おてんこ温泉旅行〜♪

第一話 焼きもろこし


ガタンゴトン。ガタンゴトン。

ローカル電車が奏でる独特のリズムが何となく気持ちいい。
開け放たれた窓から吹き込む風が、蒸し暑い車内に流れ込んでくる。
余りにローカルな為なのか、この電車にはエアコンが付いていない。
懐かしい車内扇風機だけが、この電車にとっての唯一の冷房装置みたいだった。
でも、それがかえって僕に安らぎを与えてくれた。
夏休みもあと僅か・・・。
今年の夏は色々あって気苦労が耐えなかったから、せめてこの旅行中だけでものんびりとしたいな・・・。

さやか 「ねえねえ蒼司くん、見て見て牛さんが見えるよ。おーい、おーい、やっほー♪」

靴を脱いで座席に正座して座り、窓から顔を出して大声で叫んでいる先輩。
開け放たれた窓から吹き込む風に、長い髪が乱れるのにも、気にした様子はない。

蒼司 「・・・先輩、子供みたいですよ。それに皆んな見てます」

さやか 「えっ、蒼司くん何か言った? あっ、今度は馬さんが見えるよ。おーい、おーい、ちゃお〜♪」

吹き込む風の音に掻き消されて、僕の声が聞こえなかったのか、今度は手まで振り出す先輩。
はぁ〜、どうやらこの旅行も余りのんびりとはさせてもらえそうにないな。
僕はそう思いながら、他人のふりを決め込もうとしたが、乗客の異常に少ないこのローカル線の車内では、どうやら無駄みたいだった。
仕方ないので僕は寝たふりを決め込むことにした。
僕と先輩は、二人だけで温泉旅行に行く途中だった。
どうしてこうなったかというと・・・。

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三日前のお昼ごろ。

僕と先輩は、夕食の買出しに商店街に来ていた。

さやか 「今日から一週間蒼司くんと二人きりだね。うっれしいな♪ うっれしいな♪ 今日の晩御飯は何を作ってくれるのかな?」

そう言って、人目も気にせず僕の腕にぎゅっと抱きつき、僕の顔を下から見上げてくる先輩。

蒼司 「はいはい、先輩の好きな物作ってあげますから、少し離れてくださいね」

さやか 「ほんと蒼司くん。ばんざーい♪」

そう言って、ほんとに両手を挙げて万歳する先輩。
あいかわらずハイテンションだった。
幸い僕の妹は今、部活の夏合宿で一週間学校に泊り込みである。
そうでなければこの瞬間、僕の命は亡くなっていたかもしれない。
一体誰があんなふうに妹を育てたんだろう・・・はぁ〜。

蒼司 「それじゃあ先輩、福引きでもしに行きましょうか」

僕はそう言って、買い物の時に貰った福引券を先輩に見せてあげた。

さやか 「福引き? それってもしかして・・・特等だったら豪華客船で世界一周とか行けたりするのかな?」

少し首を傾げ、頬に人差し指を付けたポーズで、そう聞いてくる先輩。
本気だ、絶対先輩本気で聞いてきてるよ。

蒼司 「こんな田舎の商店街で、そんな豪華な賞品なんてでません。諦めてください」

さやか 「そうなの? 何だ、残念だね」

本気でがっくりとうな垂れてしまってる先輩。

蒼司 「先輩、頼みますからこんな田舎でそんな大それたこと本気で考えないでください。でも、特等の賞品は温泉旅行のペアチケットですよ。この村の商店街にしてみれば、かなりいい賞品だと思いますけどね」

さやか 「温泉!? しかもペアチケット!? それってそれって、蒼司くんと二人きりで泊りがけの旅行に行けちゃうってことかな?」

突然先輩の瞳がきらきらと輝きだした。

蒼司 「まあ、平たく言えばそういうことです。でも当ったらの話ですよ」

一応冷静にそう言ってみたけど。

さやか 「蒼司くんと二人で温泉♪ 何着ていこっかなー。らんらららん♪」

先輩はすでに行った気になっていた。
喜びを体全体で表現している。つまり踊っていた。

蒼司 「ほら先輩、浮かれるのは当ててからにしてくださいね」

僕は先輩の首根っこを掴み、くるくると踊っていた先輩をずるずると引きずって行った。

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商店街の福引き抽選所―――。

普段絶対見せない、ものすごく真剣な顔をしている先輩。
せめて今の十分の一でもいいから、普段からそうしてくれると助かるとは口が裂けてもいえない。
と言うより言っても無駄なんだろうな、きっと。

蒼司 「ほら先輩、三回できますから気楽にやってください。そうそう当る物ではありませんから」

そう言ってみたけど、今の先輩にはやっぱり無駄なようだった。

さやか 「温泉、温泉、蒼司くんと温泉・・・」

何か呪いでもかけているようにそう呟きながら、先輩が抽選機(あの玉が出てくる奴)を回す。
結果は何となく想像できるんですけどね。
そして僕が思ったと通り。

係の人 「さやかちゃん残念だったね。はい残念賞のティッシュ三つね」

そう言って係の人が、先輩の手にティッシュを三つ乗せてあげていた。
先輩は、時代劇の女の人みたいに、よよよといった感じでその場に崩れ落ち。

さやか 「チィーーーン」

宛て付ける様に、さっき貰ったばかりのティッシュで鼻をかんでいた。

蒼司 「先輩、負け惜しみ見たいでかっこ悪いですよ」

僕は座り込んでいる先輩に手を差し出して、引っ張り起こしてあげた。

さやか 「だって蒼司くん変だよ。三回とも残念賞なんだよ。きっと何か細工がしてあったのよ。ビシッ!」

そう言って未練がましく抽選機を指差す先輩。

蒼司 「そんなことある訳ないでしょ、もう帰りますよ」

僕はまた先輩の首根っこを捕まえる。

さやか 「あっ、あっ、待ってよ蒼司くん。私の温泉旅行が〜〜〜」

子供みたいに駄々をこねる先輩を、また引きずるようにして帰ろうとしたとき。

さやか 「あっ、お嬢ちゃんだ」

先輩の声に、僕も振り返ってみる。
すると。

お嬢 「ねえおじさん、福引きってここでいいの?」

係の人 「ああ、ここだよ」

お嬢 「ねえねえ、焼きもろこしある?」

係の人 「ええと、焼きもろこしは・・・ああ、十等に入ってるよ」

お嬢 「やったあ♪ それじゃあ僕やるね。はいこれ福引き券だよ」

係の人 「ええと、これだと一回だね。はいお嬢ちゃんどうぞ、がんばってね」

お嬢 「うん♪」

どうやら福引きをする所みたいだった。
僕と先輩は、何となくその様子を眺めていた。

お嬢 「焼きもろこし・・・焼きもろこし・・・」

ガラガラガラガラ。

お嬢 「えいっ!」

コロコロコロ。

お嬢 「わーい、おじさん、金色の玉が出てきたよ。これってもしかして焼きもろこし!」

係の人 「こっこれは・・・!?」

カランカラーン。 カランカラーン。

係の人 「おめでとうお嬢ちゃん。見事特等の温泉旅行ペアチケット当選だよ」

蒼司・さやか 「えっ!?」

余りの出来事に思いっきり驚く僕と先輩。

お嬢 「えー、焼きもろこしじゃないの? おじさん、それと焼きもろこし交換できないかな?」

蒼司・さやか 「えっ・・・!?」

お嬢ちゃんの言葉に更に驚く僕と先輩。

係の人 「ま、まあ、出来なくはないけど・・・ほんとにいいのかい?」

お嬢 「うん♪ 僕はそれでいいから焼きもろこし早くちょうだい」

そしてお嬢ちゃんが焼きもろこしを受け取ろうとした次の瞬間。

さやか 「ちょっと待ったーーーっ」

あれ? 先輩いつのまに?
いつの間にか、先輩はお嬢ちゃんの所に駆け寄っていた。

お嬢 「あっ、さやかさんだ。僕に何かようなの?」

さやか 「うん♪ とっても大事な用があるんだよ。お嬢ちゃん、私が焼きもろこし10本買ってあげるから、さっき当てた賞品、私に譲ってくれないかな? 普通に交換しても1本しか貰えないから、断然お徳でしょ、ね♪」

満面の笑みでお嬢ちゃんと裏取引をしている先輩。

蒼司 「・・・」

呆れて何もいえない僕だった。

お嬢 「ほんと!? やったあ♪ 僕はそれでいいよ。じゃあ早く焼きもろこし買いにいこうよ」

さやか 「はいはーい♪ 商談成立だね。それじゃあ焼きもろこしに向かって、レッツゴー♪」
お嬢 「レッツゴー♪」

元気に片手を振り上げる二人。
そして、二人仲良く手を繋ぎ、爽やかに商店街へと消えていこうとしていた。
途中、一度だけ先輩は振り返り。

さやか 「蒼司くん。ぶいっ♪」

嬉しそうに僕に向かってVサインを向けていた。
先輩・・・それって余りにも大人気ないですよ・・・。
僕は、してやったりと言う顔をしている先輩を、呆然と見送りながら、大きな溜息をついた。

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まあ、こういう経緯で今こうしてここに入るわけなんだけど・・・。
いつもいつも先輩のすることには驚かされてばかりいる気がする。
その時ふと、僕の肩に重みが加わるのを感じた。
僕は閉じていた目を開けて、それが何であるのか見てみた。
すると・・・。

さやか 「・・・蒼司くん・・・今日は・・・楽しもうね・・・てへ♪」

騒ぎ疲れたのだろう、先輩が僕の肩に頭を乗せて、気持ち良さそうに眠っていた。
まったく、寝顔だけ見てたらおしとやかそうで、とてもかわいいんですけどね。
そして、僕も先輩に付き合って、少し眠ることにした。
目的地は終点だし、のんびりいこう・・・。

電車は僕達を乗せて、常磐村とさほど変わらない風景の中を、のんびりと走り抜けていった。

 

つづく


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