おてんこ温泉旅行〜♪
第ニ話 田舎だね♪
駅舎を出ると、そこはとても趣のある風景が広がっていた。
山々に映える緑、心和む川のせせらぎ、そして、昔ながらの古い家が立ち並ぶ街並み・・・。
いや、現実から目を逸らすのはやめよう。
田舎だった。しかも常盤村よりも更に田舎だった。
何が悲しくて田舎者がさらに田舎に来なくてはいけないのだ。
駅舎だと言うのに、側に自販機の一つもないほどに・・・。
都会に住んでいる人なら、きっと珍しくて楽しいのだろうけど、生粋の田舎者が田舎に来ても、何も面白くなんかない。さやか 「ねえねえ蒼司くん見て見て、何にもないよここ。常盤村より田舎なんてすごいね。わっ、あのイチョウの木大きいなー。それにしても田舎だね」
先輩にとっては、どうやら珍しくて楽しい所みたいだった。
辺りをきょろきょろ見渡しながら、嬉しそうに田舎田舎と連呼している。蒼司 「先輩、田舎田舎って余り言わないでください。僕達だって十分田舎者なんですから、この村の人に失礼ですよ」
さやか 「だって蒼司くん、ここ何にもないんだよ。私ずっと常盤村が日本で一番の田舎だと思っていたからびっくりだよ」
蒼司 「先輩、それでは常盤村が余りにかわいそうです。確かに田舎ですけど」
さやか 「そうでしょう、でもこれで常盤村は日本で二番目の田舎になった訳だから、よかったよかった」
僕には何がよかったのか、全然分からなかった。
さやか 「ところで蒼司くん、ずっと気になってたんだけど、何でそんなに荷物が多いのかな?」
僕の大きな鞄を見て、不思議そうな顔をしている先輩。
蒼司 「ああこれですか? それは後のお楽しみです」
さやか 「ふーん、そうなんだ。じゃあ楽しみにしてるね」
そうこうしている内に、いかにも田舎らしい、ボンネットがあるバスがやって来た。
さやか 「あっ、あれに乗るんだよね。蒼司くん行こう」
そう言って、嬉しそうに停留所へ駆け出す先輩。
蒼司 「あっ、先輩、気を付けないと転びますよ。ここは舗装されてないんですから」
と言った側から。
さやか 「わっ!?」
石に躓いて転んでいた。
まったく世話のかかる先輩である。蒼司 「ほら、先輩大丈夫ですか? 助け起こしますから手を出してください」
僕は先輩を助け起こそうと手を差し出した。
すると。さやか 「うっ、うっ、蒼司くん・・・」
何故か先輩は、その場に座り込み涙ぐんでいた。
蒼司 「先輩!? どうしたんですか? もしかして、どこか怪我でもしたんですか?」
転んだ拍子に何処かすりむいたか、捻挫したのかもしれない。
僕は心配になった。さやか 「蒼司くん、蒼司くん、私・・・」
蒼司 「どこを怪我したんですか先輩! 早く言ってみてください!」
先輩のただ事ではない様子に僕は慌てた。
さやか 「蒼司くん、私、転んだ拍子に・・・銀杏の実握りつぶしちゃった〜」
そう言って、僕に向かって銀杏臭い両手を差し出してくる先輩。
知っている人は分かると思うけど、銀杏の実の匂いは強烈に臭いのである。
とても耐えられるものじゃない。蒼司 「げっ!?」
僕は先輩が今にも掴もうとしていた手を、慌てて引っ込めた。
そして、急いで先輩から離れた。さやか 「酷い、酷い蒼司くん。彼女が助けを求めてるのに逃げるなんて・・・」
そう言って、しくしくと泣き始める先輩だったが絶対嘘泣きだ。
蒼司 「先輩、そうやって同情買おうとしてもダメですよ。僕に近づかないでください。匂いが移ったら大変ですから」
僕はそう言いながら、更に先輩から距離をとった。
それでも銀杏の匂いが鼻をついてくる。さやか 「ううう、蒼司くんなんて、蒼司くんなんて・・・ふふふ」
不気味な笑い声と共に突然立ち上がる先輩。
僕はこの時とてもいやな予感がした。さやか 「こうなったら道ずれにしてやるからーーーっ!! 食らえ蒼司くん!! えい!! えい!!」
突然落ちている銀杏の実を拾って、僕に投げつけてくる先輩。
まさに捨て身の攻撃だった。それにまるっきりやる事が子供だ。蒼司 「うわ、うわ、先輩自分が悪いんですよ。やめてください。うっ・・・」
そのうちの一つが僕の顔に当る。
さやか 「やーい、やーい、これで蒼司くんも私と一緒だよ。臭いから私に近寄らないでよね。あはは♪」
そう言って、僕を指差しながら本気でお腹を抱えて笑っている先輩。
僕は少し頭にきた。蒼司 「・・・目には目を・・・歯には歯を・・・くらえっ!」
ビュッ! ベチッ!
さやか 「あうち!?」
僕の投げた銀杏の実が先輩のおでこに当る。
蒼司 「先輩、さっきのお返しです」
僕がそう言い終わらないうちに。
さやか 「えいっ!! えいっ!!」
真剣な顔をして、無言で銀杏の実を投げまくってくる先輩。
目が本気だった。蒼司 「先輩さっきのであいこです。いいかげんにしてください。もうやめないとこれ以上はちょっと危険ですよ」
僕は必死で避けまくった。
さやか 「問答無用!! えいっ!! やあっ!! とうっ!!」
そして、先輩の気がすむまで、銀杏投げ合戦はひたすら続いた。
お互い体中に銀杏の匂いを染み込ませながら・・・。
その結果、温泉宿に付くまでのバスの中ずっと、僕は他のお客さんに白い目で見られ続けることになった。
先輩はと言うと・・・。さやか 「すぅーーー。すぅーーー」
何事もなかったように、僕の横で遊びつかれて眠ってしまっていた。
ほんとに寝るのが好きな人だ。僕はそう思いながら先輩の顔を眺めてみた。
とてもかわいい寝顔なんだけど、とても銀杏臭かった。
これではせっかくの美人が台無しである。
僕はまたしても大きな溜息をついた。
先輩、少しは落ち付いて行動してください。
僕は切実にそう願った。そんな二人を乗せて、バスは温泉旅館へと向かうのだった。
つづく