2002.1.7 「あゆサイコー!!」編


あゆとのデート(はあと)が終わり電車に乗る孝之。

まだ病院には間に合う時間です。
 

…………顔を出したほうがいいか……。
 

出さなきゃいけないような言い方。

本当は行きたくないのに無理矢理でも行かないといけないような感じです。

遙に会いたいという気持ちではなく、何か別の感情に支配されているだけ。

本当のところはどうなのか。

それは自分でもよくわからないままです。

そんな気持ちのままで遙に会う訳にもいかず家に帰ることにする孝之。
 
 

家の電話が鳴り出しました。

相手は水月。

孝之は遙の病状を説明します。もう大丈夫そうだ、と。

なんだか順調に(?)孝之と水月の仲はこじれてきてます。

「明日はバイトあるんでしょ? 遊び歩いてないでさっさと寝なさいよ」

「っ!」

ガチャ

ってそんな電話の切り方アリか?

孝之は今日のことを知ってるみたいな水月のセリフにビビってます。そんなはずがないのですが。
 
 

翌日。バイトに行く孝之。

先に入っているはずのあゆがまだ来ていないようです。

まゆなんて孝之の顔していきなりがっかりしてます。

仲直りしたいのにあゆが来ないので不安なんでしょう。

あゆがいなくてまゆがいつもよりさらに使えなくなっている分、仕事が増えるのは孝之。

「これは鳴海君に通常の店員の3倍の速度で動いてもらうしかないようです」

「…………」

「ちなみに、特注の赤いエプロンなら貸し出しますけど」

赤い彗星ですか。

まゆに謝ると言っていたし、今更孝之に照れているわけでもないだろうし。

全く連絡のつかない状態のあゆに孝之も店長も困り顔です。
 
 

かなり忙しいままバイトは終了しました。

結局あゆは現れないまま。

落ち込んでいるまゆを慰めつつ家に帰ります。

そして家には何と水月がいました。今日病院に行ってきたらしいです。

孝之が来なくて寂しがってる、と水月は言います。

孝之と水月がこじれているのは遙が原因じゃないのか。

それなのに孝之は遙のところには顔を出していない。

孝之がわからない、と水月。

遙のことを言うと怒るくせに遙のところへ行け、と言う。

孝之にしてみればそんな水月の方がわかりません。

お互いにケンカの理由のわからないままケンカをする2人。

なんでこうなってしまったのか……。
 
 

翌日。バイトへ。

今日もあゆは来ていません。

そして孝之は何をするにしてもうまくいかずイライラしています。

いつもはバイトに来れば余計なことも考えずに済むし、忙しいのも歓迎だったはず。

いつも通りやっているはずなのに何故今日はダメなのか。

孝之にはわかりません。

でも俺にはわかります。

理由はあゆです。それ以外に考えられません。

俺もあゆに会いたいってのに…一体何やってんだ?
 
 

帰りの電車。

遙の病院がある欅町までの切符を買いながらも途中の柊町で降りてしまう孝之。

遙が求めているのは今の自分ではなく、3年前の、遙が全てだった自分。

でも自分は変わってしまった。

どんな顔をして遙に会えばいいのか。

今こんな状態で行ったら余計に遙を不安にさせてします。
 

……答えが出るまで会いにいかないほうがいい。
 

くっ……遙…………。

確かに遙を不安がらせるわけにはいかない…でも……でも……ああ……。
 
 

翌日。いつも通りバイトへ。

また一段と暗いまゆ。

健さんも暗い顔して話し掛けてきました。

「大空寺さんのことなのですが…………」

「あいつがどうかしたんですか? もう3日目になりますよね?」

「ええ、まあ、それに関係していることなのですけど」

「……なにかあったんですか?」

「バイトを辞めたんですよ」

なにい!?

そんなバカな!!

あゆはこれから俺とラブラブバイト生活を送らなくちゃいけないのに!!

…いや、まあ薄々感じちゃいましたよ。2日連続で休んで時点で。でも……。

家の人間から電話があっただけで店長・健さんも詳しい事情はわからないそうです。

それでも食い下がる孝之。

納得がいかない。

絶対納得なんかいかない。

まゆに謝ると言っていたのに。

まだ一言も言ってないのに。

それに自分も…。
 
 

自分があゆについてを何も知らないことに気付いた孝之。

まゆも…孝之も仕事になりませんでした。
 
 

帰り道、落ち込みまくるまゆを励ましながら歩く孝之。

何も大丈夫じゃない。でもそう言わずにいられない。

それは自分も信じたくないから。

あゆがいないバイトなんて考えられない。

イライラの原因にやっと気付いた孝之ですがもう遅い。

あゆは孝之の中にいつのまにかしっかりと根付いていたのでした。
 
 

駅でずっとベンチに座り込んでいた孝之は水月と会いました。

水月は孝之とちゃんと話がしたい、と言って雨が降ってきた中、走って孝之の家まで来ました。

遙に会いに行っていない孝之を責める水月。

孝之が本当にわからない、と声を張り上げる水月ですが、そこで突然孝之の携帯が鳴り出しました。

「こんな時に出ないでよ」

 1、出る

 2、……。

あゆに違いない。

神速で1。

孝之が取るより水月が先に携帯を拾い上げてしまいました。

「返せよ」

「……知らない人からみたいだけど」

「いいだろ、そんなの」

「逃げるんだ」

「そうじゃないだろ」

ピッ

「はい、鳴海です」

本格的に水月がムカついてしまった瞬間。

「おいっ! 勝手になにやってんだよ」

「…………何も言わないわよ?」

「いいから返せっ!」

電話に出ること自体はともかく、この水月の態度だけは許せない孝之。

「なにムキになってるの」

「…………」

「……用がないなら切りますよ」

「ふざけんなよ」

「…………」

「…………」

「……あんたに用があるみたい、はい」

「なんだよ……ったく、もしもし…………」

「…………あたし……」

この声はやはり!

「大空寺か?」

「っ!」

何で水月があゆの名字を聞いて驚くんだ?

「……うん…………」

「お前どうして……」

電話から聞こえてくる雨音に気付いた孝之。

「外にいるのか?」

「……駅にいる」

「駅ってどこの?」

「…………柊町」

「なんで……いや、いい説明はするな」

「……わかった…………」

あゆの声は泣いていました。

「今からそっちに行っていいか?」

「どういうつもりよっ!」

「…………」

「すこし黙ってろっ!」

これは孝之だけでなく俺の叫びでもある、と受け取ってください。

「っ!」

「馬鹿、違うからな、今のお前に言ったんじゃない」

「……うん、馬鹿って言うな」

いつも調子が少しだけ出てきてはいるものの、あまりにも弱々しい声。

「行くから待ってろ」

「…………待たせるな………………」

「わかってるよ」

電話を切る孝之。

「やっぱそういうことだったんだ」

「どういうことだよ?」

「話はまだ終わってないわよ」

「戻ってきたらイヤと言うほど聞いてやるよ」

「ふざけないでよっ!」

「ふざけてねぇよ」

「……他に好きなひとできたんだ」

「なに言ってんだよ」

「行かないでよね。私はここにいるんだよ。わけのわからないことしないでよ」

お前こそ訳のわからないこと言うな、いまさらそんなこと…。

「話はあとで出来るけど、これはそうはいかないんだよ」

「そんな理屈で片付けないでよ」

「待ってろとは言わねぇよ…………行ってくる」

まだ何か言っている水月を置いて外に飛び出す孝之。

いけ!! 突っ走れ!!!
 
 

「……遅い…………」

「これでも全力疾走だ」

孝之が駅に着くとあゆが雨に濡れて待っていました。

今にも壊れてしまいそうなもろさと共に。

まともに話をできるような状態ではないあゆ。

「ウチに来るか?」

「…………」

「行くぞ、いいな?」

「…………」
 
 

家の部屋の電気はまだついていました。

水月がまだいたのです。帰っていいのに。

しかし水月とあゆが並ぶと本当に大人と子供だな…。

水月はあゆを見て驚いてますが放っておいて、と。

とりあえずあゆがびしょ濡れのままじゃまずいのでシャワーを浴びさせることに。

シャワーの音が聞こえてくると水月が孝之を責め立てます。

「あんた何やってるの? 何をしたいわけ?」

「別にお前に文句言われるようなことはしてないよ」

「してるじゃない? 私がいるのわかっててどうしてつれてくるかな?」

「放っておけるかよ」

「ふ〜ん、やさしいんだね」

頼むからこれ以上何も言わないでくれ。

俺は別に水月を嫌いになんてなりたい訳じゃないんだから…。

「なんだよ?」

「遙には会いに行ってあげないのに、バイトの子にはやさしいんだ」

「どうして遙を引き合いに出すんだよ」

「…………」

黙り込む水月。孝之は水月が何を言いたいのかさっぱりわかりません。

「放っておけないのは、さっきの子だけじゃないでしょ」

遙も不安になっている。そして自分も悩んでいるんだ、と水月。

どう接すればいいのかわからない、と孝之は言います。

「そんなこと私に言わないで」

「……お前さっき言ったよな。あんな不安そうな顔をされたらって……それで言えるのか? オレたちの事をさ」

「それは……」

「言えるはずないよな」

「孝之がちゃんとしてくれないから言えないんでしょう? 私が悪いみたいな言い方はやめてよね」

ああ…水月がイヤな女になっていく…。

水月は言います。

現実を見ろ、と。

そして2人の約束のことを。

遙が目覚めたら孝之と水月、2人がどうなったか、例えその時2人が別れていたとしてもちゃんと遙に伝えると言う約束。

「……孝之、ちゃんと笑えるようになったよね」

「…………」

「事故があったばっかりの頃なんて、それこそ死んでるみたいだったのに」

それは本当のことでした。

ほとんど死んでいるような状態だった孝之を救ってくれたのは水月。

そして心から愛したのも水月。

けど、今はそれが愛なのか、感謝なのかわからなくなってきている孝之。
 

水月を愛したいと思っている自分がいるような気がしてならない……。

そう思わないといけないような気がしてならない…………。
 

つまりそれは愛に理由が必要になってきてしまっているということ。

「私は孝之のためにたくさんのことをしてきたよ。愛してたから……」

「……知ってるよ」

「今だって愛してる。結婚だって考えてる」

それも孝之はわかっています。

「孝之はどうなの?」

「…………」

「どうして答えてくれないの?」

黙り込む孝之。

その時あゆがシャワー室から出てきました。

修羅場です。修羅場の始まりです。

「……」

「…………」

「…………」

「……私はパンを焼いてあげました」

「ん?」

「だから、あなたも私にパンを焼いてください」

「っ!」

「私は誕生日プレゼントをあげました。だから、あなたも私の誕生日にはプレゼントをください」

「……何が言いたいのよ」

「図体デカイわりに頭悪いわねっ!」

「っ!」

「女々しい女を見てると腹が立つのよっ!」

「…………」

「私はこれだけのことをしてあげました。

 だから、あなたも私に同じだけのことをしてください。こう言えばわかるかしら?」

「あなたねっ!」

「私はあなたを愛しています。だから、あなたも私を愛してください」

水月があゆの頬を叩く。

「あなたには関係ないでしょう」

「あにしてくれてんのよっ!!」

「水月っ!」

「ふざけんじゃないわよっ!

 自分がどれだけのことをやってあげたからって、相手にそれを求めるなんてただの我が侭もいいところじゃないっ!

 好意ってのは誰かのためにしてあげることで、そこに見返りとか、面倒なこのは持ち込むなやっ!

 そんなんじゃあ、やることなること全部に他の目的があるみたいで、この世のすべてが胸糞悪くなるじゃないさっ!!」

「…………」

「好きなら好きでその気持ちを最後まで貫き通せばいいじゃないさ。それができないから消えなさいよ。見苦しいだけよ」

「…………」

「私はこんなにがんばりました」

「…………」

「だから、私を誉めてくださいなんて…………」

「…………」

「ありもしない保証書握って借金取りみたいな惨めな姿をこれ以上さらすなやっ!!」

「あなたなんかに」

「好きって気持ちだけで相手を信じることができないから、もう終わってるんじゃないの?」

「何も知らないのに口出しなんて……」

「誰かを好きになるのに、理由なんていらないだろ……」

「……」

「…………」

「誰が言った言葉だと思う?」

孝之に心当たりアリ。

「アンタの彼氏が前にあたしに言ったのよ」

「っ!」

あゆにタオルを投げ付ける(どこに持ってたの?)水月は涙を流さずに泣いていた。

「合鍵も投げてよこすとかっこいいわよ」

あゆ…スゲェ……。

「……っ!」

「お、おい、やめろって」

孝之…あんた女同士の争いにとことん弱いのね。

そして本当に鍵を投げ付ける水月。

鍵はあゆのお腹に当たりました。

「くっ……」

そして走り去っていく水月。

「……」

「……追いかけないの?」

「お前がそれを……」

とあゆを見た孝之はあゆが泣いていることに気付きました。

「どうしたんだよ」

「…………全部聞こえてた」

「……今はそうじゃないだろ」

別の話を持ち出して泣いている自分を落ち着かせようとしているあゆ。

「追いかけなさいよ……」

「…………」

「……絶対に待ってるわよ…………あたしはそうだったから」

「なんだよそれ」

「いいの?」

追いかけていってもかける言葉が無い孝之。

行ったところで、水月を余計に傷つけるだけ。

それは孝之自身も辛い。
 

これ以上、お互いが痛い思いをするのこともないだろう。

もう十分だよ。
 

本当に投げてよこすとは思わなかった、とあゆはあやまりながら鍵を拾って孝之に渡します。

手の中の鍵を見る孝之。
 

……終わったんだな。
 

意識しないようにはしていましたが、こんな日が来るような気はしていた孝之。

そして自分のことはいいから、と何があったのかを聞きますが何も言わないあゆ。

「…………」

「……わかった。今はいいよ」

「…………」

「お前、これからどうする? タクシーでも呼ぶか?」

「……たくない……」

「なんだ?」

「帰りたくない……」

「……わかった……なら、ウチに泊まって行け」

「…………」

あまりに弱々しい感じのするあゆ。

水月にぶつかっていったときの印象はどこにもありません。

「ベッド使っていいから、もう寝ろ。オレはシャワー浴びてくるからさ」

「…………」

「返事をしろ」

「……わかった…………」
 
 

こうして孝之と水月は終わりました。

なんか痛々しい終わり方だったけど…。

完全に水月を嫌いになる前でよかった。

っつーかこれで水月退場? もう出てこないの?
 
 

床の上で寝ようとしても眠れない孝之。

考えるのは水月のこと。

でも水月もわかっていたはず。

自分達を縛り付けるものがあって、いつのまにか純粋な感情よりも先にそれが前に出てきていることを。

水月への想い、そして水月の自分への想いもすぐに消えるわけじゃない。

でももう戻ることは無い。

お互いを好きでいるだけで幸せになれるほど、簡単にはできていないから。

そんなことを考えながら涙が止まらない孝之。

「……起きてるか?」

「……ああ」

ベッドのあゆが話し掛けてきました。

「…………」

「どうした?」

「よわみを握らせるなや」

「悪かったな……オレだって安穏とやってきたわけじゃないんだよ」

声で泣いていたことがバレバレだった孝之。

「…………」

「今日はもういから寝ろよ」

「寝れないのよ」

そう言ってまたあゆは泣き出しました。

あゆに話してみろ、と孝之。

「呆れるくらいに長くなるわよ?」

「ん?」

「話よ」

「ああ、別に構わない」

「…………」

そしてあゆは語りだしました。

父親のことを。

嫌いな父親のことを。

顔を合わせるのは年に1・2回。家族なのに知らないひとだった。

そして憎らしい父親をびびらせてやろうと言われたことは全部こなしてやろうと思った。

学年で成績トップ。ピアノ。華道。その他色々。

でも年に1・2回しか顔を合わさない父親が前に話したことなど覚えているわけもない。

ひとりで馬鹿みたいだと気付いた。

バイトも父親に言われて始めたことだった。

帝王学の第1歩だ、と。

もう自分の馬鹿に気付いていたのでやる気も無く、ただムカついてた。

庶民の生活を見てこい、だとか言いたい放題の父親。

逆らえばよかった、と孝之は言います。

「逆らう勇気がなかったんじゃなくて、お前はまだがんばったなって言って欲しかったんだろ?」

「…………」

そこで思い出されるのはさっきの水月に向かって言ったあゆの言葉。

『私はこんなにがんばりました』

『だから、私を誉めてくださいなんて…………』

それは水月にではなく自分に向かって言った言葉だったのかもしれない。

「逃げたわけじゃないんだ」

「……うん」

「ならそれでいいじゃねぇか……」

「…………」

「全部思い通りにいけばいいけど、なかなか上手くいかないことだってある」

「……うん…………」

「だから、せめてがんばったことくらいは誇りに思っていいんじゃねぇか?」

「…………」

「な?」

「……うん……そうする…………」

孝之は思います。

あのとき、水月が出て行ったときにあゆが泣いていたは自分の言葉が痛かったからなんだ、と。

水月を否定しながら、どこかで自分も同じだってわかっていたから。

ただ、それを認めたくないから傷ついて…。

「……もう寝るぞ」

「聞きたいことないのか?」

「それは明日でいい。逃げるなよ」

「……誰が逃げるさ」

「黙って寝ろ」

「黙るさ」

「黙ってねぇぞ」

「お前もな……」

そうして2人は眠りました。
 
 

自分について話してくれたあゆ。

何故バイトを辞めさせられたのか。それはわかりません。

孝之を好きになっちゃったから?

それとも単なる父親の「もういいぞ」みたいなもの?

とにかく孝之とあゆの新しい関係が始まるのではないでしょうか。
 
 

翌朝孝之が起きるとあゆはどこかに電話をしていました。

んで孝之を踏ん付ける、と。

「なにしてくれてんだよ」

「特別何もしてあげてないわよ。ただ、床に転がったアンタの生死を確かめただけよ」

「生きてるに決まってるだろうが」

「そのくせちっとも起きなかったわよ…色々したのに」

「…………」

「別に顔に悪戯書きとかしてないから安心していいわよ」

「…………」

「まあ、これからはせいぜい気をつけるのね」

ハイ、ストップ。

さりげなく言ってますが『これから』だそうです。

これはあゆが今後もここに住む気でいることを示唆しているのではないでしょうか。

もちろん俺は大歓迎です。

話が終わってないのにTVのニュースに目をやるあゆ。

「おい、あゆ」

そこでチャイムが鳴りました。

ハイ、またストップ。

これまたさりげなく孝之は『あゆ』と呼んでいます。

意識的なものか無意識なのかはわかりませんがこれは大きな一歩です。俺にとって。

玄関からやってきたのは絵本『マヤウルのおくりもの』を見つけてくれたお姉ちゃん。

あゆに有名ブランドのの紙袋を渡して出て行きました。

孝之はあゆにあの人との関係、ひいては家のことを聞こうとしますがあゆは歯切れが悪いです。

そしてあゆはTVを見ています。

あゆが悲しい顔で見ているのはTVでインタビューを受けている男。

「あれがあたしの敵よ」

「……敵って…………」

「あたしの父親……」

「は?」

そこに映っていたのは世界的に発展を遂げた大空寺グループの最高責任者。

孝之でも名前を知ってる人物です。

そんな年に数分しか顔を合わさないような父親。

あゆは画面から目を離しません。

口では憎いみたいなことを言いながらも、寂しいってことではないか、と孝之は考えます。

ひとりの人間として認めてもらうことで、自分の言葉を聞き入れてもらおうとしたあゆ。

でも自分の言葉は届かなかった、自分のことをペットか何かだと思ってる、とあゆは言います。

あゆはそれが間違いだと言うことを教えてやろうと思い出てきた、つまり家出してきたのでした。

そしてバイトを辞めさせられたのは孝之のせいだ、とあゆ。

「……血統書付きのを、雑種と一緒にはしたくないのよ」

「…………その雑種っていうのは、オレか?」

「アンタのことをなんて言ったと思う? 社会のゴミだそうよ」

「……」

「あったまきたから出てきたのよっ! だから説教はするなやっ!」

そしてバイトには行かせてもらえず、前日に父親が日本に帰ってきてその話になったらしいです。

「好きな男ぐらい自分で選ばせろって言ったら、はたかれたわ」

「…………」

「アンタの元彼女にもはたかれたから、二発食らったことになるわね」

元彼女を強調するあゆ。

「けど、まあ、本当に痛かったのはもっと別のところ…………」

「そうか」

「こんなにあなたの言うことを聞いてきました。だから、我が侭を聞いてくださいって言ってるだけだったのよ…………」

「……」

「見返りとか打算とか……全部あたしのこと…………」

「…………」

「気が付いたら、飛び出して…………寂しくて…………それで電話してた……のさ」

「そっか」

今まで家のこととかを言わないできたのは、裏切ってるみたいでイヤだったから、とあゆは言います。

孝之は遙を裏切りながら過ごしてきて、その不安がよくわかるような気がしました。

「いまさら、そんなこと言われてもな」

「……」

「口が悪くて、目付きが悪くて、背がちっこい糞生意気なお前が、別のお前になるわけでもないだろ」

「………………ぼけ」

そんなあゆは涙声。

「ったく、泣き虫はどっちだよ」

「……わかってるから……いちいち言うなや」

「はいはい、わかったよ」

「……お前なんて、猫のうんこ踏め」

相変わらず口は悪いですがこれはあゆが孝之に完全に心を開いてくれたんだ、と考えていいでしょう。

しかし、この話ってどうすりゃハッピーエンドになるんでしょう?

遙をフらないといけないのはもちろんですが、あゆが父親と和解しないことにはどうにも…。

しかも孝之でどうにかなるような父親じゃないみたいだし。
 
 

孝之はバイトです。

あゆはもう辞めたことになっているので、ヒマそうな時間に顔を出す、と言ってます。

さっきのお姉ちゃんに持ってきてもらったのはどうやら着替えのようです。

まゆはため息をつきまくってましたがあゆが客としてやってきたのを見て大喜びです。

お互いに謝って許しあって…まゆは涙を流しています。

ホントによかった…。
 
 

その日もあゆは孝之の部屋で寝ることになりました。

孝之が断ってもあゆは家に帰るはずが無いのでだったら目の届くところにいた方がいい、というわけです。

それに自分も一応関係者だし。

これからどうするつもりなのかあゆと話そうと思っていたのにシャワーから出ると先に寝てしまっていたあゆ。

孝之はまた床で寝ようとしますがなかなか眠れません。

考えるのはあゆのこと。

あゆがいたからバイト先も楽しく、遙のことで追い込まれていく自分を繋ぎとめておくことができた。

ただ悲しみに蝕まれていかずにすんだ。

そんなことを考えていたらあゆが話し掛けてきました。

あゆからの質問。予めいやだったら答えなくていい、と言いながらしてきた質問は遙について。

孝之はあゆに遙のことを説明します。

3年前の夏。

そこで起こった事故。

そして水月。

目を覚ました遙。

あゆが最後にしてきた質問。

「まだ、好きなのか?」

「…………」

「………………」

「…………もう寝ろ」

「わかった」

答えられなかったのは自分の中に躊躇いみたいなものがあったから。

もうあの頃とは違うということに気付いているから。

そして2人は眠るのでした。
 
 

翌朝。一緒に食事をとる孝之とあゆ。

「……ご馳走様」

「お粗末さまでした」

「シャワー借りていい?」

「好きにしてくれ」

「覗くなよ」

「誰が覗くかっ!」

「ムキになっちゃって可愛いわよ」

「そんなこと言ってるとまじで覗くぞ」

「あたしはいつでもオッケーさ」

「…………」

いけ孝之!!

「どうせなら一緒に入ってみる?」

いけっつってんだろ孝之!!!

「馬鹿か、お前は……」

馬鹿はお前だ孝之!!!!

「ま、気長に待つことにするさ」

待たせるなよ孝之!!!!!

孝之は遊園地に行った日に言われたことを思い出します。
 

そうだよな……大空寺はオレのことを…………。

……これはまいったな。
 

孝之はあゆのことを『大空寺』と呼んだり『あゆ』と呼んだり統一性が全然ありません。

これはTPOを考えているのか。

孝之の意識的なものなのか。

単なる脚本のミスなのか。

ベッドに横になるとあゆの携帯が背中に当たりました。

あゆの自宅の番号とかが登録されているかもしれません。

 1、見てみる

 2、やめておく

人の携帯を見るなんてとんでもないことです。

でも今は非常事態です。

それにバレなきゃいいんです。

バレない反則はむしろテクニックです。マリーシアです。

でも結局自宅の番号はわかりませんでした。

その代わり自分の番号が登録されているのを見つけました。

変な名前で入っているのではなくちゃんとした名前で入ってます。

あゆが自分で名前を入れたりしてくれたのかと思うとちょっと嬉しい孝之。

なんだかんだ言って結構あゆのことが好きになってきてますね。

あゆがシャワーから出てくるとジッと孝之を見つめてきます。

なにやら悪いことをしたのを咎めているような視線。

携帯を見ていたことがバレたのか、覗かなかったことを怒っているのか。

とりあえず孝之はバイトに行く時間です。

家を出る前に色々と一悶着ありましたが、あゆは孝之のことが好きで、孝之はあゆに家にいることを許した、ってだけのことです。

孝之はそんな状況、今のあゆがいる状態を楽しんでます。
 
 

バイトに行くと健さんに外へ連れ出された孝之。

そして健さんの口から告げられた言葉は『クビ』。

いやもちろん健さんはそんな言い方しませんでしたが。

原因はあゆとのことでした。

『すかいてんぷる』は大空寺グループの末端であり、上からの通達では健さんも逆らえなかったのです。

これでもう大空寺グループの息のかかったところでは働くことが出来ないでしょう。

気を使ってくれる健さんに別れを告げて海辺の公園に行く孝之。

するとあゆから電話がかかってきました。

あゆは孝之がクビになることを予想していたようです。

でも孝之はあゆに出ていくようには言いません。言えるはずがありません。
 
 

家に帰るとあゆはあるバイト情報誌を読んでいました。

バイトしてどうするつもりなのか聞いてみる孝之。

「ペットじゃないってことを証明するのさ」

「その言い方はやめろって」

「わ〜ってるわよ。今のはわざとに決まってるじゃないさ」

気にしているからそう言うことを口にするんだ、と孝之は思います。

でも前向きとはちょっと違いますが、その『やってやる』って姿勢は孝之も嫌いじゃありません。

「建前はそんなところね」

「おい……」

そして結局本音のところは話してくれませんでした。
 
 

コンビニで飯を買ってくるとあゆはもうバイト情報誌を見ていませんでした。

代わりに見ていたもの。それは『マヤウルのおくりもの』。

あゆに手伝ってもらって見つけた方は遙に渡してあるので、ここにあるのは3年前に買った本です。

「あれは事故にあった彼女にあげたのか?」

「そうだ」

「……そうか」

「本当ならそこにあるのを3年前に渡すはずだった……」

「…………」

「どこにもなくて、たまたま事故の日に発見したんだけど…………渡せなかったんだ」

「その彼女ってこの写真のひとか?」

あゆは本と一緒に4人の写真も引っ張り出していたようです。

「…………お前な」

「悪いとは思ったけど、気になったのさ…………」

「だからって、あんまりその辺のものを勝手に触るな」

「この写真、あたしにすれば最低やね」

「勝手に見といて何言ってんだよ」

「ムカツク写真」

「あのな」

「いちいち怒るなやっ! あたしも腹立つじゃないのさ」

「わけわかんねぇこと言ってんなよっ! いいか、もうその辺のものには触るな」

「わ〜ったわよ」

適当な返事をするあゆ。

一体何を言い出すんだ?

「だいたい昔の女のことでムキになるなやっ! 醜態さらして楽しいわけ?」

「お前な、いい加減にしろよ」

「いい加減ってどんな加減よ、このクソヤロ〜がっ!」

「…………」

「あにさ、言えばいいじゃないさ。出て行けってっ! 言ってみろ、この根性なしがっ!」

ここを出て行けと言うのは簡単。

気も晴れるかもしれないが、それはあゆの逃げ道をふさぐだけ。

そんな最低のケンカはしたくない孝之。

結局孝之は強引にご飯にして場を終わらせました。

あゆは一体どんなつもりであんなことを言い出したのでしょうか?

嫉妬?

それなら話は簡単ですがそうはいきますまい。

きっと過去をいつまでも引っ張っている孝之に怒っているのでしょう。

あの写真と絵本は過去のしがらみの象徴のようなものだから。
 
 

翌日。

朝起きるとあゆがいません。

昨日の言い合いを思い出す孝之。

着替えは置いたままだから出て行った心配はありませんが不安ではあります。

そしてあゆの言葉を思い出します。

ムカツク写真。

昔の女。

写真を手にとり、変わってしまった自分達に心を馳せる孝之。

と、そこに携帯へメールが届きました。

それも何通も連続で。

とりあえず見てみます。

『猫のうんこ踏めっ!』

差出人を確認するまでもないメール。

その後も続々とメールは届きます。

『無視するなや! へたれぽんちっ!』

『この腐れ外道が!』

『あっ、さてはマナーにしてやがるなっ!』

『おぼえとけこんちきしょうっ! 帰ったらしばきたおしてやるっ!!』

異常にメールを打つのが早いあゆ。

内容はともかく帰ってくるとんでちょっと安心です。

電話をかけてみますがあゆはでません。

あれだけメールを送ってくるんだから携帯を持ち歩いているに決まっているのですが。

まあいいや、ととりあえず待つことにした孝之。
 
 

しばらくしてあゆから電話がかかってきました。

柊町駅にいるのだが個人的な事情により帰れない、とあゆは言います。

「…………わからない」

「なに? 聞こえねぇよ」

「……帰り道がわからないのさ…………」

「はあ? お前馬鹿だろ?」

「あんですと〜っ! あたしに向かって馬鹿とほざきやがったかっ!」

行きはタクシーを使ったそうです。

あゆもやっぱりどっかヌけてます。

なんだかんだ言ってもとりあえず迎えに行く孝之でした。
 
 

やたら偉そうにするあゆをつれて帰宅の途につく孝之。

あゆはバイトの面接に行っていたそうです。それも孝之に黙って。

「もしかして、あたしが家に戻ったとか思って心配したとか? 可愛いわね」

「あのな」

「……あにさ、まじな顔して」

「可愛いといわれようが、まあ、その、朝起きたらいなくて驚いたし心配もした」

「あ、あんてこというのさっ!」

「だから、これからそういうのはやめてくれ」

「これから?」

『これから』

孝之もスゴイこと言ってます。つまりずっと孝之の家にいることを前提としていると言うことですね。

「……わかったさ。気をつけるさ。ただ、起こしていいものかどうか迷ったのさ」

流石のあゆも顔を赤らめて素直になりました。可愛いのう。

それでバイトの面接の方はと言うと孝之からの電話が面接中にかかってきてそのせいで落ちた、とあゆは言います。

「お前、面接の最中にメール打ってたのかよ?」

「あにさ、ちゃんとばれないようにやったわよ」

あゆスゲーぜ。やっぱりタダモンじゃない。

そしてやっぱり面接でも言いたい放題言いまくったと言うあゆ。

「それじゃあ、どこに行っても駄目だ。接客するときみたいに別人モードで面接は受けろ……」

「……それもそうね」

「いまさら気がつくなよ」

ここのところ、このようにお話する用向きがありませんでしたの」

「…………」

どうかなさいまして? そのようなお顔をされては……」

「…………」

私と一緒では、やはり退屈なのでしょうか?」

「そんなことはないけどな……」

背中がぞくぞくしてる孝之。

まあっ、本当ですの? うれしいですわ」

「…………」

お願いですから、もう私を不安にさせないでくださいませ……」

「……頼むからもうやめてくれ」

そのようなこと…………いじわるです。このようにせよろおっしゃったのはあなた様ですのに……」

「だ〜〜もう、まじで勘弁してくれ」

「あにさ、せっかく可憐に振舞ってやったのに」

突然のお上品モードに孝之は寒気がしたようです。

俺はこれはこれでいい感じだと思うけど。

まあいつもの方があゆらしくていいけどね。

あゆは家じゃいつもあんな感じなんだそうです。

いつもの調子でしゃべることのできる相手は孝之ぐらいなもの、とあゆ。

「……それ、喜んでいいのか?」

「大いに喜びなさい」

やや複雑な孝之。

こちらのほうがよろしければ、私は……」

「だから、やめろって。背中がぞくぞくしてたまらん」

「わ〜ったわよ」

「家の中でどうだったとか、どの家の人間だとか、そういうのでお前と一緒にいるわけじゃないからな」

「…………」

顔を赤らめて黙り込むあゆ。

孝之ってさりげなく殺し文句を口にするよなー。これがコツか。
 
 

コンビニ弁当をあゆと2人で食う孝之。

話の流れからあゆの通帳を見せてもらいました。

そこに書かれた金額は結構な額でした。

それこそひとり暮らしぐらいできる金額。

「……なあ」

「あにさ? 馬鹿な発言なら却下するわよ」

「なんか貯める必要あったのか?」

「別にないわよ」

「これだけあれば、ここと同じくらいの広さの部屋なら余裕で借りられるぞ」

「それがどうしたさ?」

「だから、オレの部屋に居座らなくてもいいってことだよ」

「…………」

「そのあとは適当にバイトをしていれば、自分ひとりくらいなんとかなる」

「…………」

「まあ、部屋はすぐには見つからないかもしれないけど」

「馬鹿な発言だから、却下決定」

ホントにバカな孝之。

「……どこが馬鹿な発言なんだよ」

「全部だ、こんちくしょう〜〜〜っ! ふざけんじゃないわよ、このあほんだらがっ!」

「いきなり切れるなよ」

「ぼけぼけぼけっとして、あまりにもお粗末な発言をするからじゃないさっ!」

「あのな……」

「あたしでもそれくらいのことはわ〜ってるわよっ! それでも……」

「……それでもなんだよ?」

「最後まで、全部言わせるなやっ! 決まってるじゃないさっ!」

ここまで言われてやっとわかった孝之。

あゆは孝之と暮らしたかったに決まってるじゃないか。

何でここまでニブチンなのかね…。これもコツか。

ちょっとした口論になる2人。

「駄目なら駄目って言えばいいさっ! 迷惑なら迷惑だって言えばいいじゃないさっ!」

「駄目でもないし、迷惑だなんてこれぽっちも思ってねぇよ」

たった数日ですが、孝之の中では既にあゆとの生活が当たり前になっていたのです。

「…………」

「気が済んだか?」

「それはこっちのセリフさ…………そっちこそどうなのよ?」

「何がだよ」

「とことん中途半端なやつね。ほんとあったまくるわ」

まったくだ。

「あのな」

「別にケンカをしたいわけじゃないから、もういい」

「もういいってお前な」

「とりあえず…………いてもいいって言ってくれたのは嬉しかった」

「…………」

「それだけ……」

「ああ……わかった」
 
 

夜、孝之はあゆのことが気になって全然眠ることができません。

曖昧なまま始めてしまったあゆとの生活。

一緒にいたいと思ってくれるあゆを利用していたのかもしれない。

でもその考えを孝之は否定します。

「……起きてるか?」

「寝たわよ」

「寝てるなら、そのままでいいよ。オレの独り言だと思って聞いとけ」

「…………」

「オレも…………」

孝之は思います。

誰でもよかったわけじゃなく、あゆだからこそ事故のことなども話す気になったのだ、と。

「オレだってお前と一緒にいるのをいいって思ってる」

「…………」

遙の意識が戻って自分が不安定な時でもバイト中はそれを忘れられた。

苦しみに飲み込まれずに済んだ。

あの場所をそうさせてくれたのは…………。

「気のせいでしょ」

「……」

「…………」

「…………はっきり言うんだな」

「色々あり過ぎて、今はやられてるから、そんな風に思うだけ」

「…………」

あゆは言います。

別に自分じゃなくてもよかった。

何も知らないで、何も言ってこないひとが側にいれば。

何となく寂しいから誰かを側に置いておきたかった。

今はたまたま自分がここにいるから孝之は勘違いをしているんだ、と。

孝之としてはそんなつもりはありません。

でも自分でもはっきりとしていない部分が多い中、こんなことを言うべきじゃなかったのです。

あゆが怒るのも無理はありません。

色々あり過ぎて、そういうものにやられているのは確かだから。

やれるところから、何かをしていかないといけない。

「明日は病院に行ってくる」

「…………」

「…………」

「わかった」

「それだけだ…………おやすみ」

「…………おやすみ」

遙の会うのは久しぶりでした。

遙のことだから泣き出すかもしれない。

それでも言わないといけないことがある。
 

……泣かせることになる。

それはオレも辛いけど……言わないといけない。

すっと言おうと思っていたのに、今日まで引き伸ばしてしまったのはオレなんだから。

だから……言わないと…………。

こんなのオレも限界だ………………。
 

ついに遙にも告げる決心をした孝之。

辛いと思いますが越えなくてはならない壁です。

それは水月への、遙への、あゆへの、そして自分へのケジメでもあるのでしょう。

…また痛そうな予感。
 
 

翌日、あゆに叩き起こされる孝之。

蹴りを何発もくらいつつ起き上がります。

俺もこんな風にあゆに起こされたいなぁ。

そしてあゆはそのまま出かけてしまったので孝之は1人で病院に行く準備をします。
 
 

気が重いまま病院にたどり着いた孝之。

1週間ぶりの病院。

モトコ先生にも「久しぶりね」なんて言われてます。

もう遙はリハビリを始められるぐらいに回復してきているらしいです。

モトコ先生と別れて病室へ向かうと遙のお父さんが廊下にいました。

お父さんに告げる孝之。

遙に別れを告げる、と。

はっきりそう言ったわけではありませんが、そう言うことです。

遙のことが心配なのは友達として。

これからも見舞いには来るつもりである、と孝之は言いました。

「許して頂けますか?」

「遙に話してやってください」

「…………」

「遙にも遙の人生がある。それを私が答える事はできない」

「はい」

「遙は……それでもいいと言うと思います」

「…………」

「それが鳴海さんの望みなら叶えてあげたいと……」

遙がそう言うであろうことは孝之にもわかっていました。

去っていくお父さん。

孝之は病室に入ります。

孝之の顔をみるなり泣き出す遙。

「また来るって言っただろ?」

「だって…………ずっと、待ってたのに」

「……ごめんな、遙」

「嬉しくて……駄目だね。涙が止まらないよ」

「……オレはここにいるから、な?」

「うん、うん…………」

「遙は本当に泣き虫だな」

「だってぇ……恐かったの。みんな変わっちゃって私だけ…………」

「……大丈夫だよ」

「知らないひとみたいにならないで欲しいの」

「大丈夫だから、オレはここにいるから」

「ありがとう、孝之君…………」

こんなことを言おうと思ってここに来たんじゃない。

でも…遙の涙、遙の笑顔を見たら何も言えなくなってしまう。

「信じてもいいんだよね?」

ぐはっ。 ←吐血

「……ああ」

「迷惑かけてごめんね」

「そんなこと無いから……ごめんな」

「ううん、悪いのは私だよ」

「…………」

違うよ。

悪いのは製作・総指揮の『ヨシダという生き物』だよ。

「孝之君がいる……」

がはっ。 ←吐血

「手……握ってもいい?」

「ああ」

両手で大切なものでも包み込むように孝之の手を握る遙。

「孝之君の手、あったかい」

「遙の手もあったかいよ」

「うん…………孝之君がいてくれるから」

ぐほっ。 ←吐血

言わなくてはならない。

好きでいる理由とか、大切に思わないといけない責任とか。

そういうんじゃ駄目だってわかったから。

もう、前みたいにはなれないって……。

これからは友達としてしか会えないって…………。

言わないといけない。

遙の笑顔には応えられないって言わないといけないのに。

いつまでも自分に向けられていいものじゃないのに。

今日で終わりにするんだって決めたくせに。

どうしても言葉が続かない。

「あ、あのね……」

「うん?」

「お願いがあるの」

「なんだよ?」

「……うん、その…………キスして欲しい」

不安そうな顔をした遙をそっと抱き寄せる孝之。

そして…………。
 

……もう言えるわけがなかった。

優しい言葉をかけたまま遙の病室を出る孝之。
 

こんなつもりじゃなかった。

それなのに…………言えなかった…………。
 

廊下に出るとそこには遙のお父さんがいました。

「…………」

「……すいません」

自分でもなんで謝ったのかもわからない。

何も言わずにただ孝之を見つめるお父さん。

それが今の孝之には一番辛い。

もう来ないで欲しい。そうその目は言っていた。

結局一言も発しないまま遙の病室へと消えていくお父さん。
 
 

病院裏の浜辺で1人泣き濡れる孝之。
 

ちきしょう…………。

こんなつもりじゃなかったのに…………。

どうすればいいんだよっ!

どうすれば…………。
 
 

真っ暗になった帰り道。

あゆは途中で待っていました。

まったく元気の無い孝之ですがあえてあゆは何も聞こうとしません。
 
 

部屋に入ると孝之は唖然としてしまいました。

部屋がキレイになっていたのです。

ただゴミを捨てた、片付けた、と言うレベルではなく家具が変わるぐらいのレベルで。

「ああ、そうそう、とりあえず、片付けといたから」

「……片付けたって」

「邪魔なものは一通り全部」

「…………」

「食器類とかちゃらいのが多くて困ったさ」

「……なに」

「あとはそね。それらしいものを中心にあたしの独断と偏見で片付けたから」

「勝手に……」

「あたしにぶちのめされた女の持ち物とかは、情けで住所しらべて送っといたけど」

「……お前なに」

「取りに来られてもめると面倒やろ?」

「……」

「ああ、そうそう。それとゴミ同然の絵本と、写真は燃えるゴミに出しといたわよ」

「なんだってっ! お前、さっきから何をっ!」

「大掃除をしてあげたのよ。感謝しなさい」

すごいことやってくれたあゆ。

孝之が怒るのは当然。

大切な、大切な思い出の品まで捨ててしまったのだから。

「誰が、そんなこと頼んだっ! その辺のものに勝手に触るなって言っただろうがっ!」

「言われたさ。だから、あにさっ! あたしに文句垂れようなんて糞虫が図に乗るんじゃないわよっ!」

「勝手に捨てた? ふざけるなよ。お前がなんで、そんなことしてくれたんだよっ!」

「したいからに決まってるじゃないさっ! あほな質問するなやっ!!」

「ひとのものを勝手にどうにかして、なんだよ。その態度はっ!」

「あたしはいつでもこうさっ! いまさらそれに文句を言うなやっ!」

あゆの胸倉を掴んで乱暴に引寄せる孝之。

「殴ればいいさ。今だけはそれも許してあげるわよ」

「どうしてお前はそうっ!」

「知るか、ぼけっ! ほんとあったまくるやっちゃなっ!」

「それはこっちだ。あれがどういうものか、お前に話しただろうがっ!」

「ああ、聞いたさっ!」

「絵本とか写真だけじゃなくて、他のものだってなっ!」

「あにさっ! 思い出いっぱい、夢いっぱいで気分るんるんとでも言いたいんか、ぼけっ!」

「まじで殴るぞ」

「さっきから言ってるじゃないさ。殴りたければそうすればいいさ」

「……お前な」

「ほら、やりなさいよっ! あたしは勝手に大切なものを捨てたのよ」

「どうして、そういつもいつも……」

「あにさっ! いつもいつもムカツクやつね、ほんと」

「それはお前がだろっ! 勝手にむちゃくちゃやりやがってっ!」

「ああ、するさっ! いくらでもやってやるさっ!」

「なんだってそう、わからずやなんだよ」

「何度も同じこと言うなやっ!」

「お前なっ!」

「あにさっ!」

「お前はどうしてそう…………」

「…………」

「そう、いつも…………」

「…………」

「…………」

「あにさ?」
 

……オレは何に怒ってるんだ?

部屋をこんな風にされたから…………。

そのはずだったのに、今はなんか違わないか?
 

「あにさ? ぼさっとしてると、特上の毒を食らわすわよ」
 

相変わらずあゆがオレの言うことをちっとも聞かないことに腹を立てて……。

けどそんなのいつものことなんだから。

あゆの言う通り、いまさら何を言ってるんだって感じだ。
 

「お前なんて……」

あゆがそこまで言ったところでほっぺたをひっぱる孝之。

「へほのふんほふへ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」(猫のうんこ踏め)

自分が何故怒っているのかわからなくなってきた孝之。

「…………」

「…………はあへ」(はなせ)

ほっぺたから手を離す。

「あんてことするのさっ!」

「1度くらいは阻止してやろうかと思ってな」

「あんですと〜っ! おかげでこっちは腹の虫がおさまらんのじゃい、おんどりゃあ〜〜〜っ!」

「それだけ叫べば、十分だろ」

「あにお〜〜〜っ!」

改めて部屋を見渡す孝之。

自分だったらこうは行きません。

例え引越したとしても未練がましく持っていってしまう物がたくさんあったことでしょう。

「……なんか疲れた」

そう言って孝之はベッドに腰を下ろします。

いろんなことが馬鹿らしく思えてきた孝之。

「あにさ、もう終わりか?」

「……ケンカしたいのかよ」

「そんなわけないさ」

「なんか、もうどうでもよくなった」

さっきまであんなに落ち込んだり、怒っていたりしたのに。

すっかり毒気が抜かれたような孝之です。

「あたしはどうでもよくないんじゃい、ぼけっ!」

「…………」

「あにさ、黙るな」

「やっぱ気のせいじゃないと思う」

昨日の夜、あゆに告げたことは気のせいなんかじゃない、と孝之は言います。
 

オレがいやな想いを引きずらないように……。

そのために部屋を片付けておくなんて、普通できねぇよ…………。

どっさりと積もったものが、全部振り払われた感じがする。

こんなにも気持ちを軽くしてくれるなんて。

悩んでたオレが馬鹿みたいだ。
 

昨日、孝之に言われてむちゃくちゃ嬉しかった、とあゆ。

あゆは泣いてます。

昨日あんなことを言って後悔して、もう2度と言ってもらえないと思って。

でも孝之はまた言ってくれた。気のせいなんかじゃない、と。

あゆを抱き寄せる孝之。

「あ……あにするのさ」

「もうされるの、いやか?」

「そういう聞き方するな……」

「悪い」

「顔も見るな。酷いことになってるから」

「わかったよ。じゃあ、こうして抱いてやる」

腰に手をかけて持ち上げて、体を反転させて後ろから抱き締める孝之。

「……変態」

「あのな」

「……さっきのが…………」

「ん?」

「さっきのが本当ならさ…………」

「……」

「…………」

「………………」

「抱いて」

「…………」

あゆを抱く手に力を込める。

それが孝之の返事。

「あ……」

朱に染まった頬は熱いくらい。

これは決して何度も引っ張ったからではなく。

キス……そして。
 
 

まあぶっちゃけた話、あゆとやっちゃうわけですがあゆから誘ってきたんだし問題なし。

なんか本当に子供とやっちゃってるような感じです。

『最中』でも人のことを糞虫呼ばわりしてくれるあゆ。

色々と言いたいことはあるのですが特に1つだけ。

あゆ、生えてません。

………………マジ?

胸は結構でかいのに。

『立つと垂れてくる』って孝之さん、あなた…。
 
 

ベッドで一緒に寝る2人。

あゆの話によると父親はあゆに権力や財産を受け継がせようなんて思っていないらしいです。

つまり自分の手を離れたあとのことは興味が無い、ということ。

だったらバイトくびになんてするなよ。

とにかくもう何の心配もいらないってことでしょうか?
 
 

「色々言ったけど…………一緒にいたいだけさ……」
 
 
 
 
 
 

その後はラブラブ(?)の2人。

基本的には全然変わらないあゆですがかなり積極的になるときもあるらしいです。

あれ以来そうとう「ヤ」りこんでいるらしくかなり卑猥な会話を繰り広げる2人。

んであゆは風邪気味にも関わらず孝之のモノをくわえ込んでくれました。

どう見てもロリコンAVのようにしか見えません。

そんなもんどこで見たんだ、なんて聞かないように。

孝之によると普段口がよく動く分、あゆの「舌技」は絶妙だそうで。

思わずあゆの口の中に出してしまう孝之。

孝之の「出したもの」を飲み込んでいないあゆ。

それを見て、すまなく思う孝之ですがあゆの表情は明らかに何かをたくらんでいる顔。

不安にかられる孝之ですが徐々にあゆの顔は近づいてきます。

そして……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ふぇっぷし!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

響き渡る孝之の悲鳴。
 
 
 
 
 
 

それは以前孝之に鼻水を後頭部につけられたことの復讐。
 
 
 
 
 
 
 

流れるバッドエンドの音楽。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ってバッドエンド!?
 
 
 

と思ったらエンディング確認にはちゃんと「あゆエンド」が追加されてました。

焦らせやがって…。
 
 

と言う訳であゆクリアー!! ぱちぱちぱち。

とりあえずハッピーエンドです。

責任とか、その他の感情によっての縛られることなく、自然体で『好き』で一緒にいられる相手。

それがあゆだった、と言うことですね。

あゆが一番正直と言うか自分の感情に素直に生きてる、と言うのもあるかもしれませんが。
 

結局遙にはちゃんと伝えたんでしょうか。

きっと自分の気持ちをはっきりと伝えることが出来たんだと思います。

あゆのお陰で。

それにしても今回は、やたらと水月の扱いが酷かったと思います。

突然現れた彼氏のバイト先のガキに散々説教くらった後に追い出されて。

しまいにゃ彼氏の家に置いてあったものまで家に送りつけられて。

少しは最後で救いがあるかと思っていたのですがそれっきり。

かなり損な役割でした。ご愁傷様です。

まぁ完全に俺が嫌いになる前に消えていったのはある意味ラッキーだったかも(ひでぇ)。

遙にしても水月にしても救われるシーンが全然出てこなかったのはちょっと可哀想です。

果たして仲間4人の関係はどうなるのでしょうか?

特に水月には一生口利いてもらえなくなりそうな感じですが…。

でも一番可哀想だったのは全く出番の無かった慎二でしょう。
 
 

ところで。
 

今までは

〜『あゆ』と言えば誰ですか?〜

と言う質問の答えは「月宮でしょ」常識でした。

ところが最近では「大空寺っしょ」と言う輩も増えてきているとか。

気持ちはわかります。俺はまだ鼻差で「月宮」かな。今後の展開に期待です。

ん? 浜崎? 誰それ?
 
 

とにかくこれで3人クリアーです。

残りは(多分)5人!!


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