2002.2.17 「やっちゃった…」編


有夏と付き合うことになった恭生。

でもそれは正式なステップ(?)での始まりではなく。

いったいどうなることやら……。

 

【8/13】

午後の勉強を終えた恭生はバス停へと向かいました。

特に約束等はしていませんでしたが、それはもちろん有夏を迎えに。

少しするとバスがやってきました。

「た、恭生さん?」

喜びと驚きの混ざった声。

バスから降りてきたのは有夏です。

「ま、待っててくださったんですか?」

「う、うん、まあね」

「本当? 嬉しいです!」

ちょっと期待してた、と有夏は笑顔です。

赤くなってしまった顔を隠すように後ろ向いて、少し歩こう、と恭生。

有夏は慌ててついてきながらも嘘をつきました、と言います。

「本当は、すごく期待してたんです……」

 

さてどこに行こうか。

 『じゃあ、このまま歩こうか』

 『川原の方でもいく?』

まぁどっちに行ってもすぐにナニ…じゃなくて何があるわけでもないでしょうから同じでしょう。

とりあえずこのまま歩いてみます。

ラブラブ路線まっしぐらの2人は少し歩いた後にソフトクリーム屋へ。

「おいしいです!」

幸せを全身で表現しながらソフトクリームを食べる有夏。

あまりに美味しそうに有夏がソフトクリームを食べているので自分も食べたくなってきた、と恭生が言うと有夏は妙に緊張した感じに。

恭生はもう1つ買おうと思って言ったのですが、有夏は自分が食べているソフトクリームそのものを食べる、と恭生が言ってると思ったのです。

「こ、これ、どうぞ!」

そう言いながら差し出されたソフトクリーム。

早くしてください、と恥ずかしそうに言う有夏の圧力に負け、そのソフトクリームを舐める恭生。

「ご、ごちそうさま」

「お、おそまつさまでした」

そして恭生の食べたあとをさらにえぐるようにしばがらソフトクリームを食べる有夏を見て恭生が思い出したのは有夏と初めて会った日のこと。

ペットボトルの口を執拗にハンカチで拭いていた有夏。

そのことを有夏に言おうとしますが何とか言いとどまった恭生。

そんな恭生の様子から言いたいことがわかったのが有夏は言いました。

「……いいんです。今の恭生さんとなら……」

小さな有夏の声。

だけどそれは間違いなく恭生に届きました。

−−−僕の夏は……

今、間違いなく、ここに有った。

 

流石にここまでくると有夏の気持ちは本物だと思わずにはいられません。

つまり、貴理の気持ちをひこうとかそんなことではなく。

本当に恭生が好きなのだ、と。

そして恭生も有夏のことを想い始めています。

このままいけば単なる幸せ物語なんですけど……そうはいかないんだろうなぁ……。

 

【8/14】

昨日に引き続き、全く勉強がはかどらない恭生。

原因は『探し物』のことでした。

本当に探すのをやめてよかったのかどうか。

答えの出ない問題に恭生は集中力が出ない状態なのです。

有夏を迎えに行こうか、と考える恭生。

でもノルマをこなさないうちにそれはできない、とひと踏ん張り。

そして少しして恭生は人間やればできるもんだ、とバス停へと向かいました。

 

「恭生さん!」

バスのドアが開くと同時に駆け出してきた有夏。

互いにからかいながら2人が向かったのは展望台でした。

以前冬子さんと貴理が来ていた展望台。

未完成の展望台に人影はなく、完全に2人きりになれたようです。

集落を一望できる展望台からの眺めに感嘆の声をあげる有夏。

有夏にからかわれた恭生はジュースをこぼしてしまい、裾を拭くために有夏は恭生に急接近。

拭けた、と有夏が顔を上げると恭生との距離は驚くほどに近く。

「あ……」

「ご、ごめん……」

慌てて引き下がろうとした恭生の裾は有夏によって掴まれたまま。

「あ、あの……」

顔を真っ赤にして有夏は言いました。

「……好き、です」

そっと伏せられた有夏の目。

恭生の裾を掴んだままの有夏。

……いくら鈍い僕でも、これは悟らざるを得なかった。

この状況は、つまり、その……

 『考えるよりも先に、身体が動いた』

 『そっと手を伸ばし、優しく触れた』

動きました。

「恭生……さん」

「……有夏」

そっと有夏を抱き寄せ優しくキスをする恭生。

「ん……」

唇越しに伝わる小さな震え。

風と共に流れる、短くて、そして長い時間……。

 

「……そろそろ帰ろうか?」

「そ、そうですね」

その後はあまり会話をすることもなく夕暮れ近くまでそこでいた2人。

でもそこに気まずい空気は微塵たりともありませんでした。

「また今度、ここに来ましょうね」

「そうだね」

 

恥ずかし〜〜〜!!

「ん……」とか書いてるよ俺!! 俺ってば!!

かーなーりー、こっぱずかしいです。

それはともかく。

ついに交わされた有夏とのキス。

もはや恭生の気持ちも本物です。

まさに相思相愛となったと思われる2人にこれから何が起こるのでしょう……。

 

【8/15】

貴理と共にバスに乗っている有夏は恭生の話ばかりをしています。

その様子は貴理から見ても幸せ一杯。

変われば換わるものだ、と貴理。

恭生と有夏が付き合うようになってから2人が会うのは朝夕のバスの中だけでした。

最後に恭生と交わした会話を思い出す貴理。

2人はずっと友達。

貴理には恭生とどんな態度で会えばいいのかわからなくなっていました。

 

部活に励む貴理。

有夏はいなくて貴理1人です。

1人で練習したほうが調子がいい様子。

そして1人きりで過ごす時間が増えて、恭生の事を考える時間も増えていました。

考えても意味がない、ということは判っています。

でも。

……きっとこれって。

やっぱり、恋だったのよね。

 

帰りのバスは有夏と一緒になりました。

有夏は部活に出ないで何をやってたんだろ?

朝のバスの中とは違って無口で真剣な顔つきの有夏。

それは完全に恋する少女のそれ。

まるで少しでも早くバスが着くよう念じているかのようです。

そしてバスは集落のバス停に到着。

当然そこには有夏を待っていた恭生の姿が。

有夏はすぐに飛び出していきましたが貴理はバスに残ったままです。

−−−早く、行きなさいよ。

他の乗客が降りるまで座席に座ったままの貴理。

まるで恭生と有夏が去ってしまうように。

でも他の乗客が居なくなって渋々バスを降りた貴理の目に入ってきたのは恭生と有夏の姿。

「あら、どうしたの?」

極力普通の声で恭生に珍しいじゃない、と貴理は声をかけます。

「久しぶりだね」

少し他人行儀な恭生の声。

「元気そうでよかった」

「恭生もね」

そのまま軽く会釈をして足早に恭生の傍らを通り過ぎようした貴理ですが、恭生に手を掴まれて引き留められてしまいました。

爺さんからの伝言があるんだ、と済まなそうに早口で言う恭生。

「章さんに、伝えてくれないかな」

「章さんって、貴理先輩のお父様?」

−−−あなたになんか、言ってないわよ。

無神経に口を挟んできた(貴理にはそう感じた)有夏につい腹が立ってしまった貴理。

そして恭生の伝言と言うのは翌日食事に来ないか、というものでした。

「本庄のおじさまが?」

驚く貴理。

英助爺さんは最後まで粘っていたダム反対派。

貴理の父親・章はダム建設の責任者。

ダムをめぐって対立してきた2人ですが、お互いに認めるところもあったのです。

「父は喜ぶと思うわ」

よく伝えておく、と貴理。

「そうしてくれ、それと」

その時は貴理も一緒にって、と恭生。

「先輩も?」

−−−この子は!

横で話を聞いていた有夏が口を挟んできました。

「どうして?」

「爺さんが、一緒にって言ってるんだよ」

有夏へと向き直り、優しく諭す恭生。

「あ、あたしも行かせてください!」

突然有夏も参加を表明。

驚く、というより訝しげな貴理。

「あたしも、その食事会に参加させてください!」

「……食事会、っていうほど大げさな代物じゃないよ」

苦笑する恭生。

「お願いです。先輩からも、お願いしてください。わたしも」

「あ、有夏、あのね」

きっと自分が恭生と一緒に英助爺さんと食事をするから有夏がこんなことを言い出したんだろう、と貴理は予想します。

−−−わたしは、行くつもりはないのよ。

「わたしは」

「いいよ、爺さんに聞いてやるよ」

貴理の言葉を遮るようにそう言うと有夏の頭を軽く叩く恭生。

−−−えっ?

なに、それ?

……恭生?

「賑やかになるんだから、爺さんも駄目とは言わないと思うよ」

有夏はパッと顔を明るくしますが、逆に貴理の顔は……。

……なによ、それ?

どういう事?

これは自分と恭生だけの問題じゃない、と心の中で貴理は思います。

−−−父と、本庄のおじさままで居るっていうのに。

そこへ、彼女面した有夏を連れて行きたいっていうの?

「じゃあ、貴理も、章さんにはくれぐれもよろしく伝えてくれよ」

何事もなかったような顔でそんな事を言う恭生に思わず腹が立ってしまう貴理ですが、何とか自分を抑えようとします。

……笑うのよ、貴理。

そう自分に言い聞かせて。

「わかったわ」

貴理は笑顔でした。

 

小学校の校庭で1人、スコップを振るう貴理。

この3日間、貴理は1人で探し物を続けていたのです。

−−−これって、ただの女の意地よね。

自分が本当に恭生と何かを埋めたのか、それを貴理は確かめたいのです。

自分が覚えているのは小学校の教室でした幼いキスの味だけ。

恭生の思い出は本当に自分とのことなのか。

これから先、昔だけを思い出して生きていきたくない。

貴理はもう自分の気持ちに気付いているのです。

……夜が怖い。

1人になると浮かんでくるのは恭生の顔。

……泣いてすごしてばかりなんて、嫌。

一人の夜を、恭生を想って泣いて過ごすなんて。

もう嫌なの!

−−−だから、絶対に見つけたい。

たとえそれは無意味だと判っていても、自分自身に見せつけるただのきっけけにすぎないと判っていても。

貴理はスコップを振るいます。何度も。何度も。

−−−あげるわよ。

食事に加えて欲しいと恭生にねだっていた有夏の姿。

今の恭生は、あなたにあげる。

−−−でも……

 

 

わたしと、恭生の記憶は!

 絶対に、誰にも奪えないんだから!

 

 

貴理……まさかここまで……。

……いや、まさかここまで貴理が思いつめていたとは。

そして自分の気持ちに気付いて、そこから前に進もうとしていたとは。

すいません、全く気付いていませんでした。

その姿はあまりに痛々しいです。

前に進む、と言っても、それはまるで後ろ向きに前へ進んでいるように感じます。

ああ、貴理……。

 

【8/16】

恭生の家、つまり英助爺さんに家まで来た貴理は自分の服装を何度も確かめます。

きっと有夏は精一杯のおしゃれをしてくるに決まっているから。

恭生が有夏を、貴理ではなく有夏を選んで正解だなんて英助爺さんに思われたくない貴理。

胸をトントン、と叩きながら玄関の呼び鈴を押します。

「こんにちは」

出てきた英助爺さんにご挨拶。

爺さんはにこやかに貴理を出迎えます。

まだ時間はかなり早かったので時間まで恭生を遊んでいたらいい、と屋根裏部屋を指差す爺さん。

「はい、それじゃあ、お夕食の支度をはじめるときには、呼んでください」

 

「恭生、居るの?」

屋根裏部屋へと続く梯子の下から声をかける貴理。

「……貴理か?」

貴理は梯子を上って屋根裏部屋へと行くと懐かしそうに周りを見渡します。

ふと会話が途切れた2人。

貴理から見た恭生は緊張していました。

それをきっかけに穏やかに会話が始まります。

その後は進学のことなどを話していましたが恭生は麦茶を取りに下へ降りていきました。

その間部屋を見渡し昔を想う貴理。

そこにある布団は昔2人が一緒に昼寝をした布団です。

当時は貴理の方が大きかったから、恭生に腕枕なんてしてやってたそうな。

でも今の恭生の腕は陽に焼けて、たくましくて。

……いまなら、腕枕してもらえるかも。

そんなことを考える貴理ですがすぐに自分を戒めます。

でも……ちゃんと、し、下着は新しくしてきたし……

と突然そこに戻ってきた恭生。

「お待たせ」

貴理は思わずビックリ。

お盆を片手に持って不安定な体勢で貴理の前にはいずってくる恭生。

そのまま貴理が受け取るフリをすれば結果として下着が……。

 『ほら、早く受け取れよ。麦茶』

 『……顔色、悪くないか?』

悪くないです。

と言う訳で受け取ってもらいましょう。

でもそんな考え事をしながら手を伸ばしたのはいけなかったのか、受け取ったコップを自分のスカートの上に落としてしまった貴理。

「濡れ……ちゃった」

「なに呑気なこといってるんだよ。ほら、早く拭かないと……」

台拭きを渡そうした恭生ですが、何故かひどく慌てていたらしく床の上に転がっていた氷に足を取られてしまいました。

見事に転んで倒れこんでしまったのは……貴理の上。

「ア、アイタタタ……」

「……えっ?」

のしかかってくる恭生の重み。

突然我に返ったような貴理。

感じた冷たさはこぼした麦茶ではなく、背中を走った冷たさ。

「ご、ごめん……」

謝る恭生の声もよく聞こえない。

さっきまで心のどこかで期待していた状況。

このままお互いの温もりを感じながら横になれれば、どんなに嬉しいだろうか、と思っていた貴理。

それなのに恭生の重みに温もりは無く、ただただ暗く冷たい。

「ご、ごめん、今どくから……」

必死に体勢を立て直そうとあがく恭生の腕が貴理の胸を軽く掠めます。

それが貴理の臨界点、つまり限界でした。

「いやっ!」

ありったけの力で恭生を押しのけ、わき目もふらず梯子に飛びつく貴理。

何も考えられない。何も考えたくない。

恭生と英助爺さんの声に耳を塞ぎただ走り続け、部屋に着くなりベッドに転がり込み、唇を噛み締めながら泣いた貴理。

 

その日以来、家からほとんど出ることもなく、誰とも会うことも無く、部屋に閉じこもったままの貴理。

戯れることと抱き合うことを混同していた。

ただ好かれたがっていた。

恭生に理想を押し付けていた。

子供みたいに純真じゃないくせに、子供のようなことばかりを望んでいた。

そう思い知らされた貴理。

情けない。自分を消してしまいたい。

そんな自責を後悔の念に駆られながら、ただ膝を抱えてうずくまって過ごした日々。

そしてある日。

あれほどうるさかった蝉の声は聞こえない。

開けた窓から入ってくるのは涼しげな風。

もう夏は過ぎていました。

 

わたしは、最後の夏の終わりを見送ることすら出来なかった。

 

……そして……

 

わたしに夏が訪れることは、二度となかった。

 

 

 

 

 

 

有夏編終了。

 

 

 

 

 

 

んな訳ありません。

バリバリのバッドエンドです。

やっちまいました。何気にブルー……。

 

どこでやっちゃったのかな……。

やっぱり最後の選択肢だろうな。

有夏狙いのくせに、貴理にお色気を求めてしまったのが敗因か。

やはり自分の狙いを貫け、と言うことですね。

 

と言う訳で次回はそこから始めてみます。

今日はここまでッス。


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