G線上の魔王

発売日
2008/05/29
シナリオ
るーすぼーい
原画
有葉
音楽
tiko-μ

 「G線上の魔王」のレビュー&感想をば。ネタバレは可能な限り回避致しますが、その辺が致命的な作品ですのでご注意願います。

■絵■

 原画は有葉さん。安定してるなー、と言う印象。カットイン的なCGは動きが感じられてよかったと思いますし、数は少ないながらもデフォルメ絵がいい味だしてました。

■音楽■

 OP・ED・挿入歌とボーカル曲は3曲。サスペンスフル(造語)なOPやEDも良かったと思いますが、印象に残っているのは有名なクラシックの名曲をアレンジしたBGMの数々でしょうか。

■シナリオ■

 簡単なあらすじ暴力団の組長を養父に持つ主人公・浅井京介は表と裏を使い分けながら、学園生活を送っていた。そんなある日、”勇者”を名乗る風変わりな転校生・宇佐美ハルが現れ、更に数々の犯罪や凶悪事件の裏で暗躍する”魔王”の存在が明らかになる。ハルと共に”魔王”の影を追いかける京介だが、京介自身にも心の闇が……。

 章構成となっていて、2章が椿姫の章、3章が花音の章、4章が水羽の章、5章がハルの章と言って差し支えないでしょう。以下クリア順にヒロイン別感想。

▼美輪椿姫▼

 人となり(?)京介のクラスメート。委員長や生徒会を務める真面目人間だけど、それ以上の特徴は全く人を疑うことを知らない純真人間であるということ。なにかあるたびに持ち歩いている日記にメモをするのが癖で、口調も日記調になることが。大家族の長女で家事や幼い弟達の世話に追われる毎日を送る。

 2章からの分岐で椿姫編に突入します。京介が地上げ絡みの仕事で椿姫の一家を追い出さなくてはならなくなるも、京介自身が椿姫に惹かれるばかりか美輪一家の温かさに触れてしまったが故に、板ばさみとなって苦しむことに……と言うストーリー。椿姫シナリオに入ると”魔王”が完全に影を潜めてしまうのが残念でした。ヘタすると、椿姫の物語って「『G線上の魔王』でやる意味はあるの?」となりかねません。

 その辺は差し引くと、椿姫のストーリーは結構好きです。”魔王”の思惑によって椿姫が世俗にまみれて変わっていってしまうも、そんな椿姫を心から信じている弟によって元の椿姫に引き戻される展開はジーンときました。や、確かに予定調和的な展開ではあるのですが、どこまでも果てしなく純真な美輪一家の絆には心を温めてもらいましたよ。その後の京介の行動は言わずもがな、ですね。ただエピローグの展開は唐突かつ物足りなさがありました。

▼浅井花音▼

 人となり(?)京介の義理の妹で、国内トップクラスのフィギュアスケーター。普段は能天気なホニャララ娘だけど、それはスケート以外は眼中に無い裏返しでもある。母親(京介の養父の愛人)との関係に頭を悩ますも、自分の中に押さえ込んでしまっている。

 3章からの分岐で突入。花音と母親の関係に焦点をあてているので、椿姫以上に”魔王”は関係無くなっていきます。でもメイン以外のシナリオでは一番好きなシナリオですね。娘を苦しめている自覚が全く無いまま、娘可愛さとそれ以上の己可愛さで出しゃばり、口を出し、自分の願望を押し付けては悦に浸る……なんか実際にいそうだなー、こーゆー母親。古くはりえママとか(古過ぎる)。

 ライバルとなる選手が凄くイイ娘として描かれているだけに、やさぐれていく花音との対比が光ること光ること。それ故に母親を許容するシーンでは思わず身震いしてしまった私です。そして渾身の演技と結果発表では三次元から拍手を送りたい気持ちになりました。

▼白鳥水羽▼

 人となり(?)京介のクラスメートで学園長の娘。人を寄せ付けない態度を貫いていて、クラスでも話しかける人間はほとんどいない。でも朝早くに登校してきて花に水をやったりと、優しい一面もある。

 4章からの分岐。実は2年前から京介に片思いをしていた奇特な人です。生き別れていた異母姉・時田ユキが帰ってきたことにより、アドバイスを受ける形で京介に対して果敢に迫る水羽が可愛いこと可愛いこと。話題に困った時の『誰でも子供の頃は○○○だった』シリーズには大いに笑わせて頂いたと同時に、るーすぼーいさんのキャラ作りの上手さを感じました。

 でもシナリオ自体の評価は微妙。分岐後の短さもさることながら、正直何をやりたかったシナリオなのかが伝わってきませんでした。いきなり3年経ってるのが唐突だったのはともかく、主題である水羽とユキの関係をもう少し掘り下げて欲しかったなぁ、と。ぶっちゃけ、かなりヤッツケ感が……。

▼宇佐美ハル▼

 人となり(?)京介のクラスにやってきた転校生。普段は気だるそうな態度で”勇者”を名乗る一風変わった存在だが、その実態は”魔王”を追い詰めるために全てを賭けてきた頭脳明晰な女子生徒。

 メインシナリオ。と言うかこの作品の全てと言っても過言ではありません。京介の過去、ハルの過去、”魔王”との因縁、対決、そして決着。最後の最後まで手に汗握る展開にハラハラドキンチョのモーグタン状態でした。ただ、「車輪の国」をプレイ済みの方であれば誰しも『大ドンデン返し』を期待していて、かつ心の準備をしながら伏線やギミックに目を光らせていたでしょうから、あの『”魔王”=京介の兄』の構図はモロバレだったと言ってもいいでしょう。その辺で「ええええええっ!?」となりたかったプレイヤーにしてみれば、あの地下貯水庫のシーンで衝撃が無かったのは非常に残念。

 その後の街を戦場としたクライマックは緊迫感に溢れ、楽しませて頂いたのは確かです。ただ、終わり方が妙に呆気なく感じられて「ハッピーエンドはいいけど……まぁ面白かったからヨシとするか」と流れるEDスタッフロールを眺めてて、その後に始まったホノボノとしたエピローグ……と思わせたドンデン返し第二弾『生きていた”魔王”』に衝撃。や、落ち着いて考えればあんなにアッサリと人の手にかかって”魔王”が殺されるはずもないし、全てを勘ぐる気持ちを忘れずに持っていれば警戒出来たとは思いますが、貯水庫のシーンが『このゲームにおける最大の衝撃シーン』だったんだろうなぁ、とガッカリしていたことに加えて、EDスタッフロールで完全に気を抜いておりました。むしろ「車輪の国」等で心構えが出来ていた人間であれば気付いてしかるべしだったとは思いますけど、逆に気を抜いていて本当に良かった、と個人的には思ってます。だって衝撃を楽しむことが出来たんですからね。その”衝撃”を重要な楽しみと期待しながらプレイしていた身としては、嬉しい限りなのです。

 エピローグに関しては、もっと手放しで喜べるハッピーエンドの方が良かったかな、と。ドラマとしては悪くないんですけど、あれだけ地獄のような人生を送ってきた彼らには、アホみたいに幸せになってもらいたかったです。面会でバラバラと現れてきたヒロインズ達ですが、あんな風に出すぐらいだったらもっとシナリオに食い込ませて欲しかったなぁ。

 ハル本人に関しては、かなりお気に入りキャラですね。言動の面白さも大好きですし、秘められた暗い部分と普段のギャップも悪くありません。欲を言えばバイオリンを弾くシーンが見たかったかも。あと何気にジャージでの初詣シーン、好きです。

 テンポ良く、回転良く進んでいく展開に、中弛みすることなく最後まで一気にクリアしてしまいました。直情的かつ叙事的と言うか、とにかく独特なるーすぼーいさんのテキストも相変わらず面白いです。第三者的視点からの写実的な描写で熱いシーンを演出する技量は、業界でもトップクラスなのではないでしょうか。『戦闘シーンでもないのに熱い』、これは稀有なことですよ。声を出して笑ってしまったシーンも多かったですし、二転三転する頭脳戦も楽しめましたし、テキストそのものに関する不満はございません。大変満足させて頂きました。

 ではどこが不満だったのか、と言うとハル以外のヒロインの扱いでしょうか。やはりもっと物語の根幹に絡ませて欲しかったなー、と思わずにはいられません。あれだけ魅力的なキャラを埋もれさせてしまったのは勿体無い限りです。それは個別のシナリオでも言えることで、各ヒロインの個別ルートに入った途端、他のヒロインも”魔王”もフェードアウトしてしまう展開は切なかったです。シナリオ単体としては間違いなく楽しめたんですけど、メインシナリオに絡めることでもっと彼女達の魅力を引き出せたはず。嗚呼勿体無い。

 サブキャラに関してですが、まず何と言っても”獣の王”こと京介の養父・浅井権三でしょう。あの死に様は賛否両論ありそうな気がしますけど、私はアリ派。願わくばもっともっともっと恐怖を感じさせる描写を増やして欲しかったです。

 お馬鹿な悪友・栄一。何だかんだ言っても彼の存在が京介の心を癒していたことは事実であり、緊迫したシーンの多いこの作品の中における一服の清涼剤的存在と言えそう。大いに笑わせてもらいました。ハルの親友にして水羽の姉・時田ユキにはもっと活躍して欲しかった、と思うのは私だけじゃないはず。水羽シナリオでは中心人物となりえますが、肝心なハルの親友としての活躍が思っていたよりも少なかったように感じました。や、かなり頑張っていたとは思いますけど、彼女はもっとヤレる子。

 そして忘れてはならないのが”魔王”。正体については京介が過去を思い出すシーンで予想出来てしまいました。京介の二重人格的存在を思わせる演出が最初から散りばめられ、ミスリードするための描写も多かったものの、逆にあざと過ぎた感があります。人を疑うことに慣れた現代日本人には逆効果だったかもしれません。と言っても正体バレはフェイクであり、本当の衝撃的ドンデン返しはラストの『実は生きていた』だったと思ってますし、まんまとそれに乗せられた私です。人に騙された末に殺人を犯した父親を救うためにテロを起こす”魔王”ですが、父親との関係を描く過去の描写が少ないため如何せん感情移入度が低めでした。いきなり出てきた唐突感もありましたしね。その死に様は本当に哀れで哀れで、母親・父親の切なすぎる最期も涙を誘います。せめて最期の瞬間、心は多少なりとも救われたと信じたい……。

 声優さんに関しては文句無しです。かわしまりのさんによるハル、河合春華さんによる花音、紫華すみれさんによる椿姫、海原エレナさんによる水羽、そのいずれもがグッド。紫華すみれさんは演技が特別に上手いとは思わない(失礼な言い草で申し訳ございません)のですが「ハマった時はとことん」な声優さんだと思います。河合さんの声も聴いてるうちに癖になっちゃうんですよね。かわしまさんと海原さんに関してはもう今更何かを言うまでもないでしょう。いわんやユキ役の北都南さんをや。

 あと面白かったのは栄一役の金田まひるさん。正統派ヒロインの金田さん演技はそれほど好きではないのですが、今回の栄一は正にハマリ役でした。脱帽。男性声優さんに関しては、”魔王”のシブい演技も権三の怖い演技も文句ありませんが、一番光っていたのは堀部の超チンピラ臭いボイスだったと思う私でした。

 期待が大きすぎたためか期待以上ではなくとも、期待通りには楽しめました。るーすぼーいさんのテキストに初めて触れる方でも、ファンな方でも楽しめることは請け合いです。心底楽しむコツは『期待しすぎず、深読みしすぎず』でしょうか。


個人的満足度: ★★★★★|★★★★★
執筆: 2008/06/03