2002.2.20 「……よかったね」編


有夏に迫られて完全に拒否することができなかった貴理。

果たしてどうなるのか……。

そして恭生と冬子さんは?

 

【8/10】

朝。

昨夜の有夏とのことを思い悩む貴理は朝食を食べるとすぐに外へ。向かっているのは英助爺さんの家、つまりは恭生のところです。

なのに恭生は留守。それも朝から冬子さんとお出かけです。爺さん余計なこと言うなって。

どこに行ったかはわからないけど徒歩だったらしいのでそう遠くはないはず。

 『河原へ行く』

 『学校へ行く』

 『雑貨屋へ行く』

さてどこでしょう。雑貨屋はまず消えるとして……。

まさか冬子さんと探し物? いや、でも恭生が冬子さんと探し物をするとは思えないし……。

と言う訳で河原へ行ってみましょう。

…………いませんでした。

 『学校へ行く』

 『雑貨屋へ行く』

セカンドチャンス到来。んじゃ学校へ。

もしかしたら恭生と何かを埋めたのは冬子さんなのかも、と言う自分の想像を否定する貴理。

結局学校にもいませんでした。見つけることはできませんでしたが恭生と埋めたのは冬子さんじゃなかった、と貴理は安心します。

何故かこれ以上探そうとしない貴理は恭生に会いたくて胸が締め付けられるような思いです。

そして夕方。

展望台までやってきた貴理ですがそこにも恭生と冬子さんの姿はありません。

もし今日恭生に会えたら言うつもりだった、と貴理。

昨夜の有夏は震えていました。勇気を振り絞っていたのでしょう。同じように貴理も勇気を出そうとしていたのです。

でも会うことはできませんでした。

「恭生……」

 

この日は祭りの本番。行けば会えるかもしれない。でも貴理は祭りに行く気にはありませんでした。

一日中探して歩いて気が済んでしまった、と貴理は思います。

それで萎えてしまう今の気持ちは恋じゃないのかもしれない、と。

そして有夏はいい子だし……っておい!!

実は昔から貴理も有夏の気持ちには気付いていたらしいです。

ちゃんと考えても、悪くはないのかもしれない。

マジですか……。

 

【8/11】

いつも通り一緒にバスに乗る貴理と有夏。

有夏はよくしゃべりますがどこかぎこちない空気が流れます。当たり前ですが。

ふと訪れた沈黙。そして。

「あの、先輩」

「な、なに?」

「ごめんなさい!」

そう言って激しい勢いで頭を下げる有夏。

「あの、その、この前の事です」

「えっと、その」

「あんな事、いきなりしちゃったのは酔ってたからですけど、でも、言い訳はしません。だってあたし、酔わなくてもいつか先輩とああしたいと、ずっと思っていたんです。だから、嫌われちゃっても仕方ないと思ってるけど、でもやっぱり強引だったのは悪かったかなって思って」

ここはバスの中なんですが。

有夏の肩を掴んでその身体を起こさせる貴理。

「ちょ、ちょっと待って」

「先輩の気持ちも確かめないで、あんな事をして。それもだから……」

「そんなに、いっぺんに言わないで」

「……ゴメンナサイ」

そう言って有夏は涙を浮かべます。

「許してください」

−−−まいったなぁ……

どう見ても演技に見えない有夏の態度。

「許すとか、許さないとかいう問題でもないでしょ」

でも今有夏を許したら、それは貴理が有夏の気持ちを受け入れたことになってしまいます。

 『そ、その……嫌じゃ、なかったから』

 『怒ってるわけじゃないから、気にしないで』

「許すも許さないも、許すわけないでしょ」とかだったら面白かったんだけどなぁ、なんて思いつつ。さてどうしましょう。

ここで許してしまったら2人は結ばれるでしょう。間違いなく。

それはそれで嫌なんですが……それはそれでやっぱりアリかな、と。

でもここは……。

う〜ん……。

 ・

 ・

 ・

 ・

ここは…とりあえず……気にしないで、ってことにしておきましょう。

ひょっとしたら今度ここからロードしてやり直す時がくるかも知れない、と覚えておきます。

 

「怒ってるわけじゃないから、気にしないで」

「でもあたし、先輩に謝らなければいけないこと、本当は他にもあるんです」

恭生について、と有夏。

「えっ?」

恭生に何かしたのか、と貴理。すっかり有夏は『しでかし屋』扱い。

「恭生さんが来て、先輩が、なんだかとても楽しそうなのが悔しくて」

俯いてしまう有夏。

「先輩、ずっと恭生さんの事ばかり気にしてるから、だから、あたしその……」

「だから?」

「恭生さんが、先輩にその気にならないようにしようって思って、それで」

そ、それで?

「あたしが、恭生さんの気を引いてしまえば、少なくとも先輩を恭生さんに取られることはないかな、って」

何だそんなことか。ビックリした。そんなことはもう知ってるって。

貴理をとられたくなかった、と有夏。

−−−有夏、あなたねぇ……

「馬鹿、ですよね」

「……それで、実際に何かしたの?」

恐る恐る貴理が訊ねると。

「……いえ、なんとか二人きりになって迫ろうとしたんですけど、なかなかその機会がなくて」

ホッとする貴理。

自分はどうなってもいいと思ってた、と言う有夏にそんな事しちゃ駄目だ、と貴理は言います。

本当に好きでもない人に迫ったりしちゃダメ、と。それで貴理に迫ってきたんですけどね……。

「有夏みたいに可愛い子に迫られたら、男なんてみんなその気になっちゃうわよ」

もっと自分を大切にね、と貴理。

「……あの、先輩もですか?」

「なにが?」

「……先輩には、本当に好きで、耐えられなくなって、迫ったんです」

やっぱりこうなるか……。

「だから、あれは本気だったんです」

−−−本当に、本気なの?

「でも、その、男でなくでも、迫られたら、それだけでその気になりますか?」

「あ、有夏、あのね」

「いいんです!」

突然そう叫んでそっぽを向く有夏。

「ごめんなさい。答えないでください」

−−−やっぱり、本気なのね……

「あたし、今は怖くて聞けません……」

とにかく有夏の気持ちはわかった、と言う貴理に有夏は忘れてください、と言います。

「二人の秘密とか、そういうのは忘れて欲しいです。そんな言葉や秘密で、先輩を縛りたくないし。そんな理由であたしを見て欲しかったんじゃないです」

「……うん。じゃあそうする」

「でも」

最後にもう一言。

「好きだ、っていう気持ちは本当ですから」

 

有夏の秘密って言ったってそれは「貴理を攻めてて濡れちゃった」ってだけなんですけどね……。

 

部活です。

調子がいい貴理を見て有夏が今日はどうするか聞いてきました。

 『もし用事があるのなら、有夏は先に帰っていいわよ』

 『もうちょっと、つき合ってくれる?』

今回は帰ってもらいましょう。そう言ったところで有夏が帰る訳ないのですが。

「いえ、残ります」

ほら。

 

帰りのバスには乗客は2人だけでした。無言のままの2人。

隣の有夏を身ながら貴理が思い出すのは祭りの晩のことです。

−−−けっして、イヤじゃなかった……

相手が有夏だったから拒まなかった、と貴理は思います。

小さい時からずっと一緒だった有夏。でも自分が恭生を選んだら有夏は離れていってしまう。

「そんなの、イヤ……」

思わず呟いてしまう貴理。

恭生も有夏も比べられるものじゃない。でも選ばなくてはならないのか。

悩む貴理に有夏が話しかけてきました。

「……やっぱり、まだ許してもらえませんか?」

細い泣きそうな声で。

「当たり前ですよね、いきなり、あんな事して」

許してもらおうなんてそんな……、と膝の上で両手を握りめる有夏。

その細い指先を見た瞬間、貴理の気持ちは決まってしまいました。

−−−わたしは、有夏と一緒に居たい。

これからも、ずっと変わらずに。

結局、こうなっちゃうんですか……。

「……有夏」

違うの、と貴理は震える声で言います。

「えっ?」

「そうじゃないの」

そして。

「これからも、ずっと一緒に居ましょう」

「先輩!」

激しく貴理に抱きついてきた有夏。

「だから……」

「先輩先輩先輩!」

貴理はその細くて柔らかい身体を抱きしめます。

「先輩……」

「……バカ、なに泣いてるのよ」

「だって……」

貴理の胸に頬を摺り寄せる有夏。

「先輩だって、泣いてるじゃないですか……」

 

何度も言いますがバスの中です。

他に乗客がいないからって運転手はいるんですよ。当然運転手だってこの辺の人でしょ?

あっと言う間に噂になっちゃうと思う……。

それにしても結局こうなっちゃうんですか。なんとかんとも……。

 

【8/12】

久々の恭生。一応主人公。

勉強を終えた後、バス停でひたすら貴理を待ち続けます。

早いバスには乗っていなかったのでそのまま夕方近くまで遅いバスを待ち続ける恭生。

そして貴理と有夏が帰ってきました。有夏は貴理の右腕に掴まってます。

「どうしたの?」

久しぶり、と恭生。

「貴理たちを待ってたに決まってるだろ」

「そうなんだ」

どこかよそよそしい貴理。隣の有夏は嬉しそうに笑ってます。

そうなんだよ……もう遅いんだよ恭生……。

「なにかあったの?」

「……ちょっと、いくつか話があってね」

ちょっと時間いいかな、と恭生が言うと、いいに決まってるじゃない、と貴理。

どこか妙な貴理の態度に恭生に嫌な気分が広がります。

「なあに、話って?」

「いや、それは」

わずかに言い淀む恭生に苦笑しながら有夏を見る貴理。

有夏は心得たように貴理から手を離します。

「ちょっと、待っててくれる?」

「はい、先輩」

にっこり笑って恭生を見る有夏。

「どうしたの?」

恭生は貴理と有夏のただならぬ雰囲気に思わず問いかけずにいられません。

っつーかなんかムカムカしてきた……やっぱヤダよ、コレ。

「なんだか、ご機嫌みたいだけど」

「あはっ、やっぱり判ります?」

頬を赤く染めて、ちょっといい事があったんです、と有夏は答えます。

「へー、なになに?」

「……実は」

ちらっと貴理を見る有夏。まさか言っちゃうのか!?

 

「貴理先輩が、あたしと正式につきあってくれる事になったんです!」

 

言っちゃったよ、おい…………。

−−−なんだって?

貴理が、

有夏と?

−−−それって……

「ねっ!」

そう言って再び貴理の手を握る有夏に、黙って笑ったまま有夏を見下ろす貴理。

−−−つまり、それって……

 

うわ……なんか本気で気分が悪い…………。

俺ってレ○物だめなんだっけ?

何かホント勘弁してくれって感じ……。

でも恭生のブルーさ加減はこんなもんじゃなくて。

何せ貴理の告白しようと思っていた矢先にこれですから……自殺モンですよ、マジで。

 

川にかかる橋の上で黄昏る恭生。

あの後恭生は探し物は諦めたことだけを伝えて別れてきました。

おめでとう、とちゃんと祝福して。

『いろいろと言う人は居るかもしれないけど、……悪くないんじゃないか』

恭生は決心していたのです。祭りの後に冬子さんに言われて。

そして自分の心に気付いて、伝えようとして……これですよ。

「ハハッ」

思わず自嘲。

夕焼けに染まる美しい川。美しい故郷。

でも恭生にとって本当の故郷は、何をしても守りたい故郷は、本当は貴理だったのです。

探していたものは昔埋めた品物ではなく、それは貴理。

−−−その貴理が望むんだから。

僕に出来ることは。

もう、一つしか残ってないよな……

 

はぁ……恭生撃沈。

まだ英輝にでも貴理を盗られた方がマシだったよなぁ。

これで恭生がすることって何でしょう?

俺としては英輝とやけ酒でもかっくらって大泣きして、それで奮起して大学でもどこでも入って、バァーっと立ち直って欲しいところなんですが。

 

【8/13】

勉強が全く進まない恭生。頭に浮かんでくるのはあの2人のことばかり。

気分転換に……と来たのは何故来たのか自分でもわからない場所。小学校の校庭。

あの4人で笑いあった日々は今となっては胸を刺す痛みを伴う思い出。

教室に入り小さな机と椅子に驚く恭生。

いつもそう。いつも過ぎてから、失ってから気付く。

幼い頃の貴理との思い出。お互いに気持ちに気付かないまま、それでも気持ちが通い合ってた日々。

そんな日々も、最後の夏も、全て指からこぼれ落ちようとしています。

「……ちくしょう……」

溢れる悔しさ。それは一粒の涙に……。

 

【8/14】

ラブラブの貴理と有夏。

よかったね。

 

【8/15】

外は変な空模様。

台風が来るかもしれない、と英助爺さんは言います。

それを聞いた恭生にもう帰ろうかな、ということが浮かんできます。気持ちは判るぜ……。

爺さんが昼食の最中に貴理と何かあったのか、と聞いてきました。

思わず食べていたうどんを吹き出しそうになる恭生。

その話は勘弁して、と恭生は英助爺さんに言います。気持ちは判るぜ……。

そして爺さんは貴理の父親・章を今度夕飯にでも呼ぼうかと思う、と恭生に告げます。

そのこと自体には賛成しますが自分も同席することは勘弁願う恭生。気持ちは判るぜ……。

 

午後の勉強を終えて、爺さんに夕飯はいらない、と言い残して恭生が向かったのは戸田旅館。

そう。冬子さんが宿泊している旅館です。

っつーかやっと? って感じですね。

「恭生? 珍しいお客さんね」

「ご無沙汰しててスミマセン」

何も変わらない冬子さんにホッとする恭生。

「相変わらず、お美しい」

「なに下手なおべんちゃらいってるのよ」

普段ならムカツキそうな恭生のセリフですが、今は許してあげます。気持ちは判るぜ……ってもういいか。

恭生の顔を見て何か話があることを見抜いた冬子さんは恭生を連れ出しました。

どこに向かったかと言うと……貴理とも来ていたホテルのバーです。

 

恭生の服装にブツブツ文句を言う冬子さん。

何に乾杯するのかと思えば……。

「恭生の失恋に」

「……まいったな」

冬子さんは全てお見通し。貴理とラブラブだったら自分のところになんか来ない、と。

恭生は冬子さんに言っていたようです。貴理に告白する、と。

事情を聞く冬子さん。告白する前に貴理が他の子と付き合いだした、と聞くとかなり驚いた様子。

「他の子とラブラブしてる貴理に、いきなり好きだとは言えないでしょ」

「それは、そうは思わないけどね」

しかも相手は女の子ですからね……。流石にそこまで恭生は言わないみたいですけど。

「でも、貴理に恋人がねぇ……」

「横から余計な事いって、つきあい始めたばかりの貴理を混乱させたくないし、邪魔したいとか、そんなつもりはないし」

どこか言い訳じみた恭生の言葉。

「なにいってるの。好きなら邪魔して奪い取るくらいの気概でなきゃ」

「そんな」

「恭生も、そのくらいの気持ちでいると思ってたけど」

そう言ってグラスをあける冬子さん。

「だってあの時は、本当に恭生、貴理が好きなんだなって、わたしにも判るくらいだったから」

本当に大切な時には誰かに遠慮なんかしちゃ駄目、と言う冬子さんの声は優しくて、そして真剣で。

「あとで、絶対に後悔するから」

「で、でも僕は」

……

「やっぱり、僕には……」

それきり無言になってしまう恭生。

「……でもまぁ、それはそれで一つの選択か」

2人はグラスにさらに酒をついでもらいます。

「きっと恭生なりに何度も考えたんでしょうし、脇から他人がどうこう言う問題じゃないわね」

さっきの言葉は気にしないで、と冬子さん。

「……考えた、わけじゃないですけど」

身体が勝手に動いた、と恭生は言います、あの時はそんな事を考える余裕なんてなかったし。

「それを恭生が後悔していないなら、それはそれでいいと思うの」

そして改めて乾杯。

「ねっ?」

「僕の失恋にですか?」

恭生に寄り添うにもたれかかって、グラスをキン! と鳴らす冬子さん。

「それとも、貴理の幸せを祈って?」

「どちらも違うわ」

一気に酒を飲み干した恭生に冬子さんは言いました。

「恋を知って、少しだけ大人になった、あなたの夏に」

 

潰れてしまった恭生。

冬子さんの車の脇で完全に潰れてます。

冬子さんが背中をさすってくれたりハンカチをくれたりしますが頭に浮かんでくるのは貴理のことばかり。

貴理に何か言う事があった。貴理に言わないと。ただそれだけ。

−−−貴理。

……僕はなぁ。

本当はちゃんと言いたかった。

「平気? もうすこし、休んでからいく?」

「あの……」

「なあに?」

「好きだ……」

貴理……

恭生が貴理だと思って抱きついたのは当然……。

「バ、バカ! なにいってるのよ」

パン!

景気のいい音を立てて冬子さんのビンタ炸裂。

「しゃきっとしなさい。そんな、あれくらいで」

−−−あ、あれ、僕は……

「酔って女に言い寄るなんて、最低よ」

いや別に冬子さんに言い寄った訳じゃないんですが。

恭生もやや意識がはっきりしてきた様子。

「第一、女の一人や二人に振られたくらいで、誰彼構わずそんな事いっててどうするの」

「と、冬子さん……」

「好きなら好きで、ちゃんと手順を踏みなさい。バカね、本当に」

少し上擦ったような冬子さんの声。

冬子さんは恭生を軽く抱きかかえて頭を撫でます。

「……辛いのは判るけど、駄目よ、そんな事に負けちゃ」

「すみません」

「お酒くらいなら、わたしはいくらでもつきあってあげるから」

きっと英助爺さんも心配してる、と言う冬子さんに同意して恭生は車に乗せられるのでした。

 

俺としてはてっきりこのままホテルで……って展開だと思ったんだけどなぁ。

それに恭生が好きだ、と酔って言っただけで妙に焦っていた冬子さんも気になります。

 

【8/16】

恭生二日酔い。しかも昨夜の記憶がありません。

冬子さんに変なことしゃべってないよな、と不安で一杯です。

午後になって1人で勉強していた恭生ですが客がやってきました。

誰かと思ったら……貴理です。

プレイヤーには何も教えてくれてませんでしたけど、市村親子が来るのはこの日だったようです。

貴理達が来るのは夕方だと思っていた恭生。だから今まで家に居たのです。

「おじさまが、午後にはいらっしゃいって」

きっと英助爺さんは貴理と恭生の間に何かがあったことを察知し、仲直り(?)でもするお膳立てをしてくれたのでしょう。でも……。

−−−爺さん……

気持ちは、嬉しいけど。

……もう、今更だよ。

家に上がって待ってれば、と何とか冷静に言った恭生ですが、貴理は妙に遠慮します。

やはり貴理も気にしているのでしょうか。

それでも結局恭生の屋根裏部屋へ。

最初はぎこくなく話していた2人ですが何とか自然に話せてきていたところで……話題は有夏とのことに。

テレながらも幸せそうな貴理。ああ……貴理……。

多少は気を遣ってくる貴理ですが恭生は自分を殺して2人を応援します。

今回の「せつない大賞」はお前だよ恭生……。

「僕も、貴理のこと、ずっと嫌いじゃなかったんだぜ」

最後に一言だけ、貴理に告げます。

「でも有夏ちゃんと楽しく過ごしているならよかったよ」

 

恭生は展望台にいました。

爺さんが帰ってくると同時に家を出てきたのです。

あれ以上貴理と一緒に居て、みっともない姿を晒さないでいられる自信がなかったから。

最後に自分の気持ちを伝えることができました。

貴理もそれでしばらくこわばった顔をしていたらしいので、きっと恭生の気持ちは伝わったのでしょう。

貴理と有夏の間に波紋を投げかけやしなかったか、と多少は心配になる恭生。

でも自分に決着をつけるためにも必要なことだったのです。

初恋の終わらせ方としては悪くない。

そう自分に言い聞かせる恭生です。

そしてふと後ろで足音が。

「恭生」

「えっ?」

「よう、久しぶりだな」

それは英輝でした。ホント久しぶりです。

英輝は全てを知っているようでした。腹を殴ってきたりと、英輝なりの励まし方。

そして失恋したのは英輝も同じこと。

飯を奢る、と英輝。

「ありがたく思うんだな」

「バカヤロー、誰が貴様なんぞに!」

「まぁ、いいから来いって」

「いっとくけど、僕は別に、貴理にふられたわけじゃないからな」

「はいはい、ただ有夏に先を越されただけだよな」

「……ってな……」

思わず言葉が詰まる恭生。

「……言い返せないなら、喧嘩売るなよ、お前本当に」

哀れむように声をひそめる英輝。

「見てて、悲しくなるからさぁ」

「うるさい」

悔しがる恭生。

「……だから、こんなことしてていいのかって、俺が前にいっただろうに」

−−−もう充分判ってるよ、バカヤロー!

「ま、今日は飯くらいつきあってやるからさ、やけ酒って事で、酒代なお前持ちな」

 

英輝……お前本当にいい奴だったんだな。

まさかホントにやけ酒に付き合ってくれるとは。ゴメン、見くびってた。

英輝だって辛いんだろうに……漢だぜ。

 

【8/17】

朝。貴理は起きても調子が出ません。

それは恭生の気持ちを聞いてしまったから。どこか意気消沈している貴理。

皿を割ってしまい、それを片付けようとして指を切ってしまったのを天罰だと思うほどに。

 

有夏と待ち合わせ。

朝から貴理と一緒にいられる日は初めて、と有夏はご機嫌。

この日は貴理と有夏、初の本格デートです。

でも気分が乗らない貴理。原因はもちろん恭生です。

恭生の気持ちを知らないでいれば、今も幸せに過ごせていたのかもしれないのに、と貴理。

貴理は思い悩みます。

もちろん有夏が悪い訳ではなく。

全ては中途半端だった自分が悪い。

有夏が呼びかけても考え事をしていたので貴理が答えずにいると有夏が声を張り上げました。

その声に我に返る貴理。

「あたしじゃ、やっぱり駄目なんですか?」

「有夏?」

「……判っていたんです」

貴理に抱きついてきた有夏。

「本当は」

−−−有夏!?

「先輩は、本当は古積さんが好きだったって」

「な、なによ突然」

「……あたしなんて、本当はお呼びじゃなかった、って」

−−−そんな……

貴理は呆然としたまま無意識のうちに有夏を抱きしめます。

有夏は声を押し殺したまま貴理の手の中で泣き続けます。

「……ゴメンなさい。ゴメンなさい」

泣きながら、許してください、と有夏。

「有夏」

「だって、あたしずっと好きだったんです」

泣きじゃくる有夏の頭と背中を優しく撫でる貴理。

そして有夏は言います。

ずっと黙ってるつもりだった。黙って貴理を見ているだけで満足できるつもりだった、と。

「判ったから」

もういいのよ、と貴理。

「……あたし、先輩は古積さんを好きなんじゃないのかって、ずっと思ってました」

……

「それが正しかったって判ったのは、昨日です」

昨夜、有夏から貴理に電話があったらしいのです。

でも貴理は恭生の言葉に動揺してうまく会話ができなかったとのことです。

そんな貴理と話して、有夏にも感じるなにかがあったのだろう、と貴理。

「先輩は女で、古積さんは男で、そしてあたしが女だからといって、それだけでわたしは先輩を諦めなくちゃ駄目なんですか」

そして貴理を見つめて。

「本当に、好きなんです……」

貴理は何も答えられません。

最初は最後まで黙ってみてるつもりだった、と有夏。

でも恭生が現れて、みんなで探し物をして、本当にこれで最後なんだな、と実感してしまった、と有夏は言います。

つまりは全て恭生のせいだった、ということですね。

「この夏が終わったら、もうこんなふうに毎日は会えなくなっちゃう。そう思ったらもう、我慢できなくなっちゃって、それで」

「うん、そうね」

『最後の夏』

有夏のその気持ちだけは貴理にもわかりました。

「最後の、夏だものね」

「離ればなれになったら、あたしみたいな娘、すぐに忘れられちゃうんじゃないかって。古積さんみたいにほんの少しだけここに来て、それでもみんなに覚えてもらえるような人と、あたしは違うから。あたしはなにもできない、何の取り柄のない子だから、きっと先輩に忘れなれちゃうんじゃないかと思って、それで」

「馬鹿ね、この娘は」

貴理はそう言って優しく笑うと、有夏の髪の毛をグシャグシャとかき回します。

「わたしが忘れるわけないでしょう、有夏の事を」

有夏の頬を伝う涙を拭う貴理。

「こんなに……好きなのに」

「……本当ですか、先輩?」

「本当よ」

「本当に、本当になにがあってもわたしの事を、覚えていてくれますか?」

「忘れないわ、絶対」

「嬉しい」

そう言って再び貴理に抱きついて泣き続ける有夏でした。

 

泣き止んだ有夏を連れて、貴理は自分の部屋に。

ラブラブした後は……Hに突入。

有夏がタチ。貴理がネコで。

貴理がイきそうなったところで受験の話をしたり色々ありましたがとにかくおめでとう。

文字は「あああ!」とか言ってるのに器用なもんです。

終わった後、有夏が貴理に恭生のところに行ってくれ、とか言い出します。

でも貴理は行きません。何故ならここは貴理の家だから。

ってのはもちろん冗談で、貴理も有夏が好きになっていたから。

 

 

−−−バイバイ、恭生。

ずっと、大好きだったよ。

 

 

だ、そうです。さらに。

 

 

「好きよ、有夏」

 

 

だ、そうです。

そして第2ラウンド開始。今度はネコとタチが入れ替わって。

頑張ってください。

 

何はともあれキチンと結ばれた貴理と有夏。

はぁ…………なんかあんまりいい気分じゃないッスね。

冬子さん、今頃何やってるんだろ……。

 

と言う所で以下次回。


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