「みずいろ」の愉快な仲間たち

第二十五話 二人の願い


健二 「はあ、はあ、はあ。ひ、日和、大丈夫か?」

日和 「う、うん、けんちゃん。な、なんとか・・・」

俺は日和が遅れないよう、日和の手を軽く引きながら縁日の人ごみを掻き分け走った。
あの迷子センターから必死で脱出し、追っ手を振り切っているところだ。
みんな無事逃げ出せたのは確認したが、その後、この人ごみでみんなとははぐれてしまった。
まあ、雪希には進藤が、麻美先輩には清香が付いてるから問題ないだろう。
清香とはぐれたのは俺的には最高の展開だったがな。
さらば清香、今日会うことは絶対無いだろう。

健二 「よし、ここまでこればもう大丈夫だろう」

迷子センターを出てから10分は走ったからな。俺は立ち止まり、後ろの様子を確認してみた。
そこには縁日を楽しんでる家族連れとカップルばかり・・・どうやら係員を振り切ることが出来たみたいだ。

日和 「あれ?けんちゃんここって・・・」

前を向いていた日和が、何かに気づいて驚いている。

健二 「どうした日和?」

俺は追っ手がいないかもう一度確認してから、日和に視線を戻した。

日和 「ほら、私たちいつの間にか神社の本殿に着いちゃってるよ」

そう言って日和は本殿の建物を指差す。

健二 「なにっ!?」

俺は日和が指差す先を見てみた。
確かにあれはここの神社の本殿だ。
必死で逃げているうちに、いつの間にかここに来てしまったのか・・・。
結果オーライといった所か。

日和 「ほら、けんちゃん早く行ってみよう。えへへ」

日和は俺の腕を引っ張りながら、本殿に向け歩き始める。
日和の顔は、とても楽しそうだった。
まったく、さっきまであれだけひどい目に会っていたのにな・・・。
まあ、それが日和のいい所だし、俺もさっきまでのことは忘れよう、特に清香のことは。
俺は日和に引きづられるまま本殿に向け歩き始めた。

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本殿では、おみくじや、参拝をする人たちで、結構な賑わいを見せていた。
それでも露店が立ち並ぶ境内に比べれば、それほどの人ごみではない。
俺と日和もおみくじを引くため、社殿に向かうことにした。

健二 「おみくじなんて何か久しぶりだな」

日和 「うん、私もそうだよ。いいおみくじが引けるといいね、けんちゃん」

健二 「何言ってんだ日和、こういうおみくじはな、確率的にいい物を引く方が高いんだ。誰だって悪いのは引きたくないから、神社側が意図的にそう細工しているはずだぞ。だから、こういうものは大吉よりも大凶を引いた方が運がいい奴だと俺は思うぞ」

日和 「そ、そうかな・・・私はそれでも大凶はやっぱりやだよ」

健二 「あはは、日和なにびびってんだ。それじゃあ引いてみようぜ」

そしておみくじを引く二人。

日和 「わっ、けんちゃん見て見て、私大吉だったよ。もしここにあるおみくじがみんな大吉だったとしても、やっぱり嬉しいよ、えへへ」

そう言って、嬉しそうに俺におみくじを見せびらかす日和。
まったくそんなことぐらいで喜びやがって・・・大吉などきっと一番多く入ってるはずだぞ。
俺はそう思いながら自分のおみくじを開いてみた。まあ、どうせ大吉だろう、最悪でも末吉だろうしな。
カサカサカサ。
最初に現れたのは『大』の文字。

健二 「何だやっぱり大吉だったか」

そう思いながら広げたおみくじの、次に現れた文字は『凶』の文字。

健二 「・・・」

おみくじを広げて固まってる俺。

日和 「あれ?けんちゃんどうしたの?おみくじ持ったまま何だか震えてるよ。もしかして・・・凶の文字がついてるのかな〜」

俺の様子に日和が意味ありげな視線を向けてくる。

健二 「い、いや、日和なんでもないぞーあははは。」>棒読み

日和 「あっ、やっぱりおみくじ大凶だったんだ〜、でもけんちゃんは嬉しいんだよね」

俺のうそを見抜いて日和がからかってくる。
くそっ、ああ言った手前何も言い返せないぞ。

健二 「そうとも日和、俺は大凶を引いて嬉しいんだ。ビバッ!大凶」

半ばやけくその俺だった。

日和 「あはは、けんちゃん無理しないいでもいいよ。やっぱり分かってても大凶より、大吉の方がいいもんね」

健二 「ふんっ、それより日和、おみくじにはなんて書いてあったんだ?」

日和 「あっ、そうだね。私まだ読んでなかったよ〜、何が書いてあるのか楽しみだね」

そう言って、楽しそうにおみくじに目を通す日和。

日和 「ええと・・・あっ、けんちゃん恋愛運の所にね、『今あなたの側にいる人は、あなたの運命の人でしょう。きっと幸せな毎日が待っています』って、書いてあるよ。これってけんちゃんのことかな?」

健二 「ば、ばか、そんなこと俺に聞くな、恥ずかしいだろ」

日和 「あ〜、けんちゃん照れてる〜」

健二 「うるさい日和、俺も今からおみくじを読むところだから少し黙ってろ」

俺は話題を反らすため、自分のおみくじに目を通してみた。

健二 「なになに、『これより二日後、貴方の身にとてつもない不幸が訪れることでしょう。とくにリボンを着けたお子様には気をつけましょう。今も何処かで貴方のことを狙っているはずです。そんなあなたのラッキーアイテムは、魔除けのお札です。』」

健二・日和 「・・・」

暫く言葉が出てこない俺と日和だった。

日和 「・・・これって、もしかしなくても清香ちゃんのことだよね」

健二 「・・・しかも二日後って、休み明けの学校のことだろ」

二人顔を見合わせ、思わずため息をついた。
恐るべし大凶おみくじ。これからはおみくじをバカにするのはやめよう、そう俺は心に誓った。

健二 「まあ、こうして木に結んでおけば、確かチャラになるんだったよな」

俺はおみくじを木に結び始めた。

日和 「えっ?私の聞いた話だと、確かおみくじの効力が強化されるはずだけど・・・」

健二 「なにっ!?それは本当か?」

日和 「う〜ん、はっきりと覚えてないから、何とも言えないよ〜。ごめんねけんちゃん」

健二 「ええい、俺に一体どうしろって言うんだ!?」

暫く考えた後、俺は結局おみくじを木に結ぶことにした。
どっちにしろ二日後がヤバイことに変わりはないし、こんな最悪なおみくじを持って帰る気にならなかったからだ。
そして俺は、明後日はどこに遊びに行こうか考えるのであった。
日和は俺に付き合うといって、俺のおみくじの横に自分のおみくじを結んでいた。
そんな二人のおみくじは、初夏の夜風を受け、寄り添いながら楽しそうに揺れている気がした。

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がらんがらんがらん。

本殿の鈴の音があたりに響く。

ぱんぱんぱん。

手を三回叩き、目を閉じる。
俺と日和は今、本殿でお参りをしている。
おみくじを引いている人は沢山いるのに、お参りに来る人は以外に少ない。
こういう所に来たら、取りあえず願い事をしておくのが正しい日本人だと俺は思うぞ。
そしてもちろん賽銭箱に入れる金額は5円が定番だ。
ご縁がありますように、うんうん実にいい言葉だ。決してお金をケチりたい訳じゃないぞ〜。
さてと。

健二 (どうか清香に見つかりませんように・・・あと進藤にも。ついでに清香から今日の俺に関する記憶を消してくれ)

何となく願い事を言ってみる俺。
そして、日和に声をかけようと視線を向けてみた。
すると、日和はまだ願い事をしている所だった。
その横顔は、普段余り見せたことのない真剣な物だったので、俺は何となく声をかけれないでいた。
俺と日和の間に静かな時が流れる。俺はただじっと日和の横顔を見つめていた。
それから五分ほどたって、ようやく日和は顔を上げた、そして俺の視線に気づくと、いつもの照れた笑顔を俺に見せていた。

健二 「日和・・・そんなに真剣に何をお願いしてたんだ?」

俺は反射的にそう聞いていた。

日和 「えへへ、あのねけんちゃん・・・」

俺の質問に、日和はゆっくりと話し始める。

日和 「私はね、今のまま、みんなとずっと一緒にいられたらいいな〜って、そうお願いしてたの」

日和はそう言うと、視線を星空に向けた。
俺も釣られるように、星空を見上げる。
そこには沢山の星が瞬いていた。

日和 「清香ちゃんとけんちゃんが、またちょっとしたことからケンカを始めるの。そこに進藤さんが現れて、今度は三人で更に大暴れを始めるの。雪希ちゃんは、それを止めようと一人がんばってて、私はそんな様子に、ただおろおろあたふたしているだけなの。そんな私たちのやり取りを、麻美先輩は楽しそうに眺めている・・・。そんな毎日がずっと続けばいいなーって、私は思ったの。だって、そこにはみんなの楽しそうな笑顔があるから。きっとそれは、幸せなことなんだよ」

そう話す日和の顔は、とても楽しそうだった。
みんながずっと一緒に・・・。
それはきっと叶わない願いだろう。
俺たちは、近い将来別々の道を進むことになるだろうから・・・。
でも、それでも俺たちはなんだかんだいって集まり、バカなことを繰り返してる・・・そんな気がする。
いや、俺はそう信じたいのかもしれない。

健二 「そうだな。しかし、毎日そんなことを繰り返すのはさすがに勘弁してほしいけどな」

日和 「あはは、私もさすがに今日みたいなことが毎日だったら、ちょっと考えちゃうよ」

そして、笑いあう俺たち。

日和 「私ね、実はもう一つお願いをしたの」

健二 「もう一つ?」

日和 「うん、それはね・・・例え、この先みんなと会えなくなる日が来たとしても、私は・・・」

そこで、一瞬言葉が途切れる・・・そして。

日和 「けんちゃんの側にずっといたいなーって、そうお願いしたの。えへへ」

そう言って、いつも以上の照れた笑顔を俺に見せる日和。
それは、日和が本当に望む願いだったのだろう。
どう答えようか迷った俺は、少しからかうように答えた。

健二 「何今さらそんなこと言ってんだ。俺が付いてないとすぐ泣き出すくせに。俺以外に誰がお前みたいなポンコツくんの面倒が見られるって言うんだ。せめて料理がもっと美味くなるまでは側にいてやるから安心しろ。じゃないと嫁の貰い手がいないからな」

その答えは、俺の精一杯の照れ隠しだった。
そんな俺を見て、日和はただ一言。

日和 「うん、分かったよ。えへへ」

そう、嬉しそうに答えた。
その時。

清香 「あぁーっ!こんな所に隠れていたのねっ!」

進藤 「先輩ひどいですよ。恋人の私を見捨てて逃げるなんて。それでいいと思ってるんですか?」

清香と進藤の声が聞こえてきた。
どうやら見つかってしまったようだ。
まったく今日は別行動のはずだったに、しつこい奴らだぜ。

健二 「日和逃げるぞ!」

日和 「うん♪」

そして俺と日和は手を繋ぎ、再び走り始めた。
後ろからは、俺たちを追いかけてくる清香と進藤の声が、まだ賑わいの衰えない境内に響いていた。

『今のまま、みんなとずっと一緒にいられたらいいね・・・』

その願いが叶うかもしれない・・・そう予感させる、初夏の夜の日の出来事だった。

 

つづく


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