車輪の国、向日葵の少女(18禁)
あかべぇそふとつぅ

 


「車輪の国、向日葵の少女」の感想をば。

■シナリオ■

罪を犯すと『義務』を課せられる社会。それは「1日が12時間しかない義務」だったり「大人になれない義務」だったり「恋愛できない義務」だったり。その『義務』を破った時点で強制収容所送り……そんな『義務』を背負った人間を監督し、生殺与奪権をも含めた全てを掌握した上で更正させるのが「特別高等人」。主人公・森田賢一はそんな特別高等人を目指す青年であり、その最終試験がとある田舎(実は賢一の故郷)で3人の『義務』を背負った少女を監督し更正させるというもの。そこで出会った3人の少女から賢一が学んだものは何か。賢一達の過去に秘められた秘密や、父親の残した遺産の謎とは……。

と言う訳で、これだけを読むと滑稽とすら思える設定。正直私も最初にこの設定を見た時は「なんだコリャ」とゲームそのものをスルーしようとしていた程。しかし、この「車輪の国」はこの設定に甘えることのない腰をすえた重厚なシナリオと、その上で違和感を感じさせない緻密な展開を見せてくれます。そうなると”滑稽”に思えた設定も”斬新”となるワケです。この辺は設定にオンブに抱っこなゲームに見習って欲しいところ。

全5章構成。1章が世界観の説明、2章でさち・3章で灯花・4章で夏咲の監督、そして全ての物語が収束する5章と言う流れになってます。2・3・4章でもそれぞれ見せ場があり、それは通常のゲームであればそれだけで1本のシナリオになりうるのではないかと思える程。更には伏線の凄まじさにも目を見張るものがあり、プレイ中は素でゾクゾクしました。あれは1周目をプレイする人の特権ですね。その伏線を改めて見てニヤニヤするのは2周目以降の特権。

惜しむらくは5つあるエンディング(バッドエンド除く)がエピローグ部分以外ほぼ全てが共通ルートとなっていること。簡単に言ってしまえば、2・3・4章で誰を攻略対象とするか決定させた後は所々で微妙な変化が出る以外、2周目以降はほぼ全て既読スキップとなる感じになると言う事です。なので全ての感動・カタルシスは1周目にあると言っても過言ではありません。この『エンディングしかルートによる違いが無い』と言うのは本来マイナス要素なのですが、それでも不満を覚えないのはそれだけ全体を通して骨太でしっかりとしたシナリオであるからでしょう。

■絵■

特にクセもありませんし、受け付けられないという人はいないのでは。特に崩れることも無く、安定した絵柄だったと思います。

■音楽■

片桐烈火さんの歌うOP・EDは作品の雰囲気を壊さない、世界観に合った曲。BGMも同様で、特別耳に残ったものはありませんでしたがクオリティは高いと思います。

それではシナリオ別感想をクリア順に……と言っても上記の通りシナリオそのものはルートによる違いがほとんど無いので、主にキャラの感想になります。なので最初に全体を通したシナリオについて。

この作品における最重要人物はなんと言っても主人公・森田賢一。ADVの主人公はあまり特徴の無い無個性派と強烈な個性を持った個性派に分けられると思いますが、賢一は圧倒的に後者。なのでこの作品の評価は彼のキャラクターをどう受け取るかに全てかかっているとも言えます。

物語の主体は恋愛より家族等の”絆”に置かれていて、むしろ恋愛はオマケなんじゃないかと思える程度の重要度。なのでエロシーンの必然性も当然のように低いです。もしコンシューマ移植がされて、その際に追加シナリオでもあろうものなら文句無しに”買い”ですね。と言ってもシナリオは一本道なので、追加シナリオは難しいかも。

ヒューマンドラマ、と謳われているこの作品はその看板に嘘偽り無し。賢一が3人の少女の監督をしていく中で自分も成長していく様子が丁寧に描かれております。エンディングは夏咲エンド・さちエンド・灯花エンド・ノーマルエンドに加えて『璃々子エンド』の計5つ。公式ページには影も形も無い璃々子なる人物が誰なのかは一旦置いといて、上記の通りエンディング部分以外の差はほとんどありません。それでは以下キャラ別(エンディング別)感想。

▼日向 夏咲

賢一の幼なじみでメインヒロイン……のはずなんですが、微妙に影が薄かったり。「恋愛できない義務」を背負っており異性に触れることが出来ない。その義務が無くても他人(特に男)と触れることや交流を持つことを異常に恐れており、義務の解消をあまり望んでいない向きがある。昔は明るく元気な子だったのに、何があったのが久し振りに会った夏咲はオドオドとした全く正反対の性格に。

幼い頃、引っ込み思案だった賢一に人としての温かさをくれたのが夏咲であり、賢一はそんな夏咲に対して恩返しとばかりにどんなに嫌がられても付きまとう……一歩間違えなくてもストーカーっぽい。まぁその裏には賢一が幼なじみであることを隠してると言うのがあるんですけど。

ある事件が元で性格が変わってしまった夏咲が、元の明るくて前向きな性格を取り戻すに至るにはやはり賢一の力が必要不可欠。っつーか賢一カッコよすぎ。これは全章通して言えることですけどね。本来の強さを取り戻した夏咲の眩しさはたまりません。

▼三ツ廣 さち

夏咲と同様に賢一の幼なじみ。「1日が12時間しかない義務」を背負っており、時間になると強制的に薬を飲まされて眠りにつかされる(睡眠とは違うらしく疲れが取れるようなことは無い。残り12時間の中で普通の睡眠をとる必要がある)。異民の子である”まな”と二人暮らし。ギャンブルにハマって『義務』を背負わされた経緯があり、楽してお金を稼ぐことばかりを考えている元気系キャラ。

個人的に2・3・4章の中ではさち編である2章が一番好きです。さちも魅力的なキャラなんですが、まながまたとてつもなくイイ子でねぇ……この2人の絆を中心として描かれた2章でプレイヤーは「車輪の国」の世界から離れられなくなること必至。あの展開には本当にヤラれました。思い出しただけで潤んできてしまいます、いやマジで。

子供の頃に大きな絵の賞を受賞している天才肌な絵描きであるさちですが、とある理由により現在は全く筆を取らないようになってます。そんなさちに再び絵を描いて欲しいまなの涙ぐましい努力の日々。絵を描きたくない。描きたくても描けない。苦しみの中にいるさちに、まなは口癖のようになっている言葉を繰り返します。

「まなのお姉ちゃんはすごいんだよぉ!」

ああ、また涙出てきそう。

▼大音 灯花

賢一が編入することになるクラスの委員長。一見勉強が出来そうに見えて実は成績が悪いあたり好感度高し。「大人になれない義務」を背負っており、二人暮しをしている母親の命令には絶対に逆らってはいけない。そんな義務を背負ってきたせいか自分で何かを決定する能力が欠けており、何かと他人に選択肢の決定権を委ねる傾向に。そのくせやたら強気。

灯花の場合、問題は本人よりむしろ母親。なので必然的に灯花編である3章は”親子の絆”に焦点があてられております。複雑に絡んだ親子関係、互いに抱えたトラウマ、許容と拒絶。その中で灯花が選んだ道とは……ヤバい、これも思い出しただけで涙が。

言ってみれば灯花は義務云々を抜かしたとしても凄い『子供』なんですよね。でも子供なりの、灯花なりの強さを見せ付けられた時、その純粋さに大人達は涙するしかないワケで。

▼樋口 璃々子

賢一の義姉。公式ページのキャラ紹介に全く登場しませんが、何気に夏咲と並ぶ裏ヒロイン級の扱いです。子供の頃は賢一を強く育てようとかなり無茶なことをやっていたようですが(そのせいで賢一はハードMになったんだとか)、璃々子が大学に行くと同時に家を出たことで離れ離れに。基本的にはクールビューティーですが、時折見せるお茶目な一面が人気の秘密。

璃々子についてはネタバレを抜きにしゃべるのが非常に辛く、またネタバレしたらこの作品の要とも言えるところが全て終わってしまうのが更に辛いところ。とにかくやってみて下さい、としか言えません。

それにしても公式ページに影も形も無いってのは何故なんでしょう? 回想シーンには何度も登場するんですし、人となりの説明ぐらいはあってもいいような気がするんですが。お陰で籐野らんさんが出演してらっしゃったと言うのに見逃しそうになりましたよ。つか南雲えりなんてオープニングで登場後30秒で殺されて消えていくキャラの紹介なんて載せてる場合じゃないでしょ。

▼▼ノーマルエンド

ぶっちゃけハーレムエンド。もの凄く生温い……だがそれがいい。ハーレムエンドってあんまり好きじゃないんですけど「車輪の国」だと許せてしまうのは、きっと賢一がそれに足る男であると思っているからでしょう。

他にも普段は頭のおかしい言動ばかりなのに、キメる時はビシッとキメてくれる奇人な友人の卯月セピアや、究極のラスボスである法月将臣とか脇役もいい味だしてます。特に法月将臣は賢一の上司であり恩師であり敵であり、全てが憎らしいヤツなんですがムカつくぐらいに完璧でカッコいいヤツでして。こーゆーヤツがいるから賢一が映えるんですよね。「車輪の国」におけるもう1人の主人公と言っていいでしょう。

繰り返しになりますが、斬新な設定とそれに基づいた重厚なシナリオ、そして軽快なテキストと張り巡らされた伏線……間違いなくお薦めです。軽いだけのシナリオに食傷気味でガチンコな作品を求めてる方、単なる萌えゲーに飽きた方、とにかく感動したい方等々、是非とも手に取られてみては如何でしょうか。

と言うわけで「車輪の国、向日葵の少女」は無事義務ゲー入りです。

 

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