2002.3.21 「やっぱり辛いッスよ……」編
この間ちょっと言いましたが、作品中に出てくる音楽で「Fanciful Jump」がお気に入りです。
んで俺はこれを「夕美のテーマ」だと言いましたが、夕美のテーマなどちらかと言うと「Play A Joke」の方ですね。こちらも好きです。
ま、そんなことに関係なく「Fanciful Jump」は好きなんですが。
と言うか「加奈」はBGがかなりいいと思います。
それでは本編に。
加奈が病院に戻る前日、2人でお出かけした隆道。
家に帰ると両親はいなく、加奈がシャワーを浴びている間自分の部屋で妄想に苦しんでいた隆道の部屋にやってきた加奈はバスタオル1枚。
下着が無いと言うので選択して乾燥機に入れて乾かすことになったのですが、その間加奈はどんな格好するのかと思ったら何と体操服。しかもブルマも。
なかなかマニアの心を掴みにきてくれてますが、俺としては裸にパジャマの方がよりグ(以下略)。
2人はトランプで遊んでいましたが、ふと会話が昼間のことになりました。またどこかに遊びに行こう、と。
今度は森林公園に行こう、1日中走ったり、サイクリングしたり。水もキレイらしいから飲んでみるといい……。
……とそこまで話して、隆道は加奈がずいぶん長い間俯いているのに気付きました。
「……どうした?」
「……」
「おい?」
「……」
加奈は泣いてました。理由も無く加奈は泣いていたのです。
隆道は最初加奈が自分の体について知っていて、それで泣いてしまったのかもしれないと思いましたがそれも違う様子。
もしかすると加奈自身は気付いていなくても、加奈の身体が気付いているのかもしれない。
突拍子もない考えですが、隆道はそんなこともありうるかもしれない。そう思います。
そして加奈を慰めるために抱きしめる隆道。
でもそれは自分にとっても心地よくて、それが辛くて。
加奈を手放したくなくて。そんな自分がどうしようないほどに最低で、馬鹿で。
そんな思いを断ち切るかのように強引に加奈を自分から引き離します。
「……まあ、病院に戻っても元気でな」
「……病院、戻りたくない」
「何だって?」
「ずっと……家にいたい……普通に暮らしたい……学校に行ったり、遊びに行ったり、おいしいもの好きなだけ食べたり……したいよ……」
「加奈……」
「お兄ちゃんと一緒に……いたいよ……」
そう言ってまた泣き出す加奈が痛い。心から痛い。勘弁してくれ。
「泣くなっ!」
「ぁ……」
「……もう、泣くなよ」
「……」
「さっきも言っただろ。病院には会いに行ってやるって。欲しいものがあれば持っていってやるし、して欲しい話があればしてやるから……」
「……」
「だから、あんまり無茶を言うな。美樹さん、嫌いなのか?」
「……(ふるふる)」
「今日、つまらなかったか?」
「……(ふるふる)」
「じゃあ昨日は? 無駄な1日だったか?」
「……(ふるふる)」
「だったら、胸を張ってろ。明日病院で、美樹さんや先生に楽しかったって言ってやれ」
「……(こく)」
その時聞こえてきたのは乾燥機の電子音。
加奈は鼻をすすりつつ、少しは元気になって階下に降りていきました。
1人部屋に残った隆道は自分を振り返ります。
いつからこんなことになってしまったのか。
いつから自分は加奈をこうも強く思うようになっていたのか。
もし加奈と夕美が崖から落ちそうになっていたら、自分はどっちを助けるのだろうか。
……どちらを助けるべきなのだろうか。
そんなことを思いながら、まだ手に残る加奈のぬくもりに痛いほど心を締め付けられるのでした……。
その夜。
自分の加奈に対する想いに眠れないままでいた隆道に、ふと加奈の声が聞こえてきました。
寝言でもなければ、苦しんでいるような声でもない。
まさか、と思いながらも廊下に出ると、加奈の部屋のドアはわずかに開いていて、そこから部屋の中を見てみると……
「ん……ふぅ……ぁ……」
ベッドの上で蠢く白いもの。
それは普段からは創造もつかないほど、淫靡で怪しい動きをする加奈でした。
ベッドの上に全裸で横たわり、右手の指先を脚の付け根に潜り込ませている加奈。
「……はぁ……はぁ……ん、く……」
加奈は……自慰(ぶっちゃけた話、オ○ニー)をしていたのです。何気にショック。
「……ん……んぁ…く、ん……おに……いちゃん……」
「……っ!?」
加奈が『その最中』に自分を呼んだ。そのことに思わず体重をかけてしまった廊下が小さく鳴ってしまいました。
加奈の動きが止まります。
気付かれたのか? と息を殺して動きと呼吸を止めていると、加奈はまた行為を再開。
でもそれは心なしかさっきよりも大きな声で。
隆道は逃げるように自室へと戻りました。
加奈の声をシャットダウンするかのようにベッドに潜り込む隆道。
しかしそんな隆道の部屋をノックしてくる者がいました。
今家にいるのは自分と加奈だけ。
見なければよかった、と隆道は思います。
知らなければ、そうすれば自分の願望を心の中で消し去ってみせたものを。
どうして……裏切ったんだ、加奈。
隆道は加奈が人並みに性に興味を持っていたことは知っていました。
そのことは認められるし、嬉しいとさえ思えました。
でもそれは間違いだったのです。それは自分を騙していただけ。
加奈を性的対象として見るための理由付けを、加奈本人に求めていただけ。
加奈が望めば……俺は禁忌を冒しても平気だ。
加奈が望むなら……俺は禁断の道に踏み込んでも平気だ。
だって。
加奈はもうじき、死んでしまうのだから。
「最低の卑怯者だ……俺……」
なおも続くノック。
立ち上がりドアに向かいながらも隆道は願います。戻ってくれ、と。
−−−今ならまだ、引き返せるんだ。
そしてドアの前に立つ。
−−−これを開けた時、そこにおまえがいたら……俺は……二度と……。
ノブを握る。
−−−兄じゃいられなくなる……。
回す。
暗闇が広がる廊下。そこには……全裸の加奈が立っていました。
「加奈……」
「……」
意を決したように口を開く加奈。
「あの……見てた……よね?」
「……」
「……わたしね……」
そう言って1歩踏み出す。
「……お兄ちゃんのこと……」
さらに1歩。
「……ずっと前から……」
そして隆道の目の前に立つ。
「……ね?」
「よせ!」
死に物狂いで、自分の欲望をせき止め、加奈の両肩をつかんで引き離す隆道。
「……俺たち……兄妹なんだぞ、わかってんのか!」
「わかってるよ……でも……でも!」
隆道に近づこうとしてくる加奈を隆道は両手で押しとどめます。
「……その一線を越えたら……もう二度と戻れなくなる……」
「あの人……誰?」
「え?」
「昼間、お兄ちゃんとキスしてた人……誰?」
やはり見られていた、と隆道。
「恋人なの?」
「……」
「そうだよね……いるよね……お兄ちゃん、わたしと違って健康だし……」
「……」
痛い……。
「友達もいるし、人付き合いだっていいし、女の人にだってもてるよね……」
「……」
痛いって……。
「わたし、お兄ちゃんってわたしだけのお兄ちゃんだって思ってて……それで……キス見て……ショックで……」
そう言って加奈は背中を向けると、自分の部屋へ戻っていきました。
扉を閉めて、鍵をかける音。
「……なんだよ」
困惑し、どうしていいかもわからず、へたるように座り込む隆道。
翌日、加奈が病院に帰るときも声をかけることができなかった隆道でした……。
ビビった……まさか加奈があんなことを……。
でもこんな考え自体加奈を冒涜していることになるんでしょう。
加奈を永遠の幼女だと思っていた隆道のように。
加奈を汚れなき存在として見続けていた勇太のように。
加奈は隆道と夕美のキスシーンを見て焦ってしまったのです。
隆道が自分から離れてしまったかのように錯覚して。
そして隆道も加奈への気持ちを抑えることが出来なくなってきています。
今回は何とか抑えたものの、次はどうなるか……。
それ以降隆道は加奈の見舞いに行き辛くなっていました。
顔を合わせ辛い以前に、自分の中にある願望が恐くて。
でも加奈を心配する気持ちもあるので、なんとか自分をだましだまし理論武装した結果として顔を出せたのは2週間後のことでした。
隆道が来たことに戸惑う加奈は、2・3言言葉を交わすと急に涙を流し始めました。
「ど、どうした?」
「わたし、お兄ちゃんに嫌われたって思って……二度と来てくれないんじゃないかって……うわぁぁぁん……」
「そんなこと……」
そう言って隆道は少し躊躇した後……
「ないさ」
加奈を抱きしめるのでした。とりあえず一安心。
その後は何事もなかったかのように他愛ない会話を続ける2人でしたが、やがて面会時間が終わりに近づいてきてしまいました。
「また……来てくれるよね?」
「もちろん」
「あ……よかったぁ」
そう言って加奈は胸に手を当ててほっとした表情を見せます。
「ね、お兄ちゃん、わたし……もっと強くなりたいなあ。健康になりたいよ」
その言葉に胸が痛む隆道。
残された時間があと数ヶ月もない加奈にとって、それはあまりにも残酷な希望。
「病は気からって言うし、なれるよ。最近の加奈って元気に見えるし、それは……本棚を見てもわかるし」
「え、本棚?」
「コミック本ばかりが妙に増えてるみたいだな、加ー奈ー」
「あ、だって……面白いから……でもほとんどお兄ちゃんが持ってきてくれたものだよ」
「勉強は大丈夫なのかなー」
「う……やってるもん」
「まあ、漫画でも何でも元気になれればそれでいいんだ。そうやって、この間みたいに積極的になってくれれ……」
と思わず口が滑った隆道。
「あ……」
「……」
「……」
「……この間のことなんだけど」
隆道がこう話を切り出したのはすいずんと時間を置いてからのこと。
「あれ、一旦保留にしないか?」
「え?」
「保留」
「……それって?」
「わかんないんだ、俺にも。どうしたら。加奈は確かに妹だけど……その……本当に、わかんないんだよ。けど、加奈が元気になるまでは、今まで通りで行きたい」
「……」
「加奈が元気になったら、結論を出せると思う。だからそれまでは保留」
「結論ってことは……じゃあ?」
「血が繋がってなかったらよかったんだ。そうしたらこんな迷うことなんてなかった」
「あぁ……」
口元を押さえてみるみる涙ぐんでいく加奈。
「泣くなよ」
「だって……」
「泣ーくーなー」
頬を掴んで引っ張る隆道。
「ふぁ、ふぁい……」
本当はボーイフレンドを作ったほうがいいんだとか、今度大学の学園祭に来い、とか言ってこの日は穏やかな雰囲気のまま別れました。
それにしても隆道も『保留』と言う言葉には納得できません。
加奈が元気になったら結論が出る、と隆道は言います。
でも隆道は知っているのです。加奈が元気になることは無いということを。
そうなると隆道の『保留』と言うのは単なる加奈を騙すためのその場しのぎにか聞こえないのです。
美樹さんの口から加奈が血を吐いたことが伝えられました。
涙を流す美樹さんですが隆道は相変わらず泣くことができません。
はうぅぅ……。
家族全員で見舞いへ。
途中で偶然会った夕美も一緒に行くことになって病院へと向かいます。
両親が医師のところに行ってる間に隆道と夕美が先に加奈の病室へ。
夕美は恋人ではなく大学関係の友達と言う設定で。
病室のドアを開けるといきなり加奈が抱きついてきました。
「お兄ちゃん!」
隆道の胸に顔を埋める加奈。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「変な挨拶」
とまあ出会った3人ですが、当然加奈は夕美を警戒しまくりで、夕美はそんなことまるで関係なく笑顔で話を続けます。
夕美が花瓶の水を取替えに病室を出て行くと安堵したような空気が流れます。
加奈は夕美が隆道の恋人であることに気付いていました。
「わたし、健康になったらね……あっ!」
加奈が顔をしかめて上半身を前のめりに。
「お、おい! 平気か?」
「大丈夫。最近たまになるんだけど……遅れてきた成長が一気に来てるから痛むんだって、先生が言ってた。これって健康の証だよね?」
「……ああ、そうだな」
俺は生まれてはじめて、神というものに祈った。
どうか、今だけは涙を止めておいてくれって。
い…………痛ぇぇぇ!!!!
あ、あうぅぅぅ……こいつは……ヤバイ。
痛い、痛すぎる……。
何か欲しいものがあれば明日にでも持ってくるけど、と隆道が訊くと加奈は答えました。「お兄ちゃん」と。
「え?」
「ううん、今の何でもない! あの……えっと……じゃあ……お兄ちゃんが高校時代に使っていたノート……ある?」
「ノート? ああ、まだ残ってると思うけど……読みたいのか?」
「勉強、遅れちゃうから。少しでも頑張ってちゃんと進級したいし」
むん、とガッツポーズを作る加奈。
加奈は強くなった、と隆道は思います。精神的にずっとずっと強くなった、と。
これだけ強くなったのに……なぜ、身体は……。
どうして……加奈が……。
「お兄ちゃん、どうしたの? 目、痛いの?」
「砂が入ったみたいだ……ごめん、ちょっと洗ってくる」
「……うん」
そう言って病室を出ようとするとちょうど入ってこようとしていた美樹さんとすれ違いました。
「加奈ちゃ〜ん、長期外泊許可、オッケーよん!」
「えー!」
後ろから聞こえてくる室内の会話。
長期外泊許可。
それは加奈に残された期間が、本当にあとわずかであることの宣告でした。
加奈の嬉しそうな声に、その顔を見たいと願う隆道。そんな顔はもうどれくらい見ていられるかもわからないから。
でも今の涙に濡れた顔だけは見せるわけにもいきません。
「あれ、藤堂君?」
夕美に声をかける余裕も無く洗面所に隆道は駆け込むます。
顔を洗って洗面所を出ると夕美が待っていました。
「ど、どうしちゃったの? 泣いてたの?」
「なんでもない」
「でもお……」
「なんでもないから!」
……と…………と言う訳で加奈の最後の退院の時がやってきます。
今回の加奈は知的でないせいか自分の身体のことをわかっているのかどうかもわかりませんが……それでも残りわずかであることは間違い無いわけで……。
果たして最後の退院で何が起こるのか!?
以下次回!!