2002.2.26 「冬子さん…永遠なれ……」編


貴理と有夏が付き合いだしました。

恭生に対して穏やかならぬ気持ちを抱いている(笑)冬子さんは一体どう出る?

 

【8/14】

おばさんにお客さんだと声をかけられました。恭生だと思って玄関に行ってみると。

「よう」

時間差かよ!? 

そう、やってきたのはあの『殺したい男』だったのです。

でも前回とは違って冬子さんがあまりいい気分ではないようなのでホッとしました。

そして前回同様小学校までやってきた2人。

一応とは言え、男は冬子さんを迎えにきたんだ、と言います。

「何が気に障ったのか判らないけど、俺も、ちょっとは考えるからさ」

う〜ん、今回は少しは話せるヤツになってるみたいです。

「わたし、まだ当分帰らないから!」

そう発作的に叫んだ冬子さんは思います。自分も少し前まではこの男と同じだった、と。

恭生の探し物をする感傷を子供だましだと笑い、集落に出会うものに何の感動も得ない。

そんな男と自分は少し前まで同じだった、と言うのです。

「あのね、わたし、もうあなたと別れる」

「お、おい」

冬子さん曰く、この男は決して根の悪い男ではなく、むしろ男なりに誠意を見せているのだと言います。

いや、腐ってますよコイツは。

−−−……ごめんなさい。

……でも、だからこそ、恭生と比べてしまって我慢がならない。

どうして、こんなに鈍感なんだろうと。

「ごめんなさいね、わざわざ来てくれたのに」

「待てって!」

「でも、もう別れるから、帰って」

そう言うと後ろも見ずに冬子さんは教室から飛び出したのでした。

 

このシーンだけ見ると明らかに冬子さんの方に非があるような感じですね。

 ・わざわざ遠くの田舎まで迎えに来てくれた男。

 ・でも女は帰郷先で気になる年下の男ができていた。

 ・一方的なお別れ宣言。

こりゃ極悪ですよ、冬子さん。

ま、相手があの男だからいっかな。

 

【8/15】

朝。思い出すのは昨夜の夕飯の時のことです。

1人でボロボロと泣いてしまったという冬子さん。

−−−恋じゃないと、最後まで思ってた。

別れの言葉を告げる、その瞬間まで。

身体だけの関係だと思っていたあの男の間柄。決して恋だの愛だのと、そんなものじゃない、と。

でも……

−−−本当は、違ったのかも知れない。

男の部屋で、よく一緒に夕ご飯を食べた。それもテイクアウトのピザや、コンビニの弁当を温めるだけの食事。

デートらしいデートなんてしたことがなった2人は、寝る以外にはそれぐらいしかしたことがなかったのです。

……けど、それでも。

−−−わたしは、楽しかったのかな……

誰かと食べる食事が。一人きりでない食事が。

−−−……ごめんなさい。

冬子さんは思います。

故郷に帰ってきて。恭生達に出会って。変われるかもしれないと思った。

でも。

自分が気づいていなかっただけで。

本当は、そんなきっかけは、いつでも自分の周りにあったのかもしれない、と……。

 

確かにその通りだとは思いますが、それでもあの男はやめた方がいいです。

 

夕方。再びお客がやってきました。恭生です。

どこか様子がおかしい恭生ですが、もちろん原因はわかりきっています。

貴理に振られたばかりの恭生を慰めることが、自分が振ってしまった男への罪滅ぼしになれば、と(なる訳無いんですが)冬子さんは恭生を連れ出します

 

2人がやってきたのは町のシティホテルのバー。恭生の服装になんだかんだとケチをつけらがらも乾杯です。

「恭生の失恋に」

−−−本当は、二つの失恋に、だけどね。

しらじらしく恭生に質問する冬子さんですが、貴理が(有夏と)付き合い始めたことを恭生の口から聞くと、改めて驚いたようです。

貴理に告白できなかった恭生を軽く責める冬子さんですが、内心安心している部分もありました。

恭生がちゃんと貴理に告白していたら、2人は付き合っていただろうから。

そうしたらもう恭生は自分と2人きりで酒なんて飲んでくれなかっただろう、と。

それでも。

なんだかんだ言ったところで冬子さんは恭生の味方なのでした。

 

バーを出た頃には恭生は完全に潰れていました。

ゲロってる恭生をかいがいしく世話する冬子さん。

そして恭生が消え入るような声で呟きました。

 『わたしは、聞こえないフリをした』

 『わたしは、恭生の口元に耳を寄せた』

これは確か恭生が「好きだ…」と呟くシーンですね。さて、どうしましょう……。

冬子さんの気持ちとしては……やっぱり聞こうとするんじゃないですか? っつーか普通そうするでしょ?

と言う訳で後者。

 

すると冬子さんを車のボンネットに押し倒してきた恭生。

これで冬子さんがビンタして……と思いきや。

あれよあれよホテル行き。

結局ヤっちゃった冬子さんと恭生。

結果として恭生はつまらない男になっちゃって、冬子さんは後悔するばかりでした……。

 

〜バッドエンド〜

 

………………あれ?

冬子さんが恭生をビンタするんじゃないの?

 

ってな訳で再スタートです。恭生の呟きは聞こえなかったフリをしましょう。

でもそれでもはっきりと冬子さんの耳には恭生の声が聞こえてきました。

「好きだ……」

……

−−−えっ?

その瞬間、脳裏が真っ白になってしまった冬子さん。

「バ、バカ! なにいってるのよ」

パン!

冬子さんは反射的に恭生の頬を張り飛ばしました。そうか、こっちでこうなるのか……。

−−−そ、そんな……

……

好き、って……

そんな、突然言われても……

「しゃきっとしなさい。そんな、あれくらいで」

−−−バカ……

そんな事。

……酔って、いきなり言うことじゃないでしょ!

「それは貴理のことでしょ」じゃないんですね。

「酔って女に言い寄るなんて、最低よ」

でも、と冬子さんは思います。

もしそれが本当で。いきなりじゃなかったら。

「第一、女の一人や二人に振られたくらいで、誰彼構わずそんな事いっててどうするの」

「と、冬子さん……」

冬子さんの剣幕に驚いたのか、恭生は少し酔いの覚めた目で冬子さんを見つめます。

「好きなら好きで、ちゃんと手順を踏みなさい。バカね、本当に」

そう言いながらもうわずってしまう冬子さんの声。

「……辛いのは判るけど、駄目よ、そんな事に負けちゃ」

ちゃんと手順を踏んで恭生にそんなことを言われたら。

自分がどうするのか、冬子さんには判りません。

「すみません」

「お酒くらいなら、わたしはいくらでもつきあってあげるから」

爺さんも心配してるだろうから、と言う冬子さんの言葉に恭生も頷いて、2人は帰るのでした。

 

っつーか聞こうとしたのと、耳に入ってきたのでどうしてここまで違うんだよ!? おかしくね?

 

【8/16】

行くあても無いのにじっとしていたくない、という理由で集落内を歩く冬子さんですが、どうしても昨夜の恭生の言葉が頭を離れません。

『好きだ……』

あれが隠れた恭生の本心なんだとしたら。そう思わずにはいられない冬子さん。

 

河原で1人、冬子さんが思い出すのはこの集落での恭生との再会のシーンでした。

そしてその後英助爺さんの家にまで行ったりして。

でも貴理のものだと思って何も考えないようにしてきて。

恭生の事を、男として見ないようにしてきた。

でも……

恭生が、貴理に振られたなら……

もう考えてもいいのかもしれない、と冬子さん。

冬子さんの頭の中でウザイぐらいに繰り返される恭生の「好きだ」。

汚れを知らない、恭生達の輝きにずっと目を奪われてきた自分。

その中に自分が入ってもいいのか。恭生達と同じようにやり直せるのか。

−−−わたしは、恭生が好き……

恭生の手が触れるだけでドキドキした。肌が触れ合うだけで気持ちがワクワクした。

わたし……

やっぱり本当に、恭生に恋してるのかもしれない……

 

果たして本当にそうなのでしょうか。

信じたいのはやまやまですが……。

単なる輝きへの憧れ……ではないことを祈ります。

 

【8/17】

朝。予約はこの日までだ、とおばさんに告げられる冬子さん。

この先どうするかをおばさんは聞いてきます。

集落最後の夏。そんな忙しい時期に冬子さんは1人で1部屋借りっぱなしだったのです。

これ以上迷惑はかけられない。そう思いながらも冬子さんは言いました。

「あと、一晩だけ、いいですか?」

それは恭生との関係が未完成なままだから。

−−−恭生との関係が、一段落つけば。

……もし、ちゃんと。つきあうことが出来れば。

もう、この集落にとどまる必要もなくなる。

 

昼間、冬子さんは集落内をゆっくりと、確かめるように歩いて回りました。

−−−恭生に告白するのは、明日でいいよね。

この日は恭生に予定があるそうなんですが……お食事会だっけ?

恭生のことを考えただけでワクワクしてきて、胸の奥が温かくなって、それでいて叫びたいほど不安で。

こんな気持ちが「ちゃんとした恋愛」なのか、と冬子さんは思います。

 

やってきたのは自分が住んでいた家。

憎み続けてきたその場所ですが、本当は悪くない場所だったのかもしれない、と冬子さん。

−−−少なくとも、これからは、悲しい記憶ばかりじゃなくなる。

恭生と再会して。そして……

忘れられない、思い出の場所に変わる……

 

どこまでも前向きになれた冬子さん。嬉しい限りです……が。

恭生とゴールインすることはない、と知ってるだけに辛いです。

だってこれ、表ルートと同じ道をたどるんですよね?

今頃貴理と有夏はヤってるんだろうし。

 

いつもよりも遅めの夕食。

その訳はおばさんが豪勢な料理を作ってくれたからでした。

最後の晩くらい美味しい物を食べていって欲しい、とおばさんは言います。いい人だ……。

そしてその料理は全て集落内で取れるものばかり。おそらくは2度と食べることのできない故郷の味。

今回は活躍していないおばさんだっただけに、冬子さんとしてもあまり好きになれそうにない、と思っていたようです。

それなのにこのおもてなし。

「ありがとうございます」

そう素直にお礼を言うしか出来ない冬子さんでした。

 

【8/18】

おばさんと最後の、でもいつも通りの朝を向かえる冬子さん。

朝食後、荷物をまとめる冬子さんですが、集落に来てから結構服とかを買ったりしたので荷物が車に乗りそうにありません。

部屋の中で荷物を広げて悩んでいるところにおばさんが来客を告げにきました。

恭生かと思って勢い良く階段を降りる冬子さんですが……玄関まで来て内心ため息一つ。

「すみません、お忙しいところ」

客と言うのは貴理でした。

ついつい貴理に対して言葉が厳しくなってしまう冬子さん。

それでも。

本当は貴理と恭生に付き合って欲しかったのかもしれない、と冬子さんはふと思います。

そしてしばらく黙っていた貴理が意を決したように口を開きました。

「恭生を……古積くんを、お願いします」

勢いよく頭を下げながらそう言った貴理。

−−−……貴理、あなたねぇ。

その言葉を聞いた瞬間、冬子さんに怒りが湧き起こってきました。

貴理が自分で恭生にあんな態度をしておいて、と。

「あのね、貴理」

「お願いします!」

貴理はそう言ってもう1度深々と頭を下げました。

「余計なお世話だって、判ってるんですけど」

−−−自分は、有夏といい思いをして。

幸せに浸っておきながら。いい子ぶって。

「……わたしはもう、何一つしてあげられないから」

−−−そんなの、恭生が喜ぶわけないじゃない!

まったくもってその通り。

自分の事よりも、常に貴理の幸せを思っていた恭生。冬子さんはそれを知っているのです。

「先輩にこうしてお願いするしかないんです」

気持ちは判るけど、と言いながら冬子さんは貴理の方をポンポン、を叩きます。

「もうそれは、あなたが口にしていいことじゃないわ」

「でも!」

思わず声を上げながら顔を上げた貴理の顔は……。

「……そう、ですね」

涙をこらえるように唇を噛む貴理を見て冬子さんも少し考えを変えました。仕方ないのかもしれない、と。

貴理には悪気はなく、心から恭生の心配をしていることがその瞳から判ったのです。

「わたしにはもう、その資格はありませんよね」

−−−この子も、変わったのね。

貴理は恋を知って変わったのです。それは恭生との恋じゃないとしても(=有夏との恋)。

「あなたの気持ちは、ちゃんとわかっているわ」

恋の楽しさだけでなく、辛さも知り、そして冬子さんを訪ねてくる勇気も得た。

「だからもう、それ以上は言わなくていいから」

「冬子先輩」

「いいから」

泣き出した貴理を軽く撫でる冬子さん。

「わたしにまかせなさい」

「……古積くんを、よろしくお願いします」

最後にもう一度、深々と頭を下げて貴理は帰っていきました。

 

ええっと……生意気な事言っていいですか?

 

俺、この貴理が嫌いです。

「この貴理」と言うのはつまり「貴理&有夏」の貴理です。

それは別に恭生を振ったからではなく、有夏と付き合ったからでもなく。この冬子さんに恭生のことを頼みに来たことが頭に来るんです。

最初冬子さんも思ったように、貴理にそんな資格はありません。どんなに恭生のことが心配でもそれはやっちゃいけないことなのではないでしょうか。

男のプライド、なんてことは言いません。人間としてのプライドの問題です。

表ルートで貴理に頼まれたことを冬子さんが告白した時もそう思いました。むしろそれを聞いて恭生が不快な気持ちにならないのは本当に不思議だったぐらいです。

そして呼び方を急に『恭生』から『古積くん』に変えるその態度も気に入りません。

貴理なりのケジメなのはわかってますが、それとこれとは話が別です。なんか今までの恭生との関係を全て否定された気分なんですよ。

基本的に貴理は好きなんですが……この貴理はちょっといただけませんね。

以上、愚痴でした。

 

おばさんに挨拶をして宿を出立。

途中で車を停めて恭生に電話をしようとしますが……

−−−逃げ出したい。

十円玉を持つ手が震えてしまう冬子さん。

それでも恭生の『好きだ』の言葉を信じて(ああ…)何とか学校に呼び出すことに成功。

 

夜の学校にて。冬子さんは事務室から毛布を持ってきて恭生との話を始めました。

「聞きたい事があったの」

「な、なんですか?」

冬子さんは恭生の探し物が気になっていたのです。

あれだけ熱心に探していた恭生が、まだそれを気にしているようなら……。

「……思い出の品物を、掘り出したい?」

「は?」

貴理との過去に未練があるなら、自分は告白しないほうがいいのかもしれない。そう冬子さんは思ったのです。

「昔、貴理と一緒にここで埋めた記念の品物を、まだ掘り出したいと思ってるの?」

そしてそれは冬子さんにとっては最後の賭でした。

「それが聞きたくて、ここに呼んだの」

恭生の顔をドキドキしながら見つめる冬子さん。

−−−お願いだから、違うといって。

「いえ」

そんな冬子さんの気持ちも知らずにあっさりと恭生は答えました。

「もう、いいです。探す気はありません」

「いいの?」

随分熱心に探していると聞いたけど、と恭生に問いかける冬子さんですが、この時既に冬子さんの心は舞い上がっていて何が何だか判らない状態です。

「いいんです」

子供の頃埋めたものの役割はもう終わったと思う、と悲しげに笑いながら言う恭生。

−−−……いいのね、本当に。

バクバクバク、と胸を打つ幸福感に意識が狂わんばかりの冬子さん。

「こうして、ここに戻ってきて、最後の夏を過ごして」

−−−よかった……

「僕はそれでもう、充分だと思うので」

冬子さんは本当は疑っていたのです。恭生がまだ未練を持っているのではないか、と。

「あれはそのまま、ダムの底に沈めておきますよ」

「そう」

−−−……大好き、恭生。

だったらいいの、と冬子さん。

「はい?」

「恭生がそう思ってるんだったら、わたしの話は、もう、いいの」

そう言いながらも冬子さんの頬は幸せで緩んでしまってどうしようもありません。

「でも、持ってきたこの毛布、無駄になっちゃったわね」

恥ずかしくなって恭生の顔も見ていられなくなり、そのまま事務室に駆け込もうとした冬子さんの腕を恭生が掴んできました。

「いったいなんだったんですか? いきなり」

「貴理を、許してあげて」

そこで冬子さんの脳裏に浮かんできたのは貴理が冬子さんに恭生のことを懇願してきた時の言葉。

−−−ごめんね、貴理。

「あの子も、きっとたいそう悩んだと思うから」

「……何か、知ってるんですか?」

突然恭生の顔が険しくなりました。ここで貴理の名前がでてくれば当然そうなるでしょう。

「なにも聞いてないわ。でも、判るのよ」

そう言いながら冬子さんは慌てて首を振ります。

「絶対に、あの子なりに、恭生のことを心配しているんだから」

−−−ちゃんと、するから。

あなたに頼まれたとおり。恭生は、大切にするから。

有夏の気持ちは、本物だから。

−−−わたしと恭生を、恨まないで。

ここで冬子さんが貴理に心の中で謝っているのは有夏とのことだったんですね。

つまり自分が有夏をけしかけたせいで貴理は有夏を結ばれて、その結果恭生を別れなくてはいけなくなってしまったことへの謝罪。

「恨まないで、許してあげて」

「馬鹿なんですよ、あいつは」

人の心配なんかしてる場合じゃないのに、と呟くように言う恭生はきっと判っているのでしょう。貴理が冬子さんに何かを言ったことは。

「自分のことはそっちのけで、よけいな気を回す奴だってのは、判ってますよ」

そう言いながらも恭生は顔を歪めます。こみ上げる何かを無理矢理押さえ込むかのように。

「こんな田舎で、後輩の女の子となんて、これからどんなに大変か……」

自分の心配なんてしている場合じゃないのに、と恭生はそっぽを向きながら言います。

「でも、いい子よね」

「……いい奴です」

−−−ちゃんと、気持ちの整理はついてるのね。

そう冬子さんがほっとしたところで。

−−−さあ……

本番は、これからよ……

 

廊下から教室へ。

外は大雨。ムードは満点。舞台も万全。

でも恭生にどう話したらいいのか冬子さんには判りません。いままでこんな風に誰かに向かって告白する、という機会がなかったせいでしょうか。

何とか普通に話をしよう、と冬子さんも必死です。

そして雨音がまるで自分の失恋を祝っているようだ、という恭生に思わず笑いをこぼす冬子さん。

「いいじゃないの、それも」

「そうですかぁ?」

「失恋をではなくて、新しいこれからを祝ってもらってると思えばいいのよ」

壁に背をつけて並んで話す2人。こんな風に普通に話しているだけでも冬子さんは幸せでした。

「そうじゃない?」

「これからなんて、ありますかね」

そう苦笑する恭生。

−−−バカ……

あるに、決まっているじゃないの。

「あるんなら、いいですけど」

「バカ。なにいってるのよ」

−−−それは、わたしと作るの。

もう冬子さんはその気で満点です。でも……。

 

「だって、なんとなくそんな気分にならないんですよ」

 

−−−恭生?

 

「とりあえず今は」

「失恋してすぐに、次が見えてくるようなら、そんなの失恋なんかじゃないわよ」

−−−貴理を忘れて、なんて言わない。

だけど……

ちゃんと、ここに居るわたしも見て。

「でも大丈夫。いずれちゃんと、新たなこれからが始まるから」

「そんなもんですかね」

 

その後はしばらく無言の2人。

−−−恭生……

恭生が自分のことをどう思っているのか。それを訊ねたくなる冬子さんですが、あえて黙っていました。

「次、かぁ……」

ポツリと呟く恭生。

冬子さんだって恭生の『好きだ』の言葉だけにすがってこうしている訳ではありません。

あんな酔っての一言なんて、ただのきっかけにすぎませんでした。

だからこそ、自分からちゃんと言わないと。そう心に誓う冬子さん。でも。

「寒くなってきたわね」

そう言いながら冬子さんは思わず立ち上がっていました。

−−−どうして?

何故か言葉にすることができません。

「毛布、かける?」

今までもっと恥ずかしい言葉も平気で口にしてきたのに。

−−−ただ、好きだと言えないの?

「そうしましょうか」

1枚の毛布をそれぞれの膝にかけ、自然と互いの肩が触れ、寄り添うような体勢になる2人。

何とかきっかけを掴もうと必死の冬子さん。

そして話題が貴理のことになると恭生の態度が変わりました。

「……今日は、そのへんで勘弁してください」

辛そうに顔を伏せる恭生。

「ちょっと今、打たれ弱い状態なんで」

−−−恭生……

「……ごめんなさいね」

そっと恭生ににじり寄り、身体をもたれかけさせる冬子さん。

「いじめるつもりじゃなかったの」

「いいです。判ってます」

弱々しくそう言うと、恭生は首を曲げて冬子さんの方へとよりかかってきました。

「いつもなら平気です。今日だけですから」

−−−わたしなら、いいのよ。

いくらでも、慰めてあげる。

「許してください」

自分に謝る必要なんてない、と冬子さん。

−−−わたしを変えてくれた。

それまで知らなかった、様々な事を気づかせてくれた。

それにくらべてたら。失恋をなぐさめるくらい、なんでもない。

−−−それが、たとえ貴理の身代わりだったとしても、今はいいの。

帰らなくてもいいのか、と話ながらもこのまま抱きしめてしまった方が簡単かもしれない、と思う冬子さん。

ちゃんと言葉で伝えるのがこれほど難しかったことを冬子さんは知らなかったのです。

眠くなってきちゃった、とブラウスのボタンを1つ外す冬子さん。

−−−気づいてくれるかしら。このボタンの意味。

でも今は気づかれない方がいいのかもしれない、と冬子さんは思います。

恭生は身体だけで付き合ってきた今までの男とは違うから。

そうよ。

−−−何もしないで、このまま眠っても……

1枚の毛布で寄り添う2人。

−−−慌てることはない。

……そう、何も慌てなくてもいいんだもの。

抱きしめて、何事もなく眠って。好きだと伝えるのはそれからでも決して遅くない。

そう自分に言い聞かせて冬子さんは眠りに落ちていきました。

 

結局、この日のうちに自分の気持ちを伝えることができなかった冬子さん。

それをなかなか告白する勇気が持てない中学生のように感じてしまうのはいけないのでしょうか?

何かと自分に言い訳を作って、告白するのを先延ばしにして。

でもそれは言い換えると、純粋な恋愛、それも汚れを知らない中学生の初恋のようにも思えるのです。

つまりそれは冬子さんが純粋だった頃に戻れたということ。

 

【8/19】

爽やかな朝。外は今にも夜が明けようとしている頃でした。

台風も通過して、雲1つ無い綺麗な空。

今ならちゃんと恭生に告げることができる、と確信している冬子さんは恭生を屋上へと誘います。

 

「うわぁ」

空は見事な朝焼け。

だから朝焼けってのは雲がある状態なんですってば。

その見事な空に心を奪われる2人は、そのまま夜明けを待つことに。

 

「あのね」

ポツリを呟く冬子さん。昨日、貴理から電話があったの、と。

「恭生を、慰めてあげてください、って」

「……まったく、貴理らしいな」

そう言って恭生は苦笑しました。

「そんなこと、貴理から冬子さんに頼むことじゃないでしょうに」

それからまた無言になる2人。

しばらくすると山頂の脇から太陽が昇ってきました。

 

「もし、恭生さえよければ」

−−−恭生……

意を決して告げる冬子さん。

「わたしが慰めてあげても、いいわよ」

……

「いいですよ、大丈夫です」

あっさりとそう答える恭生。

「この二週間、いろいろとお世話になりましたけど、これ以上は、気持ちだけで」

−−−恭生、あのね……

それは、そう言う意味じゃなくてね。

ちゃんと言わなくちゃ、と口を開きかける冬子さん。

 

−−−好き……

 

「だってそうしなかったら、僕は絶対、冬子さんを本当に好きになるから」

 

……なの……

 

……

 

半開きのまま固まる唇。

 

−−−恭生が、好き……。

 

……

 

「まあ」

冬子さんは呆然と答えます。

−−−こんなことって……

「冬子さんとは、これからもいい関係で居たいんです」

「いい関係、ねぇ」

 

−−−……好き、だって……

言おうと、思っていたけど……

発作的にクスクスと笑い出した冬子さんは、フラフラを前に出て屋上の手すりに腕を乗せます。

まるで恭生からは後ろ姿しか見えないようにするためかのごとく。

 

−−−恭生が、好きだと……ちゃんと伝えたかったのに。

 

 

「最後の夏、ここに来て後悔してる?」

 

ぼんやりと滲む太陽。

 

−−−まったく、ほんとうに……

 

「貴理に振られて」

 

「まさか」

 

恭生はくったくのない声で言いました。

 

「だって、こうして手に入りましたから」

 

−−−バカ……

 

本当にもう、この男は。

 

「一人の女の子との失恋と、そしてもう一つ」

 

一瞬言葉を区切る恭生。息を飲んで次の言葉を待つ冬子さん。

 

 

 

「英輝や、冬子さんや、そして貴理との、友情が」

 

 

 

−−−友達、か。

 

冬子さんは朝焼けに向かって涙を流していました。

 

−−−振られちゃった……

 

……でも

 

たぶん、きっとこれが、わたしの惚れた、恭生の本当の姿よね。

 

クスクス、と笑い出す冬子さん。

 

……きっと、これでよかったのよ。

 

 

 

わたしはその時、はじめて知った。

 

 

 

 

 

−−−何も言わないで、終わる。

 

 

 

 

 

……それがふさわしい恋も、本当にあるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

う……うぅっ……。

こ……これが……冬子さんの本当の気持ちだったのか……。

表ルートでどことなく中途半端に感じた冬子さん編。

しかし。

その真実がここに明らかになりました。

冬子さんの真実の恋が……。

 

 

断言します。

 

「僕夏」の主人公は冬子さんです!!!

 

 

辛い、切ない、冬子さんの『初恋』。

その物語が終わりを告げました。

 

はぁ…………。

 

 

 

と言う訳で冬子さんクリアー!! ぱちぱちぱち。

 

これで終わりでしょ?

だって「恭生&有夏」編なんてやってもこれ以上物語広がりそうにないし。

……と思ったらまだCG埋まってねー!!!

マジですか?

 

とりあえず今日はもうこれで終わり。

以下次回!!


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