おてんこ温泉旅行〜♪

第三話 どきどき温泉旅館♪


さやか 「どっこいしょ。ふー、疲れた疲れた」

部屋に入るなり荷物を放り投げ、置いてあった座布団を抱き枕代わりにして、ごろごろと畳の上を転がる先輩。

蒼司 「先輩、おやじ臭いこと言わないでください。それにそんな銀杏臭いままごろごろしてたら旅館の人に悪いですよ」

そして、僕も案内された部屋に入り、手荷物をとりあえず部屋の隅に置いた。
ついでに先輩の荷物も。

さやか 「そんなに匂うかな? 私もう気にしてないからまあいいや。らんらららん♪」

そう言って、更に部屋の反対側から反対側へ、楽しそうにごろごろ転がる先輩。
まったく・・・さっきのことをもう忘れてしまっている。
旅館に着いて、ロビーに入った瞬間、周りにいた全ての人が鼻を摘み、蜘蛛の子を散らすみたいに逃げ出していたあの光景は、早々忘れられるものではない。
案内をしてくれた女中さんも、ずっと鼻を手で隠し、とても困り顔をしていた。
こんな体中銀杏臭い客は、きっと前代未聞だったことだろう。

蒼司 「先輩、このままではまずいので、早速露天風呂に行きましょう」

僕は荷物から着替えを取り出しにかかった。
先輩は僕の言葉に反応して上半身を起こすと、座布団を両手で抱きしめたまま、僕ににじり寄ってくる。

さやか 「露天風呂? それってそれって、もしかして・・・」

何故かそう聞いてくる先輩の顔は真っ赤だった。

蒼司 「どうしたんですか先輩? 顔が赤いですよ?」

さやか 「だってだって、露天風呂って言ったら・・・こ・ん・よ・く・でしょう。いくら二人きりの旅行だからって、一緒にお風呂なんて・・・でも蒼司くんとだったら、私いいかなーなんて・・・」

座布団を抱きしめ、もじもじと恥ずかしそうに僕を上目遣いで見つめてくる先輩。
どうやら先輩にとっては露天風呂=混浴だったらしい。

蒼司 「はいはい、先輩。露天風呂だからといって混浴とは限りません。それにここの露天風呂は男女別々ですから心配しなくても大丈夫ですよ」

さやか 「何だそうなの。蒼司くん残念だったね」

蒼司 「何で僕が残念なんですか?」

さやか 「だって・・・ねっ♪」

そう言って、くすくすと笑い出す先輩。
まったくこんな時だけ勘が鋭いんですから。

蒼司 「先輩、いつまでもそんな所でじっとしてたら追いてっちゃいますよ」

僕は話を逸らすため部屋の外へと歩き始めた。

さやか 「わっ、蒼司くん待ってよ。私も一緒に行くんだから。ええと、下着下着はと、あれ? どこに仕舞ったのかな?」

僕が部屋の外へ出たと同時に、先輩の慌てた声が部屋の中から聞こえてくる。
きっと今頃自分のかばんをひっくり返している所なのだろう。
それにしても、年頃の女の子が大声で下着下着と連呼するとは・・・どこに来ても先輩は先輩ということか。
僕は気にしないことにして、一人露天風呂に向かうことにした。

           ・

           ・

           ・

ジャッバーーーン。

蒼司 「ふー、ようやくのんびり出来ましたね」

お客が少なかったので、僕は思いっきり体を伸ばして露天風呂に浸かっていた。

バシャバシャ。
温泉で思い切り顔を洗う。

蒼司 「んー、実に気持ちいいですね。何だかんだ言いましたけど、落ち着くならやっぱり田舎に限りますね。この静けさが何ともいえません。出来れば律先生が生きてるうちに、一緒にここに来てみたかったですね」

そこまで言ってから、はたと気がついた。
律先生と一緒に泊りがけの旅行・・・二人きりの夜・・・。
僕は体中に悪寒が走るのを感じた。

蒼司 (やっぱり先輩と二人きりがいいです。すみません律先生、化けて出ないでくださいね)

僕は心の中で今は亡き律先生に謝っておいた。
そして、川のせせらぎしか聞こえてこない静かな露天風呂に、気分を新たにして、のんびりと浸かることにした。
すると。

??? 『うわ、大きいお風呂〜、でも、何で天井がないんだろう? あっそうか! だから露天風呂って言うのね。うんうん納得納得。それでは早速』

ツルッ。

??? 『おっ、ととと』

ドッボーーーン。

??? 『ぷはぁあっ、あーびっくりした』

蒼司 「・・・」

この声は・・・間違いなく先輩だ。
多分足元を滑らして、露天風呂に頭から突っ込んだのだろう。
女湯の方からくすくすと言う笑い声が聞こえてくる。
それにしても先輩の露天風呂に関する知識って一体・・・。
まあ、今さら驚くことでもないし、とにかくここは他人のふりを決め込むことにしよう。

さやか 『ババンババンバンバン♪ アービバノンノン♪』

何か懐かしい歌が聞こえてくる。
気にしない気にしない。

さやか 『それにしても広くて気持ちがいいね〜。あっ! あんな所にお猿さんがいる! 蒼司くん! 蒼司くん! 見て見てお猿さんがいるよ! かわいいね。ちゃお〜♪」

分かりました。お猿さんですね。
分かりましたから僕の名前を大声で叫ばないでください。

さやか 『ねえ蒼司くん? そっちにいるんでしょう? 何で返事してくれないの?』

頼みます先輩。皆んな見てますから静かにしましょう。

さやか 『おっかしいなー? 蒼司くんも入ってるはずなんだけど・・・もうお風呂から上がっちゃったのかな?』

そうです。そう思っていてください先輩。
そして、暫く静かになっていたかと思うと・・・。

バシャバシャバシャ。

と言う音が聞こえてきた。
ま、まさか・・・。

蒼司 「先輩頼みますから露天風呂で泳ぐのだけはやめてください!」

僕は思わず立ち上がって叫んでいた。

さやか 『あやっ? 蒼司くんやっぱりいたんじゃない。黙ってるなんて酷いよ』

バシャバシャバシャ。

蒼司 「はいはいいます! ここにいますから露天風呂で泳ぐのはやめてください!」

さやか 『何で蒼司くん? とっても楽しいから、蒼司くんもやればいいのに』

バシャバシャバシャ。

蒼司 「あなたは一体いくつだと思ってるんですか!」

さやか 『そんなの蒼司くん知ってるじゃない。てへ♪』

蒼司 「だから言ってるんですよーーーっ!」

僕の呼びかけを無視して、先輩はその後も泳ぎ続けていた。
僕が思わず叫んでしまったおかげで、他のお客の目が皆んな僕に向いていた。
そして、笑っていた。
ああっ、他人のふりをするはずだったのに、どうしていつもこうなってしまうのだろう・・・。
僕は顔まで湯船に浸かり、自分の行動の迂闊さを反省した。

さやか 『蒼司くん、露天風呂って楽しいね〜。らんらららん♪』

隣りからは先輩の楽しそうな声がいつまでも聞こえていた。
ほんとに頭からひまわりでも生えているような人だと、この時僕はつくづく思った。

 

つづく


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