「R.U.R.U.R 〜このこのために、せめてきれいな星空を〜」こと「ル・ル・ル・ル」のレビュー&感想をば。この作品は全くネタバレをしないのが非常に難しいので、これからプレイする方の楽しみを損なわない程度のネタバレはやむなし、と言うスタンスでやらせて頂きます。とは言うもののあくまで基準は私の主観ですので、これからプレイなさる方は十分にこの点をご留意下さい。
■絵■
原画を担当してらしゃる泉まひるさんの絵には「Imitation Lover」でしか触れたことが無かったんですが、結構好きな絵柄。枚数的には多いとも少ないとも感じませんでしたが、エロ以外のCG率が低いのはちょっと残念でした。
■音楽■
樋口秀樹さん&WHITE−LIPSさんのゴールデンコンビ。前の日記にも書きましたが、相変わらず樋口さんの音楽はハマった時の破壊力が半端じゃありません。それもボーカルありの主題歌のみならず、コーラスを使用したBGMに至るまで。ここまで音楽的にヒットしたのは本当に久しぶりかも。OPもいいんですが、EDは名曲と言って差し支えないでしょう。曲単体ではもちろんのこと、ゲームに合った音楽と言う意味でも樋口さんの作る曲はマジで最高です。主題歌が本編中で効果的に使用されているのもグッド。
■シナリオ■
もうすぐ20歳になるイチヒコは優しいお姉さん2人と騒々しいお隣さん、学校の友人に囲まれて穏やかな生活を送ってました……が、それらは全て”作られた世界”。イチヒコは唯一の『人間』で、周囲は全てロ○ットであり、学校も何から何までイチヒコのために用意された世界。ロ○ットしかいない宇宙船の中で長い長い眠りから覚めたイチヒコが、最後の『人間』として”世界”の真実を知った時……。
登場するキャラクターのうち『人間』はイチヒコのみで、他は見た目は人間な被造知性『チャペック』と見た目が完全な機械である作業機械『セーバーハーゲン』。箱庭とでも呼ぶべき狭いコミュニティーで展開される人間模様(あえてこう呼ばせてもらいます)を、SFと御伽噺で味付けしたシナリオはなかなか見事でした。
ゲーム内で20歳になるイチヒコですが、その見た目は完全に小学生。これはイチヒコが眠っていたカプセルの影響か何かなのでしょうか? 3年前に目覚めた時に発生した記憶障害のせいで、ほとんど赤ん坊のような状態だったために、現在に至ってもその言動は完全に子供なイチヒコ。実はコレが何気にゲームのキーとなってたりするのですが、その辺については後述と言う事で。
ゲームは選択肢が無いままに終了する1周目と、選択肢によって攻略対象が変化する2周目以降、そしてオールクリア後に出てくる『謎のグランドルート』に分けることが出来ます。以下クリア順にヒロイン別感想。
▼コバトムギ▼
学校の先生役。元々はウェイトレスとして作られた存在で、昔は多くの『人間』と接していた数少ない存在。それ故に見聞が広くて大人びた言動が多いけど、他のチャペックと違って民間で作られているため、微妙に見下されてるようなところも。でもそんな扱いを適当にあしらえるあたりにも大人の魅力があるとか無いとか。
コバトムギルートはイチヒコのストーリーと言うよりも、コバトムギ自身が主役であるような印象があります。になったイチヒコに対して、”特別な授業”で人間としての本当の幸せを教育していくコバトムギ、と言う構図。短めで本当に必要だったのかどうかちと疑問が残るシナリオではありましたが、かわしまりのさんの演技の相乗効果もあってコバトムギの魅力を堪能出来ること請け合いです。
後半のほとんどはエロシーンに費やされ、山場やクライマックスと呼べるようなシーンもほとんど無いままに終わってしまいましたが、どこか余韻の残るシナリオでもありました。ちなみにこのコバトムギルートでは結局だったんですかね? それとも状態だったのか。何となく前者のような感じではありますが、個人的には後者の方を希望。
▼タンポポ▼
”タンポポ”と言う機体は量産型のようで、その姿は多数確認されておりますが、その中でも己に課した義務によって、ひたすらトウモロコシ畑で歌を歌って暮らしている一機の話。
このタンポポは全編を通してイチヒコにと言う物語上でとても重要な役割をもっていましたが、その問題を最も平和的に解決したのも、このタンポポだったように思います。イチヒコがを本人に対して身をもって実感させる無償の愛は、ひょっとして全チャペックの中でもナンバー1なのではないでしょうか。特に愛とは正反対。これもまた短いながらもよくまとまった、心温まる話だったかと思います。
また、タンポポは上記の通り量産型であるため、「色々なタンポポ」が登場致します。それはこの世界を司る『司法HAL』の”代行者”だったり、気ままな旅人だったり。中でもルートに出てきたタンポポは、タンポポルートのタンポポを見ていただけに結構ショッキング。
▼ミズバショウ▼
OHPのキャラ紹介には『「母親」の役割を与えられている』とありますが、本来は上の姉役。食事の用意等を担当しているので「母親」の役割ってことになっているのかもしれませんけど、確かに母性を一番感じさせるのはミズバショウで間違いないですね。その実体は『司法HAL』の”執行者”であり、全チャペックの最高責任者。基本的にベタベタの溺愛系で、思考の全てはイチヒコの幸せのため。
余裕のある時には単なるダダ甘な姉バカですが、危機的状況に陥ると一転パニック状態に。これはチャペック全体に言えることですが、応用力の無い盲信&猛進っぷりは『人間』ではないことを如実に表していかように思います。イチヒコのためにはすら厭わない偏執的な愛情は、温かいと言うよりも薄ら寒さすら感じるものでした。
周囲の反対を押し切ってイチヒコを復活させたにくせに、一番モノを考えていない(単純と言ってもいい)のは如何なものかと。それでいて要所要所で執行者としての権限を振りかざしたり、ミズバショウやヒナギクが事件の解決に尽力してる裏で『司法HAL』に逆らうような発言をしてイイトコ取りをしたり(ミズバショウの職務を考えると当然なのかもしれないけど)、ちょっと「う〜ん」ってキャラでしたね。でも嫌いじゃないです。
ミズバショウシナリオにおけるイチヒコの言動はちょっとアレでしたが、あの状態ではしょうがないでしょう。むしろ落ち着いていたと言えるぐらいだったと思います。まぁそれとムカつく・ムカつかないは別問題なんですけど。
▼シロツメグサ▼
イチヒコの姉でミズバショウの妹、の役目。現代SFの華たる”ナノマシーン”によって構成されている数少ないチャペックであり、他のチャペックよりも優秀で”心”も豊かだけど、その反面無表情で感情をあまり表に出さないタイプ。それでいてやっぱりイチヒコ溺愛系なのが厄介なところです。
シロツメグサシナリオは押し付けに近いシロツメグサの愛情表現にイチヒコが付いていけなくなって、更には、と言う流れ。この流れはシロツメグサがいくら『人間』に近い”心”をもっていようと、結局はチャペックであるために根幹的なところではミズバショウと同様に盲信的な部分がある、と言う事で全ての説明が可能です。普通のゲームで普通の女の子が同じことをやったとしたら単なる痛い女になるだけなところを、チャペックと言う設定によって強い説得力を持たせてるあたりにライターさんの上手さを感じますね。
無駄に感じるぐらいに繰り広げられるエロシーンもまた同様で、この”無駄に感じるぐらい”と言う点がまたチャペックらしいワケで。これはシロツメグサに限った話ではないのですが、非常に『人間』らしいチャペックが『人間』らしい”心”を手に入れて『人間』らしい言動をしつつも、やはり根本的なところでチャペックらしいのが、この物語の妙なんだと思います。それに加えて知識のほとんどが文献からのもので、圧倒的に経験値が低いのも大きいでしょう。
そんなシロツメグサが最も『人間』らしくなるクライマックス。あのシーンはCVの青山ゆかりさんの好演と相まってかなり印象的なシーンとなりました。「」は神を感じましたよ(あまり神とかこーゆー表現は好きじゃないけど、こうとしか言いようが無い)。そしてこのシナリオで一番割に合わない思いをしたヒナギクに合掌。
▼ヒナギク▼
イチヒコの隣に住む幼なじみ役でツンデレ。非常にわかりやすい絵に描いたようなツンデレ。それはもう、気がちがうくらいツンデレ。その実体は軍用機で、直接的な戦闘力と言う意味ではトップクラス。
登場する中では一番『人間』らしいキャラだったかも。イチヒコとのデートは普通の恋愛ADVっぽくて一瞬やってるゲームが「ル・ル・ル・ル」と言うことを忘れそうに。軍用機と言う事でその見せ場は主に戦闘シーンに集約されていそうだけど、それ以上にイチヒコに対する初々しい接し方が一番ヒナギクらしい部分なのではないかと思います。もちろん戦闘シーンも好きです。”感情”剥き出しな戦闘は結構好みでして。
どこまでも真っ直ぐで、ミズバショウやシロツメグサとは違った意味でイチヒコのことを一番に考えている言動は好感度高し。あのエンディングも後味スッキリで、読後感は全シナリオの中でもピカイチでした。
▼ベニバナ▼
ヒナギクと同じタイプの軍用機で、ある種の信念を持って行動している異端の存在。1周目やヒナギクシナリオではラスボス的に扱われてますけど、そこまで思いつめるに至った経緯が語られるベニバナシナリオ後では、その印象はガラッと変わりますね。そんなベニバナシナリオはヒナギクシナリオから途中で分岐する形で発生します。
……正直ベニバナシナリオって必要だったのかな、と思わないでもありません。ある意味するシナリオじゃないですかコレ。しかもイチヒコがヒナギクよりもベニバナに惹かれていくのも意味がわかりませんし、させると言うイチヒコの決定も、単に流されてるだけのように感じられました。
ただベニバナの思想に関して言えば、『人間』のために作られたチャペックという境遇と、軍用機としてこなしてきた役割を考えると、納得出来ないこともないんですよね。その点、ベニバナが一番チャペックらしいチャペックと言えなくも無いんじゃないかと。
ベニバナシナリオでは「」とでも思ったのか、ラストの方になるとになってしまうのにやや違和感。あと全く関係ありませんが、ベニバナとヒナギクは同系統の軍用機であるために見た目も似ている、と言う設定でした、なので最初は赤い装備を身に付けたベニバナを見て「あれ、ヒナギクは装備を変えたのかな?」と激しく勘違いした私です。
▼謎のグランドルート▼
もちろんコレは私が勝手につけただけのネーミングです。全シナリオを終えた時点で始まるミニストーリーのようなものですが、この内容がまた不可解なものでした。ベニバナシナリオがシステム上の制約で最後にプレイするシナリオになりますので、このミニストーリーはベニバナエンド後の話ってことなのでしょうか? その辺がちょっと確信を持てないところです。(※追記 ベニバナシナリオは、ヒナギクシナリオのクリアがプレイ条件だそうです)
要はこの2つが提示されるだけのミニストーリーなんですけど、もう何が何やら。していることからシナリオの後日談なのかな、とも思いましたが、それでも違和感は残ります。
そこで私は「」と言うことで、全シナリオの後日談的位置付けと認識することにしましたけど、これはこれでまったくもって自信レス。果たして正解は闇の中。
この「ル・ル・ル・ル」はタイトルからしてカレル・チャペック著「ロボット(R.U.R.)」を模していることからもわかるように、非常にSF色が強く、また「チャペック」「さんしょううお」等のネーミング引用も多い作品です。そしてそれと同じぐらいマザーグースや童話の要素もふんだんに取り入れられており、正に”SF御伽噺”と言った風。それでいて「ヤーチャイカ(わたしはかもめ)」等の言葉も出てきたりと、SF・宇宙好きの方にはもうタマらんものがある作品だったのではないでしょうか。
登場人物のモノローグ以外の地の文が御伽噺口調になっているのも特徴のひとつ。ひらがなが多く使われ、童話を読んでいるかのような語りは下手をするとダレさせる一因になりかねないと思うのですが、最初から最後まで全く飽きることなく進めることが出来たのは、ライターさんの完全勝利だと思います。要所要所で流れるフランス語の朗読のようなモノはあまり深く考える必要は無いかと。もちろん意味が無いわけではなく、御伽噺たる雰囲気を作るのには大きく貢献しておりますが、その内容については「メタファーになってるんだろうな」ぐらいで留めておくのが吉かな。
この作品の登場人物はイチヒコ以外が全員ロ○ット。「○」に入る文字は当然「ボ」なんですけど、伏字にしてる理由は本編をプレイした方ならわかって頂けるはず。そして上記のキャラ別感想でも書きましたが、このロ○ットであるという設定が非常に上手く活かされてるんですよね。
物語においてイチヒコは周囲から絶対の存在であるかのように扱われており(日常生活ではイチヒコに普通の生活を送らせるために、あくまで普通に接しておりますが)、ミズバショウやシロツメグサ達の狂気に近い愛情もそこに端を発しているのは間違いありません。もちろんイチヒコへの愛情は本物であり、それは決して『人間』だからなどと言う理由ではなくイチヒコ本人のパーソナリティに対する愛情である、と言う描写もございますが、スタート地点は間違いなくイチヒコが『人間』であるが故。そしてヒロイン達は皆『チャペック』と呼ばれるロ○ット。
だからこその狂気であり愛情であり、同時に行動の不可解さであり理不尽さであり、はたまた猪突猛進さであり視野狭窄であり。この設定だからこその展開と説得力の強さが、プレイヤーが物語に入り込む大きな要因になっているように感じました。
”心”を与えられてから長い長い時間を経て、それぞれの”心”や感情を育んできたロ○ット達と『人間』にどれだけの違いがあるのか。非常に分かりやすいテーマの1つではありますが、プレイヤー側にしてみればまだ見ぬ『人間』共よりも、可愛らしいチャペックのヒロイン達の方が何倍も価値があるとか無いとか。つかあります。
ただし『物語に入り込む』と言っても、それは決して主人公であるイチヒコに感情移入出来ると言う事ではありません。イチヒコは眠りから覚めて3年しか経っておらず、しかも記憶障害を起こしているもんだから見た目同様、完全に言動が子供そのもの。子供だからこその真っ直ぐで素直な部分は好感が持てないこともないのですが、それ以上に文字通り子供っぽい我侭や無知な点が多いのです(後半は多少マシになりますけど)。
更にプレイヤーは事前に「イチヒコ以外は全員ロ○ットであり、この世界はイチヒコに作られたものであって、皆自分に与えられた役割を演じているだけ」と言うことを知ってますが、イチヒコ本人にはその自覚が全くありません。つまり情報量に差がありすぎて、イチヒコに自分を重ねることが出来ないんですよね。その意味でもこの作品は「御伽噺を読んでる」と言えなくもありません。
んでこの「イチヒコが子供である」と言うのがまた重要でして、つまり子供故の我侭や残酷さ、空気の読めなさと言った点がこの設定によって当たり前のモノになるワケです。エロゲーによくある脳が腐敗しているレベルの鈍感主人公が、イチヒコなら”仕方ないこと”に。まぁそれとムカつく・ムカつかないは別問題なんですけど。
『人間』とロ○ットの関係が大きなテーマとなっておりますが、ロ○ット同士でも『チャペック』と『セーバーハーゲン』の関係、と言うか身分的格差も見逃せません。ここら辺にもロ○ットであるが故の冷徹さや残酷さが感じられました。深いな……。
見逃せない、と言うか聞き逃せないのが声優さん達の好演にして怪演。6人のヒロインに6人の声優さんがいるのは当然としても、プラス主人公イチヒコ・の声優さんも合わせて7人の声優さんで、他の数多く登場するセーバーハーゲン達も含めた全てのキャラを演じてらっしゃるのです。それもセーバーハーゲンに関して言えば「ウィ、ムシュー」「ウィ、ロードモジュール」の2つの言葉だけでありとあらゆる感情を表現してみせたりと、皆さんにはプロ声優の凄まじさを思い知らさせて頂きました。特に青山ゆかりさんの演技と言ったらもうヤバいですって。ありゃマジヤバですってば。
非常に質のいいSF御伽噺。それがこの「ル・ル・ル・ル」の印象です。まったりとした日常描写の中に混ぜられたさりげない不自然さが、逆にプレイヤーを飽きさせずにグイグイ引っ張っていく不思議。子供とロ○ットだからこその、どこまでも真っ直ぐな展開。作品全体に漂う温かくも残酷な雰囲気。
かなり本気で「発売前から注目しておけばよかった」と後悔した作品です。気にはしてたんだけどなぁ……まだまだ見る目を養うべく精進する必要がありそうですが、私は後悔はしても反省はしない人間なのでどうなることやら。
シナリオ・絵・音楽・ボイス。その全てのレベルが高い、非常にバランスのいい作品でした。どこまでものめり込むようなパンチ力に欠ける部分はありますけど、その代わりに読後感の清々しさはピカイチ。当サイトの推奨ゲーとさせて頂きます。