2002.1.15 「…………」編
さて…どうなることやら……。
愛美さんは孝之の戒めを解いたまま出かけていきました。
また孝之を試そうと外で待っているのか。
どっちにしろ孝之にはもう逃げ出す気力はありませんでした。
そして夕方。
帰ってきた愛美さんは孝之が残っていたことに大喜びです。
孝之にはもう何が正しくて何が間違っているのかもわからなくなっていました。
今まで自分で選んだ行動でいい方向に動いたことはなかった。
水月にしても、遙にしても。
最終的には愛美さんに捕まってしまって。
……自分で決めるのが、怖い。
なにもかも、もう誰かに決めてもらいたい。
誰かに……。
この状態で『誰かに』と言えば1人しかいません。
愛美さんの差し出すお粥を食べる孝之。
「はやく、元気になって下さいね……鳴海さんには、私がいますから……」
「…………………」
……穂村さんが、いる?
オレには……穂村さんがいる……。
……穂村さんが……。
精神崩壊を起こしてきた孝之。
あああ……。
「鳴海さんには、私しかいないんですよ……」
「……………………………」
そう言い残して部屋を出て行った愛美さん。
孝之は全ての拘束具を外されていました。
次々と拘束具を外しても抵抗しない孝之に、全てを諦めたと思ったんでしょう。
でも…孝之は自由になったのです。
足は痛みますがゆっくりなら歩けそうです。
しばらく部屋の中を歩き回ったりした後……ついに孝之は外に出ました。
自由に歩ける孝之。
でも妙に心細い気もしていました。
しかし孝之に選択の余地はありません。
まず向かったのは自分の家。
愛美さんが解約したと言ってましたが本人が立ち会った訳じゃない。
大家さんも話せばきっとわかってくれる。
そう信じて孝之は歩きます。
自分の生活を取り戻すために。
ですが自分の部屋で見たものは引越屋が次々と自分の荷物を運び出している風景。
必死で止めようとしますが長い監禁生活で全く思うように体が動きません。
そして…孝之の帰るべき家はなくなりました。
途方に暮れる孝之の脳裏に浮かんできたのは…水月でした。
愛美さんの言葉にだまされているかもしれない。
でも水月はただの友達じゃありません。
2人はお互いに信頼しあっていたのです。
水月ならきっとわかってくれる。
そう信じて孝之は水月に電話することにします。
でもお金なんてありません。
自販機にはいつくばって小銭が落ちていないか探す孝之。
見つけた100円玉で公衆電話から水月に電話をかけます。
「はい、速瀬……」
「み、水月……水月なのか?!」
「えっ……も、もしかして孝之なのっ?!」
「おうっ! そうだよ、オレだ!」
受話器から聞こえてくる水月の声に思わず目頭が熱くなる孝之。
「水月っ。お、オレさっ……!」
「……孝之」
「……えっ?」
「今……どこにいるの?」
孝之とは対照的な冷え切って事務的な水月の声。
それでも話せばわかってもらえる、と孝之は信じてます。
「あっ、うん。えっと、商店街の……」
ガチャ。
ツー、ツー……。
公衆電話から携帯への電話ってのは高いものです。早くも時間切れ。
再び腹ばいになって小銭を探す孝之。
周りの人の蔑む声を聞いても孝之は気にしません。
ただ、ただ必死にお金を探すのみです。
他の方法なんて考えず。
ただひたすらに。
どのくらいの時間が経ったのかわからないほど探し続けて。
もう夕方になっていました。
「………よお」
誰かの声に顔を上げるとそれは慎二でした。
「……久しぶりだな」
「う……あっ……」
正直、ここでかなり胸を撫で下ろしたんですよ、俺。
ああ…慎二だ……これで孝之は助かったんだ……って。
でも俺は忘れていたんです。
これは『愛美さんルート』だと言うことを。
「速瀬から聞いたよ……お前、突然いなくなったんだってな」
「…………………」
「連絡ひとつ、よこさないで。そのうえ……他の女と、つきあってたんだろ?」
「そ、それは……!」
否定したい孝之。でも何故か声は出てきません。
「お前、考えたことあったか? 速瀬がどんな気持ちでいたか……ちょっとでも、考えたことがあったか?!」
それでも何も言えない孝之。
「なんだよ……なにか、言い分はないのかよっ?!」
「………………」
「……この野郎っ!」
慎二に殴り飛ばされる孝之。
「慎二君!」
そこで飛び出してきたのは水月。
「やだ……こんなの、やめてよ! こういうの、よくないよ……」
「速瀬……」
どうやら水月は隠れて見ていたようです。
水月は孝之の電話の後、慎二に連絡をとっていたのです。
「……見損なったよ、孝之」
「…………………………」
「お前には、もう任せておけない……速瀬は、オレが守るから!」
「し、慎二君……」
慎二にぴったりと寄り添う水月。
「いいか、孝之。二度と……二度と、オレたちの前に顔だすなよ!」
「し、慎二……」
「行こう、速瀬!」
「あっ……ま、待って慎二君!」
結局孝之とは一言も言葉を交わさないまま水月は去って行ってしまいました。
後に残されたのは地面に這いつくばった孝之。
あいつらは……オレなんかの手の届かない、美しい世界の住人なんだ。
オレはもう……。
この世界には、存在しない……存在しちゃいけない、クソ虫なんだ……。
慎二、超使えねぇ。
汚れた服を着て、衰弱して痩せこけた孝之が地面を這いつくばってりゃ何かあると思わないのか?
お前ダメ。全然ダメ。
痛む足を引きずって、何も考えずに歩いていた孝之が行き着いたのは…愛美さんの部屋。
何故戻ってきてしまったのか。
それは自分でもわかりません。
ドアノブに手をかける孝之。
部屋の中に戻ったらまたあの日々に戻ってしまいます。
戻ってしまうのに。
ガチャ。
孝之が躊躇している間にドアが開いてしまい、中から出てきたのは愛美さんです。
逃げないと。
そう思う孝之ですが愛美さんの視線に指ひとつ動かすことができません。
無言の愛美さんに恐怖を感じる孝之。
今度はどんなお仕置きをされるのか。
「……鳴海さん」
「……っ……」
何がくるのか、と孝之。
しかし。
「………えっ?」
愛美さんは両手を大きく開き、孝之の震える肩を優しく抱きしめました。
「……外は、怖かったでしょう?
……もう大丈夫ですよ」
「あ……あぅ……」
涙を流す孝之。
「うぅうぅ……うう……」
「よし、よし……」
孝之は愛美さんのやわらかく暖かな胸の中で泣き続けました。
「……さあ。今夜は、ゆっくり休んで下さいね」
それは孝之がずっと転がされていた布団です。
こんなところに……オレを待っていてくれた物が、あったなんて。
なんとか横になる孝之は自分でも不思議なことに、モノがビンビンになってました。
「ふふっ……うれしいです、すごく」
「…………………………」
「鳴海さんは、お疲れでしょうから……今日は、私にまかせてくださいね」
何で戻ってきてしまったのか。
自分でもわからないまま…孝之は心地よい快楽に身を任せるのでした。
………………………………何て言うか…………。
孝之、堕ちました。
数日後。
落ち着いてきた孝之は、これでよかったんだ、と思うようになってました。
愛美さんの手によって跡形もなく崩れ落ちた孝之の世界。
でもこんなにも簡単に壊れてしまう世界なら早めに気づいて良かったのかもしれない、と。
愛美さんに対してすっかり従順になってます。
汚れているから選択しましょう、と服を脱がされる孝之。
代わりの服は無いので愛美さんの服を着ることになりました。
多少は抵抗したのですが愛美さんの子供を叱り付けるような厳しくも優しい瞳には逆らえません。
この生活ですっかり肉が削げ落ちてしまった孝之は愛美さんの服でも着られるようになっていました。
「すごく似合う……とっても、かわいいわ」
その孝之をうっとりと見つめる愛美さん。
他の服も着れるかも、とタンスを漁りだします。
目をキラキラさせる愛美さんを見てとても穏やかな気持ちになっていた孝之。
自分を陥れた愛美さんなのに、と孝之は焦ります。
そして愛美さんはもう孝之の服は捨ててしまってこれからは自分の服を着させることにしました。
服をゴミ袋に放り込まれるのを見ていることしかできない孝之。
いつから……こんなフヌケになったんだ、オレは?
…………………………。
初めてのスカートは、すうすうと風通しがよくて、それが気色悪くもあり……。
………ほんの少し、気持ちよくもあった。
………………………………続きをどうぞ。
さらに数日後。
もう孝之の拘束は何も無くなっていました。
それでももう逃げる気にはならない孝之。
着ている服が女物だと言う事もあるかもしれません。
でもそれ以上にもう孝之にはそんな気はなくなっていたのです。
愛美さんが買ってきてくれたマンガを読んで時間を潰す孝之。
暗くなってから帰ってきた愛美さんは孝之の服をたくさん買ってきていました。
それは揃いも揃って女物。
「あっ、あの。あと……」
「えっ……?」
「あの、その……これも、買ってきたんです」
顔を赤らめながら愛美さんが取り出したものは……
男性器をかたどったシリコンにベルトが付いたもの。つまり張型。
女性同士でヤる時に使うアレですね。
「鳴海さん、あんまりかわいいから……その……」
女物の服を着た孝之。そして張型。
使い道はひとつ。
孝之、処女喪失。
…………………………なんか………………
……………………もう…………
……………………どうでもいいや…………。
さらに数日後。
すっかり愛美さんとの生活に馴染んでいる孝之。
愛美さんのために料理を作っておいてあげようとした孝之ですが大失敗。
でも愛美さんが喜んで食べてくれました。
よかったね。
さらに1ヵ月後。
『孝之ちゃん』 『マナマナ』と呼び合う2人。
『孝之ちゃん』は完全にマナマナの『子供』です。
慈愛に満ちた母親に包まれた子供。
口調も、動作も。完全に小学生並みに。
孝之は女物の服のままで、遊園地にお出かけする2人。
不安だけどマナマナがかわいい、と言ってくれるのを信じる孝之。
最初は怖かったマナマナ。
でも今となっては、どこから見たってマナマナは天使。
いや女神だそうな。
電車に乗っても周りの視線は気になりません。
ニューハーフなんて人種もいるし。
孝之自身が言うのもなんだけど、ワンピース姿が似合ってるらしいし。
遊園地は楽しかったけど知らない男の子に気持ち悪いと言われてしまいました。
それを聞いて激怒するマナマナ。
泣きながら怒るマナマナを見て孝之は自分がマナマナを愛してることを認識。
さらに約1ヵ月後。
コーンポタージュスープを作ってマナマナを待つ孝之。
そんな孝之を見て喜ぶマナマナ。
でも優しくされれば優しくされるほど、愛すれば愛するほど怖くなるマナマナ。
昔は自分を嫌っていた孝之が、またいつか自分を嫌いになってしまうのではないか、と。
泣き続けるマナマナ。
マナマナにわかってもらわなくてはいけない。
孝之はもうマナマナさえいればいいんだ、ということを。
他には何もいらないんだ、という事を。
翌日。
マナマナは出勤。
残ったのは孝之1人。
自分にはマナマナしかいない、と言う事を示す方法。
それはマナマナしかいないことを、形にすればいい。
マナマナ以外の誰ともつきあえる人間じゃなくなればいい。
そう決意して受話器をとる孝之。
数日後。
孝之が黙ったままいなくなって数日。
部屋に帰ると電気もつけずにうずくまったままのマナマナが。
心配で心配でろくに眠ることもできなかったマナマナは孝之をどなりつけます。
そんなマナマナに孝之は自分のシャツをはだけてみせます。
そこにあるのはマナマナ以外の人間はいらない、と言う決意の証。
そう、それは…。
できたての豊満な胸。
わざわざ胸の大きさや離れ具合まで説明して、マナマナと同じにしてもらった胸。
これでもうマナマナ以外の人間は近づくことはありません。
近づきたくありません、確かに。
そしてもちろん『モノ』はついたまま。
それを見ても何も言わないマナマナに不安になる孝之。
もしかしてマナマナはこの胸をいやがっているのか、と。
元に戻してもらってくる、と飛び出していこうとする孝之をマナマナは止めます。
そうじゃない、そうじゃないの、とマナマナ。
嬉しいの、とマナマナは涙を流します。
嬉しくてなんて言っていいのかわからないくらいに。
できたての胸に感じるマナマナのぬくもり。
……愛してる。
オレは、このひとを………愛してる。
「……ふふっ。孝之ちゃん、やわらかぁい……」
「ははっ。マナマナ……くすぐったいよ」
「お母さんって……こうなんだろうな。あったかくって、やわらかくって……」
「マナマナ……」
「……ねえ、孝之ちゃん。さわっても……いい?」
「あ……っ……」
ああ……。
マナマナの、柔らかな唇が……オレの、出来立ての胸に。
優しく……優しく、タッチする。
「ちゅっ……チュッ……」
「ん、んんっ……」
愛撫される女の子って……こんな感覚、だったんだな。
気持ちいい、それだけじゃない……。
快感に似た、せつなさが……この胸を、熱く焦らして……。
「愛してる……孝之ちゃん」
「あ、あんっ……」
「愛してる……愛してる……」
マナマナの、羽毛のような繊細なタッチ………。
……………………………。
ああ………。
………白くなっていく………。
何もかもが、霧がかかって……ぼやけていく……。
「愛してる……」
「愛してる………」
「………愛してる」
マナマナ………。
愛してる…………。
マナマナだけを、愛してる。
永遠に…………心も身体も、永遠に一緒だよ?
…………マナマナ………。
なにこれ?
と言う訳で…愛美さんクリア……。ぱちぱちぱち……。
……はぁ。
感動ゼロです。
これってハッピーエンド?
……ハッピーエンドなんだろうなぁ。
一応2人は幸せになったわけだし。
はぁ…。
だめだこりゃ。ため息しか出ないよ…。
前半の白衣の天使っぷりにはすっかり騙されました。
まさかこんなサイコさんだったなんて。
そんじょそこらのバッドエンドよりブルーです。
そー言えば結局、モトコ先生の謎はわからなかったな。
考えすぎだったかな?
それにしても…なんか一気にテンション下がったな……。