おてんこ温泉旅行〜♪

第五話 二人の夜は?


食事を終え、僕たちは暫く部屋でのんびりとしていた。
簡単に言えば、食べ過ぎて動けないだけなんですけどね。

さやか 「蒼司くん、お料理おいしかったね。私食べ過ぎたかも。満足満足」

足を投げ出して、満足そうにお腹をさすっている先輩。

蒼司 「そうですね。僕も同感です。ところで先輩、その格好ははしたないのでやめましょうね」

浴衣がはだけて、先輩の足が太ももの辺りまで覗いていた。

さやか 「大丈夫大丈夫、私気にしてないもん」

本気で気にした様子を見せない先輩。
更に足を広げ、片手で体を支えながら今度はお腹叩いてるし・・・どこぞのおっさんですかあなたは。

蒼司 「まったく・・・他の人の前では絶対そんなことしたらダメですからね」

さやか 「あや? そうなの?」

本気で不思議そうな顔をする先輩。

蒼司 「そうです。頼みますからもっと自覚を持ってください。それじゃあ先輩、僕ちょっとトイレ行ってきますね。帰ってきたら今日のメインイベント始めますからここにいてくださいよ」

そう言い残して僕は部屋を出て行った。

さやか 「えっ!?」

一人部屋に残される先輩。

さやか 「今日のメインイベント? それってそれってもしかしてもしかすると・・・」

泊りがけの旅行・・・邪魔をする人は誰もいない二人だけの夜・・・そして同じ部屋・・・。
ボッ!>顔が茹蛸みたいになる先輩。

さやか 「そ、そうだよね。こういう状況ならそれが普通なんだよね。普通普通・・・」

暫くの間、普通普通と呪文のように繰り返す先輩。

蒼司 「何が普通なんですか先輩? また座布団抱きしめてるし、それに顔が真っ赤ですよ。熱でもあるんですか?」

さやか 「わっ! 蒼司くん!? 何でもない、何でもないよ。えへへ」

トイレから帰ってきた僕に、何故か必要以上にびっくりしている先輩。

蒼司 「そうですか? それじゃあ用意しますのでちょっと待っててください」

さやか 「そ、蒼司くん。一体これから何を始めるのかなー?」

蒼司 「それはですね。この旅行が決ってから思いついたんですけど、先輩にとってとても大切なことですよ。やっぱりこういうチャンスは滅多にありませんからそれを生かさないとダメですよね。先輩、今夜は寝かせませんからね、覚悟してください」

そう言いながら鞄の中を漁っている僕。

さやか 「えっ? ひ、一晩中!?・・・で、でも蒼司くんがそうしたいなら・・・私もいいかなーなんて・・・てへ♪」

照れた顔してもじもじしている先輩。

蒼司 「先輩どうしたんですか? 座布団そんなに強く抱きしめて? それじゃあ始めますからこっちに来て座ってください」

さやか 「はーい♪」

てけてけてけてけ、ちょこん。

蒼司 「・・・先輩、どうして僕の膝の上に座ってるんですか?」

さやか 「えっ? だってこうしないと出来ないでしょ?」

蒼司 「何をするんですか、何を。先輩がするのはこれです」

机の上に広げられた物を指差す僕。

さやか 「えへ♪ 何かな何かな♪ こ、これはっ!?」

ダダッ、ベチッ。
僕は逃げ出そうとしていた先輩の浴衣を素早く掴み、先輩の逃亡を阻止した。
先輩は浴衣の裾を掴まれ見事に畳の上に万歳して転んでいた。

蒼司 「先輩、逃げようとしても無駄ですよ。ここには逃げ道なんてどこにもないんですから。今年こそはちゃんと自分でやって貰いますからね」

僕は畳の上で小刻みに震えている先輩にそう声をかけた。

さやか 「何でこんな所に夏休みの宿題なんか持ってきてるのよ、蒼司くんは! 確かに妙に大きな鞄だったから気になってたけど・・・やだやだ、こんな所まで来て夏休みの宿題なんかしたくないからね!」

コロンと仰向けに転がり、手足をバタバタさせて文句を言ってくる先輩。

蒼司 「先輩がこんな時期まで宿題を残しておくからいけないんです。さて時間はたっぷりありますから何から始めましょうかね」

さやか 「・・・蒼司くんのいじわる」

蒼司 「何とでも言ってください。これも先輩のためです。どのみち逃げ場はないんですからね。本当に温泉に来て良かったですよ」

僕はいまだに駄々をこねている先輩を抱き上げ、テーブルに座らせた。

蒼司 「さて、それじゃあ始めましょうか。今日は誰にも邪魔されませんからね」

そう、いつもならここで妹が現れて、そのどさくさに紛れて先輩は逃げ出していた。
だけど今日はその心配がない。
何せ妹は僕と先輩がここにいることを知らないんですからね。

さやか 「うう、萌ちゃん来てくれないかな」

そう呟きながらしぶしぶ宿題を始める先輩。

蒼司 「何を期待してるんですか、来る訳ないでしょう。それにもし二人で泊りがけの温泉旅行に行っていた何て事が妹にばれたら僕の命がありませんよ」

そう先輩を嗜め、去年までが嘘のように順調に宿題を片付けていく。
だが、僕はこの時何か不吉な予感がするのを感じていた。
僕は何か重要なことを忘れているような気がしてきた。
何か田舎に関係したことだった気がするんだけど・・・。
そして、それは何の前触れもなくやって来るのであった。

ダダダダダダッ!!

豪快な足音を響かせこっちに何かが近づいてくる。
僕がまさかと思った瞬間。

バンッ!!

部屋の引き戸を勢いよく開け放ち、本来ここにいるはずのない人物が部屋の入り口に立っていた。
よっぽど慌てて来たのだろう、その人物は肩で息をしていた。
幸いなことに、どうやら暫く喋れないらしかった。必死で息を整えている。

さやか 「あや? 萌ちゃんだ。わーい、助けに来てくれたんだね、ありがとう」

突然の妹の登場に、とても嬉しそうな先輩。
先輩状況を理解してください、あの顔が助けに来た人の顔ですか? 妹には悪いですけど、どう見ても殺し屋の顔ですよ。
落ち着け、落ち着け、ここは冷静に対処しなければ命がなくなるぞ。

蒼司 「萌、何も言うな。確かにお前に黙って先輩と旅行しようとしたのは兄さんが悪かった。でもせっかく福引きで当ったんだから普通は行くだろ? それにお前は合宿でいなかった訳だし、そしたら先輩と行くのは当然のことで・・・」

とりあえず妹がまだ喋れないので、僕は当たり障りのないことを言って、妹をなだめようとしてみたけど、やっぱり無駄だった。

萌 「な、何が福引きで当ったですか! 聞きましたよ、何でもお嬢ちゃんが当てた温泉旅行を、そこのおてんこ娘が焼きもろこしを餌に強引に奪ったって!」

そう言ってビシッと先輩を指差す妹。

さやか 「あや、すごいね萌ちゃん、どうして知ってるの? ずずっ」

妹とは対照的にマイペースな先輩。
今はその先輩の性格がうらやましいと感じる僕だった。

萌 「そんなこと常盤村の人なら誰でも知っています! すごい噂になってたんですからね! 友達から電話貰わなかったら今頃どうなってたことか! そこのおてんこ娘! 呑気にお茶なんか飲まないでくれる! 一体今晩私の兄さまと何をしようとしてたんですか!」

まさに怒れる大魔神状態の妹。
そして恐るべし、田舎ネットワーク。

さやか 「それがね聞いてよ萌ちゃん、蒼司くんたら嫌がる私を無理やり・・・」

そして、火に油をドボドボ注ぐ先輩。

萌 「な、何ですって!? 兄さまっ!! 一体私がいないのをいいことにおてんこ娘と何しようとしてたんですか!」

蒼司 「ち、違うぞ萌、誤解だ。僕は何もしていない。これを見れば分かるだろ? 先輩も変な言い方しないでください」

僕は慌てて首を振り、夏休みの宿題を妹に見せるが。

さやか 「でも、私、嘘は言ってないよ蒼司くん」

さらに火に油をかけまくる先輩だった。

萌 「兄さま〜〜〜」

じりじりと僕との間合いを詰めてくる妹。

蒼司 「誤解だ萌! 頼むからまずその手に持っている湯飲みを下に置け、しゃれになってないから。あっ! 先輩なにどさくさに紛れて逃げようとしているんですか! まだこれからですよ!」

そう口にしてから僕は後悔した。
最後の止めを自らがしてしまったことを。

萌 「一体これから何をするつもりなんですか!! もう兄さまなんて、兄さまなんて、兄さまを殺して私も死んでやるーーーっ!」

蒼司 「うわっ、萌やめろ! 湯飲みを投げるんじゃない! 少し落ち着きなさい!」

萌 「きぃいいいーーーっ!」

他のお客からの苦情も無視して、大暴れする妹。
必死で逃げる僕。

さやか 「さあ、今のうちにこんな宿題なんか捨てちゃおーと。らんらららん♪」

そんな様子をいいことに、先輩は夏休みの宿題からの逃亡を図っていた。

こうして、僕と先輩の初めての一泊旅行の夜は更けていくのであった。
ああ、僕に安らぎの日が訪れるのはいつなのだろうか・・・。
そう求めてやまない、先輩との記念すべき初旅行での出来事だった。

 

おわり


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