ケーキパニック
第一話 いつもの朝?
いつもの朝、いつものように俺が惰眠を貪っていると―――。
涼香 「ほらオミくん朝だぞ。早く起きてっっっっっっ!」
ハンモックに揺られて快眠してるところに、俺の良く知っている人の声が聞こえてきた気がした。
そして次の瞬間―――。ぐるん。世界が回る。ごちん!
靖臣 「痛っ!」
ま、またしても…く、首が物凄く痛い…。
涼香 「オミくん目が覚めたかな? 起きてくれないとお姉ちゃんとっっっっっっても悲しいぞ」
俺の頭上ではハンモックがゆらゆらと揺れている。
そして、俺を上から見下ろしているすずねえの顔も見える。
………。
いいかげん別の起こし方をするようすずねえを説得しないと、いつか俺の命がなくなるかもしれん。
新沢靖臣―――ハンモックからの転落死。チーン。
…さすがに俺も、死んでまで笑いを取りたくはないぞ…ってちょっとまてい!!靖臣 「すずねえ! 今日は確か日曜日のハズだぞ! なんでわざわざ休みの日にまで起こしに来るんだっ!」
俺はガバッと起き上がるとすずねえに猛然と抗議する。
涼香 「休みだからって、いつまでも寝ていたらいけないんだぞ。 そんなことだからオミくんいっっっっっっつも朝自分で起きられないんだから。ほら朝ごはんの用意もしてあるから早く着替えて…って!?」
靖臣 「ぐ〜〜〜っ」
涼香 「オミくん! お姉ちゃんに質問しておいて、また寝るなんていけないんだぞっっっっっっ!」
ブンブンブン。
すずねえが俺の襟を掴んで力の限り揺さぶる度に、俺の首がガクガクと前後に揺れる。靖臣 「う〜ん、なんだかすずねえの幻が見えるぞ…しかも分身してる…やるなすずねえ」
涼香 「幻じゃないぞオミくん! それにお姉ちゃんそんなこと出来ないぞ! いつまでも寝ぼけてないで早く起きなさっっっっっっい!」
早朝の静けさを打ち破るような、すずねえの叫び声が俺の部屋に響く。
いつもの朝、いつものすずねえとのやり取り―――。
夏の残暑も、もうだいぶ和らいできた秋の季節の一日。
いつもどうりの日常が、今日もまた始まろうとしていた。
いや、そうなるはずだったんだが―――。
俺の日常は、常に何が起こるか分からないことで満ち溢れているらしい。
そして案の定―――。ガッシャンガッシャン!!
突然、朝の静寂を突き破って俺の部屋の窓ガラスが割れる。
そして、ガラスを割ったものと思われる缶ジュースぐらいの大きさの金属の塊が二つ、同時に俺の部屋に転がり込んでくる。涼香 「えっ…なに!?」
突然の出来事に焦るすずねえ。
靖臣 「う〜ん、すずねえ…そんなガラスが割れるほどでかい屁をするなよ…むにゃむにゃ」
涼香 「お、お姉ちゃんそんなことしてないぞっっっっっっっっっ!!」
そしていまだに寝ぼけてる俺。
そんなことをしているうちに、ガラスを割った物体から白い煙が立ち昇り始める。涼香 「こ、今度はいったいなに!? オミくんとにかく早く起きて! なんだかとんでもないことになってるんだぞっ! 早く逃げないとダメなんだぞっっっ!」
俺の襟をさらに激しく揺さ振りながら、パニック状態になるすずねえ。
それでようやく意識が覚醒し始めた俺は、ゆっくりと重い瞼を開ける。
しかし、そんな俺の視界を、何故か白い煙が覆っていく。靖臣 「う〜ん、いったいどうしたんだすずねえ…って―――何だ? 俺の部屋に充満しまくっているこの白い煙は!? これはもしかしていわゆる、家事というヤツか!?」
涼香 「…オミくん…こんな時にさりげなく冗談を言わないでほしいぞ…」
靖臣 「何故俺が冗談を言ったと分かったんだすずねえ!? それよりもこの部屋を覆いつくしてる白い煙は一体全体何なんだ?」
そう言っている間にも、煙は俺の部屋どころか家中を覆い尽くしていく。
これはもう、外から見たら火事にしか見えん状況だろう。涼香 「それはお姉ちゃんにも分からないんだぞ…突然窓ガラスが割れたと思ったら、あっという間にこうなったんだから―――って、そんな悠長なこと言ってないで早く逃げないとっ!」
パニック状態のすずねえは、それだけ言うと俺の腕を掴んで部屋の外へと走り出そうとした。
が、その瞬間ガクンとすずねえの膝が崩れる。涼香 「あ…あれ…? 何だか突然…お姉ちゃん…眠くなってきた…ぞ……」
そう言い終わらないうちに、突然その場で眠り始めるすずねえ。
靖臣 「なんだすずねえ、俺を起こしに来て自分が寝るとはどういうことだ…って、おかしい、何故か俺まで眠くなってきたぞ…どうしたというんだこれは? もしかしてこの白い煙のせいか?」
俺の足元で気持ちよさそうに眠っているすずねえを見ながら、しばし考える俺。
『落ち着いてる場合かっ!』と言う、初子のツッコミが聞こえてきそうだが、気にしないでおこう。靖臣 「う〜ん、まったくもって、どうなってるんだかさっぱり分からんが…とりあえず俺に出来ることは一つだな」
そして俺は、朦朧とした意識の中、すずねえをベットに運び込むと、俺もすずねえと一緒に眠ることにしたのだった。
この時またしても、『こんな非常時に寝るなっ!』と言う初子のツッコミが聞こえた気がしたが、当然無視だ! 俺は眠いんだ! しかも今日は日曜日だぞ!
『寝てる場合じゃないんじゃないカナ、ないんじゃないカナ』
うるさい…カナ坊……二回言うな……ぐ〜〜〜。そしてしばらくして―――。
?? 「なんでこの非常時に、きっちり二人とも気持ちよさそうにベットで一緒に寝てるわけ? しかも―――。シュコー」
涼香 「…オミくん…お姉ちゃんが側にいるから大丈夫だぞ……」
いちゃいちゃ。
靖臣 「う〜ん…すずねえの体あったかくて気持ちいい……」
いちゃいちゃ。
涼香 「もう…オミくんはいつまでたっても甘えんぼさんなんだから…あっダメよオミくん…そんなとこ触っちゃ……」
いちゃいちゃ。
?? 「きぃぃぃーーーっ!! なんで寝ながらいちゃついてるのよこの二人はーーーっ!! シュコー」
?? 「ははは、いかにも靖臣らしくていいじゃないか。シュコー」
?? 「まっ、そう言われればそうだけどね。それじゃあ作戦は成功したわけだし、さっさと運んじゃいましょうか? それにしてもよく効くわねこの催眠ガス。シュコー」
?? 「ははは、ご希望とあればもっと強力なのも用意出来るんだがね。次はそうするかい? シュコー」
?? 「…何だか永眠しそうだからいいわ。それより早く次いきましょ。シュコー」
?? 「そうかい? 仕方ない、これはまた次の機会にするか。それにしても今日は楽しくなりそうだね。ははは。シュコー」
?? 「すでに用意してあったんかいっ!! シュコー」
こうして、防毒マスクを被った怪しい二人組みは、ご近所の方々の『また何かやってるのね』という、半ば呆れ顔の視線を気にすることもなく、俺とすずねえを拉致して新沢家を後にしたのだった。
それはまた、いつもの日常の始まりの合図でもあった。
つづく
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