2002.2.18 「有夏クリアー……?」編


前回の続きから。

うっかり貴理にお色気シーンを求めてしまったが故にバッドエンドとなってしまった前回。

その教訓を活かし、今回は大人しくしててもらって、きちんとお食事会を開いてもらいましょう。

 

場面が貴理がその気になれば恭生にパンチラ攻撃ができた、というところから。

今回は見せようとしない方向で。

 

静かに麦茶を飲む2人。

そして話題は恭生と有夏のことになりました。

そこでついに有夏が貴理に嘘をついていたことが発覚してしまいます。

つまり恭生に何も言ってないうちから付き合っている、と言ったことが。

恭生もそれを知ってしまいました。

貴理は恭生と有夏が付き合っているものだと思って有夏を薦めたのに。

恭生は貴理が有夏を薦めるから貴理を諦めたのに。

でもそれは全部嘘だったのです。

あわわ……。

 

食事会。

英助爺さんと章によるダムに関する論争が繰り広げられますが貴理は心ここにあらず。

当然恭生も同様です。

有夏は話を聞きながら判っているのかどうかも謎ですがニコニコと相槌を打つばかり。

そんな中、貴理は有夏が自分を騙したのか、と疑わずにはいられません。

でもそれを必死で否定する貴理。

違う、絶対に違う!

有夏は、わたしを裏切るような子じゃない!

思い出されるのは恭生に友達宣言をした時のこと。

−−−好きだと、言えばよかった。

恭生と有夏がつきあっていると思っても。

貴理はただひたすら後悔するのみです。

そして唐突に貴理が帰る、と言い出しました。

章と英助爺さんが止めるのも聞かず、ご飯のお礼を言って出て行ってしまった貴理。

恭生はそれを追って席を立ちました。

 

外は雨。

でも貴理はそれに構うことなく走り去っていってしまいました。

「待てよ! 貴理!」

恭生も後悔していました。

一刻も早く貴理と話したいことがあったのに気の進まない食事なんかをダラダラをしていたことを。

急いで靴を履いて外に飛び出そうとしたその瞬間。

「いかないで!」

 『僕は有夏に、後ろから勢いよく抱きとめられた』

 『僕は、その手に構わず、夜の道へと駆け出した』

 

ぐあぁぁぁぁ。

ど、どうすりゃいいの?

前回の教訓を活かせばここは抱きとめられておくべきでしょう。

貴理に構うことなく有夏の近くにいてやるべきなんだと思います。

でも……傷つき、自暴自棄になっているかもしれない貴理を放っておくのはいくらなんでも……。

ぐっ…き、厳しい……。

 ・

 ・

 ・

 ・

し、仕方ない。やっぱり有夏も心配だしここは抱きとめられておきましょう。

 

「いかないで! いっちゃやだ!」

そう言って恭生に抱きつきながら激しく泣きじゃくる有夏。

有夏に説明しようとする恭生ですが有夏はただ行かないで、を繰り返すばかり。

シャツのボタンが1つ引きちぎられてしまったぐらいの力で恭生のシャツを掴んでくる有夏。

でも恭生が着ているのはTシャツです。どこにボタンがあるんだっつーの。

恭生が何かを言おうとするたびに有夏は叫びます。

行かなくてはならない。でもその一歩が踏み出せない恭生。

「こんなわがまま、もう二度と言わないから」

今だけ恭生の時間をください、と有夏。

「有夏ちゃん……」

有夏は知っていた、と言います。

恭生と貴理の気持ちを。

「だから本当は、あたしは最初、妨害したかっただけなんです」

−−−……有夏ちゃん?

「……先輩を、貴理先輩を、恭生さんに取られたくなかったから」

……それって。

思い出されるのは不自然に近づいてきた最初の頃の有夏の姿。

「あたし一人だけの先輩でいて欲しかったから」

そんな理由で恭生に告白した、と言う有夏。

でも。

「好きです」

かすかに泣き声になって有夏は言います。

「心から、本当に好きなんです、恭生さんが」

「……有夏ちゃん」

恭生を付き合い始めて初めてわかった気がする、と有夏。

「恭生さんは、あたしに、もしかしたら二度と得られない何かを与えてくれるかもしれないんです」

そして有夏はずっと恭生を抱きしめていた手をおろしました。

「だから……お願いです」

最後に有夏がつぶやいた言葉。

「今日だけは、あたしを置いて先輩のもとに行かないでください」

 

そうだったのか。

有夏が恭生に近づいてきたのは貴理と離すためだったんですね。

そんなことしたら有夏からも貴理が離れてしまう気もするのですがまぁいいでしょう。

 

いつしか本当に恭生のことが好きになっていた有夏。

そんな有夏の気持ちを知ってしまった恭生はどうするのでしょう。

そして貴理は一体どうなるのか。

英輝は何をやっているのか。

 

【8/17】

家で1人、ただ布団で眠り続ける貴理。

誰にも会いたくない。何も考えたくない。

もうベッドと布団と枕さえあればいい。

他には誰もいらない。

ひたすら眠り続ける貴理……。

枕に語りかけるその様子がアレですが、何はともあれ貴理はかわいそうです。

夕方、トイレに起きたついでに食事を取った貴理。

冷静になって自分の行動を振り返ります。

−−−ただ、現実逃避してただけになっちゃったな。

ふと気付いて貴理は苦笑します。

恭生と有夏はうまくやっているのだろう、と。

結局昨夜は貴理を追いかけてこなかったし(ああ…)、後は自分一人の問題。

そんなことは判っていた、と貴理。

判っていたけど…。

わかってるの、そんな事全部、わかってるの!

「あのバカが悪いのよ、みんな!」

このままじっとしていても何も変わらない。

貴理はなにも持たずに家を飛び出しました。

 

貴理がやってきたのは戸田旅館。

冬子さんが宿泊している旅館です。

頼る相手としては一応英輝も浮かんできたようですが、振られた2人でお酒飲むってのも、と却下。

やはり英輝が有夏に気があることはバレバレだったようです。

酒を飲んでしまうと自分がどうするかわからない貴理。

もう色んなことがどうでもよくなってしまうかもしれない。

−−−最初の人が原くんってのも、悪くないかもしれないけど。

そんなことお兄さんが許しません!!

一応貴理は思いとどまってくれました。

それでも恭生とは本気で寝ておけばよかった、と思っています。

キスぐらいじゃなく。有夏に奪われてしまう前に。

こんなことを相談する相手と言えば英輝以外には冬子さんしかいません。

旅館で冬子さんを呼び出してもらって玄関で顔を会わせる2人。

でも何を言ったらいいのかわからない貴理は思わず泣き出してしまいました。

そんな貴理を優しく見守ってくれた冬子さん。

 

冬子さんは貴理をホテルのバーに連れてきました。

「……貴理の初恋に」

あんたまたそれか。

それが一度目の乾杯。

そして二度目の乾杯は。

「貴理の、初めての失恋に」

いつのまにか貴理は冬子さんに有夏の行状を訴えていました。

有夏が何をやったのか。

有夏がどうやって恭生を奪っていったのか。

それが醜いことだとわかっていたも止めることができません。

でも。

本当はわかっていました。

有夏は悪くないということを。

自分の気持ちに正直になれなかった自分が一番愚かだったということを。

貴理は冬子さんにすがりつきながら言います。

明日からはちゃんと2人を祝福する。

だから、だから今日だけは、と。

貴理を抱きしめて背中をポンポンと叩く冬子さん。

「今日は、貴理はなにをいってもいいのよ」

「許して、ください……」

「失恋した女の子には、その権利があるの」

「先輩」

「だから、全てを吐き出してしまいなさい」

泣きながら何度も頷く貴理。

「そして、沢山泣いて忘れてしまいなさい」

貴理が覚えているのはその言葉まで。

「わたしが、全て許してあげるから」

 

まさか……『冬子さん&貴理』ってのは……無しですよね?

 

その頃。

恭生は小学校の校舎にいました。

この日、恭生は大掃除と言いながら英助爺さんの引越しの下準備をしていました。

ダムが出来たら遠くの老人ホームに行かなくてはならない爺さんのためにできるのはそのぐらいだったのです。

それは爺さんのためでもあり、貴理と有夏のことを考えないでいるためでもありました。

そして夕飯後、有夏から電話が。

『偶然、恭生さんの探し物を見つけたんです』

有夏にしては低く、重く、何かを隠しているのは明白な声。

それでも恭生は今から学校に、という有夏の誘いに応じてここまできていました。

 

何度か有夏の名前を呼んだ後。

恭生の背後で物音がしました。

「有夏ちゃん?」

「こっちは、見ないでください!」

鋭く響いたのは有夏の声。

「……来て、くれたんですね」

「有夏ちゃんが、呼んだからね」

有夏の言う通り振り向かないままで恭生は答えます。

「でも、判ってるんですよね」

「なにが?」

「来るときに見ましたか?」

おびえたような有夏の声。

「何を?」

「……気付いてないんですね」

本当に心当たりのなかった恭生。

「でも、これは判ってますよね」

そう言う有夏の声は少しホッとしているようでした。

「わたしが、嘘をついて恭生さんを呼び出した、って事をです」

「ああ」

恭生は小さく頷きながら言いました。

「そんな事はあり得ないだろうとは、判ってた」

「なのに、来てくれたんですか?」

「来たい、と思ったからね」

「どうして?」

突然泣き声になった有夏の声。

「嘘だって判ってるのに」

どうしてここに来たのか、と有夏。

何故来たのか、それは恭生にも判っていませんでした。

「有夏ちゃんの顔を見れば、判るかと思っていたんだけどね」

「ふざけないでください!」

もう知っているんでしょう、と有夏は言います。

自分が貴理に嘘をついて恭生を付き合い始めたことを、です。

−−−やっぱり……

「あたしが、恭生さんをつきあってるって言って、貴理先輩をあきらめさせた事を!」

無言の恭生。

「なんとか言ってください!」

「知っているよ」

貴理に聞いたから、と恭生は静かに答えます。

「だったら、何故!」

「……本当に、自分でも判らないんだよ」

自分を叱りにきたのか、卑怯者だとなじりに来たのか、と有夏は言います。

確かにそうだったのかもしれない、と恭生。

ずっと貴理が好きだった自分。

有夏はそれに横から入り込んできた。

自分は貴理との仲を邪魔した有夏が憎かったのかもしれない。

でも。

恭生には有夏が悪いとは思えませんでした。

有夏はペタペタ、と小さな足音を立てながら恭生に近づいてきます。

その音からして裸足=裸なのは明白です。

「……それとも、恭生さんは……」

恭生は知ってしまったのです。

「恭生さんは……」

有夏が今までどれだけ辛い日々を送ってきたのか。陽気にはしゃぐその裏にどれほどの想いがあったのか、を。

「あたしの事を……」

言葉にしなくても伝わるものがある。

有夏がなぜこんな事をしたのか、恭生は全てを知ってしまった。

−−−その罪を、有夏一人にだけ押しつける事は決してできない。

だから、僕はこの少女を憎めない……。

「僕は、たとえ何があっても、有夏ちゃんの事が大好きだよ」

そう言って恭生は振り向きました。

「……君を、守ってあげたい」

そこに居たのは泣いている、弱々しい有夏。

裸じゃありませんでしたけど。

じゃあなんなんだよ!? 「ペタペタ」ってのはよぉ!?

「だから、僕はこうして、ここに来たんだ」

 『有夏ちゃんに、僕の気持ちを伝えたかったから』

 『有夏ちゃんを放っておけなかったから』

どっちも変わらない気がするけど…ここは気持ちを伝えることに。

「恭生さん……」

恭生の言葉に落ち着かない様子で目を伏せ、泳ぐように視線を逃がす有夏。

−−−緊張、してるんだな……

そんな有夏の純朴さがたまらなく愛おしい恭生はそっと有夏の涙を拭い、その身体を抱きしめます、

「あっ……」

「……好きだよ」

有夏を見つめてささやく。

恭生の目をみつめ、そっと瞼を閉じた有夏。

ゆっくりと唇を重ねる2人。

それは恭生が何を選んだかというキスであり、同時に有夏の答えでもあるキス。

「ん……っ」 うおっ、また書いてしまった……

長い長いキス。そしてどちらからともなく唇が離れる。

「…………しい」

「えっ?」

「……嬉しい……」

 

 

 

H突入。

小学校の教室にて。

まだこの教室使われるのに……。

まぁばれなきゃいいか。

 

一生懸命な有夏からはその気持ちが伝わってきました。

服は全部脱いでも靴と靴下を脱がなかったのも恭生の趣味を考えてのことなのでしょう。

っつーか靴はいてるじゃん。

「ペタペタ」ってなんだったんだよ、実際。

 

「そ、その……隣に座っていいですか?」

ちょっと離れたところで服を着ていた有夏が恭生に聞いてきました。

「ああ、おいで」

まるで夢かと思わせるようなさっきの出来事(つまりセックス)。

でも感じる温かさは現実のもので、さっきのも決して夢なんかじゃなくて。

お互いの気持ちを確かめ合った2人。

抱き合う2人を闇がひっそりと包み込んでいきました……。

 

【8/18】

二日酔いのまま家で目が覚めた貴理。

叱ってこない章を不思議に思いながら見た新聞には夕方から台風が来る、と書いてあります。

ここで貴理は2日前まで自分がやってきたことを思い出しました。

小学校の校庭での探し物です。

台風なんかが来たら……

……もう、見つけられなくなってしまうかもしれない!

今日中に見つけよう、と貴理は学校へ向かいました。

 

食事を終えた貴理が学校に着いた頃、既に大粒の雨が降り出していました。

せめて掘り出したけど中を探していない土だけでも調べようと貴理は作業を始めます。

もうずぶぬれでしたがそれも気にせずに。

あたりが真っ暗になるまで。

それでも手探りで作業を続ける貴理を突然照らす光がありました。

「貴理!」

声と共に後ろから貴理の腕を掴んだのは恭生でした。

「キャッ!」

「なにやってるんだよ、こんなところで!」

懐中電灯で照らされる貴理からは恭生の顔がよく見えません。

「……もしかして、恭生?」

「恭生、じゃないだろ……」

疲れたようにがっくりと肩を落とす恭生。

 

「どうして、こんなところに来たの?」

2人は昨夜恭生と有夏がまぐわった教室に。

「貴理を捜しに来たに決まってるだろ」

「どうして?」

「章さんから、電話があったんだよ。有夏の家に」

「有夏の家に?」

「台風で、家に帰れそうにない、って自宅に電話をしたら誰も出ないので、貴理がそちらに遊びに行ってはいませんか、ってね」

あんないい親父さんに心配かけるなよ、と貴理の頭を叩きながら恭生は言います。

軽く頭を下げて謝る貴理。

「でも、そうしたらどうしてここだ、って判ったの?」

「有夏がね」

−−−やっぱり、有夏は気づいていたのね。

「ここに居るだろう、っていうから」

「そう」

「……もしかして、あれからずっと探してたのか?」

「うん」

恭生が持ってきた熱い缶コーヒーを手に取り、毎日じゃないけどね、と貴理。

「どうして?」

突然声を大きくして恭生が貴理に訊ねます。

「だって」

「あれを掘り出したがっていたのは僕なのに、どうして?」

「わたしの埋めたものでも、あるんでしょ?」

恭生ひとりの思い出じゃない。

もし本当にふたりで埋めたものなら、それは自分の思い出でもある。

そう貴理は思います。

「だったら、あの頃のわたしが何を埋めたか、見てみたいなって思って」

それはわかるけど、台風の日の、しかも深夜まで作業しなくても、と恭生が言うと深夜という言葉に貴理は驚きます。

「もうすぐ、十二時だよ。日付が変わる」

「そんな時間だったの?」

貴理はもう一度謝り、そして2人は家路につきました。

そして貴理の家の玄関前。

帰ろうとした恭生を貴理は強引に家に引っ張り込みます。お茶ぐらい飲んでいけ、と。

 

貴理がシャワーを浴びている間に恭生がいれたコーヒーを飲む2人。

「そうだ、有夏のところに、電話を一本入れておいてくれないかな」

「有夏のところに?」

随分心配していたから、と恭生。

貴理は恭生が『有夏』と呼び捨てにしていることに気づきます。

そして有夏に電話。

『もしもし』

「もしもし、有夏?」

『先輩ですか?』

細く小さい有夏の声。

「うん。家に戻ったから、それで電話したの」

『よかった……』

安心したように大きなため息と共に、何もなくて、と有夏。

「心配してくれてたんだって?」

『先輩のお父様からお電話をいただいて、家にいないって聞いて』

「……ごめんね、迷惑かけて」

貴理に何かあったらみんなにお詫びのしようがない、と泣きそうな有夏に貴理は明るい声で答えます。

恭生には会えたか、と有夏。

有夏が恭生に貴理を捜しに行って欲しい、と頼んでいたのです。

貴理が学校にいることを教えたのも有夏。

『あたし、先輩がずっと探してたの、知ってたから』

だからもし居るとしたら学校かなって、と有夏は声を細めながら言いました。

「恭生、ずいぶん驚いていたわ」

そして恭生はそこにいるのか聞いてきた有夏。

「ううん、でももう今から帰るところよ」

緊張して支離滅裂な答えを返してしまう貴理。

『……あのね先輩』

そう言ってしばし無言の状態が続いた後有夏が言いました。

『……先輩に、返しますから』

「ハァ?」

思わず間抜けな声を(ホントに間抜けだ)上げてしまった貴理。

「なあに?」

『恭生さん、先輩に返しますから』

……

−−−それって!

『あたしはもう、充分ですから』

「あ、有夏、あのね」

『先輩、恭生さんとつきあってください』

「……バカなこと、いってないの!」

思わず声を荒げる貴理。

「なに、それ! いい加減なこと言わないで」

『だって、先輩、昔からずっと恭生さんの事好きでしたよね』

「有夏、あなた、もう恭生の事が嫌いになったの?」

低く、鋭く、そしてどこか震えた声で貴理は有夏を問い詰めます。

「それとも、恭生との事は最初から遊びだったの!」

もしそうだったら絶対に許さない、と貴理。

『遊びなんかじゃありません!』

有夏も声を大きくして叫びます。

「だったら、なぜ今更そんな事言い出すの?」

自分に嘘をついてまで、そうまでして欲しかった恭生なのに。

『あたしはもう、恭生さんにたくさんよくしてもらったから』

デートしてもらって。

一緒に遊んで。

可愛いよって、好きだっていってもらって。

それだけで自分はもう充分だ、と言う有夏の気持ちが貴理にはよくわかりました。

きっと有夏は自分の事がずっと気になってたまらなかったんだろう、と。

「……有夏、あのね」

『だから、昔からずっと恭生さんを好きだった先輩にお返しします』

「そんなの、何にも関係ないのよ」

自分の事は気にするな、と有夏。

自分は横から割って入った、本当はとても嫌な子だから、と。

でも貴理は昔から恭生のことが好きだった訳ではないのです。

気づいたのはつい最近。

それも恭生が有夏と付き合っているのを見て初めて恋を知ったのかもしれない、と貴理は思います。

「あなたは、今でも恭生が好きなんでしょ?」

『……ごめんなさい』

「本当は、手放したくなんか無いんでしょ?」

『……はい』

「だったらもう、そんな事は言わないの」

優しく、諭すような口調の貴理。

−−−わたしより先に、恋に気づいて……

わたしよりずっと、勇気があって……

……だから有夏には、その権利がある。

貴理は聞かなかったことにするから、と有夏に言います。

『……先輩……』

「いいわね?」

『……ごめんなさい、本当にごめんなさい、先輩!』

電話口の向こうで泣きじゃくる有夏。

「じゃあね、有夏」

『ごめんなさい、ごめんなさい先輩』

「もう切るわよ、おやすみなさい」

有夏は最後まで『ごめんなさい』を繰り返していました……。

 

貴理は恭生と話がしたい、と言い出しました。

もう恭生と2人きりでゆっくり話す機会は無いかもしれない、と言って。

心の中で有夏に謝りつつ。

……手は、出さないから。

とのことです。

真っ暗な貴理の部屋でベッドに寄りかかりながら一つの毛布を肩からかぶる2人。

しばらくの間、2人の間に広がる幼かった頃の思い出話。

それは懐かしくて、そして切なくて。

それはもう自分達が帰れない昔だと2人とも知ってしまったから、と貴理は思います。

昔からお互いを意識していたことを知った貴理。

もう数日早くこの話ができていたら、とは貴理は思いません。

恭生が有夏と付き合いだしたからこんな話が出来るんだと知っているから。

話は自然と有夏のことに。

恭生は有夏のことを知りませんでしたが、有夏は恭生を知っていたらしいのです。

恭生は小さい頃、集落に来ていた頃に会っていたのでしょう。

でも有夏は昔から引っ込み思案で、恭生の記憶には残らなかった、と。

「もう、キスくらいはした?」

冗談めかして訊ねる貴理。

「え、えっと……」

狼狽えたように小さくなる恭生の声。

そりゃもうヤっちゃった、とは言えんわな。

「そ、それは……つまり、その……」

「あーあ。ファーストキスは恭生と有夏に先越されちゃったか」

わざと大きな声を出す貴理に、何言ってるんだよ、と恭生。

「お互い、ファーストキスは違うだろ。だから……」

えっ?

そんな……

−−恭生は、覚えていないと……

恭生は自分としたキスなんて覚えていない、と貴理は思っていたのです。ところが。

「僕のはじめては、もっと昔、貴理としたキスだよ」

『僕のはじめて』って言うな!! キモイっちゅーねん!!

恭生が覚えていたことに驚く貴理。

つい最近思い出した、と言う恭生に誰かとキスして思い出したんでしょ、と貴理が突っ込みを入れます。

さらに狼狽える恭生に貴理も苦笑。

貴理は恭生が冬子さんともキスしていたことを知っているのです。

−−−調子いいんだから。

その後は英輝や冬子さんも含めた思い出話に花を咲かせつつ時間は過ぎていきました。

もう外も白々としてきた頃。

有夏のことを恭生に頼む貴理。

それは心からの、本心の言葉。

静かに立ち上がった恭生。

「いろいろと、話したいことはまだたくさんあるような気がするんだけど」

そう言う恭生の顔はとても穏やかで。

「でも……、もういいかな」

「そうね」

−−−一晩、語って……

これで、たぶん終わりにできる。

辛くないといえば嘘になるけど。

未練がないなんて、口が裂けても言えないけど。

でも……ちゃんとした区切りが、出来た気がする。

「ありがとう、今までつきあってくれて」

「いや、それはこっちの台詞だよ」

「結局、朝になっちゃったね」

「章さんに知られたら、叱られるだろうな」

「父さんはなにもいわないわよ」

貴理も立ち上がって、そして言いました。

「……ちゃんと、あの子を幸せにしてあげてね」

真正面から恭生を見つめて。

「冬子先輩とかと、浮気しちゃ駄目よ」

「しないって」

苦笑する恭生。

「貴理も、元気でな」

「……もう一度、確認してもいい?」

「なにを?」

「たとえ、恭生が有夏とつきあってても、わたしたち、友達よね?」

「当たり前だろ」

貴理さえ許してくれるならずっと友人でいたい、と恭生。

「でも、これからは……」

−−−ちゃんと、意識しなければいけない。

「明日からは、ただの友達ね」

恭生は、わたしのものではないのだと。

「もう、馴れ馴れしく恭生なんて呼んじゃいけないんだよね」

「阿呆」

辛そうに呟く恭生。

「改まって、呼び方を変える必要なんてあるか」

−−−ちゃんと、古積くん、って言わなくちゃ。

……もう、有夏のものなのだから。

「駄目よ、有夏に悪いでしょ」

 

晴天の空。

台風が過ぎ、早めの秋がやってきていました。

恭生の家に続く別れ道まで来たところに恭生と貴理。

その別れ際。

「最後にもう一度だけ、恭生、って呼んでもいい?」

「ああ、いいよ」

 

「恭生」

 

小さな声でそう呟くように言うと貴理は正面から恭生に近づきました。

踵を浮かせ、両手で恭生の首筋をからませて引き寄せる貴理。

そして軽く背伸び。

触れ合う唇。

 

 

「ずっと、好きだったの」

 

 

恭生から離れ、くるりと振り向いた貴理は振り返らないで歩き出します。

 

 

−−−平気……

わたしは大丈夫よ。

 

 

不意に。

風にのって立木の葉から幾筋もの滴が貴理の上に降り注ぎました。

 

 

−−−雨上がりの後で、よかった。

 

−−−だって、ほら、

 

 

 

 

 

わたしの涙は、どこにも残らない。

 

 

 

 

 

と言う訳で有夏クリアー!! ぱちぱちぱち。

 

とは言うものの。

これは「恭生&有夏」と言うより「恭生&貴理」って感じでした。

一番重点が置かれていたのが「いかに貴理が恭生から離れるか」でしたから。

ぶっちゃけた話、「貴理編」と言ってもいいぐらいです。

最後なんて有夏全然出てきませんでしたからね。

最後に出てきたのがいつだったか思い出せない英輝よりマシですが。

英輝は有夏に惚れてたからなぁ。

それで恭生に何だかんだと言ってくるような奴じゃないのはわかってるけど、それでも何かしらカラミがあってもよかったと思います。

 

いや〜、それにしても有夏、かわいいですねぇ。

きっと貴理が見抜いたように嘘をついたことをずっと気にしていたのでしょう。

そしてその嘘によって手に入れた恭生とその恭生への想い。

切ねぇ!!

う〜ん…切ないねぇ。いいねぇ。

どうか恭生と幸せになってください。

集落が無くなったら東京に行くことになってるみたいだし言うこと無しです。

 

そしてクリア後に気づきました。

有夏が恭生を学校に呼んだ時、何かに気付いたかどうか恭生に訊ねていたシーン。

あれは貴理が探し物を続けていたことを示す作業跡のことを言っていたんですね。

 

冬子さんは相変わらずいいとこ取りでした。

 

英輝…お前、報われない奴だなぁ。

 

そして貴理。

今回の『切ない大賞』を受賞。

最後の方はやや間延びした感は否めませんが、小さい頃から培った想いはそう簡単に消えるはずもないですもんね。

ラストシーン。

恭生にキスをして振り向かずに去っていくシーンです。

これはなかなかの名場面だと思います。

これで貴理は一歩大人に近づいたのでしょう。

ただ大人になりすぎて顔が変わってます。

一瞬別人かと思った。

今までの丸顔が嘘のようなとがった顎。

すっきりした顔立ち。

ちょっと大人になり過ぎです。言うなれば『大人の階段のぼり過ぎ』です。

まぁそれはいいとしても。

服まで変わるのはどうかと思うよ。

 

さて次回は。

『キレイなお姉さんは好きですか』

『はい大好きです』

と言う訳で冬子さんです。

今まで傷を舐めて、突然キスして、貴理と酒を飲むしか能の無かった冬子さんです。

ってゴメンなさい。嫌いじゃありません。むしろ好きです。

 

しっかしこの人、裏表ありそうな人だよなぁ。

一体どんなストーリーが待ち受けているのか、予想がつきません。

楽しみです、ハイ。

 

と言う訳で以下次回!!


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