2002.2.22 「切ない…切な過ぎるぜ……」編


冬子さん編第2弾。

 

【8/4】

特に予定も無い冬子さんは町へと繰り出すことに。

一通り見て回った後は自分の通っていた学校へと向かいました。そこで何となく感傷にひたる冬子さん。

そこに1人の男子生徒、英輝が通りかかりました。

「ねえ、そこの子」

これから帰るところなら乗っていかないか、と手招きしながら英輝を招き寄せます。

「小川さん?」

怪訝そうな顔で近づいてくる英輝。

「そうよ。あなた、集落の子でしょ。ええと……」

「英輝。原英輝」

つっけんどんな口調で英輝は自己紹介。

「噂には聞いてましたよ。帰ってきてるって」

「恭生から? それとも貴理から?」

「どっちからでもいいでしょ」

にこやかに話しかける冬子さんですが、英輝はそっけない態度でそのまま歩き去ろうとします。

「じゃ、そういうことで」

「待ちなさいよ、ちょっと」

「ナンパなら、間に合ってるんで」

歩き出す英輝に並んでオープンカーを並走させる冬子さん。

「なによ、その態度は」

乗っていけ、と冬子さんは誘うのですが英輝は取り付く島もありません。

「スクーターで来てるから。それに」

英輝は冬子さんを見ようともせずに話します。

「そういう気分でもないんでね」

「そういう気分って、どういう意味かしら」

「あんたのナビシートに乗る気分じゃない、ってこと」

ナンパするなら別の相手を捜してくれ、と英輝。

「あんたみたいな子供、ナンパしたって仕方ないわよ」

車を歩道に乗り上げて英輝の前に出る冬子さん。

「何か、いいたい事があるんなら言ったら?」

英輝の通り道を塞いで冬子さんは英輝に質問を。

「ただ、乗ってきたバイクがあるから、っていうだけなら他にもいいようがあるでしょ」

「別に、他意はありませんよ」

冬子さんの気迫に蹴落とされたのか愛想笑いを浮かべる英輝。弱いな、お前……。

「ただ、本当にそういう気分じゃないってだけで」

「バイクが気になるなら、明日の朝も送ってあげるわよ」

「明日からは予備校なんで、それに」

英輝は肩をすくめて言いました。

「あんたたちほど、気楽な立場じゃないんでね」

「なによ、それ」

「小川さん、出ていったの、もう何年も前だから、知らないでしょ」

嘲るように笑う英輝。お前冬子さんにも事情があること知ってたんじゃないのかよ。

車はダムの工事現場を通れる時間は決まってる、と英輝は言います。スクーターは制限なしらしいんですが。

そして集落への道は工事現場の真ん中を通っていました。

「ただ遊びに来た人たちは、ダムの前で少しぐらい時間をつぶしてもいいでしょうけど、俺は違うんでね」

「遊びに来た訳じゃないわ」

「どうだか」

怒りのこもった目で冬子さんを睨みつける英輝。

「もう何年も前に出ていったくせに。今更、こんなところに来てどうする気だか」

「遊びに来ちゃいけないっていうの?」

「俺は、あんたたちみたいに、さっさと村を見捨てて出ていって、昔の感傷の為だけに戻ってくるようなヤツは嫌いでね」

英輝はそう吐き捨てるように言うと、車を避けるように歩きだしました。

「あんたたちは、昔を思い出して、それで幸せなんだろうけど」

冬子さんは何も言い返すことができません。

−−−感傷から戻ってきたのは確かだけど。

「こっちは、まだ現実なんだ。ダムが出来て、自分の住む家がなくなって、居場所がなくなるっていうのがね」

車の横を通り抜け、振り向きもしない英輝。

「それがすでに昔の思い出になってるあんたたちを見ていると、イライラするんだよ。あんたたちが悪いわけじゃないっていうのは、判ってるけどな」

でもわたしは、思い出を懐かしむためだけに来ている訳じゃない。

そんな冬子さんの思いに気付くことも無く、英輝はそのまま去っていってしまいました。

 

英輝大人気無い。

恭生には偉そうに言ってたくせに冬子さん本人を前にするとコレかよ。事情はあるんだろうけどそれにしたって……ねぇ?

 

夜。旅館の部屋で一人、ビールを飲む冬子さん。

何一ついい思い出のないこの集落。見捨てたと言うより逃げ出した集落。家に帰るのがただただ辛かった日々。

−−−あの頃を思い出したいわけないじゃない!

辛かった日々の痕跡がダムに沈むのを確認しに来た、という冬子さん。

「こんなところ、早くダムに沈んでしまえばいいのよ」

とっくに壊れていたにも関わらず、幸せな家庭を演じていた集落での生活。

昔を思い出してそれで幸せ。そんな英輝のセリフを思い出してクスクスと笑う冬子さん。

幸せに、育ったのね。

おねえさんはね、こんなところに、幸せな思い出なんか一つもないの。

ダムに沈んでくれて、とっても嬉しいのよ。

誰にも言えないそんな想いを噛み締めながら、冬子さんは一人ビールを飲むのでした……。

 

壊れてる……壊れてるよ、冬子さん。

あなたにこんなドス黒いものが渦巻いていたなんて。

果たして、冬子さんの想いを晴らしてくれるのは……誰?

 

【8/5】

知った顔にでも会って声をかけられたらたまらない、と急いで朝食をとる冬子さん。

車に乗ったものの行く宛などなかったのですが、ふと思い立って恭生のところへ。

爺さんに昼食に誘われましたが……

 『わたしは、とっさに断ろうとした』

 『わたしは、その言葉に甘えさせてもらった』

恭生でプレイしてる時はどうだったかな……?

特に変わった風もなく一緒に食事をしてたと思うけど。と言う訳で後者。

変わってない様に見えた英助爺さんも、どこか変わっていました。

そして食事の後は恭生を貴理の学校へと誘います。

それは先日意地悪をしてしまった貴理へのささやかな罪滅ぼしのつもりでもありました。

恭生が自分とのツーショットで現れることが貴理には逆効果かもしれない、とは思いつつ。

案の定貴理はやってきた2人を見て不機嫌になりますがそんな貴理の気持ちも冬子さんにはお見通し。

勉強云々と恭生を責める貴理の見え見えの嫉妬と牽制。それに必死に言い訳する恭生。

どちらも冬子さんから見れば可愛いだけの様子。

貴理の練習中、有夏の片付け等を手伝う冬子さんですが……なんで有夏は声無しなの?

初対面ながら有夏の言動から、有夏の貴理への気持ちを見抜く冬子さん。流石です。

有夏の気持ちを知って、さらに応援する冬子さん。自分は戸田旅館に泊まっているからいつでも相談に来なさい、とまで言います。

その言葉の真意は『嫉妬』。幸せな恋をしている恭生と貴理に対する嫉妬です。

壊したい。

あの二人の関係を、壊してやりたい。

そのために有夏を。

でも有夏は自分のことなので自分で頑張ってみます、と答えるだけでした。

しっかし、自分でも言ってましたが冬子さん、ドス黒いですね……。

 

「おかえり、お姉さん」

恭生を送ってから旅館の部屋に戻るとそこに居たのは恵でした。

「えっ?」

「遅いじゃんか」

ついでに和典も。

寝っころがっていた2人は冬子さんの姿を見ると抱きついてきました。

「な、なんで?」

冬子さんに会いに来た、と2人は言います。母親にここに居るんじゃないか、と聞き、さらには旅館のおばさんにこの部屋で待ってるように言われて。

おばさんは、他にも冬子さんと同じぐらいの歳の女性はいるだろうに、何故冬子さんだとわかったのか。不思議な人です。

「昼過ぎから、ずっと待ってたんだからな」

「はいはい、お姉さんが悪かったわ」

2人が自分を慕って来てくれたことをどこか嬉く思う冬子さん。

冬子さんは苦笑しつつも3人で遊びに行くことにしました。

 

3人で歩く道。それが自分で1人で歩いた時とは違って見える冬子さん。それは和典と恵がいるからなのか。

日が傾きかけていた頃、2人が着いたのは冬子さんが住んでいた家でした。

そこが自分の住んでいた家であることを説明しながら冬子さんは先立って家の中へと足を進めます。

「お姉さん、ここに居たの?」

「そうよ。わたしが、まだ恵ちゃんや、有夏姉さんくらいの歳だった頃にね」

部屋を見渡しつつ、ここで暮らしていたの、と冬子さん。

「へー」

恵に抱きつかれたまま、1つだけ閉じていたドアを開けます。そこは小さな子供部屋。

「……お姉さんの部屋だったの?」

ガラスというガラスがが割られている家の中でも、裏側にあったその部屋は窓ガラスが割られていることもなく、昔の面影がそっくりそのまま残っていました。

「ええ、そうよ」

部屋を見回しながら当時を思う冬子さん。

父親にも、母親にも何も言わずにただ1人で泣いていた。

今となっては何が悲しかったのかも思い出せない。

「悲しいの?」

「えっ?」

唐突にそう訊かれて、冬子さんは思わず硬直してしまいます。

「昔住んでいた家が、こんなになっていたら当然だろ」

「ご、ごめんなさい」

「い、いやねぇ」

自分に抱きつきながら謝る恵の頭を撫でる冬子さん。

「恵ちゃんは、別になんにも悪くないわよ」

別に悲しい訳でもないし、と言いながらメッと叱るように和典を見つめますが、和典は悪びれたそぶりも見せず、ただ困ったように顔をしかめて視線を逸らすのみ。

「……ハンカチ、持ってないんだ。ゴメン」

「なに?」

−−−えっ?

和典の言葉の意味がわからない冬子さん。

「お姉さん、泣いてるの?」

たどたどしい手つきで恵は冬子さんの顔を自分の胸に押し当てようとします。

−−−そんな……

その瞬間、ようやく自分が泣いていることに気付きました。

−−−バ、バカ……

動揺のあまり硬直している冬子さんの手を握る恵と、頭を撫でてくる和典。

−−−なによ、もう、この子たちってば……

涙を振り払いながら立ち上がる冬子さん。

−−−よけい泣けてくるような事、するんだから……

 

荒れ果てた家の中で唯一、当時のまま残っていた自分の部屋。

そこで思い出されるのは悲しみの記憶だけ。

何も感じないはずの冬子さんだったのですが、一体その胸に去来したものは何だったのか。ううっ……。

 

【8/6】

朝。何故和典達が探していたのが自分だと判ったのかを訊ねるとおばさんは言いました。

あの子たち、いっていたわよ、と。

「とっても美人で優しいお姉さんは泊まっていませんか、って」

冬子さんは赤面するばかり。

そして風呂場で選択。

選択が終わるまでボーっとしている間に浮かんでくるのは前日のこと。

何故自分は泣いてしまったのか。それが悲しみだと気付いたのは2人を送った後のこと。

では自分は何が悲しかったのか。それは到底答えの出ることではありませんでした。

 

おばさんと2人で昼食の素麺を食べる冬子さん。

その後2人でお茶を飲んでいる時におばさんが尋ねてきました。

「久しぶりに戻ってきて、楽しんでらっしゃる?」

「はい?」

「小川さんが、ここに戻ってらしたのは数年ぶりよね。ここも、随分変わったでしょ」

「ええ、まあ」

今まで自分がここの出身であることは話したことが無かったため、つい知られていないような気分になっていた冬子さん。

一方的に気まずい思いをしながら冬子さんは昼食を切り上げ、オープンカーで宿を離れます。

向かうは恭生のところ。

 

冬子さんと恭生はダムの建設現場へと向かいます。貴理の父親・章の案内で見学する2人。

その後旅館まで戻ってきても落ち込んでいる恭生を見て、何故か冬子さんの心も騒ぎます。

自分はダムが出来るのを喜んでいるはずなのに。

ひたすら落ち込む恭生に発作的にキスをする冬子さん。

−−−なにしてるの、わたしは?

恭生が、あんまり素直に悲しそうな顔をしているから?

たぶん、わたしたちには、あんな顔は出来ない。思い出とか、しがらみが多すぎて。

だからキスしたのかもしれない、と訳のわからん理由で自分を納得させる冬子さんでした。

 

【8/7】

朝食を食べて自分の部屋へ。さて何をしよう……と悩む必要はありませんでした。

「姉ちゃん!」

部屋には既に和典と恵が。

この2人に疑問を感じる以上に、旅館に対して疑問が湧いてくる冬子さん(笑)。

今日はどうしたのか、と訊ねる冬子さんに満面の笑みで遊びに来た、と答える2人。うわ〜、恵かわいいなぁ、おい。

川で泳ごう、と言い出す和典。

「それナイス! ……っていいたいところだけど、残念ながらペケ」

指で和典にバツを作ってみせる冬子さん。

「だってお姉さん、水着もってきてないもの」

「平気だって、そんなの別に」

「平気なわけないでしょ、このナイスバディを惜しみもなく晒すなんて」

「……ないす?」

「……ばでー?」

言葉の意味がわからないのか、遠回しにからかわれているのか。

……なかなか、判断に困るわね。お子様、侮りがたし。

ぶわはははは。

 

そしてこの日はドライブをすることに。

オープンカーに乗れる、ということで2人は大喜びです。

「おー、すっげー」

運転席などで飛んだり跳ねたり大騒ぎ。

「あれ? イスが二つしかないよ、この車」

「そういう車なのよ、これは」

「……お姉さん、ビンボーなの?」

「あ、あのね、別にお金がないからイスが二つしかないわけじゃないのよ。これはね……」

必死でこれは高い車なんだと(実際はそれほどでもない)説明する冬子さん。

「お姉ちゃん、ダマされちゃったの!?」

「案外だらしねーのな、姉ちゃんって」

「ダマされてもいないの!」

「でもオレん家のはもっと座れるぜ。二人した座れないのに高いなんて、そんなの変じゃん」

したり顔で語る和典と、懸命にうなづく恵。もう冬子さんの説明もどこか投げやりに。

「……ほら、これオープンカーだし」

「あ、そっか! オープンカーだもんなっ」

「高いに決まってるよね!」

突然2人の目に輝きが戻り、ようやく判ってくれたのか、と安堵したのもつかの間。

「そっかぁ、屋根がないんだもんね」

「屋根の分も安いんだよ、きっと!」

……もう、わたし何にも言わない……

ぶわははははは。オモロイぜ、この2人。そして可愛いぜ恵。

 

和典と恵は縦に並んで助手席に。車が動き出したらそりゃもう大喜び。

有夏たちが探し物をしているという学校に行ってみたい、と言う和典の意見で車は学校へと向かいました。

昼間なので恭生達の姿はなく、掘り返した後の柔らかくなった土の上で飛び跳ねる和典達。

冬子さんも一緒になってやってみましたが、その足は深く土に埋まってしまいました。

ここに来てから運動不足の上に三食きっちりの規則正しい生活の結果です。

……帰ったら、ダイエットしないと……

「おっ、スゲー。こんなに足がめりこんでる」

「わたしも、もっと深いのつける!」

……子供って、残酷よね……

ぶわははははははは。

いや、マジでオモロイですよ、この3人の組み合わせ。

でも、秋で学校がなくなっちゃう、と寂しげに話す恵をただ抱きしめるしかできなかった冬子さんは……切なかったです。

 

【8/8】

朝食を食べると冬子さんは車に乗って町に向かいました。

当初長く逗留するつもりのなかった冬子さんは生活用品が足りなくなったのでしょうか。

でも何故自分がもう少し集落にとどまろうとしているのかは……わからないのでした。

 

町へ向かう途中、ダムの所では交通規制が始まっていたため足止めを食らってしまいました。

規制が終わるまでの30分間、想うのは集落で過ごした日々のこと。

集落に居た頃から女遊びをしていた父親。それに気付いていなかった母親。

でもそれは村の中では公然の秘密。

それをネタに周りから虐められた小さい頃。

いい思い出なんか一つもなかった。

それなのに。

どうして、こんなに、妙に心が残るのだろう。

規制が終わり、車を発信させながらもう一度ダムを見上げる冬子さん。

……ひょっとして。

わたしは、悲しんでいるの?

 

町で買い物と食事を済ませたところで声をかけられました。

「おい、あんた」

それは英輝でした。

「こんなところで、何してるんだよ」

「見て判らない?」

店を指差して冬子さんは言います。

「それとも原くんは、ここでデートでもするのかな?」

「そんなこと誰もいってないだろ」

不満そうな声を隠そうともしない英輝。

「……そう言えば、あんたもうちの学校のOGだったな」

まあね、と冬子さん。

ん? ってことは貴理と英輝って学校違うの?

確か貴理と冬子さんは学校が違うって言ってたから。

「そっちはどうしたの? 予備校、いってるんじゃなかったっけ?」

「今日は部活」

「ふーん、何部?」

「サッカー部」

「へぇ、少しは根性入ってるじゃない」

「いちおう、レギュラーなんだぜ」

英輝はちょっと自慢げ。

「えらいえらい」

夏場は朝練が主体で、昼間は学祭の準備で終わり、と英輝を冬子さんはお茶に誘います。

「おごってあげるわよ」

「……少しだけならな」

ダメもとで言った言葉だったのですが、英輝は以外にもそう答えました。

と言っても道端で缶コーヒーを飲むだけだったのですが。当然英輝はブツブツ文句言ってます。

話題が有夏のことになりかけた時、英輝は露骨に話題を変えてきました。

この間のことを謝ってきたのです。八つ当たりだった、と。

集落を出て行く決断をしたのは両親で、冬子さん自身が出て行きたかった訳じゃないんだろ、と英輝は言います。

出て行きたかったわよ、と内心では冬子さん。

何故急に態度を変えたのか不審がる冬子さんですがその理由は明白でした。

「……夏休みが終わったら、引っ越さなきゃならなくなっちまった」

両親が立退き料に目がくらんで町に一軒屋を買ってしまい、盆には荷物をまとめないといけない、と英輝は悔しそうに言います。

「結局、あいつと穴掘ってたのが、最後の思い出になっちまうな」

それも悪くねーけどな、と言う英輝に冬子さんは恭生達には言ったのかを訊ねます。

いえねーよ、と英輝。

「新しい家、結構遠いんだ。スクーターがあるから、学校にはなんとか通えるけど」

「なら余計、言ったほうがいいわよ」

「どんな顔して、言えってんだよ」

「いいじゃないの、そんなの」

「これまでずっと、出ていく人間を馬鹿にしてきたんだぜ!」

「気にする必要ないわよ。誰だって、もうすぐ出て行かなきゃならないんだから」

親は自分が何を言っても聞いてくれない、と英輝は悔しそうに言います。

だから親の都合で出て行った冬子さんのことを悪く言ったのをすまないと思ったらしいのです。

恭生達に言わないで居るほうが俺らしいだろ、と英輝。

「女が猫かぶって生きる生き物なら、男は見栄はって生きる生き物なんだよ」

おお名言!! 使わせてもらいます。

さっきの話は恭生達に内緒にしておいて、と言い残して英輝は去っていきました。

それにしても、英輝が裏でこんなことになっていたなんて気付きませんでしたね。

 

夜、一人でワインを飲む冬子さん。

恭生や貴理達のことを考えているときにふと頭に浮かんできた映像がありました。

それはまだここに住んでいた、ずっと夏休み。

夕暮れ時の校庭で。

確かに、何かを埋める子供たちを、わたしは見たような気がする……

 

【8/9】

この日から2日間はお祭りです。

冬子さんはおばさんが自分のことを集落の出身者だと知っていることを知ってから、おばさんを避けていました。

でもおばさんはそんな冬子さんに親しげに話しかけてきます。

しかも自分の浴衣を着てお祭りに行ってみないか、と。

戸惑う冬子さんを勢いで押し切るおばさん。

昼過ぎに部屋にやってきたおばさんは嬉々として冬子さんの浴衣を選びます。

ラインの出ない下着を……と言う話になりますがあいにくそんな下着は持っていない冬子さん。

結局下着はつけないで浴衣を着ることに。

ショーツもつけないで、それもミニのタイトスカートで外に出るプレイは何度かした事があったから大丈夫、と心の中で思いつつ。

冬子さん、あんたスゲェよ。

「沢山沢山、楽しんでいらしてね」

古めかしくも可憐な巾着を冬子さんに渡しながらおばさんは言いました。

「最後のお祭りを」

 

祭りに向かう途中でたまたま出あった貴理と一緒に祭りの会場へ。

楽しくやる5人ですが冬子さんは恭生と貴理を2人きりにしてやろうと有夏の気を引いたりと気を利かせてやろうとします。

が、そんな気も知らないで楽しそうにやっている2人を見てバカバカしくなり有夏をけしかけたり。

裏工作激しすぎです。恐るべき人間模様。ま、それでも楽しそうなのでOK。

そのうち和典と恵も合流しますが、人数が増えたせいか冬子さんと恵はみんなとはぐれてしまいました。

恭生と貴理の姿を見つけますが声はかけない冬子さん。

−−−うまくやりなさい。二人とも。

純な2人に嫉妬していない訳ではないけど、それでも応援してあげる冬子さんです。

抱きつくようについてくる恵を見て、こういうのも悪くないかな、と冬子さん。

すっかり穏やかな気持ちになっているようです。

冬子さんも集落来てから約10日。

だいぶ柔らかくなってきたようですね。

 

【8/10】

おばさんにお客さんですよ、と言われて恭生達か、それともあの子達か、と想像しながら玄関へ。

ですがそこにいたのは予想外の人物でした。

「よお」

「……どうして?」

「ご挨拶だな」

はるばるこんなど田舎まで来てやったっていうのに、と言うその男は冬子さんの男の1人。

顔を見て2秒で敵意を抱いて、セリフを聞いて即殺意が湧きましたね。

強引に部屋まで上がろうと玄関から上がってこようとするその男。

 『ちょ、ちょっと待って』

 『何しに来たのよ』

何をしに来たのかは気になりますがとにかくこんな男をおばさんの戸田旅館に上げるわけにはいきません。当然前者。

浴衣を着てくるから車で待ってて、と言って冬子さんは一旦部屋に戻ります。

男の身勝手な態度に腹を立てながらも、同時に嬉しくもある冬子さん。

−−−わざわざ、来てくれたなんて。

情など何もない、肉体だけの関係だと思っていたのに。

喜んじゃだめよ、所詮男なんだし、と自分に言い聞かせながらも沸き立つ心を抑えることはできません。

でもどう考えてもあの男が冬子さんのためになるとは思えないんですが……。

 

男の車に乗り込み、熱心に集落の説明をする冬子さん。当然男はろくに聞いちゃいないみたいでしたが。

やってきたのは恭生達が探し物を……もうこの時点じゃ『していた』か……小学校。

そして男の「案外おしゃべりなんだな」と言う言葉。

身体だけの付き合いであるこの男、いや、付き合っている全ての男とは会話などする必要がなかったのです。

それなのに何故今はこんなにも熱心に話しかけているのか。

どうしちゃったの、わたし。

どうして、こんなに変わっちゃったの?

少し気まずい雰囲気のまま2人は教室に入ります。

「へぇ、結構雰囲気のある教室だな」

板張りの床と壁ってのがかっこいいよな、何て明るく話しかけてきた男にホッとする冬子さん。

「机も椅子も、全部木なのよ」

よくあるよな、と男。

「アイドルの写真集とかでさ」

いきなり雰囲気を変えて冬子さんに襲い掛かってきた男。

下着を着けていない冬子さんにさらに燃えたのか拒絶する冬子さんの言葉には一切耳を貸そうとしません。

それでも必死に抵抗する冬子さん。ここでだけはやめて、と。

「好きなこといくらでもしてあげるから、ここでだけは」

そう懇願する冬子さんの言葉を聞いて突然男の態度が一変しました。

「あげるじゃねーだろ、あげるじゃ!」

「い、いやぁ!」

必死でもがき逃げようとする冬子さん。

一瞬の隙をついて校舎から飛び出しました。

そのまま物陰から男が車に乗って去っていくのを見送ると、その場にへたり込んでしまう冬子さん。

バカ。

せっかく、はじめて……

はじめて、会うのが楽しくなったのに。

冬子さんは目尻の涙を拭います。

……どうして、こうなっちゃうのよ。

教室に下駄を置いてきてしまったことに気付きながらも、さっきのことを考えると戻る気にもなれず。

物陰でしばらく嘔吐し続ける冬子さんでした……。

 

てめーは死ね!!!!

頼むから死んでくれ!!

 

裸足のまま旅館へと帰る冬子さん。

足には血が滲み、浴衣は汚れてしまい、心の中でおばさんに謝りながら。

風呂に入り、夕飯も取らずに布団の丸くなってウィスキーを飲みます。

まるで子供の頃、布団の中で丸くなってぬいぐるみを抱きしめていた時のように。

……今はもう、なんにも考えたくない。

そしていつしか涙が流れていました。

思い出されるのは昼間のこと。

遊びに来てくれたと思ったのに。会いに来てくれたと思って喜んだのに。

−−−馬鹿ね、冬子。

決まってるじゃないの。……だって。

だってわたしは、ずっとそんなつきあいしか、男としてこなかった。

身体だけのつきあいしかしたくなくと、思い続けて。

楽しみのためだけに、男と寝て。

 

−−−本当に楽しかったの?

楽しくて、男と寝ていたの?

 

それはもう一人の自分の声。

……そんな訳、ない……

だって、何も楽しくなかった。男と寝たって、何一つ、全然楽しくなかった。

 

−−−でも、仕方がないの。

なぜなら。

 

わたしは汚れているもの。

 

 

と……冬子さん……ううっ……。

じ、次回へ……。


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