2002.2.11 「すれ違う想い…」編
さてまいりましょう!!
【8/3】
全身の筋肉痛と共に目覚めた貴理は朝食を済ませると小学校へと向かいました。
誰もいない校庭を見て恭生が来ているかもしれない、と期待していた自分がおかしくなる貴理。
本当に自分と恭生で何かを埋めたのか。
そんな思いが貴理をよぎります。
埋めたんだとしても恭生は別の誰かと埋めたのを貴理と埋めたと勘違いしているのではないか。
一緒に埋めたのが本当に自分であるよう祈らずにはいられない貴理。
貴理は校舎の中に入って初めて恭生を会った時のことを思い浮かべます。
『覚えていないか、あの頃』
そう恭生に聞かれた時に貴理が思い出したのは全然別のことでした。
初めてキスしたあの日のこと。
きっともう恭生は忘れている、そう貴理は思うのでした。
バス停まで帰ってきたところで冬子さんが戻ってきている、と恭生が言っていたことを思い出した貴理。
冬子さんが居る場所は限られている、と貴理がやってきたのは『戸田旅館』。
村にある唯一の旅館です。
ダムに沈む村の最後の夏を過ごしに来ている人達でいっぱいの戸田旅館。
貴理はその中に入ると旅館のおばちゃんに冬子さんを呼び出してもらいました。
「あら、誰かと思えば、貴理じゃない!」
「先輩!」
久しぶりに会う冬子さんは垢抜けていました。
そして冬子さんが恭生のことを『古積くん』と呼ぶのを聞いてドキッとする貴理。
自分は『恭生』と呼んでいる、その意味を考えさせられたから。
でも恭生は恭生だから。そう貴理は思うのでした。
ドライブがてら、できたばかりの展望台へと向かった2人。
集落が一望できる展望台で2人はしばらく無言のまま。
「何をやってるのかしらね、まったく……」
ふとそんな言葉を漏らした冬子さん。
誰に言うでもないその言葉に貴理は何も言う事ができず、さらに2人は無言のまま。
その頃。
恭生が昼食を終えて小学校の校庭へ向かうと既に英輝が来ていました。
本当に埋めたのか、と言う英輝の言葉に多少自信が無くなってきている恭生。
それでもここに埋めたんだ、と言い切って2人は作業を始めます。
早めに作業を切り上げて雑貨屋へと向かう2人。
日曜日なので雑貨屋は休みでした。
2人は自販機でビールを買って飲みます。
しつこいようですが『受験生』で『3年生』だけど『高校3年生』じゃないですから。
ビールを飲みながら英輝の口から語られたのはこの村の現実。
誰もがダムに関わって仕事していて、もうダムが無いと誰も村に住むことができないという現実。
英輝は言います。
小川先輩(冬子さん)のように思い出の為に戻ってきた人は嫌い。
でもあの人の家は最後までダムに反対していた。だからダムの仕事がもらえなかった。
「誰より反対したから、誰より先にここを離れなければならなかった、っていうのは、皮肉だよな」
ただ反対すれいい存在ではないダムに対して複雑な思いを抱いている英輝。
「特に、貴理の家ではそうだ。貴理の親父さんが、ダムの為にこの村に移り住んできた人だからな。この集落で、貴理の家の立場は微妙なんだよ」
俺は初耳でしたが、それは恭生もわかっていました。
それでもこの村に消えて欲しくない恭生。
そんな恭生を物好きだと英輝は笑い、恭生も笑い、2人は笑いながら家に帰るのでした。
その夜、英助爺さんに何故村の人達はダムに反対しなかったのか、と軽い気持ちで聞いてしまった恭生。
英助爺さんはそれぞれに事情がある、と怒鳴るとそれきり何も答えません。
英助爺さんはダムに反対していた人。やはり複雑な気持ちもあるのでしょう。
【8/4】
貴理は夏期講習。
バス停に遅れそうになったので走って駆けつけます。
そんな貴理にペットボトルを差し出す有夏。
恭生と最初に会った時を思い出して「いいの?」を意地悪いことを言う貴理(言わせたのは俺)。
そうじゃなかったら自分から言い出さない、と有夏は言います。
「……それに、先輩とならむしろ嬉しいですし」
「あ、あのね、有夏……」
「ふふっ、仕返しでーす」
早くもレ○っぽい雰囲気を漂わせる有夏と貴理はバスに乗って学校へと向かいます。
朝、軽い火傷を負ってしまった貴理は弓道部の部活を休んで小学校へと向かいます。
貴理は弓道部のレギュラー、そして有夏はマネージャーだそうです。
小学校の校庭にいた恭生が真っ先に貴理の包帯に気付きました。
心配する恭生に土いじりは禁止されてやることが無い貴理。
ハンカチで恭生の汗を拭いてやったり、それを英輝にからかわれたり。
そんなことをしながら結局何も見つからないまま日は暮れてしまいました。
貴理の自宅にて。
寝たきりの祖母の面倒を見るために母親が家を離れているので、貴理は父親と2人暮らし。
ダムの建設で忙しい父親と一緒に食事をとるのは久しぶりです。
工事の進展状況を語る父親。
今の家もあと2ヶ月ぐらいで取り壊しに遭う運命。
そんな貴理の心情はいかなるものか…。
部屋に帰り1人涙を流す貴理。
でも自分は泣いてはいけない。
ダムが無ければ父親はここへは来なかった。
ダムが無ければ自分は生まれなかった。
そんな自分に泣く資格なんて無い。
ダムなんてなければ恭生もずっとここに来られたのかもしれなかった。
自分だけは悲しんじゃいけない。
そう思いながら貴理は突っ伏すのでした。
【8/5】
朝の散歩で渓流沿いを歩く恭生。
そこで見かけた恵に思わず声をかけました。
夏休みの課題で渓流のゴミを拾っている、と言う恵。
あと1年もしないうちにダムの底の底、ヘドロに沈んでしまう渓流のゴミを拾う恵にそんなことが言えるはずもなく、恭生はゴミ拾いを手伝います。
家に戻って朝食。その後は勉強。
昼頃になってお客さんが来た、と言う英助爺さんの言葉に玄関まで出て行ってみるとそれは冬子さんでした。
昼間からビールを飲み、昔話に花を咲かせる冬子さんと英助爺さん。
やがて昼食も終わり、冬子さんの車でドライブに出かける恭生。
2人は冬子さんの提案で貴理達の学校へと向かいました。
学校に到着するとちょうど部活中。
弓道場を覗くとそこには紺色の袴姿をした貴理が。
長い髪が邪魔になるのか、髪の毛はポニーテールにまとめてあります。
っつーかポニーテールラヴ!!
まぁそれはいいとして中に入っていく2人。
「冬子先輩! それに恭生も!?」
2人に気付いた貴理がビックリしてます。
恭生まで来たことにやや不機嫌そうな貴理。
そこに有夏もやってきましたが冬子さんとはお互いに面識が無いようです。
とりあえずお互いに自己紹介。
その後は出してもらった麦茶などを飲みながら雑談を交わす4人ですが、相変わらず恭生に対してはどこか刺々しい貴理。
冬子さんと一緒に来たことでヤキモチでもやいてるのでしょうか。
そして貴理は練習に戻っていきました。
弓を射る貴理の姿は凛々しくていい感じです。
特にポニーテールが。
しばらく練習風景を見ていた恭生達。
結局道場を出たのは貴理達がバスの時間に合わせて部活を終えた時間でした。
ここで選択肢。
自分もバスで帰るか、冬子さんと一緒に車で帰るか。
ここはバスで帰ることにしましょう。
と言うより貴理と一緒に帰ることにしましょう。
「別に、先輩と一緒でもいいのよ」
少し不満げに言う貴理。
「そうだね。それじゃ、やっぱり冬子さんと一緒に帰るか」
バカ。
恭生がそう言うと貴理の不満の色がさらに濃くなりました。
それを恭生は貴理もオープンカーに乗りたいんだろう、なんて思ってます。
結局恭生は冬子さんの車で帰ることに。
「じゃあ、また後でね」
貴理達よりも先に小学校に着いて、英輝と一緒に先に作業をしていたところに貴理達もやってきました。
「今日は、わたしも掘るから」
そう宣言すると英輝から大きいスコップを奪い取る貴理。
力仕事は自分達がやる、と英輝が言っても貴理は聞きません。
そんな貴理を見て英輝はお前が何かしたのか、と恭生に聞いてきます。
何もしてない、と恭生。
何かまずいことをしたか…と思い起こしてみると、、思い当たるのただ1つ。
もしかしたら貴理は自分が冬子さんと一緒に帰ったことを怒っているのかもしれない、と恭生が考えます。
っつーか俺は貴理と一緒に帰りたかったんだよ!!
それを……それを…………!!
まぁそれはいいとして。
もしそうだとすると、貴理は自分が…とそんなことを考えるのは失礼だ、と恭生は考えることをやめるのでした。
貴理と一緒に穴掘り作業。
それが妙に嬉しい恭生。
結局見つからないまま今日も終わるのでした。
【8/6】
昼過ぎまで勉強していた恭生のところに冬子さんが訪ねてきました。
恭生に会いに来た、と色っぽく迫ってくる冬子さんを適当にあしらわせて、2人はダム建設現場へ。
まだちゃんと見たことがなかったでしょう、と冬子さん。
確かにその通りだった恭生ですが、何故わかったのか、と冬子さんに聞くと答えは簡単でした。
「……だって、わたしだって、一人だったら見に来られなかったわ」
現場はすごい迫力でした。
だからこそ無償に腹が立って仕方ない恭生。
これだけの知恵と技術があって、どうしてただ川を堰き止める方法でしか、川が守れないなんていうのか。
そんな恭生の気持ちも関係無く、中を見学したい、と言い出した冬子さん。
冬子さんの希望に警備員が責任者を呼んでくれました。
やってききたのは貴理の父親・章。
懐かしそうに恭生に話しかけてきた章は、冬子さんとも顔見知りのようです。
君らなら案内しないわけにもいなかいな、と2人をゲートの中に入れてくれました。
詳しく説明しながら中を案内してくれる章ですが、それを聞いても恭生の心は躍りません。
初めてダムを見た時のような感激もありません。
それでも冬子さんは最後まで楽しそうに質問などをしていました。
小一時間後、章に送られてゲートに戻った2人。
別れ際、恭生はつい章に質問してしまいました。
本当にこんなダムを作る必要があるのか、と。
「……必要でなければ、こんなに苦労してまで、わたしたちはダムを造らないよ」
そう言って微笑む章に冬子さんも賛同します。
「必要あるに、きまってるじゃない」
でもその言葉は皮肉っぽく聞こえます。
「こんなに沢山、山を掘るのよ。とってもいいお仕事なの、判るでしょ」
そう言う冬子さんの心情を量ることはできません。
本当にダムはできてしまう、村は沈んでしまう。
そのことをはっきりと認識してしまった恭生は思わず目頭が熱くなってしまうのでした。
小学校まで車で送ってくれる、と言う冬子さんの言葉を断った恭生。
とりあえず冬子さんが宿泊している戸田旅館まで2人はやってきました。
そして恭生に元気はありません。
ただ無力な自分を嘆くだけです。
「それをやめなさい、っていってるの」
冬子さんはそう言うと恭生の目の前に立ち、両肩に手を置いて背伸びをしてきました。
……えっ?
恭生にキスをしてきた冬子さん。
「どこかが、汚れてた訳じゃないわよ」
何がおきたのかとっさに理解できない恭生。
「たんなる挨拶よ、挨拶」
そう言って冬子さんは去っていきました。
挨拶か…冬子さん、アメリカナイズされてたんですね……(違う)。
小学校の校庭に行って貴理達と合流。
恭生は冬子さんとキスしたことなんて絶対に貴理達には言えない、と心に誓います。
『……あれは、なかったことにしておこう』
『……でも、また機会があるといいなぁ』
世界の人口の半分を占める『男性』なら100%後者だと思います。
だって思うだけですよ?
ここでどう思おうが実際の出来事には関係無いじゃないですか。
Butしかし、これは「僕夏」なのです。ゲームなのです。
心で思ったことが直接今後の出来事に反映されてしまうバーチャルな世界なのです。
冬子さんとはまた後ほど、と言う事で前者を選択。無かったことにしときましょう。
炎天下の下、作業を続ける4人でしたが、そのうち夕立が降ってきました。
貴理と有夏は校舎に戻らせて、作業に一区切りをつけるために恭生と英輝は作業を続けます。
ドロドロになった2人が校舎に戻ると英輝が恭生に言って来ました。
まだしばらく続けるつもりなのか、と。
自分と恭生はいい。もうこんな風に子供のように遊ぶ機会は無いかもしれないから。
でも貴理と有夏は違う。
「本当は、俺が言う事じゃないんだろうけどさ」
それは恭生にもわかっていました。
「有夏ちゃんが手伝ってくれるのは、僕の為じゃなくて、貴理の為だって事くらいは、判ってるよ」
そして英輝を見て恭生は言います。
「英輝にとっては、それが辛いこともね」
「俺のことはどーでもいーんだよ、別に!」
真っ赤な顔をして大声を上げる英輝。
「有夏のこともまぁ、今はどうでもよくて、肝心なのは……」
とそこまで英輝が言ったところで貴理がやってきました。
「もー、なにしてるのよ」
ずっと上で待ってるのに、と貴理。
泥だらけだから、と言い訳する2人。
英輝は一体何を言おうとしたのか。
それはきっと恭生と貴理のこと。
貴理がどんな気持ちで恭生の探し物を手伝っているのか。
それを言いたかったのでしょう。
ホースでそのまま洗って、それも終わった頃には夕立も弱まってきていました。
でも雨が止む気配はありません。
「どうする?」
結局今日の作業はこれでお終い。
有夏が見つけてきた傘は2本だけでした。
1本は有夏が使うことにして、英輝は家が近いからいらない、と言います。
残った1本を貴理は恭生に使え、と差し出してきました。
恭生は居候の身だからずぶぬれで帰ったら英助爺さんに怒られるだろう、と。
貴理一筋の有夏はブラウスが透けてしまう、と貴理に使うよう言います。
もちろん恭生も貴理に使うよう言いますが貴理は言う事を聞きません。
そこで見かねたように英輝が2人で帰ればいいじゃないか、と言い出しました。
貴理が恭生が暮らしている本庄家まで一緒に行けば問題無い、と。
「別に、相合い傘だと恥ずかしがる歳でもあるまい?」
その相合い傘が恥ずかしい恭生。
「……わたしは、恭生さえよければ、それでもいいよ」
ほのかに頬を赤らめながら小声で頷く貴理。
「だったら、わたしの傘、先輩に貸しますよ」
当然そんなことになったら有夏も黙っていられません。
っつーかドロドロしてんなぁ、この4人。
「わたしの家が一番近いし、それにわたしの家寄ってからでも」
「有夏ちゃんちは、近いけど、方向反対側だろ」
「そうよ。……そうだ、有夏は原くんと一緒に帰ったら? 方向一緒なんだし」
「嫌です」
有夏即答。英輝は苦笑い。ちなみに『原くん』というのは英輝のことです。
結局傘は1本を有夏が使って、残りの1本を貴理と恭生が。英輝は走って帰ってきました。
有夏は最後まで渋っていましたが帰っていきました。
2人で傘をさして恭生の家まで着いた貴理と恭生。
英助爺さんもいると思うけどどうする? と恭生が聞くと貴理は考えた後、挨拶していく、と答えました。
ダムを造っている人間の娘である貴理。
そしてダムに反対していた英助爺さん。
それを越えて貴理は挨拶してく、と言うのです。
玄関を開けて家の中に入る2人。
英助爺さんが出てくると貴理はコチコチに緊張していますが爺さんはにこやかに話しかけてきます。
漢です、英助爺さん。
一緒に恭生と風呂に入ってけ、と言う言葉に顔を赤らめる貴理。
結局そのまま逃げるように帰っていってしまいました。
英助爺さんは何も気にしちゃいない、ってことですね。
さすがだ。さっきも言ったけど漢だぜ、英助爺さん。
関係ありませんが一緒にお風呂に入りたかったなぁ、と思わずにはいられない俺でした。
【8/7】
学校に向かうバスの中で有夏は弟の和典のイタズラのことを貴理に話します。
怒っているように見える(実際に怒ってるんでしょうが)有夏ですが、貴理にしてみればそれは2人の間にある愛情の表現なんだということがわかっています。
そんな有夏を見ていて羨ましいと思う貴理。
講習も終わって部活に行く2人。
夏休み中に練習に来るような部員は他にはいないので道場には2人きりです。
最後の大会なので頑張って欲しい、と言う有夏。
最近は恭生の探し物のせいで練習時間が減ってる、という有夏の言葉に貴理は鼓動が高鳴ります。
別に恭生のために練習時間を減らしてるわけじゃない、と貴理。
有夏は恭生が本当に探す気があるのか、と不機嫌そうです。
「昨日、古積さんが、小川先輩と、また二人でオープンカーにのっているところを見ちゃったんです」
冬子さんと恭生が。
その言葉にまたドキッとする貴理。
有夏はあくまで不機嫌です。
それを貴理は軽く流します。
冬子さんも手伝ってくれればいいのに、と有夏は言いますが貴理はそれに賛成できません。
冬子さんに穴掘りなんて似合わないから。
でも本当の理由は違います。
探し物を埋めたのは。恭生と一緒に埋めたのは自分の筈だから。
恭生が手伝って欲しいと頼ってきたのは自分だから。
「でも、小川先輩と、古積さん」
……
「昨日、キスしてましたよ」
……
−−−キス?
……キス−−−!?
「そういう関係なんですよね。だったら」
「あ、有夏」
震える声。
「あ、あのね」
「でも、古積さんも、案外すみにおけませんよね」
黙ってろ。
「あんな綺麗なお姉さんと、すぐに仲良くなれるなんて」
黙ってろ。
「その、本当? た、恭生と冬子さんが、キスしてた、って」
弱々しい声で訪ねる貴理。
「見間違いじゃない? だって」
「見間違いなんかじゃいですよぉ」
屈託のない表情を浮かべて有夏は言葉を続けます。
「昨日、学校に行く前にいったん家に冷やしたゼリー取りに帰った時、みたんです。
戸田旅館の前で、あの小さなオープンカーの横で」
その言葉に貴理の全身の筋肉がこわばりました。
「確かに、キスしてましたよ」
お前、もう黙ってろマジで。
「大丈夫ですか? 先輩」
帰りのバスの中。
「うん、平気」
有夏の話がショックで体調まで悪くなってしまったような貴理。
今日は作業を休んでゆっくり休んでください、と有夏。
さらに家まで送る、と言う有夏に貴理は「みんなに今日は休む」と伝えてくれと言います。
『恭生に』ではなく『みんなに』。
みんなと言っても恭生と英輝しかいないのですが、恭生の名前を避けてしまう貴理です。
有夏への頼みごとなんてのもただの口実。
貴理は一刻も早く一人きりになりたかっただけなのです。
貴理の分まで頑張って手伝ってきます、と有夏。
そんな有夏に申し訳なく思いながらも貴理は一人になりたいのでした。
「キス、してたのかぁ」
川面に石を投げ込みつつ、一人つぶやく貴理。
『恭生と冬子先輩がキスしていた』
そのことだけが貴理の頭の中をめぐります。
ショックではあっても意外ではないその事実。
恭生と冬子さん。
2人はお似合いかもしれない。
そんなことを貴理は考えます。
−−−でも、でも。
冬子先輩はスマートでかっこいいけど、わ、わたしだって、プロポーションはそんなに悪くないし。
ずっと……、冬子先輩よりずっと長く一緒に過ごしてきた。
思い出の品物を探そうって、誘われたのもわたしだし。
歳だって近いし、それに。
……恭生と、初めてキスしたのはわたしだし。
今となっては感触すら覚えていない、いつだったかもわからないおぼろげな記憶。
その時はキスだという意識もなく、なんとなく恭生と口を合わせてみたいだけだった。
それでも自分のファーストキスの相手は確かに恭生だった。
「わたしが、もう奪ってあるんだもん」
−−−でも、そんなの、なんの意味もないのよね。
自分で口にした言葉にさらに落ち込む貴理。
……所詮、恭生が覚えてないようなキスだし。
「……バカ」
貴理の目から涙がこぼれます。
わかっていた。
バカは自分だった。
恭生と冬子さんがキスしていたと聞かされて、初めてこんなにも恭生のことが気になってることに気付く自分が。
自分でもこの気持ちが何なのか判らない貴理。
「バカ、恭生のバカ」
どうしたらいいのかわからないまま貴理は涙を流し続けるのでした……。
うわっ、せつねー。
それにしても有夏、お前の魂胆ミエミエだぞ。
恭生と冬子さんがキスしてたことを貴理に告げ口して、貴理の心を恭生から離そうとしたんだろ?
でもその結果として貴理が自分の気持ちに気付こうとしています。
これによって恭生と貴理の関係がどう変わっていくのか…。
【8/8】
英助爺さんよりも先に起きて朝食の準備をする恭生。
案の定爺さんはビックリ。
その代わり昼食は爺さんが作りました。
この辺のやり取りがすごい『家族』みたいで好きです。
そして爺さんの話から翌日は祭りであることを知らされます。
ダムに沈む村の最後の祭り。
盛大にやらなくてはならん、と爺さん。
恭生も祭りを楽しみにしながら作業に出かけます。
翌日は祭りのため作業はできないだろう、と早めに小学校へ。
まだバスは帰ってきていないため誰も校庭にはいません。
貴理の体調を心配しながら一人で準備を始める恭生。
祭りのことも考えて今日は早めに作業をきりあげようか、と考えながら作業をしていると英輝がやってきました。
作業をしながら話は進路のことに。
英輝は経済関係に進む、と言います。
そのきっかけはダム。
ダムと言うのは学者に言わせると経済らしい。
だったらこのダムに沈む人々が経済的にどう換算されているのかを知りたい、と英輝。
そして恭生は医学系に進みたい、と言います。
「爺さんも、もういい歳なのに、ここじゃ病気になっても医者が居ないだろ」
医者になれるかどうかは判らないけどね、という恭生に英輝は賛同します。
お互い照れくさそうに笑う2人。
やがて貴理と有夏がやってきました。
もう体調は悪くない、と言う貴理ですがいつもの元気は全くありません。
これだけ掘り返せば無理は無い、と英輝は周りを見渡します。
小学校の校庭のかなりの部分が既に掘り返されていました。
やっぱり場所を間違えてないか、と英輝は言います。
確かに埋めた、と断言できない恭生。
英輝も貴理や有夏の元気が無くて気まずい思いをしているのです。
その空気を何とか変えようとしているのが恭生にもわかります。
英輝にだけこの先も手伝ってもらって、貴理と有夏にだけもういい、などと言えるわけが無い。
そう思った恭生はもう穴掘りは終わりにする、と貴理と有夏に向かって言いました。
「わたしはいいのよ、別に」
「いや、もう一通りは探したから」
済まなそうな顔をしている貴理に笑いかける恭生。
「最初から、貴理は覚えていないって言ってたし、英輝の言うように、僕の思い違いだったのかもしれないから」
「そんな、そんな意味でわたしは」
「とにかく、一度落ち着いて考えてみるよ」
そう言って立ち上がると恭生はもう一度礼を言います。
「校庭を掘り返すのは、とりあえず終わりにしよう。本当に、これまで手伝ってくれてどうもありがとう」
「今日はもうこれで終わりでいいのか?」
明日の祭りの準備もあるし、と取り繕う恭生。
結局スコップ等の備品を片付けて、4人での探し物は終わりを遂げたのでした。
夜。
1人で布団に横になって思いを馳せる恭生。
−−−結局、見つからなかった。
不機嫌そうな貴理。作業に疲れてきていた有夏。
そんな2人の態度が気になって仕方ない様子の英輝。
もうやめる潮時だった。
そう考えても恭生の心は晴れません。
貴理と2人で掘り出したかった。
自分一人で掘り出しても意味が無い。
……でも、もう今しかないんだよな。
この村はダムに沈んでしまう。掘り出すのだとしたら今しかない。
たとえ1人でも。
来週、また頑張るか。
これからは誰も頼らず一人で探すしかない。
それはまだいいとしても貴理の不機嫌な様子が気になります。
一昨日まで一番熱心に手伝ってくれていたのは貴理だったのです。
自分が何かまずいことでもしたのか。
でも思い当たるふしは何もありません。
原因は自分ではないのかもしれない。
学校や部活、そして家庭。
無意識のうちに原因は自分だと思っていたのを恥じながら恭生は眠りにつくのでした。
一人でも探し物を続けることを決意した恭生。
果たして探し物は見つかるのか?
そして貴理との関係は!?
【8/9】
朝。
爺さんから小遣いをもらいました。
祭りでみんなで遊びなさい、と言うのです。
勉強しようにもどうしても心は夜の祭りに移ろいがちな恭生。
昼過ぎには家を飛び出してしまいました。
バスのロータリーは既にたくさんの人で賑わっていました。
「よう、もう来たのか」
そこへ話しかけてきたのはすでに浴衣姿の英輝。
この祭りにあわせて帰省してきている人もたくさんいるのでいつもとは段違いの賑わいです。
恭生にも村のハッピを勧める英輝ですが恭生はそれを断ります。
昔からよく来ている恭生のことはみんな知っているし、そんな恭生がハッピを着ても誰も文句を言うはずがありません。
恭生自身も着てみたい気持ちはあります。
でも分はわきまえておきたい、と恭生は言います。
それにハッピを着てないからと言って余所者扱いはしないだろう、と言う恭生の言葉に英輝は笑って言いました。
「せいぜい、こき使ってやるよ」
英輝と共に祭りの準備をしているといつの間にか夕方になりました。
「古積さーん」
そこにやってきたのは有夏。
「着付けに手間取って、遅くなっちゃったんです」
しばらくすると貴理と冬子さんもやってきて全員集合。
ポニーテールの貴理。グッ。 (←手を握り締める音)
冬子さんとはたまたま出合っただけのようですが。
「やっぱり、お祭りで最初に食べるものといえば、綿飴ですよね!」
「そんなゲロ甘いもん、いきなり食えるかよ!」
「ひどーい、美味しいのに」
ポカポカと英輝の背中を叩く有夏。
こうして祭りは始まりました。
祭りのせいか妙に高いテンションのまま楽しむ5人。
すると金魚すくいをしている有夏の弟・和典とその幼馴染・恵の姿がありました。
2人も混ざって楽しいひと時を過ごします。
そしていつしか祭りは最高潮を迎えようとしていました。
そんな中、恭生と貴理は他の連中とははぐれてしまい2人きりに。
お約束です。
「完全に、見失っちゃったわね」
「そんなに大きな祭りでもないし、広い会場でもないんだけどな」
そうは言っても最後の祭りと言う事で多くの人達が押し寄せてきていました。
一度はぐれたらなかなか出会うことはできそうにありません。
それに恭生には必死で探そうと言う気はありませんでした。
少し疲れてきていた2人は人ごみを抜けて少し休むことに。
そして歩き出した恭生の腕に後ろからそっと添えられたのは貴理の手。
恭生は驚きながらも振り向くことはしません。
ひょっとしたらはぐれないためにやっただけで貴理にしてみれば深い意味はないのかもしれない。
それに恭生にとってその重みが腕にあるのはとても自然な感じがしたから。
こっちにしてみれば貴理の立絵は顔が真っ赤になっているのでミエミエなんですが。
祭りの喧騒を抜けて、離れた石垣に座る2人。
にぎやかな祭りの音が聞こえてきます。
いつまでいるつもりなのか、という貴理の質問に夏休み一杯はいられない、と恭生。
穴を掘ってばっかりだった夏休みをお互いに謝りながら、ふと貴理が言い出しました。
「……あ、あのね?」
「ん、なに?」
「昼間、冬子先輩と……」
モジモジしながら話す貴理。
冬子さんの名前に少し緊張しながら続きを待つ恭生。
「……ううん、なんでもない」
そう言って貴理は首を左右に振るだけです。
そして明るい声で言いました。
「あのね、この夏、わたし結構楽しみにしてたんだ」
「楽しみ?」
「うん。恭生が来る、って知った時」
そう言いながら恭生に近づいてきた貴理。
「なんだか、いろんなことができる夏になるような気がした。何でも出来る夏に。二人で、ずっと一緒に遊びまわった、あの頃のように」
二人の距離は膝が触れ合いそうなところまでになっていました。
その状態で恭生を見つける貴理。
「でも、そんなのは幻だったね」
「……貴理」
一瞬言葉を失う恭生。
「ねえ、恭生は、また明日からも思い出探し?」
「ああ」
「埋まっているのが何なのか、わたしは知らないけど」
貴理は恭生をじっと見つけたまま話します。
「もうそんなにここで過ごす時間は残ってないんでしょ? なのに、まだ探すの?」
恭生は一瞬息が詰まって答えることができません。
「そんなに、見つけたいの?」
『……うん』
『……いや、探し物はもういいよ』
…………ど、どうしよう?
恭生が(俺が)探し物をしているのは貴理との思い出であり、約束であるから。
でももう貴理と共に過ごせる時間があまりありません。
……………………探そう。
貴理との約束を果たしたい。
「……うん」
意を決してそう言った(言わされた)恭生。
「確かに、せっかくの夏休みなのに、みんなに手伝ってもらって申し訳ないって思ってる」
でも。
−−−どうしても見つけたい
その気持ちに変わりはありませんでした。
貴理と、一緒に埋めたものだから。
本当なら、貴理と一緒に。
「無駄かもしれないけどね」
「無駄、ってことはないと思うけど、でも」
そこまで言った貴理の言葉をさえぎるように恭生は言葉を続けます。
「ダムが出来たら、もう二度と機会がなくなるから、後悔はしないようにしたいんだ」
「……やっぱり、そうなんだ」
その言葉にどこか吹っ切れたような顔で笑う貴理。
「ええとね」
一瞬顔を伏せて貴理は語ります。
「一週間、ずっと考えたけど、わたし、やっぱり思い出せなかったの」
「貴理、ちょっと」
「あの頃の事で覚えていたのは、恭生は覚えていないような、ほんの些細な事だけ」
−−−な、何だ?
「あ、あのね」
突然不安に襲われた恭生。
「昼間は、冬子先輩が一緒に遊んでくれるみたいだから、わたしなんか必要ないし」
かすかに潤んだ瞳で顔を上げる貴理。
「あの校庭で恭生の探している思い出と、わたしにとって大切な記憶は、どうやら違うみたい」
顔を近づけてきた貴理ですが、恭生には現実感がありません。
「だから、わたしもう探し物には行かない」
呆気にとられる恭生。
−−−だから、そんな意味じゃなくて……
言いたいことはたくさんあるのに恭生は身体が固まってしまい動くことができないまま。
顔を寄せてくる貴理。
そして……。
一瞬だけ触れ合ったお互いの唇。
「じゃあね。もう行くね」
すばやく身を翻し、立ち上がったき貴理はそう告げました。
「貴理!」
「探し物、がんばって」
そう言って走り去ってしまった貴理。
貴理の部屋。
−−−どうして、こうなっちゃったんだろう。
ずっと信じていたのかもしれない幼い日のキス。
やっと気付くことが出来た自分の気持ち。
でももう遅すぎる。
貴理は一人、涙を流すのでした……。
どっしぇ〜〜!!
な、なんてことに!!
恭生の探し物は貴理との思い出のためなのに……。
それ故に貴理と離れなければならないんて……り、理不尽だ!!
貴理とのキスは嬉しかったけど、それ以上に辛いぞ!!
果たして恭生と貴理はどうなってしまうのか!?
以下次回!!