2002.2.12 「な、なんてことを!」編


貴理と離れてしまった恭生。

果たして2人は…。

 

【8/10】

朝。

恭生が起きると激しい二日酔いでした。

英助爺さんに付き合わされて記憶が無くなるまで飲まされたのです。

外では花火が上がっています。

祭りは今日が本番。昨日のは前夜祭みたいなもの。

きっと今日の祭りは昨日以上に盛り上がるのでしょう。

でも恭生はそこに顔を出す気にはなれませんでした。

祭りに行ったらみんなと顔をあわせないといけない。

恭生はもうみんなと一緒に祭りを楽しむ気分にはなれません。

かと言ってこのまま家にいたら誰かが祭りに誘いに来るでしょう。

 『……山でも登るか』

 『……もう帰ろうか』

後者を選んだらいきなりバッドエンドになる気配がプンプンなので何が何でも山に登らせていただきます。

 

すっかり荒れてしまった山の登山道を登る恭生。

流れる汗が二日酔いと共に心のモヤモヤを身体から出してくれるような爽快な時間。

ところが思ったよりもはるかに呆気なく山頂に着いてしまいました。

三角点の上に立って集落を見下ろす恭生。

子供の頃はあんなにも大変だった山道がこんなにも簡単に登れてしまった。

恭生はそのことにショックを受けます。

「くそっ!」

そう叫ぶと傍らにある立木を思い切り殴りつける。

「認めなきゃだめだ」

もう自分達は子供だったあの頃とは違うということを。

身体も。

……そして心も。

気付かないふりはもうできない。

−−−僕は、貴理に会いにここに来たんだ。

それがここに来た本当の理由。それを認めるしかなかった恭生。

でももう二度と、あの頃のように貴理に会うことはできない。

そのことにも恭生は気付いていたのでした。

 

いつまでも子供じゃいられない。

そのことに気付いた恭生。

自分達はもう子供ではなくなってしまったんだと言うことに。

そして本当の自分の気持ちに気付いた恭生は一体どうするのでしょうか……。

 

【8/11】

朝。

恭生はジョギングで小学校へと向かいました。

何度も掘り起こされた校庭を見て恭生は不安に襲われます。

頭を振ってその不安を吹き飛ばすと一旦家へ。

朝食を食べて受験勉強をした後、英助爺さんは出かけていたため昼食はとらずに小学校へ向かう恭生。

 

強い日差しの中、黙々と一人で作業を続ける恭生。

掘った土を砕いて中を調べる仕事は今までは貴理と有夏の仕事でした。

今まで心の中では軽視していたその作業が思いの外辛い作業であったことを知り、改めて恭生は2人に感謝します。

そのまま作業を続けているといつしか陽は傾きかけていました。

「くそっ、どうしてみつからない!」

思わずスコップを蹴り上げる恭生。

「無いはずはないんだ。無いはずは!」

確かに自分は貴理とこの校庭に何かを埋めた。

あの頃の、自分と貴理二人だけの思い出の証はそれだけ。

それが見つからなければ、もう自分には何も残らない。

−−−絶対にあるはずなんだ。この、校庭のどこかに!

 

でも結局見つけることができないまま陽が暮れてしまいました。

本当にあるのだろうか。

不安になりそうな自分の気持ちを奮い立たせながら今日は終わるのでした。

 

も…もどかしい!!

恭生と貴理二人だけの思い出はもう一つあるんだ!!

ああ〜〜〜教えてやりたい!!!

 

【8/12】

貴理はいつもと同じようにバスに乗って学校に向かいます。

有夏と持ってきていた雑誌の内容について他愛のないおしゃべりをしながら。

 

その日は早めに部活を切り上げて雑誌に載っていたケーキ屋に行った2人。

その味に大満足して帰りのバスに乗っています。

「また行きましょうね」

「ええ、もちろん。今度はみんなでいきましょ」

『みんな』

自分で発したその言葉に黙り込んでしまう貴理。

その雰囲気を感じたのか有夏もしばらく黙っていましたがやがてその口を開きました。

「そういえば…いいんですか? あの」

有夏が言おうとしているのは間違いなく恭生の探し物のことでしょう。

 『 いいのよ』

 『ごめん、その話はちょっとしたくないかな』

どっちもすげーネガティブなんですけど。

どうしようかな……。

前者だと何だか完全に恭生を見捨ててしまったような気がするので後者で。

「ごめん、その話はちょっとしたくないかな」

軽く笑う貴理。

「す、すみません。あたしったら……」

貴理は正直何も考えてくありませんでした。

自分がどう考えているのかもわからない。

だからこそ、今はまだその話題は口にしたくありませんでした(ということになりました)。

 

貴理は有夏と別れて家路につきます。

どうしても小学校の方が気になってしまう自分を抑えて。

父親の章は今日も帰りが遅いため一人で作ったご飯を一人で食べる貴理。

一人で食べるもの、飲むものは全てが美味しくない。

恭生達と炎天下でスコップを振るいながら飲んだ麦茶やスポーツドリンク。

−−−ただの水だって美味しかった、

そんなことを考えてしまう自分を奮い立たせる貴理。

……恭生は、わたしのことなんて気にしないで、今日も一人で探しものをしてるっていうのに。

 

部屋に戻って勉強を始める貴理。

探し物に付き合っている間は殆どできなかった家での勉強。

自分は来春大学に受からないとどこにも居場所がなくなってしまう。

たとえ大学に行けなくても居場所がある恭生とは違う。

……恭生は、いいわよね。あんなに呑気に穴を掘って、昔の思い出に拘泥して。

美しい思い出ばかり、この集落に投影して。

やがて恭生のことを考えていた自分に気付き、自戒する貴理。

 

……勉強、しなくちゃ。

 

違うんだぁ!!

恭生は貴理のことを何とも思っていないから探し物なんかに没頭できるんじゃないだ!!

貴理だから。

貴理との思い出だから。

貴理との約束だから探さなくちゃいけないんだぁ!!!

うがぁぁぁぁ、じれってーー!!!

 

【8/13】

朝。恭生は食欲がありません。

昨夜から食欲が無く、箸を進めることができないのです。

結局ご飯を残したまま部屋へ。

 

正直、疲れてきていた恭生。

一人で探し始めて3日目。

意地になっていることは自分でも判っていました。

ふと、もうやめようか、とも思う。

 『……でも』

 『……そうだな、やめるか』

…続けよう。

俺も意地になってるのかもしれないけど。

 

一人、貴理のことを思い浮かべながら作業に没頭する恭生。

貴理の名前を頭に浮かべるだけで怒りで力が湧いてくるようです。

 

「なにしてんの?」

一休みしていた恭生のところに現れたのは恵でした。

「にーちゃん」

ついでに和典も。

どこか貴理ではないか、と期待していた自分に恭生は失笑します。

「まだ、やってんの?」

「知ってんのか?」

有夏に聞いた、と和典。

「たまには遊ぼうっていったら、校庭でヒマなにーちゃんがまだ穴掘ってるだろうから、遊んでもらってきなさいって」

…これは喜ぶべきことなんでしょうか。

有夏が恭生を嫌いだったら自分の弟をここに寄こさないだろうし。

単に嫌がらせともとれるけど。

「にーちゃんも大変だね」

「……かもな」

そして作業を続けようとした恭生に2人は手伝う、と言ってくれました。

単なる子供の暇つぶしとは言え手伝ってくれるのはありがたかったのです。

貴理じゃないのが残念でしたが。

 

そうして3人は夕方まで探し続けましたが結局見つかりませんでした。

また明日も来る、と言って帰っていく2人。

その仲の良さそうな後姿を見て恭生は昔の自分と貴理に思いを馳せます。

このままこうしていていいのか。

そんなことを考えながら陽は暮れていくのでした。

 

【8/14】

貴理はいつものように有夏と学校へ。

講習後は部活ですがどうにも調子が出ない様子。

文字通り、的外れな矢を抜きながらやっぱり自分は気にかかっているのか、と貴理は思います。

−−−恭生……

早めに部活を切り上げようという貴理に有夏は不満顔です。

自分も受験生だから家でも勉強しないと、と言うと一応は納得した様子です。

「先週までは、妙なことに時間使っちゃいましたし」

−−−妙なこと、って何よ。

その言葉に一瞬腹が立った貴理。

−−−恭生があんなに必死になって見つけたがっているのに。それを、妙なことだなんて。

「先輩がいくら成績よくても、もう少し勉強しないと危険ですよね」

そんな貴理の気持ちも知らず有夏は湯のみを片付けます。

そして学校から帰る2人。

 

集落のバス停にて。

有夏は美味しいアイスクリームがあるからぜひ家に寄ってくれ、と貴理を誘います。

アイスクリームに魅かれはするものの、今頃一人で汗だくになっているであろう恭生のことを考えるとあまり気が進まない貴理。

「美味しいものって、一人で食べるより、誰かと一緒に食べた方が、もっと美味しくなるし」

「……なら、少しだけもらおうかな」

結局有夏の熱意に負けてしまった貴理とそれを喜ぶ有夏。

早速貴理の手を引っ張って連れて行こうとする有夏ですが、その前に、と貴理は言い出しました。

「……ちょっとだけ、学校、寄ってから行ってもいい?」

「古積さんですか?」

「いやその」

「だって、学校、わたしの家と方向が逆ですよ」

学校に寄ったら遅いバスで帰ってきたのと変わらなくなってしまう、と有夏。

「でも、恭生、この暑い中きっと一人で作業してるのよ」

自分でも何でそんな言葉が出てきたのかわからない貴理。

「陣中見舞いくらは、持っていってもいいかな、って」

「そして、あたしたちはアイス食べに帰るから、じゃあまた、とか言うんですか?」

なかなか鋭いことを言う有夏ですが今は黙ってください。

「そんなの、余計ですよ」

「……だったら、いっそ」

「アイスは先輩とあたしの分しかないし、明日になったら、美味しくなくなっちゃうかもしれないし」

てめぇ一人で食ってろ!!

いい加減腹立ってきた……。

「古積さんは、明日もきっとまだ探してますよ」

「それはそうかもしれないけど」

「もし探してなかったら、それは求めていたものが見つかった、っていう事だし」

歩き出した有夏。

「それとも先輩もまた一緒になって探したいんですか?」

「ううん、そんなんじゃないのよ」

そんなつもりで言ったんじゃない、と貴理は慌てて言います。

「じゃ、一緒にアイス食べましょう」

結局そのまま有夏に連れられていってしまった貴理……はぁ。

 

有夏の家から帰って、一人で軽いを食事をとった貴理は勉強を始めます。

でも頭に浮かんでくるのは全く別のこと。

−−−今日で、もう五日も、恭生に会ってない。

まだ恭生は探しているのだろうか。

もしかしたらもう見つかったかもしれない。

そしたらもう恭生はこの集落には居ない。

……二度と。

突然わき起こって来た不安感に心臓が痛いほどに苦しくなる貴理。

もしかしたら、もう二度と会えなくなってしまったのかもしれない。

−−−嫌、そんなの!

恭生は探し物をしにこの集落にやってきたんであって、自分に会いに来たんじゃない。

そう思っている貴理。

「バカ……」

もう勉強なんてできない。貴理は参考書を閉じて恭生の名前を口にします。

「恭生のバカ……」

ちゃんと、確かめに行こう。

まだ恭生が探し物をしているか。この集落から居なくなっていないかどうか。

そう心の中で誓う貴理。

−−−恭生がまだ居たからって、何がどうなるわけでもないけど。

 

貴理が動き出しました。

恭生も動き出さなければなりません。

有夏は動かなくていいです。

そう言えば英輝は?

 

【8/15】

恭生が朝起きると変な空模様でした。

「この週末から天気は下り坂らしいな」

今日明日ぐらいは持つだろう、と英助爺さん。

この村に関する天気予報では英助爺さんが外すことはまず無いらしいです。

そして一人縁側で考え事をする恭生。

何がしたかったのか。

なんのためにここに来たのか。

恭生にはそんなこともわからなくなってきていました。

−−−こんな筈じゃ、なかったのに。

夏ももう終わりです。

山には確かな秋が来ていました。

−−−もう、手遅れなんだろうか。

埋めた物さえ、見つかれば。

もう一度、貴理と……。

「おーい!」

そんなことを考えていると(すっかり影が薄くなっていた)英輝がやってきました。

 

「また今日も穴掘りか?」

「まあね」

英輝が来る前まではやめようかとも考えていたことはおくびにも出さずに恭生は答えます。

「はぁ」

大きなため息。

「ったく、この馬鹿は」

「どうせ、馬鹿だよ」

「判ってんだろ、もう、おまえも」

「……判ってるさ、そりゃね」

肩をすくめる恭生。

「僕もいいかげん阿呆だけど、それほどじゃない」

「じゃあなんで、ひとりで意固地になって穴掘ってるんだよ」

「だって」

 『僕にできることは、もう、それしかないじゃないか』

 『暇なだけだよ、単に』

前者。

「……ちょっと待てよ、おい」

その言葉に英輝は強く反応しました。

「まさかそういう意味じゃないだろーな、おい」

「指示代名詞の多い会話は不明瞭だよ」

皮肉げに返す恭生。ちょっとムカつく。

「でも、まあ、たぶん英輝の予想しているとおりの意味」

それは貴理との関係をさしているのでしょう。

「……ちゃんと、確かめたのか?」

顔を上げて恭生に尋ねてくる英輝。

「貴理の気持ちは」

「と、思うよ」

あの時、祭りの夜の事を思い出すと今でも心臓が痛くなるような思いの恭生。

「探し物は、もう手伝わない、っていわれた」

その言葉に唖然とする英輝。

「一人で、勝手に探して、って」

「お、おまえ、それで」

一瞬絶句した英輝はしばらくそのままでいると、やおら身を翻して恭生に近づいてきました。

ボカッ!

「バカヤロウ! 死ね!」

鳩尾を殴られて身体をくの字にして呻く恭生。

「ひとが、何のために努力してやったと思ってるんだ!」

「ど、どういう意味だよ」

「アホ! そのくらい自分で考えろ!」

そのまま荒々しい足音と共に去っていった英輝。

後に残ったのは馬鹿な男が1人……。

 

英輝…お前も漢だったんだな……。

影が薄いとか言ってゴメンよ。

だって全然出てきてくれなかったんだもんよ。

 

家に帰ると英助爺さんが蕎麦を用意して待ってました。

そして明日貴理を連れて来い、と言い出した英助爺さん。

「……貴理だけでいいの?」

貴理と2人だけでは気まずいので英輝や有夏は、と言う意味で聞いたその言葉。

ですが英助爺さんは意外な言葉で返してきました。

「そうじゃな。……よかったら、一緒に親父さんもいらしてもらえ」

「は?」

ダム建設のためにこの集落にやってきて、そのまま結婚して住み着いた貴理の父親・章。

そんな章はダムに反対していた爺さんにとって仇敵の筈。

「昼間はお仕事かもしれんから、夕飯がええじゃろ」

そんな恭生の気持ちを知ってか知らずしてか話を進める英助爺さん。

恭生はそんな爺さんの顔に喧嘩を売ろうとするような態度が見えないため、素直に貴理達を呼ぶことを承諾するのでした。

 

午後。

バスに乗って有夏と一緒に集落に帰りながらも上の空です。

……どうしよう。

考えるのは恭生のこと。

でもそれ以上考える必要はありませんでした。

バス停には恭生の姿があったのです。

 

「よう」

「どうしたんですか? 先輩」

驚いたように恭生に問いかける有夏。

「こんなところで」

「どうしたんですか、はないだろ」

待ってたんだ、と恭生。

「へー、珍しいですね」

さらに何か言おうとする有夏を無視して(ナイス!)、貴理の前に歩み寄る恭生。

爺さんが一緒に夕飯を食べようと言っている、と恭生が伝えた爺さんの伝言内容に貴理も驚いた様子です。

「もちろんいいわよ。よろこんで」

「……親父さんも、一緒にどうかな」

さらに伝えられたその内容にはさすがに呆然。

「もちろん、無理にってわけじゃないんだけど」

「えーと」

慌ててどうなるかわからないけど誘ってみる、と貴理。

それは恭生の希望ではなくて英助爺さんの意向なんだよね、と貴理は確認します。

当たり前だ、と恭生。

「じゃあ、出来るだけ連れて行くから。首にナワつけてでも」

「……そうしてくれると、たぶん爺さんもよろこぶな」

軽く笑って手を振る恭生。

 『親父さんに、よろしく伝えてくれよ』

 『じゃあな』

どっちにしても別れるのかよ。

ならとりあえずよろしく伝えてもらいましょう。

「まってよ、恭生」

おっ、来た!!

「ちょっと暇ある?」

「ずっと暇だよ」

かすかに笑って恭生は言います。

「ここに来てから、ずっとね」

「もし、まだ校庭を掘るつもりなら、邪魔はしたくないからいいんだけど」

「いいよ。大丈夫だよ」

「……ちょっと、歩かない?」

 

そう言ったものの、黙ったままアスファルトの道路を歩き続ける2人。

「もう、夏も終わりだね」

ふと恭生が切り出しました。

「そうね」

早いものだ、と恭生は言います。

「ここにきてから、まだそんなにたっていないつもりだったのに」

「夏休みも、もうすぐ終わりだし」

貴理の夏休みは二十日までだそうです。

何故?

山の学校は夏休みが短いのかな。

「恭生は、いつ頃帰るの?」

「夏休み一杯居ようかと思ってたけど、そうもいかないかもな」

「……寂しくなるわね」

「そうかぁ?」

意外そうな声をあげる恭生。

「僕一人居ても居なくても、あんまり変わらないだろ」

「そんなことないわよ」

そう言って貴理は恭生の後姿を見つめます。

「寂しくなるわ、きっと」

 

そのまま歩き続け、橋まで来ると欄干に腕をついて川面を見下ろす2人。

「綺麗な川だよなぁ」

それは悲しそうな声。

「こんな綺麗な川が、ダムに沈むなんてもったいないよな、やっぱり。

 ……ダム、反対すべきだったんじゃないのかぁ」

その言葉に何も答えられない貴理。

「どうせ、作ったってあんまり意味ないんだし」

恭生は何も言わない貴理に話し続けます。

「みんなが欲しいのはダムじゃなくて仕事なんだからさ、余計な物を作らなくたっていいじゃないか」

表立ってダムに関わる人々を責めることはしない恭生。

でもその気持ちは痛いほど貴理に伝わってきます。

「……一度失ったら、もう、取り返しがつかないのに」

「あの人たちを、そんなに責めないであげて」

思わず恭生の袖を掴んで言葉をつむぎ始めた貴理。

「ダムが出来るのは悲しいけど、わたしだって、辛くない訳じゃないけど」

指が白くなるほど強く握り締めながら貴理は言います。

「でも、ダムがなかったら、わたし、きっとこの村に今日までいられなかった」

心の中では自分と言う存在を責める貴理。

「……こうして恭生を待っては、いられなかったんだよ」

でも貴理にとって大切なのは、ダムより、水に沈む故郷より、恭生との時間。

「でも、貴理」

「なに?」

「……いや、なんでもない」

そして数回頭を大きく振ると恭生は歩き出すのでした……。

 

辛いところだよなぁ…。

ダムと言う存在がなければ存在すらしなかったはずの自分。

そのダムのせいで消えていく故郷。

その故郷は恭生にとっても大切な場所で。

そして貴理にとっては何よりも恭生のことが大切で。

はぁ………。

 

夜。

貴理は父親の章に恭生から聞いた英助爺さんの夕飯への誘いの伝言を伝えました。

さすがに驚く章。

多少焦りながら言う貴理ですが意外や意外、「行くぞ」と即答の章。

そのことに驚く貴理。

「なんでそんな大切なことを、ちゃんと言わないんだ」

逆に怒られる始末。

「本庄さんからの誘いだと。行くに決まってるだろう」

「でも、仕事だって……」

「夕方早くに仕事をあがるくらいなんともない。本庄さんからのわざわざのお誘い、断るわけないだろう」

仕事を休んででも行く、と断言する章。

「夕食だな。約束は何時なんだ」

「時間はわからないけど、恭生が、家まで迎えに来るって」

昔のことを思えばなぜ英助爺さんがこの親子を食事に誘ったのかは不思議なことです。

貴理にも章にもそれはわかりません。

でもダムと作る側と反対する側の対立していた関係とは言え、章は英助爺さんのことを認めているようです。

もう一緒の村で暮らすこともなくなってしまいます。

そうなる前に話せる機会があったら話しておきたい、と章。

行きづらいようだったら自分だけで行ってもいい、と言う章に貴理は自分も楽しみにしている、と答えます。

自分はつい身構えてきてしまったけど、英助爺さんはいつも自分によくしてくれた。

その時浮かんできた顔は恭生。

容易には消えないその顔を思い浮かべつつ、2人は夕飯を取るのでした。

 

ダムを挟んで対立していた2人の大人。

この2人の関係は恭生と貴理にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 

【8/16】

恭生はビビりながら貴理の家へと向かいます。

もちろん夕飯へ連れて行くためです。

家には貴理しかいませんでした。

どうやら章は後から来るようです。

まだ時間は早かったのですが2人は恭生の家、つまり英助爺さんの家へと向かいます。

 

畑仕事をしていた爺さんに挨拶をして2人は家の中へ。

昔はよく遊びに来ていた英助爺さんの家の中で思い出話をする2人。

そして2人は恭生の部屋、つまり屋根裏部屋へと向かいました。

恭生の部屋へは梯子を使って上るのですが、貴理は先に梯子を上ってしまいます。

そうなれば恭生は『漢』として見上げない訳にはいかないし、そうすれば当然『見えます』。

「……ねえ、この掛け金って……やだ、バカ見ないでよ!」

「ゴ、ゴメン」

慌てて目を逸らす恭生。

目線は逸らしたと言ってもCGは変わらないのでジックリ堪能させていただくことができました。

「バカ、スケベ」

「ゴメンってば」

 

屋根裏部屋に入るとしばらくの間、貴理は色々懐かしそうに見渡していました。

「探しものは見つかりそう?」

「どうかな」

貴理に麦茶を進めながら恭生は言います。

「なんとなく、だめかも、って気もしてる」

この言葉は短いため息とともに。

「校庭は、もうほとんど探したからね」

「冬子先輩にも、訊ねてみた?」

「冬子さん?」

突然出てきた冬子さんの名前に驚く恭生。

「いや、全然。だってあの人、関係ないだろ?」

「そ、それはそうかもしれないけど」

「埋めたとき、一緒に居たのは、貴理だけだぜ」

「でも、ほら先輩と恭生、仲がいいみたいだし、それに」

動揺したように声をうわずらせる貴理。

「何か、知ってるかもしれないじゃない」

「べ、別に特別仲がいい、なんてことはないとおもうけどなぁ」

さらに動揺している恭生。

「あの人とは、こっち来てから、何度か会っただけだし」

「そうなの?」

驚いた風に顔を上げる貴理。

てっきり恭生と冬子さんが付き合ってるとでも思っていたのでしょうか?

まったく…有夏が余計なこと言ってくれるから……。

「だって、よく車に乗って、遊びに行ってるみたいじゃない」

「そんなことないよ」

苦笑する恭生。

「たったの二、三回だけだよ、僕が冬子さんの車に乗ったのなんて」

恭生は貴理がそんなことを気にしていたとは知りませんでした。

「それに、遊びに行ったっていうのは、貴理の部活の様子を見に行った時のことじゃないか」

「それだけぇ?」

「そうだよ」

ダムを見に行ったことは隠しているのか、忘れているのか。

「他に、何があるっていうんだ」

「……だって、その」

「だって?」

「冬子先輩、大人っぽくて美人だし、恭生はアレだし」

「……なんだよ、アレって」

「車だったら、いろんな所に入れるし」

赤い顔して貴理が言います。

いろんな所?

「その、だから」

「えっと、その」

そんな貴理の態度に恭生は感じるものがありました。

貴理が僕を意識してる、のか?

 『……そんな事って、あるか?』

 『……そうかもしれない』

あるに決まってます。

そして恭生はそう考えると今の状況が急に気になりだしました。

いや、貴理がこの部屋に来たときからずっと考えていたのです。

狭く、薄暗い部屋に男女が二人きり。

次第に浮き彫りになってくる貴理への気持ち。

 『僕は貴理を求めた』

 『そんなこと出来るわけがない』

…………うわ〜……。

こりゃマジで困った。

俺は求めたいんだけど、ここでそんなことしていいものか。

すぐ外に英助爺さんもいるし。

ここは……ここは一旦ヒこう!

 

「別に、冬子さんと、何かなんてあるわけないだろ」

無理矢理自分の中にわき起こって来た衝動を押さえ込む恭生。

「綺麗な人だけど、町に戻ればきっと、彼氏の一人や二人くらいいるよ」

「そ、そうよね」

ほっとしたような表情を浮かべる貴理。

「恭生の相手なんか、してくれるわけないわよね」

とそこに英助爺さんの声が。

「ちょっと来んか! 大根を台所まで運んでくれ」

そして恭生は梯子を降りていきました。

 

やがて章がやってきました。

「ご招待にあずかりまして」

手土産に日本酒を持ってます。

恭しくも親しげに話す2人に貴理は驚いている様子。

 

ビールを飲みながらの食事。

身の回りのことなどで談笑しながら穏やかに場は進みます。

そして話はいつしか思い出話に。

そうなると必然的に話の内容は核心へと迫っていき、やがてダムの話に。

穏やかな口調ながらもやはり対立する2人の会話。

それが決して楽しい会話であるはずもなく。

−−−どうして、こんな話をしなければならないの。

ダムに沈む故郷。

2人の話を聞きながら貴理に悲しみがこみ上げます。

わたしは、こんな事の為に、この村をでていかなければならないの?

川なんてどうだっていい。

自然なんか、なくたっていい。

−−−そんなの、なにも関係ないじゃない!

テーブルを叩く音と同時に立ち上がる貴理。

「そんなの、何にも関係ないじゃない!」

驚いて振り向く英助爺さんと章。

「経済がどうとか、政治がどうとか、そんなの、みんなわたしたちに関係ないじゃない!」

泣き叫ぶ貴理。

「なんでそんな理由で、わたしたちがこんな目にあわなくちゃならないの! 川なんて放っておけばいいじゃない。洪水したら、みんなで片づければいいじゃない」

「貴理」

いつの間にか真っ赤な目をして泣いていた貴理に思わず声をかける恭生。

「なんでそんな理由で、みんな離ればなれにならなくちゃならないの! ダムなんかあったって、誰も幸せになれないじゃない!」

「貴理!」

恭生は思わず立ち上がり貴理に手を伸ばしました。

「誰か教えてよ。そんな理由で賛成も反対もしないでよ! そんな未来の話とか、誰も幸せになれない言い訳が本当にわたしたちを救ってくれるの! 父さん」

そんな貴理の激しい剣幕にただただ狼狽するしかない2人の大人。

おずおずと声をかける章。

「き、貴理、あのな」

「答えられないくせに、したり顔でダムの話なんてしないでっ!」

でも貴理は質問しといてなんですが聞く耳を持ちません。

そして恭生の手を跳ね除けて部屋から駆け出していった貴理。

恭生は追いかけますが、外はいつの間に振り出したのか静かな雨。

貴理はそんな雨に構わず飛び出していきました。

「待てよ! 貴理!」

 

橋のたもとでようやく貴理の右腕を捕まえた恭生。

「おい、貴理、止まれって」

「離してっ!」

荒々しく手を振りほどこうとする貴理を押さえるために思わずその身体を抱きしめる恭生。

なおも暴れる貴理にバランスを崩し、道路脇から河原へとよろめき落ちる2人。

「貴理、なぁ」

しばらくしておとなしくなった貴理。

恭生の腕の中で身じろぎせずじっと恭生のシャツの胸元を握りしめる貴理に恭生は話しかけます。

そして貴理がポツリとつぶやきました。

「嫌だよ」

恭生のシャツに顔を埋めて貴理は言葉を続けます。

「判ってるの、本当は。ダムがなければ父さんはここに来なかった。わたしは生まれなかった。恭生にも会えなかった。だから、みんなはともかく、わたしだけは絶対にダムに反対しちゃいけないのは」

貴理の泣きながらの言葉。

「でも、やっぱり嫌だよ……」

「いいんだよ」

その言葉と共に、そっと力を込めて貴理の華奢な身体を抱きしめる恭生。

「何がよ」

「貴理は泣いてもいいんだ」

泣きながら恭生の顔を見上げる貴理。

「貴理が悪いんじゃない。だから、ダムを罵って泣いてもいいんだよ」

「でも、だって……泣いても、どうにもならないじゃない」

そして恭生の首に絡まる貴理の腕。

「わたしが泣いたって、もう、何も意味ないじゃない」

「そりゃ、そうかもしれないけど」

「それとも」

貴理は震える肌で言います。

「それとも、恭生、どうにかしてくれる?」

恭生に首に回した腕に力を込める貴理。

「どうにか、って?」

そう言いながらも恭生は何も考えていませんでした。

ただただ頭には自分の首にまわされた貴理の二の腕の感触だけが。

「……僕じゃ、それはどうにもできないよ」

「……そうだよね。ゴメン、判ってたのに」

さらに力を込める貴理。

押し付けられた胸から貴理の鼓動が恭生に伝わります。

「未練じゃないの……。気にしないで、いってみただけだから」

「僕には、ダムがここにできるのを止めることなんてできないよ」

ピクッと一瞬動きが止まった貴理。

「馬鹿!」

ドン、と思い切り突かれた恭生。

「誰が、なんで泣いてると思ってるのよ!」

それでも貴理を腕の中から離さなかった恭生から逃れようとする貴理。

「ただ、ダムが出来るから泣いてるわけじゃない。ダムが出来たら、もう恭生に会えなくなるから、泣いてるんじゃない!」

えっ?

「誰も、恭生にダムを壊してなんて、頼んでないわよ!」

「……どうして」

恭生は力ずくで強引に貴理を引き寄せて訊ねました。

「どうして、会えなくなると思うんだ」

軽く悲鳴を上げる貴理に構わず、抱え込むように腰をつかむ恭生。

「たかが、ダムが出来たくらいで」

「だって、だって恭生は、昔の思い出を探しにここに来たんでしょ。ずっと、わたしの事なんかほっておいて」

恨めしげな目で貴理は恭生を見つめます。

「思い出の品物を探したい、とかいいながら、暇があれば冬子先輩と遊んでばっかりで」

「冬子さん?」

「ずっと、一緒にドライブとか、してたじゃない! わざわざ仲良さそうに、学校まで見せつけに来て!」

「それは誤解だよ」

慌てて弁解する恭生。

「冬子さんは関係ないよ。僕がちょっと、冬子さんの気晴らしにつきあってただけで」

「でも、どっちにしても、わたしの事なんか、どうでもいいのは同じでしょ!」

涙声で叫ぶ貴理。

「思い出さえ見つかれば、ここには、もう用なしなんでしょ」

「そんな事あるか!」

恭生がキれた!!

「誰が、なんのためにここまで来たと思ってるんだ!」

恭生の大声にピクッと身をすくめる貴理。

「そりゃ、僕は阿呆だよ。子供だよ。だけど、それでも」

恭生は貴理を思い切り抱きしめ、顔をせて言いました。

「思い出より、貴理の方が大事な事くらいは、判ってるんだよ」

震える貴理。でもその震えはさっきまでの震えとは明らかに違う震え。

「だから、そのためにここに来たっていうのに」

無意識に貴理の首筋に舌をはわせる恭生。

「た、恭生」

「そのために来たんだぞ、僕は」

貴理の首筋を舐めながら恭生は思います。

本当は最初にこの集落に来たときから。

バス停で貴理の姿を見つけたときからずっと気付いていた。

「貴理に会うために」

 

背中に回した手の力を少し抜いて、愛でるようにその肩から脇腹を撫でる恭生。

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

レ○プ突入。

流れ出した音楽がめちゃくちゃサスペンス風だったことに不安を覚えたら案の定でした。

突然欲情した恭生を止められるものは何も無く。

逃げようとする貴理を強引に押さえ込み。

やめろ!! と言う俺の声も届かず。

今まさに俺の貴理が犯られてしまわんとしたその時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『僕はその刺激に、ハッと思わず腰から力が抜けた』

 『けど僕は、狂ったように、再び腰をつきたてた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ〜〜。

助かった……。

 

ダメだ。ダメなんだよ恭生!!

やっぱり和○じゃなきゃ!!

強○なんてもっての他だ!!!

 

と言う訳で前者を選択。

 

−−−き、貴理……

「お願い……」

−−−ぼ、僕は……

僕は、いったい何をしようとしているんだろう。

 

「……ウッ」

呆然を貴理を見下ろす恭生。

「ウウッ」

乱された服装を直そうともせず、ただ泣いている貴理。

−−−どうして……

「ウッ、バカァ……」

呆然としながらズボンを履いていく恭生。

「バカ、恭生のバカ」

−−−何をやってるんだ、僕は。

乱れた貴理の服装。

露になった肌を見ても最早痛々しいばかり。

そしてそれは全て自分のやったこと。

「……ウッ、何で、バカ」

−−−阿呆が!

自分の行動を思うと呼吸困難なほど胸が締め付けられて、息が苦しくなる恭生。

……なにをやってるんだ!

「……ゴメン」

それが恭生の精一杯でした。

「ウウッ」

身体を丸めて泣き続ける貴理。

せめて胸元だけでも隠させようと恭生は貴理の服に手を伸ばしますが、それにも怯えたようにビクッと反応する貴理。

「……服を、服をなおすだけだから」

そう言ってブラウスをかけてやる恭生。

「ごめん、勝手なことをして」

貴理が好きだった。

でも貴理をこんな目にあわせるつもりじゃなかった。

「貴理が、だけど僕は……だから、会えないなんていうのは嫌で」

何を言っていいのかわからない恭生。

「もう一度、でも僕が……嫌っていい、だけど好きだったんだ」

ただ無意識に並べられる言葉。

−−−好きだったのに……

「すまなかった。……訴えてくれても、いいから」

バン!

激しく自分の太股を殴る恭生。

バン!

もう一度。

「僕は愚かだ」

「あ、あのね恭生」

耐え切れずに猛然と恭生は立ち上がりました。

身体を動かし、自分を虐めたかったから。

「わたし、こ、怖かったの」

傍らにあった自分のシャツを掴む恭生。

「だから、あの、でも……」

「本当にゴメン、すまなかった」

「怖かったけど、だけど」

泣きながら何かを訴えるように恭生を見上げる貴理。

「だけどね、恭生!」

でも恭生はその視線から逃げ出すように。

いや実際に逃げ出して、駆け出してしまったのでした……。

 

 

こ、これは一体…………。

ま、まさかの展開です。

恭生、何してくれちゃってるんだよ……。

 

果たして恭生と貴理はどうなってしまうのでしょうか……。

以下次回……。


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