SEA SIDE WOMAN BLUES
トントントントン
むつき 「ふふ、やっぱり自分で料理を作るのはいいわね、学校の寮では出来ないから」
コトコトコトコト
久しぶりの実家は、やっぱり懐かしい・・・。
この前帰ってきたのは、冬休みの時だったわね・・・さつき、元気かしら。むつき 「さつき、早く帰ってこないかしら」
私が帰ってきてるの知ったら、きっと驚くだろうな・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
カチャ
さつき 「ただいま」
玄関の開く音と共に、さつきの声が聞こえてきた。
パタパタパタ
私は、さつきを迎えに玄関に向かった。むつき 「さつき、お帰りなさい、遅かったのね」
久しぶりに会ったさつきは、少し、背が伸びたみたいだった・・・。
さつき 「あっ、お姉ちゃん、いつ帰ってきたの?」
私をみて、驚いた顔をするさつき。
むつき 「さつきを驚かそうと思って、今回は内緒で、少し早く帰ってきたの」
作戦は成功かな。
さつき 「う、うん、びっくりしたよ、私・・・」
そう言ったあと、黙りこんでしまうさつき。
どうかしたのかしら?むつき 「そう・・・あっ!今日は私が夕ご飯作ったのよ、久しぶりだから自身ないけど、早くみんなで食べましょう、さつきの好きな物もたくさん作ったんだから」
私は明るい声で、そうさつきに声をかけた。
みんなでご飯を食べれば、きっといつものさつきに戻ってくれる。
私は、そう思っていた・・・。・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
夕ご飯を食べ終わって、私は今、自分の部屋で休んでいる。
久しぶりに、家族でご飯が食べれて、私はとても楽しかった。
でも・・・どうしたんだろう・・・さつきの様子が、ずっとおかしい・・・。
私と目を合わせようとしない・・・いつにもまして、口数が少ない・・・。
・・・私のいない間に、何かあったのかしら・・・。
そんなことを考えていたとき。トン、トン、トン
私の部屋のドアを、遠慮がちに叩く音が聞こえてきた。
きっと、さつきに違いない。
私はそう思い、急いで部屋のドアへ向かった。
そして、静かにドアを開けた。
そこには、何か思いつめたような顔の、さつきが立っていた。むつき 「さつき、いったいどうしたの」
私は出来るだけ優しく言ってみた。
さつき 「お姉ちゃん・・・私・・・」
さつきは何かいいたそうだった。
その様子からすると、よほどのことなのだろう。むつき 「ほら、そんな所に立ってないで、中に入って・・・お茶も用意するから」
私は、さつきを部屋に入れ、少し落ち着かせるため、お茶を用意した。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
カチャ
さつきの前に、お茶をそっと置く。
私の分も、同じようにテーブルに置いた・・・。
さつきは、しばらく黙って俯いていた・・・そして。さつき 「・・・お姉ちゃんごめんなさい、私ずっと嘘をついてたの」
そう言うと、さつきはためらいながらも・・・少しずつ話し始めた・・・。
さつきの話は、私たちがまだ子供だったころの話だった。
私が風邪を引いて、海に行けなかったとき、さつきは私のふりをして、あの男の子に合いに行った。
そして・・・あの男の子には、もう会えないと私に嘘をついた。
三人で遊んだ、あの冬の海での話だった。
そして今・・・その男の子と付き合っている、と・・・。さつきは、親に咎められた子供のように話し続けた・・・。
そして・・・テーブルの上には、小さな水溜りが出来ていた・・・。・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
もう全て話し終わったのだろう・・・今さつきは黙って俯いている。
きっと、私が話すのを、待っているのだろう・・・。むつき 「・・・さつき、良く分かったわ、もういいから」
さつきの話は、私に少なからず動揺を与えた。
でも、私は優しくそう言った。
私たちは双子・・・さつきの気持ちは、痛いほど良く分かってしまう・・・。さつき 「で、でも」
さつきは顔をあげた。
・・・その目は真っ赤だった。むつき 「でも、一つだけいいかしら」
さつき 「えっ・・・」
さつきの驚いた顔。
そして、少し震えている。
きっと、私が何を言うのか不安なんだろう。むつき 「明日、私を健二さんに合わせて貰えるかしら」
私はさつきに尋ねた。
さつき 「・・・はい、お姉ちゃん」
少し迷ったのだろう・・・間をおいて、さつきはそう答えた。
さつきも分かっている、私が健二さんに会わないかぎり、何も解決しないことを・・・。
だから、私は会ってみよう、健二さんに・・・。・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
さつきが私の部屋を後にしたあと、私はそっと机の引き出しを開けた・・・。
そこには、あの時のリボンがしまってある。
私はそっと、手に取ってみた。
健二さん・・・懐かしいな・・・いったい何年ぶりに会うんだろう・・・。
私はこの時、あの海での出来事を思い出していた・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
翌日。
私たちは、あの思い出の砂浜で再会した。
あの頃と違って、私たちに吹く風は・・・優しい風だった。
何年ぶりかにあった健二さんは、すっかり別人みたいだった。
でも・・・少しだけ、あの頃の面影が残っているような・・・そんな気もした。むつき 「・・・久しぶりですね、健二さん、お会いできて嬉しいです」
私は挨拶をした・・・少し声が震えていたかもしれない。
健二 「・・・むつきちゃん・・・久しぶり」
私を見て、少し硬くなっている。
それは、私も同じかもしれない。
また、こうして出会えるなんて、私は考えてもいなかったから・・・。
そして・・・健二さんの横には、不安そうなさつきがいる。むつき 「・・・少し、歩きませんか、健二さん、さつきはここで少し待っていてね」
私はさつきと健二さんに、そう言った。
さつきには悪いと思うけど・・・少し二人で話してみたかった。健二 「・・・ああ、いいよ・・・さつき、ここで少し待っててくれ」
健二さんがそう答えた。
さつき 「・・・わかりました」
さつきは戸惑いながらもそう答えた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
私たちは、波打ち際を、一緒に歩いた・・・。
・・・聞こえてくるのは・・・波の音と・・・濡れた砂を踏む音だけ・・・。
海の青と、空のみずいろが・・・とても綺麗に見えた・・・。
ここの景色はあの頃のまま、時を止めている・・・。
・・・まるで・・・あの頃に戻ったみたいだった・・・。
あの、冬の花火・・・懐かしいな・・・。
ふと、健二さんに視線を向けると、健二さんも何かを思い出しているようだった。
・・・きっと、健二さんも、あの頃の事を、思い出しているのだろう・・・。・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
二人で波打ち際を歩きながら、私は静かに話し始めた・・・。
むつき 「・・・もし、健二さんが学校で再会されたのが、私だったら・・・健二さんは私を好きになってくれましたか?」
私は少し、意地悪な質問をした・・・。
健二さんは、少し驚いたような仕草をしたあと、話し始めた。健二 「・・・好きになっていたと思う・・・俺は、あの時再会したのは、むつきちゃんだと思っていたし、その時・・・さつきのことは、頭になかった・・・だから、あの時再会したのがむつきちゃんだったなら・・・俺はむつきちゃんを好きになっていたと思う・・・俺の初恋だったからな・・・」
むつき 「・・・そうですか・・・少し、休みませんか?」
私はその場にしゃがんで、砂を手に取った。
・・・指の間から・・・砂は零れ落ちていった・・・。
健二さんも、私の側にしゃがんだ・・・そして、話を続けた・・・。健二 「でも・・・その時再会したのは、さつきだったんだ・・・そして、それから俺の側にずっといてくれたのは・・・俺のことをずっと、子供の頃からずっと好きでいてくれたのは・・・さつきなんだ・・・そんなさつきを、俺は本当に好きになった・・・あの頃のむつきちゃん以上に・・・」
健二さんは、遠い水平線を真っ直ぐ見つめながら、そう、はっきりと答えた。
そう・・・それがきっと正解なんだろう。むつき 「健二さん・・・それで、いいんだと思いますよ・・・私にとって、健二さんはもう、思い出の人だから・・・私はさつきほど、強い思いを持ち続けられなかったから・・・」
それは、赤いリボン・・・あの子はずっと結び続けた・・・思いを忘れないように・・・。
それは、さつきの性格・・・今なら分かる・・・それは、健二さんのために・・・。
それは、さつきの選んだ学校・・・健二さんに会えるのを信じて、あの学校を選んだのね・・・。
それらは・・・私には、出来なかった事・・・。むつき 「さつきは、健二さんにまた会えることをずっと信じていたのね・・・そして、そのための努力もしてきた・・・だからさつきは、健二さんに会えたんだと思います・・・そして、そんなさつきだから・・・健二さんも好きになったんだと思います・・・私がこうしてまた、健二さんに会えたのも・・・さつきのおかげですね・・・」
健二 「・・・」
むつき 「すごいですよね、思いをなくさないで、ずっと信じ続けることが出来たなんて・・・私には出来なかった・・・」
健二 「むつきちゃん・・・」
私の話を・・・健二さんはずっと真剣に聞いてくれていた・・・。
私は立ち上がり、さつきを呼んだ。むつき 「さつきー!こっちにいらっしゃあーーい!」
一人、私たちが戻ってくるのをずっと待っていたさつきが、私の声を聞いて、こっちに歩いてくる。
私たちの側まで来たさつきは、まだ不安そうな顔をしていた。
だから私は・・・。むつき 「それでは、健二さん、ふつつかな妹ですが、これからよろしくお願いしますね、さつきはもともと元気だけが取り柄だったので、これからきっと苦労されると思いますが、見捨てないでやってくださいね」
私は、明るく笑顔で、ちょっとからかうようにそう言った。
健二 「ああ、分かってるって、ここの所、だんだん地が出てきて、少し苦労してたんだ・・・でも、ずっと一緒にいるよ」
健二さんも笑顔で、少しからかうように、そう答えた。
さつき 「え、えっ・・・」
さつきが、そんな私たちのやり取りを見て、顔を真っ赤にして驚いている。
さつき 「も、もう、先輩もお姉ちゃんも酷いです」
私たちが、からかっていたのが分かったのだろう、そう言って、私たちを避難してくる。
でも・・・その顔は笑顔だった・・・。むつき 「さつき、健二さんと仲良くね・・・健二さんも、さつきのこと、よろしくお願いしますね」
私は改めて、そう言うと、さつきと健二さんの手を取った・・・そして、ぎゅと手を握らせた・・・。
どうか、二人のこの手が、もう離れることがありませんように・・・私はそう祈った・・・。
さつき・・・これは、あなたの強い思いが生んだ、小さな奇跡よ・・・。
そして・・・。健二 「ああ、分かってる」
さつき 「・・・ありがとう、お姉ちゃん」
二人がそう返事をした。
短い言葉だったけど・・・そこには二人の思いがこもっていた・・・。もしあの時、さつきみたいな強い思いが、私にあったなら、どうなっていたんだろう・・・もしかしたら、今、健二さんと付き合っているのは・・・私だったかもしれない。
でもそれは・・・もう過去の出来事・・・何も変えることなんて出来ない。
だから私は、これからをがんばっていこう。
さつきに、負けてられないからね。健二 「むつきちゃぁーーーん!帰るぞぉーーー!」
さつき 「お姉ちゃん、帰ろー!」
気がつけば、二人とも少し先を歩いていた。
二人の手は、ぎゅっと握られていた。
ふふ、私もいつか、二人に見せ付けてやるんだからね・・・。むつき 「分かったわ、直ぐ行きまーす!」
私は少し海に入り、ポケットに仕舞っていたものを・・・そっと、海に流した・・・。
そして、私は二人に向かって、一歩足を踏み出した。
暖かさを含んだ、優しい潮風が・・・私の髪を揺らして、通り過ぎていった・・・。
もう季節は春なんだ・・・私は、そう思った・・・。
おわり