FORTUNE ARTERIAL

メーカー
発売日
2008/01/25
シナリオ
榊原拓
内田ヒロユキ
安西秀明
原画
べっかんこう
音楽
Active Planets

 「FORTUNE ARTERIAL」のレビュー&感想をば。面倒なのでネタバレ全開です。

■絵■

 毎度お馴染みべっかんこう氏。判子絵だの金太郎飴だのと呼ばれて久しい氏の絵ですが、時を重ねるにつれて洗練されてきているように感じます。なんとなくスマートになってきてるような? まぁ金太郎飴の端から1cm部分と3cm部分の違いぐらいしかないんですけど。

■音楽■

 挿入歌等も合わせると全部で6曲の大盤振る舞い。印象に残った曲はありませんでしたが、むしろBGMの方が光ってたかと思います。

■シナリオ■

 簡単なあらすじ転校ばかりを繰り返していた主人公・支倉孝平が両親の海外転勤を機に腰を落ち着けるべく編入してきた修智館学院。そこで孝平を待っていたのは明るく人気者だけど自分にだけ微妙な態度をとる生徒会副会長・千堂瑛里華、大人しい後輩・東儀白(甘党)、1年だけ共に過ごしたことがある幼なじみ・悠木姉妹、クールなクラスメート・紅瀬桐葉だった。やっと平穏な生活を送れると思ったのもつかの間、瑛里華とその兄である生徒会会長・伊織は吸血鬼だった。どうする耕平。

 ヒロイン5人の個別シナリオをクリアすると、トゥルーシナリオとも言うべき瑛里華の真・シナリオが開放されます。以下クリア順にヒロイン別感想。

▼千堂瑛里華▼

 人となり(?)孝平とは別のクラスの同級生で、生徒会副会長を務める人気者。学院生全員が楽しい学院生活を送れるよう、自分を全く省みない勢いで生徒会活動に勤しんでいる。実は吸血鬼だけど、人の血を吸うのはエレガントではない、と口にするのは輸血用パックの血のみで直接人の血を吸ったことはない。

 他人の血を吸わないことへの拘りが前面に押し出されてたけど、いまいちその理由がはっきりしなくて感情移入出来ませんでした。まさか本当にエレガントでない、なんて理由だけじゃないでしょ? 自分の血を吸ってもいい、と言う孝平の血すら吸わない頑強な態度と、輸血用パックは平気で口にする様子に矛盾を感じまくり。直接飲むのだけが嫌ってことなら、注射器で吸い出した血ならOK? 基準がわかりません。

 学院に入学するまでずっと幽閉されていた生い立ちには同情しますが、孝平が吸血鬼に関する記憶を消してもらう選択をした際の、あまりにも自分勝手この上ない叫びはちょっと頂けない。平穏な生活を突然乱された上に、会って間もない吸血鬼と名乗る相手を心底信用しろとか、無茶苦茶にも程があると思わないか?

 シナリオは、孝平の血を吸いたい衝動に駆られていく瑛里華の葛藤を描いたもの。クライマックスが近づいてきたな……と思ったら盛り上がりも何もないまま唐突にエンディングを迎えてしまい(物語としては完結してたけど)、「あ、あれ? 終わり?」と一瞬呆けさせられました。スタッフロール前に次から次へと浮かんできた呪いの言葉みたいな謎の文言は一体なんの意味があったんだろう? まぁ所詮はトゥルーシナリオの伏線ですから、深く追求するのはナシの方向で。

▼東儀白▼

 人となり(?)孝平の後輩にあたる生徒会役員。茶と和菓子が好き。あとウサギも好き。大人しい。礼拝堂の手伝いもしてる。実家である東儀家には何かしら秘密があるらしい。

 数日前にクリアしたばかりなのに、既に半分ぐらい忘れかけてるぐらい印象が薄い白シナリオ。確か『孝平と白が付き合う=東儀家のしきたりに反する』となってしまうから、どうやって兄の征一郎を説得するか……って話だったっけ。んで「しきたりを破るのであれば、祭りで舞を披露することは許さない」とか言われてさぁどうしよう、と。

 舞に対する白の執着心が全然伝わってこなかったので、問題解決に向けた緊迫感がないままクライマックスへ。だから「注力してるんだろうなぁ」と思わせる舞の演出も、その前後の展開があっさり風味なため浮きまくること浮きまくること。演出そのものは悪くなかっただけに、これはちょっと残念でした。つか歩いて1時間かかる距離にあるところから聞こえてくる祭囃子って、どんな男塾名物大鐘音ですか。まぁ所詮はトゥルーシナリオの伏線ですから、深く追求するのはナシの方向で。あとトゥルーシナリオでの白は一見自分で考えて行動してるようだけど、その実東儀家の役割に囚われた思考放棄状態なので、途中退場に近いあの展開には正直有難さすら感じました。

▼紅瀬桐葉▼

 人となり(?)孝平のクラスメート。授業をよくサボる。孤高を貫いていて、誰とも親しくなろうとしない。成績総合トップの瑛里華が数学だけは勝てない相手(しかも他は手を抜いてるっぽい。そんな目立つことしなければいいのに、とか思ってはいけない)。

 実は伊織達の母親である吸血鬼・伽耶の眷属(吸血鬼の血を飲まされて、不老となった人間。主である吸血鬼の命令には逆らえない)。主から自分を探すように命じられていて、見つけるたびに記憶を消されて放逐される……をもう250年繰り返してる可哀想な人。何で孝平が桐葉のことを好きになったのかは謎ですが、まぁ所詮はトゥルーシナリオの伏線ですから以下略。

 シナリオは伽耶の呪縛から逃れて、孝平と幸せになる、と言うもの。ラストで簡単に伽耶が桐葉を解放し過ぎた気もしますが(お前の250年間は何だったんだ)、まぁハッピーエンドなのでヨシとしましょう。個別ルートに入った頃は面白くなるかな……と思わせてくれたのに、ストーリーが進むにつれて竜頭蛇尾を体現。予想通りではありましたが。

▼悠木かなで▼

 人となり(?)1歳年上の寮長 兼 風紀委員長 兼 幼なじみ。元気溌剌なハイテンションの塊。

 一番存在価値が感じられなかったシナリオ。吸血鬼が全くと言っていいほど関係ない……つまり「FA」にこのシナリオを含める意味が無いように感じるのですが如何でしょうか。っつーか元気っつーより個人的には『五月蝿い』の域に達してて、どうにも好きになれないキャラでした。幼なじみって設定に必要性を感じませんでしたし。とりあえず人と話してる最中に背中を見せるのはやめろ。

 ストーリーは、代々の寮長に守られてきた『恋愛が成就するケヤキ』を守ろうとする話。共通シナリオ部分の頃からケヤキに関する会話とかがあったので「この辺もストーリーに関わってくるんだろうなぁ」とは思ってましたけど、まさかそれしかストーリーが無いとは思わなかった。小さいことでいつまでもグダグダグダグダグダグダグダグダしやがって……と溜まるストレス、山の如し。それはそうと孝平への気持ちを否定するかなでに対して陽菜が「孝平と写ってる写真の入った写真立てをベッドの下に隠してるなんて、好きな人じゃないとしないよ」と指摘するシーンがありましたが、写真だけならともかく、”写真立て”をベッドの下に入れるとか好きな人でもしないと思います。

▼悠木陽菜▼

 人となり(?)孝平のクラスメートで幼なじみ。美化委員でもある。かなでの妹で、優しく世話好きな”いいお嫁さん”タイプ。孝平とは幼なじみと言っても、孝平が転校した後に遭った交通事故により、孝平と共に過ごした1年間の記憶を失っている。

 幼なじみだけど、その頃の記憶を失っている……そんな美味しい設定を全く活かすことなく終わった驚きべきシナリオ。まぁ記憶をなくしていた理由はトゥルーシナリオに向けた壮大な伏線となっていたから、しょうがないと言えばしょうがないけど、問題はトゥルーシナリオでもその設定は一瞬出てきただけで、やはりほとんど活かされることが無かったと言うこと。何のために(スタッフは)陽菜の記憶を消したんでしょう?

 小さい時からの罪の意識に捕らわれ続けた陽菜が、そこから解放される話。そんな1回話せば無くなるようなわだかまりに、この姉妹は何年苦しめられていたんだ……と唖然とさせられたシナリオでもありました。

▼トゥルーシナリオ(真・瑛里華)▼

 瑛里華シナリオだけど個別シナリオとは違い、母親の伽耶が全面的に関わってきて、伽耶との対決とそこから派生して仲間内でもギクシャクしつつ、最終的には伽耶と和解する話。吸血鬼と言う存在の真実や、千堂家・東儀家の秘密が明らかになるシナリオです。「これは面白くなるかも?」と思いました、最初は

 相変わらず瑛里華の血を吸わない拘りも、頑なに拒んできた血を気を失ってる間に飲ませられた後の呆気ない態度も意味が分からないッス。伊織が孝平と瑛里華を近づけるために裏で動いていたのを聞いて、2人が激高する意味もわからないし。目的はどうあれ、愛のキューピッドとして感謝してもいいぐらいだと思うんだけど……。

 次々と明らかになっていく真実は謎解きと言うよりも、「はぁ、そうなんですか」「ふーん、そうだったんですか」と単に新しい設定を次から次へと突きつけられてるようで、爽快感はありませんでした。っつーか泉で泳いでも石は飲み込まないだろ、普通に考えて。既に赤い石を飲んでいたにしては、これまでの孝平が見かけも体力も至って一般人だったのも謎だし。ちなみに蒼い石を飲み込むと吸血鬼になる(赤ん坊に飲ませるのは無理な大きさなのはさておき)のだとしたら、世界に吸血鬼は最大3人までしかいないってことなんですよね? なんか違和感あるなぁ、それ。赤い方は沢山存在するんでしたっけ? すいません、その辺スルーしちゃってたかもしれません。

 征一郎が伊織の眷属だったってのは驚きました。どのシナリオでかは忘れましたけど、確か伊織が征一郎に対して「あの女の眷属になるんだろ」的な発言をしてたと思いますので、征一郎が眷属になったのはごくごく最近ってことなのか、シナリオライター間の意思疎通の不備か。

 クライマックスのあっさり具合は他の個別シナリオに負けず劣らず。ラストですっかりいい母親になってるとか、どんだけお前の250年間は軽かったんだ、と伽耶へのツッコミその2が発動です。いくらなんでも描写甘すぎ&薄すぎでしょう。あとどうでもいいことですが、小さな蝋燭でも集めて火をつけると、一気に炎が燃え上がって一瞬で蝋燭は溶けきってしまいますよ。経験者なので語らせて頂きます。

 相変わらずのぬるすぎる描写、面白みの無いテキスト、薄いキャラクター……やはり少なくとも私にとってはダメダメです、オーガストは。この会社でシナリオゲーは無理なんだから、せめてキャラゲーにしなくちゃいけないってのに、そのキャラの描写が表面をなぞるだけのペラペラなものではどうにもなりません。これまでのオーガスト作品と比べるとテキストがそれなりに洗練されてきてるようにも感じますが、それが逆にアイデンティティを無くさせてしまってるような。

 例えば「プリホリ」では信じられないラストの超展開には笑わせてもらいましたし(主にマイナス的な)、「月は東に〜」や「夜明け前より〜」は例えるなら『バトル漫画で主人公のパンチを喰らったが筋骨隆々の敵が「なんだ、今のは? 蚊でも刺したのか? くくく……」と笑う』のと同類項な笑いぐらいはあったのに。オーガストにあった唯一の個性が消えた……っ!

 オーガストのシステムはいつも使い勝手がいいです。ここまでのユーザーインターフェースは戯画とオーガストぐらいのものでしょう。

 ヒロインの誰とも結ばれないと、寿司屋の娘な美術部部長と結ばれるエンディングを迎えました。一瞬で終わってしまいましたが、あれってバッドエンド扱いなんですね。本編はコンシューマまでおあずけって感じですか?

 声優さんの演技には文句無し。中でも使い方と演技が光ってたのは陽菜役の鷹月さくらさんでしょうか。一瞬声に騙されてキャラを可愛いと思いかけてしまう程に。

 クリアしたそばから忘却の彼方へと消えていく印象の薄さが逆に強い印象となる……はずもなく、やっぱり記憶に残らないゲームとして私の記憶に残ることでしょう(結局残るらしい)。「揚げ足ばっかりとってるんじゃねぇ」とか言われそうですけど、ぶっちゃけ褒められる点がシステムと声ぐらいしかない現実。別にべっかんこう氏の絵は好きでもなんでもないし。とりあえず他の人に薦めません。


個人的満足度: ★★★★★|★★★★★
執筆: 2008/02/23