあげて」
「…………………………」
どう答えたらいいのか孝之にはわかりません。
遙にはできるの限りことはする。それは嘘じゃない。
でも…それは恋ではないのです。
何も答えられない孝之。
「……わっかんないなぁ」
「……えっ」
「なんで、そこで『うん』って言わないのよ?」
「もう、ぜんっぜんわかんないや。孝之のこと……」
「……水月」
水月の目には涙が。
「一番……わかってるつもりでいたのに……」
「いつから……あはっ。わかんなくなったんだろ……ね……」
すすり泣く水月。
孝之は水月を見ることができません。
水月の顔をしてしまったら、本当のことを言ってしまいそうで。
水月は孝之が遙を選んだのだと思っています。
それでいいんだ、と孝之。
1人、部屋に帰ってつぶやく孝之。
「……ごめん、な」
それは水月に言えなかった言葉。
こうして水月と孝之は終わりました…。
孝之も水月も、苦しんでいるのが伝わってきますが…これでよかったと思います。
ついに水月と別れた孝之。
果たしてどうなるのか。
遙とは?
そして蛍さんとは!?
以下次回!!