キラ☆キラ

メーカー
発売日
2007/11/22
シナリオ
瀬戸口廉也
原画
片倉真二
音楽
milktub

 「キラ☆キラ」のレビュー&感想をば。

■絵■

 おなじみ片倉真二さん。個人的には可も無く不可も無く、すっかり慣れているので違和感も何も全く無し。

■音楽■

 milktub担当。ゲームがバンド物と言う事もあって、主題歌OP・EDのみならず挿入歌としてもボーカル曲がバンバン投入される豪華さは流石です。楽曲に関しては前作でややパワーダウンしたように思ってましたが、本作でmilktubとしてのノリと勢いを取り戻したように感じてます。

■シナリオ■

 簡単なあらすじ主人公・前島鹿之助が幽霊部員として所属していた「第二文芸部」は、諸事情により廃部となることが決定。バイト先で鹿之助と知り合い、同じく第二文芸部に所属していた椎野きらりはとあるきっかけにより文化祭でバンドをやることを思い立ち、やはり第二文芸部の石動千絵・樫原紗理奈、そして鹿之助と共にパンクロックのバンドを結成する。友人の助け等もあって文化祭でのライブを成功させた「第二文芸部バンド」はそのまま解散するはずが、あれよあれよとオンボロ車で西日本を巡るツアーに出ることに……。

 ツアーの大阪までが共通ルートで、その後は各ヒロインのシナリオに入ります。以下クリア順にヒロイン別感想。

▼石動千絵▼

 人となり(?)鹿之助の幼なじみで第二文芸部の部長。バンドではドラムを担当する。鹿之助と同じ受験生ながら、実際には家庭の都合で1年留年している1歳年上なので「千絵姉」と鹿之助は呼んでいる。成績優秀でしっかりしたまとめ役だが、その反面精神的に弱いところも。

 個別ルートに入った時は大阪の後に神戸へ行くことに。その神戸で起こるイベントのうち、カリスマギタリストの一件はともかく、ヤクザの娘と自己啓発セミナー系団体(?)の一件はちょっと唐突過ぎる感じで、それまでの流れからは完全に浮いてしまっていたように感じました。一応帰宅後の流れにも繋がる部分はありましたけど、いまいち必要性が無いような。

 千絵シナリオは千絵が留年する理由にもなった家庭の事情に纏わるいざこざが主軸。ただひたすらに重くて暗い展開は正直あまり好きになれませんでしたけど、ラストの「ロックンローーーール!!」は伏線を上手く使った心地よい終わり方でした。3つのシナリオで唯一、卒業式ライブをちゃんとやってくれるシナリオだったってのも高評価ですが、シナリオがバンド活動と全然関係無い展開となってしまったのは残念。

▼樫原紗理奈▼

 人となり(?)第二文芸部に所属するお嬢様。バンドではギターを担当する。きらりの親友ではあるものの、病弱で口数も少なく大人しいため、他に友人はあまりいない。バンド活動を通じて前向きな性格になっていく。

 個別ルートに入った時は大阪の後に熊本→沖縄へ行くことに。まぁ紗理奈が鹿之助への気持ちを告げる以外に大きな動きは無かったけど、その後鹿之助が自分の気持ちに気付いて積極的に動き出すまでの流れは妙に初々しくてグッド。紗理奈の体のことや両親のことをメインにしてストーリーは進みますが、3つのシナリオの中で一番鹿之助が能動的に行動を起こすのがこの紗理奈シナリオだったと思います。

 祖父の説得とかギターに隠された秘密とかは非常にありがちな素材ではあったものの、ギターから出てきた父親の遺書を説得に使わないってのはちょっと新しかったかも。祖父を完全に説得出来たワケじゃないけど、かなり認められた形になったしこれからも頑張って説得を続けていくことになるエンディングは2人が一緒に歩き始めたこれからの未来を示す形で、その爽やかさがお気に入りです。ただその直前の駅のトイレエロは不要だったと思わないでもなかったり。

▼椎野きらり▼

 人となり(?)第二文芸部に所属する勤労少女。バンドではボーカルを担当するが、一部の曲ではギターを披露することも? 天真爛漫で突拍子も無いことを言い出したりするため誤解されがちだが、実は何をやらせてもこなしてしまう天才でもある。家が貧乏で苦しい生活を送っているけど、そのことを感じさせない明るい少女。

 健気で健気で健気なんだけど、それを感じさせない底抜けの明るさが魅力。でもその裏にある強情さと家庭事情の重さも抜群で、シナリオの展開によってはとんでもなくダークでショッキングな出来事が待ち受けてたり。まさか本当に死ぬとは思わなかった……。ただこの場合にしても、鹿之助がきらりの死を乗り越えて前に進む姿勢を見せてくれるに至る流れが丁寧に描かれているので、単純にバッドエンドとは言い切れません。むしろハッピーエンド至上主義の私であっても、結構好きなエンディングだったりするぐらいです。

 むしろきらりが死なないグッドエンドの方が、鹿之助の心の病が全開であんまりいい気分にはなれませんでした。でもきらりの父親を見殺しにするのかどうかの選択は鹿之助ならずとも煩悶する場面でしょう。その後の苦悩に関しても、凄い人間らしい悩み方だったかなー、と思います。露悪趣味的に村上へ秘密を漏らすのも心理的に納得出来る行動でした。感情移入はちと無理でしたけど。

 前半の共通シナリオはバンド活動を中心とした展開で、後半の個別シナリオは各ヒロインの抱える問題(主に家庭環境にまつわる)を解消していく展開。正直この前半と後半のノリが乖離し過ぎているように感じられました。どちらも面白いんですけど、その面白さのベクトルが完全に別物なんですよね。あくまで予想ではありますが、前半がプロデューサーであるbambooさんがやりたくて仕方の無かったことで、後半がライターである瀬戸口さんが書きたくて仕方の無かったことなのではないかと思ってます。

 紗理奈シナリオでは他の2つのシナリオと比べると、その乖離がそこまで顕著ではなかったかもしれませんが、いずれにしても前半のバンド活動が後半の各個別シナリオであまり活かされてないように思えるんです。もちろんバンド活動を通じて得ることが出来た仲間意識等は後半でも消えることなく続きますが、それは別に”バンド活動”でなくてもよかったのではないかと。他のゲームでならこんな風に思うことは無いんですけど、この「キラ☆キラ」の場合はバンド活動の描写があまりにも光っていたので、逆に浮いてしまったように感じられてしまったのでしょう。

 好きなシナリオ順は【紗理奈>きらりバッド>千絵>きらりグッド】。バッドエンドが上位にあるのは私にとってとても珍しいことですが、上記の通り一概にバッドと言い切れないエンディングだったかと思ってますので(つかエンディング曲もちゃんとありましたし、全然バッドじゃないですよね)。逆に鹿之助がいつまでもグチグチグチグチしてるきらりグッドの方が、あんまり好きじゃなかったりします。ちなみに好きなキャラは紗理奈と村上と殿谷。

 何だかんだ言っても前半のバンド活動の描写と後半の心理描写が、それぞれ別の意味でかなり秀逸だったのは事実。バンドツアーの旅先が綿密な取材に基づいているばかりか、登場するライブハウスも実在のものをそのまま使用してるあたりもニクい演出でした。特にオープニングでも登場し、きらりエンドのスタッフロールでひたすら映像が流されていたライブハウス「LIVE GATE TOKYO」は、私自身が客として頻繁に足を運んでいるライブハウスなだけに余計楽しめました。あとパンクロッカーに必要な『アナーキーの精神』と『ノーフューチャーの精神』はかなり笑えましたよ、ファック。

 長年バンド活動を行ってらっしゃるbambooさんのプロデュースなだけに、妥協の無いこだわりを感じる演出や設定の数々は前半の描写にこれ以上無いリアリティと説得力を与えることに成功していたと思います(もちろんエンタメ的設定や展開であることを前提として)。バンドにハマっていく心理や練習風景など、私はバンドをやったことがないので想像でしかないのですが、経験のある方は「あるある」「そうそう」と頷いてしまうのでは?

 一転、後半になって個別シナリオに突入すると、家庭問題を抱えたヒロイン達の壁にぶち当たる重い展開に。元々思考が内向きで下降気味な鹿之助が更にパワーアップ(マイナス方向に)。少々冗長にも感じられるぐらいの心理描写は瀬戸口さんのテキスト力によって、非常に”読ませる”文章となっておりますが、これはかなり人を選びそうな気がします。行動そのものはさほど突飛なワケではないのに、明らかに心の風邪をひいてる人間的思考を延々と綴られていると、どう転んでもスッキリ爽やかとはいきません。

 難しげな心理学なり哲学書なり何なりが好きな方は、色々と自分なりの解釈をしたり自己投影をしたりと楽しみ方も色々あるんでしょうけど、私は単純に『読み物』として楽しませて頂きました。よくもまぁあそこまで家庭に問題を抱えた人間(鹿之助含む)が集まったもんだ、と思わないでもありませんがそんなツッコミは無粋。

 バンド活動をする上で鹿之助はずっと女装をすることになりますが、ぶっちゃけその設定の必要性はあまり感じませんでした。きらり達が女装に拘るのも意味不明でしたし。でもシナリオが進む上での味付けにはなっていたかと思いますので、あれはあれでよかったのかも。

 声優さんが非公開なのは昔から変わらず。「このキャラは声からして●●さんかな?」みたいなのもありましたが、別にどなたであろうとキャラクターに合い、作品に合っていればそれでOK。

 昔からイベント等でよくbambooさんが仰っていた『ゲームと音楽が対等な作品を作りたい』は、この「キラ☆キラ」でやっと実現したように思えます。第二文芸部バンドの公式サイトや第二文芸部名義のCDが作られたりと面白い活動も繰り広げられてますし、この辺の動きが今後どうなるのかが楽しみですね。

 と言うワケで「キラ☆キラ」。バンド物としての楽しみと、一歩間違えれば鬱描写になりかねない緻密で繊細な心理描写が光る楽しみの、一粒で二度美味しい作品でした。


個人的満足度: ★★★★★|★★★★★
執筆: 2008/01/10