「みずいろ」の愉快な仲間たち
第二十三話 射的で勝負
遠くから聞こえてくる威勢のいい太鼓の音。
境内に溢れる沢山の人の楽しそうな声に、露店の売り子の賑やかな掛け声が重なる。
そんな、たくさんの笑顔で賑わいを見せる縁日の中・・・。健二 「清香!こうなったら射的で決着を付けようではないか!」
清香の顔に人差し指を付き付けながらそう高らかに宣言する俺。
清香 「ええいいわよ!返り討ちにしてくれるわ!」
清香も負けじと下から射的の銃を俺の顔に突きつけてくる・・・って、ちょっと待て!
健二 「お前そんな物騒なもん人の顔に向けるな!」
清香 「うるさい!どうせこれで勝負するんだから同じことよ!」
健二 「誰が撃ち合いをすると言ったんだ!」
いまだにケンカを続けている俺と清香。
周りの一般ピープルも、もう慣れた様子で俺たちの横をただ笑顔で通り過ぎるだけだった。
これは喜んで良いのか?健二 「射的なんだから景品で勝負するに気まっとろうが!」
俺は射的の露店の景品を、ビシッと指差しながら清香に言ってやった。
まったくこいつはどこまでも危険なやつだぜ。
俺は大きなため息を吐いた。清香 「・・・言いたいことは大体分かったわ。で、健二、あんた何で『景品』という所でいきなり私の顔を指差してんのよ・・・怒らないから言って御覧なさいよ」
どうやら納得してくれたみたいな清香が笑顔で答える。
そうか、分かってくれたか、うんうんって・・・俺が何を指差してるって。
俺は恐る恐る自分の指差している先を確認してみた。健二 「何だ、ちゃんと射的の景品を指差してるじゃないか。まったく脅かしやがって・・・。それにしてもこんなバカでかいリボンをつけた子供の人形誰が欲しがる」
しかし俺が言えたのはそこまでだった。
俺の眉間に、あの見慣れたコルク弾の感触が感じられたからだ。
恐る恐る確認してみると、俺のすぐ目の前に銃を構えた清香の姿が・・・。
ヤバイ!何だか奴の後ろにオーラが見えるぞ。清香 「健二・・・覚悟は出来てるみたいね」
そう言うと清香は俺の見ている前でゆっくりとトリガーを引こうとしていた。
健二 「ま、まて清香、冗談だ冗談!ちょっとしたジョークだよ、本気にするな、な」
清香を落ちつかせようと、両手を挙げて少しずつ後退する俺。
清香 「・・・」
無言で俺との間合いを開かせないように前進してくる清香。
俺と清香のケンカはまだまだ続きそうな気配を見せていた。
そんな中、日和と麻美先輩は何事も無いかのように、楽しそうにおしゃべりをしているのであった。
ああ、こんな時マイ妹がいてくれれば・・・俺は今さらながら雪希の偉大さに気がついたのだった。・
・
・
健二 「じゃ、じゃあルールーを決めようじゃないか」
俺は痛む額を手で押さえている。
清香 「最初ッから素直にそうしてればいいのよ。まったく」
それに引き換え満足そうな清香。
くそっ、まさかマジで撃つとは思わなかったぞ・・・・どこまでも恐ろしいやつめ。
だがしかし、この屈辱はこの勝負で晴らしてやるぜ。健二 「しかし、ただ漠然と商品を落としても面白くないしな・・・ここは・・・」
俺は腕を組んで、何か面白い案が無いか考えてみた。
健二 「よし、お互いのパートナーの指定した商品を先に落とした方が勝ちでどうだ?」
俺は思いついた案を清香に持ちかけてみた。
清香 「そうねぇー、それだとパートナーがどの商品を指定するかでほとんど勝負が決まりそうな気がするんだけど・・・」
そう言って、ちらっと日和と麻美先輩に視線を向ける清香。
清香 「まあ、あの二人なら深く考えることはしないで、たんに自分たちの好きな物を指定しそうだから、それでいいんじゃないかしら。不確定要素があった方が楽しそうだしね。ただし、あの二人には自由に商品を選んでもらうわよ。脅迫及び誘導するようなことは言っちゃダメよ」
満更でもなさそうな清香。
どうやら俺と同じ考えだったみたいだな。そう、これは如何にしてパートナーに取りやすい商品を指定して貰えるかの勝負でもある。健二 「ああ、もちろんだとも、よしそれで決定だ!」
お互い納得し、日和と麻美先輩の元に向かう俺たち。
ふっふっふっ、策にはまったな清香。何といっても俺と日和は幼馴染!きっと俺のアイコンタクトが通じるはずだぜ。
この勝負もらった。俺は意気揚々と歩いていく。清香 「日和、麻美先輩、ちょっといいかしら」
日和 「うん?なあに清香ちゃん」
麻美 「あの・・・なんでしょうか」
『あっケンカはもういいのかな?』という顔(どんな顔だ)を向ける日和と麻美先輩。
まあ、俺たちのケンカが終わったと思って安心したというところか・・・実はまだ続いてるのだがな。清香 「あのね・・・」
そんな二人に、清香はこれまでの経緯を説明している。
清香 「・・・という訳なのよ。それで二人にそれぞれ好きな商品を選んで欲しいんだけど、いいかしら」
どうやら清香の説明が終わったようだ、さて二人の反応は・・・。
日和 「わあ〜、どれでも好きなの取ってくれるの〜、るんらら〜よかったね♪」
手放しで喜んでる笑顔の日和。
麻美 「・・・どれにしましょうか・・・迷ってしまいますね。ふふふ」
麻美先輩も喜んでるみたいだな。
それにしても・・・予想どうりこれが勝負だということが頭に無いな・・・二人とも。
いや、だからこそ俺のアイコンタクトが勝負の決め手になるというもの。
頼むぞ日和先生。日和 「それじゃあね〜、う〜ん、どれにしようかな〜、迷っちゃうね。えへへ」
日和は楽しそうに射的の景品を眺めている。
よし、今だ!届け俺のテレパスィー!日和 「あれ?けんちゃん何ウインクしてるの?」
俺のアイコンタクトに気づいた日和。
『日和、あれだ、あの一番落としやすいライターを選べ。俺に勝利を!ギムミーライタープリーズ!』
俺は全ての思いを自らの瞳に込めた。日和 「うん?それじゃあね〜、私は・・・あっあれにしようかな。私あれが欲しいな」
日和はそう言って、景品の一つを指差す。
俺は日和が指差したものを確認しようと素早く視線を景品に向けた。
日和が指差したもの、それは!健二 「・・・猫のぬいぐるみ(社長)・・・しかも射的の景品とは思えないぐらいでかいぞ・・・」
おもいっきし固まる俺。
日和 「けんちゃん、がんばってね」
そんな俺をよそに能天気に楽しそうな日和。
健二 「誰がんなもん選べといった!俺はライターを選べといったろうが!」
当然日和にくって掛かる俺。
日和 「はうっ・・・そ、そんなこといつ言ったのよ〜私そんなこと一言も聞いてないよ〜」
突然のことに、おろおろする日和。
健二 「アイコンタクトで送ったろうが!俺の幼馴染ならそれで理解しなくてどうするんだぁーっ!」
日和 「そ、そんなの言ってることがむちゃくちゃだよ〜。いくらなんでもそれで分かるはずなんて無いよ〜」
健二 「うるさい、こっちに来い日和。ぐりぐりしてやる」
日和 「うわ〜ん、ぐりぐりしないでよ〜」
人目も気にせず大騒ぎを繰り広げる俺と日和。
清香 「まったく日和にそんなことしたって分かる訳無いじゃない。まったくどっちも子供なんだから。ねえ麻美先輩」
麻美 「でも・・・なんだか二人とも楽しそうですね」
清香 「まあ、いつものことだしね」
そんな俺と日和のやり取りを、暖かく見守る二人だった。
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健二 「結局俺はあれを落とさない限り負けてしまうのか・・・はぁ〜、仕方ないか・・・」
がっくりとうなだれる俺。
これ以上日和に八つ当たりしたところで何も変わらないしな。日和 「そ、そうだよ〜、清香ちゃんに負けたくなかったら、取るしかないんだよ。うんうん」
さっきまで半泣きだった日和が、俺の言葉を聞いて途端に嬉しそうに答える。
よっぽどあの猫のぬいぐるみ(社長)が欲しいみたいだな。
しかし・・・なにげにプレッシャーを懸けられてる気がするのは気のせいだろうか。
もしかしてさっきの仕返しのつもりか?
まあ、もう済んだことをうだうだ言ってても始まらないし、後はせめて麻美先輩が日和レベルの商品を指定してくれることを祈るだけか・・・。
俺はそう思い、清香と麻美先輩の様子を見に行った。健二 「よっ清香、お前の的はどれだ?」
日和 「えへへ、こっちは決まったよ〜」
二人の側まで行き、俺と日和はそう声を掛けたが、二人の様子が何かおかしい。
清香 「・・・麻美先輩、本当にあれでいいの?」
何か困惑している清香。
麻美 「はい・・・ぜひあれを取ってください」
対照的に嬉しそうな麻美先輩。
健二 「どうした清香?パートナーの選んだ物に文句は言えないはずだぞ」
日和 「どうしたの〜?」
不思議に思い、清香にもう一度声を掛けてみる俺と日和。
清香 「そんなこと言ったって健二、それに日和、麻美先輩が選んだのはあれよ」
そう言って清香は景品の一つを指差した。
俺と日和はその景品に視線を向けてみた。健二 「あっあれは!?」
日和 「あっ・・・」
驚愕する俺と日和。
清香 「でしょう、いくらなんでも子供っぽ過ぎるわよね。あんなの小学生が欲しがるものでしょ」
俺たちが同意したものだと思い込んでる清香。
健二 「何を言っている!あれは今や誰もが欲しがってる『まじかる☆ひよりん』(部長)の人形じゃないか!しかもでかい奴だ!清香!何としてもあれを落とすんだ。麻美先輩さすがお目が高いぜ!」
そう言って麻美先輩に親指を立て見せる俺。
日和 「そうだよ〜、今巷で大人気なんだから〜るんらら〜よかったね♪」
自分?のことのように喜ぶ日和。
麻美 「さすがにお目が高いですね健二さん、早坂さん・・・ここは何としても『げっちゅ』ですよね」
俺たちの同意にむちゃくちゃ嬉しそうな麻美先輩が、少し照れながらも俺と同じように親指を立てて見せてくれている。
ここにまた一つ麻美先輩との熱い友情が芽生えるのだった。清香 「こ、この三人一体何考えてるのよ・・・」
そんな俺たちを見て心底あきれ返る清香だった。
何気にこれでお互いの標的の大きさが同じになったのは言うまでも無い。・
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俺と清香の勝負は、静かに始まっていた。
2m先の標的にお互い神経を集中している。
あたりは静まり返り、緊迫した空気が流れているような気が・・・するのか?健二 「しかし・・・標的が同じようなサイズになったのは良かったが・・・どうやって落とすんだあれ?」
標的に照準を合わせたまま、固まってる俺。
日和 「けんちゃんがんばってね〜。早くしないと清香ちゃんに負けちゃうよ〜、るんらら〜♪」
しかも俺の後ろでは、日和が楽しそうにプレッシャーかけまくってるし・・・。
くそっ、悔しいがあれを落とさない限り俺の勝利がないのもまた事実。
ここはうじうじ考えてないで、とりあえず一発撃ってみるか。ポンッ!
俺は試しに一発あのふてぶてしい猫のぬいぐるみに当ててみた。
コルク弾は、俺の狙いどうり重心の一番悪そうな所に当る。
猫のぬいぐるみはかすかに揺れはしたが、とても落とせるような感じではなかった。健二 「うーん・・・あれであの程度の揺れだとしたら・・・やっぱりまともにやったんじゃ落ちそうに無いな・・・」
俺はそう思い、詳しく標的の状態を観察してみた。
・・・なるほど・・・あの猫は前傾姿勢で台に乗っている訳か・・・あれじゃあ正面からいくら当ててもあの質量にはじき返されるのが関の山だよな・・・。
やはり値段が高そうなだけに、簡単には落とせないようにしてある。
まあ、それでも清香よりは随分ましだが・・・。
そう思いながら何気にチラッと清香のほうを見てみると。清香 「きぃーーーっ!あんなのいかさまじゃない!ちょっとそこのおやじ!せめて普通に置いてくれてもいいんじゃないの、直しなさいよ!」
おやじ 「ああ、ダメダメ。それはなんたってレア物だよ?そう簡単に取られたんじゃあ、商売上がったりだ。どうしても欲しいのなら、その状態で落としてもらわなくちゃあな」
店のおやじとケンカしてやがる・・・。
まあ気持ちは痛いほど良く分かるぞ清香。
足を投げ出した状態で前かがみ気味に座らせて置いてある『ヒヨリン』。
普通に置いてあれば、上半身は後ろに倒れるから、あのでかさでも意外と簡単に落とせるはずだ。
しかし、しかあし!今あそこに座っておられる『ヒヨリン』様は、なんと俺たちにその悩ましげなうなじをお見せになっておられるのだぁーーー!>心の叫び
まあ、平たく言えば後ろ向きに置いてあるだけなんだけど、構造上あの体勢の人形の背中にいくらコルク弾当てたって落ちる訳が無い。
まあ、作戦どうりだな。
俺は自分の標的に集中することにした。るんらら〜♪・
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健二 「さてと、正面からいくら当てたってダメなのは分かってるから、ここは・・・」
俺は出来るだけあの猫のぬいぐるみを横から狙える位置に移動することにした。
斜め45°・・・この位置からなら少しは何とかなるかもしれない。
俺は台に片手を置き、出来るだけ銃を持つ手を伸ばし、少しでも標的に近づけようとした。健二 「よし、これらないけるかもしれない。うん?」
その時俺は、何者かの気配を隣りに感じた。
どうやらそいつも俺の気配に気が付いたみたいだ。
お互いゆっくりと隣りに視線を向けてみる。健二・清香 『あっ・・・』
思わずはもる俺たち。
どうやらお互い同じ考えに行き着いたようだな。
清香も俺と同じスタイルで標的を狙ってる・・・って、ちょっと待て!健二 「清香!お前いくらなんでも台の上に乗っかるのは反則だろ!」
俺が見たものは、台の上に正座して乗っかり標的を狙っている清香の姿だった。
健二 「いくらなんでも堂々とそんなことすれば、店のおやじに怒鳴られるぞ。早くそこから降りろ清香」
俺は清香のリボンを引っつかみ、思いっきり引っ張る。
清香 「ちょ、ちょっと健二危ないじゃない。それに私の大事なリボン引っ張るんじゃないわよ。これはちゃんと店のおやじに了解とってあるんだから問題ないのよ」
清香はそう反論してくる。
健二 「何バカなことを・・・」
そう思いながら店のおやじを見てみると。
頭の上で両手を使ってでっかいマルを作っている店のおやじの姿が目に飛び込んできた。清香 「ね、言った通りでしょ。分かったらその手を離してくれるかしら」
無い胸を反らし、勝ち誇る清香。
健二 「・・・」
それに引き換え清香のリボンを掴んだまま言葉も出ない俺。
試しに俺は自分を指差してみた。
今度は胸の前で両手を交差させでっかいバツを作るおやじ・・・しかも声を出さずにブーと言ってやがる。健二 「何で露店のおやじはどいつもこいつもロリコンなんだぁーーーっ!」
俺はまたしても頭を抱えて叫ぶのであった。
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それから15分後、俺と清香は煮詰まっていた。
いろいろとコルク弾を当ててみたものの、やはりお互いの標的は落ちる気配を見せなかった。健二 「もうダメだな、これ以上やっても金の無駄使いになるだけだ。後ろからでも当てない限りあれは落ちないぞ」
俺は銃を構えるのをやめ、そう清香に言った。
清香 「こっちも同じよ、まったく背中じゃなくて正面からなら一発で落とせそうな標的なのにね」
悔しそうにそう言うと、清香も銃を構えるのをやめる。
健二 「仕方ない、この勝負は引き分けだな」
清香 「不本意だけど仕方ないわね」
お互い納得し、射的を続けるのをやめようとすると。
日和 「何言ってるのよけんちゃん、がんばって取ってよ〜」
麻美 「・・・二人ともうそつきです」
日和と麻美先輩の、不満声が聞こえてきた。
こいつら自分の懐が痛まないと思って勝手なことを・・・。健二 「そんなに言うなら日和、自分でやってみろよ。まだ弾は残ってるからな」
清香 「麻美先輩もやってみる?私もまだ残ってるのよね」
俺は日和に、清香は麻美先輩に持っていた銃を手渡す。
日和 「えっいいの?実は私ちょっとやってみたかったの。るんらら〜」
麻美 「私・・・がんばります」
遠慮するかと思いきや、以外にもやる気満々の二人。
どうやら本気で取れると思ってるみたいだが・・・。健二 「こら二人とも、俺や清香でさえ取れなかったものが、取れると思ってるのか?」
俺がそう忠告するものの二人の反応は。
日和 「そんなのやってみないと分からないじゃない。私がんばっちゃうよ〜」
麻美 「ふふふ・・・げっちゅ」
本気だ・・・二人ともマジになってやがる。
清香 「まあ、あれだけやる気になってるんだから、ここはおとなしく二人の腕前でも見てましょうよ」
俺たちの言い合いを見かねた清香が、仲裁に入ってくる。
健二 「・・・そうだな、あれこれ言うより実際にやってみるのが一番だもんな。ここはお手並み拝見と行きますか」
俺と清香はもう黙って二人を見守ることにした。
日和 「ええと、確かこんな風に・・・こ、こうかな?」
麻美 「???」
何か見よう見まねで色々とやっている二人。
やる気は認めるが・・・二人とも狙いがおもいっきし外れてるぞ。
しかし・・・ただ見ているだけというのはつまらんな・・・よし!健二 (清香、ちょっといいか?)
俺は清香を引きつれ、射的に夢中になってる二人から少し距離をとった。
清香 「なによ健二、どうしたのよ?」
当然?顔の清香。
健二 (しっ、声がでかいぞ清香、二人に聞こえたらどうするんだ?)
清香 (なによ、二人に聞こえちゃなんかまずいわけ?)
健二 (まずい・・・ということも無いだろうが、まあなんとなくだ)
清香 (・・・で、なんの話なのよ)
健二 (よし清香よく聞けよ、ただ二人の様子を見ていてもつまらんから、ここは一つ賭けでもしないか?)
清香 (賭け?)
健二 (ああそうだ。標的を落とせるか落とせないかで賭けるんだ。もちろん二人のうち一人でも落とせば落とせたことになるからな。ちなみに勝者は敗者に何でも奢らせることが出来るんだ。どうだ清香、おもしろそうだろ?)
清香 (・・・やっても良いけど・・・ちなみにあんたはどっちに賭けるつもりなのよ?)
健二 (そんなの決まってるだろ、落ちないほうだ)
清香 (私もよ)
健二 (・・・)
清香 (予想どうり、これじゃあ賭けにならないわね)
健二 (ま、待て清香。よし、こうなったらじゃんけんでどっちにするか勝負だ!)
清香 (それじゃあ賭けでも何でもないじゃない!)
健二 (うるさいぞ清香!そんなこと言ってるからいつまで経ってもちびっ子で胸無しなんだ!)
清香 (な、なんですって!そんなの関係ないじゃない!・・・いいわ、こうなったら意地でも勝って思う存分奢らせてやるわ)
健二 (よし、それじゃあ勝負だ!)
清香 (返り討ちにしてくれるわ!)
あいこを繰り返すこと数回。
そして、勝負の結果・・・。健二 「わはは、俺の勝ちだぜ清香!さあて何を奢ってもらおうかな〜ビバッ!清香の奢り最高!」
思わず踊りだしそうになる俺。
清香 「な、何浮かれてるのよあんた、たかがじゃんけんに勝ったぐらいで。本当の勝負はこれからでしょ、いい気になってんじゃないわよ」
言葉とは裏腹に顔が引きつっている清香。
清香には悪いがもうこの時点で勝負は決ったみたいなもんだ。健二 「よし、俺は二人が落とせないほうに賭けるぜ。清香は当然落とせるほうだからな」
清香 「くっ・・・仕方ないわね。でもまだ負けた訳じゃないわ」
勝利を確信する俺と、かすかな希望にすがる清香。
そして俺たちは、勝負の行方を確認するため、日和と麻美先輩のもとに戻ることにした。
さあて清香に何奢ってもらおうか今から楽しみだぜ。るんらら〜♪・
・
・
日和 「よ、よし。それじゃあそろそろいってみようかな〜」
俺たちが戻ると、ちょっど日和が狙いを決めコルク弾を撃とうとしている所だった。
麻美 「???」
麻美先輩はいまだにやり方がわかっていないみたいだけど・・・。
健二 「ほら先輩、こうやってですね・・・」
見かねた俺は、麻美先輩に一通りのやり方を教えてあげた。
まあ、このくらいしても俺の勝ちはゆるぎないからな。
すっかり余裕モードの俺。清香 「日和あんたどこ狙ってるのよ!まじめにやりなさいよ!ほらこうやるのよ!」
日和 「わわわ、清香ちゃんいきなりどうしたの?そんな怖い顔して・・・」
かたや余裕の欠片も無い清香が、あれこれ日和にアドバイスしていた。
ふっ・・・無駄なことを。日和 「それじゃあいくよ〜」
麻美 「・・・私もです」
全ての準備が整い、運命の瞬間がやって来た。
日和と麻美先輩が今まさに引き金を引こうとしている。
始めのころに比べれば、だいぶ狙いの付け方がうまくなったみたいだが、やっぱり狙いが外れている二人。
必死に笑いをこらえる俺と、半ば諦め顔の清香。
さあ、勝負の女神はどちらに微笑むのか?(俺に決ってるけど)日和 「えいっ」
ポンッ!
麻美 「・・・えい」
ポンッ!
二人ほぼ同時に引き金を引く。
それぞれの目標に向かって飛んでいくコルク弾。
当るか?当るか?・・・おしい!僅かに目標を外れた。
コルク弾が標的を通過して飛んでいく。健二 「よっしゃあ!この勝負俺の勝ちだぜ!」
その瞬間高らかに勝利宣言をする俺。
清香 「くっ・・・!」
かたや分かっていたことだがものすごく悔しそうな顔をする清香。
しかしこの後、予想だにしなかったことが起きた。ココンッ!>後ろの壁に当るコルク弾
ヒュッ!>勢いを殺さず跳ね返ってくるコルク弾
スコォーーーン!>標的の真後ろに命中するコルク弾
グラグラグラ。>弱点を付かれゆれる標的
ボテッ、ボテッ。>落ちた・・・。
その結果・・・。
日和 「わあ〜い、けんちゃんが落とせなかったこの猫のぬいぐるみ私が取っちゃったよ〜るんらら〜よかったね」
麻美 「感動です・・・ひよりんげっちゅ」
そこには商品を手にして喜びまくる二人の姿があった。
清香 「き、奇跡だわ。ものすごい偶然だけど・・・ふふふ、まあそんなことはどうでもいいわ。け・ん・じ・約束は分かってるわよね、さあてなに奢ってもらおうかしらね〜」
そして俺がさっきまでいた場所に視線を向ける清香だったが・・・。
清香 「ああーーーっ!い、いない!?いつの間にかいなくなってるじゃないのよ!しかも日和まで!?」
慌てて辺りを探す清香だったが、もう二人の姿はどこにも見えなかった。
・
・
・
健二 「よし、ここまでこればもう大丈夫だろう」
俺は走るのをやめ辺りを見渡してみた。
よし、清香の追撃は無いみたいだな。日和 「け、けんちゃん一体どうしたのよ〜いきなり走り出して・・・」
日和は息を切らしながら、俺に質問してくる。
まあ、日和が困惑しているのも無理ないことだな。
何せ景品を手にした瞬間有無を言わせず日和の手を引っつかみ、一目散に清香から逃げてやったからな。
今頃清香のやつめちゃくちゃ悔しがってることだろう。
われながらナイスな逃げ足だぜ。健二 「いや、日和悪かった。ちょっと身の危険を感じたんでな。もう大丈夫だ」
日和 「う〜ん、よく分からないけど、もう大丈夫なんだね。あっそれよりもけんちゃん見てみて、ほらこれ私が取ったんだよ、えへへ」
そう言って日和は、大事に抱いていたあの猫のぬいぐるみを俺に見せてくる。
俺でも落とせなかったのに日和はそれをたった一発で落とした。
自慢したくなるのも無理ないな。健二 「・・・そうだな日和、すごいぞ」
俺は素直に日和を褒めてやった。
日和 「えへへ、私の宝物だよ〜。今日の記念に私ずっと大切にするね」
そして日和はまた大事そうに猫のぬいぐるみを胸に抱いた。
俺はそんな日和の頭をくしゃくしゃに撫でてやった。
まったくこれぐらいのことで大喜びしやがって。健二 「それじゃあ日和、そろそろいくか」
日和 「うんそうだね。ようし、本殿に向かってしゅっぱーつ」
俺と日和ははぐれないよう手を繋ぎ歩き出す。
日和は楽しそうに繋いだ手を大きく揺らしていた。
まあ、いろいろあったが日和が喜んでくれたからいいか。
俺はそう思い、日和に負けじとさらに大きく手を揺らしてやった。
その時。ピンポンパンポーン。
境内放送の合図が不意に聞こえてきた。
健二 「なんだ?また誰か迷子になったのか?」
日和 「何の放送なんだろうね、けんちゃん」
何となく放送に耳を傾ける俺と日和。
清香 『こらぁーーーっ!バカ健二!よくも逃げてくれたわね!絶対見つけ出して奢らしてやるから覚悟してなさいよーーーっ!』
係員 『ちょっとそこの君!何やってるんだ!」
清香 『うるさい!今取り込んでんのよ、邪魔するんじゃないわよ!』
『バキッ!』
係員 『ぐわっ・・・がくり』
清香 『健二!逃げるんじゃないわよ!分かったわね!』
麻美 『けんじさん・・・ほらこれ私が取ったんですよ・・・見てくださいね』
ピンポンパンポーン。
健二・日和 「・・・」
お互い声も出ない俺たち。
恐るべし清香・・・しかも麻美先輩まで・・・。
周りの一般ピープルたちがなぜか俺たちのほうを見ているような気がする。
何だかどんどん俺たち有名人になっていってる気がする・・・しかも悪い方に・・・。
と、とにかく今日は絶対に清香に見つかったらダメだ。日和 「けんちゃん、一体清香ちゃんに何をしたの〜」
日和が少し呆れたように聞いてきた。
健二 「いや、まあちょっとな。それより日和早く行こうぜ」
日和 「あっ、けんちゃん待ってよ〜」
俺は何事もなかったように歩き出した。
この人ごみだ、今日清香たちに会うことはもうないだろう。健二 「ようし、日和!今日はとことん遊び倒すぞ!ついて来い!」
俺はそういうと、いきなり走りだした。
日和 「わわわ、けんちゃん置いてかないでよ〜」
慌てて日和が追いかけてくる。
縁日の夜は、ますます賑やかに楽しくなっていった。
つづく