2002.3.11 「そっ……そんな…………」編


 

よく見たら(って最初から気付いてましたが)セーブデータに名前がついてるんですね。

例えば今回ロードしたデータは『中等期・俺の初恋について』です。

自分がどこまでプレイしたのかがわかる親切設計。ありがたやありがたや。

 

と言う訳で中等期・続きです。

 

加奈のお見舞いにやってきた隆道。この日は加奈の16歳の誕生日でした。

結婚できる歳になったな、と加奈をからかう隆道ですが一体どこまでが本気だったのやら。

そして加奈に貸してやる本を選択。

  浮島

  放射能戦士ウラン

あらゆる意味でやばそうな後者は却下。

ふと隆道は加奈の枕元に自分が持ってきた記憶の無い恋愛小説を見つけました。

「あれ、それは?」

「……美樹さん」

「……に借りたのか」

「……(こくん)」

「ふーん。あの人が恋愛ねえ」

パラパラとめくりながら面白いのか、と訊ねる隆道。

「……うん、すごく」

「どんな話なんだ」

ずず、とお茶を飲みながらの隆道ですが……

「兄と妹が、禁断の恋に陥る話」

ブーッ、とリアルな効果音つきでお茶を吹き出す隆道。

「あ、でも血は繋がってないの」

そういう問題じゃない、と憤る隆道ですが加奈は平気な顔です。一体どんな気持ちで言っているのやら。

それに何やら暗示的な匂いを感じますねぇ、このエピソードには。……怪しい。

 

加奈がいきなり好きな人はいるのか、と聞いてきました。

昔はいたけど失恋して終わった、と隆道。

それは小学5年生の時、夕美との間に起きた例の事件。

その話を聞かせてくれ、と加奈に言われて隆道は語りだしました。

 

本に載っていた占いで自分と隆道は相性がいいらしい、と話しかけてきた夕美。

それも自分も隆道に気があるかのような素振りを見せて。

周りのクラスメイトに囃し立てられて廊下に飛び出しながらも嬉しかった隆道。

夜に寝る間も惜しんで必死で手紙を書いたこと。

それを学校に持っていくのに3日かかり、それを渡そうと行動を移すのにさらに5日かかったこと。

それがクラスで見つかり笑いものにされたこと。

そして……ヘラヘラと笑う夕美に憎しみを抱いたことを。

 

それ以来、隆道はクラスで孤立し、あまり笑わなくなりました。子供心に余程傷ついたのでしょう。

四天王以外とは口をきくこともなくなり、中学までは相当ひどかったようです。

今となっては高校で普通に友人付き合いもしているし、笑うようにもなった、と隆道。

「初恋はたいてい失敗するって言うけど、こういう終わり方をするのも珍しいと……」

「う……」

と、そこまできて加奈は泣き出してしまいました。

「お、おい、加奈?」

「……お兄ちゃん……」

ぽろぽろを涙を流す加奈。

「……そんな人のこと、好きになっちゃ駄目だよ……お兄ちゃん」

そう言って加奈は抱きついてきました。

「駄目だよ……」

「……わかってるよ。言ったろ。昔の話だって。まあこれからも当分、恋愛なんてできないと思うしな。加奈のこともあるし」

「……わたしのこと?」

「加奈が健康になるまでは、心配で自分のことなんて考えられないしな」

「……」

「せっかくの誕生日なのに泣いてどうするんだよ。今日はおまえが生まれた日なんだぞ。ほら、涙を拭いて鼻をかめって」

ティッシュで涙を拭いてやって、誕生日をプレゼントを渡す隆道。

さて何をあげましょうか。

  電気ねずみのぬいぐるみ

  ラブ・キャンドル

  大辞典

ここは1つぬいぐるみで。加奈も喜んでくれました。

「……じゃ、俺そろそろ帰るわ」

「あ、もう?」

病室を出ようとしたところで隆道は振り向いて言いました。

「誕生日おめでとう」

「あ……う、うん」

「今年は、進学できるといいな」

「うん、頑張ってみる」

そう言ってガッツポーズをとる加奈。

「その意気その意気」

「お兄ちゃんと同じ学校、行くんだ」

「そうか」

「そしたら、それまでに健康にならなくちゃねぇ、加奈ちゃん」

と、そこにやってきたのは看護婦の美樹さん。

新人の時から加奈を担当している美樹さんももうベテラン看護婦です。

美樹さんが加奈を検温するとやや微熱状態。

いつものことだと加奈は言うのですが……。

病室を出て、廊下を美樹さんを並んで歩きながら隆道は加奈の状態について訊ねました。

隆道も加奈の病状について不安になってきていたのです。果たして健康になれるのかどうか。

そんな隆道に信じなきゃ駄目、と美樹さんは言います。

「そうなんですけど……」

「病は気から!」

「はあ」

「お兄さんが弱気になったら、加奈ちゃんにも伝染しちゃうわよお」

いやいやとツイストする美樹さん。この人もう30歳近いと違いましたっけ?

まぁ見た目は10年前と全く変わっていないのですが。

「とにかく。絶対に健康になれます、そう信じてください!」

「でも……」

きっぱりと言い切った美樹さんですが隆道の不安は拭いきれません。

「もう、ちょっぷ」

ぺち。

「……痛くないです」

「ちょっぷちょっぷちょっぷ」

ぺちぺちぺち

「……痛いです」

加奈を励ますのが見舞いに来る人の役目なのだから、弱気な人は追い返す、と美樹さん。

「大丈夫。いざという時は、私の魔法で加奈ちゃんを健康にしてあげるから」

「はは、まさか」

「本当よお」

「魔法ですよ?」

「そうよお。私ったら魔女なんだからあ」

「嘘だあ」

「本当よお」

「……」

「……」

なんだかおかしくなって笑いあう2人。

隆道にも元気が出てきたようです。美樹さんっていい人だなぁ。

次の瞬間には加奈には見舞いにくる友達もいないことを思い出して泣き出してしまった隆道を励ましてくれるし。

気になるのはこの人とヤるのかどうかですが。

多分ヤれないんでしょうね。「おまけ」のCGに美樹さんいないし。

 

隆道の高校の卒業式の日がやってきました。

加奈も卒業式に来たがっていたようですが無理だったようです。

胸いっぱいの希望を抱いて、晴れ晴れとした気持ちの隆道。

加奈にも見せてやりたかった。

そして加奈にもこんな想いを抱いて欲しい。そんな想いが去来します。

その時……

「藤堂君」

「あ……」

夕美が隆道の前に現れました。中学高校と同じ学校に進んだ夕美でしたが隆道と同じクラスになることは無かったそうです。

そして卒業式の今日、隆道の前に現れたのです。

最後にどうしても言いたいことがある、と夕美は言います。

この日は卒業式。もう夕美と会うことも無く、これが最後だと思うと隆道にも多少の慈悲の心が。

話しかけるでもありませんが立ち去りもしません。

それを肯定と受け取ったのか、夕美は話し始めました。

それは卒業のお祝いと、『あの時』の謝罪。

それに対して思わず大声で怒鳴り返す隆道。お前のことは大嫌いだ、と。

「……信じてくれなくてもいいんだけどさ……私、藤堂君のこと、ホンキで好きだったんだよ」

「ああ?」

「だから、私は藤堂君のことが……」

何を言ってるんだ、と隆道は夕美の言葉を理解しようとしません。

「おまえ……そんなに俺のことを馬鹿にしたいのか。俺がはいそーですかとなびいたら、またみんなで笑い者にするのか。卒業式の日にまで」

「違う! そんなことしないよ!」

涙を流しながら夕美は叫びました。

「絶対に絶対にしないよ! ……これだけは信じてよ。あれは本当に私がやったことじゃないの! 人が勝手に私の机をのぞいて、勝手に広げて読んじゃったの! 私じゃないんだよ……本当に……本当に……」

「勝手に見た……?」

「私だって嫌だと思ったよ。けど、私駄目なの。あんまり人に厳しいこと言うの苦手なの! だから笑ってるしかないじゃない! 本当は……本当はすごく嫌だったのに……」

「信じない……誰が信じるかよ……そんな話……」

今さら−−−

十年近くも経ってから−−−

「……謝らせて。ね?」

目には一杯の涙を浮かべて。

「ごめん……なさい……」

そう言って深々と頭を下げる夕美。同時にぽろぽろと地面に落ちる涙。

そんな夕美は初めてで、隆道にはそれがまるで加奈のように見えました。

「俺は……」

「ううん、許してくれなくてもいい。けど……一つだけお願い」

「お願い?」

「それ……ちょうだい」

そう言って夕美が指差したのは隆道の制服の第2ボタン。

もし今の話を少しでも信じてくれたのなら、と夕美は言います。そうしたらもう2度と隆道の前に現れない、とも。

悩む隆道。何故悩むのかにも悩む。

ここで心を許したらまた。しかし。

「お願い」

真剣な顔で迫る夕美に隆道の手がゆっくりと上がり……

  あげる。

  あげない。

あげるにきまってるだろ?

夕美フラグ? そんなん知ったことか!!

やっぱり夕美はいい娘だったじゃねぇか!!

そうだよ、すごくいい娘だったんだよ!!

俺の目に狂いは無かったんだよ!!

「あ、ありがとう……」

本当にもらえるとは思っていなかったのか、驚きながらも大切そうにそれを受け取る夕美。

隆道も自分で何故そんなことをしたのかわかっていません。

夕美は言います。

後悔していた。ずっと謝りたかった。そしてやっと昨日、決心をつけた、と。

「……もらえるとは思わなかった。すごい……嬉しいよう」

『嬉しいよう』ですよ、『よう』。

これは心の綺麗な娘の使う言葉ですよ。

「鹿島……おまえ、本当に……」

「ごめんね、卒業式なのに嫌な想いさせて。約束だから、もう二度と現れないね」

「おい、鹿島……」

そして夕美は走り去っていきました。まるで全てを振り切るかのように……。

「鹿島……」

「お兄ちゃん!」

「え……加奈か?」

振り返ると加奈が立っていました。怒涛の展開にややついていけなくなりそうです。

隆道に抱きついてきた加奈。無理言って病院を出てきたそうです。外泊許可は降りなかったようですが。

「進学かあ」

感無量とはこのこと、と隆道。

「ついこの間まで小学生だと思ってたのになあ」

「……うん」

ん?

「頑張れよ、学校」

んん?

「……うん、けど」

「けど?」

「一年だけでも、お兄ちゃんと一緒の学校に行きたかったな」

「……」

出席日数の関係で、学力的には問題無かったにも関わらず、加奈の入学は1年遅れてしまったそうです。

 

……ってあれ?

『進学』って加奈の進学のこと? 隆道の大学入学のことじゃなくて?

確かこれは加奈の合格を病室で隆道が告げた時の回想シーンだったはず……。

もうひょっとして回想終わりですか? い、いつの間に……。

いや待てよ。

小学校の時の『例の事件』のシーンで【夕美と高校卒業の日まで話すことはなかった】みたいな記述があったはず。ってことはあれはこれより後のはず。だって夕美とはさっき話したばかりだし。でも加奈が進学するとか言ってるし……むむむ……。

 

ま、いっか。

 

せっかくだから加奈に学校を案内してやることにした隆道。

まずは自分の教室から。机の『クールマン藤堂』の落書きが笑えます。

そこにやってきたのは四天王の1人、智樹。

頭のいい智樹は小学校の時に1度遊んだだけの加奈のことを覚えていました。

そして思い出というものが少ない加奈もそのことを覚えていたので、お互いに挨拶を。

智樹は卒業後、東京の啓皇(けいおう?)大学への進学が決まっていました。分子生物学の分野で興味深い研究をしている教授がいるんだとか。

東京に引っ越したらぜひ2人で遊びに来てくれ、と言う智樹と別れて次は体育館に。

 

と、ここで思い出しましたが、四天王が回想で初めて出てきたシーンで3人の進路や職業などを解説していましたよね。

ってことはやっぱり、あの加奈に合格を告げるシーンはこの段階より後?

 

やってきました体育館。

落ちていたバスケットボールで遊んでいるところにやってきたのは四天王の1人・育郎。

育郎は加奈のことを覚えていなかったので、隆道はふざけて加奈を彼女だと紹介しました。

卒業後は実業団でバスケを続けると言う育郎に別れを告げて、次に向かうは職員室。

先生達に加奈を面通ししておけば後々加奈も楽だろう、と言う隆道の気遣いです。

 

職員室ではいきなり先生に説教を食らっている奴がいました。

四天王最後の1人、雅俊です。家が近所なので加奈のことをよく知っていて、さらにはたびたびモーションをかけてくる(死語)らしく、加奈は苦手なんだそうです。

説教が終わると担任は隆道達に気付いて話しかけてきました。

そこで加奈を紹介すると同時に、入学してからのことを頼む隆道。

先生が言うには、この学校はいじめが少ないので有名なので安心して学校に来てくれ、だそうです。

「いじめが少ない」ってことは少しはあるのかよ? と言いたくなりますが。

 

雅俊とも別れて校門から出た時、話しかけてきた奴が居ました。

「藤堂先輩!」

「あ、おまえは……」

それは勇太。

「卒業、おめでとうございます」

「ああ……」

「藤堂、合格したんだってな。よかったじゃないか」

「……う、うん」

そう言いながらもやっぱり加奈は腰が引けてます。

「先輩が卒業して、その妹さんが入学してくる。なんかいい感じじゃないですか」

それはもう隆道に邪魔されることがないということ?

「ま、本当は去年に入るはずだったんだけどな」

「そっすね」

加奈は隆道の後ろに隠れっぱなし。勇太のことを忘れた訳ではなく、中1の時に加奈を追い回して怖がらせていたことが尾を引いているのです。

入学したら自分を頼ってくれ、という勇太ですが加奈はそれでも怯えています。

そんな加奈に謝罪する勇太。

「あ……い、いいから……」

「ずいぶんと長いブランク空いちゃったけど、正式に謝罪する。藤堂加奈さん、申し訳在りませんでした!」

「あ……」

土下座でもするんじゃないか、と言う勢いで頭を下げる勇太に加奈は近づこうとして……やめました。

そして隆道を見る。それだけで隆道には加奈の言いたいことがわかりました。

「……勇太、俺たち帰るから」

「ご、ごめんね」

「いやあ。やっぱり許してもらえなかったか」

「許すとか許さないとか……そういうんじゃなくて……あの……もういいから」

「もういいって? 許してくれるの?」

「許すっていうか……」

「じゃあ、嫌われてるわけじゃないんだ」

「……え…と」

「忌み嫌われてるわけじゃないんだよね?」

「……そんなことないけど」

「よかった。害虫みたいに思われてたらどうしようかと思った。俺って気が弱いから」

「伊藤君には……中学の時もいろいろ助けてもらって……そんな、嫌ってるとかじゃないけど……わたし、男の子と話すの慣れてなくて……」

「いいって。すぐに慣れるよ」

と、そこでチャイムが鳴り響きました。

HPだ、と言って勇太は2人に挨拶すると校舎内に走っていきました。

「……さ、行くか」

「……うん」

と、言う訳でとことん相手にされていない勇太だったとさ。

 

その帰り道。

加奈は隆道にやりたいことはないのか、と訊ねてきました。

自分が隆道の重荷になって、隆道はやりたいことができないのではないか、と加奈は心配していたのです。

そんなことは無い、と隆道は怒鳴ります。

むしろ隆道は加奈を守ることで成長してきたのです。

それに2人は兄妹。一心同体。助け合うのが当たり前。

強くなりたい。

そう願う加奈。

きっと強くなれる。まだまだ時間はあるのだから。

そう思う隆道。

 

腕を絡めてきた加奈に隆道は確かな加奈の成長を感じ取ります。

肉体的にも。精神的にも。

「……強くなれるさ、すぐにな」

「え?」

「いや、何でもない」

「???」

 

……そう思っていたんだ。

 

…………………………………………このセリフ…………。

なんかスゴく嫌な予感。

 

病院に着いた2人。

着替えに行った加奈を待っている間、待ち合い椅子に座っていた隆道に強い声が聞こえてきました。

それは仕事や用事でいないはずの両親の声。

幸いにも少し扉の開いていたので、声のする部屋を覗いてみる隆道。

そこにいたのは両親と加奈の担当医でした。

なにやら穏やかでない様子。

普段は温厚な父親が担当医に食ってかかっていて、母親はハンカチを目に当てて泣いていたのです。

さらには部屋の角の方に暗い表情で俯いている美樹さんの姿も。

 

「どうして……今になって……また……」

「私どもも驚いているんです。今までは、全体的に不安定ではありましたが、こんなに唐突に変異が起こるなど……予想外で」

「それを予想するのがおたくらの仕事でしょう」

「うう……うっうっ……うう……」

「この前の検査では、こんな兆候は見られなかった。おそらく先天的なものかも知れません」

「それで……あとどれくらいなんです……」

「……」

「うう……うううっ……」

「先生!」

「……半年」

「っ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

「……お嬢さんの命は、もってあと半年です」

 

 

 

 

 

 

……………………あぅっ……!! (←俺)

 

 

 

 

 

思わず触れてしまった手が扉を開けてしまいましたが……隆道にはどうでもいいことでした。

「隆道君……」

隆道の姿を見て絶句する美樹さん。

「今の話……本当ですか」

「隆道……いたのか……」

そんな父親の声も隆道の耳には入りません。

「先生、今の話……加奈の命があと半年って……本当なんですか」

「……」

「先生!」

胸座を掴んで揺する隆道に本当だ、と医師は告げました。

「どうして……そんなことに……」

力が抜けてしまった隆道に説明する医師。

先天的な遺伝子異常による変化は察知することが難しく、加奈はそうした欠陥を身体にいくつも持っているのだ、と。

何か治療法は、と言う隆道に何も答えることが医師。泣き出す母親。

「美樹さん……」

「隆道君……」

「助けてくださいよ……約束したじゃないですか……」

「……」

「言ったじゃないですか、美樹さんの魔法で加奈を健康にしてくれるって」

気でもふれたのか、と両親が隆道を見つめます。それも無理の無いこと。

「言ったじゃないですかあ!」

今度は美樹さんに掴みかかる隆道。

「うあっ!」

「言ったじゃないですか言ったじゃないですか言ったじゃないですかあ!」

何度も美樹さんを壁に押しつける隆道を父親は後ろから羽交い絞めに。

その父親を跳ね飛ばし、なおも意味不明の言葉をわめき続ける隆道を母親と美樹さんが押さえつけます。

「なんということだ……」

父親は頭を抱えるのでした……。

 

 

やっぱり…………そうなっちゃうんですか?

加奈……死んじゃうんですか?

あんなに……頑張ろうとしてるのに……………………。

 

 

加奈の病状について語る医師は、もう学校に通えるような身体じゃない、と入院しての延命措置を薦めてきます。

それでも何とか学校に通わせて上げたいと願う両親に、それを黙って聞いているだけの隆道。

医師と両親が話をする中、隆道は立ち上がって加奈の病室へと向かいます。

「隆道君」

廊下で美樹さんが話しかけてきました。

「美樹さん……」

「あのことは……まだ加奈ちゃんには……」

「わかってますよ……そんなこと。……ねえ、美樹さん」

「なあに?」

「俺、どんな顔してます、今?」

「……隆道君」

「加奈に会える顔ですかね。黙ってても、顔でばれたら元も子もないし」

「……」

「でもね、おかしいんですよ」

隆道は美樹さんをぼんやりと見つめて言いました。

「こんなにショックなのに、ちっとも涙が出てこないんです。俺、加奈のこと嫌いなんですか?」

「そんなわけないじゃない、あんなに心配していたのに!」

「……」

「……君がそんな調子でどうするのよお。加奈ちゃんの時間、あと半年しかないのに」

「はい……そうですね」

両手でパンパンと顔を叩く隆道。

「少しでも輝けるものにするために……俺が元気でいないと」

そう言って笑顔を作ります。仮面のような笑顔を。

「……じゃ、行きます」

 

「加奈ー」

加奈はベッドで本を読んでいました。帰ってしまったと思っていた、と加奈。

「もう夕方だな。電気つけないと駄目だぞ」

「あ、待って……」

「ん?」

「もうちょっと見ていたいの……夕方」

「そうか……」

 

夕方……黄昏。

……………………加奈の黄昏。

 

「馬鹿!」

「え?」

何を考えてるんだ、とでも思ったのでしょう。自分の頬を叩く隆道。

そんな隆道を怪訝そうに見つめる加奈。

「……いや、何でもない。見てていいよ」

「……うん」

「キレイだな。ここから見る夕日」

「でしょう? わたしも好きなの」

 

黄昏に包まれていく病室。

黄金色ともオレンジ色ともつかない複雑な色に染まった顔で、うっとりと窓の外を見つめる加奈。

 

その瞬間。

不意に『来た』。

 

「ゴメン、すぐ戻る」

「え……?」

病室を出てトイレに駆け込む隆道。

 

「く……うぅ……うわぁぁぁぁぁぁ……」

 

いつまでも。

こんこんと。

止まる気配も見せない涙。

 

俺は……泣いたんだ。

 

か……勘弁してください…………。

 

家族で開かれたパーティー。名目上は加奈と隆道の入学祝い。

でも実質上は加奈のために開かれたパーティーでした。

他愛ない会話。こぼれる笑み。危ういバランスの上に成り立つ団らん。

慎重に当たり障りのない会話を続ける加奈以外の3人です。それは胃が痛くなるほどに。

ほどなくして食事も終わり、ふと父親がこんなことを言い出しました。

「それでは加奈、無事進学したおまえの目標を聞かせてもらおうか」

「……目標?」

「ああ。何をしたいとか、こんな風になりたいとか」

「……」

考えた末に加奈が言った言葉。それは……

 

「……わたし、早く健康になりたい」

 

凍りつく空気。見えないヒビ。

「健康になって、退院して、強くなって……」

「……」

「……」

隆道も父親も何も言う事ができません。何か言えばボロを出してしまいそうで。

「……う」

席を立ち手洗いに向かう母親。

心配する加奈を何とかごまかして父親も母親を追って出て行きました。

加奈と2人で食器を片付ける隆道。

そして何をしようか、と言う時に加奈はちょっと待ってて、と部屋に戻っていきました。

少ししてキッチンに戻ってきた加奈。

「……どう?」

加奈は真新しい双葉学園の制服を着ていました。

「……似合うよ。もう子供扱いできないな」

「ホントに?」

「ああ、ホントだ」

「……ふふ」

スカートの端をつかみ、優雅にお辞儀をしてみせる加奈。

「靴もあるの。おニューのやつ」

そう言って加奈は床に靴を置くと、身体を屈めて靴紐を結び始めました。

屈む加奈のスカートの端が椅子に引っかかって、隆道の目に加奈の下着が。

白い下着。

加奈の下着。

あと半年でいなくなってしまう加奈の、下着。

その中には……。

「……馬鹿」

自分を戒める隆道。そんなうちに加奈は靴を履き終えたようです。

「……ほら」

「うん。ちゃんと女学生に見えるな」

「……ふふ」

「楽しみか、加奈?」

「うん、楽しみ」

そう言って微笑む加奈。

最近の加奈は本当に楽しそうに微笑みます。それが今の隆道には辛い。

でもこれから、この辛さを闘っていかなくてはならないのです。

自分の悲しみを制して、加奈の人生を彩ってやらなければならないのです。

−−−どんなことがあっても。

そう隆道は決意を固めるのでした……。

 

 

………………いや………………もう…………あまり言うことは…………無いんですが……。とりあえず少しだけ……。

 

・あんなスゴい内容の会話を待合室に聞こえるぐらいの声で話し合うなよ……しかもドア開けっ放しで……。

・父…あんなこと聞いたら加奈はああ言うに決まってるだろ……本当に気をつけて会話してたのか……?

・やっぱり『白』ですか……。

 

突っ込みにも力が……。

 

加奈は……もう…………助からないんですか?

 

あうぅ……。

 

以下次回……。


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