忘れじのレイドバック


日和 「わぁ〜 けんちゃんの部屋だ〜」

今日、日和は俺の家に来ている。

あの事故で、勉強が遅れ気味だった日和に、本格的に勉強を教えるためだ。

日和 「ふふふ けんちゃんの部屋って〜何年ぶりなんだろうね〜?」

そう笑顔で言う日和。

何年ぶり・・・やっぱり日和は覚えていない。

日和 「あれ? けんちゃん どうしたの〜?」

黙っていた俺に、日和が声をかける。

だめだな俺・・・まだ心が揺れている。

健二 「いや 何でもないぞ〜それよりも 早く勉強始めるか せっかく俺の学校に編入しようとしてるのに 落っこちたら 意味ないもんな」

わざと明るく言ってみる俺。

日和 「うん わたしがんばるよ〜絶対けんちゃんと同じ学校に行くんだ〜えへへ」

元気いっぱいの笑顔で答える日和。

日和は俺の心が揺れていることに気がついていない。

いや、俺は気づかれないようにしていた。

健二 「よし! 早速始めるか!」

日和 「うん がんばるぞ〜」

そして、暫く俺と日和は勉強に集中することにした。

           ・

           ・

           ・

勉強も一段落して、今、俺と日和はお茶を飲みながら休憩している。

・・・俺は少し迷ったが、日和に聞いてみる事にした。

健二 「・・・日和 お前 あのクローゼット 覚えているか?」

日和 「うん? あのクローゼット? う〜ん 何かあったような気はするんだけど〜ごめんね〜何かあるの〜?」

そう答える日和。

健二 「いや 何でもない 変なこと聞いてごめんな日和」

やっぱり覚えていないか・・・。

いままでもそうだった・・・公園・・・遊園地・・・海・・・日和は何も覚えていない・・・。

分かってはいたことだけど・・・俺は少し悲しかった。

あの時、俺の前に現れた日和・・・。

その日和は今、目の前に居る。確かな存在として・・・。

でも、あの時の日和の存在は、病院での指輪の一件以来、今の日和からは感じられない・・・。

今、俺は揺れている・・・俺は・・・今の日和のことを・・・どう思っているんだろう・・・。

日和 「けんちゃん どうしたの?」

俺の様子が変なのに気づき、日和が心配そうに、声をかける。

ふー。俺は何を考えているんだ。

日和はこうして、確かな存在として俺の前に居るのに・・・。

健二 「いや 何でもない ごめんな日和 心配かけて それじゃあがんばって 勉強の続きをやるか 日和には絶対に 合格してもらわないと困るからな」

そう明るく答える俺・・・。

日和 「うん! わたしだって〜けんちゃんと同じ学校に行きたいんだもん わたし がんばるよ〜えへへ」

いつもの、元気な明るい声で答える日和。

日和に、俺の今の気持ちを知られるわけには行かない。

日和にはもう、悲しい思いはさせたくない。

それだけは、俺の確かな気持ちだからな・・・。

           ・

           ・

           ・

午前中一杯で、勉強を切り上げ、俺と日和は町に出かけた。

あまり、こんを詰めすぎてもダメなんだよ〜。という日和の案によるものだ。

そして、俺と日和は商店街にやってきた。

日和はとても懐かしそうに、いろんな場所を見ていた。

そんな日和を、俺はじっと見ていた・・・。

日和 「あれ? けんちゃんどうしたの〜? 少し元気ないみたいだけど・・・」

しまった、顔に出ていたのか。

健二 「いや 日和 何でもない 少し考え事をしてただけだ」

慌てて、そう答えた。

日和 「う〜ん それならいいけど〜」

まだ心配そうな日和。

健二 「ほら日和! あっちの店 何だか面白そうだぞ! 行って見るか?」

日和に心配させないよう、明るく言ってみる。

日和 「わぁ〜 ほんとだ〜けんちゃん 早く行って見ようよ〜」

どうやらごまかせたようだ・・・。

その時。

日和 「わ、わわわ!」

ばたっ!

日和 「いたた・・・」

慌てて駆け出そうとした日和が、何かにつまずいて転んでしまった。

健二 「しょうがない奴だな 慌てるからだ ほれ 俺の手に捕まれ」

そう言って俺は、日和に自分の手を差し出した。

日和 「う、うん ありがとう けんちゃん」

そう言って、日和は俺の手を掴んだ。

俺はその手を引き、日和を助け起こす。

そして、日和が立ち上がり、俺がその手を離そうとした時・・・。

 

日和 「離さないで!」

 

突然叫ぶ日和。

日和 「あれ? わたし何言ってんだろ?」

自分の言葉に驚いている日和。

(離さないで)

俺はその言葉に、遊園地での出来事を思い出していた・・・。

コーヒーカップに一緒に乗っていた時、あの時日和が叫んだ言葉・・・。

(離さないで)

暫く俺は、何も考えられなかった・・・。

日和 「けんちゃん どうしたの?」

心配そうに俺を見つめる日和。

そして・・・一瞬、あの時の日和と、今の日和が重なる・・・。

気が付くと俺は日和を抱きしめていた・・・。

日和 「わ、わわわ け、けんちゃん」

日和 「け、けんちゃん どうしたの ち、ちょとはずかしいよ〜みんな見てるよ〜もうやめ・・・」

日和の言葉がそこで途切れる・・・。

日和 「・・・けんちゃん 泣いてるの?・・・」

泣きながら日和を抱きしめている俺に気づく日和。

健二 「・・・日和 ごめん・・・暫くこのままで・・・居させてくれ・・・」

そう日和に声をかける俺・・・。

日和 「・・・うん わかったよ・・・」

そう言って、日和もそっと俺を抱きしめる・・・。

(・・・日和・・・俺・・・やっぱり・・・さみしいよ・・・)

そのまま静かな時が流れる・・・。

お互い、抱きしめあったまま・・・。

そして・・・。

 

日和 「・・・わたしは 今 ここにいるよ」

 

静かに・・・しかし、はっきりと、そう囁く日和・・・。

健二 「ひ、日和・・・お前・・・」

俺は驚いた。

日和 「えへへ・・・何故か今・・・突然言いたくなったの・・・」

覚えている訳じゃない・・・けど、たしかにあの時の日和はそこに居た・・・。

・・・別々何かじゃない・・・同じなんだ・・・俺は改めてそう確信した・・・。

日和は今、確かに自分の側に居る・・・。

同じ時を、普通に歩いていける存在として・・・。

           ・

           ・

           ・

健二 「・・・日和 海に行こうか・・・」

抱きしめていた日和を、ゆっくりと離しながら、俺はそう言った。

もう涙は止まっていた。

日和 「わぁ〜海か〜楽しそうだね〜じゃあ 早く行こう〜えへへ」

俺が泣き止んだことがよっぽどうれしいのか、そう答えて、駆け出そうとする日和。

健二 「慌てることは無いぞ日和 ゆっくり行こう・・・」

そう日和に声をかけ、手を差し出す俺。

日和 「うん そうだね〜慌ててまた転んじゃたら 恥ずかしいもんね〜えへへ」

日和は、笑顔でそう答えて、俺の手を取る。

離れえぬよう 流されぬよう ぎゅと握った・・・。

俺はもう二度と、迷わないだろう。

健二 「よし! 日和! 海に行くぞ!」

俺は笑顔でそう言った。

日和 「うん! けんちゃん! さぁ〜行くぞ〜!」

日和も満面の笑顔でそう答えた。

焦る必要はない、俺と日和は今、同じ時を普通に過ごしているんだ・・・。

日和との新しい想い出を、これから沢山創って行こう。

そうだろ日和・・・。

 

そう思いながら見上げた空は、どこまでも澄み切っていた・・・まるで今の俺の心のように・・・。

どこまでも歩いていこう・・・日和と二人で・・・。

今ゆっくりと、二人の時間が動き始めた・・・。

 

おわり


トップへ