2002.1.14 「……ヤバくね?」編


疲れた体に鞭打って。

今日も愛美さんに会わないと…。
 
 

バイト先で愛美さんと会った後、病院へ向かう孝之。

モトコ先生のところに行くと、モトコ先生の目が赤いことに気付いた孝之。

寝不足だとごまかすモトコ先生ですがこれはどう考えても泣いていたに違いありません。

一体モトコ先生に何があったのか…。

愛美さんに関係あることなのかな?

とりあえず今度からはモトコ先生に何も言わなくても遙のところに行ってもいいことになりました。
 
 

遙の病室へ。

遙はおまじないとしたのは孝之だったどうか不安でいっぱいです。

目に涙を溜めながら孝之を見つける遙。

 1、おまじないをしたのはオレだよ

 2、考えすぎはダメだって言ったろう?

……毎回出る選択肢ながら何て辛いんだ。

遙…すまない。今の孝之(=俺)には愛美さんがいるんだよ。
 
 

夜、慎二から電話がかかってきました。

話したいことがある、と言って孝之の部屋に来ることに。

話と言うのは茜の水泳の大会がある、と言う話でした。

ですが話はだんだん別の方向へ。

孝之と水月、そして遙の話に。

慎二は先日、水月に電話をしていたのです。

茜のことを伝えるのが目的だったようですが、そこで水月の様子がおかしいことに気付いた慎二

原因は…孝之以外に考えられません。

以前孝之は水月に『現実を見ろ』と言いました。

同じことを慎二は孝之に言います。

その『現実』とは今孝之の側にいるのは水月だと言うこと。

そして遙とのことは終わった、と言うこと。

仕方ない、と言う慎二の言葉に孝之はキれかけます。

でも孝之は水月に言ったのです。遙にちゃんと話をする、と。

それは遙に別れ話をするということじゃないのか、と慎二は言います。

いまだに自分の気持ちがはっきりしていない孝之は答えることができません。

慎二は完全に水月の味方です。

それは個人的な好意もあるでしょうが、それよりもこの3年間を見てきた者としての気持ちなのでしょう。

そんな孝之の態度に慎二もキれますがやがて冷静に。

遙の病院に行くことを辞めた2年前の秋、孝之は遙の家の電話番号を携帯から消したそうです。

そして孝之の携帯の登録でトップにあるのは水月。

それが現実だと思う、と慎二は言いました。
 
 

思い悩んでまま孝之は眠るのでした。
 
 

翌日バイトへ。

店長から日曜日が休みだったのを今週だけ土曜日を休みにして日曜日に出てくれ、と頼まれました。

承諾する孝之。

これが愛美さんに関係してくるのかどうかは不明。
 
 

病院へ行く孝之。

遙はもうすぐ自分のことに気付きそうな気配。

茜には自分も水月も応援には行かない、と行って別れました。

茜は実は来て欲しかったようにしてましたが結局は何も言わないままでした。
 
 

その帰り道。

偶然水月を見かけた孝之は声を掛けました。

茜のことを伝える孝之。

そして水月に尋ねます。「水泳を辞めたことを後悔してないか」と。

茜に構いたがるのは期待を裏切ったことのお詫びではなくて、自分が夢をかなえられなかったからなんじゃないか、と。

一瞬動揺する水月ですが何にしても公開してない人間なんていない、とごまかします。

話をうやむやにしたまま別れる2人。
 
 

夜、孝之は遙と水月のことでひたすら思い悩んでいます。

そこでふと思い出したのは愛美さんのこと。

愛美さんの『悩み相談室』のことです。

本気でこんなことを相談しようと思っているわけではありません。

でも電話番号を教えてもらっておいて電話をしないのは失礼かな、と孝之は考えます。

 1、かけてみよう

 2、やっぱり悪いな

やっとこの時がやってまいりました。

電話番号を教えてもらった時からどれだけ待ち望んでいたか…。

喜び勇んで(俺が)愛美さんの家に電話!!

……………………留守電。

世知辛い世の中です。

留守電にメッセージを吹き込んでこの日は終了。
 
 

翌日。この日は茜の大会の日です。

バイトに行ったのはいいですけどどうにも気になって仕方ない孝之。

早めにバイトをあがらせてもらって大会会場の白陵に向かいますが結果は準優勝。
 
 

病院へ。

遙は寝ていると言うので起きるまでの時間つぶしとして屋上へ。

「鳴海さんっ……ここにいらしたんですねっ!」

そこにやってきたのは愛美さん。

昨夜電話をもらったのに留守だったことを謝るためにわざわざ孝之を探していたようです。

いい娘だ…。

そして今度は携帯の番号を教えて仕事に戻っていきました。

普通、携帯と家の2つ電話があったら携帯を教えるはず。

孝之も不思議がってます。

今度は教えてくれたんだから携帯に電話がかかってくると不都合があるわけじゃないだろうし…。

はっ! まさか孝之に電話してもらう時のために買ったとか?

まてよ…そう言えば慎二と口論になったとき携帯電話の話になったな。

携帯電話のメモリーの一番上は水月だろとか何とか。

孝之から愛美さんの携帯に電話したとして、それで愛美さんが孝之の番号を登録したとして。

それで愛美さんにとっての1番が孝之だとわかっちゃう、みたいな…。

まぁ、今こんなこと考えてもしょうがないからいいや。
 
 

屋上でやることが無い孝之は駅前をぶらつくことにしました。

そこで花火のポスターを見て一計を案じる孝之。

病室で遙の好きなヘビ花火をやってやったら喜ぶだろうな、と。

たまにはいいこと考えるじゃないですか。

かなり時間を食いながらも何とかヘビ花火を手に入れて病院に戻ります。
 
 

誰にも見つからないように病室へ行く孝之。

今日は誰にも会えないと思っていただけに嬉しくて涙まで流す遙。

ヘビ花火を見せるとさらに遙は喜びました。

でもそれは花火よりも孝之がそこまでしてくれたことを喜んでいるのではないでしょうか。

窓を開けてヘビ花火に火をつける孝之。

灰皿の上でヘビ花火はとぐろを巻いてます。

2つ目は灰皿からはみだしてしまったのを見て遙が言いました。

「うふふ……このヘビ、孝之くんみたい……」

「……んだよ?」

「だってね、自分で自由にどんどん行っちゃうんだもん」

「なんだよー、協調性に欠けるってか?」

「ううん、そうじゃなくって。孝之くんは、きっとすごい人なんだよ」

「凄い?」

「うん。やればね、何でもできるの。きっと白陵大だって……これは内緒だけどぉ、きっとね、平くんよりいい成績で合格するよ?」

「…………」

「だって……夏休みから本格的に始めたのに……私なんかもう追い越されそうなんだもんね……」

「……んなこと……ないけどさ」

「それにね、どんなに大変なことがあっても、孝之くん強いから、自分で道を探してどんどん行っちゃうの」

「…………」

「あ、でもぉ、後先考えないから、誰かが見ててあげないとね……ふふ……」

「…………」

「それでね……あのね………………それが……私だったらいいなあって……」

痛ぇ…。

「遙…………」

「今は……こんな風になっちゃったけどぉ……ずっと……側にいられたら……いいなって……」

痛ぇ…。

「…………」

「もしそれが叶うならね、私も、もっと頑張ろう……なんて……あはは……」

痛ぇ…。

遙の笑顔がめちゃくちゃ痛いッスよ…。

言葉をつまらせる孝之。

お互いの目をじっと見つめている2人。

「はる……か……」

孝之がそっと遙の顔を……寄せる。

ガチャ。

「!?」

そこに入ってきたのはモトコ先生。

面会時間は過ぎていたし、おまけに病室で花火までやっていた孝之は素直に謝ります。

見たい、と言うモトコ先生の要望に応えて最後にもう一度ヘビ花火をやって孝之は強制退場。
 
 

何か前回(まゆルート)で孝之があまりにクサったやつだったせいか、今回ヤケにいいヤツに感じます。
 
 

夜、風呂から出てから、特に用事もありませんが慎二に電話してみる孝之。

鼻毛を抜いている最中で、なかなか抜けない大物がいると言って電話を切る慎二。

孝之鼻毛以下です。

まぁ何でも言える孝之だからこそこんなことができるんでしょうけどね。

この間諍いがあったにも関わらずいつもと変わらない2人にちょっと感動。鼻毛以下だけど。

試しに番号通知をオフにしてもう1度かけてみるとうって変わってちゃんとした態度。

なかなか慎二も面白いやつです。

そこで愛美さんに携帯番号を教わったことを思いだした孝之は自分の携帯に登録。

ついでに電話してみるようか、と思いつく孝之。

 1、愛美に電話する

 2、やめとこ

ピッ。

速攻です。

そしてテレクラばりのスピードで電話に出る愛美さん。

「あっ、もしも……」

「鳴海さんですか?」

「えっ? ……あっ、う、うん」

番号非通知にしておいたはずなのにすぐに孝之だとわかった愛美さんを孝之も不思議に思います。

…どうやら俺の予想は当たりのようですね。

やはり愛美さんは孝之のために携帯を買ったようです。そして孝之にしか番号は教えてない、と。

「お電話いただけて……うれしいです……」

「あっ、ああ。えっと、とくに用はないんだけど……」

「い、いえっ。そういうのって……よけいに、嬉しい」

「そんなもん?」

「うふっ。そんなもんです」

愛美さん、イイです。最高ですばい。

孝之のバイトの話などをしてましたが、以前約束した飲みの話に。

孝之がいつでもいい、と言うと明日はどうか、と愛美さん。

急な話ですが問題は無いので孝之は承諾します。

どうせ病院で会うからそのまま一緒に行こう、と言う孝之ですが愛美さんは渋り声。

この辺は相手を意識してるかどうかの違いでしょう。

そして待ち合わせ時間を決めて電話を切る孝之。
 
 

翌日。

バイト終了後に病院へ。

茜の具合が悪そう、いや実際に悪いのですが自力で帰っていただきます。

すんません、今日はデートなんスよ。

遙の病室に言って花火の話をして、モトコ先生に怒られて。

元気は遙でしたが2人きりになるとやはり不安な様子です。

心からキスしてやりたいのですが…ここは手を握るぐらいで…。
 
 

そして愛美さんの待ち合わせ時間がやってまいりました。イヤッホ〜♪

時間ギリギリで待ち合わせ場所にやってきた孝之。

愛美さんは先に来ていて、孝之の方に走り寄ってきました。イイ娘だ…。
 
 

飲み屋にてビールを飲む愛美さん。

こうして見ると愛美さんって胸デケえなぁ。

なんて思ってたら孝之もそこに注目しだしました。シンクロしてます。

爆乳呼ばわりはいいとしても、感度はどうだ、とか乳輪もでっかいんだろうか、とかは失礼千万。

注文は全て孝之任せで、注文しようとしたら店員を呼んでこようとしたりと気を使いすぎる愛美さん。

「ここは職場じゃないんだから。ゆっくり、息抜きしようよ」

「うふっ……そうですね。ありがとうございます」

そして軽い感じで話が始まる…と思いきや。

彼氏がいるいないの話に。

そんな人はいないという愛美さん。

「鳴海さんみたいな、素敵な人が……いてくれたら、いいんですけどね」

『素敵な人』

その言葉が孝之の胸に突き刺さります。

自分はそんな人間じゃない、と。遙のこと。水月のこと。

ですが愛美さんはそんな事情をも知った上で孝之を『素敵な人』を言ってくれていました。

孝之と同じこと悩みたい、という愛美さん。

孝之ろ同じことを、同じように。

孝之も誰かに聞いて欲しかったのかもしれない、と思います。

気付くと孝之は全てを愛美さんに話していました。

自分を責めるな、と愛美さんは言います。

人の気持ちは変わって当然。それでも遙を傷つけないようにしている孝之は素敵だ、と。

「鳴海さんは、優しすぎるんです……だから……」

「……………………」

「だから……」

『よく知りもしないくせに、適当な慰めはしないでほしい』

『穂村さんに、オレのなにがわかるんだ』

そんな気持ちもありました。でもその何倍何十倍もの安堵感を思える孝之。
 

なんだろう……ずっとずっと、望んでいた気がする。

誰かに……こうして、許してもらうことを……。
 

愛美さんは何も言えなくなってしまった孝之のそばにいてくれました。
 

……誰かが、見ていてくれる。

……誰かが、許してくれる。

それが、こんなにも居心地のいいことだったなんて……。
 

今まで張りつめていた気が一気に緩んで、思わず出そうになった涙をこらえる孝之でした。
 
 

気が緩んでしまったせいか、つい飲みすぎてしまった孝之。

店を出てゲロ吐いてます。

ふっ、修行が足りんな。

それも愛美さんが手を口に突っ込んでくれてます。

恐縮する孝之。

見れば愛美さんの手ばかりか、腕のほうにまでゲロが飛び散ってます。

「本当に、汚くなんてないのに……どうすれば、信じてもらえますか?」

そう言ってもじもじをうつむく愛美さん。

そして…。

「私、今の鳴海さんと……キスだって、できますよ……?」

どう見ても愛美さんの顔は本気です。

 1、キスする

 2、キスしない

…………どうする?

キスはしたい。俺がしたい。

でもゲロまみれの孝之が愛美さんとキス?

むむむ…。

それに(この時点では)愛美さんのことを何とも思っていない孝之がそんなことをしていいのか?

しかし愛美さんの気持ちを踏みにじるわけにも…。

…………………ここは正直に行きましょう。

キスをしたいんだ!!
 

そ、そうだ……お互いに酔ってるんだし。

ここは無礼講ってやつか?
 

違う! 違うぞ孝之!! 本気なんだ!! 愛美さんは本気なんだぞ!!!

そして孝之に隣にしゃがみこんだ愛美さんに…。

と思ったら孝之ダウン。

何もできないままタクシーに連れ込まれて愛美さんに送ってもらう始末。

かっこ悪い…。

突然降ってきた雨。

タクシーを降りた孝之に折り畳み傘を貸してくれる愛美さん。

そして別れ際。

「あの……今度は、ちゃんと……」

「えっ?」

「い、いえっ。なんでもないです。それじゃ……」

「あ、ああ……また」

走り去っていくタクシー。

さっきの愛美さんの言葉を思い返すこともできずに孝之はトイレにこもるのでした
 
 

翌日。

二日酔いと雨のせいでどこにも出掛ける気にならない孝之。

本来ならバイトがあったのですが日曜にバイトをやることにしたのでこの日は休み。

なるほど、ここであれが活きてくるのか。
 
 

部屋でゴロゴロしていよう、と孝之がしているところにやってきたのは水月。

水月はこの日の花火大会の話をします。

そこから派生して出てきたのは3年前の4人で行った花火大会のこと。

「なあ、こんな話やめないか」

「……その言い方ひどくない?」

「酷いとかそういうんじゃなくて」

「わかった。いいよ言い訳は」

「何勝手に納得してんだよ」

「……いいよ、もう帰るから」

「待てよ」

「私はこの話がしたくてきたのに、孝之はどうでもいいんでしょう? じゃあね」

そう言って部屋から出て行く水月。

少ししてから孝之は水月を追って部屋を出ますが水月の姿はありません。
 
 

部屋に戻る孝之。

かっがりする反面、ホッとしている自分にも気がついています。

自分は水月を追いかけた……つもりだった。

追いつけないのがわかっていて。

本当は水月がもう行ってしまっていることを、心のどこかで期待していたのかもしてない。

だけど、追いかけないと自分の中で体裁がとれないから追いかけた。
 

−−鳴海さんは、優しすぎるんです……。
 

思い出されるのは愛美さんの言葉。

こんな自分を見てもまだ自分のことを優しいと言ってくれるのか。

こんな自分になんて言葉をかけてくれるのか。

こんな自分でも…許してくれるのか。

孝之は自然に携帯を手にとって、愛美さんに電話をかけていました。

愛美さんに自分の気持ちを伝える孝之。

「なにを守りたいのか。これからどうして行けばいいのか……ほんとは、もう考えたくないんだ」

そんな孝之の言葉を聞いて突然孝之の部屋に来る、と言い出した愛美さん。

孝之は場所を教えて外で愛美さんを待ちます。
 
 

愛美さんは30分と言っていたのに十数分で愛美さんは走ってやってきました。

「どうして……オレに、そこまでしてくれるんだ?」

「えっ……だ、だって……鳴海さんが……私を頼ってくださったから……」

「……オレは、そこまで君にしてもらうような……」

「理由が……」

「えっ?」

「理由が……必要、ですか」

「鳴海さんを、想うのに……理由が、必要ですか」
 

穂村さんの中に、オレがうつっている……。

穂村さんの瞳に漂う、オレは……。

……あきらかに、欲情していた。
 

マジ?

そして愛美さんをキツク抱きしめる孝之。

「最初に、断っておくけど……オレ、冗談通じないタイプだから」

「冗談なんかじゃ……ないです」

「……穂村さん」

「私……本気です……」

「………………………」

「鳴海さんが、誰を想っていても……いいんです。私は……」

もう止まらない孝之。

愛美さんと『そういうこと』をするために部屋に連れ込む孝之。

そして…。
 
 

結論から言うとヤっちゃった訳です。

一瞬バッドエンドかと思いましたがどうやらそうでもない様子。

愛美さんの超絶テクに孝之はやられっぱなし。

ひとしきり終わった後。

「あの……気に、なさらないで下さいね」

「いやいや、いいんだ。こっちこそ、喜ばせてやれなくて……」

「あ、えっと……そうじゃなくて……」

孝之大馬鹿。

もちろん愛美さんが言ったのは2人がヤってしまったことを気にするな、と言う事。

自分から望んだことだから孝之は悪くない、と愛美さん。

「だからっ……このことで、ご自分を責めたりなさらないで下さい」
 

穂村さん……。

そう言ってくれる穂村さんだからこそ、こんなことができたのかもしれない。

穂村さんは……オレを許してくれるから……。
 

そして愛美さんの腕枕で寝る孝之。

そのまま孝之は眠りに落ちていくのでした。
 
 

う〜ん…どうでしょ?

愛美さんがあれだけのテクニシャンだったとは…。

驚いたと言うより何気にショックだったかも。

だって白陵時代からずっと孝之のこと好きだったんじゃないの?

一体誰に…?

いや、孝之のことをずっと想ってきていたってのは単なる俺の想像です。

そこからして間違ってたのかも。

でも…う〜ん……。
 
 

翌日、孝之が起きるともう愛美さんはいませんでした。

用意してあった朝食は水月とはレベルが違うほどの出来。

板前修業でもしたか? と孝之が思うほどに。

まさに完全無欠な愛美さんですが、孝之には何故そこまで愛美さんが自分を想ってくれるのかわかりません。

出会ってそんなに経っていないにも関わらず、です。

この辺は自分の後輩だと気付いていない孝之にはわからないことなんでしょう。

さっぱりわからない孝之でした。
 
 

翌日のバイト終了後に病院へと向かう孝之。

その途中で病院帰りの水月と出会いました。

遙には優しいんだね、と水月。

「私のことは、追いかけてもくれなかったのに……ね」

「追いかけたよ……一応」

「嘘!」

嘘じゃない。確かに部屋は出ました。

でも追いかけようとして追いかけたわけじゃなかった、ということです。

しかもそのあとで愛美さんとあんなことをしていた孝之。

水月に何も言うことができません。

「……ねえ」

「……えっ?」

「なんでそこで、黙っちゃうの?」

「あ、いや……」

「……言い訳くらいしてよね」

そして見舞いが終わったら一緒に帰ろうという孝之ですが水月は親と食事に行く、と言って去っていきました。

水月が自分からどんどん遠ざかっていくのを感じる孝之。

これから遙に会って、茜と仲良しごっこ。

そんなの耐えられそうに無い、と孝之は引き返すのでした。
 
 

疲れて家で横になる孝之。

考えるのは愛美さんのこと。

孝之は愛美さんの前ではムリをしない自分でいられる、ということに気付いています。

リラックスできるかもしれない、と孝之は愛美さんに電話。

また番号非通知にも関わらず名乗る前に孝之だとわかった愛美さんに質問をします。

答えは単純。

「携帯の番号は、鳴海さんにしか……教えてませんから」

「えっ?」

「この携帯、ですね。鳴海さんからのメッセージが留守電に入っていた夜……コンビにで、買ったばかりなんですよ」

つまり『孝之の電話専用』と言うこと。

孝之から電話がかかってきても留守じゃ失礼だし、自宅電話よりは、出られる可能性が高くなると思って、と愛美さん。

「あっ、でも。どこでもお喋りしたいっていうのが、一番の理由なんですけどね。ふふっ……」

その後は他愛も無いお喋りをして電話は終了。

普通はあそこまで好意を示してもらえたら、付き合うかどうかの判断をしなければいけないはず。

でも愛美さんはそれを求めてきません。

だからと言って都合よく甘えてしまうのは失礼です。
 

でも……。

甘えたい……愛美さん。
 

全く同感です。俺も甘えたいです。

それにしてもずいぶんあっさり携帯電話の謎(?)が解けちゃいました。

もっとドラマティックに展開されるのかと思ってたのに。

そして完全に『都合のいい女』化しそうな勢いのある愛美さん。

これでいいのでしょうか……いやよくない。

それにここまで言われたりやられたりしたら逆に怖く感じてしまったりして。スンマセン。
 
 

翌朝。

とりあえず水月に電話をする孝之ですが相手になってくれません。

出勤時間直前に電話する方もどうかと思いますがそれ以上に2人の距離が離れてきているということなのでしょう。
 

もう何言ってもこれかよ。

ったく、めんどくせぇ〜。
 

やばい。また孝之が最悪化してきた。
 
 

バイトに行ってその後病院へ。

病室には遙と…愛美さんが。

一瞬焦る孝之ですが愛美さんは全く平然として遙の血圧を計った後出て行きました。
 

少し甘えるような電話での声は、どこに行ったんだ?

ベッドで見せたあのヨガリ顔は、どこに行ったんだ?

オレのことを、好きなんだろ?

だったら、もうちょっと『私たち、仲がいいのよ〜ん』な態度を、遙に見せつけるかと思ったのに……。
 

バカか、コイツは。

まぁそれが孝之を気づかってのことだと言うことは本人もわかっているようですが。

遙は前日に見舞いに来なかったことで孝之を不満げな上目遣いで見ています。

それは孝之にしてみれば『恨みがましい目』。

愛美さんだったらこんな顔しないだろうなどと思っている孝之。

いつの間にか、孝之の手足にはいろんな枷がはめられていたのです。
 

……楽になりたい。

そんなことを思ってしまうのは……やっぱり不謹慎なんだろうか……。
 

不謹慎です。間違いない。
 
 

病室を出ると愛美さんが話しかけてきました。

でもそれはアンケートのお願い。

ちょっとガッカリしながら孝之はアンケートの紙に書き込んでいきます。

『売店に、文房具は必要だ:YES/NO』 YES

『売店に、ぬいぐるみは必要だ:YES/NO』 NO

『今夜、お邪魔してもよろしいですか?YES/NO』 ……

思わず顔を上げるとそこには愛美さんの笑顔が。

ほんの少し考えた後孝之はYESにマルをつけました。

「ご協力、ありがとうございました」

「あ、ああ」

誘い方ひとつにもすごい念の入れようの愛美さんに不倫でも経験したことがあるのか、と勘ぐる孝之。
 
 

夜、愛美さんを待ちながら期待しまくりの孝之。

もちろん『その展開』を、です。

昼間の愛美さんの様子からこのまま関係を続けても遙や水月にバレることはないだろう、などと考えてます。

せっかく今回はイイやつかもしれない、と思っていた孝之ですが一気に最低野郎になっちゃいました。

自分に言い訳をする孝之。
 

ちょっと、現実を忘れたいだけだ。

ちょっと、誰かに甘えたいだけだ。

ちょっと、ちょっとだけだから……。
 

そしてやってきた愛美さん。

一緒にご飯を食べようと思った、と材料を持ってきてます。

そんな愛美さんをいきなり後ろから抱きすくめる孝之。

愛美さんは自分を拒むことは無い、と決め付けています。

「やめて……やめてくださいっ……!」

孝之はその言葉にショックを受けます。

昨日から生理になってしまった、と愛美さん。

ホントかどうかはわかりませんが。

安心すると同時に反省する孝之。
 
 

愛美さんの手料理をたらふく食った後孝之は1つのお願いをします。

「あの、さ……」

「はい……?」

「その………今夜も、腕枕してくれるか?」

「えっ……うふっ……はい、いいですよ!」

全てを包み込んでくれるような、穏やかな愛美さんの笑顔。
 

もう……オレは、この人なしじゃいられない。

たとえ、これが恋じゃなくても。この人がいなくちゃ、現実と向きあっていくことができない。
 

…………………………どうなんでしょう。

孝之の気持ちは恋ではない、と自分で言ってます。

さらには愛美さんの言っていることも本心なのかどうか。

こんな状態がいつまでも続くわけがないのに…。
 
 

愛美さんに腕枕をしてもらったまま眠っていた孝之は電話の音で目が覚めました。

まだ夜中。

めんどくさそうに電話に出ると相手はモトコ先生。

遙の意識がまた戻らなくなった、と。

電話が切れた後もショック状態の孝之。

ガサッ。

「あっ……」

「涼宮さん……また、意識が……?!」
 

……ハッとふり返ると、穂村さんはすでに服を身につけていた。
 

裸で寝てたの?

孝之が病院に行く、と言うと愛美さんも行くと言ってテキパキを準備を始めました。

その間孝之は何もできません。

ただただ打ちひしがれるばかりでです。

遙の意識が戻らなくなってしまった。

しかも自分が愛美さんをイチャついてる間に。

ああ…。
 
 

タクシーが病院に着くと愛美さんは先に行ってしまいました。

すっかり看護婦の顔です。

重い足取りの孝之。

廊下で声をかけてきたモトコ先生から遙の状態を聞きます。

まず面会謝絶であること。

回復に向けてちょっと脳が混乱しているだけかもしれないので、ごく短時間で目覚めるかもしれないこと。

そして深刻な状況である可能性も、完全に否定できないこと。

水月にも連絡したほうがいい、と言ってモトコ先生は去っていきました。
 
 

翌朝。孝之は病院の屋上で目覚めました。

勇気を出して水月に電話をする孝之。

遙の状態を聞いて驚く水月ですが一時的なものと聞いて胸をなでおろします。

そしてなんだか普通に水月としゃべれたことが嬉しくて孝之はつい口が軽くなってしまいました。

ところがそこからまた口論に。

いや、口論ではありません。水月の叫びです。

「こういうのが、イヤなのよ!

 遙に起こったことを、孝之から聞く……こういうのが!」

「み、水月……」

「孝之と遙は、私なんかにはいる隙のない……強くむすばれた関係なんだって、思うのが……」

「なに言ってんだよ」

「わかってる!

 わかってるの。今の遙には孝之が必要だし……でも……。

 わかってるからこそ……苦しいのよおっ!」

以前とは全く変わってしまった水月の態度ですが、それは全て孝之を想うが故。

わかっているつもりだったのに、逃げようとしていた自分。

水月の愛情を、重荷に感じ始めていた自分。

それに気付かないフリをしたくて。

そんな自分の気持ちに気付いてしまった孝之。

水月は泣きながら電話を切りました。

「……ここに、いらっしゃったんですね」

そこにやってきたのは愛美さん。

「私は……悩んでいる鳴海さん、好きです」

愛美さんは優しいから悩んでしまうんだ、と言います。

自分は自分の都合しか考えていない、と孝之。

自分はいろんなことを決めなければならない。

でもどの気持ちを選んでいいのかわからないまま逃げてばかり。

そんな孝之に愛美さんはいいます。

逃げたっていい。

その分孝之は苦しんでいるから。

誰も、遙も、水月も孝之を責めることはできない、と。

「……私は、鳴海さんの味方です」

「味方……?」

「誰が、なんと言おうと……私だけは、あなたの味方です」

そんな愛美さんの言葉、存在は孝之にとって居心地のいいものでした。

でも。

「……それじゃ、ダメなんだ」

「えっ……」

「やっぱ……ちゃんと、向きあわないとダメだ」

「鳴海さん」

「水月とも、遙とも……ちゃんと」

「…………………」

愛美さんの表情が曇ります。

そこで天川さんが愛美さんを呼ぶ声がしました。

少し躊躇した後に去っていく愛美さん。

そんな愛美さんに孝之はすまなく思います。

せっかく自分の味方とまで言ってくれたのに。
 

でも、情けない自分が……自分でも嫌なんだ。

オレ自身でも、認められるオレになったら……また、味方だと言ってくれるか?

穂村さん……。
 

孝之も苦しんでいます。水月も。そして愛美さんも。

遙の目が覚めた時、一体どうなるのでしょうか……。
 
 

自分の部屋に帰ってきた孝之。

まずバイト先に電話です。

健さんはすぐに事情を察してくれました。
 

後ろで小悪魔どもが騒いでいたが、知ったこっちゃない。
 

あゆはともかくまゆまで『小悪魔』扱いですか。ヒドいね。

受話器を置くとすぐに電話が鳴り出しました。

一瞬不安に襲われながらも電話に出てみると相手は愛美さん。

電話番号はモトコ先生に教えてもらったんだそうです。

電話番号すら教えずに、ただ一方的に甘えてきていた孝之。

「あの……昼間のこと、なんですけど」

「あ、ああ……」

「もう、私は……鳴海さんの、お役に立てないって……ことですか」

「…………………」

水月と、遙と向きあっていくということ。

それは愛美さんとの関係を断ち切ることになるのです。

あえてそのことは考えないようにしていた孝之。ですが…。

「ごめんな……穂村さんには、さんざん甘えちまって」

「…………………」

「もう、電話相談室には……頼らないよ」

「鳴海さんっ……」

「たまには、一人でモンモンするのもいいかなってさ……ハハ」

「…………………」

「だから……」

ガチャ。

ツー、ツー……

「……………………」

遊びなんかじゃなかった。

でも恋愛感情でもなかった。

愛美さんといると心からリラックスできた孝之。

できれば失いたくない。

でも遙があんな状態になって。水月をあんな風に泣かせてしまって。

それでもこの先、愛美さんとの関係を続けていくほど孝之は器用ではありませんでした。
 
 

少しは男を見せてくれた孝之です。

ちょっとホッとしました。

しかしこれで終わるはずがありません。

愛美さんはどうするのか。

そして孝之は。遙は。水月は。

さらに言うなら愛美さんに電話番号を教えたと言うモトコ先生。

普通そんな簡単に関係者の電話番号なんて教えないでしょう。

たとえそれが看護婦だったとしても。

愛美さんがなにかいい言い訳でも考えたのか。

それとも事情を知った上で愛美さんに孝之の電話番号を教えたのか。

後者だとしたらモトコ先生の今後の動向にも目が離せません。
 
 

翌日。

バイトの後病院に行った孝之ですが面会謝絶の遙には当然会うことができません。

冷たい態度をとる茜が病室に入っていった後、孝之に話しかけてきたのは愛美さんです。

それも明らかに熱っぽい瞳で。

「私……思ったんです」

「えっ?」

「私は今まで、鳴海さんに……きちんと、気持ちを伝えてなかったなって……」

今まで病院では知らん顔をしていてくれていた愛美さん。

ですが今回は回りのことなんてまるで目に入っていない様子です。

「私……鳴海さんが、好きです!」

「なっ……」

「だから……鳴海さんの、都合のいい時でかまわないんです! このままの……このままの関係を、続けさせて下さい!」

通りすがりの患者さんが目を向ける中、焦りまくる孝之。

別のところで話そうを言う孝之に、愛美さんは今夜孝之の部屋に行く、と言います。

愛美さんが来てまたあんな雰囲気になってしまうのは困る孝之。

ですがこのままの状況ではなんともよろしくない。

と言う訳で孝之は愛美さんの申し出を受け入れました。

小さくお辞儀をして去っていく愛美さん。

こんなところ茜に見られていたら、と孝之。

でも誰かに見られてたんじゃないかなぁ? 例えばモトコ先生とか。

はっきり目撃してる患者さんもいることだしモトコ先生の耳に入るのは時間の問題なのでは。

そして孝之は愛美さんには無いと思っていた独占欲や執着心に気付きます。

孝之は今夜、水月に連絡を取ろうと思っていましたが、ちょうどいいので愛美さんのことをはっきりさせることにしました。

 

そして夜。

孝之が家に帰ると愛美さんは家の近くですでに待っていました。

持ってきていた材料でご飯を作る愛美さん。

そして。

「あのさ、穂村さん……」

「お食事のあとは、どうしますか?」

「えっ?」
 

先日のフェラのようなことだったらできます。

穂村さんの目はそう言っていた。
 

どんな目なのか非常に気になりますがきっとすごい目なんでしょう。

孝之の心をつなぎとめようとして必死なわけですから。

その気持ちも痛いほど理解する孝之。

でもそういうわけにはいかないのです。

孝之ははっきりと愛美さんに別れを告げました。

「もし、穂村さんが許してくれるなら……これからも友達として……」

「……な……ですっ……」

「えっ……」

「……好きなんですっ!」

穂村……さん……。

「好きなんです! 私……鳴海さんが……っ」

みるみる涙で潤んでいく愛美さんの瞳。

嗚咽をこらえるようにぐっと噛まれた唇。

くっ……これは…………辛い。

「……ごめん」

「うっ……っく……。

 私の、ことは……どうしても、続けていただけ……ないんですかっ?」

「……ごめん」

「…………………」

「…………………」

流れる無言の時。

「……わかりました……」

「穂村さん……」

愛美さんは涙を拭っておもむろに立ち上がりました。

洗い物だけさせてくれ、とキッチンに向かう愛美さん。

それもやがて終わります。

「あの……終わりましたので、帰ります」

「あっ。あ、ありがとう……」

「……それでは、失礼します」

「あっ……穂村さ……」

愛美さんは出て行ってしまいました。
 

穂村さん……ごめん。
 

心の中で孝之は謝り続けるのでした。
 
 

翌日。

バイト後に病院に向かいますが気の重い孝之です。

穂村さんにどんな顔で会えばいいのか、と。

そんな時にいきなり天川さんに話しかけられてビビる孝之。

すると突然孝之の携帯が鳴り出しました。

あわてて留守電にしてメッセージが入ったのを確認すると中庭へ。

携帯を取り出して留守電のメッセージを聞いてみると…。

「涼宮さんのお見舞い、お疲れ様です」

なんと愛美さんです。

お見舞いお疲れ様ってことはどこかからか孝之を見ていたと言うこと。

かなりストーカー化してきた愛美さん。

「五時ごろ、柊学園の坂の下で待っています。では」

そう言って留守電は切れました。

電話をかけ直してみますが電源が入っていない様子。

行くべきではない、と考える孝之。

ですが『女の子をふる』ということに慣れていない孝之には無視なんてできません。

今回だけ。これでまだ愛美さんが諦めてくれないようだったら、次は絶対に無視しようと考えて今回は行くことに。
 
 

そして白陵の坂の下。

愛美さんは校舎裏、丘の方へ行ってみよう、と言い出しました。

何故そんなことまで知っているのか不思議に思いながら付いていく孝之。
 
 

そして丘の上。

「ここでいつも……鳴海さん、お昼寝してらっしゃいましたね」

「えっ……?!」

辛いことがあった時にここに来て、いつもと変わらない孝之を見るとホッとした、と愛美さんは言います。

「私……白陵柊にいたんです」

これでやっと孝之にもわかりました。

あって間もない愛美さんが、どうしてあそこまで自分を想ってくれたのか。

家の都合で1年の途中で中退したと言う愛美さん。

諦めようと思った孝之のことですが、その後看護婦学校に入って遙と孝之のことを思い出した。

このまま看護婦を目指していけば孝之にまた会えるかもしれないと思い…そしてまた巡り会った。

「鳴海さんがいたから……一人でも、ここまで頑張れたんです」

そんな愛美さんの言葉のひとつひとつが痛い孝之。

孝之は愛美さんに勘違いしている、と言います。

愛美さんが好きだったのは白陵時代の自分だから。

「……違います!」

えっ……。

「鳴海さんのこと……私がいちばん、理解してます!」

「穂村さん……」

「私だったら、鳴海さんの全てを受け止められる……。

 私が、いちばん……涼宮さんよりも、速瀬さんよりも……。

 誰よりも………」

完全にストーカー的発言の愛美さん。

でも気持ちは痛いほど伝わってきます。

そして孝之はそんな愛美さんの気持ちに答えることはできないのです。

愛美さんに背を向けて歩き出す孝之。

「……鳴海さんっ!」

愛美さんが孝之を呼ぶ声。

でも振り向いちゃいけない。もう二度と。

ここまで真剣な気持ちに適当に相手をすることなんてできません。

「鳴海さん……鳴海さんっ!」

叫び続ける愛美さん……くっ、痛いですコレは……。
 

これで、穂村さんとは………本当に、終わりなんだ……。
 
 

翌日、店長・健さんに夜までバイトをやってくれ、と言われた孝之は快諾。

病院に行かなくても済む理由ができたからです。

同時に自分で自分に言い聞かせるクセがついてきていることにちょっと反省。
 
 

そして帰り道。

突然携帯が鳴り出しました。

愛美さんからかもしれないのでビビりながら着信番号を見ると…水月です。

電話でどこにいるのか聞くとなんとすぐ後ろにいました。

なんと孝之を待ってくれていたようです。

もう水月も怒っていない様子。

会話もいつも通り、つまり軽快な会話で、孝之は水月とこんな風に話せることを心から喜びます。

やはり彼女って存在は水月以外ありえない、と孝之。

「ねえ、さっさと部屋にかえろ」

「部屋って……オレのか?」

「えっ? 当たり前じゃない」

これまた嬉しい孝之。

俺まで嬉しくなっちゃいました。

元気に帰る2人。
 
 

孝之の部屋についた孝之と水月。

久々に2人はいいムードです。

そのまま『あれ』に流れていく…のかと思いきや水月はシャワーを浴びる、と言い出しました。

そしてタオルをとろうとした水月が部屋の異変に気付きます。

洗濯物がしてある、と。

孝之そんな覚えはありません。考えられるのは愛美さんだけ。

慌ててしらばっくれる孝之。

でもさらには折り畳んである洗濯物、そしてその時にポケットから出したと思われるレシートと小銭とガムがきっちり分けてテーブルに置いてあるのを見て水月の疑いはさらに深まりました。

必死で言い訳する孝之ですが…。

「私……やっぱ今日は帰る」

「お、おい……」

水月は出て行ってしまいました。

はぁ…。孝之と共に俺もガッカリ。

確かに今は愛美さん狙いだけど水月と仲直りできるかと思って嬉しかったのになぁ。
 
 

孝之は考えます。

前に愛美さんが来た時にこっそり洗濯していったとしたらテーブルの上のレシートなどに絶対気付くはずです。

となるとこれは孝之の知らないうちにこの部屋に勝手に入って…。

孝之の背中に冷たい汗がながれます。

もう愛美さんには電話しないと決めていましたが仕方ありません。

携帯を取り出す孝之。

トゥルルル、トゥルルル……。

「はい」

「……鳴海ですけど」

「……はい、わかってます」

「あのさ……聞きたいんだけど」

「はい」

「シャツやらタオルやら、洗濯したのって……穂村さんだよな?」

「はい」

あっさり答える愛美さん。

「じゃあ……どうやって洗濯したんだ?」

「お仕事が、はやく終わりましたので……少し、鳴海さんの家に寄って」

「そうじゃない! どうやって、部屋に入ったのか聞いてるんだ?!」

「えっ? 鍵ですけど……」

「か、鍵って……」

「はい。合鍵を、作らせていただきました」

マジですか?

「なっ、なに勝手なことしてんだ!?」

「そのほうが、何かとお役にたてると思いまして」

「それじゃ、泥棒と一緒だろうが?! なんで、オレに黙って……!!」

「……………………」

ピッ。

ツー、ツー……。

切られる電話。

今まで愛美さんに対して抱いていた気持ちの数々。

どうしてここまで、想ってくれるんだろう。

どうしてここまで、尽くしてくれるんだろう。

どうしてここまで、許してくれるんだろう。

好意的にとらえていたそれらの全て、『どうして』がひとつ間違えば『異常』と隣り合わせだったことに孝之は気付きます。
 

オレは……とんでもない娘に、手を出しちまったのかもしれない……。
 

と言う訳で愛美さん、完全ストーカー化です。

一体これはどうなるのでしょうか?

今までは愛美さんだしまだOKだったのですが…さすがにこれはやり過ぎです。

だってこれは犯罪じゃないですか。

むむむ…。
 
 

翌日病院へ行く孝之。

愛美さんに会いたくない、と思いながらも遙のところには行かなくてはいけません。

「彼氏ぃ!」

「あっ……星乃さん?」

いつも通りの文緒さんが凄く嬉しいです。

そして文緒さんの口から昨日遙の意識が戻ったことを知らされました。

しかもその連絡は愛美さんがしたはずだ、と。

電話ではそんなことを全く言っていなかった愛美さんですが今はそれどころじゃありません。

何か言いたげなモトコ先生でしたがとりあえず病室へ。

今までのように3年前を演じる孝之ですが遙の様子がおかしいことに気付きます。

「……もう、いいの」

「えっ?」

「もう……いいの……」

そこでモトコ先生が説明しました。

遙の認識能力は戻った、と。

「………孝之、くん………」

「んっ、なんだ?」

「私のことなんて……もう、過去になっちゃった……?」

「な、なにを言ってるんだよ? そんな……」

「だって………すぐに、来てくれなかった………」

「!!」

涙をにじませる遙。

そんな遙を見て孝之は愛美さんに怒りを募らせます。

孝之はモトコ先生に促されて何も言えないまま病室を出ました。

遙が目覚めたことを教えてくれなかった愛美さんに対する怒り。

ハッキリさせよう、と孝之は天川さんから愛美さんの住所を聞いて家に行くことにしました。
 
 

そして愛美さんの家に向かう孝之ですがその家が孝之の家の近くであることに驚きます。

古ぼけたアパート。そこの2階に愛美さんの部屋が。

そこで物音に気付いて振り返るとそこに愛美さんがいました。

言葉に詰まりながらも孝之を部屋に案内する愛美さん。
 
 

愛美さんの部屋はかなり殺風景な部屋でした。

あるのは小さなタンスとテーブル、古びた壁掛け時計のみ。

お茶の入れる愛美さん。

その時孝之はタンスの上にあった小さな写真立てに気付きます。

それは白陵時代の制服を着た孝之の隠し撮り写真。

「それだけが……唯一、祖母の家から持ってきた荷物です」

「えっ……」

気がつくと上から愛美さんがうつろな目で孝之を見下ろしていました。

そして自分の過去を語りだす愛美さん。

喧嘩ばかりしていた両親に捨てられた過去。

白陵を辞めたのはひきとってくれていた祖母が他界したため。

親の愛を知らずに育った愛美さん。

あんな両親のようにはなりたくなかった。

「だから……好きな人には、自分の全てをさしだそうって。相手の喜んでもらえることなら、なんでもしようって……」

ただただ話を聞くしかできない孝之。

「どうすれば……鳴海さんは、私を愛してくださるんですか?

 どうすれば……どうすれば……っ」

「…………………」

そこにいるのは孝之が恐怖を感じた恐ろしい相手ではなく、頼りない、無力な女の子でした。

ただ愛し方をしらなかっただけ。

誰かに愛されたことがないから。

誰かに抱きしめてもらったことがないから。

でも。

「そういう……問題じゃないんだ」

「えっ……」

「君がどれだけ、オレに尽くしてくれたとしても……ダメなんだ」

「…………………」

「君が、オレを想ってくれるように……オレも、水月を想ってる。

 だから……ごめん」

「……………………」

そう言って立ち上がる孝之。

「い、いや……行かないで!」

「………………………」

「行かないで……私を、一人ぼっちにしないでえっ!」

愛美さんの悲痛な叫び。でも孝之はその想いに答えることができません。

ドアを開き部屋からでようとした時。

「………いやぁあああ〜〜〜っ!!」

響く愛美さんの悲鳴。

そして鈍い音。

ドンッ!

孝之の背中に強い衝撃。

薄汚れたバーを越えて下の駐車場に…。
 
 

ドサッ。
 
 
 
 
 
 
 
 

え? え? え??
 
 

頭が割れるように痛い中孝之に聞こえてくるのは愛美さんの声。
 

どれだけ、尽くしても……ダメ……

……だったらどうすればいいのかしら……

そうだわ……

鳴海さんの前に……私しか、いなければいいんだわ……

そうすれば……私だけを、見てくれるわ

………私、だけを………
 
 

目が覚めた孝之。

「………んっ………」

「あっ……目、さめましたか?」

「う…………うぐっ?!」

声が出せません。それどころが動くことすらできません。

どうやら口には何かがはめられていて、手錠で柱にくくりつけられているようです。

「びっくりしちゃいました………だって、落ちちゃうんですもの」

そこには満足そうににっこりと微笑む愛美さん。

「でも、よかった……軽い骨折だけですんで。うふっ……」

そう言われて足を意識した途端に激痛が走ります。

徐々に自分の置かれた状況を理解し始めた孝之。

そう。

孝之は愛美さんに捕まってしまったのです。

監禁状態なのです。

「大丈夫です。私が、手当てしてあげますから……これから、じっくりと……時間をかけて……」

「ううっ、うっ……!!」

必死に体を動かして抵抗しようとする孝之。

ですがその全てが無駄な行為。

「……だめ」

「う、うぐっ……」

「……だ〜〜め」

怖ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

笑顔のまま優しい口調で言う愛美さんがめっちゃ怖ぇ。

身の回りの世話は全部やる、と買ってきたものを見せる愛美さん。

大人用紙オムツ。

水がなくとも髪が洗えるシャンプー。

消毒用のオキシドールに包帯。

手芸用のロープ。などなど。

「これだけあれば、とりあえずは大丈夫だと思います」

「……う、うっ……」

「他にも必要なものがありましたら、遠慮なく言ってくださいね」
 

こいつ……。

こいつ、本当に………。

…………本当に、イカれてやがる!!
 

「あらあら、動いちゃだけですよ。それに………無駄です」

「……う、う……」

愛美さんにとてつもない恐怖を感じる孝之。
 

………怖い。

怖い……怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

オレは……オレは、なにをされるんだ?

もしかして、穂村さんは……オレを、こ……ころ………。
 

恐怖のあまり失禁してしまう孝之。

「うふっ……まるで、赤ちゃんですね。おもらし、しちゃうなんて……」

楽しそうに微笑む愛美さん。

拭いてあげるためにジーンズのチャックを下ろしていきます。

そこには恐怖で縮こまったモノが。

「あら……うふっ、かわいい」

「う……うう……」

「赤ちゃんのみたい……うふふっ……」

普段こんなことを言われたら男として自殺モンですがそれどころではありません。

愛美さんは丁寧に孝之のモノをウェットティッシュで拭いていきます。

普段ならその絶妙なタッチにご起立しているモノもそれどころじゃありません。

「おしっこは、すんだけど……こっちは、大丈夫ですか?」

「う……?」

そのままケツの穴の方まで攻めだす愛美さん。

さらにはモノを咥えてきます。

細かい描写は避けますがとにかく勃っちゃった孝之。

でも絶対にイかないと頑張ります。

それは愛美さんに屈服したことになってしまうから。

でも…でも……。

愛美さんの超絶テクには勝てる訳も無くて………。

「……うふっ。おいしい……ご馳走さまでした」
 
 

孝之の食事を作るために台所に消えていった愛美さん。

聞こえてくる包丁のリズミカルな音。
 

……次は、なにが起こるのか。

……いつまで、この状態が続くというのか。

……オレはどうなってしまうんだ?

……どうされてしまうんだ?
 

朦朧とした意識の中で、聞こえてきた愛美さんの言葉。

『鳴海さんの前に……私しか、いなければいいんだわ……』

愛美さんを好きになるまで…いや、ひょっとしたら永遠に……。

そこにオムライスを持って愛美さんが現れました。

口にはめられていたものを外されると孝之は声を出そうとしました。

「おっ……おまえっ……!」

「……きゃっ!」

「あ……あがあっ!!」

罵声を浴びせようとした孝之に口に再びつっこまれました。

「大声を、あげないで下さい……大家さんに、怒られてしまいます」

「う……うっ……」

「せっかく、オムライスを作ったのに……いい子にしてくださらなきゃ、あげられません!」

湯気の上がるオムライスを置いて孝之を見つける愛美さん。

「もう……どうして、あなたはそうなんですか?

 どうして、私の言うことを……聞いてくださらないんですか?」

そう言いながら愛美さんは涙を流します。

すすり泣く声の中、朦朧とする意識で、ひとつのセリフを何度も何度も反復する孝之。
 

誰か……。

誰か………オレを、助けてくれ……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

愛美さーーーーーーーーーーん!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 

翌日。

愛美さんの手で開かれるカーテン。

ずっと昨夜は泣きとおしだった愛美さん。

そして孝之も一睡も出来ないままです。

愛美さんは孝之の前で着替えて仕事に出掛けていきました。

何とか愛美さんがいない間に逃げ出そうと考える孝之。
 
 

っつーかこれバッドエンドじゃないの!?

もう絶対バッドエンドだと思って「次は酔っ払ったときにキスはしない方向で」なんて考えてたのに。

マジで?
 
 

孝之はまず携帯電話で誰かに知らせようと考えました。

骨折した足で何とか部屋の片隅に転がっていたカバンを取り寄せて携帯を…。

でも無情にも電池切れの表示。

そして今度は物音を立てて誰かに気付いてもらおうとします。

何度も骨折した足を床にたたきつける孝之(骨折って両足だったんですね)。

気を失わんばかりの激痛に耐えながら。

ですが思うように音も出ず、当然声も出せない状態。
 

水月、遙……崎山さん、大空寺……。
 

慎二は?

慎二は店長(崎山)・あゆ以下ですか…。

涙を流す孝之。

その時隣の部屋からワイドショーの音が聞こえてきました。

となるといるのはおばさん。

口うるさいおばさんだったら隣の物音にも敏感なはず。

もう一度だけ孝之は思い切り足をたたきつけました。

−−ズキィイイイーーーン!!

孝之はそのまま気を失ってしまいました。
 
 

「鳴海さん、起きてくださいっ!」

愛美さんの声で目覚めた孝之。

そこには鬼のような形相で愛美さんが座っていました。

あのまま気を失っていた孝之に部屋を片付けるなんて出来るはずもなく全て愛美さんにはバレてます。

「ダメじゃないですか、鳴海さん!」

そう言いながら孝之の手をパチンを打ち付ける愛美さん。

まるで子供をしつけるように。

痛くはありません。

そしてそのあいだの愛美さんの表情は『無』。
 

……もう、常識でなにを言ってもこいつには通用しない。
 

ふと愛美さんが立ち上がるとひえびえとした瞳で孝之を見ながら言いました。

「おしおきが必要ですね」

そう言ってパンティーを脱ぎ、孝之の頭を股に挟む愛美さん。

そしてそのまま…。

シャアアァァァ………!

「ぐ……ぐがっ……!!」

頭を動かすことすらできず、空気穴から孝之の口に流れ込んでくる愛美さんの尿。

地獄の苦しみを味わう孝之。

息もできず、まさに目の前が白くなりかけた時、やっと愛美さんのおしっこは止まりました。

「私だって、こんなことしたくないんです……」

「ぐぇ……えっげ……」

「ねっ……?」

苦しみうめき続ける孝之に、涙目で訴えかけてくる愛美さん。
 

………異常だ。

こいつがなにを考えているのか、まるでわからない……。

でも、ひとつだけ……これだけはわかる。

オレは……。

………オレは、この女に愛されている。

それが極端にねじくれ、ぷんぷんと腐臭をはなつ愛情だとしても……。
 
 

…………………………これ…………ダメでしょ……。

どう考えてもハッピーエンドにならないよ、これ………。

もう何がどう転んでも無理でしょう。

ここで愛美さんが正気(?)になって普通に孝之を愛したとしても。

考えられるのは…
 

この状態に快感を見出し始めた孝之。

このまま異常な愛の生活を2人きりで過ごす孝之と愛美さん。

2人の愛は永遠でした。

めでたしめでたし。
 

…ってんなわきゃねーだろ。
 
 

あれから数日。

愛美さんに逆らったせいで食事どころか水すらろくに与えてもらえない孝之。

足も動かせないようロープで縛られ。

手錠をはめられた手首にはジンジンと鈍い痛みが走り。

寝返りすらろくに打てない尻はうっ血して。

孝之の体は限界に来ていました。
 
 

枕元には水を入れたサラダボウル。

孝之の口には拘束具、ギャグ(ボールみたいなやつ)がはめられています。

どうやって飲めというのか。当然ボールに顔を突っ込んで飲むしかありません。

それに水を飲むというのは愛美さんに屈服するのと同じ。

…でもここで我慢をしても干からびてしまうだけ。

逃げ出すことも、水月や遙に会うことも叶わなくなってしまう。

なんとか自分を納得させて水を飲もうとボールに顔をつける孝之。

うっかり枕やシーツにこぼしてしまいましたがそっちの方が飲みやすく、枕の繊維にからまった水分を吸い取ります。

孝之はそんな自分の姿を想像して、あまりに情けなくて涙が出そうに。
 

こんなことに。なるなら……。

穂村さんの愛情を……素直に受け止めていればよかった……。
 

そこで孝之は恐怖を感じます。

『近寄らなければ』『抱かなければ』ではなく『受け止めていれば』。

このままの生活が続くことで、自分の考えが変わってしまいそうで。

その分いい思いしたんだから、とは言えないよなぁ…。
 
 

孝之にとって永遠にも近い長さで時間は過ぎ、愛美さんが帰ってくる時間になりました。

ひっくり返ったサラダボウルを見て怪訝な顔の愛美さん。

また責められるのが嫌で必死に自分が悪いんじゃないと訴えかける孝之。

「う〜ん。じゃあ今度からは、ふきんでの猿轡にしましょうか」

ギャグから猿轡に。

口を封じられているのはどっちにしろ同じです。

それなのになんとも言えない嬉しさを感じる孝之はかなり精神的に参っているのでしょう。

今日はごちそうでタンシチューを作った、と台所に入っていく愛美さん。

愛美さんの前で愛美さんの作った料理だけは食べたくない。

しかし空腹は限界に。

相反する2つの気持ちで揺れる孝之。

そのうち料理を持った愛美さんがやってきました。

ギャグを外され、目の前に差し出される美味しそうなシチュー。

今なら叫べるかもしれない。

そうすれば誰かが気づいてくれるかもしれない。

でも…………孝之は口にしてしまいました。

それは今まで味わったことのないようなうまさ。

そうなってしまってはもう止めることはできません。

結局最後まで食べてしまった孝之。

何故かあふれてきた涙とともに。

シチューを食べ終わった後も口はフリーになったままです。

叫ぶなら今。

でも。

もう孝之にはそんな気力は無く、ただただぼうっとしたような気だるさが残っているだけ。

「明日は、なにが食べたいですか?」

「………………」
 

……このままじゃいけない。

このままじゃ、どんどんこの生活に慣らされてしまう……。

なのに……なのに………。
 

「……ハンバーグ」

これがこの奇妙な生活の中で始めて孝之が発した言葉。

『ハンバーグ』

孝之、愛美さんに完全屈服です。

「うふっ……わかりました。とびきり美味しいのを、つくりますからね……ふふっ」

そう言って優しく微笑む愛美さんでした。
 
 

愛美さん……怖いよ…あんた怖いよ……。

そして孝之の精神が崩壊していく様の描写がリアルでこれまた怖い。

いまだに孝之が「穂村さん」って『さん』付けしてるのもスゴい。
 
 

翌日、料理を食べてくれて嬉しかった、と愛美さんは孝之の拘束を軽くします。

ギャグは猿轡になって柱からは離されて。

愛美さんが仕事に出て行った後、確実に1人になると孝之は逃げ出すことにしました。

苦労してドアまでたどり着き、そして鍵を開け、ドアを開ける。

外に。久しぶりの風に感動する孝之。

ですがそこにやってきたのは愛美さん。

孝之は試されていたのです。

そして孝之はそれを見事に裏切ってしまった。
 
 

今ままでのようにキツく拘束された孝之。

「……おしおき……」

「う……んぐっ……」

「おしおき……しなくちゃ……」

夢遊病者のようにフラフラ立ち上がる愛美さん。

孝之はどんなムゴいことをやられるのかと恐怖に震えます。

…が、愛美さんは何もせずにそのまま布団に横になってしまいました。
 
 

翌日。

普段なら仕事に行っても8時間もすれば帰ってきていた愛美さんがいつまで経っても帰ってきません。

オムツからもれてくる臭気。

骨折した足の痛み。

それらがさらに孝之を不安にさせます。

このまま放置されたら、と。

いつのまにか愛美さんの帰りを待ちわびていた孝之。

そんな自分を戒めるだけの気力は何とかありました。

そこに帰ってきた愛美さん。

「仕事の前に……いろいろ、手続きをすませてきたんです」

そう言って孝之に見せるのは多くの書類。

愛美さんは孝之のアパートを解約したり、定期を解約したりしてきていたのです。

「ここで、一緒に暮らしていくんですもの。必要ないかなあって……」

愛美さんは家の鍵を持っているのです。

さらには『すかいてんぷる』のバイトまで辞めてきた、と。

孝之の居場所がどんどん壊されていきます。

そして極めつけ。

「そう。あとは……病院に、速瀬さんがいらっしゃいましたよ」

「うっ……?」

「ちょどいい機会でしたから、お伝えしたんです。私たちが、ふたりで暮らしていることを……」

「!!!」

「涼宮さんにも、一緒に話しておきました」

あんた、なんばしょっとーーーー!!!!!

ああ、遙の泣いている顔が目に浮かぶ…。

「速瀬さんは、半信半疑みたいでしたけど……もうすぐ、ハッキリわかっていただけると思います」

「ぐっ……?」

その時孝之の携帯が鳴り出しました。

愛美さんが充電したのでしょう。

あっさりとその電話に出る愛美さん。

相手は水月のようです。

必死で音を出して、声をあげようとする孝之ですがどうにもなりません。

そして電話を切り、孝之に目を向けて一言。

「もう二度と、顔を見せないでくれ……だそうです」

「………うっ………」

力が抜ける孝之。
 

水月は……オレを、信じてくれなかった……。
 

でもそれも当然のこと。

誰も男が女に監禁されてるなんて思わないだろうし、そのうえで携帯に女が出たら考えられるのは一つ。

さらにはこの間の洗濯物疑惑まであるのです。

これで全てを無くした孝之。

この本来なら孝之が泣きじゃくる場面。

ですが泣き出したのは愛美さん。

「……こんなおしおき、したくなかったのに……っ」

「…………………………」

「かわいそうです……鳴海、さん……」

「もう、この世界に……わ、私しかいない……なんて……」

「本当に……っく……か、かわいそう……っ」

心から孝之を哀れむ愛美さんの思考回路は到底孝之には理解できないものでした。

俺だって理解できません。

「私……ずっと、ずっと。鳴海さんのこと、大切にしますっ……」
 

もう……疲れた………。
 

もう孝之には何の気力もありませんでした。
 
 

こうして孝之は全てを失いました。

でも愛美さんと一緒にいるってことをみんなが知ってるってことはそのうち誰かがここに来るんじゃないのかな?

特に慎二あたりが。『オマエ、何やってんだ!?』とか言って。

遙あたりにはそんなの期待できないし…水月も愛美さんの話を信じちゃったみたいだし。

そーいや孝之の両親は何やってるんだろ?

白陵時代から1人暮らししてたのは何でなんだっけ?

ヤベ、忘れちった。
 
 

翌日は愛美さんが休みのため朝からつきっきり。

マッサージしてぬるま湯で体を洗って。

「まだ、腫れがひかないですね……やんちゃ、なさるから」

『やんちゃ』って…まるで子ども扱いです。

想像ですが愛美さんは両親から虐待でも受けていたのではないでしょうか。

それで何かあるたびに「おしおき」を受けて。

それがトラウマになってこんな行為に走らせた…なんて思ってみたり。

そして孝之の手錠を外す愛美さん。

「あら……こんなになっちゃいましたね。かわいそうに……もう少しで、蛆がわくところでした」

どんな状態だよ…。痛々しすぎだぞ。

手錠がはずれ完全な自由になった孝之。

でも逃げようととはしません。

足は治っていないし、そしてなにより。
 

……オレには帰る場所がない。
 

家も。仕事先も。水月も。遙も。

もう孝之には何もありません。
 
 

食事になっても孝之は口にしようとしません。

何もしゃべろうともしません。

そんな孝之にただひたすら『好きです』を繰り返す愛美さん。

愛美さんに対する愛情も、嫌悪感もない孝之。

もう何も感じなくなってきているのでしょうか…。
 
 

翌日も何も口にしない孝之。

目を瞑り、いっそ最初から何も無かったと思うことにする孝之。

水月、遙との関係も。慎二との友情も。バイト先のドタバタもみんな。

それが一番楽なんだと孝之は気づいてしまいまた。

夕方になって愛美さんが帰ってきても全く手付かずの水を見て悲しそうな愛美さん。

その目には大粒の涙が浮かんできました。

「……ごめんなさい……」

謝罪の言葉。それに孝之は驚きます。

「私……今まで、何もなかったんです……」

「親も、家も、友達も……なにも……」

「自分の存在を、認めてくれるものを失う辛さ……わかります。なのに……私が……」

「私が……鳴海さんの、すべてを……うばっ、ちゃってっ……」

ぽろぽろと大粒の涙を流し続ける愛美さん。

「私……鳴海さんのこと、大切にしますっ! 他に、誰もいなくなっても……私だけは、鳴海さんをっ……!」

逃がしてくれるんじゃないのかよ?

でも孝之は少しだけ理解しました。

愛美さんのことを。

それは……限りのない『闇』。

「水……の、飲んで……っ」

震える手でギャグを外し、口移しで孝之に水を飲ませようとする愛美さん。

ですが孝之はそれを飲み込むことをせず、水は口の端から滴り落ちるだけ。

何度も繰り返される狂気じみた唇と唇のやりとり。

孝之は顔を背けることはしません。

許したわけではなく、それは愛美さんの内包する闇を…垣間見てしまったから。
 
 

ああ…どんどんヤバい方向に……。

一体2人はどうなるのでしょうか…。


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