つくとり(18禁)
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「つくとり」のレビュー&感想をば。ゲームの性質上ネタバレは致命的なのでその点には留意致しますが、ネタバレ無しでは書き辛いところもございますので今後プレイ予定のある方は御注意願います。

■絵■

原画はぼうのうとさん。単純に絵だけを見た時は「んー、ちと微妙だなぁ」と言う印象だったんですが、プレイを進めていくうちに「この絵じゃないとダメかも」と変化。まぁ慣れと言ってしまえばそれまでですが、サスペンス色の強いこの作品には無駄に可愛らしい萌え絵よりも、ちょっと素朴な感じの絵の方が合うのではないかと思います。

■音楽■

OPとEDにボーカル曲。Ducaさん歌うこの2曲は単体で聴いてもいい曲でしたが、作品の雰囲気を踏まえた上であくまでも『ゲーム主題歌である』という観点で評価した方が高評価になるかも。つまりそれだけ雰囲気にぴったりだったと言う事です。BGMも大いにドキドキ感を煽ってくれました。火曜サスペンスとかで使われそうな感じ(もう番組終わってるけど)。

■シナリオ■

ペットのミーナを連れて旅をしていた駆け出しカメラマン・橋上郁(かおる)は電車の中で1人の女刑事・久十生(くどう)寧(ねい)に声をかけられる。殺人事件発生の連絡を受けた田舎町へ向かう久十生は、本来一緒に行くべき相棒が体調不良で来られなくなってしまったので、代わりに刑事のフリをした状態で郁に同行して欲しい、と言い出した。渋々引き受けた郁が久十生と共に降り立ったのは、”ツクトリ様”なる郷土信仰が盛んでよそ者に対しては極度に閉鎖的な月鳥町。”いけにえ”や”祟り”と言った言葉が飛び交うこの田舎町で、郁は連続殺人事件へと深く関わることになっていく。

と言う訳でホラー色の強いサスペンスADVです。これと言った選択肢は無く、途中のシナリオが分岐するタイミングでプレイするシナリオを選ぶスタイル。シナリオは大きく分けて3つに分かれており、それぞれには事件パートと解決パート(解決パートと言っても人は死ぬ。死にまくる)があって、最後にグランドルート的シナリオと言う流れです。つまり……

ってな順番でプレイすることになります。あ、○○パートとかカッコ内の○○編とかは分かりやすいように私が勝手につけてるだけですので、誤解なさらないようお願い致します。

以下クリア順にヒロイン別感想……といつもの通りに行きたいところですが、今回はシナリオ毎に感想を書いていくことに致します。本作は「キャラクターが動いてシナリオが生まれる」と言うよりも「シナリオの中でキャラクターが動く」と言う風に感じたので、キャラクターごとの感想ってのが書き辛いんですよね。

▼共通パート▼

郁が久十生と共に月鳥町に降り立ち、町の名士の娘であり宿の世話にもなる森下弥生・ルルの姉妹や、信仰の中心である月鳥神社の巫女・人問(ひととい)綺子(あやこ)と神主・韵(ひびき)の兄妹、最初の殺人事件が発生した謎の研究所に住む氷谷準や杳(はるか)達と知り合い、時に反発しながら、時に協力しながら事件の捜査を進めていくパートです。と言っても事件は混迷を極め、次から次へと新たな事件が発生していくのですが。

全シナリオを進めるにあたって基本的知識となる”ツクトリ様”信仰のおどろおどろしさや、町の北部vs南部の対立等が語られますが、その反面ギャグやコミカルな会話で大いに笑わせてもくれる貴重なパートでもあります。後半はシリアス一辺倒になってしまうので、この共通パートでの笑いがゲーム内での救いであり、同時に他での恐怖感を際立たせる要素でもあり。

▼月鳥の姫編▼

月鳥神社の巫女・綺子と仲良くなることでツクトリ様信仰の真の姿・裏の姿を明らかにしていき、風習や信仰に囚われた綺子を解放せんと奮闘する話。当然それは簡単な話ではなく、郁と綺子の前には大きな壁どころかデモンズウォール級の困難が立ち塞がることに。

どこか天然だけど芯の強い綺子は、一応この作品のメインヒロイン。極度のシスコン兄貴である韵との会話も面白いですし魅力的なキャラであることに間違いはないのですが、それでもどこか引っかかってしまうのはやはり郁に対して心を開きながらも隠し事を抱え続けていたからでしょうか。例え深い理由があったにせよ。

サスペンスの常として「口伝え」がインチキであることは分かりきってましたし、韵の目が見えることもハンカチの柄について語った時点で予想済み。まぁこれらは物語の根幹でもなければ重要な点でもなく、物語を盛り上げるための単なる小道具だと思いますので問題無し。

正しくバッドエンドそのものだった事件パートと比べて、過去や事件の裏の多くが語られつつハッピーエンドを迎える解明パートは快刀乱麻的快感がありました。でもこれで終わりじゃなかったんですよね。

▼鬼子来る編▼

弥生とルルの間にいたもう1人の姉妹・リリの存在がクローズアップされるシナリオです。森下家に深い恨みを抱いたまま長年姿を消していたリリの影におびえる父親・静眞(しずま)と姉妹の間にある深い確執や、時折姿を見せては消えていくリリの謎の行動に振り回される郁。果たしてその結末は……。

冷静沈着で大人の女だけどどこか脆い感のある弥生&天真爛漫で明るいキャラクターであるルルの姉妹に暗い影を落とす父親の存在と、暗躍するリリがクローズアップされるシナリオですので、他のシナリオで話の中心となる研究所の殺人事件や神社の事にはあまり触れられません。なので3つのシナリオの中ではちょっと浮いてる感じもしますが、単体でみると非常によく練られたシナリオだったと思います(まぁ全部のシナリオが凄まじく練られていたと思いますが)。

森下姉妹の歩んできた道のりを思うと涙を禁じえません。特にルルのために全てを投げ打ち、ありとあらゆる苦しみに耐えてきた弥生には国民栄誉賞と与えたい気持ちでいっぱいです。よくやった……弥生、本当によくやってきた。解決パートのエンディングに至るまでの流れは嫌いじゃありません。どうか弥生とルル、そして郁の3人が幸せで穏やかな生活を送れますように。

▼八鏡編▼

研究所編、と言うとやや御幣があるかもしれませんが、あくまで勝手につけただけの暫定的な名前ですのでお気になさらず。研究所で発生した事件を一番真面目に捜査する話で、身内の人間がボロボロ死んでいく展開は一番惨い印象を残したシナリオです。久十生の自殺森下姉妹の死は本当にショックでした。【月鳥の姫編→鬼子来る編→八鏡編】と順番が固定であることを利用して、静眞がリリに怯えきっている点を物語の展開に活かしているのは流石。

解明パートで明らかになる謎……と言うよりも完全に新しい事実はかなり衝撃的で、日本のタブーによくぞココまで言及したと拍手したいぐらい。これまでの文献でもほとんど触れられることが無かったであろうアンタッチャブルである史実なだけに、クリエイターの皆さんとPCゲーム業界の懐の深さに感服致しました。

余韻を残した解決パート(八鏡 後編)のエンディングは結構好き。郁と準・杳の別れは必然だったとしても、それでもわだかまりを越えて再会して欲しいと望む私の気持ちに応えてくれました。あの後どうなったのかはわかりませんが、交わされる会話を想像するだけでも楽しくなってきます。

解決パートはグリューンが主人公でありヒロイン。個人的には全く好きになれないキャラクターでしたが、クリア後は「彼女が幸せになる道は無かったのか」と切ない気持ちでいっぱいに。

この段階でこれまでの事件に関する謎はほぼ解明されるのですが、更なる裏事情の暴露と怒涛の展開が待ち受けている最終章へと物語は移行。

▼神代編▼

月鳥の姫編真章の後の話。あれで終わりと見せかけておいて『俺達の戦いはこれからだ』と言わんばかりに熱い展開が続きます。むしろここからが本番な勢いで。新たな組織の存在久十生の裏切り郁の過去など最後の最後まで目が離せないジェットコースター的展開に。

この章まで来るとオカルト的な謎は全て解明されているので物語からはホラー色が無くなり、サスペンス色が尚一層強くなってきます。特に最高のパートナーのはずだった久十生が敵に回ると言う展開は脳髄を激しく刺激してくれました。ここに至るまで散々に虚実入り混じった世界に振り回されてきて、それこそ何が真で何が虚なのかもわからない状態になっても久十生だけはと信じていた土台が完全に覆されてしまったワケですから。いや、あれはマジでショックでした。

ミーナの正体に関しては見当がついていたので驚きは無かったです。「ミーナって人間だよね?」と思える描写が要所要所にあって、どんなタイミングで明かされるのか楽しみにしていたぐらいでしたから。それでもミーナの素性がわかった時は、驚いたと言うよりも切ない気持ちになりましたけどね。きっといつかミーナが自分を取り戻して、郁と本当の意味での家族になる日がやってくると信じてます。

やや強引ながらも”あの人達”以外が皆ハッピーエンド。月鳥町の悪しき因習のみならず、郁自身が背負ってきた業もいい方向へと動き出す、とてもわかりやすいラストに大満足です。ただ1つだけ言わせてもらいたいのは韵に弥生は渡さない、と言うこと。

1つの殺人事件が発端となって、古き田舎町に伝わる信仰を中心とし、それでいていくつもの思惑や目的、過去と現在が複雑に絡み合ったシナリオは本当に見事でした。中盤までとクライマックスとで物語の本質がかなり変質致しますが、それもまた長いストーリーを全く飽きることなくプレイ出来た要因の1つだと思います。

とにかく『途中までしかプレイしない』なんて選択肢が微塵も存在しない作品です。最後の最後までプレイして初めて”プレイした意味”があると言えます。

ゲーム内時間はかなり短期間なのですが、1日1日があまりにも濃いので短い印象はありません。3シナリオの事件パートを全て終えてから解決パートに入ることが出来るので、各事件パートで死んだ人間がシナリオ間でごっちゃになることもしばしば。「あれ? コイツ死んだんじゃなかったっけ?」みたいな。

包帯で覆われた謎の人物が跋扈したり、古い因習に囚われた住民達がいたり、閉鎖的な集落故の澱みがあったりと、何となく雰囲気は横溝正史氏の小説に近いような気がしました。選択肢が無く、主人公である郁自身もラスト近くまで謎を秘めたままだったことで感情移入度は低めでしたが、それ故に映画的な楽しみ方が出来たように思います。

プレイ出来るシナリオ順を固定としたことで、ストーリー自体はシナリオ毎に独立して展開するものの、全体を通してプレイすることで「つくとり」と言う大きな物語に触れることが出来る構成は見事でした。

間違ってもキャラ萌えするような作品ではないと思いますが、その中で敢えて言うなら弥生が一番好きかな。愛する妹のために己の身の危険を厭わない深い愛情。強い中に弱さを秘めており、またその逆も真なり。本作において幸せになってもらいたい人間No.1です。冗談ばかりで郁をからかってた久十生も好きですけど、ほら久十生はアレですので……。

ボイスは全く問題ございませんでしたが、どうせならヒロインのみならずフルボイスにして頂きたかったかも。タカコや韵にボイスがついていて、そのボイスが大ハマリだった日には、更に作品としての評価がアップしていた可能性大です。もしもコンシューマ移植されることがあったらこの点を是非検討……なんて夢は抱きませんよ。この作品ほどコンシューマ化が不可能なPCゲームはそうそう存在致しません。

そう言えばミーナのCVは結局誰だったのでしょうか。神代編を終えた後の真のエンディングで流れるスタッフロールには出るかなー、と思ってたら見事に裏切られました。ガックシ。

気になったのは誤字がやたらと多いこと。少量であればスルー出来るのですが、後半になればなるほど誤字頻度がアップしたように思います。ライターさんもデバッガーさんも力尽きてらっしゃったのでしょうか……。

と言う訳で「つくとり」。面白いです。お薦めです。ただし情報量が多い上にやたらと重い話ですので、気楽&気軽な気持ちでライトにゲームを楽しもうと言う時には向いてないかも。腰を据えて、それこそ重大事件に挑む心構えで臨む事を推奨いたします。

ラストまでクリアしても回収出来ないような謎や伏線はございませんが、それでもやっぱり情報量が半端じゃありませんし、更にはそれらが絡み合った展開は複雑以外の何物でもございませんので、どこかに全体を分かりやすくまとめてくれるヒマ人優しい人はいないかなぁ……なんて思ったりして。

私は無理です。「いつ空」のアレは特別。

 

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