2002.2.24 「やったぜ冬子さん!!」編
恭生の埋めた物を探す冬子さん。
果たして見つけることはできるのか!?
【8/17】
筋肉痛と共に起床。
朝の挨拶をしながら食堂に入りますがおばさんの姿はありませんでした。なんでも体調を崩したとのことです。
おばさんがいないため調子が出ないまま朝食。そして部屋へ。
この日で宿は引き払う予定なのですが荷造りもすぐ終わる程度のため、やることがありません。
探し物も筋肉痛のためすぐに始める気にはならないし、前日に思い切り探したためかあんまり見つけたいとも思わなくなっていた冬子さん。
そのままウトウトとしていると英輝からの電話で起こされました。
用件は探し物のことではなく恭生のこと。恭生がいきなり帰ると言い出した、と言うのです。
自分じゃ駄目だったから冬子さんからも引き止めてくれ、と。
そして冬子さんは貴理と恭生がうまくいかなかったことに暗い喜びを感じています。
何だかんだといわゆる『大人の理屈』を言う冬子さんにキレる英輝。
『だったら、わたしが引き留めてもいいわよ』
『わたしが何かいっても、恭生は聞かないと思うわよ』
さてどうしましょう。恭生としては貴理編をたどっているわけだから……冬子さんは恭生に何も言ってませんでしたよね。
いまいち釈然としませんが後者で。
「わたしには無理だけど、有夏ちゃんならできるわ」
これもあんただったんかい!!
『どうして、有夏なら出来るんだ』
「有夏ちゃんは、貴理が好きだからよ」
知ってるでしょう、と冬子さん。
『……ああ、でもどうやって?』
「とりあえず、嘘でもいいから何か理由をつけるのよ。それこそ、探していた品物が見つかったから、とか」
こんなことを言いながらも冬子さんはそれでうまくいく訳がないことを知っています。
有夏には自分から連絡をしておく、と冬子さんが言うと頼むよ、と英輝。
『俺からは、ちょっと話をもちかけづらいか』
「じゃあ、そういう事ね」
昔の自分に戻りたい、と願う冬子さんとしては明らかに矛盾した行動です。
本当に戻る気があるのかどうかも疑わしいぐらいですが、これも冬子さんの一面なんでしょう。
そして有夏に電話して待ち合わせの約束をします。
一通り荷造りをして待ち合わせの場所へ。
貴理が電話で泣いていたことを泣きながら冬子さんに話す有夏。恭生のことをだいっ嫌いだ、と有夏は言います。
そんな有夏に冬子さんは恭生を誘惑することを吹き込みます。
まだ恭生は貴理のことを諦めてないかもしれなくて、そして来年の夏にでもなったらもう2人きりだ、と。
大泣きしていた有夏もその気になって実行に移すべく去っていきました。
冬子さんは一体何がしたいのか……。
夜。
宿を引き払い戸田旅館を出る冬子さん。最後までおばさんは具合が悪いのか顔を見せませんでした。
考えるのは恭生のこと、貴理のこと、英輝のこと、有夏のこと。そして探し物のこと。
どうして探し物をしようなどと考えたのか。
どうしてあの頃に戻れるなどと思ったのか。
もう純粋だったあの頃には戻れるはずもないのに。
つまらない夢を見た、そう思いながら宿を出ました。
バイバイ。
わたしの故郷。
でも宿を出たところで人影が。それは貴理でした。
会いたくなかった、と冬子さん。なぜなら罪悪感が胸に押し寄せてくるから。
貴理は元気もなく、かなり動揺していました。そんな貴理は初めて見る冬子さん。
頼れる先輩役は面倒だったけど、今の貴理の相手をしなかったら貴理はきっと恭生のところに行ってしまう。
そして今の貴理が恭生のところに行ったら2人は……きっと結ばれてしまうでしょう。
今頃有夏は恭生を抱いている頃(逆なのがミソ)だ、と思いながら冬子さんは貴理を車に乗せて走り出しました。
貴理を連れてきたのはホテルのバー。
「貴理の、運命の初恋に」
キン! とグラスを鳴らして乾杯。
もしかしたら、いま、この瞬間にも……
……終わっているかもしれない初恋に。
長々と自分の恋についての相談をする貴理に冬子さんは苛立ちを覚えます。
その苛立ちは貴理や有夏のような恋をしたことすらない自分への苛立ちでもあったのでしょうか。
この場限りの恋じゃいやだ、なんて涙ぐむ貴理を見た時には殺意すら覚る冬子さん。
自分はいつもその場限りで男と寝てきた、と冬子さんは思います。
でも貴理の泣き顔を見ているうちにこみ上げた怒りは次第に消えていきました。
……そうよね。
この子は、なにも悪くない。
恭生の悪口を言いながらもどこか幸せそうな貴理。
そんな貴理を見て冬子さんは自分に問いかけます。後悔していないか、と。
目の前の少女の幸せを奪ったのは自分。
有夏に恭生をけしかけて。今頃はもう全てが終わっている。
それも全て自分のやったこと。
そして貴理もそれを知ったらすぐに他の男の身体に流れていく。
だったら心の準備はさせてやろう、と恭生は自分がもらう、と冬子さんは言い出しました。
その言葉に激しく反応する貴理。
そんな様子を冬子さんに笑われてしまい、貴理は視線を落とします。
−−−なんて……
なんて表情をするのだろう。この子は。
発作的に立ち上がる冬子さん。
……していない。
わたしは、後悔なんかしていない。
そう呪文のように心の中で呟きます。
手を挙げてバーテンダーを呼ぶと、身体を動かしたせいか不意に涙がこぼれそうになった冬子さんは何とかそれをこらえます。
−−−泣いたりしたら駄目。
涙をこらえた代わりに、背筋からスーッと身体が冷えていく冬子さん。
冬子さんを震えるほどの悪寒が包みます。
貴理を立ち上がらせようとする冬子さん。
わたし……
−−−わたし、悲しいの?
そして冬子さんは気付きました。自分の心に。
−−−わたしがこの子たちの仲を邪魔しても。
それでも……
本当は、この子達が幸せになるとわたしは思っていた?
「へ、部屋とったんですか?」
そんな冬子さんも心に気付くはずもない貴理はフラフラと冬子さんに近寄ってきます。
……ごめんなさい。
−−−ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
「こんなに飲んで、帰れるわけないでしょ」
自分はもしかしたら取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない、と凍えるような想像が冬子さんの心を掴みます。
だったらせめて貴理の次の人の時の為に。
「ちゃんと出来るように、わたしが教えてあげるから」
この時の会話の裏にはこんな思惑があったのか。
冬子さんは本当の自分の気持ちに気付いた……かな?
次の人の時、とは言えそれは結局恭生との間で役に立った訳ですから結果オーライってことですね。
それにしても冬子さんはもう本当に探し物を諦めちゃったのかな……。
【8/18】
二日酔いの頭を抑えながら雑貨屋の前でコーヒーを飲む冬子さん。
昨夜の貴理とのことを思い出して1人で笑ったりしています。
でも。
−−−昨夜は有夏はどうしただろう。
そう考えた瞬間、鈍く冬子さんの心が痛みました。
昨夜の貴理の様子。酔いの力も借りて、可愛いほどに真剣だった貴理。
−−−でも、もう遅いのよね。
有夏が、昨夜恭生を抱いていれば。
もしそうだったとしてもそれは貴理が本当に大人になるきっかけになる。
けれど……とそこまで考えたところで冬子さんは頭を振ります。
−−−もう、今更考えても仕方ないわ。
ここから先はもう自分の知ったことではない。
「帰ろう」
そう言って帰ろうとした時。
「冬子先輩!」
穏やかな表情で有夏は昨夜あったことを冬子さんに話します。
恭生に抱かれようとしたこと。でも恭生は自分を抱こうとはしなかったこと。
それを聞いて冬子さんは心底驚きます。
自分の出る幕はなかった、と穏やかに笑う有夏に対して冬子さんは無意識のうちに頭を下げていました。
自分の助言は全て間違っていた、という冬子さんに有夏は本当に感謝している、と深々と頭を下げて言いました。
「先輩に助言していただいて、肩を押してもらったから、ここまでこれたんです」
−−−違うの。
「これまでのあたしあだったら、つらいこととか、嫌なことからずっと逃げてばかりでした」
わたしは、そんなつもりで言ったんじゃないの。
「貴理先輩と古積さんの関係から、ただ目をつぶって避けるだけでした」
ぼーっとしながら有夏の言葉を聞く冬子さん。
「先輩に、自分の気持ちに正直になりなさいって教えられて。傷つかないように自分を守るあけじゃなくて、時には勇気をもって行動しなきゃいけない、って知らされて」
わたしはあなたを使って、貴理と恭生を傷つけたかっただけなの。本当に、それだけだったの。
「恥ずかしかったし、つらかったけど、でも古積さんの気持ちがわかって、貴理先輩が好きになるだけの人なんだって理解することができたのは、全部先輩のおかげなんです」
そう言って有夏はもう一度頭を下げました。
「本当に、ありがとうございました」
「……わたしにお礼なんか言わなくていいのよ」
冬子さんの声を掻き消すようにバスがやってきて有夏は去っていきました。
もう帰る、と言う冬子さんにまたぜひ遊びに来てくれ、と言い残して。
車のエンジンをかけても帰る気にならない冬子さん。
先ほどの有夏のセリフが思い出されます。自分は逃げていただけなのか、と。
自分は貴理や恭生に自分を似たような苦しみを味あわせたくて有夏を焚きつけたつもりだった。
でも。
−−−それでも、あの子は間違えなかった。
可愛いだけの子だと思っていた有夏が。それは思い違いだった。
−−−恭生もそう、か。
いつでもたらしこめそうな男に見えた恭生。男なんて生き物はみんなそうだと思っていた。だけど……。
みんな……
−−−みんな、知ったようなフリをして。
貴理も有夏も、恭生まで。
だれも、本当には知らないくせに。
一度も、抱いたことも抱かれたこともないくせに!
ふと空を見上げると今にも荒れそうな空模様です。たしかこの日は台風の来る日。
帰ろうと思っていた冬子さんですがちょうど今は工事現場が通れない時間帯。
寝不足で長距離ドライブも不安なのでどこかで一眠りさせてもらおうか、と考えた冬子さんの脳裏に浮かんだのは旅館のおばさんの顔でした。
挨拶もしてこなかったし、と言い訳も思いつき旅館へと冬子さんは車を走らせます。
「あらまあ」
冬子さんの姿を見て、どうしたの? と訊ねてきたおばさん。
突然の再会にしどろもどろになってしまい眠らせてほしい、と頼むどころではなくなってしまいました。
そんな冬子さんを見てクスッと笑ったかと思うと、冬子さんを食堂に招くおばさん。
他には誰もいない食堂で2人きり、焼きそばとビール。
酔ったのか、おばさんは冬子さんのことを色々と聞いてきました。
言い淀みながら冬子さんはおばさんのことをただの話好きのおばさんだった、と決め付けます。
が、そうではありませんでした。
「だって、小川さん、何か話したそうな顔、してるから」
「えっ?」
おばさんに言われて冬子さんは気付きました。自分は誰かに話を聞いて欲しいのかもしれない、と。
無理に話さなくてもいい、というおばさん。
「……嬉しいです」
その言葉を口にした瞬間、自分でも訳のわからない涙がこぼれてきました。
今までは誰も冬子さんの話なんか聞いてくれる人はいなかったのです。
とめどなく流れる涙。
甘えるのが下手だと言われて思わず叫び返してしまう冬子さん。
甘えられるような家庭では無かった。不倫ばかりの父親とそれを認めようとはしなかった母親。
それでもおばさんは優しく笑いながら言います。
「それでも、あなたは甘えてもよかったのよ」
自分についての噂も知ってますよね、と冬子さんはおばさんに言います。
フリーであれば誰とでもすぐに男と女の関係になってきた自分。もう汚れてしまった自分。ずっと昔に汚れてしまっている自分。
「わたし、もう本当は、誰かに甘えてもいいような女じゃないんです」
涙ながらにそう語る冬子さんにおばさんのビンタが炸裂。
「なにいってるの」
取り返しのつかない汚れなんてある訳がない、とおばさんは言います。
語られるおばさんの過去。離婚を繰り返して、子供の産めない身体になって。もう全てを失ったと思っていた。
「でも、そんな事は全然無かったのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ」
「……失ったものは、取り戻せるんですか?」
「はじめから、なくしてなんていないの。ただ、若い頃は焦って、忘れているだけなのよ」
きっかけさえあればすぐに思い出せる、とおばさんは力強く言います。
「きっかけ、ですか」
「そう。そしてそのきっかけなんて、簡単に訪れるの」
握っていた冬子さんの手を離しておばさんは最後に言いました。
「あなたはもう、本当はそれに気づいているんでしょう」
おばさんによって、有夏達によって気づかされたこと。
失ったものは取り戻せる。
必要なものは小さなきっかけ。
となれば冬子さんの為すべきことはただ一つ。
まず冬子さんが訪れたのは自分が住んでいた家。
もう荒れ果てたその家には冬子さんの求めるきっかけはありません。
二度と訪れることはないであろうその家を出た頃から雨が強く降ってきました。台風です。
1人、小学校の駐車場に立つ冬子さん。雨はますます強くなってきました。
「駄目」
このままでは台風による大雨で校庭も駐車場もドロドロになってしまうでしょう。
そうしたらもう2度と見つけられなくなってしまうかもしれません。
「それ駄目」
見つけたい。そう冬子さんは心に決め、スコップを手に地面を掘り始めました。
掘ったそばから泥のようになっていく土を調べながらひたすら作業は続きます。
既にあたりは真っ暗。時間の感覚さえありません。それでも全身泥だらけになりながら作業を続けていると懐中電灯らしき明かりが冬子さんを照らしました。
「……本当に、居るかなぁ」
「消して!」
そう声をかけると懐中電灯の明かりは消されました。やってきた人物。それはもちろん英輝。
「あんた、正気か?」
「もちろんよ」
冬子さんに話があって宿に行ったら出かけていると聞き、ここにやってきた、と英輝。
「貸せよ。話は、掘りながらだって出来るだろ」
「えっ?」
手伝ってくれるの? と驚きながら訊ねる冬子さん。
「その情けない格好を見たら、ほっとけないだろ」
「嬉しい」
漢・英輝が土を掘り、冬子さんが手探りで土の中を調べる。
そんな作業を続けながら冬子さんは英輝に訊かれるままに自分の過去を語ります。
浮気・不倫ばかりしていた父親。それにより虐められ続けた子供時代。
「だから、わたしは弱くて、苛められていたから、年頃になったらすぐに襲われたの!」
それを聞き、呆然と立ち尽くす英輝。
「判った? わたしが、ここが嫌いな本当の理由が」
誰も頼ることができなかった。親も、教師も。
どうして、と叫び続ける英輝は泣いているかもしれない。そう冬子さんは思います。
「友人は! 俺や貴理だって、もう知り合いだったろ!」
「……あなた達に言う、か」
ひょっとするとそれが正解だったのかもしれない、と冬子さん。
「そうしたら、英輝はわたしを守ってくれた?」
硬直する英輝。
「わたしは、何度も、幾人にも襲われたの」
だから自分を守ってくれそうな男を見つけてた身体の関係になってきた。そうすれば少なくとも1人の男とだけ寝れば済むから。
「あ、俺は……」
「あの頃、英輝には、その力があった?」
「……だからって、他に何かなかったのかよ!」
大声を上げて冬子さんを激しいまなざしで見つめる英輝。
「俺には無理だったよ、だけどな!」
「別に、英輝を責めてる訳じゃないのよ」
そいつらに今からでも、と言う英輝に冬子さんは言います。復讐とか報復とかよりもしたいことがある、と。
「どうして、探すのか。、って聞いていたでしょ?」
「……何か、関係があるのか?」
「取り戻したいの。そうなる前のわたしを」
何かに負けたままここを離れるのは嫌だ、と冬子さん。
「逃げるように、都会へ出て、嫌な記憶がダムの底に沈んでホッとして笑みを浮かべなければ生きていけない、そんな弱い自分にはもううんざりなの」
「それが」
強いまなざして冬子さんを見る英輝。
「あんたが恭生の生めた何かを探す、理由なのか」
「取り戻したい」
震えながら両拳を握り締めながら冬子さんは言います。
「あんな屑な男たちに奪われたものを、取り戻すきっかけにしたいの。その、何かを」
−−−見つけられたら、取り戻せたら。
あの男たちのしたことなんて、わたしにはなんの意味もなくなる。
もし見つかったら自分の身体を好きにしていい、と言われた英輝は冬子さんを突き飛ばします。
俺はあんたが嫌いだ、と英輝。
「そんな俺が、あんたを抱くかよ!」
「無理しなくてもいいのよ」
「俺は、あんたが人間として嫌いなんだよ!」
叫ぶ英輝。
「だから、女の身体ってだけでひょこひょこ節操なく手が出せるかよ!」
−−−あーあ、この子もか。
有夏に手を出さなかった恭生。そしてこの英輝。
据え膳食わぬは武士の恥って言葉、知らないのかしら。
そう考えながらも笑い出したいほどに気分がよかった冬子さん。
−−−可愛い子たち、本当に。
再び激しい勢いでスコップを振るい始める英輝。
関係無いですが今頃恭生と貴理はヤってる頃ですね。
そして唐突に。
ガシャン!
シャベルに何かが当たった音。
−−−今の!
「おい!」
既に東の空が明るくなり始める頃でした。
手でをそれを掘り起こす冬子さん。それは空き缶。
「ただの缶か?」
「ううん」
カラカラカラ……
振ると何かが入っている音がする缶。これに間違いありませんでした。
校舎の中に入り服を絞って、改めて空き缶を水道で洗います。それは桃の缶詰のようでした。
「中身はなんなんだ」
「案外、たいしたこのじゃないんじゃない?」
所詮子供の宝物。そう言いながら冬子さんが缶の切り口を開けると……
…
……
「あいつら、何考えてんだ?」
さも呆れたように呟く英輝。
「さぁ?」
肩をすくめる冬子さん。
−−−まったく、ほんとにもう。
「わたし、あの子たちのようになりたい、ってさっきまで思ってたけど」
こんなものが。
「純な子たちの心って、わたし、やっぱりわからないかもしれないわ」
さび付いた空き缶に入っていたもの。それは……
浅黄色をして、小さなビー玉でした。
「きっと、そのへんの石で割ったんだ」
「経験ありそうね」
「そりゃ、俺があいつに教えたんだからな」
小さなビー玉。それはラムネの瓶の中に入っているガラス玉。
それを缶の中から取り出し、手のひらの上で転がす冬子さん。それはやけに素朴で、だからこそ美しくて。
いつしか2人はビー玉が転がる様を眺めながら笑い出していました。
「まったくもう」
「俺のせいじゃないって」
「わたしの貞操まで捧げたのに」
「誰もそんなもん奪ってないだろ!」
そう言いながらさらに笑う2人。
そうか……ビー玉だったんですね、恭生の探し物は。
「僕夏」のタイトルにある玉っころ。あれがこのビー玉だったんです。全然気づかなかった。
エンディングにも出てきていたのに。lightさんもなかなか大胆なことしますね。こんなキーアイテムを堂々と。
恭生達にビー玉は返した方がいいのか、と言い出した冬子さん。
−−−手元には、なくてもいい。
わたしは、もう平気だから。
「この泥の中で、見つかったんだぜ」
笑ったまま英輝はお互いの姿を指差しました。2人とも本当にひどい格好です。
「あの二人じゃなくて、あんたに見つけてほしかったんだよ、そいつは」
「それで、いいのかしら」
「いいんだって」
そう言いながら大きく手を振ると、英輝は帰る、と言い出しました。
「どうして?」
驚いて訊ねる冬子さん。
「だって、もう用事は済んだろ」
流石にもう眠い、と言う英輝。
「……手伝ってくれて、本当にありがとう」
冬子さんは深々とお辞儀をしながら言います。
「とても助かりました。感謝します」
「いいって」
照れくさそうに手を振る英輝。
「じゃ、この事は、恭生たちには言わないでおくから」
そう言ってあっさり出て行こうとする英輝を、冬子さんは呼び止めて訊ねました。
「最初に、わたしを探していた用事って、何だったの?」
そうだ、と言って振り向いて英輝は言いました。
「倉林、なぐさめてくれてありがとう」
「はぁ?」
「ずいぶん感謝してたから。冬子先輩に、よくしてもらった、って」
「……なんで、それをあんたが感謝するのよ」
「ま、それは聞かないって事で」
照れくさそうに、英輝は呟きます。
「これも、内緒にしておいてくれな」
「あんたも、いいかげんちゃんとしなさい」
「それはおいおいで。とにかく」
皮肉げに呟く英輝。
「あいつの借りは、これでかわりに返したってことで」
「損な性分ね」
「俺じゃ、あの子の力にはなれないからさ」
そう辛そうに笑って去っていった英輝でした……。
冬子さん、フォロー無しですか?
いや、きっと英輝なら有夏の力になれますよ。これだけの漢なんですから。
外は台風一過。見事な青空が広がっていました。
そして峰々の間からのぼる朝日。
−−−きれいね。
ずぶぬれのまま宿を目指す冬子さん。身体は徹夜の作業で疲れきっていました。
でも。
同時に例えようもなく幸福でもありました。
本当に見つけられるなんて、と手の中のビー玉を握り締めます。
そして道路の向こうには2人の子供が。
こんな朝から何をやっているのかはわかりませんが、楽しそうに水溜りで遊んでいる和典と恵です。
2人は冬子さんに気づいて駆け寄ってきました。
「どうしたの、お姉ちゃん!」
「ズブ濡れじゃん!」
驚く2人の頭を軽く叩く冬子さん。
「平気?」
「平気よ」
心配そうに自分を見つめてくる恵を見ながら冬子さんは1つのことを思いつきます。
「ねぇ、和典君、恵ちゃん」
「なに?」
「プレゼント」
2人に1つずつ手渡されたのは冬子さんが握り締めていたビー玉。
2人はキョトンとした顔でその小さなビー玉を見つめています。
「じゃあね、これからも、仲良くやりなさい」
そう言って手を振りながら2人から立ち去る冬子さん。
「バイバイ!」
「またな!」
小さな手を振りながらいつまでも冬子さんを見送る2人。
1人きりになり、道路の真ん中で空を見上げる冬子さん。
真っ青に晴れ渡る空。
でも髪をなぶる風はもう冷たく。
−−−もう、夏も終わりね。
故郷で過ごす、最後の夏。
二度と、過ごせない場所での夏。
……
−−−いろいろと、あったわね。
クスッと含み笑いを漏らす冬子さん。
恭生と貴理と、英輝と有夏に出会い。
恋や愛を知って……
−−−随分、遠回りしてしまった。
……でも。
でも、まだ間に合うかもしれない。
−−−もう一度、取り戻せるかもしれない。
次第に日差しの強くなる朝日を見上げながら。
もしかしたら、わたしも。
あのビー玉のような、あのころの、素直な心が。
と言う訳で冬子さんクリアー!! ぱちぱちぱち。
恭生の探し物を見つけることができた冬子さん。見つけたのは英輝の力のような気がしないでもありませんが、冬子さんが居たからこそ見つけることができた、というのに変わりはありません。
取り戻せるかもしれない。そう冬子さんは思っていますが、そう思う時点でもう取り戻しているのではないでしょうか。
辛い過去。辛い思い出。
冬子さんはそれを乗り越えて、純粋な自分を取り戻せたんだと信じております。
今回は「恭生&貴理」ルートを冬子さんの視点で見てみたわけですが、冬子さん……かなり黒幕ってたんですね?
冬子さんのたくらみ(?)がもし本当にうまくいっていたとしたら、その時冬子さんは激しくそのことを後悔したんではないでしょうか。
貴理と酒を飲んでいたシーンでも言っていましたが、本当は冬子さんも恭生と貴理にうまくいってほしかったのは間違いないのですから。
そして特筆すべきは英輝です。
恭生でやっていたときに後半姿を見せる回数がめっきり減ったと思っていたら冬子さんと一緒にいたんですね。
それもまさかまさかの大活躍です。漢・英輝の見せ所でした。
そして旅館のおばさんもかなりいい味出してました。最後に冬子さんの背中を押してくれたのは彼女です。
優しいだけじゃなく、秘めたる強い意志と母性愛を感じました。
さらに和典と恵。
本人達は何も意識していなかったでしょうが、その幼い故の純粋さが冬子さんの支えになっていたことも間違いありません。
2人には今後もまっすぐに育っていって欲しいものです。
恭生と貴理に関しては……まぁ自分のことで精一杯だった、ってことで。
さてさて。
これで冬子さんも完全クリアかな……と思ってCGを見てみたらまだスカスカです。
まだあるんですか?
今回の冬子さん編に別バージョンがある、ってことでしょうか。
そう思ってもう一度最初からやってみようとしたら……
『「僕と、僕らの夏」表・ルート』
『「僕と、僕らの夏」裏・ルート』
と出てきました。
恭生が表、冬子さんが裏。そう言うことなんですね。なるほど。
それでは次は裏ルート、つまり冬子さん編をもう1度やってみることにします。
以下次回!!