2001.12.27 「最早麻痺してきた感じ」編
翌日、楽しい(?)バイトの後で病院を訪れた孝之。
遙と絵本の話をしたと言う『今時看護婦』の星乃さんがわざわざ買ってくれた絵本をもらって遥の部屋へ。
翌日行われる水泳の大会の準備で茜も来ていない様子です。
絵本のことなどを和やかに話す中、ふと遥がもらした一言。
「自分の体がね……自分のものじゃないみたい……何かが……おかしい」
これは……だめだ。
遥は……もうすぐ……気付く。
徐々に自分の状況の不自然さに気付き始めた遥。ヤバいです。
孝之がなんとかごまかしていると茜がやってきました。
無理しすぎて体調が悪くなっていたはずの茜の顔色はいい感じ。
しかし化粧品の匂いが。化粧して顔色の悪さをごまかしてるんだな…孝之は気付きませんが。
別れの挨拶をして部屋を出た孝之を茜が呼び止めます。
「……明日、あの人は来るんですか?」
どうして欲しい、と聞かれて言いよどむ茜。
茜を気遣って自分も水月も行かないと言う孝之。しかし茜は言いました。
「別に……来ても構いません」
「え?」
「誰がいたって……私は私で頑張るだけですから……」
やはり茜は少しずつ心を開いてきてくれている様子。
茜の体調と孝之の鈍感さが心配です。
家に帰ると水月がカレーを作って待ってました。
しかも孝之に合わせて甘口のカレーです。
「孝之が嫌いな物なんて、もう作らないよ」
明らかに孝之の気持ちを引こうとしている態度。「よしよし」なんて言ってる場合じゃねーぞ、孝之。
飯の後に2人でコンビニへ。しかし水月の様子が変です。
問いただしても何でもないとしか言わない水月。
そして路上で耳を噛み、胸を揉み、キスをして、スカートをたくし上げて下半身を弄りまくる変態孝之くん。
散々水月を弄んで部屋に帰っていきました。
完全に孝之の言いなりですね、水月は。
それをいいことにやりたい放題の孝之にちょっと怒りを覚える俺。俺的孝之ポイント・マイナス5。
腐っても18禁ゲームの主人公ってことか…。
翌日。茜の大会当日です。
自分はバイトに行くから自分の分まで応援してきてくれと孝之。
ですが店がヒマな上に茜が気になって仕方ありません。
そんな様子を見て早くアがらせてくれた店長。流石です。
ですが大会は既に終わっていました。水月に電話して結果を聞くと茜は準優勝だったとのこと。
優勝できなかった茜に会うのに気を病みながら病院へ向かう孝之。
星乃さんと絵本について話していると『あの絵本』の話になりました。
『マヤウルのおくりもの』
2人の出会いのきっかけでもあり…事故の時に汚れてしまった本。
遙が寝ている間に孝之はその絵本を探すことにします。
汚れてしまった絵本を持って同じ本を探す孝之。
ですが電車で他の町まで探しに行ったのになかなか見つかりません。
そんな時偶然会ったあゆに汚れた絵本をゴミ扱いされた孝之がキれてしまいました。
「こいつが……ゴミ……だと?」
「…………」
「例え女でも、思いっきりぶん殴るぞ、この野郎」
「あ……あにマジになってんのさ……あはは……」
本気で怒る孝之。さすがのあゆも尋常でない雰囲気に気付きました。
「わ、わ、わ………悪かった……わよ」
「…………」
「そんな本気で怒るとは……思わなかったから……」
そしてその本を探していると聞くと何とあゆが手伝いを申し出てきました。
「ただの興味本位で手伝いなんかいらねえよ」
「反省……してるわよ……。だから……あんまりそんな言い方しなくても……」
泣きながらそんなことを言うあゆ。
ヤバい。俺ってばあゆがちょっと可愛く思えてきた。
結局あゆが手伝うことを承諾した孝之。
あゆは絵本を手にとって題名などをチェックすると携帯電話を取り出しました。
「30分以内にどうにかして。わかった?」
そういやあゆは大富豪の令嬢って設定だったっけか。
きっとその辺のコネクションにでも電話したんでしょう。
30分だけ待て、と孝之に言ってぴったり30分後、あゆの携帯が鳴り出します。
「見つかったさ」
もうすぐここに本が来る、と言うあゆに孝之は当然の質問をします。どこに電話したのか、と。
しかしあゆはそれには答えません。
「あたしがそれをあんたに教えたら…………ま、いいわ。とにかく気にしない」
家のことは秘密になってる、って言うより孝之に知られて今までみたいな関係でいられなくなるのを恐れてる、って感じですね。かわいいじゃないですか。
5分後、発行年月日から版数まで同じ絵本を持って奇麗なお姉さんが現れました。
お金はいらない、と言うあゆに心の問題だ、と孝之。
「例えばオマエ、人からもらったもの、そのまま好きな男にプレゼントするか?」
あゆも納得したのでお金を受け取って去っていくお姉さん。
あゆと別れた後一旦家に戻ってから再び病院へと向かう孝之。
面会時間を過ぎてることを知らずに遙の部屋へ。
遙は絵本を見ると涙を流して喜びました。
「おいおい……そんな泣く奴があるか」
「ごめん……でも……嬉しい……嬉しい……嬉しい……」
そして絵本を読み始める2人。
----ある森に マヤウルという妖精がいました
----マヤウルは この深い森にひとりですんでいます
----森の外になにがあるのか マヤウルはしりません
----自分がどこにいるのかも しりません
----それでも まいにち げんきいっぱいです
----あるひ いつもの泉にいくと ひとりの女の子がねむっていました
なんとなく今の遙を思わせる話です。
そしてそこに入ってきたのはモトコ先生。
結局追い出されてしまう孝之。まぁしゃーないね。
家に帰ると水月がいました…暗い顔で。
その原因は孝之が置きっぱなしにしていった汚れた『マヤウルのおくりもの』。
事情を説明する孝之。しかし水月の顔は晴れません。
「これ……遙が欲しがってたんだよね?」
「ん? ああ、そうだよ?」
「孝之、それ、新しいの探してきてあげたんでしょ、遙に」
「ああ」
「何とも……思わないわけ?」
「何とも?」
「…………」
「なんだよ。何ともって……何だ?」
「その絵本は……孝之と、遙をつなぐものじゃないの?」
「え……」
「時間を超えてさ……つないじゃうんじゃないの?」
「な、何言って……」
「…………本当に……思わなかったの?」
心のどこかで自分がそのことに気付いていた、と思う孝之。
そして水月はそんな孝之の気持ちもわかっていました。
普段ならとっくに怒り出しているはずの孝之ですが今回は何も言いません。
それは水月の言うことがあまりにも的確に孝之の気持ちを探り当てていたから。
何度も孝之が怒りそうなことを言う水月。しかし怒らない孝之。
『いつも』の喧嘩ができない2人。
「……今……孝之に、何のために孝之は遙のところに行ってるの? って聞いたら、どう答える?」
何も言えない孝之。
「……答え……られないの?」
孝之は押し黙るばかり。痛ぇっつーの…。
「孝之の……複雑な気持ちはわかるわ」
その言葉に孝之は反応します。
わかんない。オマエには、わかんねえよ。
オマエがそれをわかるのは、オレが事故って、寝たきりで目を覚まさなくなって、そして……とにかくオレと同じ目に遭ったときだけだ。
もちろん口にはしませんが。
帰ると言い出した水月。
「今は信じてもらえないかもしれないけど……私、孝之の気持ちは……わかるんだよ」
「……え?」
「……答えが出たら……電話して」
そういい残して水月は出て行きました。
孝之の気持ちがわかる…どう言うことなんだろう?
次の日、あゆを冷凍庫に閉じ込めたり皿をぶつけられたりした後病院へ。
そこでベンチでぐったりとした茜を見かけました。熱があるようです。
帰るように言う孝之。
「……私昨日も休んだから……今日はお母さんも来れないし……」
すでに顔を出してきたらしく素直に帰るという茜。
薬ももらってあるようですが、さて孝之はここでどうするか。
1、家まで送っていく
2、様子を見る
送ってあげたいのはやまやまですが…ここはあえて2で。
すると茜はフラフラと帰っていきました。ううっ、ゴメンよ。次の次ではきっと…。
そう言えば茜の制服は高校の制服だったな。そんなことに気が回らないぐらい具合が悪かったってことか。
遙は果たしてそれに気付いたのかどうか…。
孝之は遙の部屋へ。
元気に絵本を読んだことを話す遙。茜とも話をしたみたいだけど制服のことには気付いていない様子。
来週の検査で大丈夫だったら大好物のいもきんつばを食べてもいいとモトコ先生に言われて喜ぶ遙。かわいい…。
しかしモトコ先生がいなくなった後で遙は不安をもらします。
「ダメだね、私。いいって言われれば言われるほど……不安になっちゃうの」
そして2択です。
1、キスをする
2、手を握る
当然キスしますよ、漢として。
しかし遙がよくなっていけばいくほど逆に不安になっていく孝之。
遙が真実に気付いた時、それは孝之が答えを出す時…。
帰り道。3年前遙が事故に遭った場所で再び事故が起きているのを目撃してしまった孝之。
思わず逃げ出そうした孝之がぶつかったのは慎二でした。
自分に起きたことからは逃げるな、と慎二。いいやつだ…。
次の日、病院へと向かう孝之。
茜は熱が下がらないらしく今日は来れないとのこと。
そして遙が言います。
「昨日の夜……変な夢を見たの……」
「夢?」
「…………」
「言って……ごらん?」
「……私がね……ずっとここで寝てるの」
「……!」
「でね…………孝之くんが毎日来てはそこに座って……泣いてるの」
「な……いてる?」
「そう。毎日毎日……そこで、ずっと泣いてるの。私に何か言うんだけど、私は何を言われてるのかわからなくて……答えられなくて……」
「…………」
「私はそれが悲しくて……やぱっり泣いてるの。でも……涙もね……全然出てくれないんだよ?」
「遙……」
「身体も動かないし、口も利けないし。すぐここで孝之くんが泣いてるのに…何もできなくて……」
「お、おい……」
涙を流す遙。
「そのうちね、孝之くんが来なくなって……1日経って、2日経って……ずっともう……来なくなっちゃうの」
「…………」
「……そんな夢……」
「遙……」
「だから、今日孝之くんに会えたことが……あは……なんか、とってもとっても……嬉しくて」
夢と現実をごっちゃにするな、と孝之。
そんな孝之の腕を弱々しい遙の手が掴みました。
「…………私、どこか変わった?」
「え?」
ついに…きた?
「私の顔、身体、この手もそう。どこか……変わった?」
なんとかごまかそうとする孝之。しかし…
「人って……こんなにすぐ痩せちゃうの?」
「!?」
「私……少し……ううん、とっても……痩せてない?」
はぐらかそうとする孝之にしつこく聞いてくる遙におもわず怒鳴ってしまった孝之。
涙を流す遙。
「私……どうしちゃったんだろう? なんで……何かが……おかしいの? どうして? どうして?」
遙の両肩に手を乗せる。
「オレが見えるだろ? これはなんだ? 夢か? 幻か!?」
微妙に首を振る遙。
「そうだ……違うだろう? オレはここにいるじゃないか」
「…………うん」
「それを…………それを…………」
次の言葉。それは『信じろ』。しかし孝之にそれが言えるのか。
遙が待ってるその言葉を言えるのか!?
当然ここは言うに決まってんだろう!!
「それを……信じろ」
「……孝之くん」
「…………できるか?」
いつの間にか孝之まで涙を流していました。
「……ごめんね……」
涙をぬぐって強引に部屋を出るとそこに立っていたのは遙のオヤジさんでした。
全てを聞かれていた。一番聞かれたくない人に。
自分がどれほどいい加減なことを言ったか、それを全部聞かれていた。
逃げ出そうとする孝之。それを引き止めるオヤジさん。
その口から出てきた言葉は孝之に全てを背負いこむなということ、そして本当に汚いのは自分達だということ。
遙に全てを伝えなくてはいけないのは自分達。しかしそれができない。できないで孝之に辛い思いをさせてしまっている。
「ただ……もしも理解してもらえるなら……」
「……はい」
「それが……親……なんです。少なくとも、遙の父親である、私です」
「…………」
「娘には、大きなことは望んでいません。ただ、人並みに……幸せであって欲しい」
「…………」
「例えそれが間違いでも、娘の目先の小さな幸せを壊すことは……自分が殺されるよりも、何よりも……辛い!」
去っていくオヤジさん。
とめどなく涙を流す孝之と俺。
そこにやってきたモトコ先生と病室に入る孝之。
場を取り繕おうとするモトコ先生だがそれは適うはずも無い。
孝之に帰ったほうがいい、とモトコ先生が言ったところで遙が口を開きました。
「……写真……」
「写真?」
「写真を見れば…………」
「…………」
「写真て、何?」
「あの写真……どうしたかしら? ねえ、孝之くん!」
自分の手を見つめたままの遙。
「あの写真は……丘で撮ったあの写真は……どうしたのかな?」
「…………」
「あれを見れば……私も、孝之くんも、水月も、平君も、みんな写ってるよね?」
「…………」
「そうよ。見たいわっ! あの写真! 写真を見たいわ!!」
だからあれほど俺が撮るなと言ったのに…。
そして孝之の方を向くと…遙が目を見開いた。
「…………孝之……くん?」
「え?」
「本当に……孝之……くん?」
「!?」
「あ……あ……あ……うう……ああ……」
ついにその時が来てしまったのか!? ヤバい! ヤバいっしょ!!
看護婦を呼んで孝之を部屋から出すモトコ先生。
しばらく部屋の外にいるとモトコ先生がやってきました。
大きな山場だ、とモトコ先生。そして近いうちに写真を持ってくるよう言います。
しっかりしろ、しっかり……自分に言い聞かせる孝之。
翌日、目が覚めると風邪気味な孝之。
4年前の薬しかなかったのでバイト先の薬をもらおうとバイトに出かける孝之。
しかし薬を探しているうちに治ってしまったようです。
バイト終了後病院に向かう孝之ですがまた具合が悪くなってきた様子。
精神的なものでしょうか。
モトコ先生のいる医局へ行くとそこには茜も。
そして今回の件はやはり記憶などの回復の予兆であるらしい、とモトコ先生。
「だから、様子を見ながら、少しずつ現在の状況を……教えていこうと思うわ」
ついにその時が。その言葉が孝之に重くのしかかります。
今度来る時にモトコ先生のところに写真を持ってくることになりました。
そして今日は遙に会わずに帰ることに。
帰り際、風邪っぽい孝之を心配する茜。
「私のせい……ですか?」
「違うよ」
そう言いながら何度もくしゃみをする孝之に茜が笑顔を見せます。
久しぶりに、本当に久しぶりに見る茜の心からの笑顔。かわいいかも…。
帰り道、遙に花を持っていってやりたいと思う孝之。
しかし自分なんかが遙に花を贈っていいのか。
「……鳴海さんの中にその気持ちがあれば……」
「うん……」
茜は本当に変わりました。
茜と花を選ぶ孝之。
「何の花にしたの?」
「……内緒です」
「内緒ぉ?」
「そうです。それから……鳴海さん、花言葉は詳しいですか?」
「へ? そう見える?」
「見えません」
即答。
そして翌日孝之が買うための注文票を書く茜。
一体どんな花を買わせる気なんでしょうか…気になります。
柊町に着くとコンビニに行くから別れようとした孝之に茜が聞いてきました。
「そうですか…………あの人は……」
あの人とは当然水月のこと。
「作ってはくれないんですか?」
今は水月と会っていないことを告げる孝之。
そして2人は別れました。
コンビニから出ると酔っ払った男女2人がいました。
何とそれは水月。
「速瀬君! 前々から言おうと思っていたんだが! 君…………可愛いねえ……」
「はあ?」
「私と結婚せんかね?」
「課長、何言ってるんですかっ! 奥さんいるじゃないですかっ!」
「妻とは先月離婚してね〜」
いやがる水月に抱きついてくるバカ課長。
「速瀬く〜ん、私は課長だよ?」
「か、課長……」
今時こんな奴いるのか? さて選択肢。
1、助ける
…って1だけ? 否応なしですな。
っつーか助けないわけにはいくまいて。
バカ課長をふっとばす孝之。そして水月の手を取って逃げ出します。
しばらく走って落ち着くと…
「……ひさしぶり」
「……ああ」
気まずい雰囲気が流れます。
しかしバカ課長を蹴り飛ばしてダッシュなんかしたもんだから孝之の具合は一気に悪化。
結局熱がでてしまい水月に連れられてタクシーに乗る孝之。
薬を買ってきてもらい、おかゆも作ってもらってベッドに寝る孝之ですが眠れません。
「大丈夫だよ、大丈夫…………」
「はあっ……はあっ……行くな……行くな……」
「行かないよ。どこにも行かないから、安心して」
普通の男だったらこのセリフだけで撃沈ですな。
そしてそのまま眠りに落ちていく孝之。
翌日、目が覚めても全く治っていない孝之ですが、自分の手を押さえている何かに気付きます。
水月でした。水月の手がずっと孝之の手を握っていたのです。
いい娘や…マジでいい娘や…。次は絶対水月一筋で行くよ!!
熱を測ると前日よりも悪化していました。
このままではバイトはおろか病院に行くことができない。
バイトはともかく病院には行かなくてはならない。花も買わなくちゃいけない。写真も渡さなくちゃいけない。
バイトを休んで午後までに治すことにした孝之。
そして薬を飲んで眠り、起きると4時。具合は全くよくなってません。
そろそろ病院に行く時間。水月はテーブルで寝ていました。
何故自分はこんなにも無理をしているのか、水月に布団の1枚でもかけて後は大人しくしていればいいのではないか。
そう考える孝之。しかし…。
心の中で水月に謝る孝之。
水月を起こして食いたいものがある、と孝之は言います。
水月が買い物に出かけた隙に着替えて写真を雑誌に挟んで持ち出す孝之。目指すは…病院。
何とか欅町、つまり病院の駅についた孝之はまず花屋へ。
伝票を渡すと持ってこられたのは真っ赤なバラ。
花言葉なんだっけ? 『真っ赤に燃える愛』とかだっけ?
ふらふらになりながら病院に着いた孝之。
その様子に気付いた天川さん。止めろよ、看護婦なんだから。
遙の病室に行くとモトコ先生を茜、そして遙が。
「あ、孝之くん……」
全く変わった様子の無い遙。
「ねえ……それ……何?」
バラを見て遙が言いました。
「うわ〜!! バラだ! ねえねえ、お兄ちゃん、これどうしたの!?」
わざとらしい茜。
「…………遙に」
「ちょっと……鳴海くん?」
モトコ先生の言葉を無視して遙に近づいて行く孝之。
その時ドアから入ってきたのは…水月。
「孝之! やっぱりここにいたのね!?」
ヤバイ…これかなりヤバイんじゃないッスか?
「え……?」
「……え? 水月?」
驚く遙と茜。
「あなた……あなた一体……何考えてるのよっっ!!」
水月が孝之に詰め寄ります。
「いくら遙のお見舞いが大切だからって、自分を何だと思ってるわけ!?」
「…………」
「そんなに……そんなに……遙のことが大事なら……遙の……遙の彼氏なら……もっと……自分を大事にしなさいよ……」
「え……」
孝之も茜も水月が本当のことを言ってしまうんじゃないかと思っていました。
しかし水月は自分の立場を演じている。それは何故か? 孝之のため? 遙のため?
水月の怒りはなんのためなのか。無理をしていることか? そうまでして遙の見舞いに来たことか?
何もわからない孝之。そんなんが俺にわかるわけもなく。
遙に花を渡したらすぐに帰るように孝之に言う水月。
「孝之くん……大丈夫?」
「はは……あんまり。水月の言う通りだ。今日はすぐ……ん?」
「…………」
「どうした?」
「…………鳴海……さん」
「え……?」
「今……水月のこと……水月って……」
「え……あっっ!」
3年前は水月のことを『速瀬』と呼んでいた孝之。遙の前では気をつけていたはずなのに…。
その瞬間、抱えていた雑誌は落ちて遙のベッドの上に。
雑誌が開かれ写真が遙の目の前に…。
「あ…………」
「え?」
「え?」
「…………え?」
写真と雑誌をまじまじを見る遙。
「ま……待て!」
「…………この写真…………何?」
「え……?」
「2001年って…………何?」
「あ……」
雑誌は今年の夏の雑誌。当然年号も…。
「は……るか……」
遙の中で確実に何かがすごいスピードで動く。
「…………え? 水月?」
「…………」
「茜……?」
「…………」
「……ここにいるのは……みんな……」
孝之達の顔を確認する遙。
「…………だれ?」
「!?」
「え……? なにこれ? 一体どうなってるの!? みんな……どうしちゃったの!? ねえ! 2001年って……何!? なにっ!?」
「は、遙っ! 落ち着け!」
バラを持ったまま遙に手を伸ばす孝之。
「やめてっ!!!」
遙の手が花をはじき飛ばすと同時に孝之も後ろにはじき飛ぶ。
「私……私……なにこれ!? 何よ、この髪っっ! 今は一体……いつなのよっっ!」
「落ち着いて」
「嘘……嘘よ……みんな冗談ばっかり……」
自分の髪の毛をひっぱる遙。しかしその髪の毛は本当に遙の髪の毛。カツラでもなんでもない。
孝之の方を向く遙。
その顔は絶望に打ちひしがれた顔。
「……本当、に?」
「…………」
遙にかける言葉なんてなかった。
それは遙にとどめを刺す言葉。そんな言葉は誰も言いたくなかった。
だから…孝之が答えるしかなかった。
「……3年……経った……のね?」
「……そうだ」
「孝之くん……水月って…………まさか……」
「……すまない」
グラリとベッドに倒れこむ遙。
もうその目は何も見えていなかった。
オレは……結局、オレが全部……いつでも、今も。
オレが遙を壊していく……遙の全てを……奪っていく……。
オレが全部。
オレが全部……奪い、壊し、踏みにじる。
他の誰でもない。
オレが…………オレが…………。
オレが全て壊したっっ!!!
あああああああ…………。
まさかこんな形で遙の記憶が戻るなんて…。
なんか…「くっ……」としか言えないんですけど、俺。
倒れ、気を失う孝之。
突然出てきたのは高校生時代の孝之と遙。
付き合って間もない頃の様子。
互いのことも「涼宮さん」「鳴海くん」なんて呼んでいる。
孝之が初めて遙を自分の部屋に呼んだのはいいが緊張して2人とも会話が進まない。
2人で部屋を片付けて、エロ本が見つかってしまったり…。
しかしそれはあまりにも幸福な情景。
なんか…さっきのシーンよりもさらに心が締め付けられる感じ…。
辛い…マジで辛い…。
場面が変わって今度は学校。
高校時代のまだ髪が長かった水月。
制服が違うのはどうやら冬服だからのようです。
…かっこいいんだかかっこ悪いんだか…よくわからん制服だなぁ。
まだ親しくなってない2人。これはおそらく遙のために孝之に近づき始めていた水月の様子。
2人でCDを買いに行った帰り、公園を歩いていると突然の雨。
とっさに上着を水月に貸して走り出す孝之。
そんな優しさに触れた水月の心はどうだったのか…。
その夜、慎二との電話の後に水月のことを考える孝之。
孝之にとっては水月との友情が芽生え始めた瞬間でした。
目が覚めた孝之。外はもう夕方。
何か懐かしい夢を見ていた気がする。
懐かしい日々。もう戻れない日々。
孝之の涙が止まらない。
その時病室の外からモトコ先生と水月の声が聞こえてきました。
「……彼は?」
「まだ、目を覚ましていませんでしたけど……」
「そう。もし彼が目覚めても、彼女のことは……ショックが大きすぎると思うから」
「……はい」
まだ何かあるんですか?
いい加減にしてください。もうお腹いっぱいです。
水月が部屋にはいってきました。
少し会話をした後、孝之が水月に尋ねます。
「オレには何を言うなって?」
「…………」
「遙は……どうなったんだ?」
「…………」
水月は絶対に言わない。それはわかっていた。
なら自分で確かめにいくしかない。
「やめた方が……いいよ」
何度も止めようとする水月。
しかし孝之は遙の様子を見る義務がある、そう思っていました。
遙の部屋のドアをノックする孝之。しかし返事は無い。
中に入って名前を呼ぶ。やはり返事は無い。
「誰かいるんですか?」
看護婦の天川さんが部屋を覗き込んでいました。
遙のことを尋ねる孝之。
でも天川さんは口篭もって答えてくれません。
……なんだ?
「あの……遙に何かあったんですか?」
わかりきったことを聞く、と自分でもわかっている孝之ですが聞かずにはいられません。
しかし天川さんは星乃さんに呼ばれたことをいいことに出て行ってしまいました。
一体何が…。俺ももう心臓バクバクです。勘弁してくれよ…。
「鳴海君……」
そこにはモトコ先生が。
モトコ先生が孝之を連れてきたのはICU。集中治療室ってところです。
本来は家族しか入れないところに入る孝之とモトコ先生。
一番奥に遙はいました。
3年前と同じ姿で。
機械につながった遙の姿。
その機械よりも無機質な遙の姿。
「極めて危険な状態よ」
「……え?」
「脳波も安定してないし、血圧も低すぎる」
次に意識を失ったときは命に関わる…それは以前モトコ先生が言った言葉。
自分を悔やみつづける孝之。自分のせいだ、と。
「もう、原因を探すことに意味なんてないのよ。責任を感じたり、かばい合いなんて、なんの薬にもならないわ」
そして帰り際にモトコ先生がもらした言葉。
「奇跡……」
「え?」
「今のあなたにできることは……それを信じることだけよ」
廊下を歩いていくモトコ先生。
……神頼みって……なんだよ。
神なんていると思ってんのかよ。
んなもん、いるわけねぇだろ? だったら、何で遙がこんな目に遭ってんだよ?
しかしそれでも奇跡を願うしかない孝之。
非力だ……オレはなんて……非力なんだ。
非力なくせに、バカで、どうしようもなくて。
自分のやったことの落とし前もつけられないってのに、バカだけは一人前だ!
くそっくそっくそっっ!!!
痛ぇ…つれぇ…このゲームやって何回目だよ、このセリフ。まだ3日目だぞ?
1人で部屋のドアを開ける。別れ際の水月の悲しそうな表情が頭をよぎる。
遙も回復してきていた。
茜も笑顔を見せてくれるようになってきていた。
少しだけ全てが前向きに進んだと思っていた。
…でも馬鹿な勘違いだった。
テーブルの上にはモトコ先生に貸した写真が載せられていました。
ごめん……遙……水月……ごめん……。
「くそーーー!!!」
ベッドに倒れこむ孝之。
頼む!! 遙を助けてくれっ!!
そしたら……そしたらオレ、今度こそちゃんとするから。
全部ちゃんと考えて、態度はっきりさせるから!
だから、頼むから遙を……殺さないでくれ!
殺さないだけじゃない! 頼むから、また何年も眠っちまうなんてこと……なくしてくれっ!!
ちゃんと、ちゃんと、目覚めさせてくださいっっっ!!!
「頼む……お願い……お願いします……遙を……」
すいません。今俺号泣してます。涙が止まりません。
なんで遙が、孝之が、水月がこんな目にあわなくちゃいけないんだよ!!
また懐かしい夢の話。
孝之・慎二と水月が仲良くなりだしたことの話。
孝之と水月の仲を変にかんぐった女生徒により、2人が付き合っているという噂が流れます。
遙のことを考えたのか、孝之と距離をとろうとする水月。
しかしそんな水月を孝之は残念に思い、友達だと思っていたのに裏切られたように感じてしまうのでした。
その後、素直に謝ってきた水月。
似た者同士で水月とは長い付き合いになるであろうことを予感する孝之。
しかし…。
翌日もバイトを休む孝之。恐る恐る病院へと向います。
遙のいた部屋にはもう誰もいません。それはわかっていたこと。
そして廊下を歩いていると茜にばったり会ってしまいました。
「……姉さんには会えませんよ?」
「……うん……」
「じゃあ、何しに来たんですか?」
ぶっきらぼうな口調。感情の感じられない言葉。
「……遙は?」
「…………」
何も言わない茜。つまり何も変わっていない、ということです。
「そうか」
「少しずつ悪くなってるかもしれないって……言われました」
「え!?」
「私も詳しくはわかりません。でも……そういう話でした」
「そんな…………」
頭をよぎるのはモトコ先生の言葉…神頼み。
「また、姉さんにしてあげられることが……なくなりました」
そう言って涙ぐむ茜。
謝る孝之。
「……私にも責任はあります」
思いも寄らない言葉。
「私が花なんか予約しなければ……鳴海さんが無理をすることもなかった……」
否定する孝之ですが茜には届きません。
「……私には、鳴海さんを責める資格なんてないです……」
責める気だったのかよ。
そう言って立ち去ろうとする茜。孝之は前に立ちはだかり言葉をかけます。
「そんなことないぞ! オレと遙のためにやってくれたことじゃないか!」
「裏目に出たらしょうがありません」
「それはオレがバカだったから……だ、大体、それはオレが茜ちゃんに頼んだことだろ!?」
「でも……」
「茜ちゃんは悪くない!!」
不毛な言い争い。何の意味も無い。
「やめよう……」
「え?」
責任を感じあっても意味がなく、自分達にできることをやろう、と言う孝之。
「できること?」
「…………祈ること」
「…………」
「悔しいけど……それしか前向きな方法は思いつかない」
「そうれはそう……」
「でも茜ちゃんはただ祈る他にも、あと少しだけできることがあるぞ」
「え……?」
「遙の傍で……声をかけてあげて欲しい。手を握ってあげて欲しい。今のオレにはそれすらできないから……」
「…………」
「自分が悲しみに潰されそうになったとき、それで自分も救われる」
「…………」
「オレは……オレは…………そうやって3年前祈った」
「!?」
「祈る方だって、そっれがいったい何の意味があうのか……って、どうしても意味を考えてしまう。無意味さを知ってしまう」
「…………」
「だから、そうやって自分も救って行かなくちゃ……祈り続けられない」
頼む、と言い残して去っていく孝之。
病院から出ると慎二から電話がかかってきました。
出る気の無い孝之は留守電に転送してしまいます。
そして夜、帰るとちょうどマンションから慎二が出てくるところでした。
自分を責めるのはやめろ、と慎二。
慎二の隣を抜けていこうとする孝之にさらに慎二は声をかけます。
「本当に頼む……」
「…………」
「あの頃に戻るのは……やめてくれ」
!!!
思わず慎二を殴りそうになって…思いとどまる孝之。
3年間積み重ねてきたも物を平気で捨てるようなことはして欲しくない、水月を大切にしろ、と慎二。
再び過去の夢。
遙と付き合い始めて、わだかまりも無くなり、茜ともじゃれ合うような楽しい日々。
写真ができたから取りに来てもらえるとありがたい、と慎二からの電話。
橘町まで写真を受け取りにいくことにする孝之。
翌日は遙とデートで絵本作家展へ行く約束がありました。
しかしそれは守られない約束。なぜなら孝之は待ち合わせに遅刻して遙が…。
何度でも言いますが…痛いです。
飛び起きる孝之。
今度ははっきりと夢の内容を覚えていた。あの日の前日の夢。
時計を見ると夜中の2時半。俗に言う丑三つ時。
孝之の頭に不安がよぎり、心臓がバクバク言い出す。
非科学的なことではある。しかし…。
ベッドから起きて病院へ行こうと考える孝之。
バカらしいと考え直し寝なおしてしまいます。
朝。電話で目が覚めた孝之。
その電話はモトコ先生からの電話。
「ご家族の方から、あなたにも教えてあげて欲しいということでね……」
どこの家族か。遙以外に考えられない。
「涼宮遙さんのことだけど……」
「……はい」
「目を覚ましました」
「えっ!?」
「まだ油断はできないけど……あの様子なら……多分……」
「…………」
「信じられないって顔してる?」
「だって……だって……」
「あの時に戻ったみたいね……」
「そんなこと……言わないでください……」
遙が目覚めたことを喜ぶ孝之と俺。
「…………それで、一度来て欲しいの」
「え……?」
「彼女が会いたがってるわ」
「え?」
自分のせいでこんなことになったのに遙が自分に会いたがっている。
その理由がわからない孝之。
モトコ先生はそんな気持ちを察して遙の気持ちを孝之自身の気持ちのどちらを優先するのかを選択するように迫ります。
そんなこと言われたら選択肢なんてあってないような物。
「……わかりました。今日行きます」
よかった…遙が目覚めてホントによかった…。
バックミュージックが雰囲気出しすぎなんだよー。マジでドキドキしました。
病院のモトコ先生を訪ねると屋上に連れて行かれてしまいました。
「涼宮さんのこと……ちょっとやっかいなことかもしれない事態になっててね……」
まだ何かあんのかよ。もう精神衛生上よくないッスよ、これ以上は。
「涼宮さんね……自分の時間を取り戻したの」
「……はい」
「その代わり……」
「…………」
「この半月のことを忘れてるわ」
むしろ不自然な状態だったこの半月のことを忘れているのは自然なことなのかもしれない、とモトコ先生。
これで一応のカタはついた、とモトコ先生は見ているようです。
最初に目覚めてからの半月のことは忘れている遙。それはつまりやり直しがきく、ということになります。
何のやり直しか。それは今の状態を遙に告げること。
今の状態。それはただ1つ……孝之と遙と水月。
『約束』を果たす時が来ました。
遙が目覚めた時は孝之と水月の付き合いをちゃんと説明する、と言う2人の間の約束。
遙には……会わなきゃいけない。
果たして孝之は遙にどう伝えるのか。
そして水月は? 遙は?